ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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捜査編です。かなり短いのであっという間に終わると思います。
次回は裁判ですが前後編に分けるかどうかで悩んでいる今日この頃…。
来月中には2章を終わらせたいですね。


非日常編 1

 

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白い明かりに照らされたダストホールを見つめていた俺が我に返ったのは皆の足音が鳴りやんでからだった。

 

「宮壁!今のアナウンスって何………!?」

 

駆けつけた皆がトラッシュルームの床を見て立ち尽くす。気づいた時には11人全員が揃っていた。

「全員」という言葉が表すのが11人になってしまった。

 

「ま、待って、誰がいないの…?」

 

不安そうな前木を含め、全員が辺りを見渡す。

 

「牧野…。」

 

呟いたのは高堂だった。

 

「ねえ、宮壁、東城。牧野はそこにいるの?」

 

俺が言い淀んでいる間に東城がさらりと答える。

 

「いるよ。まだ血は流れてるからついさっき落ちたんだろうね。」

 

「…そう。」

 

高堂は無言で俯く。唇を噛みしめているように見えた。

 

「…ちょっと、部屋に戻っていい、かな…。」

 

「も、潛手めかぶもついていきまーすー!」

 

高堂を1人にしておけないと思ったのか、潜手はいち早く高堂を追いかけて行った。

 

「よっこらせ!やっほー!他のミンナが元気そうでよかったパオ!」

 

「今のどこを見たら元気そうなどという言葉が出るのだ。」

 

「もー!三笠クンったら冗談が通じなさすぎパオ!健康イコール元気って事でいいじゃない!そこに健康じゃない人もいるんだからねっ!」

 

「今日はやけに機嫌がいいじゃん。そんなにコロシアイが起きて嬉しい訳?マジで屑。」

 

「へーんだ!なんとでも言えパオ!とりあえず裁判に向けてこれをあげるパオ!モノパオファイル、2!あの2人にも渡しに行くから安心してねっ!」

 

そう言ってモノパオはUSBを取り出した。またこれを受け取らなきゃいけないなんて、正直最悪な気分だ。

 

「…おい象、コイツも本当に死んでるんだろうな?」

 

「大渡クンは実はミンナに生きてほしい素敵な人なのかな?前も似たような事言ってたもんねっ!」

 

「きめぇ。」

 

モノパオを鼻であしらうと、いつの間にファイルをダウンロードしていたのか黙ってでていこうとする。その大渡を呼び止めたのは柳原だった。

 

「1人で行くと疑われますよ!こういう時はお互いの監視を兼ねて集団行動です!みなさん、今回もがんばりましょうね!もうおれを疑うのはやめてくださいよ!」

 

笑顔でそう言う柳原を見て雰囲気が和やかに……なるはずがない。

どうして笑顔でいられるんだ?仮にも目の前に血を流して死んでいる人がいるのに?

 

「宮壁さん?どうかしたんですか?」

 

「…柳原、一緒に捜査しよう。」

 

「…?はい!おれ、がんばって役に立ちます!」

 

相変わらずにこやかに返事をしてくれる。彼は、周りの視線に気づいていないのだろうか。たぶん今柳原と捜査したい奴はいないだろうから、我慢できる俺が一緒に捜査をするべきだ。

 

「あ、まだモノパオがいたね。今さっきのアナウンスの説明をしてもらえるかな。」

 

「もう、東城クンは人使い…ゾウ使いが粗いなぁ!分かったよ。今のは『死体発見アナウンス』って言って、その名の通りどこに死体があるのか、これから捜査だよって事を皆に伝えるためのアナウンスなんだよっ!」

 

「あれ…?でも、アナウンス聞いたのって今回が初めてだよね?どうして前回は鳴らなかったの?」

 

「あの時は皆が自発的に集まってくれたからだよっ!皆呼びに行ってくれたでしょ?このアナウンスは『犯人以外の人間が死体を発見した時』にボクくんが行うパオ!見つけた人が皆を呼びに行く気配がなかったらこれからもやるつもりパオ!」

