学園生活部にOBが参加しました!   作:逢魔ヶ時

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7章第10話~
いちおうプロット上では1章は10話で構成を考えるようにしてるんですけど当たり前のようにオーバーしてしまう…

今回はちょい短めです



7-10:地下探索その2

「なあまだ着かないのか?さすがに腕が痺れてきたんだけど」

「あとちょっと」

 

 声に疲れをにじませる凪原に対し、それに答える比嘉子の声は平静そのもの、普段部屋でくつろいでいる時と全く変わるところがない。

 それだけでもすごいのだがさらに驚くべきは、先ほどから彼女の移動スピードが全く落ちていないことだ。凪原との体格差を考慮しても決して広いとは言えないダクト内をスイスイと進んでいく。

 体全体をくねらせるようにしているその動きは、いわゆる一般的な匍匐前進とは異なるのだろうが少なくとも彼女には苦にならないらしい。途中にあった直角の曲がり角も実にスムーズにクリアしていた。

 

 なお余談ではあるが、凪原は同じポイントをどう攻略するかで悩み3分ほど立ち往生している。

 その間にも胡桃から突っつくを通り越したくすぐり攻撃を度々受けており、今の凪原の復讐イタズラゲージは臨界寸前である。

 とはいえ、今は位置関係が不利だ。凪原は復讐の機会(お楽しみ)を後に取っておくことができる人間なのでひとまずは思考を切り替える。

 ちょうどいいので気になっていたことを聞いてみることにした。

 

「ところでヒカはなんでこんなルート知ってんだ?それになんか動きが妙に手慣れてるし」

 

 質問の対象は比嘉子である。

 先ほどから見せる淀みない動きもそうだが、そもそもなぜダクトや配管スペースの構造を把握して目的地である地下倉庫への道筋を知っているのかが分からないのだ。

 もし彼女が巡ヶ丘31期ならそういう者(誤字にあらず)だと納得できる。しかし実際には彼女は同期ではなく、桐子が大学入学後に知り合った一般人だ。なぜこんなスキルを身につけているのかが不明である。

 

(ってなんか同じようなことを胡桃とかに聞かれたことあるな。聞く側の気持ちはこんな感じなのか)

 

 妙なところで以前の胡桃の心情を理解した凪原は、続いて胡桃達が31期に対して抱く驚きと呆れも体験することになる。

 

「ルートを知ってるのは太陽光パネルから延びてた配線をずっと横に見ながら辿ったからで―――」

「うん……………うん?」

 

 なんでもなさそうに言われたのでそのまま流しかけたが、耳から入ってきた内容を理解したところで脳がストップをかけた。何かがおかしいぞ、と。

 比嘉子は簡単に言うが、そこらの電柱を伝う送電線とは異なり建物内の配線はそうそう辿れるものではない。しかし辿れたからこそ地下倉庫や配電設備を発見できたはずなわけで、彼女の言葉に嘘はないのだろう。

 

「―――動きが慣れてるのは、配管技能士3級と電気工事士第二種、それと建築板金技能士3級の資格持ってるから」

「は?………え、マジ?」

「マジ」

「なんで?」

「狭いところ、好きだったし」

「マジかぁー…」

 

 思わず大きく息を吐いてしまう凪原。

 彼女が挙げた資格はどれも取得にかなりの技術や知識を要する。実際に工事現場などで働く作業員であっても全員が取得しているという類ではなく、3つとも持っている人はそれこそ各現場で数える程だろう。

 間違っても『狭いところが好き』という理由で取得するものではない。というかその理由でどうしてわざわざこれらの資格に行きつくのかもさっぱり分からない。

 そもそも全て一介の大学2年生には馴染みがない資格のはずだし、よほどの資格マニアでもなければわざわざ取ろうとは思わないだろう。

 そこまで考えたところで嫌な予感がした凪原はさらに聞いてみることにした。

 

「ちなみに、他にもなんか資格持ってたりするのか?」

「うーん、建築系で気になった資格の中で受験資格を満たしてたのをいくつかと…、あとは資格じゃないけどロープ高所作業とフルハーネスの特別教育とかCSE(閉鎖空間作業)の安全講習とかも受けてる」

「おおぅ…」(思ったよりやってんなぁ、ヒカ)

 

