どうにか戻ってきました。
3章がいつ終わるのか全く見当がつかなくて参っています。
「…え?」
「あ、やっぱり毒だったんですか。おれも見てました。あまりにも堂々としているから砂糖なのかと思っちゃいましたよ。」
横にいた柳原の一言でその事実を再認識する。
安鐘が今、殺人を犯そうとしていた。
「鈴華、今の、本当?」
難波の視線も厳しいものになる。
「……バレるなんて、思ってもいませんでした…。鋭いのですね、三笠さん。」
それだけ呟いて、落ちて潰れてしまった和菓子を拾い集める。
三笠もゆっくりと体を起こし、無言で近くの和菓子を安鐘の持つお盆にのせる。
冷え固まった空気をさらに凍らせたのは、勝卯木の一言だった。
「………私……食べた…。」
見ると勝卯木の手にはかじられた和菓子がおさまっている。
皆の顔が冷えていくのが分かる。
「なんだと!?」
三笠も顔を真っ青にして急いで駈け寄る。
「異常はないか!?」
「……。」
勝卯木は顔を青くして頷く。
「すぐには死なないはずですわ。2日後に効果が出ると書いてありましたもの。…量によって早まるとは書いてありましたが、わたくしの入れた量がどのくらいなのかは分かりませんので正確に2日後ではないと思いますが…。」
「え、え?」
前木は泣きそうな顔をして辺りを見渡す。
「あ、あの、私、東城くん、呼んでくる。え、えっと、呼んでくる、から…」
最後まで言わずに前木は食堂を飛び出していった。
「鈴華!何平気そうな顔してんの!?アンタがクロだって事、皆分かってんだからアンタも死ぬんだよ!?」
「泣いても笑ってもわたくしは死にますわ。それに、勝卯木さんならば…大丈夫です。」
「……大丈夫って何が。鈴華、言い方によってはアンタを殴るけど。」
「…ふふ、殴って気が済むのなら殴っていいですよ。わたくしだって許されない事だと分かっていますから。それにバレてしまった以上隠す事もできません。」
「話を逸らすな。アタシは何が大丈夫かって聞いてんだよ。」
「殺しても大丈夫だと言っているのです。」
次の瞬間、難波が安鐘を殴っていた。拳で。
俺も何を言っているのか分からなかった。安鐘は、勝卯木なら死んでもいいって言うのか?
「なあ、安鐘、お前、なんでこんな、」
「勝卯木さん、とりあえず保健室に来てくれるかな。」
前木が急いで連れてきたのだろう、肩で息をしながら東城と前木が食堂に入ってきた。
そのまま勝卯木を連れていく。前木も2人についていくようだ。
「そこの犯罪者は皆でどうにか手を打ってもらえるかな。」
勝卯木の背中を押しながら東城は安鐘に軽蔑の目を向け、出て行った。
俺達の間を沈黙が流れる。
どうすればいいんだ?勝卯木が死ぬのを黙って見て、そのまま安鐘がクロとしてオシオキされるのも見届けろっていうのか?
「安鐘の事はどうするのだ?」
篠田も心配そうに周りを見渡す。
「鈴華、アンタは今日1日外に出ないで。個室のドアでアタシが見張る。」
「……ええ、分かりました。」
「あ、えっと、あの、ごはんの時はどうするんですーかー?潜手めかぶが2人の分も運びましょうかー…?」
「お節介な奴だ。難波の事はともかく、そいつは放っておけばいいだろ。」
いつの間にか食堂に来ていた大渡が口を挟む。
「大渡。」
「派手な音がしたから来ただけだ。今日はもう部屋から出ねぇけど。危険人物が他にもいるかもしれねぇからな。」
そのまま厨房に入っていった。おそらく今日の分の食糧を調達しに来たのだろう。
「で、でもー…。安鐘さんのご飯が1日抜きなのはかわいそうでーすー!」
「……分かった。めかぶに免じて鈴華の分も誰かにもってきてもらう。アタシは食堂で食べたいからその時だけ誰かアタシと見張りを交代してほしいんだけど。」
「では自分が行こう。」
手を挙げたのは三笠だ。この2人なら心配ないだろうが…。
「難波、お前、ご飯の時間以外はそこから動かないつもりか?他の時間も誰かと交代してもいいと思うけど…。」
「ん、ああ、誰かやってくれる人いんの?」
「俺もやるよ。」
「宮壁もありがと。じゃあとりあえずアタシが鈴華を連れて行くから。また夕方呼んで。」
難波と出ていくまで、安鐘は何も喋らなかった。
動機が分からない。秘密を返してもらっていた時はショックを受けているようではあったものの、とても殺人を決意しているようには見えなかった。
安鐘の「たいせつなもの」が、それほどまでに大事なものだったものだろうか。
「勝卯木なら大丈夫」という言葉の意味も分からない。死んでもいい人間なんているはずがないのに。
気づけば大渡もいなくなり、食堂にいるのは俺も含めてたった5人になってしまった。
「勝卯木さん、大丈夫なのですーかねー…。」
「大丈夫か、だって?あは、あははははははは!!!」
潜手の心配そうな声を遮って気味の悪い笑い声をあげながら出てきたのはモノパオだった。
「東城クンはまだがんばってるから本人にはしばらく言わないであげるけど、あれって相当ヤバい毒なんだよね!致死率100%!なんてたって超お高い特別な毒だからね!残念でした!勝卯木サンの死は避けようのない事実、ついでにそのクロとして安鐘サンが死ぬのも確定なんだよ。もちろん、オマエラがちゃんと投票すればね。」
腕に鳥肌が立っていくのを感じる。
事実?決まっている?