 

…つまり、「死体を発見した人が死体を放置、もしくは現場から動かない時に鳴る」という事か。なんだかややこしい条件だ。今回鳴らしたのは俺達が牧野を見つけても固まっていたからという事か。東城は死体の分析をしているようだったし。俺は…恥ずかしながらショックで動けなくなっていただけだけど。

 

「宮壁さん、ぼーっとしてたらほんとにやられちゃいますよ!血の量や殺害場所も不可解ですしお腹にも刺された跡があります!今回は前みたいに事故まがいでもない、完全な殺意を持っての犯行のはずです!さあ、行きましょう!」

 

「え、あ、ああ…。」

 

…柳原って、こんなにいろいろ考えられる奴だったか…?

これが勉強の成果なら大したものだ。俺の手を引く柳原を…とりあえず呼び止める。

 

「柳原、はりきってるところ悪いがちょっとだけいいか?」

 

 

 

□□□

 

 

 

「あのな、その、あまりテンションが高いと不謹慎というか…。」

 

「でも、悲しい時こそ明るくっていうのが推理小説では多かったです!」

 

廊下に連れ出して少し態度を改めてもらおうと説明してるけど全然納得してくれないからいよいよ放っておこうかと思い始めた。

 

「その、柳原自身は悲しくないのか?」

 

「え?だって牧野さんとおれ、親しくないですよ。」

 

「…え。だ、だって、お前、ショーで…。」

 

「あれだけで親しくはなれませんよ!」

 

「………。忘れてくれ。さっさと捜査を始めよう。まずは…ファイルの確認だな。」

 

これ以上は押し問答が続くだけだと思い、今は諦める事にした。

 

 

 

――捜査開始――

 

 

 

現場は東城達がいるだろうから後で見るとして、とりあえず生徒手帳を起動させる。

 

『被害者は牧野いろは。殺害場所はダストホール。転落死。死亡時刻はついさっき。』

 

「…情報が少ないな。見たままじゃないか…。」

 

 

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・・・コトダマ「モノパオファイル2」

 

「あ、宮壁くん。どこを捜査するの…?」

 

前木と難波が出てきた。他の皆もぞろぞろとそれぞれ思うところに散っていく。

 

「まだ決めてない。今誰がトラッシュルームに残ってるんだ?」

 

「東城くんと瞳ちゃんだよ。他の皆は適当にやってみるって。」

 

「そうか…2人は?」

 

「私達は…とりあえず光ちゃん達のところに行くよ。その後いろいろ回ってみるつもり。」

 

「宮壁、その…よろしく。」

 

難波が申し訳なさそうにちらりと柳原の事を見る。

 

「わかってるよ。」

 

「こういう時は頼りになるじゃん?さっきのがなければいいんだけど。」

 

…風呂の事か…。あれが随分前に感じる。あの間はまだ牧野は生きていたんだよな…。あの後1人でいた時にトラッシュルームの違和感に気づいていれば…いや、今は牧野を弔うためにも捜査に集中しないと。

 

前木達と別れた時、柳原が何かを指さす。

 

「宮壁さん!これ、危ないですよ!ガラスの破片です!」

 

「え?」

 

見ると床に小さなガラスの欠片が落ちていた。トラッシュルームの扉の前だ。

 

「この辺にガラスの物なんてあったか?…あ、もしかして。」

 

少しトラッシュルームから離れて扉の上の方を見る。扉についているすりガラスの小窓が少し割れていた。

 

 

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・・・コトダマ「割られた小窓」

 

「完全な密室ってわけじゃなかったのか…。」

 

「え?密室だったんですか?」

 

そうか。この事は俺と東城しか知らないのか。

 

「ああ。内側から鍵がかかってたんだ。」

 

「密室って事は、犯人が中にいたんでしょうか?」

 

「いや、くまなく探したけどどこにもいなかったぞ。」

 

「じゃあ牧野さんの自殺…?」

 

自殺?あいつが?今日はあんなに嬉しそうに倒れてたのに、その流れで自殺する事なんてあるのか…?

