復活! と言う只の帰宅を果たしたビクトーリアなのだが、現在その表情は固まっていた
理由は単純。アインズの放った一言によってだ。
「ギルド アインズ・ウール・ゴウン、ギルド長モモンガ改めアインズ・ウール・ゴウン。御身の前に」
不死者の王、オーバーロードが他の僕と共に膝を付いていた。
何故この様な状態になっているのか? その理由を知るには、少しばかり時を遡る必要がある。
~ナザリック地下大墳墓 第九階層 ロイヤルスウィート~
「クソッ! クソっ! 何が帰って来るだ! 何が煉獄の王だ! 俺達が! 俺が! クソッ! ビッチさん………………何で、何で!」
自室のベッドを破壊し、アインズは荒れ狂う。何度も、何度も、沈静化は起こるが、それ以上に感情が湧き上がり荒れ狂う。
「全く。妾が数日留守にしただけでこの荒れ様とは。余程寂しかったのかや? このボッチ骸骨は」
後ろから声が聞こえた。
あの、優しい声が。
「……ビッチさん」
「ん?」
アインズの呼びかけに、ビクトーリアは笑顔で答える。
「ビッチさん。アンタ生きて……」
信じられない。
そんな雰囲気を出しながらアインズは言葉を絞り出す。
だが、ビクトーリアの表情は明らかに違う物だ。呆れた様な、そんな表情を浮かべ
「はぁ? うぬは何を言っておるのじゃ? それに、何故妾が死なねばならんのじゃ?」
笑いながら、不思議そうに口を開く。
「だ、だってビッチさん。徐々に消えて……砂になって……」
アインズのこの言葉によって、ビクトーリアはやっと事態を理解する。
「ああ、あれかや。あれは、それ、エフェクトじゃ。妾がテレポートすると、ああなる」
カクン! と音を立て、アインズの顎が開く。
この事に、何かの異常を感じ取ったビクトーリアは、慌てて言葉を続けた。
「ほ、ほれ、あれじゃ。たっちのヤツが良くやっておった、正義降臨、あれと同じじゃよ……。………………怒っておるのかや?」
震えるアインズを前に、茶目っ毛たっぷりでそう言ってみる。
だが、事態は最悪な方向へと進んで行く。
「こ、このクズがぁぁぁぁぁ!」
アインズの怒りが爆発したのだ。
「俺達がどれほど心配したと思っているんだ! どれほどの喪失感を感じたか! どれだけ自分を責めたか! お……」
「お?」
「お、俺の……」
「俺の?」
「俺の、俺の純情返せー!」
アインズの絶叫に、ビクトーリアは踏鞴を踏む。それほどにアインズの怒りは大きく、激しい物だった。
「そ、そうかや。それは悪かったのう。モ、モモンガさんや、妾が悪かった。何でもするから許してたも」
とっさにビクトーリアは謝罪の言葉を口にした。それも、絶対言ってはいけないワードを含んだ言葉を。
(何でもする?)
アインズの優秀な聴覚は、その言葉を聞き逃さなかった。そして、言葉からもたらされる恩恵を、素早く弾き出す。
(何でもするって事は、何でも言って良いって事だよな? そうであるならば、俺の負担も背負ってくれるって事じゃないか。そう、そうだよ。俺一人が胃を痛くする事は無いじゃないか。胃はないけどさぁ。と言う事は……)
「フフッ。そうか、解ったビクトーリアよ。その願い、受け入れよう」
急に冷静になったアインズに対し、ビクトーリアは首を傾げる。
「モ、モモンガさんや」
「どうした絶世の美女」
クソビッチじゃ無い。
アインズの言葉に、ビクトーリアの背中に冷たい物が流れる。
アインズの目的は? アインズが求める物、とは?
