ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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投稿が少し開いてしまいました、お久しぶりです。
今回は最後の方に少し人によっては不快になるかもしれない文章があります。ご注意ください。


(非)日常編 2

 

部屋に戻る。

今日は何をしようか…って、なんだかここにすっかり馴染んでるみたいで嫌だな。

 

しかし特にする事もないのも事実なので図書室に向かう。映画でも見るか。

適当に漁っているとちょっとおもしろそうなアクション映画が見つかったので手に取る。数年前にやってたけど見に行かなかったやつだ。まさかこんなところで見る事になるなんて。

 

「はわ!宮壁さんー!それ見るんでーすかー?」

 

「ん?潛手に…篠田と三笠じゃないか。…一緒に見るか?」

 

「じゃあお言葉に甘えるとしよう。たしかパソコンルームにスクリーンも用意されていただろう。私も手伝う。」

 

「お、いいな。映画館みたいに見られる訳だな。」

 

4人でわくわくしながらパソコンルームの設備を整える。机が動かせないので椅子を教室の後方に並べ、向かいの壁にスクリーンをはって機械を使って映像を映し出す。

電気を消すと一気にそれっぽくなった。

 

「わー!すごいですー!映画館みたいでーすねー!」

 

再生しようとボタンを押す手が止まる。…ポップコーンがほしいな。

 

「宮壁、取りに行かないか?2人ともほしい飲み物はあるか?」

 

三笠が察してくれた。というより三笠も欲しくなったのだろう。2人の要望を聞いて三笠と食堂の方に向かった。中に入ると案の定柳原が本を読んでいた。俺達に気づくと顔をあげる。

 

「どうかしたんですか?」

 

「ああ、映画のおともにポップコーンを持っていこうと思って。」

 

「…?ぽっぷこーん?」

 

そ、そこからか…!

 

「とうもろこしの種で作るお菓子なんだ。…食べるか?」

 

「いいんですか!わーい!」

 

「お、あったあった。すでに作られてるものがあってよかったな。柳原、これだ。」

 

三笠が小さい袋を1つ柳原に渡す。あれは、キャラメル味…!

柳原は袋を開けるとポップコーンをつまんで口に入れる。

 

「…!甘いですね!おいしいです!」

 

…それはキャラメルの甘さじゃないか?と思ったけどそんな事を言ってたら面倒だしキリ

がないのでやめておいた。

 

「よし、宮壁もドリンクを持ったら戻るか?」

 

3人分の飲み物を片手にもう片方の手にポップコーンを持った三笠が現れた。

 

「あ、柳原も見ないか?今からパソコンルームで映画を見ようと思ってるんだ。」

 

「映画ですか?でもおれ、この本がいいところなので今回はやめておきます!誘ってくださったのにごめんなさい!」

 

「そっか…じゃあまた今度見ような。」

 

「いいんですか!?ぜひ!」

 

 

柳原と別れてパソコンルームに戻る。わくわくしているのか潛手が足を揺らしながら待っていた。篠田も準備万端のようだ。

 

映画の始まる前のこの映像会社が出てくるところって、テンションが上がってくるから結構好きなんだよな…。

 

そのまま映画が始まった。簡単に言うとスパイの主人公が敵のアジトに忍び込んで真実を見つける…みたいな、そういう外国の映画だ。ちなみに吹き替え。

 

大音量にしたおかげで映画館並の迫力で見る事ができた。

 

 

「はわーー!!!とってもおもしろかったでーすー!」

 

「いい話だったな……。」

 

少し涙ぐんでいる三笠と潛手を見ながら誘ってよかったと思った。

 

「他にもたくさんあったのだろう?また別の物も見てみたいな。」

 

「ああ、その時は誘うよ。」

 

篠田も気持ち嬉しそうに表情を緩めた。

人と見た後は感想を話せるのも楽しいよな。しばらく3人と映画について話して解散した。

 

気がついたらもう夕食の時間になっていたので食堂に向かう。

 

「わたくし、これを作るのは初めてですから心配だったのですが…いかがでしょう?潛手さんに教わりながら作ってみましたの!」

 

安鐘がテーブルに運んできたのはかば焼きだった。ウナギ…はさすがになかったらしくアナゴのようだ。

横で潛手がえっへんと胸をそらしていた。

もちろんご飯にのせて食べる。アナゴをのせると真っ白いお米に食欲をそそる匂いのたれがじわじわと染み渡っていく。お米が色づいたところで箸を進める。

 

「お、おいひい…。」

 

前木の幸せそうな顔が…って前木のアナゴ、脂のノリが段違いだ。あれは相当おいしいやつ。ああいうところを見ると何気に運がいいんだろうなと思ってしまう。いや、別に羨ましいとかは思ってないぞ!よかったな、って思っただけだ!

 

心の中で1人で語っているのがだんだんと恥ずかしくなってきたので周りの会話に耳を傾ける。

そのまま皆と雑談をしつつ、朝よりも元気になってきた皆に安心しながら夕食を食べ終え、自室に戻る事になった。

 

 

 

□□□

 

 

 

「宮壁、少しいいか。」

 

「篠田?どうしたんだ?」

 

「今日見た映画…あれは、どういうつもりなのだ?」

 

「…え?」

 

篠田は映画を見た時とはうって変わって厳しい目をしていた。あのアクション映画に何か問題があったのか…?

