OVERLORD~黎明の魔女~   作:海野入鹿

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~リ・エスティーゼ王国、王都リ・エスティーゼ~

 

 数日前の惨劇を労わる様に、この日王都リ・エスティーゼは青天に包まれていた。悪魔達の襲撃は、英雄によって撃ち破られ、建物に被害は出た物の敵の強さを鑑みれば僅かな物だ。人々の顔には疲れが見えるが、それでも力強く未来へと向いている様に見える。

 

 そんな喧騒の中、場違いとでも言う様な三人組が大路を行く。

 

 一人は、黒髪をポニーテールに結ったメイド服の女性。

 

 一人は、ボールガウンに身を包み日傘をさす少女。

 

 そして最後の一人は、白い上質な生地で出来た貫頭衣を身に付けた骸骨。

 

 ナーベラル・ガンマ。

 

 シャルティア・ブラッドフォールン。

 

 アインズ・ウール・ゴウンの三人だ。

 

「アインズさ、いえ、モモンさん――」

 

「ナーベラル。もうその名は必要無い。アインズと呼んで構わん」

 

「は、はいっ! アインズ様!」

 

 アインズの言葉に、ナーベラルは花が咲いた様な表情を浮かべる。

 

「それで、どうした?」

 

「は、はい。今回の王都への呼び出し、あのゲジゲジ達は何を考えているのでしょうか?」

 

「うむ」

 

「それに、シャルティア様まで一緒に…………やはり罠、なのでしょうか?」

 

 心配げに問いかけるナーベラルに対し、アインズは顎に手をやり、口を開こうとした。その瞬間、三人の前に影が走り出た。

 

 ナーベラル、シャルティアは警戒の姿勢を取るが、アインズは手でもって制止の指示を出す。心配無い、と。

 

 アインズ一行の前に立塞がった影、その正体は幼い子供達だった。

 

 男の子が一人と、妹だろうか? 女の子が一人。

 

 恐れる様に、だが勇気を振り絞る様な視線でアインズを見つめる。

 

「あ、あの! ……モモンさん!」

 

 少年が口を開いた時、少女が少年の袖を引く。

 

「アインズさんだよ、お兄ちゃん」

 

「あ、そうか! アインズさん!」

 

 ――さん。この呼び方に、ナーベラル、シャルティアが殺気立つ。

 

 だが、アインズは二人の背中に手を添える。大丈夫だと。この程度で怒る必要すら無い、と。

 

 そしてアインズは、虚空の瞳を子供達へと向ける。

 

「私に何か用かな?」

 

 努めて優しく語りかける。

 

 兄妹は緊張しながらも、再び口を開く。

 

「あ、あの! アインズさん! お父さんを助けてくれて、ありがとう!」

 

「ありがとう!」

 

 お礼の言葉と共に、兄妹は頭を下げる。アインズは、この兄妹の行動に戸惑いを感じていた。

 

「父親を助けた、とはどう言う事だ?」

 

 とっさに出た言葉は、こんな物だった。だが、兄妹は戸惑う事無く言葉を繋ぐ。

 

「あ、あの、悪魔との戦いにお父さんもいて――」

 

「お父さん、冒険者なの!」

 

 アインズは理解した。あの茶番劇に、この兄妹の父親も参加していたのだ。

 

「そうか。しかし、私は礼を言われる様な事はしていない」

 

 謙遜の言葉に、後の二人が声を上げる。何やら感動している雰囲気なのだが、振りかえると面倒な事になりかねないので、アインズは無視を決め込む。それよりも、この兄妹に聞きたい事がある。

 

「お前、いや、君達。君達は私が怖くは無いのか?」

 

 根源的な疑問だった。なにせ今の自分は白骨死体、アンデッドの姿そのままなのだ。しかし、兄妹は力強く首を横に振る。

 

「こ、怖くないよ! だって、だってアインズさんは英雄なんだもの!」

 

「お父さんが言ってたもん! アインズさんは、英雄なんだって!」

 

 明らかに恐怖は感じている。だが、これがビクトーリアの言っていた事なのだろうとアインズは感じる。

 

 救国の英雄

 

 それが今の自分なのだ。

 

