OVERLORD~黎明の魔女~   作:海野入鹿

5 / 9
舞い上がる火の粉

「では、アインズ・ウール・ゴウンには、報償として…………男爵の称号を与える」

 

 王の一言は、場の貴族達にとって許されざる言葉だった。

 

 貴族達は王の眼前と言う事もあり、大きな声では発言しなかったが、呟く様に、囁く様に「アンデッド風情に……」「汚らわしき者に爵位を……」などの言葉が漏れていた。

 

 しかしアインズにとって、貴族達の戯言など意味を成さない物であった。

 

(やっぱり王国は、こう言う手を打って来たか。ビッチさんやデミウルゴスの推測通りだな)

 

 決まっていたかの様な展開に、若干の呆れを覗かせる。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

『ビッチさん。今、大丈夫ですか?』

 

 ベッドで眠るビクトーリアの脳内に声が響く。

 

「何じゃ? 妾は睡眠中じゃぞ」

 

『何じゃって、もう昼過ぎですよ』

 

 アインズの冷静な突っ込みに、ビクトーリアは観念したかの様に身体を起こす。その行動によって、豊満な乳房が外気に触れ、同時にふよんと揺れる。

 

 ビクトーリアは自身の豊かな双丸を見つめ昨夜の事を思い出す。

 

(えーと、アルベドにひっぱたかれて、その後泣かれて、何だっけ? あ、そうそう、ひっついて離れてくれなくてぇ……帰らないと言い張ってぇ……一緒に寝る事になって……何で妾は素っ裸?)

 

 ビクトーリアは横で眠るアルベドに視線を向ける。

 

 そこには、自分と同じように一糸纏わぬアルベドの姿が

 

 ビクトーリアは、アルベドの頬をつついてみる。程良い弾力と指触りの良い感触が帰って来た。

 

 その瞬間、アルベドの瞳が開かれた。自分と同じ黄金の瞳。視線が絡み、見つめ合う。

 

「おはよう、アルベド」

 

 ビクトーリアから起床の挨拶が向けられる。

 

 それを受け、アルベドは僅かに口元を緩め。

 

「ちゅー」

 

「は?」

 

「ちゅー、ですわ」

 

 ビクトーリアは思う、コイツは朝から何を言っているんだろうと。変顔で言葉を受け入れるビクトーリアに、アルベドは少女の様に頬を膨らませ

 

「起きたら、おはようのちゅー、ですわ」

 

 ビクトーリアは、やっと理解が出来た。

 

 ゆっくりとアルベドの顔に近付き、その額に唇を落とす。

 

「ぶーー」

 

 この行動に対し、アルベドが不満の声を漏らす。

 

 そして……

 

「おでこじゃありません。こちらです!」

 

 言うや否や、ビクトーリアに覆い被さり情熱的に唇を奪った。

 

 そして、このイチャコラは一時間近く続き、二人がアインズの前に現れたのは、たっぷり二時間後の事であった。

 

 

 

 

~ナザリック地下大墳墓 第十階層 玉座の間~

 

「遅いですよ、ビッチさん」

 

 顔を合わせた瞬間、コレだった。

 

 何かを言い返そうかと思うビクトーリアだが、今回は全面的に自分達、主に嫁のアルベドが悪いのだ、ビクトーリアは素直に頭を下げる。が、一言加える事も忘れはしない。

 

「女は準備に時間が掛る。そうじゃろ? デミウルゴス」

 

 ビクトーリア達を待っていたもう一人の人物、デミウルゴスに同意を求める。

 

「そうなのか? デミウルゴス」

「そうじゃな? デミウルゴス」

「そうよね? デミウルゴス」

 

 アインズ、ビクトーリア、アルベドから声を掛けられ、デミウルゴスは額に汗を滲ませる。これは、いわゆる針の筵、と言う物だろう。

 

 しかし、そんな悪趣味な冗談もすぐに終わりを告げる。

 

「で、妾を呼んだ理由は?」

 

 ビクトーリアが軌道修正に入ったのだ。アインズも即座に反応し、真面目な口調で一通の封書を差し出す。ビクトーリアはそれを受け取り、裏表と目を通した。

 

「アインズ、これは?」

 

「ゲヘナの後、停泊すると言う理由で王都に宿を取り、ナーベラルを残して置いたのだが……」

 

「そこに届けられた、と?」

 

「ええ」

 

「中を見ても?」

 

「どうぞ」

 

