ブリッジ・イン・ザ・セイバー   作:八堀 ユキ

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ジェイス・スケル (2)

 スケル財団のそばまでくると車を乗り捨て、さっそくノマドはドローンを飛ばして情報収集を開始する。

 こいつは傷ついた部下のお気に入りだが。困ったことにノマドは使い方はわかってはいても、その操作の手つきはかなり乱暴だ。貸した相手が目の前にいたらきっと悲鳴を上げて取り上げただろう。それでもまぁ、一応役には立っている。

 

 島で配られているパンフレットによるとこの2棟からなる施設はスケルテックの管理部門のひとつであり、どうやらスケル本人の偉業を称える広報も担当していたようだ。そこにいる社員の姿も多く、兵士達を見ないようにこんな状況の中でも働いているのを見ると泣けてくるものがある。

 兵士以外の死体を積み上げるのは抵抗がある。

 

「彼らを逃がす暇はない、ノマド」

「わかってる、雷電――つまり俺達は彼らの前でやることになる。騒ぎになるな」

 

 ボリビアでの、キングスレイヤー作戦にあった最悪の状況がいくつも思い出される。

 一般市民へ最低限の配慮した程度の作戦――自分と自分の部隊は難しい任務をこなし、誰も傷つけなかったと胸を張ることは出来たが。それを事件として伝えるラジオから知らされる死亡者の数はゼロだったことはなかったし、その結果に楽しくない思いが常に付きまとった。

 わかってる、市民の前にしての銃撃戦とはそういう事なのだ。

 

「怪我人も時間もかけたくない。シンプルにやろう」

「どうする?」

「今回は一緒に入る。ただし俺は屋上の2人、スナイパーをやる。雷電、お前には他のを任せた」

「――少し時間がいる。タイミングも重要だ」

 

 この少し、というのが鼻につく。

 雷電には当然のようにできて、そしておそらくノマドの助けは必要ないという響き。何度聞かされても腹が立つ。そしてそれは事実でもある。

 

「地下施設への入り口を探せ。もし騒ぎがおこったら――」

「助けてくれるんだろ、有名人?」「……頑張れ。そっちこそ幽霊なんだろ。あっちじゃ俺に子守をされたくないと言ってただろ」

 

 雷電の顔がフフンと笑っていた。

 

 

 視野が狭い裏から侵入して建物に入るまで105秒。

 最後に見た雷電は、首を失った4人目の犠牲者を地面に転がしていた。まったく伝説の男は重武装を解いても仕事が早すぎる。

 

 頭を振ると、自分の仕事に取り掛かることにした。

 人の目がない階段から素早く屋上に立ち、背後からスナイパー達を撃って片付ける。そこから俺は何事もなかった顔で仕事をしているスタッフのいるオフィスへ降りていく。

 

「なぁ、ちょっといいか?」

「……な、なんでしょうか?」

「ここにある地下施設について教えてもらいたい。ジェイスに会いに来た」

「え、えっ!?」

「ああ、怖がらなくていい。もう一度言うが、俺はフォックスに頼まれて、ここにいるというジェイス・スケルを迎えに来た。彼はセンティネルから逃げているんだろ?俺は、俺達は、彼を助けに来たんだ。わかったか?」

 

 社員たちの表情に戸惑いが見える。

 まだ信用されないか。だが、彼らからなんとか聞きださないとまた雷電の”秘密”に頼る羽目になる。

 

 

 昔からの馴れたやり方で、背後から締め上げると数秒で相手の身体から力が抜ける。

 違うのは離れる前にナイフで寝息をたてているその喉を切り付けてから離れるということか。雷電は相手の身体をはたく程度の動きでさっとそれをしつつ、もう片方の手で力の抜けた体を横にして静かにその頭部を優しく地面に置く。

 

 

 周囲を確認すると、その鋭いまなざしは次の獲物である兵士の姿ではなく、不幸にもこちら側に来てしまい。恐ろしいはずの兵士があっさりと屠られる一部始終を見てしまった若い眼鏡をかけた女性が両目を開いて立ちすくんでいる姿だった。

 雷電が女性に向けて唇にそっと指をあてて静かにするように合図をおくると、相手は頷いてくれた。よかった、騒がれるのだけは御免だった。

 

