全員何かしらイベントを起こすのがかなり大変でした。いい感じに分散できたと思います。
『ピンポーン』
突然のインターホンに慌てて手紙を机にしまう。扉を開けると潛手がいた。
「宮壁さんー!あのですね、1時間後に食堂に来てもらえまーすかー?」
「1時間後…?何かあるのか?」
「えっとですねー…みなさんにごは…あっ、秘密ですー!」
慌てたように潛手は走って行ってしまった。
えっと…ほとんど言ってたようなものだけど、果たして集まるのか…?誰が誰のものを持っているのかも分からないのに、こんなすぐに…。
ダメだ、また俺はそうやって周りを信じようとしない。きっと来てくれるはずだ。
幸いにも図書室から持ってきていた本があるからそれでも読んで暇をつぶそう。…モノパオはあのメモリに秘密の証拠があると言っていたけど、今のタイミングで見たくはない。また今度…そもそもメモリは秘密とは違って見なくちゃいけないものでもないし、柳原の事をこれ以上勝手に知るのも気が引けるので見ないのも手だろう。
キリのいいところまで読み進めてふと顔をあげるといい時間になっていた。もうそろそろ食堂に向かってもいいだろう。
部屋を出ると丁度難波が出てきたところだった。
「難波も食堂に行くのか?」
「めかぶに呼ばれたら行くしかないでしょ。…アンタは自分に配られたやつ、見たの?」
「…ああ。見た。難波は?」
「見ちゃった。最悪な引きしたなって感じ。」
「自分のじゃなかったのか。俺もだけど。」
「13分の1じゃ自分のが当たってる人のが少ないんじゃね?…最悪とか言っちゃったしアンタのではないとだけ言っとくわ。」
「あ、俺も難波のじゃなかった。」
「それにしては元気ねーじゃん。」
「…正直、メモリを見ようとは思わないものだったからな。」
「ふーん…。深くは聞かないけど、それなら本人には言わないのが得策って訳か。」
「他の皆はどうだったんだろうな、前木とかはかなり不安そうにしていたけど…。」
「それを払拭するためにめかぶは皆を呼んでくれてんでしょ?ならそこに乗るっきゃないっしょ。」
「…そうだな、悪い。」
なんて会話をしながら食堂の前に着いたのでとびらを開ける。
「…え!?」
「宮壁くんと紫織ちゃん!遅いよ!って、蘭ちゃんよだれ!」
「………おいしそう……まだ…?」
「こんなにいろんな食材があったのも驚きだけど、このスピードで料理を作れるめかぶちゃんと鈴華ちゃんには頭が上がらないね…。ほんとにおいしそう。」
「み、見たことないごはんばっかりです!すごいです!」
「えへへ…安鐘さんー、やりましたーねー!」
「ええ!がんばった甲斐がありましたわ!」
料亭。頭に真っ先に浮かんできたのはこの二文字。
ど真ん中にあるのはお造り。鯛が光をうけてキラキラと輝いている。周りにも豪華なちらし寿司、焼き肉、カルパッチョ…?これ全部作ったのかってレベルの豪華さ。和洋中華なんでもござれ状態になっているこのテーブルを見て思わず喉を鳴らしたのは言うまでもない。
「ヤバ…写真撮りたいのにカメラねーのかよここ…。」
難波が不満そうに監視カメラを睨みつける。
普段ご飯の写真を撮らない俺でももったいないと感じるんだから、難波はもっと悔しいだろうな…。
「これ…食べていいんだよね…?申し訳ないくらいだけど。」
「いいえ、みなさんのために作ったのですから遠慮しないでくださいませ!」
「へへ…おいしそう…!じゃあ、いただきます!」
前木の挨拶を皮切りに皆の箸がテーブルへとのびる。
おいしい、それ以外の言葉はグルメリポーターでもないと言えないくらい今の俺は目の前のご飯に対する幸福感に包まれていた。
今さっきまで笑顔になるような状況ではなかった事を思い出したのは夕食が終わってからだった。動機になりうるものが配られた直後でも潜手達のおかげで嫌な事を一時でも忘れられたんだ。その事は感謝するべきだろう。
「ごちそうさまでした。」
1人で片づけをしている潜手に声をかける。
「手伝うよ。」
「ほわー!ありがとうございます!安鐘さんは先にお風呂に入るそうなので、後で交代するのですーがー、宮壁さんがいればその前に終わりそうでーすねー!」
「本当にありがとうな。潛手だって…その、何事もなかった訳じゃないだろうに。」
「いえいえですー!潛手めかぶの秘密ではありませんでしたしー、そもそもまだ見てないんですー!…見なくちゃダメなんですよねー…。」