 了解を取るビクトーリアに、中の文言こそ問題だと言うアインズ。ビクトーリアは「ふむ」と一声漏らし

 

「アルベド、椅子を」

 

 立ったままでは疲れてしまう、とアルベドに椅子を要求する。

 

 以心伝心、とでも言う様に、ビクトーリアの背後に何かが置かれた音がする。ビクトーリアは、何の迷いも躊躇も無くそれに腰掛け封書の中の羊皮紙に目を通す。だが、何か居ずらい空気を感じた。

 

 それを探る様に、視線だけでアインズ、デミウルゴスを見つめる。アインズは相も変わらず骨だったが、デミウルゴスの表情は、明らかに引いていた。ドン引きだった。

 

 ビクトーリアには理由が見つからない。

 

「どうしたのじゃ? 妾の顔に何か付いているのかや?」

 

 そんな疑問を口にするが、アインズの指が下を指し示す。

 

 ビクトーリアはゆっくりと下へと視線を向ける。そこには変わり無いふくよかな自分の乳房と、玉座の間の床があった。ビクトーリアは首を傾げた。

 

「?」

 

 不思議そうな表情のビクトーリアに、アインズが正解の言葉を投げかけた。

 

「ビッチさん。あんた何に座ってんの」

 

「え?」

 

 ビクトーリアは、自身の座っている椅子へと視線を向ける。

 

 自分の座っている椅子は? 自分の座っている物とは?

 

 その正体は、ナザリック地下大墳墓 守護者統括、そして、自身の妻であるアルベドであった。

 

 ビクトーリアの流麗な眉がピクンと跳ねる。

 

「アルベド」

 

「はい。何で御座いましょうか? あ・な・た」

 

「何をやっておるのじゃ?」

 

「椅子で御座いますが?」

 

 さも当然とでも言う様なアルベドからの返事。

 

 再びビクトーリアの眉が跳ねる。

 

「なーにをやっておるのじゃ!」

 

 言いながら、アルベドのむっちりとした色香漂う臀部を二度、三度とその手で叩く。

 

 その痛みに反応し、アルベドからはいやらしい声が漏れだす。

 

 これには、精神作用無効のアインズであっても引いた。ドン引きだった。何度も沈静化を繰り返す程。

 

「ビッチさん。…………あんたら何時も、そんなプレイを?」

 

 アインズから素直な感想が漏れる。

 

「する訳無いであろうがー!」

 

 ビクトーリアは立ち上がり反論の声を上げた。

 

「そうですわ! いつもではありませんアインズ様! 時々ですわ!」

 

 アルベドからも声が上がるが、どこかズレていた。

 

 残念な嫁に頭を抱えるビクトーリアだが、何時までもこんな馬鹿な会話を続けていても仕方が無い。抗議の声を上げるアルベドをアインズに任せ、自身は羊皮紙へと視線を注ぐ。

 

 書かれていた文言。

 

 略して言えば、王都を守った功績を讃え褒美をやるから王城まで来い、と言う物だった。それも、仲間の二人。ナーベラルとシャルティアの三人で。

 

「ふむ。素直に取れば、そのままの意味じゃな」

 

「ええ。私もそう思います」

 

 ビクトーリアの言葉に、デミウルゴスが答える。

 

「うぬの読みとしてはどうじゃ?」

 

「はっ! 意見を述べさせていただくとすれば、書かれていない文言に意味があるかと」

 

「だろうの。アインズ。これはなかなか悪意ある招待状じゃぞ」

 

 ビクトーリアの言葉に、アインズ、アルベドの言葉が止まる。

 

「え? 悪意あるって、褒美をくれるって事じゃ無いんですか?」

 

 驚きのあまり、魔王ロールを忘れるアインズ。だが、ここに居る僕はアルベドとデミウルゴス。そしてビクトーリアが居る。少々の間抜けな言動も許されるだろう。

 

「まあ、褒美はくれるじゃろうな。じゃが、その褒美が問題なのではないかや?」

 

 最もだ。

 

「デミウルゴス。うぬならばどうする?」

 

 ビクトーリアの問いかけに、デミウルゴスは本体、いや、眼鏡の位置を直しながら逡巡し

 

「私ならば、囲い込みますか」

 

「じゃろうな。妾も同意見じゃ」

 

「?」

 

 意味深な言葉を交わすビクトーリアとデミウルゴス。だが、当事者のアインズにはちんぷんかんぷんであった。第一、一介の営業マンに国の目論見を推理しろ、と言うのが酷なことである。

 

