ブリッジ・イン・ザ・セイバー   作:八堀 ユキ

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残念ですが、これが最終回となります。
打ち切りENDです。ありがとうございました。


友か、敵か

 バイクで30分ほど悪路も構わず走り抜けると、尻がもう限界だと悲鳴を上げ始めたスケルのために小休止することとなった。奴はずっと俺の腰にしがみついて悲鳴を上げる以外の事が出来ると、エンジンが止まると同時に地面に座り込んでしまう。個人への怒りは持っていなかったが、逃げはしないかと俺はスケルから離れる気にはなれなかった。

 

「ノマド、近くを確認してくる」

「――ああ」

 

 雷電が消えると自分はジェイスと2人きり。

 そこで自然、さきほどの衝撃の再会を思い返してしまう。

 

 あのウォーカーだった。

 嘘だと思いたかったが、目の前にいたのは自分が知っている男のままだった。

 だが奴は狂った。おかしくなったのだ。そうでなければあんなイカレタ言葉を吐き出して見せたりはしなかったはず。革命家だ?何の冗談だ。

 

 次にジョサイアのことを思い出す。

 奴も裏切り者となった。いや、もしかしたらここに来る最初から裏切っていたのかもしれない。奴も自分の部下たちを失ったと言っていたのに。

 そんなことすら気が付かずゴーストリーダーの自分は信用してしまった。あいつを仲間だと信じていた!

 

「……クソっ。畜生っ!どうなってるんだ、ここはっ!?」

「えっ?」

「ウォーカー、ジョサイアも。あんな奴らじゃなかった!それがっ、どうしてこうなってる」

「でもあのまま残っていたら僕らは殺されていた」

 

 ああ、恐らくそれは正しい。

 だがその正しさが俺にジョイスへ怒りを向ける理由になる。

 

「お前も何かを正すとかなんとか抜かしていたよな」

「あ、ああ。僕はここでおこっている間違いを――」

「なんならここで楽になりたいか?」

「私を?なんでそうなる、僕は悪者じゃない。奴らが悪いんじゃないか!君は本当にこの状況がわかっているのかい?

 アイツらは私から会社を奪ったんだ。アエラを使って僕を追い出した。

 私はただ彼らを止めようとしただけさ、君の味方なんだよ」

「――だがお前が米国の輸送艦を襲う命令を下したことは知っている。それをどう言いつくろうつもりだ?」

「あれは……他に方法がなかったんだ。

 彼らはここからドローンをもちいた。破壊するためだけの兵器となるものを外に持ち出そうとしていた。そんなことはさせられないと何度も伝えたのに、あいつらは聞こうとしなかった。ギリギリで気が付いたけど。止めるには時間も人も、手段も足りなかった」

「だから輸送艦を沈めた?」

「そうだ。あんな方法をとるしかなかった――確かに乱暴な方法だった。でもあのまま南アジアまでいかせたら、以前よりもさらにひどいことになった」

「前にもあったのか?」

「数週間前だ。勝手に実地試験をおこなったんだ。その結果、現地の住民たちを大勢殺した。最初に聞いた時は信じられなかった。それを繰り返そうとしたんだ。許すわけにはいかなかった」

 

 ジョイスの顔がそこで初めて歪んだ。

 

「それでも――被害はでたんだろ?死者は出た?」

「数人が死んで、怪我人も出た。それにお前の部下やここに住む住人たちも船でここから外へ出ていこうとした。彼らも助からなかった」

「そんな――なんてことを」

 

 ショックを受けているように見えた。

 イヤな話だが、ジェイスのその様子を見て。俺は胸がスッとし。冷静になれる気がした。

 

「本当はここで何があったんだ?」

「最近、センティネル。うちの保安部門がスケルテック社に対して口出しどころかごり押しを始めたんだ。彼らはここで作られたドローンの性能を実戦でテストしたいと言った。当然、僕は許可しなかった。すると強引にドローンを外に持ち出すようになった。

 

 まさに悪夢さ。

 

 僕らが声をいくら上げても、彼らはまるで話にならない。それどころか米軍の輸送艦まで使いだした。これ以上はさせまいと動こうとしたらセンティネルは軍をくり出し、僕の会社を占拠した」