「つらいと思うけど…見なかったからって潛手が死ぬなんて絶対にダメな事だからな。がんばれ、としか言いようがない…ごめん。」
「あわわっ、宮壁さんが謝る事ではないですーよー!?…はっ、もしかして宮壁さんが仕組んだんでーすかー!」
「それは違う!誤解しないでくれ!」
こんな感じでしばらく2人で会話していたらいつの間にか片づけは終わっていた。
「ふふふー、ありがとうございましたー!安鐘さんにはもう終わったよって言っておきますー!」
潛手はそう言ってスキップしながら食堂を出ていった。
そう言えばお風呂に入るって話はどうなったんだ?柳原は部屋に帰ったみたいだし、今日はなくなったんだろうか。柳原の動機は俺が持ってるから柳原自身が秘密を知る事はないけれど…。
ご飯を食べ終わって一息ついた人の中には少し暗い顔をした人もいた。皆ご飯のおかげで楽しくすごせていたけど、内心不安に思ってる人だってたくさんいただろうな。
しばらく考え、俺も今日はさっさと寝る事にした。一応机の引き出しに秘密の入った封筒をしまい、軽くシャワーを浴びてベッドに入る。
『夜時間パオ!明日のアナウンスまでには見ておくようにねっ!見ないのはダメだよっ!』
ダメ、か…じゃあもう皆自分に配られたのは見たんだよな。誰かは俺の秘密を見たという事になる。
…明日からは特に気をつけよう、モノパオがわざわざ配るくらいだ。ただの秘密のわけがない。
でも、モノパオは「秘密を見なければオシオキ」以外の説明はしていなかった。本人が知っている秘密が動機ならその秘密を持ってる人を放っておけなくなるかもしれないけど…一体モノパオは何が目的なんだ?
考えても仕方のない事ばかりになってきたので、俺は無理矢理目を閉じた。
□□□
いつものアナウンスを聞いて起き上がる。今日は思ったよりすっきり目覚めた気がする。
食堂に行くと、いつものメンバーが揃っていた。
「あら、宮壁さんおはようございます!」
「おはよう。今日も早いな。」
今日は味噌汁とご飯と目玉焼き。シンプルにおいしい献立だ。
潛手と安鐘に感謝しながら箸を進める。やはり皆昨日までに見た秘密が気になるのか、口数も減っていた。
「みなさんー、えっとー…今日のお昼は鶏肉食べましょうー!」
「え、いいの!?やった!」
その沈黙に耐えかねたのか潛手が昼食のメニューを提案する。前木は嬉しそうに声をあげた。
「そうですーねー、竜田揚げとかどうでしょうかー?」
「超うまそうじゃん。アタシも手伝うわ。」
「ほわわっ!いいんですーかー!?」
「もちろん。」
難波が笑顔で立ち上がって潜手と一緒に食器を片付けに厨房に向かった。
「潜手さんの料理のレパートリーの広さはすごいですわ。わたくし、家にいた時は和食で野菜が多かったので、ここでこんなにいろいろ食べられるなんて思ってもいませんでした。」
「ああ、自分も正直ここに来てからの方が食生活は改善されている気がするぞ。野宿だと限られたものしか食べられないからな…。」
「おれもです!こんなにいろんなご飯が食べられて幸せです!」
…まずい、柳原の声にいまだにドキリとしてしまう。過剰に反応するのもよくないよな…。
だけどいろいろとおかしい点がある。あれが本当に柳原の母親からの手紙だとしたら、どうして柳原はこんなに世間知らずなんだ?そもそも家にずっといたようだけどどうして家の外に出てないんだ?分からない事が多すぎる上に柳原本人にはとてもじゃないけど確認できない。
「…宮壁くん、どうしたの?」
ふと我に返ると前木が心配そうに俺の顔を見ていた。
「………ぼーっと、する……隙あり……。」
いつの間にかご飯が減っている気がする。これ、勝卯木に食べられたな…。
「勝卯木…人のを横取りせずにおかわりしたらどうなんだ…それか自分で作るとか…。」
「できない。」
「……そっか。」
言い切ってるけど全然かっこいい事じゃないぞそれ。
「あの、宮壁さん…?体調がすぐれないんですか…?」
だめだ、柳原にまで心配されてる。
「いや、ちょっと考え事をしていただけだから気にしなくて大丈夫だ。」
「…そうですか?」
あまり納得していない様子の柳原を適当に流す。
その適当に流したのがよくなかったし、俺の考えがあまかった事を思い知らされたのは、朝食が一段落した時だった。
「宮壁さん…おれ、なにかしましたか…?」
「え?」
「あの、おれと目が合った時の様子が変に見えたので…。」
…あれ?柳原ってこんなに察しがよかったか?