 

「私の反応をうかがおうとしていたのか?あの映画を選んで…。」

 

「待て、本当に話が分からない!何かいけない事があったなら今度見る時は別の映画にするし、それに…俺とじゃなくて、3人で見てくれたら…。」

 

「宮壁だから嫌という話ではない。…何も意識せずにあの話を選んだのか?」

 

「もちろんだ。前から見たいと思っていたから選んだだけで…。そもそも篠田達が来た時に俺は選び終わっていたからな。」

 

「…!そうだった、な…。すまない。私が早とちりだった。今のは忘れてくれ。」

 

「篠田…?」

 

最後は本当に申し訳なさそうな顔をして帰っていった。

一体何があったんだ…?分からないけど今度からは篠田に映画の内容を決めてもらおう。

 

少しもやもやした気持ちを抱えたままシャワーを浴びてベッドに転がる。

しばらくすると程よい眠気が襲ってきて、抗う事もせずに目を閉じた。

 

 

 

□□□

 

 

 

『ミンナおはパオ!7時だよ!今日もレッツ・コロシアイ生活!カレンダーのないミンナのために今日で1週間って事も教えてあげるパオ!』

 

 

余計な情報を教えられて朝から不快だ。

普段の生活ならあっという間に過ぎていくはずの1週間で、人の死とお互いを疑い合う状況と…いろいろな事を経験してしまった。長い1週間だったな…。皆と出会ったのが随分前に感じる。

 

「…行くか。」

 

重い腰をあげて適当に身支度を済ませると食堂に向かう。

今日も相変わらずのメンバーが揃っていた。

 

「いつもごめん。昼は俺がやるよ。」

 

「あら、いいのですか?お昼でしたら三笠さんが作るとおっしゃっていましたので三笠さんを手伝ってくださると嬉しいですわ!」

 

「わかった。」

 

ご飯をささっと済ませて食堂を出る。ここから何をしようか…昼ご飯までは時間があるし、適当に歩いてみるか。

 

 

 

 

♢自由行動 開始♢

 

 

 

「あれ、こんなところで何してるんだ?」

 

「暇してる。」

 

1階の階段横の机と椅子だけが用意された簡素なスペース。そこで暇そうにくつろいでいる牧野を見つけたので声をかける。

 

「高堂と一緒にいないのか?」

 

「いや、四六時中ひっついてたらさすがに気持ち悪いでしょ。俺別にストーカーではないからね。」

 

「…え?」

 

「え?」

 

初めて高堂を見つけた時とかどう考えてもストーカーだった気がするぞ…?

 

「なんでもない。ただ自分の行為を振り返ってほしいなと思っただけだ。」

 

「ふーん?宮壁、そういえばあれからなんか分かった事ってある?」

 

「分かった事?いや、ないけど…。」

 

「…俺も。前は分かったら殺す、なんて言ったけどこの中にいるって思うとそう簡単に踏み切れなくなってきたなって。仮にも一緒に過ごしてるのに何の感情もなしに殺すなんてできない。」

 

そう言う牧野の顔は少し暗く、何か思い詰めてるようにも見えた。

 

「この中に悪魔とか裏切り者がいるなんて考えたくもないけど、でも、牧野だけが無理しなくていいんじゃないか。」

 

「でも宮壁も俺がもっとがんばっていればって」

 

「え?えっと…俺自身もがんばらないと、とは思ったけど、牧野ががんばればよかったなんて考えた事もないぞ?」

 

「マジ?」

 

「ああ。」

 

「三笠にも似たような事言われちゃったな。こうやって周りにいい人がいるからなおさら怖いんだけど…なんてね!宮壁も一緒にがんばろうぜ!ここから出るためにさ!」

 

いつの間にか牧野の顔には笑顔が戻っていた。

 

「もちろん。がんばろうな!」

 

目を合わせてお互いの意思を確認する。その後…少し恥ずかしいけど握手した。

牧野自身の事はまだ知らない事がほとんどだけど、同じ目標を持つ仲間として仲良くなれる気がする。

 

「あ、宮壁!この空き缶捨てといてよ!」

 

そう言って飲み終わったジュースの缶を投げてきた。

 

「は?」

 

「じゃあね!」

 

「おい!すぐ横にトラッシュルームがあるだろ!」

 

牧野は笑いながらどこかへ走って行ってしまった。

仲良く………た、たぶん仲良くなってる!勝手にそう思っておこう!

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

トラッシュルームから出たところで前木と出くわした。

 

「あ、宮壁くん!あのね、一緒にやってほしいものがあるんだけど…。」

 

そう言って前木が取り出したのは知恵の輪だった。

 

「倉庫にあったから暇つぶしにやろうかと思って挑戦してたんだけど、どんどんこんがらがっちゃって…。」

 

うわ…正直修復できるのか怪しいレベルにこんがらがってるな…。

 

「頭が硬いのかな…だけどこんなにしちゃったし、もうちょっとがんばりたいの!」

 

「わかった。できるだけやってみよう。」

 

前木と一緒にしばらく知恵の輪に悪戦苦闘した。

 

「助けて…。」

 

惨敗した。

1回前木の指が巻き込まれそうになって人差し指が赤くなっている。

 

「ほ、保健室行くか…。」

 

とりあえず保冷剤を布で包んで指にまいておく。

 

「ありがとう!ごめんね、結局知恵の輪もできないし…。」

 

「いや、前木の指が巻き込まれる前に止められてよかったよ。続きはもっと得意な人に任せた方がいいかもな。初期よりひどい状態になってそうだし。」

 

「そうしようかな。…へへ、宮壁くんって優しいんだね。」

 

「え?」

 

「だって、私が勝手にやった事なのに心配して手当までしてくれるんだもん。知恵の輪より気にしてもらえて嬉しいなって。」

 

「さすがに知恵の輪の方が大事っていう奴はいないだろ。」

 

「あはは!さすがに冗談だよ!」

 

「俺、からかわれたのか…。」

 

「そういうつもりじゃなかったんだよ!?あ、でもそうなっちゃったね。」

 

えへへと笑う前木は純粋にかわいいなと思……いや、何を考えているんだ俺は!

