「私はレイナース。レイナース・ロックブルズだ。君の護衛として、此処で一緒に暮らす事になっている。安心しろ。私は、ビクトーリア様の恋人でもある」
「「ええーーーー!」」
レイナースの発言に三者三様の驚きを表す。
「ちょ、ちょっと。レイナース・ロックブルズって言ったら、帝国四騎士じゃないの!」
「それに、ロックブルズ家の御令嬢」
「「あんた、一体何者なの!」」
イミーナとアルシェの驚きと混乱が、ニニャに突き刺さる。
しかし、何者、と聞かれてもどうにも答える事が出来ない。なぜならニニャは一介の
「え? ば、僕は、その……」
あたふたと慌てるニニャだが、二人の追及は収まらない。
その光景を見つめ、可哀そうになったのかレイナースが助け船を出す。
「そう攻めてやるな。彼女は只の学生だ。私と繋がりがあるのは、彼女の主人に当たる人物だ」
「で、でも! そんな人と繋がりがあるなんて!」
レイナースの言葉にイミーナは引き下がったが、アルシェは食い下がる。
ニニャもレイナースも疲れた様な表情を浮かべる。一体何と説明したら良い物か。
「ちょっと、アルシェ。あんたガッつき過ぎよ! 彼女とは初対面なの忘れてない?」
「あ!」
イミーナにたしなめられ、うつむくアルシェ。
「ご、ごめんなさい」
良く見れば、耳まで真っ赤だ。どうやら、我を忘れて問い詰めていたらしい。
そんなアルシェを見て、何か理由が有るのだろうとニニャは推察する。只の好奇心からでは無いだろうと。
この事を最後に、イミーナとアルシェは去って行った。
それを名残惜しそうに見つめるニニャに
「友達になれそうか?」
レイナースが優しく語りかける。
「どうでしょう。立場が違いますから。でも……」
ニニャは最後まで言葉にしなかったが、レイナースにはこう聞こえた。
この出会いが彼女ら、チーム フォーサイトの運命を大きく変える事になるのだが、それはまだ誰も知らない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「で、どうじゃった?」
王都から帰還したアインズに、ビクトーリアが最初に掛けた言葉がコレだった。アインズの執務室に備えられたソファーにどっかりと座り、まるで挨拶をする様に。
「え? 帰って来たばかりでソレ?」
不満を口にするアインズだったが、相手はビクトーリア。口喧嘩で勝てる相手では無い。
「何じゃ、モモンガさんは、妾にお出迎えして欲しかったのかや? しかたないのう。お帰りなさい、モモンガさん」
優しく、にっこりと少女の様な無垢な笑顔で言葉を紡ぐ。
「うーむ。やっぱりいいです。何か気色悪いですから」
あっち行けとばかりに、掌を振りながら言葉を返すアインズ。
失礼な言葉だった。だが、失礼も無礼も二人の間には存在しない。もうこれは、恒例行事と言っても良い物だから。
「で、どうじゃった?」
「はぁ。最初に戻るんですね」
「それ以外に何がある? 優しい言葉でも掛けて欲しいのかや?」
「いいです。気持ち悪いですから」
「ふむ。で、どうじゃった?」
「繰り返しますねぇ」
「そうかのう? ならば、モモンガさんは優しい言葉でも――」
「止め―い!」
どうどう巡りだと。
アインズは溜息を吐きつつもビクトーリアの正面に座り経緯を口にする。
「ビッチさんやデミウルゴスの言う通りでしたよ」
疲れた様に経緯を口にする。
「ふむ。褒美は?」
「ビッチさんの予想通り男爵でした」
アインズの説明を聞き、ビクトーリアは持参したコップに口を付ける。
「で、どうしたのじゃ?」
「ビッチさんの言う通り、喧嘩を売って来ましたよ。盛大に」
