ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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この作品で1番話数が多くなる予定の3章の始まりです。
年末にどうにか始められてよかったです。
2章投稿時からそろそろ更新ペースをあげたいと言い続けていたらもう今年が終わりますね。


Chapter 3『 I のママにワガママに』
(非)日常編 1


 

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「まあ、宮壁さん。今日は早いですわね…!大丈夫ですの?」

 

「俺は大丈夫だ。安鐘こそ、相変わらず早起きだけど…。」

 

「これは習慣ですから。勿論、昨日の事があって平気だなんて思っていませんわ。…今日は大層なものではなくてもよろしいでしょうか?」

 

「もちろん。俺も手伝うよ。…そういえば、三笠も潜手もいないんだな。あの2人もいつもは早いのに。」

 

「…潜手さんもかなりショックを受けていましたし、三笠さんもきっと…。今日もみなさんで集まるのでしょうか?」

 

「無理に集まる事はないんじゃないか。…というより、集まれないと思う。」

 

「…そう、ですわね。」

 

安鐘は軽くため息をついてオーブンから食パンを取り出す。

 

「……うっ。」

 

パンに塗る物を選ぼうと棚を見た時、イチゴジャムが目に入り思わず口を手で覆ってしまった。昨日はあれから何も食べていないから出るものはないはずなのに、何かが喉をせり上がる。

 

「み、宮壁さん?大丈夫ですか!?席についてくださいませ…!」

 

安鐘に背中を押されて席につく。数回深呼吸したらじわじわと落ち着いてきた。

 

「ごめん、もう大丈夫。」

 

「無理はなさらないでください…。体調がすぐれないなら無理に来る必要はありませんわ。」

 

「分かってる。でも、1人でいるのも逆効果だと思って…。」

 

「…それも一理ありますわね。まだ朝のアナウンスも鳴っていませんし、もう少しすれば来るかもしれませんわ。」

 

「そうだな。」

 

人のいない食堂は静かで、パンを袋から取り出したり、皿を準備する音だけが響き渡る。

俺達はお互い何も言わずに、朝食を済ませた。

 

『ミンナおはパオ!7時だよ!今日もレッツ・コロシアイ生活!』

 

「鳴りましたわね。みなさん、来てくださるといいのですが…。」

 

「そういえば、前は裁判の次の日には皆協力しようっていう雰囲気になってたよな。二回も起きれば、やっぱり難しいかもしれないな…。」

 

「…いえ、それだけじゃないかもしれませんわ。わたくし達はまだ動機がなくなった訳じゃありませんもの。」

 

「…!そうか、秘密…!」

 

「ええ…。わたくしも含め、自分の秘密を知らない方が多いと思うのです。実際に秘密をきっかけにコロシアイが起きてしまった以上、人の秘密を持っておく事自体、十分怖いですわね…。」

 

…またあれが起きる可能性がある。それが皆の集まりが悪い事に拍車をかけているのだろう。

 

「おはよ。あれ?人少なくね?」

 

「!難波!」

 

「昨日わりと早く寝たからすぐ起きれたわ。てか2人とも早くね?…それにしては三笠とかめかぶがいないのが気になるけど。」

 

「…やっぱりそうだよな。」

 

「早い方と言えば、今日は東城さんも篠田さんも見ていませんわ。いつもあの2人はかなり早く来て、特に東城さんは皆さんが来る前に自室に戻る事も多いので…。」

 

「…ま、昨日あんなことがあったし、今日は集まらなくていいんじゃね?アタシは周りの様子見に来ただけだけど。」

 

「そうなのか、難波も昨日はほとんど何も話さずに帰ってたから心配した。」

 

「気遣いどうも。ま、病む事はないから気にしなくていいわ。」

 

「そうか。難波はここに来るまでに他の人達に会ったりしてないか?」

 

「ああ、東城ならちらっと見た。2階に行ってたみたいだけど何しに行ったのかは知らない。…ま、相変わらず作業でもしてんじゃねーの?」

 

…そういえば、昨日は東城もオシオキが終わったらすぐに帰っていた。あいつの事だからオシオキがショックだったとかいう事はないだろうけど…少し気になるな。

 

「後で行ってみる。」

 

「そ。じゃあ東城の事は宮壁に任せて…今日は何もしないの?」

 

「何かしようって言われてもな…。」

 

「何かっていうか、探索の事ね。前も裁判があった次の日は二階に行けるようになってたでしょ?あれって今回もじゃねーの?」

 

「あ、あれか。」

 

たしかに、もしかするとまた新しい場所に行けるようになっているかもしれない。

 