 ならば、どんな罠が待ちうけようと行くべきだ。覚悟を決め、兄妹に別れを告げたアインズは王城へと足を進ませた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 王城へと続く門の前には、衛兵が二人槍を持って侵入者に目を日光らせていた。アインズは二人を従え静かに彼らに近づく。

 

「アインズ・ウール・ゴウンだ。王に呼ばれ参上した」

 

「!」

 

 衛兵の顔色が変わる。この結果に、アインズは驚きはしない。これが普通の反応なのだ。だからこそ焦らずじっくりと衛兵からの答えを待つ。

 

 僅かな沈黙の後

 

「し、失礼致しました! 書状は御持ちでしょうか?!」

 

 衛兵の言葉に、アインズは懐に忍ばせていた封筒を取り出し衛兵へと渡す。

 

 衛兵はそれを受け取ると「確認致します」と一言言い書状に押された蝋封の意匠を見つめた。

 

「確認終わりました! 確かに王族の意匠であります! お通り下さい!」

 

 そう言って身を横へとずらす。

 

 アインズは右手を上げ衛兵に礼の意志を示すと、ゆっくりと王城の中へと足を踏み入れた。

 

 良く手入れされた庭を抜け、王城正面へと辿り着く。

 

 そこには、見知った顔が笑みを浮かべ待っていた。

 

「来た様だな、アインズ」

 

「ああ。君が出迎えか? ガゼフ」

 

「ふふっ。色気が無くすまんな」

 

 冗談交じりに挨拶を交わす。相手は戦友であるガゼフ・ストロノーフ。

 

「紹介しよう。彼女はナーベラル。私と一緒に冒険者をしていた者だ。私のメイドとして働いてくれている」

 

「ガゼフだ。よろしく頼む」

 

 そう言って笑顔と共に右手を差し出す。

 

「カツオブシムシ風情が何を――キャッ!」

 

 普段と変わらず見下す様な言葉を吐くナーベラルの頭部に、誡める様なアインズのチョップが落とされる。

 

「すまぬな。彼女は少し世間ずれしていてな」

 

 謝罪する主人の姿を見、ナーベラルは消えてしまいたくなる気持ちに襲われる。

 

「構わない。だが、これから会う奴らの前では控えた方が良い」

 

「うん? 王族か?」

 

「いや、貴族連中だ。何せ、気位だけは高いヤツラだからな」

 

「忠告感謝する。ナーベラル、解ったな」

 

「は。肝に命じます、アインズ様」

 

 アインズは一度頷くと、視線をシャルティアに向ける。

 

「彼女はシャルティア。私の……そうだな、部下の様な存在だ」

 

 実際には部下なのだが、アインズは言葉を濁す様にガゼフに伝えた。

 

「シャルティア・ブラッドフォールン。ガゼフ殿、よしなに」

 

 シャルティアは礼儀正しく頭を下げる。

 

 普段のシャルティアであったならば、この様な態度を取る事は無い。それが解って、解りきっていたからこそ実施された。何が? それは、ビクトーリアとユリ・アルファによる特訓と言う名の礼儀作法講座が、である。その結果は、シャルティアの態度を見れば解ってもらえるだろう。

 

「最初に言っておくが…………彼女は吸血鬼だ」

 

「な!」

 

 アインズの言葉に、ガゼフは声を失う

 

 アインズは内心溜息を洩らす。

 

(ビッチさん、やっぱり異形種が受け入れられるのは難しそうです)

 

 心の中でそう愚痴をこぼすアインズだが、ガゼフの次の言葉は意外な物だった。

 

「こんな美しい少女が吸血鬼だと? 本当なのかアインズ」

 

「え?」

 

「いや、すまない。吸血鬼と言えば、醜悪な姿だと記憶していたのでな、信じられなかったのだ。許してほしい」

 

 ガゼフが素直に謝罪する。

 

「謝罪の必要はありんせん。わらわの姿は、至高の御方が御造りになった物。そこらの吸血鬼と一緒にされても迷惑でありんす」

 

 アインズはシャルティアの成長に、涙が出る様な思いを描く。

 

(ペロロンチーノさん。シャルティアは良い子に育ってますよ)