 

 

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・・・コトダマ「鍵のかかった扉」

 

「そうだ、この事も聞いておきたかったんだ。モノパオ!」

 

「ええー!質問があるならさっき聞いておいてよっ!って仕方ないよね!ぼけっとしてたもんね!」

 

「トラッシュルームの扉は内鍵しかないのか?」

 

「そうだよっ!外からはどうしようもないパオ!」

 

 

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・・・コトダマ「トラッシュルームの扉」

 

じゃあやっぱり犯人が扉を閉めたって事か…。あの割れた小窓は関係しているに違いない。しっかり確認するべきだろうな。

とは言っても外から見た感じ扉に変わったところはなさそうだ。

 

「中に入ってみますか?」

 

「そうだな。」

 

トラッシュルームでは相変わらず東城と篠田が黙々と観察していた。

 

「…あれ?そこからでも分かるのか?」

 

「モノパオがこのトラッシュルームに引き上げる術がないからここから覗くだけで我慢しろと言ってきたからね。」

 

「え、じゃあゴミはどうしてるんだ?アイツ、ゴミは回収するって言ってたよな?」

 

「燃えないゴミだけ避けて後はあの奥で燃やしているみたいだよ。奥に焼却炉みたいなものが見えるから、あれで処理しているのだろうね。」

 

…今回は検死から詳しい情報を得る事はできなさそうだ。それを見越してここにつき落としたとしたら…今回はかなり手ごわい犯人に違いない。

今はとりあえず扉について考えよう。そう思い内側から扉を見ようと振り返ると、扉の手前の床に何かが落ちているのを見つけた。

 

「…これ、なんだ?」

 

「輪っかみたいになっていますね!糸がついています!」

 

「どうした、何か見つかったのか?」

 

「ああ、篠田はこれが何か分かるか?」

 

篠田は東城を一瞥すると俺達の方に歩いてきた。もちろん床に広がっている血痕を避けながらだ。触ってすぐ顔をあげる。

 

「…フェルトじゃないか?裁縫セットに入っていただろう。糸もついているし縫い目もあるから裁縫セットの物で間違いないだろう。この輪の部分を何かにかけて使ったのではないか?…私にはよく分からないが。」

 

 

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・・・コトダマ「フェルトの輪っか」

 

「よいしょ…!うーん、なかなか動かせませんね…。」

 

「柳原、本当に押してるのか?」

 

本当、あまりにも力がないな…。運動とは無縁だったんだろう。

柳原の代わりに机を壁際に寄せてみる。机の脚があった場所には血痕はなかった。

 

「脚にもついてますね!」

 

「本当だ。じゃあ犯人は…。」

 

というか、そもそもこの大量の血はなんだ?牧野は転落死なのに、一体どこから…?

 

 

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・・・コトダマ「床の血痕」

 

壁にはダストホールの蓋が立てかけられていた。ところどころ血がついている。

 

「これで殴って気絶させたのか?」

 

「いいや、それはないだろうな。この蓋はそこまで強靭ではない。本気で人の頭を殴ればこの蓋も多少は歪む上に血がつくはずだ。しかしよく見てくれ。この蓋の傷ができている角には血がついていない。別の事に使った可能性が高いだろうな。」

 

「そうなんですね!篠田さんもとっても賢いんですね!勉強になります!」

 

「私は賢くなどないが…まあいい、捜査に役立ててくれ。」

 

 

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・・・コトダマ「ダストホールの蓋」

 

「血痕といえば…少し東城の邪魔になるがここも気になる。」

 

篠田が指さしたのはダストホールだ。その両側に手形の血痕が残っていた。

 