「モモンガ。うぬは妾を求めるのかや?」
自分を抱きたいのか? ビクトーリアは自信を腕で抱きしめながら絞り出すように口を開いた。
一瞬の間。
そして
「気持ち悪いわーーーー!」
アインズは絶叫しビクトーリアから距離を取る。
そのまま、自分の二の腕を温める様にさすりながら、「気持ち悪い、気持ち悪い」と言葉を続ける。
だが、この行動はしおらしかったビクトーリアに変化をもたらせた。
「コラァ、骨! 気持ち悪いとは何じゃぁ! このすらりと伸びた手足を見よ! 艶めかしいラインを描く腰つき! 胸わぁ……アルベド程では無いが、柔らかさでは妾の勝ちじゃ! それが、気持ち悪いじゃと! 失礼じゃ! 失礼じゃぞ、モモンガ!」
言葉と共に、各部位を撫で上げ、最後には腰に手を当て憤慨するビクトーリア。
だが、一方のアインズは涼しい態度であった。
「ビクトーリアよ」
「なんじゃ」
「想像してみろ。私と、そのお前が、け、結婚した姿を」
アインズに促され、頭の中でその姿を浮かべてみる。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ただいま、ビクトーリア」
「あら、御帰りなさい。モモンガさん」
「ふふっ。何時もお前は美しいな」
「そんな! あなたの白磁の様な頭骨だって……」
見つめ合う二人。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「気持ち悪!」
ビクトーリアは、後退り自身を再び抱きしめる。
そして
「無いわー。モモンガさん、無いわー」
失礼極まりない言葉を口にしながら、アインズを睨みつけた。
ビクトーリアのこの行動に、アインズは首を傾げる。正確には“俺、何かやったっけ?”である。
そのアインズの心境を読むかの如く、ビクトーリアの口が開かれる。
「大体じゃ。うぬも想像してみるが良い。妾との新婚生活を」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「今帰ったぞアインズ」
「うむ。ご苦労だったなビクトーリアよ」
「なぁに、妾が外に行けるのも、全てはアインズのおかげじゃ」
「そう言ってもらえて、私も嬉しいぞ」
見つめ合う二人。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「うわっ! 無いわー。ビッチさんと? 無いわー」
同じく失礼な言葉を口にしながら、あっち行けとでも言う様に掌をヒラヒラと振る。
だが、此処で引き下がらないのもビクトーリアなのだ。
その黄金の瞳が細められ、上から見下ろすように顎を上げる。
「ほう。うぬがどう言う失礼な未来を妄想したのか、妾に教えてはくれまいか? ええ、アインズ」
凄い迫力だった。
しかしアインズも負けてはいない。ここで、今まで培った魔王ロールを使わずにいつ使うと言うのだ。
「ふむ。ビクトーリアよ、お前はどうなのだ? お前の中で、私はどんな甘い言葉を囁いたのだ?」
見つめ合う二人。
絡み合う視線。
絶対強者二人による視殺戦。
僅かな沈黙。
「「気持ち悪っ!」」
同時に視線を外す。
そして二人はどちらかとも無く室内をグルグルと回り始め、ブツブツと「気持ち悪!」「無いわー」などと口にする。それは二十分程続き、再びお互い顔を合わせると
「あっはっはっは」
にこやかに笑い合うのだった。
ひとしきり笑い合うと、アインズは「ふぅ」と安堵の溜息を洩らす。そして、穏やかな声で言葉を繋ぐ。
「ビッチさん。ビッチさんのこれから、なんですけど」
「ふむ。その言い様じゃと、モモンガさんに何か良い案でもあるのかや?」
ビクトーリアの問いかけに、アインズは一度頷き。
「ええ。思いつきましたよ。とびっきりの案が」
そう言うアインズの、感情を創る事の無い白磁の顔にいやらしい笑みが見えたビクトーリアの背に、冷たい何かが流れた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「喝采せよ! 王の帰還である!」
アインズの宣言に反応する様に、玉座の間は、黄金の輝きで満たされる。
いや、それは光では無かった。
数えるのも馬鹿馬鹿しくなる程の、無数の黄金の蝶が姿を現したのだ。
玉座の間を埋め尽くす黄金の蝶達。
それは、徐々に一ヶ所に集まって行き、人型を形作って行く。
ゆっくりとした速度でそれは姿を現した。
優雅に翻る深紅のドレス。
鈍い光を湛えた、黄金のガントレットとグリーブ。
慈愛の象徴とも言える、豊かな双丸。
そして、流れる様にたらされた黄金の髪。
煉獄の王、ビクトーリア・F・ホーエンハイムの姿がそこにあった。
「ビクトーリア様!」
「ビッチ様!」
「お姉さま!」
「「ビクトーリア様!」」
デミウルゴスが、アルベドが、シャルティアが、全ての僕達がその者の名を呼ぶ。
焦がれる様に、繋ぎとめる様に。
その声に応え、その者は瞳を開く。
そして僕達は捕らわれた。
煉獄の王の、黄金の瞳によって。
「皆の声、確かに妾に届いた。献身、御苦労であった」
「そんな! 我らはアインズ様、そしてビクトーリア様の僕。主の復活を願う事など当然!」
ビクトーリアの言葉に、アルベドが叫ぶ様に言葉を返す。
それに対し、ビクトーリアはゆっくりと首を横に振り
「アルベド。妾は以前にも言ったはずじゃ。うぬらはアインズ・ウール・ゴウンが僕――」
「お待ち下さい」
