青年の異世界戦記〜ありふれた職業で世界最強〜 作:クロイツヴァルト
ある教室の中で大勢いる生徒がある2人の生徒を遠巻きに見ていた。
「おい、檜山またハジメをいじめているのか?」
「御坂何の事だよ⁉︎」
「あいも変わらずつまらん男だな。自分よりも弱い者にしか威張れぬ小物が」
赤茶の髪の不良の生徒は金髪で目付きの悪い生徒に詰め寄られている
「テメッ!」
「ほぅ、やるか?この俺と?」
睨み拳を握る檜山と呼ばれた生徒に御坂と呼ばれた生徒は不敵に笑う。
「もう!止めなさいよ二人とも!」
藍色の髪の女生徒はそんな二人の間に入り仲裁をする。
「なんだ白崎、俺はこのバカに教育的指導をしてやる所だったのだが?」
白崎と呼ばれた女生徒は御坂に体ごと向き直り
「御坂くんも弱い者イジメはダメだよ!」
「っぐ!」
白崎に弱い者とされた檜山は苦虫を噛み潰したような表情になり御坂はそれを見て笑いを堪えるのに必死であった。
「ククックハハハハ!無様だな檜山よ!貴様の嫌う弱者と見られるとは滑稽よなぁ。」
「御坂、テメェ!」
歯を剥き出しにして尚も睨む檜山に対して御坂はこのクラスの担任である畑山愛子を見るが今の現状にアタフタと右往左往しているのであった。
「はわわッ!け、喧嘩はいけませんよ!」
「ん?」
そんな時に御坂のいや、教室の床全体が光り始める。
「これは!?」
「皆!教室から出て!」
誰かが叫び愛子が生徒に呼び掛けるが虚しく光が強まり次の瞬間には教室の中は文具やお昼の時間であったのであろうか床には弁当が落ちているのみであった。
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「…ここは?」
御坂が目を覚ますとそこはどこかの祭壇か大広間の様な作りをした所であり周囲を見れば等間隔に跪き祈りを捧げる人々がいた。そして、周囲の状況が分からずに困惑する生徒の中で未だに気絶をして彼の足元で気絶している南雲に御坂は戸惑いも無く足で南雲の腹を踏むのであった。『外道だ⁉️』
「ゴッフッ⁉︎」
「目が覚めたか、ハジメ?」
この男踏んだ相手にしれっとそんな言葉をかけるのである。
「か、戒翔もう少し起こし方ってものが無かったのかな?」
「ふん、野郎を優しく起こすだと?そんな事をこの俺がするものか。 それよりも周りを見てみろ貴様の好きそうな状況だぞ?」
「これは」
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎いたしますぞ。私は、聖教会に置いて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルトと申す者。以後、宜しくお願いいたしますぞ」
そう告げたのは周囲の跪く人と同じく白の法衣でありながら一際豪華な造りをした法衣を着た老人であったが身に纏う雰囲気だけは老人らしからぬものであった。
「ふん、好好爺の様な雰囲気だが胡散臭さが滲み出ているな。」
「か、戒翔、なにを言ってるの?」
「…まぁいい。他の者達も移動する様だから俺たちも移動するぞ」
「あ、待ってよ!」
戒翔が歩いて行くのをハジメは慌てて追い掛けるのであった。そして現在はどこかの城の様な造りでとても大きなテーブルが幾つも並び傍目からも調度品や絵画など素人目から見ても価値がありそうな物が並んでいた。おそらくは晩餐会などの行事に使われる部屋である事が見て取れた。
道中で教皇イシュタルが後ほど説明すると告げた事や、突然訳も分からずにこの様な所に連れて来られて騒がないのは未だに現実として受け止め切れていないのとクラスメイトの中で持ち前のリーダーシップを天之河光輝が遺憾無く発揮してクラスメイトを落ち着けたからである。これには一緒に連れて来られた担任の愛子先生も涙目である。
「ふぅん、それなりの物が置いてあるのだな」
「か、戒翔、そんな事言って大丈夫なの?」
「お前は気が弱すぎる。そんな事ではこの先やっていけるかどうか分からんな。」
「それはどう言う」
戒翔の言葉にハジメが聞き返すがその最中にこの大広間に大小様々なカートを押しながらメイド達が入室した事によって場の雰囲気が変わる。クラスの男子の大半がその入ってきた美人美少女と呼ばれる部類に入るであろうメイドを食い入る様に見る中で対照的に女子の視線が絶対零度をもって男子達を見る。
「さて、あなた方においてははさぞ混乱している事でしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞きくだされ」
イシュタルはそう告げる中、戒翔はそうそうに興味を無くし背もたれに背を預け自身の中に語りかけ始めるのであった。
《ナハト、現在の状態で起動は出来るか?》
《問題なし、いつでもイケるよ?》
《そうか、今はまだ経過観察で静観するが話の内容が胡散臭過ぎる》
《だよね、っとなんか周りが騒ぎ始めたけど?》
《まぁ、連中も何も知らずに平和な国から無理矢理連れて来られた訳だし帰れないとか言われたらそりゃ文句も出るわな》
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味が無い。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺には出来ない。それに、人を救う為に召喚されたのなら、それが終われば返してくれるかもしれない。………イシュタルさん? その所はどうなんですか?」
「そうですな。 エヒト様も救世主の願いは無下にはしますまい。」
「そうですか。それなら」
イシュタルと光輝の話の中を割る様に突然手を打ち鳴らす者がいた。それは
「か、戒翔急にどうしたの⁉︎」
「いやはや結構な御高説をどうも、自分に酔っている野郎の言葉のなんと胸糞の悪くなる話なもんでな。」
「御坂くん、僕のどこが自分に酔っていると言うんだ?」
「全部だ全部。 貴様は戦うと言ったな? では何処で? 誰と?魔物か?それとも襲ってくる魔族とやらか? そも俺達は戦争を映像としてしか知らんくせにその悲惨さも知らぬくせによく言えた物だな? 爺さん、その所はどうなんだ? 戦う術を教えるのは良いが対人戦となればこの場の俺たちはどうしようもないと思うが?」
光輝の言葉を真っ向から叩き潰す様に告げる戒翔は続いてその場を静観していた老人にその矛先を向ける。
「あなたの言いたい事はわかりましたが、これはどうしようもない事なのです。」
「違う、俺が聞きたいのはそう言う事では無いわ。 現状をどう説明された所で覆しようが無いのは一目瞭然であろう、ならば改善する為の次善策がある筈であろう? それを早く提示すればこの様な茶番をせずに済んだであろう?」
戒翔の言葉にイシュタルは一瞬だが忌々しい表情をするがそれもほんの一瞬での事で戒翔以外はそれに気付く者はいなかった。
「確かにそうですな、わたしの話が長すぎてその事を告げる前に話が逸れてしまって申し訳ない。 勿論、皆様にはこのハイリヒ王国の選りすぐりの騎士団と騎士団長が直々に訓練をつけて下さいます。 それに皆様方には素晴らしい我々には想像もつかない御力をお持ちの筈です。 彼の国では既に勇者様方の受け入れが整っておる筈です。 この教会には移動する為の転移の術式がありますのでそれで移動してもらう事になりますな。」
そう告げるイシュタルだが、戒翔を見る目だけがまるで怨敵を見るかの様な目付きであった。