「手形の血痕なんて本当にあるんだな…。」

 

「悪霊みたいですね!不気味です!」

 

「この手形のつき方も変だ。まるでこのダストホールの淵を掴むかのような手の跡だろう。」

 

言われてみると篠田の言う通りで、その手形からここで何があったのか少し理解してしまった俺は咄嗟に目を逸らした。

 

 

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・・・コトダマ「手形の血痕」

 

「東城、まだかかりそうか?」

 

「この距離があるからね。もう少ししたらまた来るといいよ。」

 

「分かった。」

 

 

 

□□□

 

 

 

「宮壁さん、思ったのですが、裁縫セットを使った人が容疑者候補の筆頭になりますよね?だから、裁縫セットを使った人を探せばいいのではないですか?」

 

「たしかに…そうだな。今回はアリバイがある人も多そうだし、犯人は絞れるかもしれない。」

 

とは言え、トラッシュルーム以外に探すべきところなんて思いつかない。あそこにあった物はトラッシュルームに元々あった物ばかりだし…。

 

「お、宮壁と柳原か。どうだ、捜査は順調か?」

 

「三笠と大渡か。まずまずってところだ。今は裁縫セットについて何かヒントが得られないかと思って調べようと思っていたんだ。」

 

「どういう事だ?」

 

「犯人は、犯行の途中で裁縫セットを使った可能性が高いんです!ですから、それを使った事ある人が犯人だと思うんです!」

 

「…その推理は通らねぇ。」

 

「なんでですか?」

 

大渡は無言で電子生徒手帳を2つ取り出した。

 

「誰の手帳だ?」

 

俺達の声を無視して起動させる。そこには『桜井美亜』と『端部翔梧』の名前が浮かんでいた。

 

「玄関ホールにあったクリアケース。」

 

その言葉で思い出した。そういえばすっかり共有するのを忘れていた…。

 

「これを使えばあの2人の裁縫セットを使えるという訳だ。だが、牧野の生徒手帳はまだ入っていなかったぞ。死んだ直後だからか、あるいは牧野と一緒に落ちてしまったからか…。」

 

もしこの情報を共有していれば…いや、この情報は共有したところで意味がないだろう。

 

「今から2人の部屋に入って使われた形跡があるか調べようと思う。また後で報告しよう。」

 

「そうだ。2人のアリバイも聞いておきたい。」

 

「俺はねぇよ。」

 

「自分はショーの片付けを手伝っていた。分かれたのが6時だからアリバイはないようなものだな。」

 

「そうか…。片付けの時はなんともなかったんだよな?」

 

「ああ、普通だったぞ。ちなみにだが、高堂も自分と同じ時間に出て行っている。牧野は最後にゴミを捨てるためにトラッシュルームに行くと言っていた。今思えばあの時に自分がついていけばよかったのかもしれないな…。」

 

 

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・・・コトダマ「三笠の証言」

 

「いや、死亡時刻はついさっきだ。いくらなんでも犯行に3時間もかからないと思う。」

 

悔しそうな三笠にいくらか適当な言葉をかける。何の足しにもならないような言葉しか言えないのが悔しい。

今は9時半過ぎ。正しい時刻は覚えてないけど俺が見つけたのが9時くらいのはずだ。牧野は本当にさっきまで生きていたんだ。あの音がする前に、もっと早くに気づけていれば…なんてできもしない事ばかり考えてしまう。

 

「宮壁さん!別のところも見てみましょう!」

 

「そうだな。」

 

 

 

□□□

 

 

 

「さっきはごめん。もう大丈夫。」

 

「よかったでーすー!」

 

廊下で潜手に謝っている高堂を見つけた。どうやら高堂は持ち直したらしい。三笠と情報はほぼ同じだろうけど話は聞いておこう。

 

「大丈夫…じゃないか。なんとか裁判には行けそうか?」

 

