今の悩みは開催中のターミネーター・シナリオをどうやって融合させられるだろうか?というところか。
次回は明日か明後日のどちらか。
ジェイスの自宅はフォックスの言った通りにすぐに見つかった。
世界最大の巨大企業CEO、世紀の天才と言われる男の家らしい洗練された見事な屋敷がそこにあった。だがその男は今、米軍への攻撃を実行したテロリストという疑惑がかけられている――。
「なんだ、あれは――」
「そうだな。わざとらしいにもほどがある」
夜の丘の上から2人で見下ろした先にはスケルテックCEOの豪邸があり。屋敷中の電飾を煌々とつけたままこれみよがしに武装した兵士達が、そこになにかあるかのように厳重に邸内の巡回を続けている。その全てが丸見えだった。
「あそこの主人は逃げている、のだろ?」
「ああ、そう言っていた。ジェイス・スケルは逃亡中で、センティネルは血眼になって探している」
「なのにあれなのか?まるで誰かを捕らえてあそこに押し込めているかのような警備じゃないか」
「――同感だが、俺達に答えはない。それより問題はあそこにどうやって入り込む?フォックスの話では天才はあそこに自分を追えるような手掛かりを残しているはずだと言っている」
「……なら、ちょっと待ってろ」
「雷電!?」
「なんだ?ノマド、夜中に2人並んでここから狙撃というのも芸がないだろう。
俺が先行するから、ノマド隊長は”いつものように”バックアップを頼む」
「お前の好きにさせるわけがないだろうがっ。ふざけるな!」
「なに、すぐに終わらせてくるさ」
腹が立つことに奴は昔のままだった。物事には順序というものがあるはずだ。ゴーストはそうやって訓練を重ねる。
だが奴のそれは――。
気配が消えると時間の流れが自分の中で狂っていくのがわかる。
長い、遅い。1秒ごとに動く時計の針が動きたくないみたいだ。そうやって落ち着きが徐々に失われていく。
「クソ、やっぱり……か。あの野郎」
丘の上から見下ろすスコープの向こうで悪夢が始まった。
ジェイスの屋敷の表玄関は当然のように兵士が多く歩き回っているというのに。駐車場で腰だめになった雷電はそいつらの視覚の外側を気持ちが悪いほど冷静に”泳いでいく”。悪い冗談だ、今の兵士なんて闇の中にサイボーグがいるのにその目の前をいかめしい顔つきで素通りして見せた。
ああ、そうだ。ボリビアでは最難関と思われた拠点でも、奴はあれを俺達の前で何度もやって見せた。ショックのあまり全員がその場面を夢に見てうなされた、腹立たしい記憶を思い出してしまった。
そしてこうなるとこの後の展開も自然と分かる。
俺は気分を切り替え、大きく深呼吸をし、集中力を高めて雷電からの合図を待つ。
静かな時間が数分――だがテラスからプールサイドへと降りていく兵士の背後についた奴がそれについていきながら。奴があのバカバカしい侍ブレードを抜き放つのを確認した。
――準備しろ
あれが奴なりの合図だ。自分の動きを俺が追っていると確信してる。
スコープで素早く表玄関に散らばる兵士達の位置を確認、すぐにも対処できる体制に移り。片膝をつきなおして深呼吸と共に静寂を求めていく。
最初の犠牲者がでてから数十秒ほどで屋敷の中で騒ぎが始まった。警告と悲鳴、銃声が続く。
それと同時に突然の状況の変化に足を止め、屋敷のあちこちで背を伸ばして周囲を確認する兵士達に俺は狙撃を開始した。
屋敷の庭から人影が減っていく。
それでも4人目まではうまくいったが、5人目は運悪く動いたことで俺の放った弾丸は頭をかすめ。6人目は倒れた味方を見て「狙撃だ!」と叫んでしまった。
「クソったれ、多すぎるんだよオマエラ」
