OVERLORD~黎明の魔女~   作:海野入鹿

6 / 9
出会い

「全く、胆を冷やしたぞ」

 

 ガゼフは横を歩くアインズに向かい、そうぼやいた。

 

「ふふっ、すまんな。貴族達の馬鹿さ加減にイラッと来てな」

 

 悪ぶれもせずアインズは言葉を返す。だが、本音の所では

 

(うわー、ホントに喧嘩売っちゃったよ。大丈夫なんだろうか? 何かあったら頼みますよ。クソビッチ(ビッチさん)

 

 である。

 

 そんな日常会話を楽しむ様に、王城の廊下を歩く一行の前に人影が現れる。

 

 その者は一行の中にガゼフを見つけ、丁寧に腰を折り、頭を下げる。ガゼフもそれに習い、同用の仕草で返す。

 

「戦士長殿、珍しい御仁との同行ですね。紹介しては頂けませんか?」

 

 その者は、アインズの姿に驚く事無くそう口にする。

 

 ガゼフは「無論」と短い言葉で了承し、両者の間に身体を置いた。

 

「アインズ。こちらはドロシー殿。王国の宮廷魔術師をなさっている方だ」

 

 ドロシー。

 

 アインズは虚空の瞳で、ドロシーと紹介された女を見つめる。

 

 鍔広の帽子を被り、蒼く長い髪。肌は病的に白く、まるで死者の様だ。胸は贔屓眼に見ても控えめでありながら、腰はくびれ妖艶さを匂わせる。スーパーモデルの体型、と言えば解るだろうか? 

 

 そして、美麗なビクトリア調風のドレスで身を飾っている。

 

 何故風と言う表現なのか? それは、ドロシーが纏っているドレスのフリルにあった。

 

 ひらひらの優雅なフリルの代わりに、彼女のそれは、全て南京錠と思われる物だったからだ。

 

 左肩から右の胸に走るラインは、掌ほどの大きさの南京錠が幾つも飾られ、腰を回る飾りには小ぶりな南京錠が。遠目で見れば、金糸による豪華なフリルには見えるだろう。しかし、そうしかしだった。

 

 アインズは、目の前の女に妙な気味悪さを感じた。

 

 その間に、ガゼフはアインズをドロシーに紹介する。

 

「ドロシー殿。こちらはアインズ。アインズ・ウール・ゴウン。先だっての王都襲撃の際、活躍した救国の英雄だ」

 

 その言葉に、ドロシーは神が創ったとさえ思われる美貌を湛える顔でニッコリとほほ笑み

 

「それはそれは。救国の英雄にこんな所で御会い出来るとは。(ワタクシ)はドロシー。性は無く、只ドロシー、と」

 

 言って、ガゼフにした様に腰を折り、頭を下げる。

 

「ああ。私はアインズだ」

 

 アインズも礼を持って言葉を返す。

 

「それで? ドロシー殿はどちらに?」

 

「王に呼ばれておりまして。ではアインズ殿、今日はこれまでに」

 

 別れの挨拶を口にして、ドロシーは一行の横を通り過ぎる。

 

 アインズ達も王城の外へと向け一歩を踏み出した。

 

 その時、不意に背後からドロシーの声が掛けられる。

 

「そうそう。ビッチ(ビクトーリア)に、猫がよろしく言っていたと伝えて下さいな、モモンガさん」

 

 瞬間アインズは振り向くが、そこには誰も居なかった。

 

「誰だ?」

 

「ん?」

 

 アインズの呟きに、ガゼフが首を捻る。

 

「ガゼフ。あの者は、誰だ!?」

 

 そう言ったアインズの声は、酷く緊張した物だった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 アインズが王都にて舌戦を繰り広げていた同時刻、此処ナザリック地下大墳墓でも緊張で息を詰まらせる者達が居た。

 

 場所は、第六階層 星青の館 書斎。

 

 そこに立つのは二人。

 

 ナザリック執事(バトラー)セバス・チャン。メイド見習のツアレニーニャ・ベイロン。そして、相対するのはビクトーリア・F・ホーエンハイム。

 

「忙しい所、悪いのう。ちいとばかり確認したい事があっての」

 

「御心使い感謝致します、ビクトーリア様。しかし、私だけで無くツアレまでとは?」

 

 セバスの礼儀正しい言葉遣いに、ビクトーリアは感心しながら本題を口にする。

 

「ふむ。ツアレのメイドとしての器量はどの程度じゃ?」

 

「ツアレの? で御座いますか?」

 

「うむ」

 

