ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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お久しぶりです。なぜ前回から二か月も空いているのかは謎です。
今回で2章は完結となります。引き続き3章もよろしくお願いします。


非日常編 3

 

「おめでとーう!無事大正解!いやー、前よりは難しかったかな?」

 

ぬいぐるみらしいポスポスというモノパオの拍手の音だけが裁判場に響く。

 

「……。」

 

高堂は無言で立っていた。誰も、何も言えなかった。

 

「結論が出たなら事を進めてくれないかな。」

 

本当に東城は嫌な言い方をする。

 

「えーっ?東城クンは気にならないの?だって、『あの』高堂サンだよっ?」

 

「…たしかに、気になる事がないとは言い切れないね。」

 

そう言うと東城は高堂に向き直った。

 

「どうして、牧野クンを殺したの?キミはそんな事はしない人だと信じていたのだけれど。」

 

「……。」

 

高堂は何も言いたくないのか口を閉ざしている。

 

「黙秘だなんてずるい事をするね。」

 

「光ちゃん…。」

 

前木が声をかけても、高堂は何も答えない。

 

「モノパオ、あたしは言う事なんて何もない。処刑するならさっさとして。」

 

「さっさとしないと、死ぬ覚悟が揺らいじゃうから?」

 

モノパオの言葉に少し肩を震わせる。

高堂が何を思って牧野を刺すに至ったのか、俺は知りたい。けれど、それで高堂を引き留めたところで、何が変わると言うのだろう。

このまま高堂には何も話を聞かない方がいいんじゃないか。

そんな考えが頭をよぎる。

 

「…牧野もあたしも、自分の動機をもらってた。…いや、牧野はもらったって言ってたけど。」

 

「…!」

 

俺と話した時は、牧野は自分のをもらったとは言っていなかった…。あの後、誰かにもらったって事か?

 

「あたしは、その秘密を見て外に出たいって思ってしまった。丁度その時に牧野に声をかけられて…そういう流れ。犯行についてあたしは詳しく聞いていないし、あんた達の推理で合ってるんじゃないのかな。」

 

「光、アンタの秘密は何だった訳?」

 

「…あたし、弟がいるんだけど…。その弟が入院してるって書いてた。もちろん最初は本気になんてしていなかったけど、証拠を見たら本当としか思えなかった。」

 

「私、配られた動機の証拠の方は見てないんだけど…写真とか、だったの?」

 

「もっと具体的…動画だった。たぶん病院の監視カメラの映像だと思う。痛そうにしてる弟が映ってて、手術するって声も聞こえて。…こんなの、言い訳にしかならないよね。」

 

…沈黙。自分の家族が入院しているだなんて聞かされて、自分がいつ殺されるかも分からない状況で平気でいられる人なんているのだろうか。人を殺すというのは悪い事だ。だけど、俺が同じ状況になった時、高堂と同じことをしないとは限らない。だから俺達は、何も声をかけてあげる事ができなかった。

 

「それだけで殺す事になるのかな。自分のお姉さんが殺人犯になって帰ってきました、なんて言われたらそれこそショック死するのではないかと思うけれど。」

 

「…。」

 

「ちょっとちょっと東城クン!高堂サンばかりを責めないの!牧野クンだって悪いところいっぱいあるんだから…。高堂サンももう少し自分を擁護する発言をね…。」

 

「あたしが悪いんだから擁護する必要なんてない。」

 

「高堂さんはこう言っているし、もういいと思うよ。」

 

東城はすっかり興味を失ったようでもう高堂の事は見ていなかった。

高堂もこれ以上喋る気はなさそうだ。

 

「東城クンはそれでいいかもしれないけど、ミンナはどうなの?高堂サンの事、なんにも分からなくてもいいの?」

 

モノパオの問いかけとほぼ同時に高堂に近づいたのは柳原だった。

 

「知りたいです。裁判中、高堂さんがおれが発言するのを後押しした理由が分からないので。」

 

