青年の異世界戦記〜ありふれた職業で世界最強〜 作:クロイツヴァルト
「ふむ、訓練として行くダンジョンというのは百層からなる大迷宮か…」
戒翔はあの後書庫に案内してもらい色々とこの世界に対する知識を身につける為に行動をしていた。そして戒翔達はメルド団長率いる数名の騎士と共に冒険者の集まる街【ホルアド】に到着しその日はそのまま宿に泊まり翌日から迷宮に潜る流れとなった。そして戒翔達が泊まる宿は新兵の訓練ににも使われる国直轄の直営店である。
《オルクス大迷宮》
全百層からなる巨大な大迷宮と言われこの世界にある七大迷宮の一つで階層が深くなればなる程その中に 存在する魔物の強さも比例する様に強力になる。しかし、そんな所であるがこの迷宮は冒険者や傭兵に新兵等の訓練に非常に人気である。その理由が浅い階層であればそこまで強力な魔物が存在しない上にその階層毎の魔物の強さを計る事も出来る為に対策が立てやすいい事も挙げられ、迷宮と外の魔物との大きな差であるのが魔物が内包する魔石の質である。魔石とは魔物を魔物たらしめる代物で人類に対しては魔法具や魔法陣を描く際に使用されとても重宝されているのである。
「国の方針としては浅い階層から戦いに慣らしてあわよくば最深部まで攻略させようって所か。」
戒翔は目の前に浮かべたホロウィンドウに先ほど調べた本の写しを流し見しながらそんな感想をこぼす。
「それにしても…他の迷宮は他の国や地域にあるからなのかそこまで詳しい情報があるわけでも無かったな。他にも胡散臭い伝承の様なものまである始末……聖教会といい世界の伝承といい何かを隠しているのは確定だな。だが、そのかくしているのが何かって
所だな。正直なにを隠しているのかすら判断が出来ないからな。ま、そこはこれから調べるしかなさそうだが」
そう独り言をこぼしていると部屋の入り口の方から誰かがノックする音が響く。
「…開いてるぞ。」
戒翔はまるで誰かが来るのをわかっていた様に目の前の画面を消して告げると扉を開けたのは
「こんばんわ、夜分にごめんなさい。」
そう言って入って来たのは純白のネグリジェに薄いカーディガンを羽織った雫が立っていた。
「いや、大丈夫だ。それで、どうした?そんな薄手の格好で危ないだろうが」
「ちょっとね、戒翔と話がしたくて」
「どうした、不安か?」
不安そうな表情の雫に戒翔は椅子から立ち上がり雫に近寄り自身より頭一つ低い雫の頭を撫で不安に押し潰されそうな雫を落ち着かせる様に撫でながらそう聞く。
「えぇ、本当に私たちでこの国を救うことができるか分からないわ。」
「そんな事は実際にやって見なければ分からんさ。実際に道中の魔物との戦闘も苦戦せずに出来ていたじゃ無いか。」
「確かに苦戦はしなかったけどそれはメルド団長達騎士団の助けがあってこそよ。実際にはほとんどのクラスメイトはそこまで戦えていないわ。」
雫の脳裏には先日の戦いの中で震えるばかりのクラスメイトの中で突出して戦闘に出ていた戒翔の姿が過ぎる。勇者である天之河よりも前に出て武器を使わずに己の四肢でおそいくる魔物を屠る姿に雫は己を奮い立たせ、そして自身の道場で培った技術をなんとか発揮して自分に迫る魔物を倒しているのを思い出す。
「当たりまえだ。最初から上手く戦おうなんて考えている自体傲慢だ。新人や新兵が最初に覚えることはいかに生き抜くことだ。確かに国や時代が違えば誇りある死とか名誉のとか言うがそんな物は綺麗事だ。死は死だ。死んではそこで終わり残された者が哀しむだけだ。」
「…それは戒翔も…よね?」
「雫?」
戒翔の制服を弱々しく雫が掴み戒翔を見上げる雫
「この世界に来た時から時々感じるのよ。戒翔がどこか遠くに行ってしまうんじゃ無いかって」
「そんなことは無い。俺には護りたいものがあるからな。それに俺は死なんよ、ハジメや白崎に雫。お前達を無事に元の世界に帰すまではな。」
そう言って雫の手に自身の手を重ねて優しく包む様に握る戒翔。そして雫が見上げたまま何かを期待している様に見上げるが
「この続きは迷宮の攻略が終わってからだ。…だから今はこれで我慢してくれ。」