 

「み、宮壁くん?どうしたの?急に頭振ったりして…。」

 

「えっ、あ、いや、なんでもない!」

 

今度は俺が心配されてしまった。恥ずかしいな…。

 

「…ヘドバン?」

 

「別に俺はツッコミ待ちでもボケ待ちでもないからな!?」

 

「あはは、ごめんごめん!宮壁くんのリアクションがおもしろくってついボケちゃった。でも急に頭振られたらびっくりするよ!」

 

「それは普通にごめん。」

 

そんなこんなで謎の漫才を繰り広げてから前木と別れた。

なんというか、気がついたら前木のペースにのせられちゃうんだよな…。

恥ずかしかったり困惑したりするけど、何より楽しいからいいか。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「……分かりました!犯人はAさんです!……あれ?Bさん?こんな人いましたっけ…?」

 

「いや、柳原…登場人物のところにBさんの名前あるぞ…。」

 

俺も本でも読もうと思って図書室に行くと柳原が声を出しながら読んでいたので気になって少し見ていた。

 

「あ、本当だ!さすがです宮壁さん!すごいです!」

 

「あ、ああ…。」

 

なんというか、褒め言葉が大げさだよな…。悪い気はしないからいいんだけど。

 

「宮壁さんは推理ができるんですよね!コツはなんですか?」

 

「こ、コツ…特にないけど、そうだな、柳原も消去法を使ったらいいんじゃないか?」

 

「しょうきょほう?」

 

「簡単に言うと、いろんな理由からこの人にはできない、って絞り込んでいくんだ。」

 

「なるほど!無理だと思ったら候補から消すって事ですね!宮壁さんはそんな事まで考えられるなんて…!かっこいいです!」

 

「そうなのか…?まあ、柳原も無理はするなよ。本ばかり読んでいたら疲れるだろうし。」

 

「おれ、体力はたくさんあるので大丈夫ですよ!」

 

「そっか。がんばってな。」

 

「はい!宮壁さんはすごいですね!さすがです!」

 

「え、何がだ…?」

 

「宮壁さんはおれのことを助けてくれましたし、すっごくかっこよかったです!」

 

「ありがとう…?」

 

かっこよかった…真実を暴く事がかっこよく見えたのか…。普段なら喜ぶ事だけど、あの出来事は手放しで喜べるようなものじゃないからか、俺の中ではどうも納得できなかった。

 

「おれ、宮壁さんみたいになりたいです!がんばろうって思ったんです。だから、えっと…本当にありがとうございました!」

 

それでも柳原は純粋にそう思ってくれているのだろう。それなら俺は柳原の言葉をちゃんと受け取るべきだと思った。

 

「どういたしまして。」

 

「宮壁さんは何か普段からやっている事はありますか?もしよければ本を読むのもいいと思います!ここでは何もする事がありませんから、読書をすれば少しは充実すると思います!」

 

「そうだな、適当に読んでみるよ。」

 

「ぜひ!」

 

時間もいい感じになってきたので何冊か本を選んで自室に戻る事にした。

 

 

 

□□□

 

 

 

自分の部屋に本を置いてから厨房に行くと三笠昼食を作り始めていた。

 

「あ、三笠、俺も手伝っていいか?」

 

「ああ。助かる。最近安鐘や潛手に任せる事が多かったからな。前木や高堂が手伝っているのもよく見る。男子が何もしていないと思ってな。」

 

「たしかに。」

 

と言っても昼からがっつり作るのも…という感じだったのでここはファーストフードの王道、ハンバーガーを作る事にした。親切にもハンバーガー用のパン…バンズが用意されており、後は野菜を切ったり肉を焼いたりするくらいで作れそうだ。

 

分担しながら作る事30分ほど。野菜多めのハンバーガーが人数分できた。塩コショウで味はつけてあるしドレッシングなんかもつけたからそれなりのものはできたと思う。

 

「あ、そういえばお昼ご飯は三笠くんと宮壁くんが作ってくれたんだよね!」

 

「わー!ハンバーガーでーすー!なんだか久しぶりーでーすねー!」

 

この外食みたいなメニューもたまにはいいだろうと思っていたら案の定皆に喜んでもらえたみたいだ。

 

「ですがこうして何もせずに過ごしていると1日がとても長く感じますわね…。やっぱりわたくしも料理しますわ!気分転換にもなりますもの!」

 

「うん。夜はあたしも手伝う。」

 

「潛手めかぶもやりまーすー!じっとするより料理の方が向いてるのでー!」

 

「料理が苦手な方もいらっしゃいますし、ここはわたくし達にお任せくださいな!」

 

「いいのか?もちろん俺も言ってくれたら手伝う。」

 

「そうですわね…暇であればお願いしますわ!基本わたくしがやりますのでみなさん安心なさってくださいませ。」

 

今度からは安鐘達が主体になってくれるらしい。ありがたいな。

食べ終わって片付けも済ませる。今は14時前くらいだから夕食までは時間もあるしもう少しいろいろ出歩いてみるか。

 

 

 

♢自由行動 開始♢

 

 

 

そんな俺が向かったのは理科室だった。もちろん、目当ての人はいた。

 

「何の用かな?」

 

「今どのあたりまで進んでいるのか気になっただけだ。」

 

「終わったら報告するから気にしてくれなくていいよ。まあ、そうだね、4割も達成できていないのが現状だよ。」

 

「…手伝える事はあるか?」

 

「そうだね、じゃあその瓶に横の瓶の液体を入れておいてくれるかな。」

 

そんな感じで東城の手伝いをした。

無心で手伝う事数十分、ふと東城が声をあげる。

 

「間違えた。」

 

「え?」

 

「手順を間違えた。これはやり直さないとね。」

 

「お前…失敗するんだな…。」

 

「どういう意味かな?」

 

「お前は失敗とか許さないタイプだと思ってたから。」

 

「それをきちんと対処できるならいいよ。対処できなくても取り返しがつくならボクは何も言わない。」

 

なんか意外だ…。てっきり自分にも他人にもストイックなのかと。

 

「じゃあ俺が失敗しても大丈夫なんだな?」

 

「わざとじゃないなら。そこまで非道ではないよ。」

 

「いやお前は十分非道だ。」

 

そこだけは絶対訂正しないといけない。そういえば…。

 

「東城はその、人体実験とかが違法だって事、分かってるのか?」

 

「ボクは犯罪者なら使っても許されるべきだと思っているだけだよ。動物と人とじゃ正しい結果が得られるか怪しい物だってあるよね?」

 

「…。」

 

分かってたらしい。余計にたちが悪いじゃないか…。

 

「まあこんなものかな。宮壁くん、手伝ってくれてありがとう。」

 