 続いて両手で来た道を戻れ、とやると女性は数歩だけ後ずさりし。そこからクルリと反対方向を向いて素直に去っていってくれた。

 あと数分待ってくれればどこにいても安心できるようになるはずだ。心の中でそう彼女に伝えたかった。

 

『何だよ雷電、あれはあんたの胸の中で寝かせてもよかったろ。ギューッとさ、コロッと眠るんだぜ』

『キング!?』

(やれやれ)

 

 チェスのキングの駒をイメージに持つもう一人のフォロワーからの言葉に、クイーンは非難の声を上げる。

 

「それならキング。彼女が元気な兵士達に俺のことを知らせないように見てくれ」

『もうやってる。あの女、カフェインジャンキーかもな。販売機でコーヒーなんか買ってるぜ?のん気だよなぁ』

 

 確かに変わってる女性だ。でも騒がないなら好きにしてくれて構わない。

 

「ふぅ、あと何人いる?」

『わかってるだろ?もう10人もいねーよ、あんた強すぎるんだ。この調子だからちっとも撃ち合いにならない』

「ないさ。いつもそう言ってる」

『またガンアクション無しか。盛り上がらねーよ』

 

 不謹慎なフォロワーの愚痴は半分も聞いていなかった。こっちはそんな暇もない。

 次は並んで歩いている2人組。

 振りかぶってナイフを片方の後頭部めがけて投げつける。

 

 なにやら雑談を交わしながら巡回していた彼らだったが、片方の首に後方からナイフが貫き。何が起きたのかを理解しようとして刃物の部分を触れながら崩れていく――。

 隣にいた相棒は驚き、すぐに襲撃だと悟るも思わず反射的にまず敵の姿を求めてしまう。遅い、彼の相手はもう背後に迫ってきている。

 

 侍ソードをドスのように腰だめにして突っ込む雷電は。そのままの勢いで慌てる相手の腹腔に刃を突きこみ勢いよく突き飛ばした。「ハウッ」と奇妙な声と共に肺腑に残った酸素が口から血と共に流れ出し。その肉体は宙に浮いてから地面に倒れ込む。

 刀についた血脂を薙ぎ払って振り払う。

 

『マジかよ、雷電。アンタ』

「……」

 

 冷酷に敵の命を奪う――今の雷電ならそれが出来る。とてもたやすく。

 だがその行為にわずかでも喜びは、ない。

 

 これで脅威は取り払われ、危機も去ったはずだった。

 だが張り詰めた空気の中、クイーンが『雷電、まずいことになったわ』と新たな脅威の出現を発見してつぶやく。

 

 

 

>>>>>>>>>>

 

 

『ノマド、終わったぞ』

「こっちもだ。正面玄関で合流しよう。時間がない」

 

 端末から目を上げると、社員に礼を言い。皆にしばらく騒がしくなるが、”誰か”がやってきたら「気が付かなかった」「何もできなかった」と言えとノマドは伝えると部屋を出た。幽霊が一般人に言い訳を教えるなんて、まったく笑い話だろうか?

 

 階段を下りるとすでに返り血をわずかに浴た雷電はコチラを待っていた。

 

「こっちだ、ノマド。この先から地下に行ける。スケルはそこだ」

「探偵ごっこは終わったな。ところで建物の上から地下へは連絡手段はなかったぞ」

「そうなると直接、俺達が行くしかないのか。彼は俺達の話を聞いてくれるだろうか?」

 

 説得する?殺人鬼のくせに随分とお優しいことだ。

 

「奴の好き嫌いは気にしない。どうせ俺が連れて行くんだからな」

「なら急ごう。トラブルのようだ、すぐにここにウルブスが来る」

「ウルブス?ウォーカーか」

「それはわからない。だが部隊が来る。警報は反応していなかったはずだが、いきなりセンティネルから出撃の要請が出てここに様子を見に来るようだ」

 

 確かに悪い情報だった。そしてそんなことをついさきほどまで自分以上に殺していた雷電がなぜ知っているのか、やはり説明はない。

 雷電は押し黙ったままだが、それは自分のフォロワーたちから新しい情報はないかを待っての事だった。残念ながらなにもない、彼らは沈黙したままだ。

 

「地下施設は予想以上に大きい。地上でウルブスの相手をしていたらスケルが逃げてしまうかも」

「どうする、ノマド?」

「……チャンスはもう逃したくない。ウルブスと遊ぶことより、優先させることがある。少なくとも今は」

 

