青年の異世界戦記〜ありふれた職業で世界最強〜   作:クロイツヴァルト

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第三話

 

 

 「ここは」

 

 光が収まり目の前に広がるのは先ほどとは違う景色であり全員が同じ場所に転移したようで巨大な石造りの橋でザッとみて凡そ百メートル以上あり戒翔達はその橋の真ん中に転移していた。

 

 「な、何なんだよこれ!」

 

 そう叫ぶのは先ほどグランツ鉱石を触って罠を発動させていた檜山が未だに立ち上がらずに尻餅をついた状態で周りを見ながら狼狽えていた。一部の前衛職やメルド団長や他の騎士達は既に立ち上がり周囲の警戒をしていた。橋は百メートルを超え、天井は先ほどまでいたフロアよりも高く数十メートルはあるようにうかがえる。そして橋の下は地面や川等が見えるはずも無く何も見えない真っ暗闇……落ちれば奈落の底という様相で落ちれば飛べない人間などただでは済まないだろう。

 

 「全員、直ぐに立ち上がって、あの上り階段の場所まで急いで移動しろ!」

 

 見れば橋の幅は約二十メートル程はあるが手摺りや縁石もなく足を滑らせたら一巻の終わりである。そんな橋の両橋には下に下りる階段と上に上がる為の階段が存在しておりメルドは大きな声で上層に上がる為の階段を指しながら全員に聞こえるように 号令する。それに慌てて生徒達はワタワタとしながらも動き出す。しかし、迷宮の罠が転移トラップだけという甘い物では無い。退避しようとする生徒と騎士団を挟む様に巨大な魔法陣が両端に現れるとそこから夥しい数の魔物が現れる。上層に向かう為の場所には大量の骸骨の魔物が、そして下層に続く通路の先には二本の角を持った四足獣の様な大型の魔物が現れる。そして大型の魔物が現れるのと同時にその大きな口から大音量の雄叫びを上げる。

 

 「ま、まさか………べへモス……なのか?」

 

 後方には夥しい数の骨格標本の様な姿に剣と盾を持った魔物〝トラウムソルジャー〟が、そして前方は巨大な魔物〝べへモス〟

 

 「アラン!生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ!カイル、イヴァル、ベイルは全力で障壁をはれ!奴をこの場に釘付けにする!光輝、お前達は生徒達と一緒に階段に向かえ!」

 

 「待って下さい!俺達もやります!あの恐竜みたいなのが一番ヤバそうです、だから!」

 

 「馬鹿野郎!もしあの魔物が本当に〝あの〟べへモスなら、今現在のお前達では敵わん!奴がいる場所は六十五階層の魔物だ。かつて〝最強〟と言わしめた冒険者ですら歯が立たなかった正真正銘の化物だ!分かったならさっさと行け!俺はお前達を死なせる訳にはいかんのだ!」

 

 瞬時に状況を判断して指示を飛ばすメルドに対して近くにいた光輝は直ぐに反論するがメルドに叱責される。しかし光輝はそんなメルドの言葉に見捨てては行けないと踏み止まる。そんな光輝に対してどうにか撤退させようとするメルドだが、そんな悠長な事をしているとべへモスが自身の角を赤熱させながら突き出して突進してくる。

 

 「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さずーー〝聖絶〟‼︎」」」

 

 二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣に四節も使った詠唱に加えての三人同時発動による防御結界の構築。一回きりのしかもたった一分間だけの害意を持ったモノを退ける為の不可侵領域が出来上がる。突撃してきたべへモスは関係ないとばかりに突っ込むが壁を破る事は叶わなかったがその衝撃までは防ぎ切れず、べへモスの足下の石畳は粉砕され、橋全体が大きく揺れて 生徒達の中でも運悪く体勢を崩してよろけて倒れる生徒が出てしまう。そんな生徒に対して目の前に骸骨の魔物〝トラウムソルジャー〟が大きく剣を振りかぶる。

 

 「あッ!」

 

 目の前で振りかぶる剣を見て絶望の声を上げる生徒だが、次の瞬間

 

 「ハジメ、ナイスアシストだ!」

 

 生徒の目の前の地面が突如隆起するのと同時に戒翔が倒れた生徒の目の前の骸骨を殴り飛ばして橋の上から真下の奈落の底へと叩き落とす。そして地面を隆起させたハジメはそのまま周囲の地面を一部隆起させ続けて滑り台を滑る様に多くの骸骨の魔物を奈落の底へと落とすのであった。当初、ハジメは錬成をここまで連続でする事は出来なかったが、錬成の練度が上がって肩で息をするが連続で錬成をし、範囲も多少だが広くなっている。

 

 「はぁはぁ!」

 

 恐怖と緊張で喉の奥がカラカラになるハジメだが魔力回復薬で魔力を回復しつつ喉も潤すと戒翔の方を見て大きく肯き次の現場へと急ぐ。そんなハジメを他所に戒翔は倒れ込んだ生徒の腕を取り引っ張り上げる。そんな様子を茫然としながらもされるがままに生徒は立ち上がる。