「い、いや…。」
「もう!宮壁さん、なんか変ですよ!言いたい事があるならはっきり言ったらいいじゃないですか!」
俺はどうするべきなんだ?柳原に秘密を見せるべきなのか?でもここで無理矢理ごまかして、嘘をつくのはいい事には思えない。
悩んだあげく、俺は柳原の部屋に封筒を持って向かった。
「…柳原、俺がもらったのはお前の秘密だったんだ。」
「おれの…?」
「その、家族の事なんだけど…。」
「えっと、家族のことでおれに関係する秘密なんですか…?てっきりおれの事かと思いましたよ!それなら心配することないですよ!」
…言うしかない。怖いけれど、たぶんこれが正解だ。なんでもないと嘘をついて信用を下げるくらいなら正直に言った方がいいに決まってる。
「覚えてないかもしれないけれど…柳原、お前に、子どもがいるって書いてあった。」
「…?子ども?」
「分からなくても仕方ない。だってこれはお前の知らない秘密なんだから。だけど…」
「いますよ?」
「…え?」
「えっと…名前は…覚えてないんですけど…いますよ、2人。」
…2人?じゃあ、この秘密が言いたい事って…。
「この紙には3人いるって書いてあったけど…。」
「え?じゃあ、おれがここにいる間に生まれたってことですかね?『3人目ができた』ということが秘密だったのかもしれませんね!大した秘密じゃなくてよかったです!」
「そ、そうなのか…?」
思っていたより数倍なんともない反応で逆に困ってしまった。だけど、この柳原の言い方からして『柳原にはまだ秘密がある』事になるんじゃないか…?
…いや、ここで余計な詮索をするのはやめておこう。少なくともこれで柳原には動機がない事になったんだからここは喜ぶべきところのはずだ。
「ごめん、話はそれだけだったんだ。」
「あれ、そうなんですか!へへ、心配して損しちゃいました!隠す事でもないですよね!あ、おれは勝卯木さんの秘密でした!よく分からないけれど、『勝卯木蘭には才能がない』とだけ書いてありました!」
「え?」
止める間もなく柳原が口に出してしまったので知ってしまった事自体は仕方ないけど…『才能がない』ってどういう事だ?だって勝卯木は間違いなくすごい記憶力を持っている。捜査の時はかなり助けられたのに、あの記憶力は才能じゃないのか…?そもそもそんな大事な事を勝卯木本人が知らないってどういう事なんだ?
「…勝卯木には見せるなよ。」
「はい!」
俺の不安要素は減ったけど、また新しい不安を抱えてしまったな…。
「あ、宮壁さん!」
「なんだ?」
「あの、話してくれて、ありがとうございました!おれ、宮壁さんに助けてもらったし、今日もちゃんと打ち明けてくれたので、今度の裁判はおれが宮壁さんの役に立ちます!がんばります!そのためにお勉強もしてるんです!がんばって一緒にここから出ましょう!」
「…ああ、もちろんだ。」
正直言うともう裁判が起きない事が1番理想なんだけど…今はそんな事を言って柳原のやる気を奪うのもよくない気がする。柳原1人ががんばってる状況にならないように、俺も自分にできる事をやっていかないといけないな。
にこにこ笑って返事をする柳原に別れを告げて部屋に戻った。
「宮壁!ちょうどいいところにいるじゃん!」
「牧野、どうしたんだ…」
「って、その紙持ち出して何やってんの?」
「あ、えっと…これは、不可抗力で本人に見せる事になったんだ。」
「…誰に?」
「…柳原。だけど本人に見せても大した反応はなかった。別に人に言っても構わないらしい。」
「ふーん?俺に配られたやつもそこまで怖い秘密じゃなかったから、宮壁の反応からしてもこれが動機になる人は少なそうだね。誰かを狙い打ちしてる可能性もある。…黒幕にとって邪魔になる人間にね。」
「まさか…!」
「俺とかすごい役に立つからすごい邪魔に思われてそうだよね!俺は秘密の多いイケメンだから困っちゃうなー!」
「…そうか。」
「反応冷たいね!そんな宮壁の方が邪魔に思われていたりして。判断力の才能があればよっぽどの完全犯罪でも起きない限りは裁判で勝てそうだもん。黒幕からすれば邪魔でしかないよ。俺が黒幕なら真っ先に消すね。あ、やっぱり俺の次かな!あはは!」
「…俺を狙ってるって事か?」
牧野は冗談みたいに言ってるけど俺にとっては全く冗談に聞こえなかった。こういう事を言ってる時の牧野は怖すぎるんだよ…。