「なるほど」

「会社か輸送艦か、僕はどちらを止めるか選択を迫られた。両方は無理だった」

「だから輸送艦を沈めたわけか。面白い決断だな」

「会社を取り戻すには大勢の助けが必要だった。そのためには僕は一旦外に出るしかない。でもそうなると僕がいない間、会社はセンティネルを好きにできてしまう。スケルテックの技術でまた多くの人々に危害を加えてしまう。ドローンをそんな風に使わせるわけにはいかない……」

「そうだな」

「なぁ、僕は間違った決断をしたのだろうか?自分の信念、科学者としての使命、そのために良いことをしようとしたはずなのに。自分の会社を守るだけではダメだ、そう思った結果がこんなことになるなんて」

「……」

「僕達はこれからどこに行くんだい?」

「――エレホン。フォックス親子もそこにいる」

 

 雷電が戻ると、再びバイクのエンジンに火を入れる。

 

 

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 部下が確認し、「逃げられました」と告げられるとウォーカーはひとつ大きく息を吐き出した。

 念のため、そう思ってわざわざ到達することが不可能なはずの出口にも人を置いておいた。それをノマドらはありえないことをやってのけて逃げて見せた――まったく!

 魔術の種明かしはない。奴らは毒ガスの中を”平然”とやり過ごし、見張りも片づけた。

 

「ヒル、なぜ俺に話さなかった?」

「なんのことだ?」

「雷電。あいつがノマドと一緒に行動していること。奴がここにいるってこと。ああ、全部だ。他に何がある?」

「ノマドが誰かと行動を共にしているとは聞いていない。地元の住人達と接触はあったことはわかってる。俺は何も隠してはいないぞ、あの一緒にいたのは誰だ?」

「――おい、しっかりしろよ!雷電だ、有名人だろうが。お前素人かよ」

「……まさか。あの雷電?サイボーグで傭兵の?暗殺未遂事件の奴か!?」

「ああ、そうだ。その本人だよ」

「だがあれはまるで――ただの人間にしか見えなかったぞ」

 

 ああ、そうだな。ウォーカーは答えながら、舌打ちを我慢する。

 固定観念という奴だ。ヒルの見せる態度を責めることは出来ない、自分だって軍を出て初めて知った、現実だった。戦場に立つサイボーグたちの変化は年単位で別物になっていた。職業軍人だった頃の彼が見知っていた雷電もまた、ヒルがいうようなおどろおどろしい外骨格を身につけて大暴れする化け物であったが。今日の姿はまるで別人でも、中身は恐らくほとんど変わってないはずだ。

 

「まさかノマドの奴。ここに呼んだのか、有名人を?」

「そんなことはありえない。いや、ありえなかった。噂では奴とは例のキングスレイヤー作戦終了後に接触した形跡はない……いや、ないはずだ。あいつらは例のボスの事で揉めていた。事実、ノマド自身もあの話はしたがらなかったのはお前も知っているだろう?」

 

 そう、ノマドと彼の部隊は不可能と思われたキングスレイヤー作戦を見事に成功させた。

 だがそれは決してノマドが望んでモノではなかった。雷電もそうではなかったらしい。詳しくは聞いていないがウォーカーはそれを知っている。

 

「――だとしたら、そんな奴のところにノマドとスケルを渡したのはまずくはなかったのか?」

「心配はわかる。だが最初に言っただろ?問題は、ない。

 それより雷電は予想していなかったが。ノマドは、奴以外のゴーストと合流が出来ていないことをしっかりと確認できた」

「ジョンソンは俺が殺った。ああ――ゴーストはもはや形を成していない」

「それでもノマドはあれで優秀な男だ。部隊を与えれば、雷電よりもそっちの方が問題になる。これはしばらく幽霊捜しを続ける必要があるだろう」

 

 そういうとウォーカーはウルブス達に撤収を告げた。ここでやることはもうない。

 わずかな希望を……ノマドがこちらに理解を示す未来を望んでいたが、やはりあいつはそれを選ばなかった。ジョサイアには悪いが、これは想定していた通り。やはり奴はゴースト、狼になるつもりはなかったのだ……。

 

