この連載が続くかどうかは第5回投稿までの様子で決めるという特別ルールでおこなっております。反応などが重要になりますのでご協力をお願いします。
こうして俺はノマドに導かれ、彼と彼の仲間たちが拠点にしている場所。
エイホンへとやってきた。
森林が茂るうっそうとした山間部にある巨大な洞穴がエイホンの正体だった。
テクノロジーの監視の中で、かなり大胆なやり方だと思う一方。理にかなっているのだなと感心もする。、
ただ外からは全く気が付かなかったことだが。ここにはかなりの島で暮らしていた大勢の人々が住んでいた場所を追われ、匿われていたのは驚きだった。
「――そう。俺達もそのひとりってわけだ」
「なるほど」
「雷電、お前もこれからそうなる。ようこそエイホンへ」
入り口に設置された最先端の偽装カーテンを簡単に抜けると、そこに門番たちが銃を持って出迎えてきた。彼らの目を見ればすぐにわかる。
戦場に投げ込まれ、恐怖や不振にしばられ。少し前の生活を捨てねばならなくなった、苦痛に耐えている人々の姿。これはどこも変わらない。
「それで、先輩にはここを案内はしてもらえるのか?」
「どうかな――考えてる」
「まさかここでサイボーグの俺をひとり放り出すのか?冷たいな」
「うるさい。まず俺は仲間と夕べの……お前の間抜けな墜落を含めて話をしてこなくちゃならない」
「生き残りがいるんだな。何人だ?」
「――2人。動けるのはな」
そうか、答えながら俺は内心。ノマドを気の毒に思った。
ゴースト部隊、彼とチームがおこなうミッションではなによりも心強いものであっただろうに。今は半数以上がすでに倒れ、他の部隊も同じように壊滅へと転がり続けているところなのだ。つらくないはずがない。
「それじゃ、俺はどうしたらいい?」
「ホルトと会ってやってくれ。医務室にいる。彼は――怪我をした。だからこの任務はもう無理だ」「……了解」
「そのあとでここの代表に会いに行く。それは一緒に会ってやる」
そうしてノマドとは一旦そこで別れる。
女性たちに場所を聞いて医務室の場所はすぐに分かった。
医師も看護師も姿は見えなかったが、奥のベットには確かに人がいた。
俺の知る最高のゴーストチーム。情報データ解析のエキスパートだった男はそこで眠っていた。
左手は包帯で見えなくなるほどしっかり固定され、右手は手首から先を失っている。毛布で隠されてはいるが、両足からは何か良くない匂いが空気に交じって漂っているのが分かる。
友人――いや、知人のこういう姿を見るのは戦場に立つ俺でもなれることはない。思わず深く息を吐き出すと、脇にあったパイプ椅子に腰を下ろす。驚いたことに患者はそれで目を覚ました。
「……嘘だろ、オイ」
「やぁ、ホルト。久しぶりだな」
「ああ……でも最悪だ。よりにもよってこの世で最後に見るのがお前の顔なんてな」
「ん?」
「せめてエロい下着が見える、ドレス姿のマイシャ・サーヤがよかった。そのくらいはサービスされてもいいだろうに」
男のユーモアと皮肉は健在だったとわかり、俺は苦さの入る笑い声をあげる。
「自分の年齢を考えろ。それはハリウッド期待の若手女優だろ。美人だよな、彼女」「ああ、そうだよ死神野郎。生きて彼女のベットシーンは瞼に焼き付けておきたかった。こういう時のために」「それなら安心しろ。俺は死神じゃないし、お前はまだ死なないみたいだぞ」
フン、と相手は鼻を鳴らすが。すぐに顔をしかめる。
意識が戻ってきて、体の苦痛も理解できるようになったのだろう。話せる時間は少ない。
「本当にあのクソ野郎の雷電なのか?」「そうみたいだな」「なんでアウロア島にいるんだ?」「……お前たちを助けに来た、そう言ったらノマドに嘘吐きと早速罵られたよ」
「ああ、ノマドの言う通り。お前はクソ野郎だ」「マジかよ」
テントの外から慌てた様子の女性が入ってきて、患者と長く会話しないようにと注意を受け、理解したと頷いた。
「待てよ雷電……助けに来たっていうのは本当なのか、それ?」
「ああ、もちろんだ。あの時だってそうだったじゃないか」
「――そうだな。俺のことはいいから、ノマドの事を。仲間を頼んだぜ」
「まかせろ」
「な……なァ、ウィーバーが死んだ」
「聞いてる。残念だ」
「誰が、殺したと、思う?」
「知っているのか!?」
「ああ、お前も知ってる。あいつ、ウォーカー」
ウォーカー、その名前を口の中で繰り返す。
だが聞くと逆に驚きはなくなった。”そうでなければいい”と思っていた。
「驚いてないな。知ってたか?」
「寝てろ。兵士が戦場で怪我と病気を相手にする時は体力と気力がいる」
「ああ、ここで一生懸命だらけているよ……」
彼が眠りに入るのを確認し、女性たちにあとは任せて医務室から俺は立ち去っていく。