きっと東城と分かりあう日なんて来ないんだろう。そう思っていても当たり前のように笑顔でお礼を言う東城は普通の男子高校生にしか見えなかった。

 

 

♢♢♢

 

 

 

「あ、宮壁。」

 

イベントホールの隙間から高堂の姿が見えたと思ったら本人から声がかかる。

 

「高堂か。何をやってるんだ?」

 

「トレーニングだけど。」

 

…前から思ってたけど、高堂ってあまり笑わない気がする。

だからかその…ちょっと怖いんだよな…。

 

「何?」

 

「え、な、何って?」

 

「何してるか聞いたきりぼーっとしてるから。」

 

「ご、ごめん。」

 

「しっかりしてよね。普通に心配するから。」

 

…そういう事をさらっと言うから牧野に好かれるんだろうな…。いやあいつの場合は一目惚れって言ってたけども。

 

「高堂って優しいよな。」

 

「…え、急に何。」

 

え?もしかしなくても少し引かれてる?嘘だろ…難しすぎないか?

 

「ちゃんと心配するんだなって思ってさ。」

 

「…掘り返されると恥ずかしいね。」

 

ちょっと顔を赤らめた高堂を見てさっき不愛想だと思った事を反省する。よく考えたら前木とかといる時は普通に笑っていたな。

 

「そういえば高堂って普段からトレーニングしてたのか?」

 

「たまに1人でね。やっぱり体を動かしておかないと体力なんてすぐに落ちるし。」

 

「そっか、山岳部って運動部だもんな。」

 

「まあね。大会とかもあるし体力づくりは必須かな。」

 

「大会?じゃあチームとかがあるのか?」

 

「うん。宮壁もやる?」

 

「えっ?山岳?」

 

「あ、いや、トレーニングのつもりだった。もちろん山岳に興味を持ってくれるならそれが嬉しいけど。」

 

そんな感じでまた今度一緒にトレーニングをする事になった。牧野に怒られないか心配だけど高堂公認だし大丈夫だろう。

淡々としてるけど高堂は思ったより話しやすいんだよな。トレーニングの時も色々話せたらいいな。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「ほわー!宮壁さんー!」

 

「潛手!どうしたんだ?」

 

「暇すぎるのでー、何かしませんかー?いろんな人に声をかけて回ってるんでーすー!」

 

「いいぞ。何をしようか…?」

 

「あのでーすねー、図書室にこんなものがありまーしてー…。」

 

そう言って潛手が取り出したのはトランプだった。遊び道具も結構あるのかもしれない。

 

「とりあえず2人でするなら…スピードとかが無難じゃないか?」

 

「潛手めかぶ、スピードは得意なんですーよー!神経衰弱は苦手なんですけーどー…。」

 

素早い動きが必要なスピードを潛手がやってるイメージはあまり浮かばないけど…どれくらい速いんだろうか。わくわくしながらカードを配っていく。

 

「ではではー、いきまーすよー!」

 

負けた。いや…速すぎる…。正直舐めてた。よく考えたら泳ぎはプロみたいなもんだし普段から魚を追いかけてるんだから速いのは当たり前だった。

 

「わーい!勝ちまーしたー!」

 

「負けました。すごいな潛手…力も強いし速いし…。」

 

「このくらいしてないと海女さんとしては役に立てませんかーらねー!」

 

「そうなんだな…海女さんってやっぱりなれるだけですごい職業だよな。」

 

「へへへ、褒めてもらえると嬉しいのでーすー!」

 

照れる潛手をほほえましく感じながらもう一戦。さすがに今さっきボロ負けしたので終わりたくはない。

 

 

「ひ、引き分け…。」

 

潛手の最後の1枚がなかなか出せず、結果残り1枚ずつの引き分けになった。

 

「あわわー!宮壁さんお強いですーねー!」

 

「いや潜手の方がよっぽど前に残り1枚になってただろ…。」

 

悔しいけどすぐに追いつけるようなものじゃなかった。そこまで諦めが悪いわけではないしこれで今日はやめておこう。

 

「これ、みなさんでやりたいでーすねー!きっと楽しいはずですー!」

 

「そうだな。今度やってみよう。」

 

「はいー!」

 

潜手と軽い約束を交わして別れた。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「……。」

 

「お、おお…どうした…?」

 

「…ポップコーン…。」

 

…えっと、食べたいって事か?

 

「取る…身長……低い…。」

 

「あ、確かに勝卯木にはちょっと届かないかもな。」

 

たまたま廊下でばったり出会ったので勝卯木についてポップコーンを取ってあげる事にした。どうやら柳原が食堂で食べているのを目撃していたらしい。

 

「あれ…。」

 

「ん…これか?どうぞ。」

 

「…。」

 

ぺこりとお辞儀をする。

…前から気になってた事があるんだよな…。

 

「なあ、勝卯木ってどうしてその…そういう喋り方なんだ?」

 

「……。」

 

勝卯木はじっと俺の方を見たまま何も答えない。

この間がちょっと苦手なんだよな。何をしていいか分からないのに目だけはずっと合ってるんだもんな…。

 

「えっと、その…なんでもない。ごめん。」

 

「……喋る、苦手…。」

 

思ったより普通の理由だった。

 

「家族、お兄様…無言、分かる…。」

 

「あ、そういえばお兄さんがいるって言ってたな。何も言わなくても分かるって、相当仲がいいんだな…。」

 

勝卯木は「仲がいい」という言葉にちょっと嬉しそうにするとポップコーンを俺の口に当ててきた。

 

「ふへっへほほは?」

 

…食えって事か?目を見たところで何も分からないけどたぶんそういう事だろう。

おそるおそる食べると勝卯木は満足そうにして今度は自分で食べ始めた。

 

「…つまり普通に喋る事は一応できる、んだよな…。」

 

「……苦手。」

 

たどたどしいところを見ると、家族が甘やかしすぎたんじゃないかとさえ思えてくる。

何も言わなくても全部やってくれてたんだろうな…。

 

袋を抱え直すと勝卯木は食堂から出ていく。

 

「……宮壁、おもしろい。」

 

