少し短めのお話となっております。
神の復活、と言う茶番劇を無事終えたナザリック一行。
現在玉座の間には、各階層守護者及びプレアデスの面々のみが残っていた。
復活を果たしたビクトーリアの体調を気遣い、デミウルゴスの言で本日は解散となっている。
各々の仕事へと戻って行く僕達、Lv1のメイド達からは、ビクトーリアとの別れを惜しむ様な雰囲気が漂っていたが、「また明日」と言うビクトーリアの言葉によって、にこやかに持ち場へと帰って行った。
喧騒が去り、静寂が訪れた玉座の間にあって、アインズは残った者達へと視線を向ける。
皆が、ビクトーリアの復活を喜び、言葉を掛けている。
しかし、アインズは妙な違和感を覚えていた。
いや、それは違和感とも言えない程の妙なちぐはぐ感。
一人、そんな空気を感じていたアインズだが、その聴覚に何かが落ちる音が聞こえた。それは、例えるならば布が落ちる様な音だった。
場の全員の視線が、音の出所に注がれる。
そこには、力無く腰を落としたナーベラルの姿があった。項垂れ、瞳から涙を落すナーベラル・ガンマの姿が。
そして、アインズは理解した。
自身の感じていた違和感の正体に。それは……アルベドの態度であったと。
ビクトーリアの消失に、あれほど嘆き悲しんでいたアルベドの姿が、今は見る影も無く消え去っている。
例えるならば、今のアルベドは間違い無く設定された存在。ナザリックの守護者統括としての、正しい姿に見える。だが、それも少し違うのでは無いか? アインズの虚空の瞳にはそう映っていた。
そして、それが正解だったとすぐに判明する事になる。
腰を落とすナーベラルにビクトーリアは静かに近づくと、優しく両腕を取りその胸に掻き抱く。強く慈愛を持ってナーベラルを包み込み、何度も何度もその形の良い頭部を撫で下ろす。大丈夫だと。また会えたと。
「大丈夫じゃナーベラル。言ったであろう? すぐに会えると」
ビクトーリアは語りかける。
何度も、何度も。
その言葉は、ナーベラルだけでは無く、この場に居る全守護者、プレアデス達へと送られた言葉の様にアインズは感じた。
実際に場の全員が安堵の表情を浮かべる。
たった一人を除いては。
僕達の輪の中心に居るビクトーリアを見つめていたアインズの隣で“ギリッ”と言う歯を噛み締める音がした。その音の主は、当然の事ながらアルベドである。
「アルベド?」
アインズが静かに呼びかけた。
「大丈夫で御座います、アインズ様。あの愚か者へのお説教は、二人っきりの時に行いますから」
そう言ったアルベドの表情は、アインズが見た事が無い物だった。
優しげでありながら荒ぶる様で、慈愛に満ちながらも苛立ちを湛える。
そして理解する。
これがアルベドと言う者なのだと。
タブラ・スマラグディナが創造した女の本性なのだと。聖女でありながら悪魔と言う矛盾する二つを内包した者なのだ。
そして彼女は、ナザリックの守護者統括では無く、ビクトーリア・F・ホーエンハイムの妻なのだと。守護者統括にしてビクトーリアの妻では無く、ビクトーリアの妻でありナザリックの守護者統括なのだと。前後が違っているのだ。
そして、こう思う。
ビクトーリアとナザリックが敵対した時、間違い無くアルベドはナザリックを捨てるだろう。未練も無く、悔いも無く、その手を振るうだろう。
ひょっとすると、そう言う未来が来ることを予想してタブラ・スマラグディナは、
その考えに行きついたアインズだったが、いやいやと首を横に振る。幾等何でも考えすぎだと。そうであったなら、タブラ・スマラグディナと言う人物は転移する事を知っていた事になる。そう、考えすぎであるとアインズは考えを放棄する事にした。
「アルベド。程々にな」
今は、呑気にナーベラルを抱く友を心配する事に専念するのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
“パシーーーーン!”
アインズの計らいでビクトーリアとアルベド、二人は懐かしき我が家、星青の館へと帰って来ていた。
入口のドアを抜けエントランスへと踏み入れた瞬間、彼の音が響いたのだった。
音の正体、とは?
それは、アルベドが放った平手打ち。
「ア、アルベド?」
叩かれた左頬を押さえながら、ビクトーリアは短くそれだけを呟く。
アルベドは両の手でドレスのスカートを掴み項垂れる。視線の先に有る絨毯には、アルベドの流した涙が染みを作っていた。
「あなたは、あなたは、あなたは何をやっているのですか!」
アルベドの感情が爆発する。涙に濡れた黄金の瞳でビクトーリアを睨みつける。
「復活なされた事は喜ばしい事です! ですが! もし! 万が一にも出来無かった場合を考えなかったのですか!」
ビクトーリアには、返す言葉が無かった。あれは茶番であり、自分には死ぬ気など蚊程も無かったからだ。
だが、アルベドの怒りは本当なのである。
「自分の愛する人が! 自分の愛する夫が! 目の前で腹を刺されるシーンなど、正気で見れる女など居ると御思いだったのですか!」
「い、いや……」
「あなたは、自分がどれだけの価値を持っているのか解っているのですか?! どれだけの者が悲しんだのか! どれだけの者が悔やんだのか! それを解っているのですか! あなたは、皆を守って下さいます! ですが! ですが! 御自分の命を何故守られないのですか! シャルティアとぶつかった時も、デミウルゴスと対峙した時も、今回のモモンガ様の剣を御自身で受け止めた時も! 残され悲しむ者が居るとは考えなかったのですか!」
アルベドは膝を付き、ビクトーリアのドレスを掴む。その姿は、母に甘える幼子の様にも、神に縋る罪人の様にも見えた。
「どうか……どうかもう二度と、私達の前から……私の前から居なくならないで下さい」
「……すまぬ」
ビクトーリアは短くそれだけを口にすると、アルベドを立ち上がらせる。そして、右手の人差し指でアルベドの涙を拭うと、どちらからともなく口付けを交わすのだった。
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