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雷電が動けない仲間と会っている頃、ノマドは最悪の報告と、最悪の返答を残っていた部隊の仲間達から聞いていた。
自分が港で逃がした家族の一部がまだここにきてないらしい――。
「それとノマド、お前が連れてきたアイツは?」
「知り合いだ。元軍人で――」
「傭兵か?スケルのセンティネルとは関係ないだろうな?」
ドキリ、とした。
可能性はまったくないわけじゃないと今更にして気が付いた。しかし――。
「大丈夫だ、と思う」
「思う?おいっ!」「ノマド!?」
医務室に向かって背中を向けていった奴の後ろ姿を思い浮かべる。
「言い変えよう。大丈夫だ、安心しろ」
「なぜ!?」
「あれは――ビッグネームだからさ」
言いながら顔を歪める。
そう、有名人だ。もはや伝説の人物、自分達と比べるまでもない。
雷電――あれがこちらの敵になるなら、とっくにここに兵士達が殺到しているはずだし。俺も生きてはいない。
「知り合いだと言ったろ。お前たちも名前くらいは聞いてるはずだ」
「?」
「雷電」
――!?
その一言で説明は必要なくなったようだ。「あいつか」「あのボリビアの」と2人は信じられないものが近くに存在しているのだと理解しようとしつつ、混乱と敬意。恐れにもにたものを持っているのを感じる。
ワンマン・アーミー。
それを戦場で文字通り実現できる男。
その伝説の始まりは、愛国者達と呼ばれる全容の把握不可能とされた組織との戦いに生き延び、勝ったことだ。
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患者を見舞った後、俺は再びノマドと合流する。
彼の説明で、このエイホンを管理しているのはマッズ・シュルツという元軍人だと聞かされていた。
曰く、スケルテックの暴走から外からやってきた余所者が増えたことでここ数日、すこぶる機嫌が悪いらしい。
実際、新しい余所者の登場に彼は不機嫌さを全く隠そうとしなかった。握手は交わしてくれたが――。
「ノマドから聞いたよ。あんたも余所者だって?」
「ああ、そうなる。
彼が余所者その1とするなら、おれはその2ってところかな」
「つまりどちらもここじゃやっかいな邪魔者ってわけだ」
「……あんたのような立場の人が。俺達のような存在をどう考えているのかはちゃんとわかってる。だがノマドや俺のような人間はこういう時にこそ役に立つスキルを持っているのも事実だ。
もう少しお手柔らかにやっていけないかな?」
「協力ってやつのことか?
それなら俺にも言い分がある。そんな考えに希望を感じていたのは半日前の事だが、どうやらここに戻ってきた厄介者その1は。俺のわずかな希望を叩き壊すような、期待とは違う答えを持ってきたらしいな」
嫌味がノマドの方に向かうと、彼は言いにくそうに説明を始めた。
「お前と出会う前。俺はこの島を脱出して、沖にいる味方の元に戻ろうと考えていた。ここに海兵隊を山のように連れてこようと思ったんだ」
「そうだ。そして俺は取引を持ち掛けた。
ここから逃げ出したがっている連中を軍のほうで保護してほしいってな」
「だが島から出ることが出来ないと、はっきりわかっただけだった。島から離れるか近づくかすると、スケルテックのドローンが攻撃する。どうやら相手は誰でも構わないらしい。
避けることのできない戦艦の主砲のような攻撃にさらされるんだ、当分脱出は出来そうにない」
「な?お前らは再びただの役立たずに戻ったわけさ」
間髪入る代表の皮肉が特にきいていた現状説明だった。
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2019年、ボリビア――。
出迎えた反乱軍たちの反応は最悪だった。
CIAが送り込んだのがたった数人のアメリカ人。自分たちは馬鹿にされたのだとでも思ったのかもしれない。
ボウマンの言葉も聞かず、偉そうにこちらに一方的に条件を突き付けてきた。
――政府に逮捕された我々の指導者を救出してこい
アメリカ最高のチームだというなら軽いモノだろう。そういうことらしい。
ふざけた言い草に俺達はウンザリさせられたが。ボウマンやCIAはこうなることを見越していたようだ。奴らの要求をかなえるべく、ちゃんと準備がなされていた。
「それじゃ兵士諸君。さっそくだけどお願いよ、あいつらを納得させて」
「お安い御用だ」
見るからに怪しすぎる缶詰男を無視して俺はそう請け負った。
そう、俺はまだ。俺達のチームはまだこのボリビアを。缶詰男を。
到着してまだ間もないこの国を全くに知らな過ぎたのだ。
狙撃ポイントからこちらを見ていたウィーバーから無線越しに畜生、の呟きを聞くと。ホルトにミダス、俺は容赦なくライフルを発射する。
CIAは――いや、DEAか?