ビクトーリアの言葉を遮る様にデミウルゴスが言葉を紡ぐ。
「アインズ様。ビクトーリア様。御言葉の途中で口を挟む事をお許し下さい」
「うむ。許可しよう、デミウルゴス。己の意見を述べるが良い」
この発言に、アインズが許可を出す。
「ビクトーリア様は、前提が間違っていると思われます」
「妾が間違っておると?」
デミウルゴスの発言を、ビクトーリアは興味深げに見つめる。
「はい。以前のビクトーリア様は、我らが創造主、至高の四十人様のお力により現界なされておられました」
この言葉に、アインズ、ビクトーリアは頷きで返す。
確かにそうだった。そう言う設定になっていた。
「しかし、この度の降臨は違います。我らが、ナザリックの僕たる我らの望みによってビクトーリア様は現界なされておられます。我らの望みは只一つ。アインズ様と並び、ビクトーリア様に忠義を尽くす事。どうか……」
そう言ってデミウルゴスは腰を折る。
その姿は酷く小さく見え、母に縋る子供の様に見えた。
次の瞬間、アルベドが膝を付き、口を開いた。
「ナザリック地下大墳墓 守護者統括アルベド、絶対の忠誠をアインズ様に。永遠の愛をビクトーリア様に」
続きデミウルゴスが
「第七階層守護者デミウルゴス。アインズ様、そしてビクトーリア様に永久の忠誠を」
「第一~第三階層守護者、シャルティア・ブラッドフォールン。この力をアインズ様とお姉さまに」
「第五階層守護者コキュートス。我ガ武ノ全テヲアインズ様トビクトーリア様ニ」
「第六階層守護者アウラ・ベラ・フィオーラ」
「お、同じく、マーレ・ベロ・フィオーレ」
「「力の全てを御二人に!」
階層守護者に続き、セバスが、プレアデスが名乗りと忠義の言葉をビクトーリアに捧げる。
全ては上手く行っている様い見えた。この後の彼の発言までは。
「ナザリック――」
守護者及び僕、そう言いかけたアルベドの言葉を黒い影が遮った。
いかなる人物でも、その言葉を遮る事は出来ない。だが、この場にはたった一人それが出来る人物がいた。その人物は、うやうやしく膝を付き
「ギルド アインズ・ウール・ゴウン、ギルド長モモンガ改めアインズ・ウール・ゴウン。御身の前に」
爆弾を投下したのだった。
アインズの、この行動によりビクトーリアの頬が引き攣る。
理由は只一つ。
“コイツは何を言っているんだろう?”
それだけである。
その瞬間、頭を下げるアインズから“フフッ”と言う小さな笑い声が漏れたのをビクトーリアの
そして理解した。自分は売られたのだと。僕達の重すぎる忠誠と、過剰なる期待を減らすために。ナザリックでの仕事を、僅かにでも軽くする為に。
(裏切ったか、モモンガ)
ビクトーリアの黄金の瞳は鋭くアインズを恫喝する。
(フフッ。だから言っただろう。良い事を思いついたと)
アインズの空洞の瞳は、赤い光を湛えながらビクトーリアを見つめる。
だが、此処で引く事は出来ない。
「アインズよ。うぬが居なければ、妾の復活はありえんかった。妾は墳墓を守る只の墓守、そなたとは立場が違う。顔を上げてはどうじゃ?」
やんわりとした言葉だったが、真意はこうである。
“フザケルな”
「いや。我らが神である御身の前。こうして
丁寧な言葉で対応するアインズ。
しかし、その真意は
“今まで何やってたか知らないけど、少しは俺の胃の痛みを味合え、この
「フッフッフッ」と意味ありげな笑いを零し続ける超位者達。
この微妙な空気感は何時までも続く様に思えた。いわゆる千日手である。
だが、此処で救いの手が伸ばされる。
「アインズ様。不敬を承知で申し上げます」
アルベドが口を開いた。
「我々僕達は、アインズ様、ビクトーリア様、両御方に忠義を捧げたく思います。どちらかが上、どちらかが下、では無く。ですから、お顔をお上げ下さい。そして、ビクトーリア様と並び立ち、我らの上にお立ち下さい」
「「アルベド……」」
アインズは、NPCであるアルベドの自主的な発言に感動し、立ちあがる。
その瞬間、「くふふっ」と漏れた淫靡な笑みをビクトーリアは聞き逃さなかった。自主性は自主性でも、この
だが、そんな事は露にも知らない純真無垢な骸骨は壇上へと上がりビクトーリアと向き合う。
「よろしく頼むぞ。ビクトーリア」
「ふん! 嵌めおって。仕方が無い、手伝ってやろうぞ。妾の出来る範囲でな」
そう言ってお互いの瞳を見つめ
「無いわー」
そう呟くのだった。
何時も通り、だと。
その姿を見つめる僕達は、どこかほっとした様な、安堵の表情で見守っていた。
だが、これでは終われない。復活には儀式があるのだ。宣言、と言う物が無ければ、場が締まらない。
「皆の者。ナザリックの僕達よ。うぬらの声、うぬらの愛、確かに妾に届いた。そして、妾は再びこの地に戻った。ならば妾は再度誓おう。妾の命、力、魔道の全てを持って汝らを守ろう。どんな敵からも。どんな脅威からも。そして宣言しよう、妾の心は此処に有ると」
静かに言葉は終わりを告げる。
僅かな沈黙。
そして
「「ビクトーリア様、万歳!」」
「「アインズ・ウール・ゴウン様、万歳!」」
僕達から喝采の言葉が溢れ出す。
この言葉が何度か繰り返された後、アルベドが一歩前へと踏み出し、全員を代表して口を開く。
「我らナザリック地下大墳墓総員、ビクトーリア・F・ホーエンハイム様、アインズ・ウール・ゴウン様に絶対の忠義を! 不死者の王と煉獄の王、
今、ナザリックの魔手が、世界へと伸ばされる。
感想お待ちしております。