「…それは、犯行の内容をあたしも知らなかったから…。」

 

「それだけなら自分を犯人だと思う根拠につなげる理由になりません。誰かのせいにしたまま犯行を暴く事だってできたはずです。」

 

「…それは…。」

 

「……聞く…よく、ない…。」

 

俯く高堂をかばうように前に出たのは、意外にも勝卯木だった。

 

「勝卯木…?どうしたんだ、急に…。」

 

「………だめ……。」

 

勝卯木は何か言いたそうな顔をしたが、口を噤んで首を横に振る。

 

「…柳原、ここは…やめておこう。」

 

「でも…。」

 

「仕方ないなあ。これを見たら早いパオ!えいっ!」

 

そう言ってモノパオはリモコンを取り出すと、誰の返事も待たずにそのスイッチを入れた。

 

 

―――

 

 

ピンポーン

 

「…誰だろ。」

 

扉を開けると、牧野がいた。

 

「牧野。急にどうし…」

 

「出たいよね?」

 

「え?」

 

「高堂ちゃん、出たがってるよね?」

 

「ま、待って、急に何…」

 

「俺が出してみせるから、俺を殺していいよ。」

 

「待って、本当に、どうしたの?」

 

目が、怖かった。あたしの事を見透かしているようで、あたしじゃない何かを見ている目だった。

 

「俺、思い出したんだ。だから、出してあげなきゃいけなくって。高堂ちゃん、皆で夜ご飯食べてた時も不安そうにしてたから、きっと何かつらい動機をもらったんだろうなと思って。だから、俺を殺せば出られるようにするから、ここから出よう。」

 

「…そんなつもり…ないから、しっかりして!ねえ、牧野こそ動機でおかしくなったんじゃないの?」

 

思わず肩を掴んで牧野をゆする。

 

「高堂ちゃん、手、離してくれる…?高堂ちゃんは俺の事なんて触っちゃダメなんだよ。」

 

「どういう事…?さっきから、何を言ってるの…?」

 

「俺はおかしくないよ。記憶が戻って、やっと自分が何をするべきだったのか思い出しただけなんだ。高堂ちゃんは、俺が出してあげなきゃいけないんだよ。大丈夫、今は分からなくても、高堂ちゃんがここから出る時には分かるはずだから。安心して殺せばいい。そのためにいろいろ考えてるからさ。」

 

どういう返事をしても、牧野はいつもの牧野に戻ってくれなかった。

 

「動機、つらかったよね?戻りたいよね?早くこんなところから出てしまいたいよね?」

 

……ここで、嫌だと、強く言っていたら。牧野の顔をはたいてでも拒否していれば。

牧野はあたしに殺されずに済んだのだろうか。

 

「俺は、高堂ちゃんに外に出てほしいんだ。こんな汚い場所にいるべきじゃない。」

 

でも、仮に拒否した時、牧野は壊れずにいられたのか。

 

怖かった。弟の事も、牧野を殺す事も、皆と裁判で戦う事になる事も。

でも、それ以上に、今ここで牧野を受け入れない事が、怖かった。

ここで拒否したら、きっと壊れる。牧野は、壊れてしまう。

あたしを映していない彼の目を例えるなら、狂信者の目だ。

狂信者なんて見た事ないけど、サスペンスドラマとかでたまに出てくるような、「神様」だけを映している目。

死ぬ事が救済だなんて思わない。

だけど、彼の願いは彼の死によるあたしの勝利だ。

あたしが…いや、あたししか、今の牧野に何かしてあげられないのなら。

 

 

「……分かっ…た…。」

 

 

彼は、満面の笑みで、あたしの返事を受け取った。

 

 

―――

 

 

「よし!じゃあ高堂ちゃん。これ使って刺してここから出るだけでいいよ。」

 

そう言って当然のように包丁を渡される。

 

「どこを…?」

 

「うーん、心臓はすぐ死んじゃいそうだから…お腹とかかな?」

 