「可能性があるとすれば宮壁がシロになるような動機になっているのかもね。だから宮壁が柳原に秘密を見せたって聞いた時は『ひえーこいつ死ぬんじゃね?』って焦った!」
…たしかに。その時は悩んだ末に柳原の信用を得にいったわけだけど、場合によってはそのまま殺されていたかもしれないのか…。今思えば結果オーライとは言え迂闊な事をしてしまった。
「って、そんな事はどうでもいいんだよ!」
「どうでもよくはないだろ。」
「お昼ご飯終わってしばらくしたらイベントホールにおいでよ!天才メンタリスト牧野いろはくんが特別ショーをしてあげるからさ!」
「ショー?」
「そうそう!数人誘ってるんだけど、大人数いた方が楽しいと思うんだよね!」
「分かった。ぜひ行かせてもらう。」
「オッケー!じゃあ高堂ちゃん達と準備しておくからよろしくね!」
…なんだかんだ高堂とも仲良くなってるみたいだ。よかったな。
□□□
お昼は前木や安鐘がオムレツをメインに作ってくれた。
皆どうやら牧野から話を聞いていたようで、昨日の豪華なご飯といい楽しい事が続いて怯えたり不安がったりしている人はいないみたいだった。
そんな皆に感謝しながら後片付けはせめてと俺がやり、あとは呼ばれるのを待つだけとなった。
「宮壁さんー!おやつ食べまーすかー?」
「潜手?さっきお昼を食べたばかりだけど…。」
「勝卯木さんに頼まれて作っていたのでーすが―、まだあるのでー、どうですーかー?」
そう言って潛手が差し出してくれたのはゼリーだった。
「ありがとう。潜手は本当に料理が上手だよな。」
「褒められると照れちゃいまーすねー!勝卯木さんみたいに喜んで食べてくれる人がいるとー、どんどん作りたくなるんですー!」
「………おいしい。」
満足そうにスプーンでゼリーをすくっている勝卯木を見て一瞬今さっきの事が頭をよぎるが慌てて振り払う。
「宮壁さん…?」
「ああ、いや、なんでもない。すごくおいしいよ。」
グルメレポーターでもないからおいしい以外の感想が浮かんでこなくて申し訳ないけど、潜手は嬉しそうに笑ってくれた。
「ではではー、いい時間になりましたし、宮壁さんたちもイベントホールに行くんです―かー?」
「ああ、そのつもりだ。行かない人はいるのか?」
「ええっとー、大渡さんと東城さんと篠田さんは行かないって言ってたはずでーすねー。」
「あれ、篠田もか?」
「はいー…誘ったんですけーどー…考え事があるから今日は行けないって断られちゃいまーしたー。」
その時の事を思い出したのか潜手は悲しそうに目を伏せた。2人は比較的中もよかっただろうし余計に悲しかっただろうな…。
「……私も…行かない。」
「あれ、勝卯木も行かないのか?」
「牧野……苦手…。」
まだそれ続いてたのか…まあそれは仕方ないよな。
「めかぶ…ゼリー……作ってくれた…満足……。」
普通に気にしてなさそうだったので、勝卯木を1人にして申し訳ないとは思いつつも俺は潜手を連れてイベントホールに向かった。
□□□
「よし!全員集まったね!今日は皆にメンタリズムショーを見せてあげようと思います!立案者は我らが兄貴の三笠!この看板含めた道具は俺と高堂ちゃんで準備しました!素敵な助っ人に拍手!」
おお…こうやって喋ってる牧野は完全にテレビで見ている牧野いろはそのものだ。
映画の前みたいにどきどきしながら牧野のショーが始まった。
「簡単にさくさくやっていきたいのでトランプを使うね。ルールは簡単で、誰かにそのカードを引いてもらってそのカードの絵柄、数字を俺が当てる。その時にそうだな…3つ質問をするから、全部『いいえ』で答えてね。最初は試しに一種類のカードでやるよ!やりたい人ー!」
「はーい!」
「潜手ちゃん元気がいいね!さ、壇上へどうぞ!」
潛手が壇上に用意された椅子に座る。机をはさんで座っている牧野が13枚のカードを取り出し適当にシャッフルすると、潛手の前に裏向きで広げた。
「好きなカードを選んでね。」
潜手は慎重にカードを1枚抜き、俺達に見せる。カードはスペードの9だ。
「じゃあ今から質問をします。そのカードは奇数ですか?」
「いいえ…!」
……これ、牧野じゃなくてもバレバレなんじゃないか?正直、俺でも嘘ついてそうだと分かってしまった…気がする。カードの中身を知ってるから気のせいかもしれないけど。
「そのカードは3の倍数ですか?」
「えっと…いいえ。」
「そのカードは9ですか?」
「…!いいえ!」