 想像の斜め上を行く比嘉子の答えに、凪原は彼女の評価を『一般人』から1つ上の『割とやべぇ奴』に引き上げることにした。

 

「………着いた。ちょっとそこで待ってて」

「え?あ、ああ」

 

 どうやら驚いている間に目的地に到着したらしい。

 凪原に一声かけてさらに1m程進んだ比嘉子の足の下から通気口と思しき金網が顔を出す。隙間からは多くのケースが並ぶ棚が見えるのでここが地下倉庫なのだろう。

 しかし通り過ぎてしまったら降りられないのではないか、それとも別にちょうどいい出口があるのか。そう考えていた凪原の信じられないものを目撃することとなった。

 

「んッ、しょっと」(グリンッ)

「うぉッ!?」

 

 軽い掛け声とともに、比嘉子が体の向きを180度入れ替えて見せたのだ。先ほどまでとは異なり彼女の足ではなく顔が凪原の目に映っている。

 

「ちょっ、え……ヒカお前、今何やったんだ?」

「?、体をひねって方向転換をしただけだけど?」

「いや、それは見れば分かる。聞きたいのは何をどうしたらそんな動きができるかだって、早々出来ないぞ今みたいなの」

 

 こんな上にも横にも余裕のない閉鎖空間での方向転換などヨガの達人でもなければ不可能な芸当だ。

 少なくとも凪原にはできない。無理にやろうとするならば、まず肩を外したうえで背骨を折る必要があるだろう。

 

「そうかな?確かにトーコとアキは少し体が硬いみたいだったけど、普通はこれくらいできると思うんだけど…」

「それは普通じゃねぇ」

 

 そんな凪原の言葉にキョトンとした顔で首を傾げる比嘉子。どこからともなく取り出したドライバーで通気口のねじを外し始めた凪原は彼女の評価をさらにもう一段上の『やべぇ奴』に引き上げることにした。

 

 

 

====================

 

 

 

「―――まあ、潜入できたからといってそう簡単に見つけられるとは思ってなかったさ」

「おいナギ、素直に非を認めてもいいんだぜ?」

「………正直ちょっとナメてた。でかすぎだろ」

 

 胡桃の指摘に少し間をおいた後、”降参”と言わんばかりに両手を挙げて正直に答える凪原。彼等の眼前には大小さまざまなコンテナが収められ天井まで高く伸びる棚が列をなしていた。

 それだけならば2人の母校たる巡ヶ丘学院の地下と同じなのだが、違うのはその規模である。

 学院地下の倉庫を近所のスーパーのバックヤードとするなら、こちらはショッピングモールのそれだろう。並んでいる棚の数が段違いだった。

 

 首尾よく武闘派に気付かれることなく倉庫に入れたため、そのまますぐに銃器の隠し場所が見つけられると思ったらそうは問屋が卸さなかったようである。前例に倣い生鮮食品用の冷蔵室も確認したが、特に不審な点は見つけられなかった。

 ゆえに凪原と胡桃は早々に今回の探索での発見を諦め、比嘉子に頼んでどのような物資があるのかを見て回ることに方針を変更した。

 これだけ広ければ学院の地下には無かったものもあるのではないかと考えたためである。

 

 そして案の定、用意されている物資の種類について多くの差異が見られた。嗜好品が多数保管されていたのである。

 食糧品の中で言えばポテトチップスのようなスナック菓子や高級チョコレート、コーラのような清涼飲料に加え少量ではあるがアルコール類も並んでいた。

 最低限の生活必需品しかなかった巡ヶ丘学院とは大違いだった。

 

「ほんとに差がありすぎだろ、こりゃもしかしなくても想定してる運用法がうち(巡ヶ丘)と全然違うな」

「運用法?」

「ああ。っとその前に胡桃、その本はゴミだ捨てておけ」

 

 『自活:農業①』とラベリングされたコンテナ(中身はいくつかの作物の種子と育て方の解説書だった)を棚に戻しながら呆れ気味に呟いた凪原の声を耳聡く拾った胡桃が疑問の声を上げる。

 頷き、彼女の手から医臥躯(いがく)薬我供(やくがく)大全――民明書房(『医療:民間療法』のコンテナに入っていたらしい)を取り上げてから話を続ける。

 