ライフルを構えるのをやめると、その場から素早く腰だめに立ち去ろうとする。
近くにまだいた4人ほどの兵士が声に反応して先ほどまで俺が座ってた辺りを屋敷の中からライトで照らす。
あれは次にすぐに接敵を図ろうとするはず。奴らが迫る前に次のポジションについておかないと。のんびりしていたら雷電の奴が飛び出してきて、俺の面倒まで見だすに違いないのだ。
ライトが消えると門の外に広がる暗闇に兵士達が次々に走り出した。
同時にスケルの豪邸の表玄関が派手に吹き飛び、重装備に手にしたガトリングガンを抱えた相手を派手に吹き飛ばすようにして雷電が押し出してきた。
倒れた相手はそのまま起きることはなく、重圧な体躯を貫いた刃が青白く輝いていた。
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実に腹立たしかった。頭にも来ていた。
全てが終わり、邸内に戻るとセンティネルの死体があちこちに転がっている。
自分のものではない。あきらかに斬殺と分かるやりかたで、壁や床に派手に守備兵達の血も飛び散っている。
「いきなり死体の山を作りやがったな!チクショウ」
「早く制圧しないとな。となりの住宅区にいる兵士も呼び寄せてしまうだろう?そうはならなくてよかったな」
「相変わらずのニンジャスタイルというわけか。容赦なしかっ」
乾いた唇をなめ上げる。
雷電の奴は冷静だ。歩き回って転がっている死体や切り落とされた部分など気にせずまたぎながら、あちこちから新聞やファイルを見つけては手に取る。そんな冷静さが余計に俺に怒りを感じさせている。
奴も銃を持っている。それを使えばもっとスマートに終わることができるはずだ。
だがそれをこいつはしようとしない。
時代錯誤にも日本の侍ブレードをわざわざ用意し、自分の戦ったあかしだとでもいうように。こうして平然と殺しをやる。派手に殺して見せる。
なにかをからかってるのか。それとも馬鹿にしているのか。
もしくは戦場での自分の姿と行いををどこかの誰かに見せつけたいとでもいうのか……。
わかってる、これは理不尽な感情だ。
プロならば戦いに勝てればいいんだ。敗北はすなわち死だ、次なんてものはない。それができたのならば、そこで”なにをやろうと”気にしてもしょうがない事なのだ。なのにこの湧き上がろうとする怒り!
……わかってる、感情的になってる。俺は今、怒りにとりつかれている。仲間を失った怒り、何もできずにそれを許し、何もできていないゴーストなのに弱い立場に立つ自分に。
そして雷電が無言で支えてくれるやさしさに甘えてもいる。
全部ウォーカーのせいだ。
奴が、あいつが俺達を攻撃したなんて本当は自分で目にしたあの瞬間があったとしても、信じられない。信じたくはなかったのだ。
ウォーカー……コール・D・ウォーカー。
あいつは友人だった。
近しい付き合いがあったわけではないが、その経歴は見事なものだったし尊敬できた。軍人らしい不器用だが、人を思いやれる優しさも持っている男だ。
ともに志を同じくし、国のために尽くし、仲間のためにつねに全力であろうとした。仲間を失い、悲しむ奴の姿を見たことだってある。あいつのためなら何だってしてやった。実際にあのキングスレイヤー作戦の時だって!
許せない。
こんなことをしでかしたアイツに。仲間を、友人たちを傷つけ、それどころか命を奪った奴にかける言葉はもう何もない。エイホンだのジェイスだの放り出して、ヒルと共にウォーカーの前に立って奴を殺してやりたい。
だがそれは今の俺には、俺ひとりでは到底できない。
だが自分がこの雷電であったなら――奴なら違うのでは?