なんか、前もそんな事言われたよな…。

そろそろ夕食なのにポップコーンなんて食べてよかったのかなんて変な心配をしながら自分の部屋に戻る事にした。

 

 

 

□□□

 

 

 

夜は野菜炒めとかいろいろ。適当な材料で作ったと言ったけどそれでこのクオリティならすごいよな…。

皆で…いや、13人での食事でやっと談笑する様子が目立ってきた。こうやって何事もなければきっと…。誰とも話さずに食べている人は相変わらずいるけど、揃わない事はほとんどなくなった。それだけでも大きな進歩だ。

 

「…。」

 

「ご馳走様でした。」

 

食器はそのままで立ち上がって出て行った東城を睨んでいるのは勿論…難波だ。

この2人は、まだ時間がかかるだろうな…。

 

安鐘も少し困ったように、それでも何も言わずに食器を片付ける。

気づいたら大渡もいなくなっている。全員が仲良くなるなんて高い目標を持とうとは思わないけど、こう、もうちょっと…どうにか、な…。

残りはバラバラと帰っていった。俺は自分の食器だけ洗って食堂を後にした。

 

 

「あ、宮壁さん!あの…。」

 

「柳原?」

 

「あのですね、この本に『裸の付き合い』って言葉があったんです!東城さんとか大渡さんみたいに1人で行動している人もいますから、裸の付き合いをすればいいんじゃないかと思って!」

 

…ん?

 

「…えっと、具体的に何をするんだ?」

 

「ここにいる13人全員でお風呂に入り」

「女子はだめだ!!!」

 

…嫌な予感はしていたけど本当にそう言うとは思わなかった。

 

「え?なんでですか?」

 

「いや、そんな、なんでってお前、女子の裸なんて見たら犯罪だぞ!?」

 

「男の裸は犯罪にはならないんですか?」

 

「ならない。」

 

「不公平ですね!」

 

…そういう人権問題につながるような発言はしないでくれ!

というか世間知らずにもほどがあるだろ!

 

「そ、そもそも女子の裸なんて見たら恥ずかしいし申し訳なくなるだろ?」

 

「別に…?」

 

頼むからせめて申し訳なくなってくれよ…!

 

「覗きの相談ですか?よく今日わたくし達がお風呂に行く事をご存じでしたわね?」

 

………。

 

「おれも入ります!」

 

「…柳原さん…時間をずらしてくださいませ…。」

 

「そ、そんなに言うなら…分かりました…反省します…。」

 

そもそも何を反省するのか分かってなさそうだけど柳原はすごすごと帰っていった。

 

「宮壁さんも変な気は起こさないでくださいね?」

 

「はい。何の気も起こしてません。」

 

ひ、ひえ…怖い…。目が全く笑ってない…。そりゃ今の会話を途中から聞いてたらそうなって当たり前なんだけど。

そのままそそくさと帰った。

 

 

部屋に戻ってシャワーを浴びる。あの様子だと女子は皆でお風呂だろう。長くなるだろうし俺が大浴場を使うのは明日でいいだろう。

 

濡れた髪を乾かしながら夜時間の始まりのチャイムを聞く。

不快な声にもだんだん慣れてきた自分に腹が立つけれど、あの1番聞きたくないアナウンスを今日も聞かずに過ごせた事に安堵しながら眠りについた。

 

 

 

□□□

 

 

 

「おはパオ!」

 

なんだ、チャイムにしてはハッキリした声だ………あれ?

目を開けるとしっかりと2色のゾウが映り込んでいる。

 

「おはパオ!」

 

「おはパオ…って誰が返すかよ。」

 

途中から覚醒し無意識に出ていた言葉を濁す。そもそもなんでここにいるんだ?

 

「今日はいい日になるパオ!別のところに行こうとしたら間違えてここに来ちゃっただけだよっ!」

 

「いい日…?」

 

コイツの言う『いい』が俺達にとっていいものではないと知っているから思わず顔がこわばる。

 

「身構えなくても大丈夫だよっ!ボクくんは平等ではあるけどクロを勝たせようとは思ってないって前の裁判で言ったでしょ?」

 

「…クロはもう出たりしない。」

 

「あまいねっ!そんな事言ってると痛い目に合うよ!」

 

俺が睨んだのを軽く流し、そのまま好き放題言って消えてしまった。

…朝から嫌な気分だ。早く忘れたくて急いで準備をし、食堂に向かった。

 

いつも通りご飯を食べる。今日は少し遅くなったから大体の人が朝食を終えていたらしい。食堂に残っていたのは三笠と篠田と勝卯木だけだった。

 

「篠田が食堂にいるのは珍しいな。」

 

「朝食をとるのを忘れていてな。さっきまで安鐘が残っていてくれたのだがさすがに皿洗いまで任せるのは申し訳ない。」

 

「なるほど。勝卯木は何を食べてるんだ?」

 

「……。…デザート。」

 

「えっと、カップラーメンはデザートに入るのか?」

 

「入らないだろうな…。」

 

三笠が苦笑する。朝からすごいな本当…。

篠田が出て行くと同時に食べ終わったので俺も皿を洗う。

この後は…特にする事もないよな。暇だ。

 

 

 

♢自由行動 開始♢

 

 

 

勝卯木はともかく三笠がまだ残っていたのが気になったので声をかける。

 

「三笠は何をしているんだ?」

 

「ん…ああ、これだ。」

 

三笠が手に持っていたものを俺の方に見せてくる。作者のところに『桜井美亜』と書かれている。

 

「…オレジカじゃないか。図書室にあったのか?」

 

「ああ。しかもこれ、よく見てくれ。」

 

「…13巻?オレジカってまだ10巻までしか出ていなかったよな?数字を間違えただけじゃ…。」

 

「いや、話はちゃんとつながっているし絵も桜井の絵柄で間違いない。」

 

「じゃあなんでここにあるんだ?」

 

「案外黒幕からのヒントかもしれぬぞ。モノパオの事だからヒントではなく単純なミスの可能性もあるがな。」

 

気づいたら勝卯木がこっちを見ていた。ラーメンが熱かったのか少し汗をかいている。

俺達の視線に気がつくとまたラーメンをすすり始めた。

 

「まあとにかく、これで分かった事がある。宮壁は既視感を感じた事はあるか?ここにいる人と出会った事があるような…。」

 

「それならある。まさか、本当に会っていて…?」

 

その時の記憶がなんらかの理由で抜けているとするなら桜井の漫画の新刊がその間に出ていると考えられる。

 

「…うむ…だめだ、さっぱり分からない。そもそも記憶を揃って失うなんておかしいが。」

 

まだ分からない事ばかりだけれど、こうやって他の階や部屋が解放されたら分かる事も増えていくのかもしれない。…コロシアイなんて起きなくても上の階を開放する手段はあるかもしれない。それを探していけばいいんじゃないか?