「簡単な報酬としては女か爵位、じゃろうな」

 

「ちょ! ビッチさん、爵位が簡単なんですか?」

 

「簡単じゃよ。爵位を与えて面倒な事は、領地を授与する事じゃ。土地が削られれば税収が減る。つまりは金子が減る。これは領主も土地持ちの王族も同じじゃ」

 

「ええ」

 

 アインズは了解の言葉を返す。

 

「じゃが、地位だけならば簡単じゃ。男爵であるとか、爵位では無いが騎士とかの」

 

「で、でも爵位ですよ? 特権階級じゃないですか」

 

 アインズの言葉に、ビクトーリアは口角を上げ

 

「言葉だけの爵位で、うぬ程の強者を抱え込めるのじゃ、安い買い物じゃろうて」

 

「………………」

 

 アインズは言葉を失う。ビクトーリアの言う通り、確かに安い買い物だ。

 

 それに加えて、爵位一つでナーベラルとシャルティアまで付いて来る。安いどころか、バーゲンセールの抱き合わせ放出だ。

 

「そ、それじゃあ、この話は蹴る、と言う事ですかねぇ」

 

「いや。乗ってやれ」

 

「「え?」」

 

 ビクトーリアの言葉に、場の三人が驚きの声を上げる。

 

「ビッチ様。不敬とは思いますが、意見を言わせていただきます」

 

 アルベドが口を開く。

 

「良い。申してみよ」

 

「はい。この王国の所業は、我らナザリックに、ましてやアインズ様に唾を吐き掛ける所業。許すべきでは無い、と思いますが?」

 

 ビクトーリアとしてもアルベドの言いたい事は解る。

 

 デミウルゴスに視線を移せば、頷きで返して来た。同意見、と見ても良さそうだ。

 

 だが、この場に居るのはビクトーリア。

 

 煉獄の王にして魔女なのだ。

 

 そう、ビクトーリアは意地が悪い。そして、優しくも無い。

 

「かかっ! 何も妾はアインズに恥をかいて来いと言うておる訳では無い」

 

「「え?!」」

 

「領地をくれるのならば、褒美をもらえば良い。そこを足掛かりになんとでもなる。そうじゃろ? デミウルゴス」

 

「さ、左様で御座いますが……」

 

 答えるデミウルゴスだが、何とも歯切れが悪い。

 

「王国の心積もりが、妾の想像通りだったならば……」

 

「「だったならば?」」

 

 三人の喉が鳴る。

 

「盛大に喧嘩を売ってやれば良いではないか」

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「では、アインズ・ウール・ゴウンには、報償として…………男爵の称号を与える」

 

 ランポッサ三世は、威厳ある声でそう宣言する。

 

「ほーう、男爵、か。それで? 領地はどこが貰えるのかな?」

 

 アインズの纏う空気が変わった。

 

 ガゼフや蒼の薔薇のメンバー達にはありありと解る。しかし、貴族達は?

 

「爵位を頂けるのに、領地までとは!」

「恥知らずのアンデッドが!」

「化け物の分際で、王に意見するとは!」

 

 口々に欝憤を吐き、侮蔑の言葉を投げかける。

 

 ガゼフは目の前に居る愚鈍な者達に落胆する。どれだけ愚かなのかと。

 

 一瞬で王都を焼き払う事が出来る者を前に、何を言っているのかと。

 

 アインズはゆっくりと貴族達に向き合い、右手を上げる。その瞬間、一人の貴族が飛び出し床に額を擦りつける。

 

「すまぬ! この者達は馬鹿で愚かな者達! しかし、王国に置いては地位ある者達なのだ! その怒り、私には理解出来る! だからこそ、何卒私一人の命で事を収めて欲しい!」

 

 アインズは許しを乞う貴族を、その虚空の瞳に映し

 

「貴公、名は?」

 

 興味深げに言葉をかける。

 

「レエブン。エリアス・ブラント・デイル・レエブン」

 

「ほう。貴公がレエブン候、か。良いだろう。貴公に免じてこの場は怒りを収めよう。しかしだ! 王も貴様らも良く聞け! このアインズ・ウール・ゴウン、爵位程度で買えると思うな! 私を買いたかったら、そうだなぁ…………王国一国を差し出すが良かろう!」

 

 




「アルベド」

「はい」

「何で妾は裸じゃったのじゃ?」

「…………就寝の際、何も身に纏わないのは、淑女の嗜みですわ」

「そうなのかや?」

「そうですわ…………くふふっ」


感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。