緊張を抑えるためにかけた声は、けらけらと笑いながら返される。

 

「笑い事じゃないでしょ…。」

 

「俺、嬉しいんだ。俺が高堂ちゃんの役に立てるのが。ずっとずっと役に立ちたくて、俺、いろいろ頑張ったんだ。高堂ちゃんが俺をメンタリストにしてくれたんだよ。高堂ちゃんがいなかったら俺……あ、今は覚えてないんだよね。大丈夫。俺は覚えてるから。」

 

あたしは、牧野に何をしたんだろう。牧野が自分の命を懸けてもいいと思える存在になってしまうような事をしてしまったなんて、信じられなかった。

 

「高堂ちゃん?」

 

「え、あ…。」

 

包丁を持つ手が震えていた。当たり前だ。人を刺した事なんてないんだから。

 

「…。」

 

怖い。

今からでも拒否してしまおうか、今ならまだ間に合う。まだ牧野は生きてる。

 

「高堂ちゃん。」

 

「な、なに…。」

 

「俺が悪魔だって言ったら、どうする?」

 

「え?」

 

「俺は、動機で俺が悪魔だって事を思い出した。だから、高堂ちゃんに殺してもらおうと考えた。そう言ったら、どうする?」

 

嘘だ。嘘な事くらいすぐに分かった。

でも、そんな嘘を通そうとしてでも、あたしに殺されたい事も分かってしまった。

 

「牧野は、死にたいの?」

 

泣きそうだ、と思った瞬間には目頭が潤っていくのを感じていた。

 

「あたしは、牧野に死んでほしいなんて思ってない。」

 

「死にたいとかじゃないんだよ。この状況において高堂ちゃんの役に立つには死ぬ事が1番ってだけだからね。俺は、高堂ちゃん以外どうでもいいんだ。コロシアイとか、他の人達とか、心底どうでもいい。でも、高堂ちゃんには生きてほしい。高堂ちゃんを生かすには、こうするのが1番なんだよ。」

 

「……。」

 

「今が1番幸せなんだ…!俺なんかでも高堂ちゃんの役に立てるって証明されるんだから。人生の中で今が幸せの絶頂なんだ。高堂ちゃんはやっぱりすごいんだよ、俺なんかにもそうやって幸せを感じる機会を与えてくれるんだから。その上俺に死んでほしくないなんて言ってくれる。これ以上嬉しい事はないね。そういう意味では、今死んでしまいたい。」

 

「…え。」

 

気づいた時には、包丁は深々と牧野のお腹に刺さっていた。

牧野が、刃の部分を持って自分に引き寄せていた。誰がどう見ても、私が持っている包丁が牧野を刺している。

 

「痛っ……うわ、お腹熱い。」

 

「ま、牧野。」

 

「高堂ちゃんはそのまま行ってよ。…うん、返り血も一切なさそうだね。よかった。じゃあね。」

 

牧野はそう言うと扉を開ける。

 

 

「…ごめん、なさい。」

 

あたしの最後の言葉に牧野がどんな表情をしたのかは、分からない。

 

 

 

□□□

 

 

 

「えっと…おれの質問に答えてないと思うんですけど…。」

 

「もー!柳原クンは何を見てたのさ!簡単に言うと牧野くんに無理矢理されたせいでやっぱり1人で出る事が怖くなったんだよ!国語の勉強もする事!」

 

高堂は、牧野に半ば強制的に殺すように言われたって事か…?

だからこそ、高堂は裁判中も俺達を騙す事に負い目を感じていた…それが真実なのか?