 

「とは言っても、三笠ってよくそれを見つけたよな。図書室のイメージがあまりないから驚いた。」

 

「桜井の漫画も好きだったからな。本も読むがやはり漫画の方が短い時間で読めるから普段は漫画ばかり読んでいた。」

 

「そうか、三笠もいろんなところに行くから暇つぶしには本がいいのか。」

 

「ああ、だからその…桜井を出会った時は感激したものだ。もっと言えばよかったと今になって思う。」

 

「三笠…。」

 

再び苦笑する三笠を見て、何も言えなくなる。

 

「…すまない、しんみりさせてしまったな。」

 

「いや、いいんだ!その、三笠もそういう事言ってほしいなって思って、いつも皆の事を励ましてばかりだから…。」

 

「ははは、宮壁はいい奴だな。その時があれば、また頼むぞ。」

 

「…ああ。」

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

食堂を出てから図書室に行く。部屋にある読み終えた本の代わりに、俺も桜井の漫画を読みたいと思ったからだ。

 

「…宮壁か。」

 

「あ、篠田。何してるんだ?」

 

「見て分からないか。」

 

持ってるのは…料理本?

 

「料理するのか?」

 

「私は料理をほとんどした事がなくてな、おそらくレシピを見れば同じものは作れるはずだが…。」

 

「安鐘達が任せろって言ってたぞ?」

 

「気づいているか知らないが私は1度も料理を手伝った事がない。さすがに申し訳なくてな。」

 

「ああ、なるほど…。」

 

篠田はなんだかんだでかなり真面目だよな。真剣な表情でレシピを睨みつけている。

 

「宮壁は何が簡単だと思う?」

 

そう言って見せてくる。…正直このページにある料理は俺も作れない。フレンチは手をつけた事がないぞ。

 

「このページじゃないもっと普通のやつはどうだ?例えば…焼きそばとか。」

 

「なるほど、焼きそばか。麺をゆでて焼くだけの簡単なやつだな。」

 

「いいと思う。野菜を多くすれば栄養もある程度摂れるし。」

 

「分かった。しかしレシピがないと不安だな…。探すか。」

 

篠田と焼きそばに入れる具材を相談しながらレシピを探した。

 

「ありがとう。宮壁も手伝わなくていいからな。では作ってくる。」

 

踵を返して篠田は図書室から出て行った。

今日の話だったんだな、めちゃくちゃ行動が早い。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「あら宮壁さん、こんにちは。」

 

漫画を手に部屋に戻る途中で安鐘に会った。

 

「篠田さんが作ってくださるそうで、嬉しいですわ。気を遣ってもらったようで申し訳ないのですが…。」

 

「安鐘こそ休んでほしいって気持ちがあるから篠田の気持ちも分かるぞ。」

 

「そんな、恥ずかしいですわ…。」

 

嬉しそうに照れる安鐘を見るとやっぱり美人だな、なんて思ってしまう。

 

「安鐘はすごいよ、いつもいろんな料理を作ってくれて。」

 

「え、えと、あの…その…。」

 

「ご、ごめん!」

 

そうだった。最近見てなかったから忘れてた。

 

「わたくしこそごめんなさい。その、ここに来てから褒められる事が増えたので慣れたいとは思っているのですが…。」

 

「そうなのか?そういえば社交辞令って言ってたっけ。」

 

「まあ、それもありますが…わたくし、中学の時はお金持ちの学校に通っていたのです。そこだとその…マウントってわかりますか?自慢合戦というか…。」

 

「あ、ああ…。」

 

…お金持ちの闇を見た。自分の家とかを自慢し合うってわけか。生徒も親も。…いい環境ではないだろうな。

 

「ですからその、コロシアイという場でこんな事で喜んでいいのか分かりませんが、こうしてみなさんに出会えて嬉しいのです!」

 

「いや、大事な事だよ。…じゃあ、これからも褒めていく!」

 

「えっ?あの、そういうつもりではありませんのよ!?」

 

「はは、ごめん、ちょっとからかった。」

 

「宮壁さんたら…!昨日の事、忘れていませんわよ?」

 

「うっ……!きゅ、急用が…。」

 

仕返しがひどそうなのでそそくさと帰った。

 

 

 

□□□

 

 

 

昼はもちろん篠田が作ってくれた焼きそばだ。

おいしかった。潜手いわく料理をめったにしないとは思えないくらい手際もよかったらしい。

 

「しかしこれをほぼ毎回している安鐘や潜手はすごいな。レシピの3倍で作ると大変だった。」

 

「でもでーもー、篠田さんすごくお上手でーしたー!」

 

「…ありがとう。」

 

…篠田、潜手には異常に弱いよな。確かに潛手のきらきらした笑顔を振り払うのは無理だ。

 

「篠田も自分達と料理しないか?手分けすれば楽になるはずだ。」

 

「ああ、たまになら…かまわない。」

 

三笠にも弱いんだよな。ちょっとほほえましく感じてしまう。…2人とも俺より背が高いんだけどな。

 

「あ、宮壁、後でちょっといい?」

 

「難波?いいけど何が…?」

 

「なんでもない。」

 

???…珍しいな。いつもは前木といるし…。

片づけを終えて俺は難波の呼び出しに応じる事にした。

 

 

 

♢自由行動 開始♢

 

「お、きたきた。」

 