 言ってるそばからエンジン音を響かせて2台のバギーが駐車場に突入してくるのを確認した。少し慰められるとするなら、あの中にウォーカーが乗ってはいないはずだと信じられそうな気がすることだ。

 そう、もし奴がアレに乗っているなら。俺の優先順位はこの島に上陸してから変わっていない。黙っていられないだろう。

 

 

 ノマドが苦々しさから慰めを得て、集中力を高めようとしているちょうどその頃。ウォーカーは連絡して合流したばかりの部隊と財団本社から約1キロほど離れた場所にいた。新しい自分の知らない状況の変化を知ったばかりでもあった。

 

「うちの部隊が?なんであそこに?どういうことでしょうか?」

「……ストーンの奴だ。おいおいおい!どうしてか奴ら、スケルの事を知ったんだ」

「そんなこと――まさか!我々の中の誰かが?」

 

 部隊の中に近づいてきて「味方だ」と聞いただけで口が軽くなる奴がいたということか。もっと怒ってもいいはずであったが、ウォーカーは皮肉な笑みを浮かべた。

 

「可能性はあるし、だとすればあそこにむかった誰かだろうな。不愉快な話だ」

「どうしますか、ウォーカー大佐?」

「少し意外な展開となったが。このまま作戦を続行しよう。修正を入れて、ストーンの顔をうかがってた馬鹿共には好きにさせてやろう」

「連絡は?」「なぁ、わかるだろ?しなくていい。ゴーストをここで見つけたら何をするか、俺はすでに命じてある。あとはあいつらが飢えて目的をやり遂げるだけでいいんだ――おしゃべりでもウルブスならばできるだろう。それができないなら……俺の部隊にはそもそも必要ない。ストーンの犬であればなおさらな」

 

 これは賢いもののすることではない――だが、どうしても確かめておきたいことだった。

 ゴーストリーダー、ノマド。

 古い友人、名誉を知る男、不可能を可能にしてしまう、そんな目を見張る力を持っている。そして愛した米軍に恨まれた自分を最後まで助けようとしてくれた恩人。

 だが奴もまた現在の状況が間違っていることは理解している。

 

 そうあいつだって本音では理解しているはずだ。

 もうゴーストに未来はない、という事を。

 

 

>>>>>>>>>>

 

 

 駆けつけたウルブス達はすぐに状況を理解した。

 倒された兵士達はそのままに警報だけスイッチを入れ、”彼らが知るはずのない”地下施設へといきなり突っ込んでいった。

 

 だがそれはノマドと雷電にとっては想定内のことだった。

 彼らは施設の奥深くへと先行などせず、侵入してきたウルブス達をやり過ごすと逆にこれの後背から襲い掛かって崩しにかかった。

 

 ゴーストリーダー、伝説の傭兵。彼らが持つこのふたつ名は決して伊達ではなかった。

 ウルブス達が自分達が罠にはまったのかも、そう感じた時には終わっていた。

 

 血刀をふるって通路から堂々と入ったかと思えば、撃たれても涼しい顔で近くの柱の陰に隠れる雷電。

 音もなく動き続け、射線を得るとそれで終わり。まさしく幽霊のように気づかれず、誰にも抑えることを許さないノマド。

 人数こそ多かったものの、数部屋に分かれて探索をおこなうウルブス達は自分たちに何が起こったのか理解できないまま死んでいく。狩る側がどちらなのか、疑問の余地などまったくなかった。

 

 ひと段落つくころ、雷電の視野にキングのマークが拡張現実の力で飛び込んでくる。

 かなり乱暴な行為だ、普段なら許さないことだ。

 

『スゲーよ!もう鳥肌モン、あっという間だったよなぁ。そのノマドってのも悪くなかったぜ』

『キング……もう』『クイーンも見たろ?マジで……』こっちはまだ終わってない、はしゃがれては癇に障った。

 

――敵は?スケルは?