「気にしないで。あんた達も命がかかってるんだから。」

 

「…そうだな。」

 

「そういえば宮壁達はどうして気づいたの?ゴミ捨ては普段してないよね。」

 

「ああ、それは音がしたからなんだ。」

 

「音ですーかー?」

 

「え!おれも初耳ですよ、宮壁さん!」

 

「ご、ごめん。何かが落ちるような結構大きい音がしたんだけど…聞こえてなかったか?」

 

そういえばこれも重要な情報だよな。音がしてすぐに向かったらあんな惨状になっていた…。一体どうやって俺達が向かうまでの数分で犯人は犯行を終えたんだ?それとも犯行をほぼ終えて後は牧野を落とすだけだったのか?…謎だらけだな。

 

 

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・・・コトダマ「大きな音」

 

「あたしは食堂にいたけど、そこまではっきりとは聞こえてなかったよ。皆とおしゃべりしてたせいかもしれない。」

 

「潜手めかぶも同じですー!みなさんと楽しくおしゃべりしてたらですねー、アナウンスが鳴ったんですー…。」

 

「そうだったんだな。2人は何時ごろから食堂にいたんだ?」

 

「えっと…7時半には食堂にいたはず。めかぶちゃんとほぼ同じタイミングで入ってそこからは一緒だった。1時間くらいしてから琴奈ちゃん達も食堂に集まってきて、アナウンスが鳴るまで誰も食堂から出てないよ。」

 

 

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・・・コトダマ「高堂の証言」

 

「そうか。詳しくありがとう。」

 

「正しく言っておかないとあらぬ疑いをかけられるかもしれないから。他の人にも一応確認をとってみて。」

 

「分かった。」

 

高堂はそのまま踵を返していった。…泣いた跡…はほとんどなかった。強いな、高堂は。

ふらつく事もなく、しっかりと歩いていく高堂を横目に、俺達もさらなる手掛かりを求めて他の人にも話を聞いてみる事にした。

 

 

 

□□□

 

 

 

「たしかに、まだわたくしは宮壁さん達と話していませんでしたものね。」

 

「なんか分かった事はあるわけ?」

 

女子4人に囲まれるのは嬉しいのかもしれないけどこの状況とメンツの大半がお風呂事故の時と同じだから気まずい気分の方が圧勝してるな…。

 

「ちらほらって感じだ。まだ犯人が絞れたとは思えないし、正直このままだとまずいと思う。」

 

俺の言葉に前木や安鐘は少し俯いてしまった…がすぐに顔をあげる。

 

「私達の情報が役に立つかもしれないし、言える事は言うよ。とりあえず食堂に行ってみたんだ。厨房の包丁が1本なくなってたよ。」

 

「包丁?でも、牧野の体には刺さっていなかったよな。」

 

「ダストホールの中はかなり暗いはずですわ。どこかに包丁が落ちていても気づかない事もあるのではないでしょうか…?」

 

「確かに。俺が見た時もごちゃごちゃしていたし、物陰に隠れていても気づかないだろうな。」

 

「安鐘さんはよくトラッシュルームに来ていたんですか?」

 

「そうですね…1日に1度ほどでしょうか。夜ご飯の後に1日のゴミをまとめてだしていましたわ。」

 

「じゃあ今日はまだ出してなかったんだな。ダストホールの中に木や鉄骨があったけどあれは元々あったのか?」

 

「暗がりだったのではっきりとは言えませんが、あったはずですわ。」

 

「そっか…。後はそうだな、夕方からの行動を教えてもらってもいいか?」

 

「ええ。わたくし達は7時頃からお風呂にいて…8時前くらいに宮壁さん達が来たのです。」

 

…うっ。視線が冷たい、気がする。

 

「8時半には別れていましたよね。その後は食堂に向かいましたの。高堂さんと潜手さんがいましたわ。アナウンスが鳴るまでは一緒でしたわね。」

 