「なんだ難波?話があるとか…?」

 

「そ。簡単に言うと東城について。」

 

「…何を聞きたいんだ?俺も東城の事はよく知らないぞ。」

 

「いいのいいの。聞きたいのはそこじゃなくて、アンタが東城をどう思ってるかっていう話。アンタにとって東城は敵?味方?どっちなの?」

 

難波は何を聞きたいんだ…?少なくとも俺の中では敵ではない。言ってる事は理解できないし理解したくもないけど。

 

「どちらかというと味方…だけど。」

 

俺の答えに難波はため息をついた。

 

「アンタはそう言う気がしてた。というかここにいる人ほとんどそう答えてる。アタシはまだ分からない。」

 

「難波はなにがそこまで引っかかるんだ?」

 

「何って、アイツ、犯罪者が嫌いって言いながらアタシの事を邪険にしないでしょ。あの裁判の時はあんな感じだったけどそれまでは大した反応なんてしてなかった。それって変じゃね?アタシが嫌いなら最初からそういう反応をとってもおかしくない。」

 

「たしかに。難波の事をよく思う理由があるのか?」

 

「分かんない。それに、アタシは個人的に東城を知ってた気がする。アイツは危険だって、アイツを見るたびに何かが言ってる。」

 

「えっと…大渡に見てもらった方がいいんじゃ…。」

 

小突かれた。なんでだよ!

 

「あのね、そういうオカルトの話じゃねーの。本能…的な?もう1人の自分的な?」

 

「…漫画の読みすぎじゃないのか?」

 

小突かれた。今のはごめん。

 

「アンタよくそんなからかいで勝てると思ったね。鈴華に弱み握られてるんでしょ?」

 

「え!?なんで知ってるんだよ!というか別に弱みじゃない!」

 

「覗こうとしたって…アンタが1番変態だったとはね…ゆうまきゅんみたいな見た目なら許せたのに。」

 

「それは許すな。」

 

というか柳原が誰からもスルーされている気がする。理不尽だ。

 

「というか難波はなんでその事を知ってるんだよ。」

 

「アタシ見てたから。廊下で立ち聞きしてた。怪盗だからそういうのは流石に上手じゃないとヤバいでしょ。」

 

「な、なるほど…あれ?なら俺がわりと理不尽に怒られた事も知ってるんじゃ…」

 

難波はてへぺろ、とでも言いたげな表情で自分の頭をコツンと叩いた。

 

「ま、まさかここまでのやり取り全部…!」

 

「からかった。だから言ったじゃん。『よくそんなからかいで勝てると思ったね』って。」

 

そう言って笑いながら歩いて行った。

…難波には勝てそうにないな。結局難波が言いたい事も分からないままだ。

俺、難波の事とか全然知らないんだよな…。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「…。」

 

「…えっと…。」

 

「邪魔だ。どけろ。」

 

「ごめん。」

 

…大渡が久しぶりに喋った気がする。

 

「大渡、最近誰かと喋ったか?」

 

「…あ?」

 

「誰かと話してるところなんて全然見ないから。」

 

「うるせぇよ。」

 

「俺と話さないか?」

 

「キモ。」

 

…………キ?キモ?

 

「おい!俺はお前の事これでも一応気にかけてるのになんだそれ!」

 

「気にかけてくれなんて頼んでねぇ。」

 

「……お前…!」

 

相変わらず嫌な奴だな…!

 

「でも、ご飯は毎回来てるんだな。一緒にならない時が多いから知らなかったけど安鐘が言ってた。」

 

「……何が言いたい。」

 

「よかったって話だ。そうやって確認しないと安否が心配になるからな。」

 

「親かよ。」

 

「同じ境遇の仲間だ。」

 

「キモ…。」

 

キ……………?

よく見ると顔もドン引きしている。え?そんな引かれる事言ったか?

なんでこんな性格なんだよ…親も大渡に似てたんだろうか。もう話題も見当たらないぞ!

 

「大渡…お前友達できた事ないだろ…。」

 

「ねぇよ。悪いか。」

 

え、ええー…はっきり…言うなぁ…。

 

「悪くは、ないけど…。」

 

「もう話しかけんな。」

 

そのまま無言で去っていく。悪い人ではない、そうは思うけどよく分からない…とりあえずキモいって2回も言われた事は忘れないからな!

 

 

 

□□□

 

 

 

大渡と話して嫌な気分になったところで食堂に行く。

特に理由はない。強いて言うなら水分補給?

 

「あ、宮壁だ。」

 

「高堂達か。何してるんだ?」

 

「おやつの時間にしてたんだよ!」

 

にこにこと笑う前木の隣で勝卯木はドーナツをむさぼっている。またか。

なんて声をかけようかと思った時だった。

 

 

『ミンナ~!今から配りたい物があるからイベントホールに集まるパオ!ボクくんの言う事には従わないと校則違反とみなしちゃうよっ!』

 

 

急に鳴り響いたアナウンス。なんだ、急に…。

 

「い、今までこんな事なかったよね?なんなんだろう、これ…。」

 

「……不気味……。」

 

前木や勝卯木も不安そうだ。

 

「校則違反って事は、逆らっちゃダメなやつだよね。」

 

高堂の言葉に緊張しながらも俺達はイベントホールに向かった。

 

 

 

□□□

 

 

 

「やあミンナ久しぶりパオ!」

 

イベントホールに着くとモノパオがいつもの場所で待ち構えていた。

 

「モノパオ、何の用で私達を集めた?そのような大事な用事があるとは思えない。」

 

「いやー、だってね?ミンナあれだけギスギスしてたのにすっかり平和ボケみたいになっちゃってさ?人数少ないから解放感が出ちゃったパオ?」

 

「いちいち前置きが長い。つまりアンタはまたアタシ達をギスギスさせようって目論んでるって事でしょ?」

 

「難波サンにカットされたパオ!ひどいよっ!…まあその通りだよ!言っちゃえば動機!前回はミンナ共通だったから今回は1人1人に合わせた手の込んだ動機パオ!」

 