 

「…あたしがどう思ったかなんて、あんたに言語化される筋合いはないし、そもそもあんたに分かると思ってない。勝手に捏造しないで。」

 

「えー!じゃあ高堂サンが正解を言ってよ!ボクくんも正解なんて分からないもん!」

 

「…怖くなったのは、その通り。やっぱりあたしにはできなかった。…あたしには、あんた達の命をあたしの命と引き換えられなかった。それだけ。」

 

「なんだよー!ボクくんの考えが合ってるじゃん!」

 

「でも、牧野に諭された訳じゃない。牧野を加害者みたいに言わないで。クロはあたし。牧野はあたしに殺された被害者だから。」

 

ここにきてもなお牧野を責める事を咎める高堂は、人間の優しさの範疇を超えているような気がした。

 

「うげげっ!気色悪いレベルのお人よしというかなんというか…怖いよっ!なんか高堂サンも怖く感じてきちゃったところだし、そろそろやっちゃおっか!」

 

「光ちゃん…。」

 

「あたしなんかを引き留める必要なんてないでしょ、琴奈ちゃん。あたしは、一時でも皆の事を犠牲にしようと考えたんだから。」

 

「待って、光ちゃん、違う、あの、…ごめんね。」

 

「え?」

 

「気づけなくて、ごめんね。光ちゃんが牧野くんを刺した後、私達と食堂でおしゃべりしてたのに、私、呑気にくだらない話ばっかりして。光ちゃん、ずっと怖かったのに、ごめんなさい…。私が気づいていたら、光ちゃんも牧野くんもここにいて、裁判なんてしなくて済んだかもしれない。牧野くんが死んでもいいって思ってたとしても、私は2人にここにいてほしかった。それに、光ちゃんが1人で怖い思いしてここに立つ必要もなかったのに。」

 

前木は泣きながら謝っていた。

 

「琴奈ちゃん…。」

 

「ごめんね、私の自分勝手な話まで聞かせちゃって。でも、私…。」

 

「琴奈ちゃん。ありがとう。」

 

泣きそうな顔で、でも笑顔のまま、高堂は消えていった。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

 

 

GAME OVER

 

タカドウさんがクロにきまりました。

オシオキを開始します。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

気づいたら高堂は木の柱のようなものに縛り付けられていた。

 

高堂の右横にはずらっと同じような丸太が並んでいる。

 

モノパオがその前に躍り出る。

 

 

まるで処刑だ。中世ヨーロッパのような…そう、魔女狩りのような。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

【ウィッチトライアル  超高校級の山岳部 高堂光処刑執行】

 

 

 

鎖をじゃらじゃらと連れてつり下がっているのは人の何倍もあるようなとてつもなく巨大な斧だ。

 

……嫌な予感がする。

 

高堂から1番遠い丸太の真上で斧をクレーンでつり上げ、そのまま振り下ろされた。

 

当たり前のように支柱は真っ二つになって倒れた。

 

斧はモノパオが捜査しているようでしっかり丸太を真っ二つにできた事に安堵しているようだった。

 

…まさか、これ、全部の丸太にやるのか?

 

高堂も自分に起きる事を察したのか、顔色が悪くなっていく。

 

斧はゆっくり持ち上げられ、その重力で丸太を切っていく。

 

大きすぎるからか、全ての動きがスローモーションに見えてしまう。

 

それでも振り下ろす時の動きは早くて、一瞬で丸太が切られていく。

 

 

突然、高堂が縛り付けられている丸太の前にナイフが用意された。

 

縛り付けているロープをこれで切れという事だろうか。

 

だけど、高堂は、ナイフを手に取る事はしなかった。

 

肘から先は動かせるにも関わらず、どれだけ近くにナイフがあっても無視し続けていた。

 

高堂の頭上に、斧が掲げられていく。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

そして、真っ二つになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

吐きそうだ。

じわじわと鉄の匂いが鼻にまとわりついてくる。

人間が真っ二つになるところを見てしまった。

それも綺麗に二つになった訳じゃない。あんな太い斧で切られて、ケーキのように簡単に切れる訳がない。

目を背けてしまった。気持ち悪いと、思ってしまった。

 

「わーい!やる事やったから裁判は終わりだっ!ボクくんがんばったパオ!ミンナも早く寝たら?」

 