なるほど、高堂が言っている事と同じだな。

 

 

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・・・コトダマ「安鐘の証言」

 

「あれ?勝卯木さんは一緒じゃなかったんですか?」

 

柳原の言葉を聞いて目の前にいる勝卯木が何も話していない事に気づく。

 

「勝卯木はその…アリバイとかはないか?」

 

「アリバイ………ない。…話す事……ある……。」

 

「なんだ?」

 

「保健室……牧野…出てきた……。」

 

「え?いつくらいの事だ?」

 

「6時10分11秒……。」

 

「相変わらず細かいな…。」

 

「すごいね…蘭ちゃん…!」

 

「……ピース。」

 

「よくそんなに覚えていられますね!すごいです!かっこいいです!」

 

「……別に……。」

 

前木と柳原で勝卯木の対応の差が激しいな…。

 

 

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・・・コトダマ「勝卯木の証言」

 

「……トイレ…行く…。」

 

「え、ええ?蘭ちゃんまた?うん、ここで待っておくね。」

 

前木達に手を振りながらどこかへ…というかトイレ向かっていった。勝卯木は本当に自由というかなんというか…。

 

「アタシらから言えるのは大体こんなもんじゃね?死因とか、もっと詳しい事は分かってねーの?」

 

「それなら今から聞きに行くところなんだ。」

 

「ふーん。じゃあアタシはもうちょっと何かないか周り調べてみるわ。任せた。」

 

「ああ。」

 

「行きましょう宮壁さん!あ、その前に俺トイレに行ってきてもいいですか!?勝卯木さんを見てたら行きたくなってしまいました!時間も限られているでしょうし、おれの事は気にせずに行ってください!」

 

「そうか。分かった。」

 

捜査中に1人にするのは気が引けるけど、あとどのくらい時間があるかも分からないからもう仕方ない。

たしかにそろそろ東城達の検死も終わっているはずだ。様子を見に行ってみよう。

 

 

 

□□□

 

 

 

トラッシュルームに向かっていた俺を呼び止めたのは三笠だった。

 

「調べてきたぞ。2人の生徒手帳が使われた形跡はなかった。後は…そうだな、自分と大渡も未使用な事はお互い確認済みだ。会う人には聞いて回ったが使った事のある人はほとんどいなかった。」

 

「そうか…。」

 

 

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・・・コトダマ「電子生徒手帳」

 

「捜査はこのくらいか?自分達はもう少し周りを見てみよう。」

 

「分かった。ありがとう。」

 

ここまでで、犯人は絞れてきた気がするけれど…油断は禁物だ。

 

 

 

□□□

 

 

 

「ああ、検死なら終わっているよ。」

 

「そうか。どのくらい詳しく分かったんだ?」

 

「死因は転落死で間違いないと思うけれど、その前に腹部を刺されている。腹部からは血がほとんど流れていないから転落する前に刺されたのだと考えているよ。」

 

「何で刺されたかは分かっているのか?」

 

「ダストホールの底に刃物が落ちていたよ。懐中電灯で照らしてやっと分かったという感じかな。」

 

 

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・・・コトダマ「腹部の傷」「ダストホールの刃物」

 

「他の怪我は全部転落の時にできたのか?」

 

「そうだね。服も綺麗なままだからあまり揉めた様子もない。頭の傷も後ろの鉄筋か木材かにぶつけたのだろうね。後は靴底に血がついている事と手の平にも血がついている事。この2つが特に気がかりな事だね。」

 

「なるほど。…ありがとう。」

 

「お礼を言われるような事じゃないかな。ボク達が犯人を追い詰めるために必要な事だからね。」

 

 

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・・・コトダマ「遺体の様子」

 

「後は状況整理でもしておいた方がいいかもしれないね。」

 

「宮壁と東城が2人で最初に見つけたのだったな。裁判でもその確認はする事になるだろうが、よければ状況を聞かせてほしい。」

 