「一時的な拠点としてしか使わないんならこれだけ幅広い物資を用意する必要がない、多分だけどここは恒久的な拠点として使えるようにしたかったんだろうな。敷地も十分だからやろうと思えば大規模基地にもできるだろうし」

「そうかな?広さならうちの学校もそこそこあると思うけど」

「できなかないだろうけど、100人単位の居住スペースに加えて食糧生産用の畑、それに車とかヘリとかの置き場を考えたらすこし厳しいだろ」

「あー、まあ確かにそうかぁ」

「えっと、巡ヶ丘の倉庫はこんな感じじゃなかったの?見せてもらったマニュアルでは同列になってたから、同じようなのだと思ってたんだけど」

 

 凪原の説明に納得する胡桃と、それとは逆に不思議そうな比嘉子。

 凪原達にとっては巡ヶ丘学院の倉庫が基準なのに対し、彼女からすれば今自分達がいる地下倉庫こそがスタンダードなのだ。

 ここと比べればこじんまりとした学院の倉庫は想像しにくいのかもしれない。

 

「うん。うちの学校のはもっと小さかったんだ。それこそ4分の一もあったかどうか分からないな」

「それに置いてあるもんもほとんどが防災用品だったしな。生きるのに最低限必要な物ってことでリストアップされたんだと思う、一部例外はあったけど」

 

 例外とはすなわち冷蔵室にあった高級食材の数々だ。

 どうやらランダルコーポレーションで物資の選定を行った社員は食に対して並々ならぬ思いがあったのだろう。

 生物兵器を作った(推測だがほぼ確定)外道会社だが、食品選びの審美眼は評価に値する。

 

「そうなんだ、それは……大変だったね」

「んーそうでもないかな。倉庫を見つけた頃には外に遠征に出れるようになってたし、そもそももっと大変なことが起きたし」

 

 同情的な比嘉子とは対照的に指を顎に当てながら答える胡桃はケロッとしている。

 初めて倉庫に足を踏み入れた時の記憶が、ゾンビに噛まれて感染した記憶によって塗りつぶされているので無理もない。

 

「まあ特に俺と胡桃はそんな感じだよな。つーか、こんだけ物資があるなら武闘派の連中もカッカしないでもっとどっしり構えときゃいいの、に………」

 

 胡桃に同意するように話していた凪原の言葉が途中で止まる。

 不審に思った2人が視線を向ければ、彼は手を突き出して"止まれ"のジェスチャーをしながら耳をそばだてていた。それにつられて胡桃達も聴覚に意識を集中してみる。

 すると自分達しかいないはずにもかかわらず話し声が聞こえてきた。聞こえてくる方向には階段、すなわちこの地下倉庫の本来の入口がある。

 その意味するところは1つだ。

 

「ここで武闘派連中のお出ましかー」

「ごめん。昨日運び出しをやってたから今日は来ないと思ったんだけど」

「謝んなって、予想外ではあるけど想定内だ、バレないようにやり過ごすぞ。ほら胡桃、そのコンテナ元に戻しとけ」

「う、うんっ了解」

 

 すまなそうにする比嘉子を宥め、胡桃に指示を出しながら凪原はメイン通路の様子を窺う。

 視認できる範囲で武闘派の数は2人。会話しながらのため周囲に注意が向いていないうえ、目的地も違うらしい。

 この分なら問題なさそうだ、そんな凪原の思考はドスンッバサバサバサッ、という鈍い音によってかき消された。

 

 反射的に振り返れば身を縮こまらせた胡桃がとんでもなくすまなそうな顔をしており、その足元には横倒しになったコンテナとそこからこぼれた本が散らばっていた。

 考えるまでもなくコンテナを棚に戻すことに失敗したのだろう。

 

「ご、ごめんっ」

「やっちまったもんはしょうがないから気にするな。だけど今度潜入工作の特別コースやるから覚悟しとけよ」

 

 胡桃に特別訓練を申し渡し、再び通路の気配を探ると、当然ながらこちらへ向けて掛けてくる足音が聞こえてきた。もうコンテナを片付けて隠れるのは不可能だろう。そしてこちらと対面した時に彼等と和やかな挨拶ができるとはとても思えない。

 それを認識したところで凪原は次の行動に出た。

 

「もう回避は無理だ、対応はこっちでやるから2人とも俺の体より前に出るなよ。あとこっからは小声で頼む」

 