「わかったぞ、ノマド」
「ああ」
何かを探していたらしい雷電は奴の持つ携帯端末を見ながら報告してきた。
「やはりジェイスは手掛かりをいくつか残しているようだ。ここに残っていた情報からいくつかの名前が出てきたぞ」
「……ならなんでセンティネルは奴を直接追わないんだ?」
「さぁ?探偵ゴッコはしたくないか、それとも他に強引でも見つけ出せる自信でもあるのか――」
「ずいぶん余裕なんだな。この騒ぎに天才は必要ないと思ってるというのか?」
「案外、島の掌握に苦労しているのかもしれない。それにジェイス自身は戦闘の特別なスキルを持たない人間だ。
センティネルの行動自体は合理的で軍人の範疇をでない思考のせいで脅威の捉え方が低いのかもしれない。せいぜい天才といっても情報端末とネットがなければたいして脅威にはならないとでも考えているのだろう。
もしくはそれより別にやることがあるのかも」
「別?なんだそれは――?」
雷電は答えない。慎重さを感じる態度だ。
どうやらそれが奴の仕事に関係があるという事か……。
「わかった。答えなくてもいいさ。だがニンジャは次にどうするべきだと思う?それは教えろ」
「俺達の次の目標がせっかく手掛かりを残してくれてる。導きに従って探し出してみるってのはどうだ」
「本気か?」
「その方が死体の山も小さくなる。あんたはその方がいいんだろ」
「――すまない。さっきは言い過ぎだった。あんたにあんな言い方をするべきではなかった」
「いいさ。俺達の仲だろ」
俺達の仲、か――。
暖かさ、苦み、居心地の悪さ。複雑な響きがある。
センティネルのCEOは映像で、エレホンにいるような島の住人を邪魔な場所から殺戮を開始しても構わないような言い方をしていた。戦力差が絶望的な以上、俺達は常に負けられない戦いが続くわけだ。
過去とは違う。
「なんだったかな。一殺多生、物騒な響きがあった」
「そうだ。俺の信念だ。ひとりの悪を斬るかわりに多くを救う。覚えていてくれたのか」
「お前の”宣伝文句”らしいからな。記憶に残ってたんだ」
「……俺達は兵士で、いつも戦場では救いのないことをやっているが。だからといって俺達がやっていることに希望がないわけじゃないと信じてる」
「ああ、それだ。それも良く聞かされた」
「戦場に救いがないのは俺もわかってる、ずっとここで生きて来たんだ。だからこそせめて希望くらいは必要なんだ。ノマド、お前もそうは思わないか?」
答えなかった。
怒れる俺の今の希望は、ウォーカーへの復讐。そして雷電はそうじゃない。
俺達はいつも真逆に立つ運命なのか。
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ヴァイパーは医務室で目を覚ますと、自分が抜け殻になってしまったような感覚の中で周囲を見回した。
離れたベットにはひどい有様となったホルトが眠ったままだ。ここに来てからまだ一度も話せていないし、話しかけて起こさないようにも言われている。
そして視線を反対に動かせば、苦しいものを直視しなくてはいけなくなる。
あのクソデカい背中を持っていた男の体が、布のようなものでグルグル巻きにされ。ミイラのようになって床に寝かされている。
あれは死体、ベットは生者のために開けておかなくてはならない。理解してはいても、それがツライ。
「あら、目が覚めた?」
「……」
「私はマリアっていうのよ。どんな調子?」
「特には。小さなケガばかりだったから、自分はもう」
「大丈夫、と。そうね、だから着替えにTシャツとズボン、靴を持ってきた。
疲れてるようだからまだ寝ててもいいけど、長くは寝かせるわけにはいかないと思う。今はあなた達だけがここを使ってるけど、いつどうなるのかわからないからね」
「そうなの?」
「ええ――ここに来たばかりの頃はここもにぎわってたわよ。悲鳴に泣き声、うめき声、怒鳴り声。大混乱だった」
「ひどかったんだ」
「今もアレが続いてないのはそれはそれでよかったのかも。彼らは長く苦しまなくて済んだから」
どういうことなのだ?
出動前のブリーフィングで前もって聞かされていた情報はまるで役に立ちそうにない。彼女の言葉だけでもアウロア島はすでに戦場になっているって事ではないのか?
