学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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7章2話~


7-2:2人から3人

「―――さて、そろそろいいか? 2人とも」

「「………う、うん(あ、ああ)」」///

 

 笑顔の凪原の問いに、篠生と高上は顔を真っ赤にしながら答えた。

 篠生は恋人が助かった嬉しさから、高上は再び篠生に会えたから感動から、つい強めに抱き合ってしまったのだ。

 幸い()()()()のところまではいかなかった。しかし2人が我に返った時、部屋には元からいた凪原以外にも人が増えていた。

 つまり、恋人同士のやり取りを知り合い達の前でやってしまったのだった。それも愉悦派として名高かった人物を含む面々に、だ。

 

「おぉ~、あの憲兵隊長がね~」

「ほんとほんと、良いもん見れたわ」

「2人ともすっごい親父くさい顔してるけど自覚ある?」

 

 上からニヤニヤ笑っている桐子、凪原、そしてその2人に呆れている晶の言葉である。その隣にいる比嘉子は声こそ上げないが冷めた視線を2人に向けている。

 

「いやねだってアキ、ボクたちからすればこれはすごいことなんだ。鬼と呼ばれてたシノっちがだよ?」

「そうそう。皆に好かれてたけど誰かとくっつくってイメージはなかったからな。ぜひ馴れ初めを聞きたいもんだ」

「そんな風には呼ばれてないからね、嘘言わないで桐子ちゃん。それから凪原君、馴れ初めとかは絶ぇっ対言わないから。恥ずかしいし」

 

 なおもふざける2人に顔を赤らめたまま釘をさす篠生。

 同期の問題児たちを何度も鎮圧していた彼女もこれでは形無しだ。

 

「ぶー、教えてくれないと今抱き合ってたことパパラッチに言うよ?」

「桐子ちゃん、それやったら私、本気出すよ?」

「ごめんなさい」

 

 綺麗な土下座をみせる桐子。愉悦派ではあるが身体能力はからっきしのため、篠生に本気を出されたらどうなるかなど想像に難くない。

 そしてそんな桐子を見て満足げに頷く篠生。赤面していてもやはり隊長は隊長だったようだ。自身の力の使い方、見せ方をよく理解している。

 とはいえ力業で鎮圧できない相手に対しては言葉だけでは十分な抑止力足り得ない。要するに、篠生の迫力ある笑みにも凪原は全く怯んでいなかった。

 

「んじゃ相手さんの高上の方に聞くからいいさ。あとで最初どんなだったか教えてくれよな」

「だめだよ! れん君も言っちゃだめだからね!?」

「え、あ、いや―――」

 

 状況を楽しんでいる凪原と焦った篠生、2人に同時に話を振られた高上は状況についていけず面食らってしまう。

 

「えっと、お前(凪原)はしのと同期だったって聞いたけどそっちの(桐子)もそうだったのか?それにその、すごく仲良さそうだけど」

「そーだよ。シノっちに会長、それにボクは皆高校の同期なんだ。しかもただの同期じゃないよ?全員マブダチって言っても過言じゃないね」

「過言だよ、って言い切れないのが辛いね。私の同期どこかおかしい人ばっかりだったし、そのせいで繋がりもすごかったんだ」

 

 高上の疑問に笑いながら桐子が答え、それに篠生が疲れたような表情で応じる。マブダチという桐子の表現を否定したいが否定しきれない、そんな内心が見えるようだ。

 

「まあ学年全体の結束がやばかったからな。その意味じゃマブダチっつーより共犯者って言った方が近い。ちなみに学年は違うけど、この胡桃も同じ高校だぜ―――って胡桃どした?顔赤くして」

 

 2人の言葉に補足を加えつつ傍らの胡桃を紹介する凪原だったが、反応が返ってこないのでその顔を覗き込む。

 照山と同じく凪原と共に放送局から大学に来た後、胡桃にはもしもの場合に備え穏健派の面々についてもらっていた。そして桐子達と一緒に部屋に入ってきていたのだが、そこから一言も発していなかったのだ。

 不審に思った凪原に問われ、胡桃は目線を泳がせながら小さく口を開いた。

 

「い、いや、さっきの篠生さんたち見て………」

「見て?」

 

 首をかしげる凪原にチラリと片目を向ける胡桃。

 

「………その、あたし等の時もあんな感じに見えてたのかなって思ったら、恥ずかしくなっちゃって」///

「俺等の時?………

 