…やっぱりバレバレな気がする。どっちにしろ「いいえ」って答えなきゃいけないのに完全に見て考えてる間があるんだよな…。
「…9だね?」
「は、はい…!」
潜手はめちゃくちゃ驚いてるけど牧野は微妙に苦笑いしてるし、たぶん牧野からしてもかなり分かりやすかったんだろうな…。
「というわけで潛手ちゃんは見事当てられちゃったね!次は2種類でやるけど誰がやりたい?」
「あ、おれ、やりたいです!」
元気よく挙手したのは柳原だった。
さっきと同じように牧野の向かいに座り、カードを引き、質問されているところまでは一緒だけど…。
「な、何?」
「いえ、牧野さんがどこでおれの嘘を見破っているのか気になりまして!勉強させてもらってるんです!」
「そっか。まあ簡単に俺の技術が真似できるとは思えないけどね。これ、結構難しいから。」
「そうなんですね…。たしかにちょっと見ただけじゃ分かりません!すごいですね!」
「どうも。カードはクローバーの5で合ってるね?」
「わ…!すごい!なんで分かるんですか!?」
「秘密。」
柳原は俺からするとあまり分からなかったけどさすがだな。普通に当ててる。
「はい!じゃあ最後は全カードを使ってやってみようと思います!誰かやりたい人は…」
「じゃあ、やりたいな。」
牧野の顔が一瞬固まる。意外にも手を挙げたのは高堂だった。
後ろでにこにこしている前木を見るに、どうやら前木が勧めたみたいだ。
「…コホン!じゃあこの中から1枚選んでね!」
高堂は少し緊張した面持ちでカードを引いて俺達の方に見せる。ハートの4だ。
「では質問です。うーん…そのカードは奇数ですか?」
「いいえ。」
「ハートのカードですか?」
「いいえ。」
ぱっと見た感じでは高堂の表情は変わっていないように見える。
「…そのカードは5より小さいですか?」
「いいえ。」
「……。」
あ、あれ?牧野が固まっている。今の条件で正しく絞り込めていれば候補はハートの2か4だ。かなり正解に近いはずだけど…。
牧野から次に発せられた言葉は予想だにしないものだった。
「ギブアップしていい…?」
「え、あたしそんなに分からなかったの?」
「その…。」
「ふふ、勝ったみたいでちょっと嬉しいかも。」
「…っ!??!!?!」
「え、牧野?」
…顔を真っ赤にして牧野が倒れた。うん…ギブアップ宣言からこうなる気はしていた。高堂の顔を間近で見すぎて心臓が痛くなったんだろう。
はっきり言って高堂の今さっきの笑顔は狙っているとしか思えないくらい美人だった気がする。牧野の反応から見るときっとクリーンヒットしたに違いない。
三笠も察したのかそっと牧野を支えに行く。高堂も手伝って2人は牧野を保健室に運びに行った。
変な終わり方になってしまったけど…仕方ないな。
□□□
「鼻血は出てるけど大した事はなかった。」
三笠の報告に心配そうだった人達が安心したようにため息をついた。
「てっきりあのまま死んじゃうのかと思いました!」
「柳原くん、それはちょっと不謹慎すぎるかな…。」
前木が苦笑しながら訂正する。
「牧野いわくショーはあれで終わる予定だったらしいから、ここで解散でいいと思う。自分と高堂は持ってきた道具もあるしここの片付けをするから残る。牧野も後で片づけると言っていた。」
「分かったよ!楽しいショーを開いてくれてありがとうって牧野くんに伝えておいてもらえると嬉しいな…!」
前木は笑顔でそう答えると難波と一緒に帰っていった。
楽しい事が続くと時間はあっという間に感じる。いつの間にかもう夕方になっていた。
ここにいない人も数人いるけど、また全員でこういう事ができたらいいな…そう考えて、前回イベントを企画してくれた人を思い出す。あの時皆を呼んで回ってくれたのは安鐘と端部だった。
端部が皆と仲良くなりたい、仲良くなろうとしてくれているのは本当だった。俺達がここで立ち止まるわけにはいかないんだ。
また立ち止まる事になるなんて、俺は考えてなかった。
端部と桜井の死のように勘違いではない、純粋に俺達を殺そうとしている人がいる事に、俺達は1人も気づいていなかった。
□□□
やる事もなくなったし夜ご飯まで何をして過ごそうかと考えていた矢先、インターホンが鳴った。
「ん?誰だ?」
「宮壁さん、あの!」
扉を開けると柳原が待ち望んだように声をかけてきた。
「柳原…どうした?」
「あの、お風呂、今日行きませんか?」
なんでここまで固執しているんだろうか。裸の付き合いってそんな大事なものなのか?