寝ている場合ではないと思った。
着替えるとさっそくエイホンの中をゆっくりとだが歩くことにする。
この島を占拠したというセンティネルから逃げてきたという技術者を、家族たちを、子供たちを見た。謎が、疑問が増えていくばかりだった。
「おお、ヴァイパー。起きて大丈夫なのか?」
「ええ――それよりも中尉。これはどういうことなんですか?ここは聞かされた情報とはまるで別世界です」
「ああ、そうだ。わかってる」
仲間の顔が歪むのを見た。
その瞬間、恐れていたことが現実であったかもしれないと思った。思ってしまった。包囲され、追撃を受け、目の前で自分よりも先に仲間を殺された。こんな状況――。
「秘密にされたんですか?部隊は、ゴーストは生贄にされた?あのCIAのクソども――」
「ヴァイパー!!」
「……すいません。ちょっと、その、思わず」
「気持ちはわかるが。本当のところはわからない。さっぱりわからない。俺達に言えることは本当にそれだけなんだ」
「それより今は考えることが多い、多すぎる。
ヴァイパー、俺達にできることと言ったらここにいる戦えない人々と一緒に生き抜く方法を考えないといけない。武器も戦力も、なにより情報がない」
「悲惨なんですね。良い話はなにもないんですか?」
「――ひとつ、かな。
ノマド隊長が今、外に出ている」
「えっ、ひとり!?」
「彼は大丈夫だ。有名人がついている。俺達が言える希望と言ったらその人くらいだ」
「誰です?」
「雷電、本物らしい。お前も話には聞いたことがあるだろ、この業界にいるんだからな」
「不正規作戦、伝説の傭兵……」
「ああ。外見は優男だったが、噂通りとんでもないらしいぞ。さきほど連絡でノマドとジェイス・スケルの屋敷を制圧し、そこを出たと報告してきた」
「地図によれば兵士のいる住宅地そばだという話だったのに、どうやったんだかな」
「――雷電」
彼らが何を言いたいのかヴァイパーにはさっぱりわからなかった。
それは彼女がまだ伝説と呼ばれる男を知らないせいだ。
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それからは手掛かりを求めていくつかの実験場を巡り。森や野原、丘をいくつも越えて歩いた。
じぇしスの足跡はどこにもあって、俺達はそれを全て見つけ出していった。だからだろうか「もうそろそろいいだろう?」とノマドは俺に言ってきた。なにか俺自身の事を聞きたいとのことだった。
「何が知りたい?それは本当にお前が知る必要があるのか?」
「あるさ!そうだな、それじゃ――息子は?確かお前は妻と息子がいると言ってたろ」
「ああ、どっちも元気だ」
ノマドは雷電からキングスレイヤー作戦の時、なんどか聞かされたことがあった。
なんでも息子は剣道をやっていて代表候補に選ばれている。なのに俺はそんな息子のチャンバラにまだ付き合わされているんだ。最近は力をつけて来たから相手をするのが大変だ、と。
サイボーグのくせに妙に子煩悩なところがシュールで覚えていた。
「そうか。で?」「あいつはもう大人だ」「それだけか?」「……」なにやらいきなり雷電の口が重い。
「マズい話だったか?離婚してたか?」
軍人の、特に秘密を抱えた部隊の隊員の離婚率は99%と言われるほどに高い。
「いや、それはない」
「いいんだ、気にするな。
俺達の業界じゃ夫婦の離婚率と言ったらそりゃもう――」「そうじゃない、ノマド」雷電の目が、なぜかうんざりした暗い目になっていた。
「ローズの奴――妻が最近うるさいんだ。俺にもっと家に戻るようにならないかって」
「ああ、まぁな。女ってのはそういうもんだろ?」
「……実は息子の希望で大学からイギリスに送り出したんだ」「学費のハナシか?そういうのはうちでもよく聞く」「ああ、俺の稼ぎは悪くないからそれは大丈夫なんだが――妻がな」雷電の肩に何やら重しでも乗ったか、勢いが徐々に消えていくのが後ろかてみてはっきりとわかった。
すこし意地悪い気分になり、こっちもしつこく聞いてしまう。
「女房が何だって?」
「彼女はなぜか怒る。家族は自分を大切にしてくれないって」「――なんだそりゃ?」
「彼女が言うには俺と息子は家族の事をちっとも考えていないらしい。自分は孤独なんだと」「お前の女房、鬱なんじゃないか?放っておくぞ酷いことになるかもしれんぞ?うちの若い奴がそれで3人ほど女房に帰宅をねらわれて撃たれた経験を持ってる。容赦ないぜ、そういう時の女は」
「それは大丈夫だと思いたいが」
「やぁ、甘く見るなよ。俺達に銃を向ける女の引き金は、男が思うほど固くはないぞ」
「ああ」
どうも話題が悪かったようだ。ノマドは急いで違う話題をふる。
「そういえば知りたいことはまだある。その恰好はどうしたんだ?前は外骨格をつかってたろ、今は?」
「話したろ?」
「俺はサイボーグの事情は知らないんだ。あれじゃさっぱりだ」
「そうか――」
そういうと雷電は少しだけ黙った。
参ったな、会話が出来ないのか?