そう言って戒翔は少しだけ屈み雫の額に唇を落とす。
「……何かやたらと慣れているのが気になるけど確かにそうよね。 愚痴に付き合わせてごめんなさい。それとお休みなさい。」
僅かに頬を赤くした雫はジト目で戒翔を見上げながら言うが早いか足早に部屋を後にする。
「そうさ、この世界の中でなにが起ころうと立ち止まるわけにはいかん。それが他の人間を殺める事になろうとも。」
窓の前に立ち夜空に浮かぶ月を見上げながら雫の言葉を思い出し、改めて決意するのであった。
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「ここが迷宮の入り口だ。」
翌日メルド団長の先導の下、一同が辿り着いたのは迷宮というのだから洞窟の様な物を想像していたが想像を超えて現れたのはまるで博物館の入り口の様な扉であった。そこでは何人かの冒険者が門の近くの受付でプレートを出して受付口の仕事用の制服を着た女性に渡している。
「あそこでは迷宮に入った者や帰ってきた者のプレートを確認し記録する所だ。万が一のトラブルが起きた時にすぐに動ける様にというのと不必要な死者を出さないことが目的だ。さ、俺達も受付で記録を取ってもらったら早速潜るぞ。」
そう言ったメルド団長に続く様にクラス全員が受付に向かう。
「中はそこそこの広さだな。」
「うぅ、大丈夫かな?」
「なにを気後している。貴様も男ならもう少しシャキッとせぬか。」
中に入ると外の喧騒が嘘の様に無く縦横が五メートル以上ある中で通路には松明等の光源がないにも関わらず薄ぼんやりと光っており松明や発光用の魔道具が無くともある程度の視覚の確保が出来る様になっていた。
「…これは周囲の壁や地面に魔力が流れているのか?」
不思議そうに周囲を見ながら全員で移動しつつ戦闘も交代で行うが、この町に着く道中で触りだけとはいえ魔物と遭遇し戦闘をした数名は難なく熟す事が出来ていた。そして特に目立ったトラブルも無く一同は交代を繰り返しながら戦闘をして行く。流石に非戦闘職のハジメは敵の足止めがメインだが要所要所で的確に敵の動きを地面を錬成する事で阻害し身動きの取れない所へ後衛組の魔法等で倒していた。
そして、一行は一流の冒険者か否かを判断する為の階層である二十階層に辿り着く。現在の最高到達階層は六十五階層であり百年以上前の冒険者が成した偉業であるがそれ以降を攻略できた者はおらず…今では超一流と呼ばれる者は現在の階層よりも倍近く超えて四十層を超え、ニ十層を超えた者は十分に一流と呼べるだろう。
そしてそんな中で戒翔達は召喚された者として反則じみた能力がある為にあっさりとこの二十階層まで下りる事が出来たのであった。
しかし、迷宮の恐ろしい所は魔物だけでは無い。一番に怖いのは罠である。嫌がらせ程度の物があれば酷い所だと致死性の物が多数存在する場所もあるというのだ。その対策として〝フェアスコープ〟という物が存在しこれにより魔力の流れなどを見て罠の存在を見抜く事が可能で便利な反面、索敵範囲が狭くスムーズに進む為にも使用者の経験がものをいうのである。
そして二十階層から二十一階層に下りる為の階段が存在するフロアの近くまで来た時
「付近に擬態した魔物がいるぞ!周囲をよ〜く注意しておけ!」
メルド団長の忠告が一同に届くのと同時に前方の壁のせり出して一部が突如変色しながら起き上がる同化していた灰色だった体は今や変色が終わると褐色色の二足歩行のゴリラの様な姿の魔物となり胸を叩きドラミングをしてここちらを威嚇するのである。タコやカメレオンの様な擬態能力を持った魔物のようでりメルド団長の警告が無ければ大半の生徒はとても慌てていたであろう。
「ロックマウントだ!奴の両腕には気を付けろ!とても豪腕だからな!」
迫るロックマウントに対して勇者一向のタンクの様な役割を持つ龍太郎が迫る豪腕を自身の拳で弾く。その隙に天之河や八重樫が囲もうと動くが地形的に動きがスムーズとは言えず中々思うように囲む事が出来ないでいた。そうこうしている間にロックマウントは目の前の相手である龍太郎を抜けないと感じたのか大きく息を吸い込むと