「モノパオさんもあのカメラで見ているなら教えてくださってもよろしいですのに…。」

 

そんな感じで話していると、前木と勝卯木、少し遅れて潜手と篠田がやってきた。

…女子しか集まらないのが気まずくなってきたので、俺はひとまず東城の様子を見に行く事にした。

 

 

 

□□□

 

 

 

「あ、3階に行けるようになってる。」

 

2階に上がったすぐ横に新しく階段が解放されていた。一体何階まであるのか…。

理科室にいるだろうと思い廊下に向かおうとした時、階段を下りてきたのは東城だった。

 

「え、お前、なんで…!?」

 

「行けるようになっているだろうと思って探索していただけだよ。もう終わったからボクはもう理科室に戻るし、皆と探索はしなくていい。」

 

「そ、そうか…。何か変わった事とか、それこそ脱出の手掛かりとか…」

 

「そのようなものがあればすぐに報告しに行くよ。ボクは1人で出ようなんて思っていないからね。今までの犯罪者共とは違って身勝手じゃあないよ。」

 

…2人の事を馬鹿にされた気がしてむかつくが、ここで俺が言い争っても仕方ない。

 

「…嫌味な言い方ばっかりするなよ。もっと素直に協力してくれてもいいじゃないか。」

 

「しているつもりだけどね。」

 

「あれ、宮壁さん!おはようございます!」

 

「え、柳原…?」

 

柳原も階段から下りてきた。皆探索に行くの早くないか?

 

「あ、そういえば朝のアナウンスが鳴ってましたもんね!おれも食堂に行った方がいいですか?」

 

「あ、ああ、そうだな。心配していると思うから顔出すだけでもしてほしい。2人は一緒に探索していたのか?」

 

「いいえ。東城さんとは探索したくないですし…。1人でやってました!いろいろ身になる事もあってよかったです!」

 

…さらっと、流れるように悪口を言ったな…。

 

「東城は身になるようなものがあるなんて一言も言ってなかったぞ?」

 

「あれ?そうなんですか?おれは少しずつ分かってきたように思うのですが…。」

 

「…まあ、強いて言うならこの建物は3階で終わりという事くらいかな。まだすべての場所に行ける訳じゃないから全容を見る事はできないけど。」

 

「え!東城さん、そんな事が分かるんですか!?すごいです!一緒に探索すればよかったですね…。」

 

「…とりあえず2人が元気そうでよかったよ。すぐに動けるのもすごいなって思うし。」

 

「気遣いまでしてくださるなんて、本当に嬉しいです!あ、おれ今から食堂に行きますから、東城さんがピンピンしてる事も伝えておきますね!宮壁さんがわざわざ報告する必要はないです!」

 

「そうか?ありがとう。捜査の時から助けてもらってばかりで申し訳ないな。」

 

「宮壁さんには1度助けていただいたので!それに、裁判で勝つという目的も同じでしたし。こうして今もお話ができているのはおれとみなさんの協力あってこそですからね!」

 

嬉しそうに胸を張って帰っていく柳原を見送る。柳原が姿を消してから東城がやっと口を開いた。

 

「…そういえば気になっていたのだけれど、柳原くんはどうしてあれほど変わったのかキミは知っているのかな。」

 

「変わった?どこがだ?」

 

「性格とかではなくて、能力の話だよ。昨日の裁判と1回目の裁判であまりにも発言力が違いすぎる。」

 

「それは…一生懸命勉強してたからな。」

 

「でも、数日の勉強であそこまで鋭くなれるものかな?…かなり興味深いね。他にも気になる人はたくさんいるし、ここで過ごすのもあと数年なら悪くないね。」

 

「俺は数年もいられないな。」

 

「その発言、受け取り方によってはキミに適切な処分を下しかねないけれど。」

 

「違う!そういう意味で言ったんじゃない!」

 

「大声で話さなくても聞こえているよ。会話はずっときちんと成り立っていたじゃないか。」

 

…いちいち言い方が癪に障る奴だ!

たしかに俺も言葉を間違えたと思ったけど、そんな人を煽るような言い方しなくてもいいだろ!