 

『見たところ追加はいない。でも急ぐんだな、きっと警報で真っ赤になった連中。そこに殺到するだろうし』『キングの言う通りよ。あとジェイス・スケルはそこにまだいるはず。誰も出ていない。おそらく警報には気が付いていると思うけど、動けなかったと思う』

 

 わかった、短くそれだけ答える。

 

「終わったな」

 

 ノマドとはそれだけ確認すると、施設の奥へと揃って足を踏み入れた。

 クイーンの予測は正解だったようだ。きっと警報で外を確認し、自分に逃げ場がないとでも思ったのだろう。

 研究室のひとつ、机の下で震えている男はすぐに見つけることが出来た。

 

 世界に知らぬ者のいない天才、ジェイス・スケイル。

 今の彼は子犬のように隠れて震えていた。

 

 雷電は思わず笑みを浮かべてしまった。

 兵士が訪れると科学者は怯えていた――似た話を思い出したのだ。

 あのスネークとオタコンはちょうどこんな風にシャドーモセスで出会ったと聞いている。何度聞かされてもおかしな出会い方だな、と思っていたが。どうやら兵士と研究者はこういう出会いをするという運命にあるようだ。とうとう自分も体験することが出来た。

 

 

 てっきりノマドは激してスケルを怯えさせてしまうかと思ったが。意外にも真摯に対応し、彼にどうするかを決めろと静かに問いかけた。

 面倒なことにならないとわかって少し嬉しい。

 

――雷電っ!!

 

 いきなりキングとクイーンの声がハモッた。警告だ、それも最悪のもの。

 すぐに何が起きたのか説明が来る。

 

『まずいわ!これは最悪っ』

『雷電、またウルブスだ!もう駐車場を出た、そっちに向かってる。どこでなにがあったのかわかってるみたいだ、あんたのいるところまですぐにやってくるぞ。あと奴らの中にウォーカーもいた、確認できた!これはマズイって!!』

 

 十分だった。

 

「ノマド、スケル。時間がない――」

「ああ、俺が来たからなぁ!」

 

 声と共に室内に複数のスモークグレネードが同時に投げ込まれてきた。

 

「くそっ」「こっちに。そこは一方通行だから」

 

 スケルの案内で3人は出口と反対のさらに奥の部屋へと入り、電子錠の鍵をかける。

 

「追い詰められたぞ。大丈夫か?」

「ここは防弾ガラス、扉は鍵をかけた。あいつらでも簡単には入ってこれないはずだよ」

 

 ノマドとスケルの言葉が全てだ。警告は間に合わなかったか。「そうだといいが」雷電はそう答えつつも、次はどうすればいいかを考え始めている。

 

「出口は――」

「あの声。さっきのはウォーカーだった。ウォーカーが……」

 

 ノマドは止まっていた。

 せっかくプロとして感情を押し殺してきたが。憎む相手の声を聞いた今、どこまで理性的であってくれるだろうか。

 一瞬だけ、俺はノマドを促して先に進むべきだと伝えようか考えた。

 だがやめた――ノマドは仲間だが、味方ではないかもしれない。

 

 システムが室内の異変を感知し、換気扇が回る音が始まった。白煙は徐々に薄まっていく中、「涙が出るな」と言いながらウルブスを率いたウォーカーが部屋に入ってきた。鏡を隔ててお互いがようやく、そして初めて対面する。

 

「ウォーカー、本当にお前なんだな」

「ノマド、久しぶりだな。こんな時だが元気そうで何よりだ」

「ああ、おかげさまでな」

「んん。実は俺達。共通の友人からお前のことはずっと聞いて知ってはいた」

「っ!?」

 

 ウォーカーが率いるウルブスの中で、はっきりとゴーストと分かる男がいた。ジョサイア・ヒル、ノマドと同じく今回の作戦で共に多くの部下を失ったはずの男。だが彼はいつの間にか鏡の向こう側に、ウォーカーの背後で従っていた。

 裏切り者はひとりではなかったということらしい。

 

「ジョサイア、お前――」

「ノマド、お前もウォーカーと話をしてくれ。俺達は戦う必要はない」

「なんだと!?正気か?」

「話せばこうなったのは奴のエゴではなかったとわかるはず。ウォーカーのやろうとしていることには正当な理由があったんだ」

「俺の部下を殺した。お前の部下も!ジョサイア、そいつは卑劣な裏切り者だ!」

「お前の怒りはわかる。だが冷静になってくれ、お前もきっと彼の考えを理解できる。お前は自分の間違いを認めるべきだ」

「俺が間違ってるだって!?そこにいる狂った男からなにを聞けっていうんだ」

「ウォーカーには世界をよくする計画がある。それはもう始まっている、この場所で。彼は革命をおこそうとしているんだ。俺もウォーカーもお前もこっちに来るべきだと考えてる。そうだろ?俺達が力を合わせることが正しい事なんだ」

 

 話にならない!

