青年の異世界戦記〜ありふれた職業で世界最強〜   作:クロイツヴァルト

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第八話

 

 「……だれ?」

 

 「これはなんとも」

 

  「人…なのか?」

 

 扉の先にいた存在に戒翔とハジメは困惑する。それは巨大な立方体に下半身と両手を中に埋められた年端も行かない様な少女であり見事な長いブロンドの髪がかのホラー映画で有名な幽霊の様に垂れ下がり、そのストロベリームーンを思わせる瞳が二人を見る。

 

 ハジメはそれを見て踵を返そうとするが、その襟首を戒翔に掴まれる。

 

 「離せ、俺は他の道を探して来る。」

 

 「まぁ待て。先ずはこの子の話を聞いてからでも問題ないだろう?」

 

 「……お願い、助けて……」

 

 とてつもなく嫌な表情のハジメに戒翔は真面目な表情で項垂れていた少女を見ると、少女は憔悴しきっているのか掠れた声で助けを求めていた。

 

 「そもそも、こんな奈落の底で明かに封印されている様な奴を助けて何になる?絶対にヤバイだろ?それに此処には迷宮を脱出する為の手がかりもない様だしな」

 

 「ハジメはホンットに奈落に落ちてから変わっちまったな。香織が見たら怒りそうだな。」

 

 「なんで此処で白崎さんが」

 

 「それで、君はなんでこんな怪物が跳梁跋扈する奈落の底で封印の様な事になっているんだ?」

 

 呆れ顔の戒翔に不満げな表情のハジメだが、そんなハジメをよそに戒翔は磔の様な状態の少女に近付きながら質問をする。

 

 「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる…だから皆の為に頑張った。でも…ある時に……家臣の皆がお前は必要無いって……おじ様……これからは自分が王様だって……私はそれでも良かった……でも、私、すごい力あるから危険だって…殺せないなら……封印するしか無いって……それで、ここに」

 

 ほとんど枯れた喉で懸命に言葉を紡ぐ少女の言葉に驚くハジメとやはりなとばかりに思案顔の戒翔

 

 「君は王族…しかも女王の様な立場で、家臣に裏切られたって事か」

 

 「殺せないってどういう事だ?」

 

 「……勝手に治る。怪我しても直ぐに治る。首を落とされてもその内に治る」

 

 戒翔とハジメの質問に少女が語った事にハジメは目を見開く

 

 「…そ、そいつは凄まじいな。すごい力ってのはそれの事か?」

 

 「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

 二人はなるほどと納得する。ハジメは魔物を食べて直接魔力を扱える様になったが、依然として大掛かりな物に関しては陣が必要であり、碌に魔法が使えない事には変わりは無い。しかし、少女の様に魔法の適性がある人物が魔力操作を覚えると話は違う。周りが詠唱や魔法陣で準備している中で無詠唱で魔力が続く限り撃てるのだからその反則具合は分かるはずである。そして、不死。絶対的では無いのであろうが、勇者を凌ぐ様な力である事は明白である。

 

 「……たすけて……」

 

 「どうする、ハジメ?」

 

 「お前はどうなんだよ?」

 

 懇願する少女を前にハジメに問うが、ハジメは逆に戒翔に問う。

 

 「…俺か?俺は助けようと思うが?」

 

 そう言って戒翔は少女の体を拘束している立方体に触れる。

 

 「俺でもコレは解除ないし破壊は出来るだろうけど、ハジメの職業ならこれを解析して分解するなんて簡単だろ?だからハジメの協力が必要なんだよ。」

 

 戒翔の言葉にしばし葛藤するハジメだが、遂には観念したのか頭をガシガシと掻き

 

 「だー、分かったよ!ただし、そいつの面倒は戒翔、お前が見ろよ!」

 

 そう告げてハジメは立方体に触れて錬成士の能力を使い少女を閉じ込めていた立方体を分解する。最初は立方体は抵抗するかの様にハジメの赤黒い魔力を弾いていたが、ハジメも負けじと注ぐ魔力を増やし対抗する。

 

 「意外としぶとい様だな…ハジメ、俺の魔力も使え〝トランスファー〟」

 

 「これは…コレなら!」

 

 戒翔から流れて来る魔力はハジメをして驚くほど力強い物で先ほどまで強い抵抗感を感じていた立方体の力が弱く感じるほどであり、徐々に空気に溶ける様にして消えて行く。そして長い間少女を閉じ込めていた物体が消え、少女はその場に一糸纏わぬ姿で地面にペタリと座り、ハジメと戒翔を見上げる。ハジメもまた普通であれば無理な魔力運用で疲労してもおかしく無いが、戒翔から流された尋常では無い魔力によりそこまでの負担にはならずに済んだが、それでも疲労しており肩で息をしていた。