これ以上話す事はないだろうと思い、とりあえずまだ来ていない人を探す事にした。

 

 

 

□□□

 

 

 

「大渡、おはよう。」

 

「…うるせぇな、インターホンは1回でいいだろうが。」

 

「安否確認だから仕方ないんだ。」

 

「普通に生きてるから帰れ。今日は寝不足だからもう出ねぇよ。ご飯もいらねぇ。」

 

「…お前、ごはんって言うんだな…。てっきり飯って言うのかと…。」

 

あまりにも衝撃だったので思わず口走ってしまう。しまったと思った時にはすでに扉は開かなくなっていた。

…まあ、もともと大渡については心配してない。問題は三笠だよな…。

 

 

三笠の個室のインターホンを鳴らす。しばらくすると扉が開いた。

 

「あ、三笠!出てくれてよかったよ。」

 

「…わざわざ悪いな。」

 

出てはくれたが、お世辞にも元気そうには見えない。

まだ髪も整えていないようで、完全に寝起きだった。

 

「…今日は来れそうか?」

 

「ああ、昼頃からでもいいだろうか。」

 

「もちろん。無理しなくて大丈夫だ。」

 

「お願いと言ってはなんだが…後で東城を呼んでもらってもいいだろうか。」

 

「東城?ああ、かまわないけど…。」

 

三笠と東城…?何かあったのか?

…ここで聞いても話さないだろうし、変に勘ぐるのはやめておこう。

 

「じゃあ、皆に伝えておく。探索は昼からにするよ。」

 

「すまないな。」

 

まだ声はかけられないけど、やっぱり心配だな…。とりあえず食堂に戻るか。

 

 

 

□□□

 

 

 

「そうなのですね…分かりましたわ、宮壁さんもわざわざありがとうござました。」

 

「いや、全然。一応昼から探索はするとして、柳原と東城は終わってるみたいなんだ。だから残りのメンツで分担したらいいかと思ってるんだけど…。」

 

「あ、宮壁さん、おれもう1回行ってもいいですよ!」

 

「え、そうなのか?」

 

「はい!みなさんと探索したら何か別の物が見つかるかもしれませんし…。」

 

柳原は何かを探すようにきょろきょろと辺りを見渡した後、目当ての人の元に駆けて行った。

 

「おれ、勝卯木さんと一緒に行動してみたいなって思うんです!いいですか?」

 

「……。」

 

すごく嫌そうな顔をしているけど、本人は何の文句も言わないしいいんだろうか…。勝卯木は基本ちゃんと嫌な事は嫌って言うタイプだから、そこまで嫌って訳ではないって事なんだろうけど…。

 

「……分かった…。」

 

あ、折れた。いつも妹らしさ全開の勝卯木でも柳原には勝てなかったようだ。

その後の流れで大体のグループ分けを済ませ、全員で集まるのは夕方になった。各々のタイミングで探索を済ませておこうという話だ。

 

「えっと…俺のグループは…。」

 

「宮壁さんとー、難波さんでーすねー!」

 

「よろしくー。探索、すぐ行く?」

 

「俺はいつでも大丈夫だ。」

 

「潜手めかぶもー、今すぐ行けまーすよー!」

 

「よし、じゃあ早速行くか…。」

 

この3人で動くのはかなり珍しい気がする。これを機にいろいろ話せたらいいけど…。

とりあえずマップを開く。

 

 

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「あ、プール解放されてね?」

 

「あとは3階のお部屋がいくつか開いてる感じですーねー。温室の上もまだ分からないんですねー…いつになったら全部の場所に行けるようになるんでしょーかー…。」

 

「東城がこの建物は3階建てみたいなことを言っていたから、もうそんなに行けてない場所はないんじゃないかな。」

 

「…モノパオも何を考えてるんだか。普通ならもっと小出しにするくね?結構いっぱい部屋が開くのは意外。」

 

…確かに。

難波はため息をついて階段を上っていった。俺達もその後に続く。

 

「…潜手は、もう大丈夫か?」

 

「うーん…元気、ではないんですけーどー、でも、みなさんが頑張ってるのにふさぎ込むのもよくないと思ったのでー…。それに、みなさんとこうやってお話して、いい思い出も作りたいなって思うんですー!」

 

「いい思い出…。そうだよな、ここの生活って、いい事がなかった訳じゃないもんな。」

 

「はいー!プールも開いたなら、ここでも遊ぶ事ができますかーらねー!」

 

「めかぶ泳ぐの絶対速いよね。アタシあんま得意じゃないから教えてよ。」

 

「ほわー!もちろんですーけど、難波さんって苦手な事があるんですーねー!」

 

「俺も意外だった。難波、運動全般得意なイメージがあるから…。」

 

「水泳って他の種目とは結構違うじゃん?体力は問題ないと思うけど、普段生活してて泳ぐ事ってそうそうないし。アタシは学校にもあんまり行ってないから余計に。」

 

「そうですーねー。潜手めかぶも、海の近くに住んでなかったらこんなに泳いでないと思いますー!」

 