とにかくどちらかか、どっちもか。とんだ間抜け野郎だったと言わざるを得ない。
情報屋として来た現地警察官は、指導者の囚われている場所の情報を引き渡す現場のそばに武装した馬鹿どもをひそませていた。何を考えていたのか、詳しい理由を聞く気にはならなかった。
奴らは話しているこっちを半包囲する体制で展開していたとわかれば、特に。
戦いは起こらなかった。
俺達に危険はなかったが、路地裏に死体がさっそく転がってしまった。
情報屋に鉛をプレゼントして黙らせ、すぐに車へと飛び乗った。作戦は失敗の危機にさらされていたからだ。
わかっていることは2つ。
俺達はいきなりこの国の敵として誰かに売られた。目標の位置情報は手に入ったものの、囚われた指導者の命は秒刻みでこの世から飛んでいってしまう危険にさらされていた。
みっともない話だが、メンツを守るために俺達は焦っていた――。
「ボウマン、水漏れだぞ!」
『え?』
「情報屋は俺達を売った。相手は知らん、だが目標がヤバい」
『――どうするの?』
「やるしかない。位置はつかんだ、あとは強行突入で目標を救出する」
『わかった。気を付けてね、サポートの彼も――』
「奴はいらん!!」
無線を強引に切った。
サイボーグの助けなど、どれほどのものか。雷電を知らなかった俺達は奴はいないものと考えようとしていた。
多くの戦場で、サイボーグのようなオモチャが。殺人マシーンとしてもてはやされた時代だった。
保守的な軍ではこの技術を用いる兵士は表向き忌避されていたが。裏では色々やっていたことは知っている。
だがゴーストは、俺のチームには大した相手ではないと思っていた。
実際、そういうのはいくつかの状況で対処してきたし。ずっと勝ち続けて、機械の体に貼り付けた価格表と宣伝文句を嗤っていたのは事実だ。
土と埃をまき上げ、悪路を必死に乗りこなす俺に仲間が聞いてくる。
「それで作戦は?隊長」
「選択肢はないからな。このまま強引に突入し、目についた奴から片付けていくしかない」
「ヤバいだろ、それ」
「教会が目印だ。目標がそこから連れ出されるか、撃たれる前に決着をつけなきゃならん」
「村の中をお掃除しましょ、ってわけにゃいかないのか」
「3分でいい、誰も俺達に近づけるな。こっちを見た奴は撃て」
――!?
不愉快だったが、この任務で与えられた殺人許可証を俺達はいきなり振り回すことになりそうだ。
だがやりすぎない程度に処理しろ――殺人鬼ではないんだ。言葉では言えないことだ、これから起きることは簡単な事ではないのだから。
そうやって静かな町にやかましく突入したのは俺達だったが。そこにいるはずの兵士達は沈黙していた。
かわりに教会から、老人を担ぎ上げたサイボーグが俺達を出迎えた。全て終わっていたのだ。
「ちょうどいい、出よう」
「……どういうことだ?」
そこは確かに小さな村ではあったが。
わずか1.2分の間で問題となるものを騒ぎを起こさずに排除したというのは神業も同然だった。
雷電――。
俺と俺のゴースト達は彼の名前をようやく知り。本物を知った。
これが真に恐るべき新たなテクノロジーで武装した次の時代の兵士。
それが雷電という男だった。