「…あのナイフはなんだったのだ。お前が救済措置など与えるはずがないだろう。」

 

篠田はモノパオを睨みつける。

 

「ああ、ナイフは救済措置もどきだよっ!あのナイフで切れるほどあのロープは脆くないからね!あのナイフで脱出を試みてほしいなって思ってたけど…高堂サンは手に取ろうともしなかったからなあ。もっとあがいてくれた方がおもしろくなったのにねっ!残念!」

 

「聞いた私が馬鹿だった。今すぐ帰ってくれ。」

 

「きゃっ、篠田サン怖いよっ!ひどいパオ!いたいけな象に向かって帰れだなんて…。まあ眠いから帰るけどねっ!バイバーイ!」

 

「…アタシもさっさと帰るわ。ちょっときつかったし…。精神的にも、視覚的にもさ。」

 

モノパオが消えた事を確認してから難波も帰ろうと通路に向かう。

 

「…待ってくれ。」

 

「は?宮壁、急に何?」

 

……。

 

犯人探しがしたい訳じゃない。

だけど、この事件が起きたのは、誰かが牧野に秘密を返したからだ。そう思い込んでしまった俺は、自分の口を止める事ができなかった。

 

「牧野に動機を渡した人は、誰なんだ?牧野は自分の秘密をもらってはいなかった。」

 

「…宮壁…それは、よくない。」

 

「いいえ。聞くべきです。」

 

三笠の言葉を遮り、俺の肩をもったのは柳原だった。

 

「その人は自分で分かってるはずです。でもここで名乗り出ないという事は、『反省する気がない』という事ですよね?宮壁さんも、そんな危険人物がいる事を周知するべきだと言ってくれているんです。」

 

「…え、っと…。」

 

そうなのか、と聞かんばかりの篠田の目にもろくな返事ができない。

詮索はよくない、だけど、何にどの感情を向けていいかすら分からない。

 

「この話は…」

 

三笠が話を打ち切ろうとした時だった。

震えながら、1人の手が小さくあがった。

 

 

 

「………。」

 

 

 

「…勝卯木…。」

 

「…どうして、見せようと思ったんですの…?」

 

「………大した事、なかった……から……。」

 

勝卯木は泣きそうな顔で下を向いた。

 

「大した事かどうかは本人にしか分からないし、三笠の提案で極力見せないようにするって話だったよな。高堂をかばったのも、牧野に動機を見せた事を後悔したからなのか?」

 

「宮壁くん!やめてよ!蘭ちゃんだけが悪い話じゃないよ!」

 

「それは、そうなんだけど…。」

 

おかしい。こんな事言うつもりなかった。

でも、ここで明かしておくべきだという判断をしてしまっている。

 

「牧野さんの動機は具体的になんだったんですか?」

 

「……光と、会った事がある。…それだけ…。」

 

「うーん。宮壁さん、仕方ないんじゃないですか?おれが渡されていても見せたと思います!嬉しいニュースに見えますもん!」

 

「…ごめん。」

 

「……謝る、必要……ない…。」

 

「あ、私も、強く言っちゃってごめんなさい…。」

 

前木もすかさず謝ってきた。申し訳ない事を言ってしまったな…。

 

「…呼び止めるから何かと思ったら責任転嫁かな。悪いのは高堂さんだからそのような事を問い詰める必要はないと思っていたけれど。」

 

「東城はまだいろいろ言われたい訳?」

 

「生憎、難波さんに言われなきゃいけないような事思いつかないかな。」

 

「…帰る。」

 

難波は吐き捨てるように言うと、呼び止める間もなく消えてしまった。

 

「…いろいろ気がかりな事はあるが、全ては明日だな。」

 

「そうだな…。勝卯木、本当にごめんな。責めたいとかじゃなかったんだ。」

 

「……大丈夫。…私、悪い…事実…。」

 

勝卯木は俺の近くに来ると、そうはっきりと言ってくれた。

 