「そうだね。ボクが浴場に行く前からトラッシュルームの扉は開かなくなっていた。その後浴場で大きな音を聞いてモノパオに扉を開けてもらった。その時点で時すでに遅し、な状況だったよ。」

 

 

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・・・コトダマ「発見当時の様子」

 

「そうか。しかし音がしたのが転落だとしたら、その時には犯人は部屋からいなくなっていたのだろう?一体どうやって犯人は出て行ったのだ…?ここを密室状態にするような方法…難しいな。」

 

篠田は腕を組んで考え込んでいる。

俺達が最初にここに入った時、くまなく探したけれど犯人らしき人はいなかった。

どうやってここの扉を閉めて出て行ったのか、謎は深まるばかりだな…。

 

「宮壁さん!お待たせしました!もう終わりましたか?」

 

「ああ。」

 

「さすがです!おれも1つすっきりしました!」

 

…本当にトイレに行ったのか…?

 

「あ。」

 

「柳原?どうした?」

 

柳原は扉の方を見て固まっていた。そのまま唸りながら何かを考えている。

 

「うーん…。」

 

「何か証拠があったのか?」

 

「………うーん、気のせいかもしれません!」

 

なんだ今の間は。絶対何かあっただろ…。

 

「なんで隠すんだよ…?」

 

「気のせいかもしれないからです!変な事を言って宮壁さんを困らせる訳にはいきません!」

 

「そうか…何かあったら教えてくれよ。俺は柳原の事も頼りにしてる。」

 

「へへ、ありがとうございます。おれもがんばります!」

 

 

『ぴぽぱぽぴぽぱ!捜査終わりだよっ!はー、それにしても痛かった…。コホン、とりあえずミンナはエレベーター前に集まってねっ!』

 

 

…?何かトラブルがあったのか…?

それにしても相変わらずふざけたアナウンスだ。それでもそのアナウンスは、俺達の命がかかった裁判の幕開けを明確に突きつけてきた。じっとりと背中を汗が伝う。

 

本当ならまだ調べたいところがあったけれど仕方ない。誰かが捜査してくれている事を願おう。

 

「じゃあ裁判に向かおうか。裁判自体には気乗りしないけれど、この中にいる犯罪者を確実に炙り出せるこのシステムはなかなか都合がいいね。」

 

不気味な事を言っている奴がいるけどそういうのは無視だ。

 

「ででどどん!」

 

「うわっ!?」

 

「わ!久しぶりに宮壁クンがボクくんに対していい感じの反応をしてくれたパオ!でも残念!ボクくん、今回用があるのは柳原クンの方なんだよねっ!」

 

そう言ったと思った次の瞬間にはモノパオは柳原の手を掴んでいた。

 

「えっ?な、なんですか?おれ何もしてませんよ!」

 

そのまま連れ去られてしまった…。1人と1匹を放ってエレベーターに向かっていいんだろうか?なんだか嫌な予感がするけど…。

 

「行くしか…ないんだろうな…。」

 

深呼吸して意識を裁判へと向けていく。

死ぬ、という事がどういう事なのか、全く分からない俺は死ぬ心構えもできていないし覚悟もない。…生きるしか、この裁判で勝つしかないんだ。

 

 

 

□□□

 

 

 

『よし!ミンナちゃんと集まったみたいだねっ!ではでは、エレベーターに乗ってね!』

 

俺達がエレベーター前に集まるとアナウンスが鳴り響いた。いつの間にか柳原も戻っていた。皆無言で乗り込んでいく。

 

「…。」

 

前木が心配そうに高堂を見ていた。高堂は今何を思ってあそこに立っているのだろうか。

 

ガコン、と音がしてエレベーターは普段なら動かない地下1階に向かって動き出した。

ゆっくりと沈んでいく感覚を体に受けながら再び深呼吸をする。

 