アインズの言葉に、ビクトーリアの頬が引き攣る。
「どうしました?」
「本気にするとは、思わなんだ」
カクン! とアインズの顎が下がる。
「お、おま……どうするんだよ!」
「……どうしよう」
口に手を当て、可愛らしく返すビクトーリア。
「こ、このアホがーー! 責任取れよクソビッチ!」
「はあ? 後先考えずに行動を起こしたのは誰じゃ! からっぽ骸骨!」
「なんだと!」
「なんじゃ!」
御互い胸倉を掴み、睨み合う超越者達。
表情は厳しく、手には力が込められる。
最早決戦は必至。
「ま、王国程度どうにでもなるじゃろ」
「そうですね」
しかし、ビクトーリアの軽口でお互いの手が離れる。
落ち着きを取り戻し、両者はソファーへと腰を降ろす。
「そうだ。ビッチさんに伝えなくちゃいけない事があるんです」
アインズの言葉に、ビクトーリアの眉が跳ねる。言葉からして、愉快な物では無いと解る。
ビクトーリアは姿勢を正し、アインズに話を促す。その姿勢を見て取り、アインズは王城で出会った女の事を語る。
「ドロシー、か」
「ええ。ビッチさん、何か心当たりは有りませんか?」
アインズの問いに、ビクトーリアは一度コップに口を付け喉を潤す。
「ドロシーと言う名に心当たりは無いが、猫、にはある」
アインズは、喉がゴクリと鳴った様な気がした。
「妾の事を識っていて、さらに猫と名乗る者など妾は一人しか知らん」
「それは?」
「アーバレン・スラウ・ヴァーミリオン。魔女の夜明けの一人であり、ギルド
「崑崙って、トップギルドの一角だったギルドじゃないですか!」
アインズは、驚きを顕にする。
「うむ。あ奴はギルドマスターであったが、ギルドよりも私欲を優先する奴でのう。ま、崑崙と言うギルド自体そうなのじゃが」
ビクトーリアの言葉に、アインズは頷く事で話を促す。
「その私欲の為に、魔女の夜明けに参加しておったのじゃよ」
「ビッチさん。その、アーバレンの私欲って?」
アインズが疑問を口にした瞬間、ビクトーリアの眉が跳ねる。それはそれは不機嫌そうに。
「アインズ。あ奴をアーバレンと呼ぶで無い。あ奴の名は、アバズレじゃ。それ以外の名で呼ぶでは無い」
アインズは心の中で理解した。仲、悪かったんだ、と。
(そう言えば、アーバレンもビッチさんの事ビッチって言ってたしなぁ。それにしても、ビッチにアバズレ。どんなクランなんだよ。おいビッチ。何じゃアバズレ。殺伐とし過ぎてるぞ、そんな日常会話。他のメンバーも、きっと酷い呼び名なんだろうなぁ)
「聞いておるのか? アインズ」
失礼な想像をしているアインズに、ビクトーリアの御叱りが飛ぶ。
「え、ええ。聞いてます。聞いてます」
「それで、あ奴、アバズレの私欲なのじゃが、世界の起源を知ることじゃ」
「世界の起源?」
オウム返しに言葉を重ねるアインズに、ビクトーリアは一度頷き
「左様。YGGDRASILと言うゲームの起源では無く、YGGDRASILと言う世界の起源、をな」
「あるんですか? そんな物。あれは架空の世界でしょ?」
「わからん。じゃが、アバズレは、有る、と信じて情報を集めておった」
アインズは黙りこみ、ゲーム時代の事を思い出して見る。だが、答えには行きつかなかった。
そこに、再びビクトーリアが口を開く。
「思いだして見よ。妾達は神を殺した。神の願いで事を成した。聖なる者、悪しき者。様々な者に触れて来た。そして、妾の隠し種族のクエスト。あれは、神々の時代の前の物じゃ。とすれば……」
「世界が産まれた情報がどこかに……」
「そう言う事じゃ。あの、頭の壊れた運営ならば、きっと、とな」
「成程」