 まるで宗教家と信者から説教されている気分だった。一方でウォーカー自身はノマドの隣に立つ男を見つめていた。

 

「……驚いたな、雷電か。あの!」

「やぁ、ウォーカー。覚えていた?」

「もちろんだ、友よ。キングスレイヤー作戦、あのクソったれな国で俺もアンタの世話になった……そうだ、あんた今はまだ傭兵だったよな?それなら俺と組まないか?悪いようにはしない」

「契約書なしではサインはしない。それに任務中の契約変更はトラブルの元だ。なんなら改めてオファーをくれ、それまではよく考えておくよ」

「そうか、なら好きにしたらいい」

 

 雷電との話を切り上げるとウォーカーは雷電に向き直る。

 

「ウォーカー、お前!裏切ったな?なぜウィーバーを、俺の部下たちを殺した!」

「まだそんなことを聞くのか?答えを知ってどうする」

「キングスレイヤー作戦!あの時、お前は自分の部下のために行動しただろ!あれは仲間のためだった。それが、そんなお前がどうしてっ」

「……わかってないな。ノマド、まったくわかっていない。どうしてそんなに鈍くいられるんだ、お前?」

 

 そういうとスケルが座っていた椅子にどっかと座る。

 そしてウォーカーは抜き放った愛用のリボルバーに弾丸を込め始める。

 

「いいか!?俺は――俺達は自らの意思で兵士となった。そこにある思いは全員が同じものだった。

 ところが!!お前がまだ仕えているヤツらには戦いに必要な信念ってやつに欠ける。いや、ないんだろう。なぜなら奴らは俺達に作戦を押し付けている裏で、ウォール街の馬鹿どもの仕事ぶりや政治をこそ気にしているからだ。

 あいつらはそんなことをどれだけ続けていると思う?歴史の勉強などやるつもりはないが、俺はもうそんなのに付き合うのは御免なんだ」

「……」

「そこにいるそいつ。ジョイス・スケルを俺に渡せ。そして俺達と共に来い、ノマド。

 国のために正しいことをしたいと本当に思うなら、まずそこからこっちに出てくるしかない」

「何を言い出すんだ」

 

 ジョイスが慌てて「引き渡すのか?」と聞いてしまい、雷電は「いいや」とすぐに答えた。

 遅れて数秒、ノマドも答えた。「そんなことは考えてない」と。

 

――決裂、だな。

 

「お前は変わらないなぁ。いや――」

 

 立ち上がるとウォーカーはガラス越しにノマドに、彼の顔の前にリボルバーをつきつける。

 

「ああ、そうだ。おまえはいつだってそういう奴だった。残念だよ」

 

 防弾ガラスは一発目の銃弾を止めたが。ウォーカーはお構いなしに撃ち続けた――。

 

 

 防弾ガラスは耐えてくれるかもしれないが、部屋がいつまでも3人を守ってくれるとは思えなかった。

 ジョイスをノマドが元気づけている間に、雷電はそっと自分のフォロワーたちに助けを求める。

 

――キング、クイーン。マズい状況だ、助けてくれ。

『ああ、まかせろって』

『聞いて、雷電。そこからの脱出するルートはひとつしかない。だけどそこは――』『時間が惜しいんだクイーン。いいか、雷電!今からそこを通って外に出てもらう、だがそこは毒ガスが充満してたが。今は大丈夫だ』

――毒ガス?大丈夫とはどういうことだ?