そもそも柳原を見ると緊張してしまうから2人でお風呂に行くのはちょっと…。
「他の人も誘ってみるか。女子は絶対声をかけちゃだめだからな。」
「はい!」
元気のいい柳原をつれて他の男子に声をかけてまわってみる事にした。
□□□
「え、男だけで風呂?楽しくなさそー…。」
「2人で入るのも寂しいものがあるだろ。」
「いや、俺は無理。悪いけど人と風呂とか行きたくないんだよね。」
「ど、どうしてですか?」
「メイク落としたくないから。」
「落とさずに入るのはダメですか?」
「風呂の意味ないよね?それに俺さっきの片付けもあるから諦めてよ。」
牧野の返事に柳原が明らかにしょんぼりしてしまった。
「や、柳原、仕方ない。まだ人はいるし牧野は諦めよう。1人くらいいなくても大丈夫だ。」
「…そうですね!さようなら牧野さん!」
「え、三笠、もう入ったのか?」
「す、すまないな。そんな予定があれば入らなかったのだが…。」
申し訳なさそうな三笠の顔を見て慌てて訂正する。
「いや、全然言ってなかったから仕方ない。急にごめんな。」
「こちらこそすまなかった。また誘ってくれると嬉しい。」
「もちろん。」
あっ、横で柳原がさっきの数倍はしょんぼりしている。
た、耐えてくれ…!俺だって三笠なら来てくれると思ってたんだ…!
「三笠さんもダメでしたね…。」
「あ、ああ…。」
「あと2人はあまり来てくれる気がしません…。」
「…そうだな。」
「今も大渡さんは扉を開けてくれませんね…。」
「大渡!いるんだろ!ちょっと話聞くだけでも聞いてくれ!」
「…なんだ。」
あ、ちょうど開いた。
「一緒に風呂に…」
閉まった……。いくらなんでも早すぎるだろ…。
「宮壁さんの話を聞かないなんて大渡さんはひどい人ですよ!こんなにすごい人なのに!」
なんか柳原が怒ってるけど放っておこう。
「お風呂?」
「…来たければ来いよ。」
「宮壁さん!?今までと誘い方が全然違いますよ!」
「生憎大浴場に複数人で行く用事はないのだけれど。」
「柳原提案の親睦会みたいなものだ。」
「実験したい事はあるから行こうかな。」
「やっぱり来るな。」
「宮壁さん!」
東城の手にはビニールに包まれた入浴剤のようなものが握られていた。完全にお湯に何か溶かそうとしてるぞこいつ!こんな危険な奴と一緒に入れるわけないだろ!
何事もなかったかのように部屋に戻る事にした。
□□□
「柳原…今度三笠を誘おう。今日は俺だけしかいないけど我慢してくれ。」
「はい!我慢します!」
…面と向かって『我慢する』なんて言われるとキツ…い…な…。
早くも心が砕け散りそうだが仕方ない。たぶん柳原は無意識で言ってる。
着替えなどを抱えて2人で大浴場に向かった。
「宮壁さん!準備できました!さっそく入りましょう!」
俺が服を入れるための手ごろなカゴを探している間に柳原は浴室の扉に向かっていた。
その時だった。
俺の視界に畳まれたオレンジ色のパーカーが映ったのは。
「きゃあああああああああ!!!!!!!」
あ、俺と柳原の人生、終わったのでは…?