 

 「早く前へ行け。冷静になればあの程度の魔物なら簡単に対処出来る。このクラスは全員が反則じみた能力を持っているのだからな。」

 

 「うん、ありがとう!」

 

 そう言って生徒の背を優しく押して告げて振り返って他の魔物を倒しに行く戒翔に向けて感謝の言葉を言って上層に向かう為の階段の方に駆け出す。

 

 「ったく、このパニックを抑えるのは骨が折れるがそれをするのはあの阿呆にやらせた方がいいか。ちょうどハジメも同じ事を考えていた様だし」

 

 戒翔の視線の先には依然、障壁に突撃を繰り返すべへモスが見えておりその下では言い争うハジメと天之河が見える。

 

 「アレが見えないのか!皆、パニックになっている!リーダーがいないからだ!」

 

 天乃河の胸倉を掴みハジメが指差した先にはトラウムソルジャーに囲まれて右往左往する生徒達の姿があった。パニックになっている事もあり、訓練で教わった動きなど忘れて剣や魔法をやたらめったらに使う。そんな様子を見て天之河は迷いを断つ様にかぶりを振る。

 

 「メルド団長!すいませ 「下がれぇーーー!」

 

 天之河の声を遮る様に焦ったメルドの言葉が響くのと同時に硝子が砕ける様な音と共に自分たちとべへモスを遮る壁が砕け散る。砕けた衝撃なのか物凄い衝撃と風がハジメ達を襲い吹き飛ばされる。障壁により多少の威力は殺す事が出来たが、もしその衝撃が殺し切れていなかったらーーー

 

 舞い上がる砂塵はべへモスの咆吼により一気に吹き飛ばされる。そして砂塵の晴れた先には呻き声を上げて倒れ伏す団長に三人の騎士も倒れていた。

 

 「ぐッ……!雫、龍太郎、時間をかせげ「その必要は無い。」んなッ!御坂!?」

 

 「雫はそこの騎士を頼む。脳筋は二人、天之河は団長を担いで行け。」

 

 剣を支えに立ち上がった天之河の前には悠然と立つ戒翔がおり、天之河を横目に確認すると戒翔はそう指示する。

 

 「なんでお前に指図されないとならない!僕はまだ戦える!」

 

 「はッ!そんなボロボロの癖に何を言っている?いいから団長達を起こして後方まで下がれいい加減鬱陶しいんだよ。」

 

 そんな天之河に冷たい目で見ながら戒翔はそう言い放つ。

 

 「お前!」

 

 「光輝、ここは戒翔に任せて私達は団長を助けて下がりましょう。」

 

 「雫、君まで」

 

 「いい加減にして!今ここでやらなければいけないのは戦う事じゃなくて生き残る事よ!退路も無いまま戦って疲弊したまま撤退出来ると本気で思ってるの!」

 

 雫の物言いに反論しようとする天之河だがそれ以上の剣幕で雫が告げるとその気勢を削がれ、また考えなしだったのが図星でもあるのだろう天之河は目を逸らして弱々しく肯く。

 

 「くッ!……分かった、俺達は下がる。だが一人では」

 

 「誰が一人だ、最高のサポート役がそこにいるじゃ無いか。」

 

 そう言って戒翔が見た先にはこちらを茫然と見ていたハジメだが戒翔の言葉と視線に自身だと気付いた時には決意の篭った目で戒翔を見て軽く肯くと前に出る。

 

 「戒翔、僕は何をすれば良い?」

 

 「やつの注意を逸らすから奴がまた角を地面に突き刺した瞬間に奴の周辺を錬成して足止めだ。だが、奴の目の前で錬成し続けるのはかなり至難だ……出来るか?」

 

 ハジメを見て驚く天之河を尻目に戒翔はハジメに作戦を伝える。

 

 「分かった。やれるだけやってみる。」

 

 「そういう事だからお前達は団長達を連れて後方の退路の確保を頼んだぞ。いざ逃げようって時に退路がなければ死ぬだけだからな。」

 

 ハジメと一緒に今も地面から己の角を抜こうと格闘するべへモスの前で戒翔はそう天之河達に言う。

 

 「戒翔、絶対に戻ってきてなさいよ?」

 

 「当たり前だ。可愛い幼馴染を残して死ねるか。」

 

 「もう………バカ」

 

 心配する雫の言葉に戒翔は揶揄う様に笑って告げる。こんな殺伐とした場所で無ければ赤面してしまう雫だが今この場所が戦場である事を意識しているのか真面目な表情のまま小声で誰にも聞こえない様に悪態を吐くと天之河を急かしながら雫もまた騎士の一人の肩を担いで白崎の回復魔法を受けながら後方へと向かう。

 

 「さて、ハジメ。死ぬなよ?」

 

 「それはこっちのセリフって言いたいけど実際に僕は弱いからね。死なない様に努力するよ。」

 

 漸く角が抜けたべへモスは立ち塞がる自身よりも幾分も小さい存在である二人に対して威嚇の咆吼を上げる。

 


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