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 エイホンにジェイス・スケルと連れてきたことにマッズは一気に不機嫌になってしまった。

 これまで交流はほとんどなかったというし、追われていて一番に目立つ天才というのも不愉快に思う理由ではあっただろう。しかし、ここでなにか反撃の手段を探るとするならやはり彼の力がエイホンには必要なのは間違いなかった。

 

 なんだかんだ、葛藤などを乗り越えてジェイスがエイホンに場所を得ることが出来ると、ノマドの顔が暗いものに変わった。

 仲間たちに持ち帰ったものをどう伝えるべきか。まだ自分自身でも処理しきれないというのに。

 とはいえ、黙っているわけにはいかない。そんな甘い状況ではないのだ――。

 

 そこに雷電が近づいてくる。

 

「ノマド、ウォーカーのこと。仲間に話すつもりなのか?」

「……ああ」

「キツイだろう」

「だが話さないわけにはいかない――」

 

 最後はもう、呻くようにそうつぶやくことしかできない。

 

 やることが多くあった。

 マッズからは長期化をにらんで物資の調達に是非力を貸してくれと言われている。もちろん食料や水だけでなく、そこには武器も関係してくる。

 雷電も、なぜここにいるのかまだ話してはもらえていない。まぁ、こちらはボリビアの件を考えると「吐け」とこちらから詰め寄ったところでまったく相手にされないのは見えている。助けてくれるというなら、しばらくは見ないふりをしなくてはならないだろう。

 そして――。

 

「だが雷電。俺は、俺達は何よりも先にやらなくちゃならないことがある」

「――葬儀の事か」

 

 エレホンの医務室で大きなミイラにされてしまっている、遺体の事だ。

 

「衛生的にもあのまま腐らせては置けない。ジェイスの話では、ここでは昔ながらの連絡報ということでキャンプファイヤーをいくつかで用意してあると聞いている。仲間と話し合ってそこにつれていくつもりだ」

「身内だけで?」

「スケルの自宅から回収したヘリも使わせてもらう。かまわないだろ?」

「そうなると、いつ戻れる?数日はかかるな?」

「そうだ。3日くらいは戻れないだろう」

「ノマド。俺にどうしてほしい?」

「……もし願いを聞いてくれるなら、エイホンの力になって欲しい。もちろん戻ってきたら、俺達も力になるつもりだ」

「わかった」

 

 頷くと自分から去っていくノマドの背中を雷電は見つめる。

 

 仲間を失い、見捨てねばならず。裏切り者が新たに出てしまった。

 果たすべき任務はまだ残ってはいるものの、状況に救いを見いだせないと考えているのは間違いない。

 

『なぁ、雷電。いいのか?あんな安請け合いしてさ』

――キング?

『あんたにも任務はあるんだぜ?地元に情報源は必要だけどよ、いつまでも人助けってわけにも――』

――スケルを抑えたことで事態は進んでいる。ここで力を貸すことも少しくらいなら大丈夫だ。

 

 会話を強引に切り上げる。

 仲間の忠告は決して間違いではない。ここで人助けだけやってればいいわけじゃない、わかってる。

 

「ウォーカー、か」

 

 今回はうまくいったが、やはり数が揃っているとウルブスは危険だ。

 いつもいつも今回のような不意打ちも望めないだろうし、彼らの装備はこのスケルテック社の最新のものを揃えてもいる。

 装備は貧弱、仲間も多く失っているゴーストのノマド。そしてサイボーグとはいえ自分だけでは、力任せにというわけにはいかない。この解決に、あの天才が役に立ってくれればいいのだが。

 

 

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 下された決断、そして指示に対する答えとして。それは実に不快に満ちた内容だった。

 逃げ回っていたジェイス・スケルを発見。大変に喜ばしい報告だった。ところが同じく逃げ回っているゴーストの残党が彼を奪って逃走。しかもそれに協力する業界の有名人が、どうしてかここに紛れ込んでいた、ともいう。

 

――雷電

 

 今や業界では落ち目のサイボーグ兵士にもかかわらず。奴の名を同じ戦場で耳にして恐れないのは、自身が愚か者であると証明するようなものだ。

 