なんてたわいもない話をしながらプールの前に辿り着く。

扉が2つあるのを見るに、どうやら浴場とは違ってこちらの更衣室は男女で分かれているらしい。

 

「いや大浴場も分けろよ。まあプールは男女が一緒に入る事も考慮してって事だろうけど。」

 

難波が不満そうにつぶやく。

 

「じゃあアタシとめかぶで女子更衣室見るから、宮壁は男子更衣室の方よろしく。」

 

「分かった。」

 

2人とは一旦分かれて更衣室の扉を開ける。

中は鍵付きロッカーの並ぶシンプルな更衣室だけど、浮き輪やビート版のような道具もあるし、トイレも隅の方に設置されている。意外としっかりした設備だ。

あ、市営プールにあるような目を洗う専用の蛇口もある。これで目を洗うの苦手なんだよな…。

 

「この先がプールか?」

 

そう言いながらくもりガラスの張られた扉を開ける。

 

たぶん50メートルプールだ。つまりめちゃくちゃ広い。プールには水がしっかり入っており、なんとなくモノパオが時間をかけたんだろうなという想像ができる。

 

せっかくだししっかり見てみるか、と思って一歩を踏み出した矢先、俺の全身が一瞬で濡れた。

 

「…は?」

 

「はあああああ!?ちょっと待てって!びしょびしょなんだけど!」

 

「ほわわー!ずぶ濡れになっちゃいまーしたー!」

 

2人も同時に出てきて同じ目にあったらしく、大声がプールの中で反響する。

雨のように俺に降りかかる水の出どころを確かめようと上を見上げる。

…案の定、シャワーだった。

 

とりあえずシャワーゾーンを抜けて上着を脱ぐ。2人もそれぞれ上に着ていたものを脱いで絞っている。

 

「自動とか聞いてないっつーの!マジでヤバいんだけど!もう最悪…。」

 

「潜手めかぶの服は防水加工もされているのでそこまでひどくないのでーすけどー、お二人とも大丈夫ですーかー?」

 

「全然大丈夫じゃないな…。」

 

「はあ…マジで無駄に変なところで自動化すんなって…。ブーツの中もびちょびちょなんですけど…。」

 

俺もパンツまでびっしょり濡れてすごく不快だ。あまりにも突然すぎて数秒棒立ちしてしまったせいで余計に濡れてるんだろう。

 

「それにしてもー、勢い強くてびっくりしまーしたねー!あんなにすごいの、小学校のプールくらいだと思ってましたー!」

 

「帰りは一瞬で駆け抜けなきゃまずいよね。幸い床に滑り止めのマットはあるし、走ったところでこける事はないでしょ。」

 

「そうだな…。後、これは皆にも早めに伝えておいた方がいいだろうな。」

 

「あー、紙に書いて扉にでもはっとく?そうすればさすがに見逃さないでしょ。」

 

「そうしましょー!」

 

……。

くそ、なんでこんな時に目がいってしまったんだ、俺。

シャワーのせいで難波のシャツが透けている…!

その上何の羞恥心もないのか脚を曲げているから下着も見える…!

すっと目線を難波から遠ざける。

そうか、潜手は防水だから大丈夫だったのか…って無意識に潜手の方も見たな俺!?

無心になろうと脱いだ自分の上着を絞る。よし、忘れよう、何も見なかった。俺は何も知らない。

 

「…ちょっと!」

 

「はい!?」

 

「何無視してんのさっきから。そんな下ばっかり見て。」

 

「……あー!ほわ、難波さんー…あの、ですねー…。」

 

ああっ!潜手、言わないでくれ!ここから出る前に気づいてしまう!

 

「ん?………。」

 

薄目で難波の方を確認すると、難波の視線は自身の胸に向かっていた。

 

「……。」

 

「…見たんだ。」

 

「えっと…すみません…。」

 

「…なんで言わない訳?」

 

で、出た!理不尽な問いかけ…!どうせ言っても絶対怒られてたじゃないか!

 

「すみません。」

 

「謝ってばっかじゃ何も分かんねーんだけど!」

 

痛い!ひどい!ギャル特有の意味不明なやつ!

