OVERLORD~黎明の魔女~   作:海野入鹿

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第二部スタート。


プロローグ
百年の揺り返し


 カツン。

 

 廃墟と化した場所に、硬い靴音が小さな音を立てた。

 

 その音に反応し、巨大な身体がゆっくりと起き上がる。

 

「やあ、久しぶりだね」

 

 親しげに声を出したのは巨大な影。

 

 その正体は、この世界で最強の一角であるドラゴン。名はツァインドルクス=ヴァイシオン。白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)と誇称される存在。

 

 その巨大な力と対面しながらも、言葉をかけられた者は脅えもせず口を開く。

 

「挨拶が出来る様になったのかい? 良い成長じゃな」

 

 茶化す様に言葉を綴るその存在は、目深に被っていたローブを背後へとずらす。その者は、老婆、と言っても良いほどの年齢を重ねた女性であった。

 

「本当に久しぶりだね。リグリット」

 

「ああ、本当だねぇ。ツアー」

 

 気軽に、互いの名を呼び合うドラゴンと人間。此の二人、いや、一人と一体と言った方がしっくりくる両名だが、半ば伝説と化している十三英雄と呼ばれた者達の生き残りである。

 

「それで? 君がこんな所まで来るなんて、何かあったのかい?」

 

「鋭いじゃないか。それも竜の力なのかい?」

 

「茶化すのは止めてほしいのだが」

 

 ツアーの言葉に、リグリットはクスリ、と僅かに笑みを漏らす。

 

「良い知らせと、悪い知らせがある。どっちから話すのが良いのか」

 

「ふむ。では良い方から聞こうか」

 

 ツアーの返事に、リグリットは一度頷き

 

「カルロに会ったよ」

 

「カルロ? ああ、あのダーク・エルフの少年かい?」

 

「少年ってのは無しだよ。今は只の爺さ。わしも含めてな」

 

「そうか、そうだね。長く生きていると、そう言う感覚が鈍くなって行くよ」

 

 ツアーの言葉に、リグリットも笑みを湛える。

 

「それで? 彼は元気だったかい?」

 

「ああ、嫌になるほどにね。今は法皇に支えていると言っていたよ」

 

「法皇? ああ、スレイン法国に」

 

 リグリットは、ツアーの口から出た言葉に対し、首を横に振る事で答える。

 

「わしもそう言ったさ、だけどアイツから出た言葉は意外な物だったよ」

 

「ほう」

 

「スレイン法国? そんなチンケな物に支える気はねぇ、てな」

 

「国がチンケな物? じゃあ、彼は何に支えているんだい?」

 

「言ったろ? 法皇にじゃよ」

 

 リグリットの言葉に、ツアーが黙りこむ。

 

「あの狂犬と言われていたカルロが……」

 

 そして、呟く様に言葉を紡いだ。それが面白かったのか、リグリットは満面の笑顔を湛え

 

「ああ、そうじゃ。リーダー以外に懐かなかったあのカルロが、じゃ」

 

「それほどまでの人物なのかねぇ。法皇リリー・マルレーンは」

 

「知っておったか」

 

「ああ。法皇就任の時、法国の神官が伝えに来たよ」

 

「そうかい。法国とは、まだ続いていたんだねぇ」

 

 リグリットが呆れた様な言葉を口にする。

 

「彼との命約もあるからね。それで、悪い方はなんだい?」

 

 ツアーの問いに、リグリットの表情が一気に硬い物へと変化した。

 

「煉獄の王が現界した」

 

「ふむ」

 

「これも知っておったか?」

 

「風の噂くらいには」

 

 ツアーのそっけない態度に、リグリットはニヤリと意地の悪い笑みを見せる。

 

「ならば、これはどうじゃ? 王都にて、煉獄の王が散った」

 

「!」

 

「驚いた様じゃな」

 

「ああ、驚いたさ。それで、誰に討たれたんだい?」

 

「アインズ・ウール・ゴウン。そう言う名の者らしい」

 

 リグリットの答えに、ツアーは暫し黙りこみ

 

「その者は、ぷれいやーなのかい?」

 

 疑問を口にする。

 

「恐らくは、間違い無いじゃろうな」

 

「百年の揺り返し」

 

 ツアーはそう呟き、視線をリグリットから外す。それを追ってリグリットの視線も同じ方向へと向けられる。二つの視線の先、そこにあった物は……。

 

 まるで、竜を写し取ったかの様な、純白の鎧だった。

 

「おや? あそこに居るのは、わしの友じゃあないかい?」

 

「そろそろ、意地悪をするのを止めてくれないかいリグリット? 僕だって悪いとは思っているんだ」

 

 長年の嫌味を言うリグリットだが、鎧を見る視線は鋭い物へと変わる。

 

「随分とボロボロじゃのう。敵は?」

 

「本質的には悪だと思うよ」

 

「今度の来訪者は、世界に協力する者では無いと?」

 

「ああ。歪みを与える者だと思うね」

 

「歪み、ねぇ」

 

 リグリットの言い回しに、ツアーは若干の違和感を覚えた。

 

「何が言いたいんだね、リグリット」

 

 訝しげなツアーの言葉に、リグリットが笑顔で答える。

 

「世界が歪んでから、早六百年。今じゃ、歪みこそが世界じゃ」

 

 リグリットの言葉に、ツアーは沈黙で答えた。

 

「そこに、さらに歪みが加わる。もう、世界がどう言う道を辿るのか、誰にも解らん。わしにも。上位種を気取るお主らドラゴンにもな」

 

 リグリットは一呼吸入れ、思いを込める様に次の言葉を口にした。

 

「お主にとっての悪が、世界にとっての悪とは限らん。逆もまた然り。そう思わんか? ツァインドルクス」

 




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