この連載が続くかどうかは第5回投稿までの様子で決めるという特別ルールでおこなっております。続きに興味がある場合、ログ、感想、その他が影響します。よろしくご協力ください。
新たなプログラムが始まった――。
けたたましいオーケストラの、そして安心のショーの始まりを告げるオーケストラの合奏が流れる中。
笑顔の中年白人男性が出てきて、目の前の客席とカメラの向こうの視聴者にその輝く笑顔を振りまいてみせる。
「こんばんは、こんばんは。本日もハーモン・”ラッシュ”・ハモンドのショーへようこそ!」
そこで過去の番組のシーンが次々と割って入る演出が入る。
「このマシンガン・ラッシュのトーク番組にはこれまで多くのゲストをお招きしてきましたが、今日はいつもと一味違います。本当ならすでにゲストに出てきてもらい。あとはずっとラッシュのトークが始まるわけですが――今日は、今日だけは違います」
ライトが消され、シリアスな雰囲気に一変する。
「テレビ業界ではこの数年、ひとつのタブーがありました。
それはこのアメリカを守り、このアメリカを強さを証明していた軍……この話題を避けていました。
なぜ?
答えは簡単、それこそ新たな千年紀の始まりから呪われたような苦々しい体験が。この国の国民として、何度も何度もかみしめて来たからに他なりません。
そしてそれがもっとも恐れる形で我々の前に何度も立ち上がってきたから、とも。
2014年――そうあの恐怖は今もまだ我々の中に残っています。
世界の軍事力に深く関係していた業界トップ5のPMCが結託。秘密結社アウターヘブンを自称し、数日にわたって世界に攻撃を加えたのです。
彼らの宣言を前に世界は文字通り沈黙した……〇×ビューグルのカレント記者は当時をそう振り返っています。
この恐ろしい事件はその後、奇跡的に終わりはしましたが、ご存知でしょうか。FBIは未だに事件の全容をつかみきれておらず、捜査中と言い続けてる。
とはいえ我々は前に進みます。国も、新しい戦いも、ビジネスも」
ライトが戻り、シリアスさが払われていく。
「そう、そしてようやく本日のゲストがご紹介できます。
先頃、軍と正式に契約を交わしたことで件の業界トップ3に入ったセンティネル社CEOに今日は来てもらいました。。
皆さん、敬意をもって拍手でお迎えください。トレイ・ストーン氏です!」
再び起こる賑やかな音楽が始まる。画面には自信に満ちてはいたがどこか卑屈そうなスーツ姿の痩身のせむし男が姿を現した。
トレイ・ストーン。
彼はこの後、軍との契約の一環として。アウロア諸島に作られた、スケルテック社保安部門を一手に引き受ける。
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シュルツ代表との話も終わり、俺は店の女主人から説明を受けていた。
「――そうか、武器も含めて色々と揃っているんだな」
「まぁね。元々はセンティネルの連中の求めに応じて、スケルテックが用意したものだからね。彼らが使うような身の回りのものは一通りは揃ってるわ」
「払うものを払えば、だろ?」
「もちろん!資本主義でガッポリ稼いだ企業のおこぼれなんだから、こっちも稼がないと」
「そういえば、ここではデジタル通貨も使ってると聞いた」
「ああ、スケルのことね。元々はスケルテック内でのキャッシュレス化のために用意されたらしいけど。実際悪くはないわ、便利だもの」
主人の言葉にうなづきつつ、俺は多機能携帯タブレットをとりだし。レジに近づけて見せた。
「あら?3.600スケルだって、持ってるんじゃない」
「文無しじゃないってのは安心だ」
「そうね。逆にあなたのお友達は苦労してたわよ」
ということはノマドはオケラだったということか。ま、任務中ならそうだろうな。
それじゃ、と続けて店頭に並ぶ銃を確認した。こちらは問題だとすぐにわかった、どれも中古品なのに割高なものばかりだ。
「――これで戦うのは厳しい」
「らしいわね。でもないものはないの」
「なんとかならないかな?」
「あの人と同じこと言うのね。なら教えてあげるけど、方法ならいくつもある。でもどれも簡単じゃない」
「おススメを教えてくれ」
「このアウロアはね、改めて言うけど今はスケルテックそのものなのよ。ほとんど自給自足ができて、言い出せばある程度は軍のものでもこっそり用意できるくらいにね。つまりとんでもない場所ってこと。
センティネルもそれを知ってよからぬことを持ち掛けてたって噂があるから、これを利用するのがいいかもね」
「具体的には?」