 セバスのオウム返しの問いに、ビクトーリアは頷きで返す。質問の意図は不明だが、意味を汲み取ったセバスは隠さず現状を言葉にする。

 

「約半分、と言った所で御座いますか」

 

「ほう。それは、ナザリックのメイドに対して、と受け取って構わぬか?」

 

「誠に」

 

 ビクトーリアの問いに、迷う事無くセバスは答える。

 

 ビクトーリアは僅かに沈黙し、再び言葉を告げる。

 

「ならば、市勢のメイドと比べれば、合格点では無いか」

 

「は、はあ」

 

 合格点。

 

 ビクトーリアの口からそう告げられ、セバスは何と答えたら良いのか解らなかった。

 

「ツアレは、料理は出来るのかや?」

 

「はあ、一般的な、庶民の食卓に上がる程度の物ならば」

 

 セバスの言葉に、ビクトーリアは大きく頷く。そして、ここからが本題であると目を細め

 

「ツアレを借り受けたい。どうじゃ? セバス」

 

「ツアレを? ビクトーリア様は、何をなさるおつもりで?」

 

 疑心を覗かせながらセバスは言葉を紡ぐ。だが、ビクトーリアの態度は邪気無き物だった。

 

「うむ。この度妾が面倒を見ておる者が、帝国の魔法学院へ赴く事になってのう。その身の周りの世話をする者が欲しいのじゃよ」

 

 ビクトーリアの言葉に、セバスは一度沈黙した後口を開く。

 

「それでしたならば、帝国でメイドを御雇いになっては?」

 

 正論だ。

 

「そうなのじゃろうが、その者は妾の事や、ナザリックの事を知っておる。あまり外へは漏れて欲しくは無いのじゃ」

 

 これもまた正論。

 

 御互いに「うむむ」と言葉が尽きてしまう。

 

 最終的にはツアレ自身が決める、と言う結論に落ち着いた。

 

 しかし、相手はツアレ。彼女の今までを鑑みれば、決めろ、と言うのは少々酷である。

 

 従って決定は保留。帝国へ赴く人物と会ってツアレが決める、と言う解決案に落ち着いた。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

~バハルス帝国 帝都アーウィンタール~

 

「いてて。馬車での長旅は、やっぱり腰にくるなー」

 

 そんな愚痴をこぼしながら、大きな鞄を肩に掛けた少女が乗合馬車から降りて来た。

 

 茶色掛った髪を片口で切り揃え、簡素な貫頭衣とズボンを身に付けた十代半ばの少女が。

 

 彼女はアーデルハイド・ベイロン。

 

 以前はニニャと言う偽名で、冒険者を生業としていた少女だ。いまだに親しい者達は、彼女をニニャと呼び続けているのだが。

 

 二十日程前、ニニャはスレイン法国法皇にいきなり呼ばれ、帝国魔法学院への入学を言い渡されていた。

 

「まったく。陛下はいきなりすぎるから」

 

 再び愚痴をこぼしながら、手に持つパピルスに視線を向ける。そこには、一つの住所が記されていた。そこが、自分の暮らす家であるらしい。

 

 だからと言って、住所が解れば場所が解ると言う訳では無い。何せ、ニニャにとって、帝国は未知の土地であるからだった。

 

「やっぱり、誰かに聞くのが一番かなぁ」

 

 そんな事を呟きながら大路を歩く。

 

 誰に声をかければ良いのか、立ち止まり周りを歩く人達に視線を巡らせる。

 

 しばらく観察を続けていると、前から冒険者風の二人組が歩いて来るのが目に入った。

 

 都合良く女性の二人組だ。買い物帰りなのか、手に紙袋を持っている。これは、この街を根城に活動している事を示している。ニニャにとっては、うってつけの相手であった。

 

「あの、すみません。お時間良いですか?」

 

「え? ごめん。宗教の勧誘なら間に合っているから」

 

 紫がかった髪をツインテールに結んだエルフの女性が、ぶっきらぼうに答えた。

 

「い、いえ。そう言う物とは違うんです」

 

 思いもかけない勘違いっぷりに、ニニャは慌てて口を開く。

 

「旅の人? 悪いけど、お金は貸せない」

 

 金髪の背の低い少女が続けざまに言う。

 

「いや、そうでも無いんですけど」

 

「「じゃあ、何?」」

 

 ニニャの曖昧な言葉に、女性二人の言葉が重なる。ニニャはほっと息を吐いた。やっと話が出来る、と。

 

「じ、実は道が解らなくて困っていたんです。この住所、知りませんか?」

 