前エレベーターに載った時、俺に助言をくれた牧野はもういない。

その時に乗っていた端部もいない。

 

いないのに、探せばいるのではないかと目をエレベーターの中で必死に動かしてしまう。

いないと分かっているつもりでも、それを認めたくない自分が確かに心の中に存在していた。

 

「………いない。」

 

ぼそりと隣で勝卯木が呟く。まるで俺の心の中を完璧に理解しているかのように。

 

「…分かってるよ。分かってる、つもりなんだ。」

 

かろうじて勝卯木に聞こえるような俺の小声をしっかりと聞き取り、勝卯木は頷いてから何も言わなくなった。

 

そして、エレベーターはその扉をゆっくりと開けていく。

 

やや暗がりのエレベーターから急に明るい裁判場が広がり瞬きをする。

3つに増えた遺影が、背筋をなぞるように緊張と恐怖を与えてくるのが分かる。

 

「やっほー!忙しかったからやっと休めて嬉しいパオ!」

 

そんな中で1人…いや、1匹楽しそうな奴は小躍りしながら席につけと促してくる。

 

エレベーターの陰に押されるように席につき周りを見渡すと、皆不安そうな顔を浮かべていた。

 

 

 

この中に犯人がいるのか。信じたくないし信じられないけれど…やるしかない。

 

 

 

 

さらに減った仲間と協力して、仲間の数をまた1人減らしてしまう。

 

 

 

 

 

 

……あいつは危険な動機はもらっていないと言っていた。

 

 

 

どうしてあんな悲惨な目にあったのか、今の俺には見当がつかない。

 

 

 

 

 

 

 

答えを知っているのは、未来の俺達と、ニタニタ笑っている黒幕だけだ。

 

 

 

 

 

迷っている場合じゃない。

 

 

 

 

 

牧野いろはを殺した犯人を突き止める。

 

 

 

 

 

 

 

 

未来の俺達の生死を決められるのは、今の俺達だけだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■

 

 

 

 

「…ふう。」

 

 

 

「みなさん、不安そうですね。」

 

 

 

 

…モノパオさんに言われた事が、よく、分かりません。

今のおれは、犯人が分かっていると思います。まだ確証はないんですけど。

 

 

『柳原クン!なんかキミの様子を見てたらすぐに犯人指名しそうな勢いだけど、それはダメだからねっ!そんな事したらキミだけオシオキしちゃうパオ!』

 

 

『じーっくり犯人を当てていかないと、簡単に分かったら絶望なんてできないんだからねっ!』

 

 

なんであんな事を言うんでしょうか?意味が分かりません。

またおれは、何の役にも立てずに、終わっちゃうんでしょうか…?

せっかく勉強したのに、これじゃ意味がないです。モノパオさんもひどい人です。

 

このままじゃ×××の役にも立てなくなってしまいます。

それだけは嫌だ。ここに来てから×××の様子が分からなくて怖い。気が気じゃなくて、勉強でもしていないと頭がおかしくなりそうで。

せっかく宮壁さんが見せてくれたのに、おれの動機にはどうでもいい事しか書いていなかった。×××の事は何も分からなかった。子どもとか母親とか、そんなものおれには関係ない。いらない。必要ない。

×××の為に生きているのに、こんなところで死にたくない。

おれはもう分かっているのに、もし、他の人が間違えたせいで死んでしまったら?

嫌だ。そんな事になったらみなさんの事を一生恨んでしまいます。

 

ここから出たいなんて思ってない。

ただ、今は、生きていたい。死にたくない。

おれの願いはそれだけだから、せめてその願いくらいは叶えさせてください。

 

みなさん、がんばってください。

おれの推理が正しいと、みなさんで証明してください。

 

 

 

 

裁判場に立つ。誰かに聞こえていればいいなと思いながら、こっそりつぶやく。

 

 

 

「…おれより賢いみなさんなら、当然、分かりますよね?」

 

 

 

 

 

 

 

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