「グゥガガガァァァァーーーー!!!」
部屋全体に響く様な大音量の咆吼が響き渡る。
その叫び自体に攻撃力はないもののその咆哮は聞いた者を硬直させてしまうロックマウントの固有魔法〝威圧の咆吼〟であった。
そしてそれをまともに浴びた最前線にいる天之河達は一時的にだが動く事が出来ずにロックマウントに次の行動を許す結果となってしまった。
ロックマウントが起こしたのは付近にある自身と同じ位の大岩を持ち上げると後衛組にむけてそれを思い切り投げつけるのであった。それをみて後衛組にいる白崎達が防御の為に魔法を唱え発動させようとした時である。
「ヒィッ!」
投げられた大岩もまたロックマウントであったのである。擬態を解いたロックマウントは大きく腕を広げて白崎達のいる後衛組に向けて。さながらそれは某大泥棒の有名なダイブでありロックマウントの目が血走り、鼻息も荒いという表情が尚の事少女達には恐怖を想起させるものであった。
「やれやれ、この位で動揺してどうするんだか。」
後衛組の護衛に立っていた戒翔はそう言うやいなや軽く飛び上がると迫るロックマウントに対して
「気持ち悪い格好で来るな、この変態が!」
見事な空中回し蹴りをロックマウントの胴体に叩き込みロックマウントは真横に吹き飛ぶと壁に激突してそのまま動かなくなる。
「おい、そこの三人!みっともない格好を見せるのなら下がっていろ!」
続いて戒翔は余計な仕事を増やすなとばかりに投げ手であるロックマウントの胴体に目掛けて片手に生成した魔力弾を先ほどのお返しとばかりに砲丸投げのフォームで投げ込み見事な風穴が開くのと同時にロックマウントは仰向けに倒れて絶命する。
「ふぅ、とりあえずここでの戦闘はここまでかな?」
そう呟いても戒翔は警戒を解かずに周囲の索敵をする。
「……あれ、何かな?キラキラしてる…」
その最中に戒翔の後ろにいた白崎が先ほど戒翔が蹴り倒したロックマウントがいる方で何かが光るのを見つける。
白崎の見つめる先には純白のまるで花が開いたかのような鉱石が生えていた。その美しさにこの殺伐とした空間の中なのに白崎を初めとした女子達がうっとりとするほどであった。
「ほぅ、あれはグランツ鉱石だ。しかも中々に大きい奴だ。珍しいな?」
メルド団長が告げたグランツ鉱石とは宝石の原石の様なもので特にこれといった効果があるわけでは無いが、その神秘的で煌びやかな輝きが貴族のご婦人やご令嬢にとても人気があり、加工して指輪にして贈るととても大変に喜ばれる。そして婚約指輪に選ばれる宝石としても三本の指に入るほどの人気ぶりである。
「素敵…」
メルド団長の簡単な説明を聞き、それを改めて見てウットリする白崎を見て雫もグランツ鉱石を見てから頬を赤くしながら戒翔を見る。そのせいかある生徒の軽はずみな行動に気付くのも遅れてしまう。
「だったら俺達で回収しようぜ!」
そしてその軽はずみな行動をしたのはハジメを虐める檜山がグランツ鉱石のある岩肌をよじ登りながらそんな事をいう。何度でも言うがここは迷宮であり危険な物は魔物だけでは無い。罠だって十分に危険である。そして統率が取れていない者が比較的にパーティーを危険に晒すのである。
「待て、勝手な事をするな!まだ安全確認も終わっていないんだぞ!」
しかし、檜山はその声を聞こえていないフリをして鉱石のある所まで辿り着く。たとえ手遅れでもメルドは檜山を連れ戻そうと動くが
「団長、罠です!」
「ッ!?」
メルドの動きも虚しく団員の声により止めざる終えなく。檜山が鉱石に触れるのと同時に鉱石を中心とした魔法陣がフロア全体を覆い尽くす。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に近付いた者への罠である。どの様な美味い話には裏がある様にこの様に貴重な物に仕込まれている罠もまた存在するのである。
「くそッ!撤退だ!早くこの部屋から出るんだ!」
メルドの言葉に生徒達は急いで部屋を出ようとするがその行動も虚しく部屋が一際強い光に包まれ、 次の瞬間にはそのフロアにいたメルド団長を含めた勇者一行の姿はどこにも確認することは出来なかったのである。