 一瞬いつのことを言っているのか分からなかった凪原だがすぐに思い当たる。

 間違いなく胡桃が好調に噛まれてワクチンを投与したその翌朝、無事に目を覚ました彼女を思わず抱きしめた時のことだろう。

 当時は胡桃が無事だったら喜びから衝動的にやってしまったし、特に恥ずかしいとは思わなかった。

 しかし現在、同じような状況で抱き合う篠生と高上を客観的な立場から見ると、多少羞恥を感じるのも事実である。今、凪原の頬は胡桃ほどではないにせよ赤くなっていることだろう。

 

「およ?もしかして会長に胡桃ちゃんもなんか心当たりがある感じ?」

「いやないぞ?全然ない」

「ないない、全然ないって!」

 

 目を光らせながら矛先を向けてきた桐子に平静を装いながら返す凪原。

 詳細を知られた場合、凪原はともかく胡桃は恥ずかしさからしばらく再起不能になってしまうだろう。

 現に胡桃はブンブンと首を振って完全否定の構えだ。その様子からして何かあったのは明白だろうが詳細までは分からないだろう。

 凪原としても、一方的にからかわれるのは何となく気に食わないので話す気はさらさらない。

 

「いやその反応は絶対あるでしょ、教えてよ。ここだけの話にするから」

「お前のここだけは信用できん。それに、ないものはない」

「いやでも「それ以上ツッコむならお前が年齢制限Zのゲームを部費で買ってたことをめぐねえにバラす」はい黙ります」

 

 よって凪原は切り札を発動した。

 慈のお説教が天敵なのはなにも凪原達生徒会に限った話ではない。

 巡ヶ丘31期生はかなりの人数が大なり小なり騒動を起こしていて、その一部は慈直々のお説教を喰らっていた。中には数回怒られている剛の者もおり、桐子もそのうちの1人だ。

 というか、回数がぶっちぎっている凪原達(生徒会)を除けば彼女もなかなかの猛者(問題児)である。

 

 ゆえに桐子は慈の怖さを骨身にしみて理解していた。

 そんな慈に過去とはいえ盛大にルールを犯していたことをバラすと脅されたらどうなるか、今のように瞬間的に降伏するのである。

 

「あのさぁトーコ、さっきも思ったんだけど弱すぎじゃない?」

「撤回するの早すぎ…」

 

 鮮やかな掌返しに晶と比嘉子が苦言を呈す。

 一応は自分達(穏健派)の代表である桐子、そのあまりの情けなさに呆れてしまったのだろう。

 そんな2人に桐子は床に崩れ落ち両手を地につけながら悲し気に答えた。

 

「しょうがないんだ。力も権力もない者は大人しく強者に従うしかないんだよ……」

「哀れっぽく言ってるけどそれで懲りるお前じゃないだろ」

 

 凪原の言葉に悪びれもせず「ま~ねぇ」とケロリとした表情で応じる桐子。

 たとえ力や権力がなくとも彼女は31期のなかでも一端の愉悦派、イイ性格とメンタルの強さは常人の比ではないのだった。

 

 

 

====================

 

 

 

「そんじゃ改めて、現状について説明していくぞ」

 

 少しの間を開け、皆が車座に座ったところで凪原が口を開く。

 その隣には当然ながら胡桃であり、2人に向かい合うようにして篠生と高上が隣り合って座っている。手を握り合う、とまではいかずともお互いの手がわずかに触れ合っているのは内心の不安の表れなのだろう。

 しかし相手が不安に思っているからといって、変に誤魔化すのは帰って本人達のためにならない。

 そう判断した凪原は包み隠すことなくすべて話すことにした。

 

「まずはっきり言っておくと、高上、お前は別に治った訳じゃない。それに隊長も、感染確定だ。2人とも今後色々影響が出てくる」

「「「え?」」」

「ちなみに、俺と胡桃も感染者だ。感染してからはもう半年以上になる」

「「「は!!?」」」

 

 連続して投下された爆弾発言に素っ頓狂な声を上げる面々。驚いていないのは篠生だけだ。昨晩の無線での問いからうすうす察していたのだろう。

 

「え、ちょっ、いやそれ大丈夫なの!?」

「ん?ああ、ヒトヒト感染については心配ないぞ。確証はないけど、これまで一緒に暮らしてる中で1人も感染してないからな」

「いやそれはそれで重要というか安心だけど!そうじゃなくて会長達の方だよっ、なんでまだ生きてんの!?