そんな事を思いながらも柳原を早くこちらに引き戻そうと体は無意識に柳原の方に向かっていた。
「柳原!戻れ……………」
………。状況を説明しよう。
柳原は浴室にほぼ入ったと言っても過言ではない。
俺はそれを引き留めるために動いた結果、現在柳原の腕を掴んでいる。
つまり、俺もほぼ浴室に入ったようなものだ。
柳原は裸、俺は服を着ている。
そして浴室に元々いる人達が服を着ているわけがない。
タオルを巻いている人「も」いるけれど。
「も」という事はタオルすら身に着けていない人がいるという事だ。
そして俺達は、目が合っている。
正確に言うと、中にいた前木、安鐘、難波と目が合った。
「……。」
無言で数秒固まった後、すぐに浴室のドアを閉めた。
…どうしよう。とりあえず3人を外で待って謝ってあと柳原に服を着せよう。
「柳原、早く服を着てくれ。」
「え、でも…。」
「じゃあせめてタオルで隠せ!!!」
柳原の腰に急いでタオルを巻…え、大きいな…どことは言わないけど……。
とりあえず最低限隠して出口に向かって柳原の背中を押す。さっさと出て着替えやすくしてあげなきゃと思って大浴場から出ようとした時、
「おい。逃げんな宮壁。」
ひ、ひえ…………難波の声だ……怒ってる…当たり前だよな…。
難波の方を振り向く訳にもいかないので後ろを向いたまま棒立ち状態になる。
だめだ、難波の声を聞くと思い出してしまう、今さっき一瞬見えてしまった景色が…!
「こっちを見る。」
「は、はい…。」
恐る恐る後ろを見る…って着替えてない!!!!なんでだよ!!!!!!!!
タオル1枚で身を包んだ難波が俺を睨んでいた。…む、胸が…見えそうだ…。
前木と安鐘は寝間着…ジャージを着て怒ったように見ていた。
「宮壁。柳原に何吹き込んだ?白状しろっつってんの。」
「本当にごめんなさい。今日も入ってるなんて知らなかったんだ。」
「た、たしかにわたくし達は伝えていませんでしたから仕方ないところもありますが…その、脱衣所を見て気づきませんでしたの?」
「そ、それは…。」
柳原が勝手に入っていったから…と言おうとしたけど、それだと全ての責任が柳原に向いてしまうんじゃないか?さすがにそれは申し訳ないというか…それに、その、事故だけど見られて、うん、ちょっと、ドキドキしたっていうか…そこは柳原に感謝してるのもあるし…。
「変質者の顔してるからわざとでいいんじゃね?」
す、鋭すぎるだろ…!!いや変質者の顔ってなんだよ!そんな顔してな…顔から熱が出てるくらい熱い。なるほどそういう事か。待て、納得したくない…!
「ごめんなさい!柳原も黙ってないで謝るんだ!」
「宮壁さんは何も悪くないです!そもそも見られて困る事なんて何もないじゃないですか!おれもみなさんに裸を見られたんですし、後は宮壁さんが見せたらおあいこになるんじゃないんですか!?」
だめだ!フォローが謎すぎる!柳原が訳の分からない事を言ったせいで難波がついにキレた。
「はーーーー!?困る事しかねーだろ!てか柳原も服着ろって!」
「もう脱いじゃいました!おれは今からお風呂に入りたいんです!」
そう言うと柳原はお風呂に向かって走っていった…。
「ね、ねえ紫織ちゃんもそんな恰好してたらまずいよ…服着よう?」
「ま、前木…!よかった、前木は俺の事信じてくれるん」
「えっと、それはないかな…。」
…。どうして男湯と女湯で分かれていないのか意味が分からない。その後事態を収めるのに30分近くかかった。
前木のあそこまで冷たい視線を忘れる事はないだろう。
ここで俺が脱いだら確実に変質者だし柳原も俺にこっちに来るようには言わなかったので俺はいったん帰る事にした。
□□□
「あ、大渡!お前今日もほぼ1日引きこもってたのか?」
「あ?」
「ほら、牧野のショーにも行ってないし、さっきだって…。」
「興味がねぇだけだ。それにずっと部屋にいたわけじゃねぇよ。」
興味がない…バッサリ言うな本当…。逆に何に興味があるんだこいつ。
「おや。珍しいな。」
「篠田!今日はほとんど顔を見てなかったから久しぶりだな。」
「ああ。いろいろと用事があってな。用事というよりかは調べものだが…。」
「調べもの?」
「残念ながら有力な情報はなかった。今行ける場所には特に情報はないようだ。」
「…はぁ。あの糞化学者と似たような事を言うのは気味が悪ぃが、貴様らみたいに遊んでる連中よりかはマシなんじゃねぇのか。」
「…大渡。その言い方はやめろ。私は交友関係を築くのも大事だと思っている。現に私にも友人ができたのだからな…。」