アインズは頷き、話を飲み込む。
「……やっぱり居たんですね。俺達以外の人達」
アインズの言葉に、ビクトーリアはポカンとした表情を浮かべる。
「何じゃ、モモンガさんは知らなんだのか?」
「何がです?」
「結構おるぞ。妾達の様なプレイヤーは」
「は?」
ビクトーリアの言葉に、再びアインズの顎がカクン、と下がる。
「六百年前にスレイン法国に降り立った六大神。五百年前に猛威を振るった八欲王、二百年前に現れたと言う十三英雄と呼ばれる者達。探せばもっとおるじゃろうな」
「六百年前、五百年前、二百年前ですか。四百、三百、百年前はどうなのでしょう?」
アインズの問いに、ビクトーリアは仮説なのじゃが、と前置きをし言葉を紡ぐ。
「百年毎、と言うのが真実ならば、きっと来ておるじゃろうな。もしかすると、アバズレの狙いはそこにあるのかも知れん」
「俺達と敵対する事は無い、と?」
アインズの指摘に、ビクトーリアは首を横に振り
「解らん。アバズレの考えておる事など知りとうも無い。じゃが、監視はせんとな」
「じゃ、じゃあ、デミウルゴスに命じて――」
「いや。責任者は二グレドにせえ。あ奴に世界を監視させるのじゃ」
「で、でも、俺達と同じ存在なら、情報の隠ぺいとかしてるんじゃ……」
そう言いかけたアインズに、ビクトーリアは意地の悪い笑みを向ける。
「それが目的じゃよ。ニグレドで見れん所を探すのじゃ」
ビクトーリアの言葉、アインズは成程と相槌を打つ。流石は、性格が悪い人間の考える事は、意地が悪い、と。
「国の蔵書などは、妾がスレイン法国を通じて調べさせよう」
「大丈夫なんですか?」
「何がじゃ?」
「い、いや。随分と法国を信用しているみたいですから」
アインズの言葉に、ビクトーリアは虚を突かれた様な表情を映す。
「そんなに法皇って信用出来る人物なんですか?」
酷く根源的な疑問に、ビクトーリアは腹黒い笑みを浮かべると
「無論。あれは、妾が信じて疑わん人物じゃ。近いうちにナザリックへと使者が参るであろうよ」
「へー。俺と会っても驚きませんかねぇ」
そう言うアインズに、ビクトーリアはふふんと笑い、「さあの」と言葉を濁すのだった。
さて、難しい話も此処までとビクトーリアは手をパチンと鳴らす。
「さて、モモンガさんや。明後日の事は覚えておるかや?」
言われアインズはその事を思い出す。
「ツアレの働き先の事ですよね」
アインズの答えに、ビクトーリアは大きく頷く。
「でも、俺が行かなくちゃいけない事なんですか?」
ビクトーリアが、アインズに伝えた事はこうである。
帝国にツアレが出張する。
それに対し、働く場所を一緒に見ろ。
簡単に言えば、そう言う事。
「当然であろう。あそこは、ナザリックの出先機関でもあるのじゃぞ。うぬが直々に見聞せずどうすると言うのじゃ」
「ま、まあ、そうですけど」
煮え切らない態度のアインズに、ビクトーリアが一喝する。
「大体、転移門で一瞬じゃろうが! つべこべ言わずに行け!」
正論だった。ぐうの音も出無い。
「う、うう。解った、解りました! 行けば良いんでしょ! 行けば!」
子供の様に言い返すアインズ。その言葉を聞き満足したのか、ビクトーリアは一度頷き
「では、妾は先に帝国に行っておる。明後日、忘れるで無いぞ」
念を押す様に言葉を繰り返す。
「はいはい」
軽く言葉を返すアインズ。
「返事は、はい!」
御叱りが飛んだ。
そんな馬鹿な会話を最後に、ビクトーリアは退室して行った。
「ふーぅ。転移門で一瞬? 確かにそうだろうけど…………絶対にそれだけでは終わらないでしょうに……そうでしょ
感想お待ちしております。