普通に顔を叩かれてしまったけど、難波の性格を思うとグーじゃないだけ手加減はしてくれたらしい。

 

「はー、最悪。まあ全部宮壁のせいって訳じゃないか。…宮壁、めかぶ。」

 

「なんだ?」

 

「黒幕、ボコすよ。」

 

「は?危ないだろそれは!」

 

「そ、そうでーすよー!校則にもダメってありますーよー!?」

 

「いやいや、さすがに物理的にはやんないって。ただこの糞シャワーをどうにかしてもらって、今着てる服の洗濯と乾燥やってもらって、謝罪してもらおうかと。」

 

「…それは、してもらおう。」

 

「宮壁さーんー!?た、たしかに潜手めかぶもこのままだと風邪ひいてしまいそうですしー、その間にお風呂にも入っておきたいですよーねー。」

 

冷えて思わずくしゃみをしてしまう。濡れて重くなった服を早く脱ぎたい。あったかいお風呂で癒されたい。

モノパオに絶対クレームを入れてやろう。その言葉で俺達の心は1つになった。

 

 

 

□□□

 

 

 

「はー…気持ちいい…。」

 

「ほんとー…モノパオも言えば一応やってくれるんじゃん…。」

 

「ほわー…あったかいでーすー…。」

 

2人も湯舟に入っているのだろう、感嘆の声をもらす。

あの後、とりあえず更なる犠牲者を出さないために張り紙をし、モノパオに問い詰めた結果、難波の要望は全て通る事となった。

そして大浴場に男女どちらが先に入るかという話になった時、俺は2人に先に入ってもらうように言ったのだが、それだと俺が風邪をひくからと2人がモノパオに簡易的な仕切りを入れるように頼んでくれたのだ。

おかげで俺もすぐに入れたわけだけど、本当に簡易的な仕切りだから声はもちろん影も見えるしでなかなか体に悪いのでやめてほしいと思ってしまう。

 

「宮壁、アンタこの後すぐ探索行く?」

 

「ああ、そのつもりだけど…。」

 

「じゃあ後で3階に行く階段の前に集合ね。」

 

「俺が先に出るよ。じゃあ。」

 

「はいー!また後でーですー!」

 

新しい服に急いで着替えて髪も乾かす。ふー、すっきりした。

2人を待つ間、俺はマップを再確認する。

今のところ行ける場所で目新しいのはゲームセンターか。後は教室と物置。東城達が言っていた通り、脱出のための手掛かりがありそうには思えないな…。

 

「あ、宮壁くん!」

 

「こんな時間にお風呂に行っていたのですか?」

 

「ああ、まあいろいろあってな…。」

 

前木と安鐘だ。

 

「2人はもう探索終わったのか?」

 

「ええ、そうですわ。教室に気になるものがあったので、後で宮壁さん達も行ってみてほしいのです。」

 

「気になるもの…?」

 

「うん。いいものではないし、手掛かりにもならないと思うんだけどね…血があったの。」

 

「血…!?なんでまだ誰も入っていないところに…?」

 

「そういえば、2階の教室にも血痕がありましたわよね。ですが、あそこのようにいろんな場所が汚れている訳ではないのです。本当に一部というか…。」

 

「そうなんだよね。前みたいに黒くなっていたわけでもなくて、前より新しそうだなーって思った。も、もちろん、なんとなくだから他の人にも見てほしくって。」

 

「そうなのか…。教室のどの部分なんだ?」

 

「ゴミ箱だよ。あんなに少ししかついてないって事は、黒幕のミスなのかと思ってる。偶然見つけられたから、黒幕に隠されないようにロッカーに閉まってるの。」

 

「そっか、ありがとう。」

 

「ふふ、どういたしまして!」

 

2人はそのまま昼食を食べに行くらしい。俺は…あまりお腹が空いてないな。探索が終わったらおやつでも食べに行こうかな。

 

この間に東城のいる理科室に向かい三笠の事を伝言した後、待つ事10分強。

 

「わー!お待たせしまーしたー!」

 

「全然いいよ、先に教室に行ってもいいか?」

 

「ん?なんかあんの?」

 

「前木と安鐘が、何か変なものを見つけたらしくて…。」

 

2人を連れて教室に入る。

何の変哲もない教室だ。特におかしなところは見当たらない。

前木の言っていたロッカーを開けると、確かにゴミ箱が隠されていた。

 

「このゴミ箱らしいんだけど…。」

 

「ほわわー!血がついてますーよー!」

 

前木達の言う通り、ゴミ箱の内側に少し血の跡がついていた。

 

「これ、血のついた何かを捨てたって事?…。」

 

難波が無言でその血を触る。

 

「あ、新しそうじゃね?てか、ここに物を捨てる事ができる人って、かなり限られてる気がするんだけど。」

 

そう、ここに物を捨てられるのは俺が考える限りだと東城か柳原、そして黒幕だ。

 

「なーんだかー、嫌な予感がしますーねー…。」

 

「あの2人にも話を聞いてみる必要があるな。」

 

「これ、このままロッカーに戻しますーかー?」

 

「…いや、出してみよう。明日ここに来て血の跡が消えていれば黒幕、もしくはその誰かにとってまずい情報だった事が分かると思う。」

 

「そっか、了解。…じゃああそこ行こうよ。」

 

「あそこ?」

 

「ゲーセン!」

 

「わー!潜手めかぶ、すっごく楽しそうだなーって思ってまーしたー!」

 

難波のテンションが心なしか上がっている気がする。

ゲーセンに入っても実際に何かプレイする事はほとんどなかったから、俺も楽しみだ…!