 ストーンはたまらずウォーカーを呼び出そうとする。

 基本的に2人は気が合わないし、考え方も全く違い。互いを軽蔑してもいた。

 とはいえこのアウロア諸島を支配するには互いの協調は絶対に必要だ。だから出来る限り顔を合わせないようにしている。

 ストーンはハイテク企業の使っていたオフィスの大部屋に、ウォーカーは部下と同じく兵舎に。お互いを尊重しようとしている。

 

 だが、本音は隠せないらしい。

 

 今回の呼び出しも、反応が戻ってきたのは1時間後。しかも顔を出さずにテレビ電話ですまそうしていた。

 

「これはどういうことなのか、説明を頼む。ウォーカー君」

「なんだ?説明が欲しいのかよ。なら簡単だ、おしゃべりしたいっていうからこうして聞いてやろうとしている。それだけだ」

「その程度なら君が私の前に現れない理由も納得だ……1時間ほど前、かなり驚くべき情報がいくつも耳に入ってきた。私は直ちに君に動いてほしかったが、連絡が取れないので”君の部下”に連絡したんだ。気が付いていると思う」

「ああ、知ってるぜ」

「ならその後のこともわかっているだろう?逃亡中のジェイス・スケル。あの天才を見つけたが、ゴーストが誘拐した」

「うんうん」

「驚くべきはその場所に君がいたという。自慢のウルブスも一緒にいてなんともふがいない結果だとは思わないか?」

 

 間抜け野郎、かくしようもないその態度であったがウォーカーは涼しい顔のまま。

 

「どうやらお前は自分の耳がいいことを自慢したかったようだが。それは間違いだと証明されただけだな」

「ほう、なぜかね?」

「俺の目の前で、というところさ。正確には駆けつけた俺が、なにがおこったかを確認した。それだけだ」

「随分と違うな」

「だからお前の耳が悪いのさ。聞きたいことだけを聞いているとそういう事になる」

「では君はなぜそこにいたんだ?」

「お前がスケルの捜索を放り出していたから、優しい俺が代わりにその仕事をやってやった」

「だがゴーストに先を越されたな」

「それは……まぁ、その通りだ。意外な展開に俺も驚いた」

「そのことに責任を感じないというのか?」

「なぜ俺が?そもそもスケルの逃亡からさっさと捜索を強化していれば、こっちもゴースト追跡の片手間でやらなくて済んだんだ」

「ふざけた男だな。とことん私の責任だと言い続けるつもりか?」

 

 画面のウォーカーはなぜ?と両手を広げるジェスチャーをする。

 

「他に何がある?そもそも奴が逃げたのは貴様の部下がしっかりと確保できなかったことにある。俺の銭の手助けを必要ないというなら、お前がしっかりとやって見せろ。そうすれば俺は自分の仕事に集中できる」

「ゴーストはまだ全滅してない」

「スケルの技術者に逃げられたままなのは知ってる。そいつらの捜索もやってやってるのは誰だと思う?いい加減俺にお前の尻を拭かせるのはやめてもらいたいね」

 

 これ以上は無駄だな。

 協力関係にひびを入れてはならない以上、このまま互いを非難しあっても意味がない――。

 

「まぁ、いいさ。それよりこれで色々と打ち合わせの必要が出たと思う。君にはぜひ私に会いに来てもらいたかったんだがね」

「アポイントを取ってくれないとな」

「真面目な話だ。すぐに会う必要がある!」

「……明日の午後なら空いてる、2時間ほどな。そっちに顔を出してやってもいい」

「ではそれでっ」

 

 怒鳴りつけないように、とは思ったが声が大きいのはどうしようもなかった。




(最後に)
予定してました『メタルギアライジング×GR ブレイクポイント』ですが、終了を宣言します。

計画では。
ブリッジ、となづけたように。今後、メタルはMGS3.4と。GRはワイルドランズ、フューチャーソルジャー。さらにスプリンターセルのサム。プレデター、T-800などを登場させるはずでした。

終了を決断する原因については細かくグチグチできるくらいには色々ありますが。
ここでぶちまけても楽しい事にはなりませんので「よーするに続けられない」とだけわかっていただければいいです。

短い間でしたが、お付き合いありがとうございました。

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