 

 心境を考えれば桐子の言葉は理解できるが、いかんせん発言だけを抜き出せば悪役のそれである。

 

「ずいぶんな言い草だなこの野郎」

「あっごめん!でも、いや………」

「さっきから()()が多い、減点1」

「しょうがないでしょそれは!ボク混乱してるんだよ今っ」

 

 ムガーッとなっている桐子を適当にあしらう凪原。用意したお茶をカップに注いで一同に配るが、皆落ち着いてそれが飲める状態ではない。

 

「ごめんちょっとトーコうるさいから黙ってて「ひどい!?」いいから静かにしててって、考えがまとまらないから。―――えーっと凪原、アタシから聞いていい?」

「おう、Don'tくるな」

「………二重否定だからどんとこいってことでいいのよね?ああもう流石トーコの同期、やりづらいったらありゃしないわ」

 

 とても重大事を話しているとは思えない凪原の態度、それに晶は頭に手をやりながらため息をつく。

 

「あのさアキ、良かったらあたしが答える?コイツは隙あらばふざけるから全然話進まなそうだし」

「ふざけてるわけじゃないぞ?あくまで場を和ませるためn「ナギ、ステイ」へーい」

 

 見かねた胡桃が説明役を申し出た。

 コイツ呼ばわりされた凪原が口を挟むが、一睨みされたところで両手を上げる。彼とて本気で話を停滞させたいのではない。ふざけたのは、これからの話を聞いたシリアスになりすぎないようにという考えからのものだ。

 

 胡桃もそのあたりのことは分かっている。

 凪原がふざけそれを自分が諫めて本筋へと話を持っていく、特に打ち合わせをしたわけではないがそういう意図なのだろう。

 胡桃はこの頃、凪原の考えを察することができるようになってきていた。

 それが何となく嬉しくて、頬が緩みそうになるが努力して表情を真面目なものにする。

 

「うん、お願い。それじゃあ、そもそものとこからなんだけど、―――」

 

 そこからは晶の質問に答える形で説明していく。

 

 

 巡ヶ丘学園の探索中、不注意から噛まれて感染してしまったこと。

 ワクチンを打って翌日には体調が回復して、さらには身体能力が向上していたこと。

 そのまま数ヶ月が経過し、ある日突然自分達が感染していることが判明したこと。

 

 

 すべてを話すと何時間もかかってしまうためにかいつまんでだったが、それでも説明を終えるまでにはそれなりの時間を要した。

 

「そんなわけで、今あたしとナギは感染してるのは確定だけど発症とか転化はしてないっていうよく分からない状態なんだ」

「低体温症患者も真っ青の体温だろ?なんで動けてるのか自分でもよく分からん」

 

 皆の前で体温を計測してその結果を見せながら2人はそう締めくくった。

 なお胡桃が29度1分、凪原は28度9分である。細かい数値はその時々だが、基本的に29度前後で安定してる。

 もちろん、本来なら人間がまともに活動できる体温ではない。

 

「……ほんとに感染してるんだね」

 

 普通に健康そうなのに、と呟く比嘉子。口に出しているのは彼女なりに説明の内容を飲み込もうとしているからなのだろう。

 

「生物兵器に不完全のワクチンか、いよいよもって映画の世界になってきたな~」

「ちょっと、そんなふざけた話じゃないでしょ」

「いや、実際そんくらいでちょうどいいだろ。変に思い詰めたところでどうにかなるもんでもないしな」

「感染してたのを知らずにみんなと過ごしてたのは冷や汗ものだったけど、それも結局は問題なかったし」

 

 桐子の感想を晶が窘めるが本人の凪原と胡桃は暢気なものである。

 早川と照山が合流するまで、すなわち感染が発覚するまでの期間、他のメンバーと特に考えることなく接触してしまっていたのは凪原達をして一生の不覚と言わしめた失態だ。

 しかし結果だけを見れば、ごく普通に暮らす分にはヒトヒト感染はしないということを検証できた。

 思慮が足りなかったのは反省すべきだが、得られた事実は事実として有効に活用すべきである。

 普段の生活で隔離などの配慮をしなくて良いということで、肩ひじを張ることなく生活できていた。

 

 

「そんじゃ俺等の方はこれくらいにして、本題だ」

 

 言いながら高上と篠生の方を見る凪原。2人が真剣な表情でこちらに意識を向けているのを確認してから口を開く。

 

「まず高上の方だけど、昨日の様子からして確実に発症してたな。奴等特有の斑紋もかなり出てきてたし、ほんとに転化の一歩手前って感じだったからワクチンが効くかも分からなかった」

「ああ、意識が落ちる前の斑紋が出始めた時でもかなり辛かったよ」

 

 凪原の話に顔色を悪くさせる高上。斑紋の出始めであれほどだったのだ、さらに症状が進んだ時にどうなっていたのかなど想像だにしたくない。

 意識を失っていてよかったと内心で胸をなでおろす。

 