「…そうか…ありがとう。」

 

勝卯木は無言で頷いた。相変わらず真顔だけど、勝卯木は俺よりよっぽど強い事は確かだ。

 

 

「めかぶ…大丈夫か?」

 

「あ、え、えっとーですねー…その…やっぱり、少し休まないとどうにも…でーすねー…。」

 

「……無理するな。私も付き添うから。」

 

篠田はこういう時は潜手を引っ張ってくれるんだよな…。そんな姿を見せてくれる人がいるだけでもありがたい。

 

バラバラと人が減っていく。

 

「あ、宮壁さん、おやすみなさい!」

 

元気に挨拶する人もいれば、

 

「お先に、失礼いたしますわね…。」

 

つらそうに後にする人もいた。

 

…。

 

俺も、帰るか。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

 

二度目の裁判が終わった。

 

 

 

じわじわと襲ってくる恐怖とショック…他いろいろと複雑な感情。

…いや、これは自分の本心から逃げるためのお茶濁しだ。

 

 

『俺は、高堂ちゃん以外どうでもいいんだ。コロシアイとか、他の人達とか、心底どうでもいい。』

 

 

…。

 

そんな風に思いながら、あのショーをやってたのか。

 

…楽しくなかったのかな。

 

あんなに楽しくやってた俺達が馬鹿みたいだ。

 

 

ずっと心にわだかまりを作っていたのは、牧野のその言葉だった。

 

 

 

「ねえ、宮壁くん。」

 

後ろを振り返ると前木がついてきていた。

 

「あの…ついていっても、いい?前、宮壁くんも美亜ちゃんや端部くんの部屋に行ってたから、今日も行くのかな…と思って。えっと、蘭ちゃんは前も行ってなかったし、瞳ちゃんとめかぶちゃんは休むって言ってたし、紫織ちゃんは声もかけられなくて…。」

 

「…もちろん。」

 

 

2人で牧野の個室に向かう。

かなり整理整頓された小綺麗な部屋だった。

机の上には封筒がポツンと置かれていた。

 

「宮壁くん。動機…見るの?」

 

「…いや、見ないよ。見るとしても今じゃない気がする。」

 

「そうだね。今2人の事なんて知ったら堪えられないよ。」

 

「牧野くん…何を考えてたんだろうね。あっ、その、悪い意味じゃないんだけど…。」

 

「…俺も分からないな。」

 

「牧野くんが私達と過ごしてて楽しかったのは事実だと思うんだ。牧野くんは記憶が戻ったって言ってたよね。あれはいつの記憶なのかなって。」

 

「…たしかに。前木はこの中と誰かとの記憶はあるのか?」

 

「私はあまり…。でも、皆どこかの記憶が抜けてるって考えたら怖くなっちゃうよね。今の私達は本来の私達とは別人って事もあるかもしれない。牧野くんは…きっと、「そう」だったんだと思う。」

 

「そっか…。」

 

前木とちゃんと話した事は何度かあるけど、こんな風に誰かの話をするのは初めてだ。

 

「宮壁くん、ショックだったんじゃないかなって思って。」

 

「…ショックじゃないかって言われたら、ショックではあるよ。だけど、俺はやっぱりどうしてももっといい方法があったんじゃないのかって思ってしまう。結果として牧野の願いを俺達が潰して、高堂は処刑される事になった。本当にあいつにとってその判断が最善だったのか、俺は…納得できないんだ。」

 

「…私、宮壁くんが光ちゃんを犯人って確定した証拠を聞いた時思ったんだ。牧野くんはそれに気づかなかったのかなって。」

 

「…!」

 

「これは、私の勝手な妄想だし、そうあってほしいっていう押しつけだけど…。牧野くんも、迷ったんじゃないかなって。だって、あの棒は実際扉を閉めるのに役に立ったか分からないし、そもそもダストホールに投げ入れてしまえば見つかる事もなかった証拠なんだもん。」

 