『違うの!肺に吸い込まなければ大丈夫って意味。成分を変えたからガスは皮膚に触れても大丈夫。でも絶対に――』

 

 これからやることを思うと思わず呼吸を意識してしまう。

 

 ジョイスはそこには毒ガスが充満していると叫んで絶望する表情を浮かべたが、雷電は構わずにノマドにそうしようと詰め寄った。

 まだショックを引きずってはいたものの、ノマドは雷電の意見を素直に受け入れる。

 ジョイスは「待って!こんな死に方は嫌だ」と泣き出したが、ノマドが強引に毒ガスの中へと放り込んで先導させ。自分達も後に続いた。

 

 

>>>>>>>>>>

 

 

 進入禁止エリアを突破すると、ジョイスは興奮していた。

 

「凄い!これは奇跡だよ。こんなことができたなんて、考えられない!」

「……ああ、そのようだな」

 

 ノマドは横目でちらりと雷電を見た。

 ピンチは今は一転し、逃げる最高のチャンスへと変わっていた。出てきた場所はどこかの地下倉庫のようだった。

 

「それでこれからどうするんだい?ウォーカーも追ってくるかもしれない」

「このまま脱出する――が、ちょっと待ってろ」

 

 ホルトから渡された彼の装備。ドローンを起動して地上に見える入り口へと近づく。

 そこから外を窺うと出口の外で挟むように、左右に数名のウルブス達が配置されているのがわかった。

 

「右手の奥に2人、手前の左にある車のそばに3人。ウルブスだ」

「そんな……」

 

 ウォーカーは恐らく地下で押さえられなかった時のためにあらかじめここを調べておいたのだろう。

 実際、彼の考えは正しかったわけだが。そう考えるとスケル捕獲レースは間一髪で自分達が先につけたというわけか。

 

 そして今はまだ、こちらのリードは続いている。恐らく誰も下から上がってこないと勝手に確信しているのだろう。外にいるウルブス達はまったく警戒しているそぶりを見せていなかった。

 位置関係は理想とは程遠いが、彼らを全員倒すなら今しかないだろう。

 

「ジョイス、心配ない。なんとかする」

「雷電――」

「ノマド、スモークで飛び出す。奥にいる2人はあんたに任せる。俺は残りの3人を」

 

 警戒を口にしつつ、片膝をつくと雷電は床に複数のスモーク・グレネードが並べてからそのひとつ握る。ノマドも隣に座りながらライフルのチェンバーをチェックし、グレネードにも手を伸ばした。

 言葉は必要ない、交わす視線が何かを伝えあう。数秒で結果は出る、最悪なら――そうはならない。

 

 

 裏口を見張っていたウルブス達は気を抜いていたかもしれないが――弛緩しつつもその目は確かに出入口にむけられていた。

 

 ところがそこからモクモクと白煙が立ち昇ると、霧の中で動きがあったように見えた。すぐに警戒し、銃を構えて身を隠すが、まだ発砲はしない。

 人の姿を見たと、はっきりするまでは。

 

 スモーク・グレネードを放り出すとすぐに雷電は飛び出し。あろうことか建物の屋根へと器用に逆上がりの要領で消えた。

 ノマドはそのまま残りのグレネードを放ると、ライフルを握って息を止める。幽霊の出番が来た。

 出口から駆け足で飛び出し、引き金を引く。

 

 タタン、ダダン、ダダッ!

 

 森の中を不規則に発射音が短く重なる。

 記憶に頼っての行動だったが。2人分の体が崩れ落ちた気配を感じた。

 

「クリア。雷電?」

「――こっちも終わった」

 

 白煙の中から人外の跳躍を見せた雷電は車の陰に位置どる3人の背後に次の瞬間には立っていた。

 鞘が鳴り、白銀が走る!誰かが息をのむ音が、敵の姿を最後まで捕らえる事の出来なかったウルブスが唯一出来たことだった。刃はテクノロジーに守られた屈強だったはずの兵士たちを物言わぬ屍にしていた。

 

「――車は傷つけてないだろうな?」

「ああ……」

 

 ゴトン、と音がして後部座席の扉が落ちる音がする。

 片面の扉が綺麗に消えている車が走っていれば、きっと目立つに違いない。これでエイホンに向かうことはできない。

 

「まだバイクがある。ちょうど2台」

「だな。スケルは俺の背中に乗せる」

 

 こうしてジョイス・スケル捜索は、混乱を生み出しつつもようやくのこと終ろうとしていた。




(設定・人物紹介)
・キングスレイヤー作戦にあった最悪の状況
他国での任務であったにもかかわらず。必要ならば一般人のいる市街地での作戦も基本。オーケーとされていた。
これらは公式には全て政府軍vs反乱軍としてメディアに流され。アメリカは珍しく自分達の介入について沈黙を守った。
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