「まあ結果的にはしっかり効いて今は回復してるわけなんだが、俺等の例があるからな。感染はしたままのはずだし、これから同じような症状が出てくるはずだ。ただ辛いとかは無いからその辺は心配すんな」

「分かった。昨日は正直覚悟してたし、それくらいなら大丈夫。………それと」

 

 頷き、そこで高上は改めて凪原の方を真っすぐ見つめ、深く頭を下げた。

 

「ありがとう。前に来た時はこっちのことしか考えてない対応をしたのに助けてくれて」

「………さっきも言ったけど、助けたのは隊長に頼まれたからだ。だから礼ならそっちに言うんだな」

「あ、会長が照れてる」

「シャラップ瓶底虫眼鏡」

「いくら八つ当たりでもその呼び名はないんじゃないかな!?」

「そんで次は隊長の方だな」

「聞いてよっ」

 

 桐子の声は右から左に聞き流して言葉を続ける凪原。

 聞きたくないことは(それにより問題が発生しない限り)自動的にシャットアウトする耳は、31期生愉悦派の標準装備だ。

 

「実は隊長は感染してるかどうかが分からなかった。だから打つかどうかは結構悩んだんだが、発症を防ぐために打つことにした。ただまぁ不完全なワクチンでウイルスを体に入れたわけだからな、かなりの確率で感染はしてると思う」

「ちょっと待った、発症したのは僕だけだったじゃないか。なんでしのにもワクチンを打ったんだよ?」

 

 得体の知れないワクチン(と呼んでいいのか微妙なラインのもの)を症状が出ていなかった篠生にも打ったことに高上が抗議の声を上げる。自分を助けてくれたのには感謝するが、それとこれとは話が別だ。

 しかし、それに凪原はやや呆れたような表情で答えた。

 

「あのな、お前と隊長は恋人同士だろ?んでもってこのウイルスの感染経路は原則体液接触、これ以上は言わせんなよ」

「「……ッ」」///

(あれ?そういえば胡桃ちゃんは噛まれたって言ってたけど会長はそうじゃなかったよね。でもワクチンは同時に打ってるみたいだし―――あ、なんか面白そうな話の気配がする)

 

 凪原の言葉の意味を察した高上と篠生がとっさに顔を伏せたその横で、桐子の頭の中に豆電球が灯った。

 さっきの今なので下手なことは口にこそ出さないが、今度誰かに聞いてみよう、と心の片隅にメモしておく。

 

「特にお前は噛まれたわけじゃないから発症のトリガーが不明だろ?どのタイミングで感染してたかが分からない以上、隊長にもワクチンは打った方がいい」

「そりゃそうかもしれないけど、感染してるって分かった時点で打つのでも良かったんじゃないのk「いいのれん君、ワクチンを打つって決めたのは私の意思だよ」しの?」

 

 納得しかねていた高上だったがそれを遮ったのは篠生自身だった。

 戸惑う高上に向き直り口を開く。

 

「ワクチンを打っちゃえば私も同じになるから。だって、感染してるのが自分だけだったられん君私とは距離置いちゃうでしょ」

「うっ、それは………」

 

 言葉に詰まる高上に、篠生は穏やかな笑みを浮かべる。

 

「れん君優しいからね。でも私、昨日れん君が死んじゃうかもって時、すごく怖かった。これまで一緒に居られて楽しかったけど、それだけじゃ全然足りない。もっとずっと、いつもでも、たとえ死ぬ時でも隣に居たいって思った」

「だから、絶対れん君と一緒に生きていくって決めたんだ」

 

 そこで篠生は一度言葉を区切り視線を下に向けると―――

 

「この子のためにも、ね」

 

―――自身のお腹を愛おしそうに撫でた。

 

 コノコ、このこか………この子、この子ねぇ。

 

「「「………。」」」

 

 数瞬の沈黙。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「この子ォッ!!??」」」

 

 

 

 

 

 




おめでた回

今回の話は元々のプロットには無くて、書き進めているうちに文字数が規定量に達したので出来上がった1話になります。
原作では大学編の一番最後に篠生の覚悟と共に示される設定でしたが、まあ凪原達を投入したことによるバタフライエフェクトみたいなものでしょう。

………、最近キャラ達が勝手に動き始めることが多くなってきた気がします。いいことなのかもしれないけど、こちらに構うことなくプロットを破壊してくるのでちょっと大変。


それじゃあ解説タイム、

といきたいんですが正直な話、

徒然なるままに日暮らし、
 硯に向かいて、
  心に移り行くよしなしごとを何心なく書き綴

った結果出来上がったものなので特にありません。


それではまた次回!
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