何か答えようとした時、扉が勢いよく開いた。

見ると走ってきたのか肩で息をしている大渡がいた。

 

「大渡!」

 

「大渡くん!?ど、どうしたの、何かあった訳じゃないよね…?」

 

「……チッ、逃したか。」

 

「…え、まさか、大渡、見えたのか?」

 

「…なんでもねぇよ。そっちこそ他人の部屋で二人きりで何やってんだ気色悪ぃ。」

 

「いきなり気持ち悪いなんてひどいよ!何もしてないししないよ!」

 

そうか、大渡はまだ誰にも言ってなかったのか。これは失言したかもしれない。

 

「…いなくなったから用はねぇ。」

 

「…え、いなくなったって、幽霊?」

 

「……。」

 

前木、結構鋭いんだよな…。

 

「ね、ねえ、喋れたりできるの?どっちの幽霊だったの?私まだ聞きたい事も話したい事もたくさんあって…。」

 

「いなくなったっつってんだろ。うるせぇな。」

 

「その言い方はないだろ!」

 

「話すほど強くねぇ、せいぜい気配程度だ。どっちかもほとんど分かんなかったし何もできねぇよ。」

 

「そ、そっか…ごめんね。でも、大渡くんも必死になってくれてるんだね。よかった。」

 

前木の笑顔にさすがの大渡も…表情1つ変わってない。なんだこいつは。

大渡は本当にそれだけの用事だったようですぐに帰っていった。

 

高堂の部屋にも入る。

こちらも綺麗に整理されていて、まさに女子の部屋って感じがする。

 

「光ちゃん、すっごく優しかったんだ。牧野くんが好きになる気持ちも分かるよ。」

 

「…ああ。」

 

「私達が光ちゃんを犯人だって決めてよかったのかな。宮壁くんも言ってた通り、私も自信がないんだ。でも、私達も生きたいから、仕方のない事なんだよね。…仕方ないで済ませていいはずないのにね。」

 

何も返せなかった。

前木は俯いていて、その背中は震えていた。

背中を撫でてあげたいけど、そうしてもいいような関係なのか分からない。

 

「……。」

 

そのまま数分が経とうとしていた時だ。

前木がもたれてきたから思わずびくりとする。うつらうつらとしている。かなり眠そうだ。

 

「…歩けるか?」

 

「…うん。」

 

「しっかり寝て、また明日…皆で話そう。」

 

「そうだね。」

 

前木を部屋まで送る。

 

「宮壁くんも、具合悪そうだしちゃんと寝てね。おやすみ。」

 

「え、あ、ああ…おやすみ。」

 

 

 

□□□

 

 

 

保健室の薬の数を確認し、戻ろうとした東城に声をかけたのは三笠だった。

 

「あれ、三笠くん。ボクと話すのなんて久しぶり…いや、2人きりはほぼ初めてかな?」

 

「東城、寝れないからおすすめの睡眠薬をくれないか。」

 

「ボクの眠気を分けてあげたいくらいだよ。まだボクはやりたい事がたくさんあるのに。…はい、すぐ寝るならこれ。」

 

「やけに簡単に手渡してくれるな。」

 

「まあ、三笠くんは信頼できそうだからね。ここ数日の行いの結果だよ。」

 

「それはどうも…。」

 

「それにしても、サバイバーのキミが寝られないなんて珍しいというか問題というか。寝るべき時に寝られないのは致命的ではないのかな?」

 

「…あの後に寝られるほど、自分も非情ではなくてな。」

 

「オシオキの事?あれは酷かったね。また悲惨な状態にしてしまうのだから…予約が届くのはいつになるのか。」

 

「東城、それ、二度と他の奴等の前で言うなよ。殺されかねないぞ。それにオシオキの話じゃない。」

 

「へえ。何?」

 

「牧野を、励ましたつもりだった。あいつは前回の裁判の後、自分とひとしきり話をしたのだが、その時あいつは言っていたのだ。「皆の役に立てるようになる」と。自分の力不足を感じると、どうも寝れなくなってな…。」