あ、篠田がちょっと嬉しそうだ。照れたようなそぶりを見せ、篠田は部屋に帰っていった。
「…幽霊の気配は人に憑りついたらなくなる。」
「え?」
「見えねえ理由として考えられるやつだ。たまにそういう体質の奴がいる。顔にも出さねぇ癖にしっかり憑りつかれてる奴がな。俺の才能が消えたわけじゃねえって事だ。」
「そ、そうなのか…。」
不穏な事を言って去っていく大渡を、ただぼーっと見送る事しかできなかった。
□□□
夜時間30分前くらいになった。せっかく着替えの準備とかもしてしまったし、こうなったら1人で大浴場に行こう。さっき疲れてしまった心を癒すためにも広々としたお風呂でくつろぐのも悪くない。
「あれ、宮壁くんはどうして1人でいるのかな?」
そう思って大浴場の暖簾をくぐった俺を出迎えたのは東城だった…。
俺の心はいつになったら癒されるんだ。最悪にもほどがある。
「…お前、まさか実験するんじゃないだろうな。」
「それ以外にここに来る目的があるのかな?」
「それ以外の方が多いんだよ。」
「へえ。」
興味なさそうに返事をした東城を見て俺も興ざめしたというか、とりあえずコイツとお風呂には入りたくない。今日は諦めてシャワーで済まそうと部屋に戻ろうとした時、東城に呼び止められた。
「宮壁くん、トラッシュルームの中は見た?」
「トラッシュルーム?今日は見てないけど。」
俺の返答に東城はじゃあ知らないか、と困ったように話し始めた。
「ここに来る前に少し覗いたら散らかっているのが見えてね。かなり物が散乱していた。ちゃんと片付けてほしいよ。」
「見つけたなら東城が片付けたらいいじゃないか。」
「入れそうになかったからね。元々あそこまで荷物があるような部屋じゃないと思うのだけれど。」
「諦めちゃだめだろ…。」
「そもそも片付けるのは散らかした人の仕事だよ。ボクが代わってあげるような事ではないからね。」
……ガッシャアアン!!!!!
「え?」
「近くの部屋からかな?方向的にはトラッシュルームだろうね。」
ぞわりと、嫌な予感がした。嘘だ。いや、まさか、そんな訳が、
「…東城、ちょっとついて来てくれ。」
「いいけれど、急にどうかしたの?」
そう言うと半裸の上から白衣を羽織った。俺は黙って向かいのトラッシュルームに向かって走る。
トラッシュルームのドアからは中の様子は見えなかった。
「…!鍵が開かない!」
「ここって、内鍵だったよね。どうして閉める必要があるのだろうね、不思議だ。」
「東城!ぶつかるぞ!」
間に合うか?汗が滝のように流れる。頼む、間に合ってくれ…!
「え?」
肝心な時に鈍い東城に若干のいら立ちを覚えながら全力で扉にぶつかる。鍵がかかっているならスライド式のドアは蹴破った方が早い気がしたからだ。
2回、3回。何度か繰り返してもびくともしない。
「これ、向こう側に何かある気がするよ。バリケードなのかな?」
まだ、まだ音がして1分くらいのはずだ。
「…モノパオ!」
「宮壁くん、モノパオを呼ぶなんて急にどうした…」
「…ふう、ふう、疲れた…。急に呼ぶから猛ダッシュだよ…。はいはーい!何の用パオ!」
「ここを開けられないのか。今すぐにだ。」
「ちょっと待ってね!鍵開けたら向こうからノックするから入ってきたらいいよっ!」
その数十秒後にやっとノックの音が聞こえたので急いでドアを開ける。
「…!宮壁くん、これって…。」
東城もやっと理解したのだろう、目を見開いて床に広がる真っ赤な血を見つめる。
だけど、ここにあるのは血だけだった。
「…急いで探すんだ。」
モノパオはいつの間にか消えている。もう手伝ってはくれないのだろう。だけど部屋全体を見渡しても誰もいなかった。
「ここ。」
東城が指さした先はダストホールだ。穴の横側には手形の血痕がついている。
おそるおそる2人で中を確認する。
……誰かが、いる。
「どうして、また起きたのかな。」
そう東城が呟いた瞬間、あのふざけた忌々しいアナウンスが鳴った。
『ピンポンパンポーン!』
『あー忙しいなあ全く…。えっと、死体が発見されました!一定時間の後、学級裁判を開きます!ミンナ、トラッシュルームに集まれーっ!』
その直後、暗がりにいる彼をライトが照らす。
「…え、」
これが現実だなんて、俺は認めたくない。
なんで、お前が。
今日のショーを大成功させたお前が。
あんなに嬉しそうに高堂といたお前が。
こんな無残な姿になるなんて。
ダストホールの底。
明るい衣装とは正反対の暗く冷たい場所。
超高校級のメンタリスト、牧野いろははそこで最期のスポットライトを浴びていた。