 

バン!バン!

 

ゲーセンはかなり防音加工がしっかりしているようで、扉を開けた瞬間いろんなゲーム機の騒がしい音が聞こえてきてびっくりしてしまった。

その中にいたのは…。

 

「あまいぞ、三笠。」

 

「篠田…お主、完璧だな…。」

 

楽しそうにゲームをする2人だった。ゾンビを撃っていくタイプのゲームで、篠田は1度も外す事なく敵を撃ち殺していく。

そうは言っても三笠もかなり上手い。

…この中に混ざれって言われたら、ちょっと嫌だな…。俺の下手さが目立ちそうだ。

ゲームが終わったタイミングで声をかける。

 

「2人とも上手いな…!」

 

「おお、宮壁達も見ておったのか。だがご覧の通り、篠田には完敗だぞ?」

 

「いやー、アタシシューティングはそんなに上手くないからすげーわ…。」

 

「潜手めかぶもやってみたいですー!」

 

「あ、そうだ、これコインとかはどこにあんの?」

 

「…どうやら、このシューティングゲームかそこのリズムゲームなどをクリアすれば、景品がもらえるゲームをするためのコインがもらえるようだ。」

 

そう言って篠田はカップ一杯に詰め込まれたコインを見せる。

 

「その景品には興味がなくてな…。こうしてコインばかり貯まっていく。よければこのコインを受け取ってほしい。」

 

「ええ、篠田が取った物なのに悪いよ。」

 

「まあ、ほしい景品があればここのコインを好きに使うといい。今度はあのリズムゲームでもしてみようかと思う。…えっと…。」

 

急に言い淀んだ篠田に皆の顔にはてなが浮かぶ。

 

「め、めかぶも、その、一緒にやらないか…?三笠も、私に付き合ってくれていたのだ…。」

 

「へー…。瞳、かわいいところあんじゃん…。」

 

「か、かわいくはないだろう…。」

 

当の潜手はすごく嬉しそうに顔を輝かせた。

 

「はいー!潜手めかぶでよければ、ぜひ一緒にやりたいですー!」

 

そういえば、前、潜手の事を友達だって言ってたもんな…。純粋にこの光景がほほえましい。

3人でリズムゲームの方に向かうのをほのぼのと見守る俺。うーん、平和だな。

 

「は?何このUFOキャッチャー。景品がゴミなんですけど。」

 

「いやいや、さすがにゴミってそんな言い方………」

 

ゴミというか、胸糞悪い。

サッカーボールと斧のキーホルダーが大量に並んでいる。

 

他のゲームはお菓子やクッションが並んでいるのに、その一角だけ、俺達を嘲笑うかのような悪趣味なグッズが陳列されていた。

 

「…テンション下がったけど切り替えてこ。アタシあそこのクッション取るわ。宮壁手伝って。」

 

「ああ。」

 

側面から俺が見守り、操作は難波。篠田の大量のコインを使わせてもらう。

 

「行くよ。あそこのピンクの奴狙うから。」

 

「分かった。」

 

難波は慎重にボタンを押していく。どうにかいい感じの位置で止まったようだ。

 

「次奥行きだから宮壁ストップって言ってね。」

 

ゆっくりアームが動いていく。あそこのくぼみにくれば…!

 

「ストップ!」

 

「はい!」

 

アームが下ろされ、しっかりとクッションを掴む。

そしてそのまま…。

 

「よーし、ゲットできた!」

 

「難波も得意なんだな…!」

 

「まあね。腹立つから根こそぎ取ってやろ。」

 

「そうだな。俺も手伝う。」

 

しばらくの間難波と協力して悪趣味な奴以外の景品を取りまくった。

 

「ちょっとちょっと!いい加減にしてよねっ!」

 

「…宮壁、よろしく。」

 

「ストップ!」

 

「……よっしゃ、簡単だわ。」

 

「こら!話聞いてるの!?」

 

「モノパオ、このお菓子賞味期限切れてるから変えてくれ。」

 

「え、ほんとに…?じゃなくて!補充が結構面倒なんだからそんなにやらないでよ!こんなにコイン取られると思ってなかったから参ったパオ!」

 