 

「人を励ます…。興味深いね。この極限状況においても人の心配ができる程余裕があるなんて、人間としてかなり完成されているようだね。」

 

「…お主のそれは褒めているのか…?」

 

「認めているよ。キミはおもしろい人間だね。ここにいる人はいろいろと不思議な人が多いから毎日飽きないよ。」

 

「そうか…。最後に1つ聞かせてくれ。お主は、余裕がある奴の代表のようなものだと思っていたが、その言いぶりからして違うのか?」

 

「………。余裕のある人間になりたいとは思っているよ。」

 

「東城、お主は…。」

 

「コロシアイを防ぐ事に何の尽力もしていない人達に殺されるのは癪だよ。だからこうして対策を取っている訳だからね。ボクは用意周到なだけだよ。逆に言えばキミ達は無防備すぎる。正直死んでも文句言えないよね。」

 

東城は三笠の返事を待つ事なく出て行く。

 

「その睡眠薬、水なしで飲めるから。」

 

 

 

□□□

 

 

 

「なあ、告白しないのか?」

 

「えっ、む、無理だよ、俺なんか…絶対フラれるし、そもそもそういう感情じゃないっていうか…。」

 

「うーん、でも、折角同じクラスになれたんだよな?特別学級に入るためにすごい勉強したって言ってたじゃないか。」

 

俺の言葉に彼は緊張した面持ちで唸る。

 

「言ってみたらいいんじゃないか?自分が見た感じだと、脈は十分ありそうだが。」

 

「うん。俺も…応援、してる。」

 

三笠と端部も笑顔で後押しする。

 

「……。いつかするよ。」

 

 

 

その一か月後くらいだろうか。

 

「あ、あのさ…。」

 

「ど、どうだったんだ…?」

 

「えっと、OKって…。」

 

「おめでとう!よかったじゃないか!」

 

「夢みたいだよ。というか、どうしていいか分からないし、そもそも付き合って何していいかも分からないし…。」

 

「それは今まで通りでいいんじゃないか?少し気を遣いすぎな気はするけど…。」

 

「いや、高堂ちゃんに気を遣うのは当たり前なんだって。」

 

「お主、本当に高堂の事になるとガチになるな…。」

 

「…あ、高堂さん、待ってるよ。俺達にかまってないで行ってあげなきゃ。」

 

「え、え、嘘!?待って、髪乱れてない!?いい匂いする!?服の皺とか…!」

 

「大丈夫だって。」

 

笑いながら背中を押す。

 

「あ、えっと…皆、ありがとう。」

 

牧野ははにかみながらカバンを背負うと高堂のところに走っていった。

 

 

 

 

…。

 

 

 

 

……目が覚めた。

 

相変わらず俺がいるのはシンプルなベッドの上だ。今さっきいた教室なんてどこにもない。

 

夢にしてはやけにリアルで、その内容もはっきりと覚えている。

 

もしかしたら、これは……。

 

…やめよう、こんな事考えても2人には届かない。

 

 

 

 

 

「…なんだ、夢か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CHAPTER2 『君に届かない』

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超高校級のメンタリスト 牧野いろは

【転落により死亡】

 

超高校級の山岳部 高堂光

【オシオキにより死亡】

 

 

残り生存者数 11人

 

 

 

 

 

 

 

▼[黒いリボン]を手に入れた。

 

▼[オレンジのリボン]を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT →→→ CHAPTER3『 I のままにワガママに』

 

 

 

 

 

 

 




今回、シロとクロの2人のやり取りの中で、あまり腑に落ちなかった部分がある方はいらっしゃると思います。ここは後日、完結後になりそうですが番外編か何かできちんと補足しようと思っておりますので、ご安心ください。かなり曖昧に書いている部分があるので今回は流し読みしてくださって大丈夫です。

2章完走までお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
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