そうではなかった。なにかを振り切るように、そのうちにポツポツと語りだした。
――時代は変わった。
古い友人だった男は戦場を見て思わずそう口にしたように。雷電もまたその言葉を繰り返した。
時代は変わった。俺が今感じているのも、つまりはそういうことなんだろう。2000年代、2010年代がそうだったように。この20年代でもそれは起こっている。
それでも予兆は確かにあったのだ。
ワールドマーシャル社最後の地となったパキスタンの空港。そこには事件当時、複数の目が存在した。
抑えられない好奇心から。真実を目にしたい欲望から。世界が注意を向ける視線の先に注目する存在は確かにそこに存在してみていた。その証拠として、雷電と事件の黒幕であったスティーヴン・アームストロング上院議員の激突を不鮮明で短時間の映像として記録して。
それが事件後、世界に拡散された――。
年をまたぎ、調査団に事件は未だ調査中と発表させる一方。キングスレイヤー作戦のカウントタウンが始まるアメリカにこれらの映像が衝撃を与える。
最初はアメリカ議会。
それまでは隠されていた事実。仮にも大統領候補であった男が、自らの身体をサイボーグへと改造して武装していた……このことを知って発狂する騒ぎがはじまった。
だがそれは当然の事ではあったのだ。
選ばれ、国の最高権力者となるその人物は。役目につけば世界中の他国の重要人物たちと直接話し合う立場になる。
それがよりにもよって武装化されたサイボーグとなって”戦える兵器”であったとしたら。世界有数の大国の代表は実はいつでも暗殺が行えるような武装化を行っていた、などと思われて信用にかかわる――。
議会はあっという間に紛糾し。
議員同士の病歴などを穿りあうひどく醜い争いを生んでしまった。
だがこれで終わりではない――続いて国の教育関係者が震えあがった。
亡くなったアームストロング議員自身、自らをスポーツマンであると事あるごとに口にし。実際に活動の中に子供達のスポーツを推進するものが数多く存在した。
問題は彼がそうした活動の中で子供たちに向かってスポーツの精神性やルールの大切さ。とくに薬物などのドーピングなどを良しとしない考えを訴えていたことにあった。
彼を支えた人気の間違いなく大きな部分は、そうした「強く正しくあること」を子供たちに訴える姿にあったが。当の本人はあろうことかナノマシン技術を使った肉体改造(サイボーグ)であったという疑いが、かの映像からほぼ間違いないとわかってしまったからだ。
スポーツ関係者は慌ててアームストロング議員の功績を消しにかかるも、子供たちの両親たちの怒りの方がそれよりも早く燃え広がっていってしまう。
混乱は精神的にも物理的にも分断を容易にしていってしまう。
アメリカは再び頭を垂れて自信を失い、混乱の中に叩き落されるのだが。驚くべきことにこの混乱はこの後世界にも波及するのである。
アメリカを混乱させる動きは彼らの国の中でも再現され。最終的にはひとつの方向を生み出し、それを教訓――答えとしてしまった。
サイボーグ技術への不信感である。
本来であればこの技術は身体機能を人工物でもって代価させる、という事が目的であって。生物的な身体機能を無理やり機械と融合させることで引きださせる、というのはあくまでもそれの使い方のひとつでしかなかったはずだった。
だが人々はそれを冷静に見ることは出来なくなり。業界を叩き潰さんと牙をむく。
国や団体からの研究費はみるみるうちに削り取られ。研究者たち、技術者たちは職を失ってしまう。
だがそんな彼らの逃げ道を与えたのが――皮肉にして元凶であったはずの戦場であった。
それぞれの軍営は戦場に入ってくるサイボーグたちを対処する方法を必要とし、この問題への知恵を技術を生み出していたサイボーグの専門家たちに求めた。
彼らは小さなプライドと貪欲な好奇心をみたし、兵士から血に汚れたドル札を受け取り、研究者たちはサイボーグの弱点となる武器の開発にかかわっていく。
効果はあっという間に表れた。
対サイボーグにバージョンアップした武器が次々と作られ、そのせいで戦場ではサイボーグ兵士から先に倒れていく。
それから数年がたつと――熱に浮かされたサイボーグ兵士への幻想の時代は終わっていた。
戦場は再び人間たちの手の中へと戻った。少なくとも、戦うサイボーグの姿は減っていた。
そして雷電は強化外骨格を捨てた。
戦闘サイボーグであることは、もう有利であることではなくなったと思ったのだ。