「てかこのクッションめっちゃ気持ちいいわ。これまでゴミだったらどうしようかと思った。」

 

「そ、それはよかったパオ…。もう、完全に2人とも害悪生徒だよね…。ボクくん今日で何回2人に詰め寄られてきたのさ…。」

 

「今は勝手にアンタが来たんじゃん。あ、あそこのポーチ欲しい。」

 

「モノパオ、とりあえずこのお菓子の事よろしくな。」

 

なんかうるさいのでお菓子の袋を押し付ける。賞味期限切れに文句を言うのは別に害悪じゃないだろ。

 

「はいはい…また後で宮壁クンの部屋に届けに行くからね…じゃあ、さよなら…。」

 

とぼとぼと歩いていってしまった。

 

「でもゲーセンずっといたら目が悪くなりそうだしこれ終わったら帰ろうかな。結構もういい時間じゃね?」

 

「そうだな。朝と昼はしっかり作ってないし、夜ご飯はちゃんとやった方がいいよな。」

 

最後のポーチも難なくゲットし、2人でゲーセンを後にした。

 

「…あ、物置見るの忘れてたな。」

 

「まあいいんじゃね?他の誰かが見てくれてるでしょ。」

 

 

 

□□□

 

 

 

「みなさん揃ってくださって、本当によかったですわ…!」

 

「ですねー!作ったかいがありましーたー!」

 

いつもの2人が呼びかける。

昨日の今日だというのに、すでに食卓に並ぶメニューは今までのように豪華になっていた。

俺も少しは手伝えたけど、行った時にはあらかた準備も終わっていたから申し訳ない。

 

今はその食事も終え、今日の探索の話をするところだ。

皆この1日で休んだからか、今朝以来会ってなかった人もだいぶ顔色がよくなっている。

 

「えーっと?グループ分けはどうなってたんだっけ。アタシは宮壁とめかぶと。」

 

「あ、私は鈴華ちゃんと回ったよ!」

 

「おれは勝卯木さんといました!」

 

「自分は篠田とだったな。」

 

「あとの2人は個別か。じゃあ最初にプールの説明をさせてほしいんだけど、いい?」

 

「プール…何かあったの?」

 

「あそこのシャワーが糞だった。」

 

「…あ!それで宮壁くん達はお風呂に入ってたんだね!」

 

「本当にー、びっくりしちゃいましーたー!」

 

「とりあえず、プールは市営プールの規模を少し小さくした感じだ。これと言って変わったところはないし、更衣室も男女で分かれているから安心してほしい。」

 

「あとはー、ゲームセンターですかねー?たっくさんゲームがあってー、とっても楽しかったですー!コインは篠田さんと三笠さんが取った奴があるので、みなさん使っていいそうですよー!」

 

「ええっ!?篠田さんと三笠さん、ゲームも得意なんですか!?なんでもできて尊敬します!」

 

「あ、ありがとう…。楽しくなってほぼ全てのゲームをしてしまっただけなのだがな。」

 

潜手はビニール袋いっぱいに詰められたコインを机に置いた。あの後もこんなに取ってたのか…。

皆でその量に少し驚いていると三笠がコホンと咳ばらいをする。

 

「では自分からは物置について説明しようか。物置はここの隣の倉庫とは違い、かなりごちゃごちゃしていた。その上…武器、と形容できるものがあった。」

 

「武器?凶器じゃなくて、か?」

 

「ああ、今は大きな錠前がされてあって簡単には開けられないようになっているし、モノパオいわくそれらを入れているガラスのケースもかなり頑丈らしいが。刃物や鈍器、銃のようなものまで取り揃えられているといった感じだ。」

 

「ボクの考えとして、今はそこまで気にする事ではないと思うけれどね。気にするべきはその鍵がどこにあるのか、ではないかな。」

 

「いや、鍵も今はモノパオが所持していると言っていた。」

 

「そうか。それなら考慮する必要はないね。どうもありがとう。」

 

…東城が引くなんて珍しいな。もっと細かく聞いて対策を練るかと思っていたけど…。

 

「後話してないのは教室?まあ…特別変なところではなかった。ただ教室5のゴミ箱に比較的新しい血がついてた。一応ここで共有しとく。」

 

難波の話が終わると同時にこっそり周りの様子も探る。特におかしいところはなさそうだ。

 

「なあ、東城と柳原は先に探索してたよな、その時は見つけなかったのか?」

 

「あ、見つけましたよ!何も聞かれなかったので言わなかっただけで。」

 

「手掛かりになりそうなものはないかって聞かなかったか…?」

 