 

 「はー…はー…コレで文句ないだろ?」

 

 「あぁ、上出来だ。流石はハジメだな。」

 

 「はっ、皮肉か?戒翔の魔力なきゃもっと手間取ってたのは確実だったぜ?」

 

 荒い息を吐くハジメは隣に立つ戒翔を見上げながら告げると戒翔は満足げな表情で告げる。ハジメはそれを聞きながら地面に腰を下ろしながらニヒルに笑う。

 

 「さて…と、お嬢ちゃんもそんな格好だと色々とまずいしな…このマントでも羽織っておくといい」

 

 そう言って戒翔は何処からともなく真紅のファー付きのマントを取り出すと少女にかぶせる様にかける。

 

 「……あ、ありがとう」

 

 戒翔から渡されたマントに身を包みながら少女は頬を少し紅くしながら弱々しく戒翔の手を握りお礼を言う。握って繋がった手はそのままに戒翔は無表情な少女の目を見る。表情が動かなくともその瞳が彼女の気持ちを雄弁に語る様に宿っていた。

 

 戒翔は以前、城の資料庫で見た吸血鬼についての記述は数百年も前のことだと記憶していた。そしてそんな永劫とも呼べる時を孤独に過ごしていた少女は既に声の出し方や表情の動かし方を忘れるほどであると理解もしていた。そんな戒翔は先祖返りとはいえただの少女がよくもまぁ発狂しないものだと感心もしていた。そんな少女を見ながら戒翔は空いた手でその頭にポンと手を置く

 

 「よく頑張ったな。」

 

 「……あなたたち…名前、なに?」

 

 「俺は戒翔だ。御坂戒翔。で、そっちで座ってんのが南雲ハジメだ」

 

 少女は二人の名前を呟く様にまるで自身に刻み込むかの様にしていた。そして、自身の名を告げようとするが急に噤み、

戒翔を見上げ

 

 「……名前、付けて」

 

 「は?」

 

 「ハジメ、察しろ。以前の名前は使いたくないんだろう?」

 

 「うん。もう、前の名前はいらない。……ハジメとカイトの考えた名前がいい」

 

 「とは言ってもな…戒翔は何か案はあるか…?」

 

 「急に言われてもな……〝ユエ〟ってのはどうだ?お嬢ちゃんのその紅い瞳に月の様な色の髪を見て思いついた。俺達のいた故郷では〝月〟って意味なんだよ。」

 

 「ユエ?……ユエ……ユエ」

 

 「どうだ?」

 

 少女は戒翔の言葉に驚いた様にパチパチと瞬きし、相変わらずの無表情だが、どこか嬉しげに瞳を輝かせ

 

 「……んっ。今日から私はユエ。ありがとう」

 

 「さて、挨拶や紹介そのた諸々が終わった所で邪魔者の排除をしようかね」

 

 「は……ッ!?」

 

 お礼を言う少女に満足げな顔で戒翔はそう呟き、少女の手をやんわりと解き頭上を見上げながら告げ、そんな戒翔にハジメは訝しむが直ぐにスキルである〝気配察知〟を使い絶句する。今までに感じたことのない様な化け物の気配を感じた。そしてその気配はそう…戒翔がちょうど見上げる先のこの部屋の真上にある天井だ。

 

 ハジメが気がつくのと同時に魔物が天井から落ちて来るのは同時であった。

 

 「くっ!」

 

 「ハジメ、ユエを抱えて離れていろ。」

 

 咄嗟にハジメはユエを抱えて〝縮地〟を使う。その際に隣にいた戒翔の言葉に目をコレでもかと見開きながらも声を出す余裕もなく離れる事しか出来なかった。

 

 「ユエと話している最中に襲ってこなかったのは様子を見ていたからなのか、それとも別の要因があったのか知らんが……彼女をこれ以上苦しめるのは見過ごせんなぁ!」

 

 べへモスに負けず劣らずの図体をした魔物は四本の長い腕に二本のデカい鋏を持ち、八本の大きな足を忙しなくワシャワシャと動かし、二本の尻尾が生えておりその尻尾の先端には鋭い針が付いていた。その姿は簡単に言えば巨大なサソリである。そんなサソリを前にしても戒翔は不敵な、そして獰猛な笑みを浮かべて腰を少し沈める様にして半身の構えを取る。

 

 「俺達の邪魔をするモノは誰であろうと……殺すだけだ!」




と、言うわけで作者の好みによりハジメハーレムからユエも離脱となりました。他にも何人か戒翔につけようと思いますが、ハジメ君のヒロインは早めの参入を視野に入れているのですが…期待しないで待っていてください。

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