1人1人…?少なくとも俺にそんな弱い部分があるようには思えない。知ってる限りで俺に地雷みたいなものは存在しないし…。

 

「題して!『自分も知らない自分の秘密』!」

 

そう考えていた俺の認識があまい事を痛感した。自分も知らない…そう考えてよぎったのは、俺達が会った事があるかもしれないというあの不安。

あれがもし記憶を消されているのだとしたら?そうすれば『今の俺』が知らない『昔の俺』に何かがあってもおかしくない。

そう考えたのは俺だけじゃなかったようで、気づけば重い空気に支配されていた。

 

「はい!はい!はい!はい!…………はい!配り終わったパオ!ボクくんからもらったものにはちゃんと目を通すように!先生からの伝達を無視するなんて普通に人として間違ってるからねっ!」

 

真っ白な封筒を手渡された。なんでここだけアナログなんだ。

 

「人として間違ってんのはこんな事を強要する貴様だろ。」

 

「こらっ!大渡クンも口答えしない!まあちゃっちゃと見ちゃってよ!もしかしたらそんなに危険なものでもないかもしれないよっ?」

 

周りでかさかさと紙を開く音がする。

モノパオの前で見るのは癪だけど仕方ない。そう思って俺も開こうとした時、

 

 

「モノパオさん、あの、大変言いにくいのですが、これはわたくしの秘密ではありませんわ…。」

 

 

安鐘が困ったようにつぶやく。

…え?開こうとした手が止まる。本人の物じゃないのか?

 

「え?どれどれ…。」

 

モノパオが駈け寄ってわざわざしゃがんでくれた安鐘の紙を見る。

 

「いぴぴ!本当だ!うっかりしちゃったパオ!順番バラバラに渡してるパオ!」

 

…笑いごとじゃないだろ…!

 

「まあもう見ちゃってる人もいるみたいだし入れ替えないけど、自分のを持ってない人は怖いねー!自分すら知らない大事な秘密を他人に握られちゃった訳なんだからねっ!あ、そうだ、これ自分も知らない、というか本人が忘れてる秘密なんだよね。」

 

「忘れている…?ボク達は記憶喪失になっているという事かな?」

 

「簡単に言っちゃえばそういう事!で、で、ここからがボクくんのすっごいところなんだけどね、この封筒の中にもう1つメモリがあるでしょ?これに、その紙に書いてある事を裏付ける証拠が入ってるんだよっ!嘘は言ってないっていう証明パオ!これも他人が好きに見る事ができるパオ!生徒手帳にモノパオファイルと同じようにさし込むだけだからねっ!」

 

その言葉でもしかしたらモノパオの嘘かもしれないという淡い期待は消えてしまった。

気になってしまう。自分の知らない秘密が。

 

「いぴぴ!おもしろい事になったからカメラから確認しよーっと!」

 

モノパオは失敗して良かったと言わんばかりの元気よさで小躍りしながら消えていった。

後に残ったのは勿論…沈黙。

 

「自分は、誰の秘密なのかだけ確認した。」

 

「わたくしもまだ内容は見ていませんわ。」

 

「そこで提案なのだが…元の人に返さないか?お互いを疑う訳にはいかない。もしかしたら他人に知られたくない秘密が入っているかもしれない。」

 

「だ、だめ!」

 

三笠の提案を真っ先に断ったのは前木だった。

 

「見てしまったのか?」

 

「…私は、これが本人に渡らない方がいいと思う。だって、モノパオはコロシアイを起こす為に秘密を用意したんだよ?だったら、この秘密っていうのは本人が見ちゃいけないものなんだよ。」

 

「それもそうだな…。」

 

「私は渡せない。ごめんなさい。」

 

…前木は誰のを引いてしまったのか、申し訳なさそうに目を伏せた。

 

「他の人のを引いている人は…各自で判断してほしい。本人に伝えても大丈夫な内容かどうか。そして、その伝えるラインは厳しくした方がいい。よっぽど小さいと考えた時だけ…いや、それも怖いか…基本隠そう。前木の反応を見るに知らない方がいい事の方が書かれている可能性は高い。」

 

「そもそも確認ってするの?見なくてもいいんじゃない?」

 

「で、でもー、モノパオさんが『見るように』って念を押していた―のでー…自分のを見ろとは言っていませんでしたが、『配られたもの』は見ないと危ないなんて事もあるかもでーすー…。」

 

「はあ。やだなー、別に今見ないといけないわけじゃないでしょ?俺とこの人だけの秘密って事だし、部屋で見る。」

 

牧野がそう言って帰ったのを皮切りに、皆がバラバラと戻っていく。

もう嫌だ。また関係をボロボロにされるのはうんざりだ。

 

「柳原」と書かれた紙を持って、俺も部屋に戻った。

 

 

 

□□□

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

これは本人に見せるべきなのだろうか?

一瞬迷ったけどすぐにその考えを頭から消した。俺はこれを柳原には見せないだろう。

これは俺にはどうしようもない問題で、きっと彼にも解決できない事なのだから。

 

怖い。この手紙から破り捨ててしまいたいくらいの恐怖を感じる。

メモリは確認していないのに鳥肌がおさまらない。

誰かに見られる前に捨ててしまおうか。

知らない方がいい事もある。

これはおそらく、柳原にとっての『地雷』だ。

 

 

―――

龍也へ

 

学校はどう?

早く龍也に帰ってきてほしいです。

やっぱり送り出すんじゃなかった。

龍也がいなくて皆困っています。

龍也は寂しくない?

他人しかいない学校なんて龍也にとっては初めてだもんね。

お母さんは龍也が心配です。

でも、龍也が才能を伸ばすために決断してくれた事、とても嬉しく思います。

本当にがんばり屋さんだね。偉いね。

そんな龍也を見習って子ども達もすくすくと成長しています。

龍也が学校に行っていた間に3人目が生まれました。とっても元気な女の子よ。産ませてくれて本当にありがとう。

いつになったら帰ってくるのか分からなくて心配だけど、龍也の事を考えたらがんばれます。

誰よりも大人で素敵な私の息子へ。

返事を待っています。

 

母より

 

 

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