「手掛かりって言っても脱出の手掛かりって聞いてましたよね?脱出とは関係ないので答えませんでした!」

 

…屁理屈だ!と思ったけど本人に悪気はなさそうだからぐっと堪えた。偉い。

 

「そ、そうか。東城は?」

 

「見たけれど、説明のしようがないしボクにはまだ何の考察もできないよ。」

 

「そりゃそうだよな、ごめん、なんでもないんだ。」

 

すごく訝し気な目で見られたのは嫌だけど仕方ない。これで一通り探索の報告は終了か。

 

「……話、終わり?」

 

「いや、私は動機として残っている秘密の書かれた封筒をどうするか決めてほしい。これまでに本人に見せた人がいるなら知りたいな。」

 

篠田の発言で少し空気が固まる。

 

「その事だが…どうやら牧野が持っていた秘密は自分のだったようでな。裁判の後モノパオから手渡されて今は自分で持っている。」

 

「俺は柳原に秘密を返している。俺のは知らないけど。」

 

「はい!おれは宮壁さんからもらいました!大した事ないので安心してください!あと勝卯木さんにおれの持ってた秘密を返しましたよ!」

 

「……内容、大丈夫…。」

 

「勝卯木さん的には内容も問題ないらしいです!」

 

「…俺は自分のを引いてる。もうこの話には関係ねぇよ。」

 

「ふむ…後は誰にも見せていない様子だな。教えた人はともかく、まだ自分の秘密を見ていない人はどうするべきだろうか?私は、このまま自分の秘密は見せてもらわなくていいと思っているが他の人はどうなんだ?」

 

「あ、あのっ!わたくし、自分の秘密を知りたいのですが、その…よろしいでしょうか…?ここで秘密をもらう事を宣言すれば、みなさんも把握できますし、いいかと思うのです…。」

 

安鐘がおずおずと手を挙げる。

正直、俺も気にならない訳じゃない。むしろ俺のなくした記憶に関連しているなら、それこそ今の状況についてのヒントになる事が書いてある可能性もある。

 

「そうか。自分が安鐘の秘密を持っているから、皆が賛成するのであれば渡そうと思うが…。」

 

皆も特に反対する人はおらず、頷いたので三笠は安鐘に後で封筒を渡しに部屋に戻るようだ。

 

「他に知りた人はいねーの?」

 

「うーん、私はなんだか怖くて…まだやめておこうかな。」

 

「アタシも見なくていい。持ってるのを見せる事もない気がする。本人が知りたがらない限りはね。」

 

「じゃあ、今日はこのくらいで解散にするか。皆お疲れ様。おやすみ。」

 

「おやすみなさーいですー!」

 

そんな感じで今日の話し合いは終わりになった。

俺の秘密を持っている可能性のある人はだいぶ絞られたな…。

 

ふと、動機をもらった時の皆の反応を思い出す。前木はかなり本人に見せるのを嫌がっていたっけ。

…あれが俺のだったりして…、いや、まさかな。

 

 

 

□□□

 

 

 

「あ!そういえば、この事を言うのを忘れ……あれ?」

 

数日前に保健室で見つけた小瓶。何か怪しい物だと思って俺の部屋に持ち帰ったまますっかり存在を忘れていたけれど、それがなくなっていた。

 

「なんで、ここには誰も入れないはずなのに…。」

 

「およびかな?」

 

「呼んでない…けど、お前が隠したって事か、モノパオ。」

 

「正解っ!いやー、あれ保健室の棚に補充しようとしてたのに間違えて外に出しちゃってたんだよね!拾ってくれて感謝パオ!」

 

「何に使うものなんだ。」

 

「毒だよそりゃ!もう本当、すっごい効き目の強い毒!舐めただけで天国に行けちゃうやつだよっ!」

 

「これからも補充するつもりって事か?」

 

「それが結構貴重だからすぐには補充できないんだよね…残念!力がない人とか、体格差のある相手を殺す時とかにはうってつけの凶器だから、しっかりサポートしていかなきゃなんだけどね…。」

 

「余計なお世話だ。」

 

「もー!宮壁くんはなんでボクくんにだけそんなに冷たいのさ!いっつも優しくしてくれるのに!けち!あ、そういえばこれ、賞味期限切れてないお菓子!たしかに届けたからねっ!」

 

「…え?」

 

いっつも優しく…?そんなまさか、悪魔と裏切り者は俺達の中にいるって言われてきたけど、黒幕も俺達の中にいるなんて、そんな訳、ないよな…?

 

嫌な予感を頭に残しながら、俺はゆっくりと意識を手放していった。

 

 

 

 

 

 

 

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