 

 心の中で、友に報告をする程に。

 

「至高の御方? 御造りになった? アインズ、彼女はもしや、伝説にある亡国の吸血姫なのか?」

 

「亡国の吸血姫?」

 

 アインズの問いに、ガゼフは昔の物語を語って聞かせる。かつて存在したとされる国の話を

 

(そんな存在が……一度デミウルゴスに探らせてみるか)

 

「いや、彼女はそう言う存在では無い。彼女は私と国を同じくする者だ」

 

「そうか。では、君が倒した吸血鬼とも、何か関係が? いや、失礼。冒険者ギルドの長に聞いてな」

 

「ああ、それか。あの吸血鬼、ほにょぺにょこは、彼女を追っていたのだ」

 

「そうだったのか。しかし、彼女の種族も黙っていた方がよさそうだ。王には後ほど俺の方から伝えておく」

 

「世話になる。解ったな、シャルティア」

 

「了解でありんす。アインズ様」

 

「では、行こうか。皆、集まっている頃だ」

 

「ああ」

 

 この言葉を合図に、アインズ一行は目的の場所へと足を踏み入れる。

 

 ガゼフに導かれた場所、そこは国王との謁見の間。

 

 扉の先には、十数名の者達が居た。

 

 五人の女性の姿が見て取れる。蒼の薔薇のメンバー達だ。

 

 その他の者達には見覚えが無い。恐らくは貴族連中だろう。自分の姿を見た瞬間、顔をしかめたのがその証拠と言ってもいいだろう。アレらからは悪感情しか感じられない。

 

 正面には玉座が見える。その横には三人の人間の姿が。恐らくは王子、王女なのだろう。一番左に控える王女の容姿は、デミウルゴスの報告通り。彼女がラナー王女。知らずビッチさんに喧嘩を売った大馬鹿者(可愛そうな娘)

 

 ガゼフが一人、玉座の右側に立ち声を上げる。

 

「ランポッサ三世王の御入室である!」

 

 ガゼフの言葉と共に扉が開き、件の人物が現れる。豊かに鬚を貯え、杖を持った男が。

 

 アインズはしっかりとその男を視界に納める。王国の頂点に立つ者を。

 

 男、ランポッサ三世は、ゆっくりと歩を進め玉座へと腰を降ろす。それを確認しガゼフは再び声を上げる。

 

「では、これより悪魔討伐に当たる報償会を始める」

 

 最初にランポッサ三世の前に出たのは背の高い男だった。何でも第一王子らしい。王と僅かに言葉を交わし、「大義であった」と言う言葉を最後に元の位置へと帰っていった。

 

 次は、第二王子が呼ばれ、同じ様な言葉が繰り返された。

 

 そして冒険者達の代表として蒼の薔薇が呼ばれる。その中で、ドレスを纏った金髪の女性が進み出て、王の前に膝を付く。王からは謝辞が、ガゼフからは報償が告げられる。報奨金は冒険者ギルド経由で受け取る様にとの事だった。無論、他の冒険者も同様、との事だ。

 

 そして最後に

 

「アインズ・ウール・ゴウン、前へ」

 

 ガゼフから呼び出しの声が掛った。

 

 その声にアインズは微かに頷き

 

「何があっても動くな」

 

 とシャルティア、ナーベラルに小声で指示を出し王の前へと進み出る。そして膝を付き、礼を取った。

 

「アインズ・ウール・ゴウン、大義であった。そなたが居らねば、王都は蹂躙されていたであろう」

 

「有り難き御言葉。しかし、私が居らぬとも、冒険者達や御隣に控える戦士長殿達が国を守った事でしょう」

 

 王の言葉に、アインズはお世辞を交えながら言葉を返す。

 

「して、貴殿への報償なのだが……貴殿は何処の国にも所属してはいない、で良いか?」

 

 王の問いに、アインズは頷きで返す。実際には、ギルド アインズ・ウール・ゴウン所属なのだが、それを此処で言っても仕方が無い。

 

「では、アインズ・ウール・ゴウンには、報償として…………男爵の称号を与える」

 

 王の言葉によって、場は騒然と化した。

 




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