 言いつつ右手を腰の後ろにつけていたポーチに突っ込む凪原。

 数秒後に抜かれた彼の手にはM360J"SAKURA"が握られていた。

 

 日本警察の正式拳銃で、サクラの通称で知られるそれは決して戦闘向きの銃ではない。短銃身のため精度に不安がありグリップも小さく握りづらい。さらにリボルバーであるため装弾数は5発と極端に少ないうえ、構造上減音器(サプレッサー)が付けられず撃てばあたりに銃声が響き渡る。

 

 しかしそれでも、れっきとした銃であることに違いはない。

 引き金を引けば致死性の弾丸が――リボルバーの単純さゆえに――確実に飛び出す。

 小型であるということは同時に隠して持ち歩きやすいことを意味し、命中精度についてもある程度以上の技量を持った者ならば近距離で的を外すことはないだろう。

 

 だからこそ、凪原がそれを持ち出したことに気付いた胡桃の目が大きく見開かれた。

 

「おいちょっとナギ、お前ンなもん持ってきてたのかよ!あぶねぇだろ!?」

「大丈夫だ、1発目は空砲にしてある」

「それ2発目は普通に撃てるってことじゃんッ。あたし嫌だぞあいつ等撃つの、気には喰わないけど!」

「うっせ俺だって嫌だよ完全に弱い者いじめだしッ、頭に血が登った相手に冷や水ぶっかけるための威嚇用だって」

 

 小声で言い合う凪原と胡桃。

 そして互いの意識が相手に向いた瞬間、突如として伸びてきた腕に2人はそろって通路の奥へと押しやられた。

 驚きながらも何とかバランスを取って視線を巡らせれば、腕の持ち主たる比嘉子が微笑んでいた。

 

「大丈夫、対応は私がやるから2人は隠れてて」

 

 柔らかくはあるが意志のこもった言葉に、凪原は喉まで出かかっていた反論を飲み込むく。どのみちもう元の位置まで戻る余裕はなかった。

 

「そんな―――ムグッ「分かった、ヤバそうになったら絶対助けに入る。それに撤収は俺等だけでもできるから自分のことだけ考えろ」

 

 思わず普通の声量で声を上げかけた胡桃の口を咄嗟に押さえて体の前に抱え込む。

 そして比嘉子が頷き返したのを確認し、凪原は胡桃を抱えたまま棚の間の隙間に体を押し込んだ。

 

「もうあいつ等が来るから静かにしとけよ?」

「……ッ、ッ」(コクコク)

 

 最低限のボリュームにするため、耳元で囁くように凪原が注意するとすぐに胡桃から頷きが返ってきたので口元から手を放す。

 その胡桃の耳元は真っ赤になっていたが、通路の方に意識を集中している凪原は気付いていないようだった。

 深呼吸をして落ち着けば、胡桃の耳にも通路での会話が聞こえてきた。

 




地下探索(聖イシドロス大学ver.)でした。

・やべぇ奴認定された比嘉子
配線を辿ったというのは文字通りの意味で、校舎内には内部を走っている配線を確認するために穴を空けられた壁が何箇所かある。
元々あったエンジニアという属性が複数の資格保持と判明して強化された。それに加えて狭苦しいダクト内で方向転換してみせるという驚異の柔軟性を発揮し、無事凪原(やべぇ奴筆頭)からやべぇ奴認定された。
当人的には昔から隅っことか狭いところが好きでそれが"ちょっと"高じただけだと思っている。

医臥躯(いがく)薬我供(やくがく)大全
民明書房刊行の書籍。主に医療現場ではなく地方で行われていた民間療法を取り扱っている。『医療とは臥せった患者の体躯に相対するところから始まり、薬道は自身をも供物として捧げることで発展する』という鋼の精神を文面の随所から感じることができる。
なお実際の内容は出鱈目もいいところである。

・巡ヶ丘学院と聖イシドロス大学の違い
大学の物資量は原作に詳しく書いていなかったため想像です。高校と大学ではキャンパスの規模も違うので当然拠点としての運用法も違ってくるだろうと考えました。想定としては巡ヶ丘学院は前線基地、大学は方面隊司令部みたいな感じのイメージです。
詳しい話はまたいつかの本編ででも。


7章はあと1話か2話くらいだと思います。


それではまた次回!
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