「あいつら、自分達が使う武器をここで作ろうとしてたっていうわ。詳しいことはスケルの技術者に聞いてみるのが早いわね。彼らが使う武器と同じものをどうしたら用意できるのか。
彼らならすぐに考えてくれる気がする、天才ばかりだから」
「なるほど」
言いつつ、ガラクタの山からMP7とSVDを特に調べ始めた。
MP7はPDWという戦場で使うマシンピストル。ライフルほどの威力や射程は期待できないが、状況を利用すれば十分以上の力を発揮してくれる。
SVDはロシア製のオートマチック狙撃銃だが、これは他のに比べて少し状態がよさそうに見えただけだ。
「他はどう?デザートイーグルにいいのがあるわよ?」
「はは、大砲を持ち歩く趣味はないんだ」
M9ピストルを早々に選び出す。
「あなた、狙撃手なの?」
「いや……狙撃は得意じゃないが、出来ないわけじゃない」
「そんなので大丈夫?」
「ああ」
弾丸を含め、初回サービスよ。そういって2.000ちょうどを要求された。商売上手な女性らしい。
ノマドの元に行き、今後の話をしようとした。
「なにか考えは?」
「――まだなんともいえない」
「いいんだ、ノマド。まだ任務よりも仲間の安全の方が気になるんだろ?」
「……30名をこえる全てが優秀な兵士だった!それが、それがこんなことで――」
ノマドは何かに耐えるようにそれだけを言った。
軍では部下をもって戦う経験は自分にはなかった。彼が今、感じているものを俺は完全には理解できないだろう。
「で、ゴースト達の捜索ってことでいいか?」
「――いくつか心当たりがある。これは俺自身だけでやるつもりだ」
「ノマド」
「大丈夫だ。馬鹿はやらない。フォックスという親子を港から逃がした。だが彼らはここに到着していないらしい。少しのんびりとしたオヤジと娘だったから気になってる。俺は彼らを迎えに行く。そのついでだ」
ということは、しばらくは俺も単独行動になるのか。自分で仕事を探さないと。
「シュルツ代表が確か、助けがいると言ってたし。それに俺も今、思い出したことがある」
「なんだ?」
「落とし物さ。ここに持ち込もうと思ったんだが、着陸の直前に地上へ落としてしまった。時間があるようだからそいつを回収してくるよ」
「何を持ってきた?それを敵に回収される可能性は?」
「まだないだろう。多分、”大丈夫”だ」
「――そうか。それじゃそういうことで」
そういうとノマドは先に行く、と言葉を残し。エイホンから去っていってしまった。
残された俺は、同じくここに残っているゴースト部隊の2人の力を借りて。だいたいの目標地点のあたりをつけた。
「――という事はやはりスマグラーコーヴスの中央部あたりでしょう」
「わかった。さっそく行ってみるよ」
「はっ……あの、雷電」
「ん?」
「その、思いもかけない縁ではありますが。こうしてご一緒出来る事、光栄です」
「お、俺もっ。光栄でありますっ」
「ああ、ありがとう。こっちは一匹狼だが、君達の足を引っ張らないように頑張るよ。よろしく」
彼らほど精兵であっても、こうしてこちらを尊重してくれるのは自分が元は彼らと同じ場所に所属してくれたという過去があるだけなのに。
俺の知るあの古い友人もこのような困惑を持っていたのだろうか?もしかしてあの頃の俺とも、そんなことを考えながら接してくれていたのだろうか。こんな時は必ずそれを思い返してしまう。
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雷電を振り払うようにしてエイホンを出た俺は、しかしすぐに親子の捜索を開始したわけではなかった。
逆に彼ら親子から聞かせてもらった、俺と出会う前に彼らを助けてくれたいかつい兵士――俺はそいつに会いに向かったのだった。
林とそこに流れる小川のそばにある小さな小屋。そこに近づくと、静かではあるが確かに中に誰かがいる気配をわずかに感じた。
――いる。
扉を静かにあけ、ゆっくりと忍び足で体を中へと滑り込ませる。
部屋の中はがらんとして誰もいない。先ほどの感覚が間違っていたのではないか?そんな風に思ってしまうほどに、ここは静かだ。
だが俺は自分の勘を信じていた。
「おい!レッドクイーン、いるのか?お前なのか?」
「ホワイトラビット……ノマドなのか?」
「ジョサイア、やれやれお前が生きてて何よりだ」
安堵しつつ体を見せると、奥の小さな部屋の暗がりからぬっと自分にまけない黒い肌の大男が片足をわずかに引きずりながらも笑顔を浮かべて出てきてくれた。互いに握手を交わし、固く抱きしめ無事を喜びあった。
「無事なのは俺だけ。チームはダメだった、お前の方は?」