 そう言って手に持つパピルスを二人に見せる。

 

 エルフの女性は、ぶっきらぼうにそれを受け取り目を通すと、横の背の低い少女に渡す。

 

「ど、どうですか?」

 

「知っている」

 

 背の低い少女が呟く様に答えた。ニニャはほっと息を吐き、安堵した。

 

「案内しては頂けませんか?」

 

 出来る事ならそうしてほしい。ニニャは祈る様な気持ちで言葉をかける。

 

「いくらで?」

 

「え?」

 

 思いも掛けない言葉が帰って来た。

 

「案内料、ですか?」

 

「そう。私達は請負人(ワーカー)。タダでは仕事をしないから」

 

 少女の発言に、エルフの女性が表情を引きつらせるが、言葉は発しなかった。何か事情があるのだろう。

 

 ニニャとしては結構引く発言だったが、背に腹は代えられない。懐に収めていた巾着から、銀貨を一枚取り出し差し出した。

 

 少女は驚きの表情を浮かべ、銀貨を受け取った。

 

「ありがとう」

 

 恥ずかしさと、申し訳無さが入り混じった様な表情でニニャに礼を言う。言ってはみた物の、本当に案内料を渡すとは思ってもみなかったらしい。

 

 だが、これで彼女らは仕事としてニニャを案内する義務が生じた事になる。ならば善は急げ、である。

 

 三人は連れ立って大路を抜け、住宅街へと歩を進める。

 

 道すがらで判明した事だが。エルフの女性は、実はハーフエルフであった。名は、イミーナ。少女の方は、アルシェと言うそうだ。

 

「へぇ。魔法学院へねぇ。そんで家まで用意するなんて、あんたの主人って貴族かなんか?」

 

 何でも無い様に言葉にするイミーナだったが、ニニャの表情は引き攣るばかりであった。

 

 貴族じゃ無いです、王様です。などとは、とてもじゃ無いが言えない。そして、その正体が伝説にある煉獄の王などとは、さらに言えない。

 

「い、いえ。そう言う御方じゃないです。何と言うか、好奇心が旺盛な方で」

 

「へーえ。酔狂な人もいるんだねぇ」

 

「はぁ。まあ。酔狂と言うか、お騒がせと言うか……」

 

 イミーナとそんな話を続ける中、不意にアルシェが口を開いた。

 

「でも、こんな家まで用意できるなんて、相当なお金持ちじゃない?」

 

 ニニャは首を傾げる。

 

 確かに、他人の為に部屋を借りるなんて、お金を持っている人の行為だろうが、アルシェの言い方は言い過ぎでは無いかとニニャは思う。たかが、いや、たかがと言うのもどうかと思うが、アパルトマンの一部屋を借りるのに、そんなに驚かれても。

 

「いや、アパルトマンの一部屋ですよ。アルシェさんは、何を言って――」

 

「一部屋って、あなた、何を言っているの! ここらにそんな物は無い!」

 

「え?」

 

 ニニャは、驚きの表情のまま固まった。

 

「ここら周辺は、かつて貴族の屋敷がひしめいていた、高級住宅地。そして、ここが、あなたの目指してた家」

 

 言いながらアルシェは眼前の屋敷を指差す。

 

 そこには、重々しい門がそびえ立ち、その奥には広大な庭が広がっていた。

 

 ニニャは思った。王国の地方貴族の屋敷より大きいんじゃないだろうか? と。

 

「い、いや、アルシェさん。何かのまちがいじゃぁ」

 

 ニニャはそう言うが、アルシェは首を横に振る。

 

 その時横から声が掛けられる。

 

「あなたがニニャ?」

 

 三人の視線が、声の主に注がれる。

 

 その者は、同性が見ても見惚れる程の美貌を持っていた。金糸の様な流れる金髪。色香を漂わせる、艶ぼくろ。上品な仕立ての衣服を押し上げる、豊満な乳房。そして、そこから続くくびれた腰に、むっちりとした肉付きが良い臀部。

 

 イミーナは知らず舌打ちをした。

 

 だが、声の主は気にも留めず言葉を続ける。

 

「初めまして、ニニャ。私はレイナース。レイナース・ロックブルズだ。君の護衛として、此処で一緒に暮らす事になっている。安心しろ。私は、ビクトーリア様の恋人でもある」

 

「「ええーーーー!」」

 

 三人三様の驚きの声が、高級住宅地に木霊した。

 

 




この物語中の、ニニャの本名はアーデルハイドとしました。
愛称はハイジです。

感想お待ちしております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。