「俺も――似たようなものさ。俺達だけじゃない、恐らくゴースト全てが総崩れになってる」
「ああ、何人かは見つけた。ジョンソン、レダ、ジョッシュ、ドワイト、カミ―」
「ひどいな」
「……お前のところのウィーバーもだ。知ってたか?」
恐らく倒されたゴーストたちはそのままにしているのだろう。逃げた俺達が戻って遺体を埋葬しようと近づくのを待っている、だから地元の住人達もウッカリ近づけない。しばらくはそのまま野ざらしにされる。
「俺は見ているしかなかった、ウィーバーが。奴が撃たれるところを」
「なんだって?」
「墜落後、ヘリから這い出して捜索に来た奴から聞き出した。近くに落ちたヘリの情報を。
なんとか駆けつけようと思ったが、遅かったんだ――俺がたどり着いた時にはもう攻撃を受けていた。半包囲されて、どうにもならなかった。まだウィーバーは残ってた。
ジョサイア、俺は願ったよ。ウィーバーの奴にすぐに投降しろって、それしか生き延びる道はないって」
「ノマド……」
「追手は普通の奴らじゃなかった。どうにかなる状況じゃなかった。だが――」
「駄目だったんだな」
「そうだ!ウォーカーだ、奴が直接、俺の部下をやった!」
「ウォーカー?おい、それはひょっとしてコール・ウォーカー?ウォーカー中佐の事か?」
「奴がいた。奴が俺達の部隊を攻撃した。裏切ったんだ」
頼れる仲間との再会が俺を安心させていたらしい。それまでは辛く、火を噴くような怒りを伴っていたことで誰にも見せられなかったものをここでは口にすることが出来た。憎悪の塊だった。
だがなぜかジョサイアの表情は懐疑的なままだ。
「ノマド、正直信じられない。本当に彼だと断言できるのか?」
「悩む必要もないんだよ。はっきりしている。俺は見たんだ。奴はここにいて、敵に回った。裏切った、それで俺達の仲間は死んだんだ」
「だがあいつは軍をやめた後。南米で傭兵になったんじゃなかったのか?」
「今はここにいる。俺は奴の顔をはっきりと見たんだっ!」
あの瞬間からまだ数日もたっていない。
だがすでに過去のことでも恐らくこの先、あの場面を忘れることは出来ないだろう。
「それにしちゃ、ウォーカーの目的がわからない。俺はここの天才が船を沈めたという証拠を見つけた」「ああ」そんな気分じゃなかったが、データを見るとたしかにスケルテックが輸送船を攻撃させた。
そんな表現がそこから読み取れた。
「ということは、この事件のそもそもの発端である輸送艦沈没はジェイス・スケイルがやった?」
「ああ、そういうことだ。この事件、そいつが原因に違いないんだ!」
「それがウォーカーとどう繋がる?」
「まだわからない……あいつはここで何をやってるんだ」
どうにもわからないことが多すぎた。
地元の住人達の話も少し聞いていたが、こちらの認識ともかなり大きなずれを感じている。整理と、新しい情報が必要に感じた。
「状況は最悪だが、俺達が坂をまだ転がり落ちているのは間違いない。
生きのびている仲間もいるだろうが、身動きが取れない現状では彼らの捜索は時間の無駄になりかねない」
「ノマド、仲間を見捨てるつもりか?」
「違う、問題は俺達も自分の心配をする時だと言いたいんだ。外に連絡は送れないし、中に援軍を呼び込むわけにもいかない。艦長は優秀な人だ、むやみに犠牲を増やすような決断はしないだろう。
なら俺達はここで次の行動に移るべきだ。戦況に変化を生まないと援軍は永遠に来ることはない」
「――そうだな。確かにそうだ」
「ヒル、ここからは一緒にやろう。俺はスケルを追おうと考えてる。お前がいれば、心強い」
「……悪いがノマド、断る」
「おいおい」
「お前の言い分は正しいと思う。だが俺はさまよってる仲間とウォーカーの目的の方が気になるんだ。
なに、2人いるんだ。別れて動いた方が情報も多く手に入り、有利になることもあるかもしれないだろ」
彼には考え直すように言うべきだったが、その意志の固さを感じて諦めることにした。
仕方なく俺は新しい水筒と持っていた弾丸をジョサイアに差し出す。
「ほら、これを持っていけ」
「いいのか?」
「ああ……ウォーカーの部隊は凄腕だ。ヤツの話を聞きたいならお前の方が危険だしな」
「大丈夫さ。また会える」
「ああ。ここでまた会おう」
後になっても、この時の俺はとにかく不自然だったと認めないわけにはいかない。
素直にエイホンの事を彼に話しておくべきだったが――なぜかそれをあえて避けていた。だから考えてしまう。
俺はウォーカーの裏切りを知り。
薄々とではあったが、このジョサイアに対しても疑いの目を向けていたのかもしれない、と。