2人が死ぬ事が?
まだ生きているのに?
胸のあたりがどんどん重くなっていく。
「そもそもその毒はなんだ?そんな毒、ここにはなかっただろう?」
「……え、そっか、これ、あー…なるほどね…そういう事か……。」
篠田の問い詰めにモノパオはびっくりしたように唸る。
「……結論から言うとあるんだよ!あるって言ったらあるの!まあ、どこにあるかはがんばって探したらいいんじゃない?」
どういう事だ?あの毒はそんなに特別なものなのか?
…じゃあ、なぜ安鐘はそれを使えたんだ?
少し冷静になってきたのか、そもそも毒を用意した方法についての思考ができるようになってきた。
「とりあえず、ここにいる皆で毒のありかを探すのはどうだろう。」
「そうですね!おれもそう思います!宮壁さんは目星がついてるんですか?」
「……一か所だけ、ここじゃないかって思う場所はあるな。」
「じゃあ、おれも宮壁さんについていきます!」
俺は柳原を連れて毒のありそうな場所を探す事にした。
□□□□□
「倉庫…?でもここの武器庫って、鍵がかかってませんでしたっけ?」
「だけど、他には思い当たらないんだ。追加される毒だって保健室か理科室にしか置かれてなさそうだし、そこなら東城が必ず見つけるはずだ。」
「東城さんより先に見つけたのかもしれませんよ?」
「それは…、最悪そう思った方がいいだろうな。」
武器庫をしっかり見るのは初めてだ。ガラスケースの中にゲームに出てきそうな武器や銃やスタンガン…ありとあらゆる武器が用意されている。
柳原は真っ先にガラスケースに駆け寄ると、少し観察した後に一点を指をさした。
「わ、本当に毒もあったんですね!この瓶だけ、減っているような気がします。」
柳原の指さした瓶の中身が半分ほどに減っていた。中にあるのは粉のようだし、おそらく使用したのはこれだろう。
「じゃあ、本当に安鐘はここにあった毒を使ったのか…?」
「でもそれだと、安鐘さんはここを開けて毒を取る事ができたって事になりませんか?ここの鍵はどこにもないですし、開けられるのは黒幕だけだと思います。」
「……鍵は本当にどこにもないのか、探してみよう。」
「仮にトイレにでも流されてしまっていたら、どうしようもなくないですか?」
「それはそうだけど…。」
なんて柳原と話していた時だった。
「そこの鍵ならここにあるよ!」
後ろを振り返るとモノパオが手に鍵を持って立っていた。楽しそうにしているのに腹が立つ。
「いやー、安鐘サンも大胆な事するよね!ここにある毒を使うなんてさ。」
「安鐘さんが黒幕って事ですか?」
「さあ?答える訳ないじゃん。」
「よく分からないですね、宮壁さん。」
「…「お前」は、誰かに鍵を渡した事があるのか?」
「宮壁クンの聞き方、卑怯だね。……「オレくん」は無いよ!じゃあね!」
モノパオはそのままどこかに行ってしまった。思わずため息をついてしまう。
「宮壁さん、今の質問ってどういう事ですか?」
「…いや、大した事じゃないんだ。」
大した事なんだけど、言ってしまうと俺がどうなるか分からない。
今さっきの奴は裏切り者のはずだ。喋り方のテンションが微妙に違った気がするし、自分の事をオレくんと呼んでいた。さっき食堂に出てきた奴も笑い声がいつものモノパオと違っていたしおそらく今のと同じ…。
だけど、それならどうして裏切り者が出てくる必要があったんだ?今は黒幕がモノパオを操作する事ができない状況にあるのか?
そこまで考えて、どちらにしろ嫌な予感しかしなくなったので首を振る。
まさか。モノパオは前からそう言っていたけど、俺達の中にモノパオを操ってる奴がいるなんて信じたくない。
「とりあえず、みなさんにはこの武器庫から持って行った毒だって事は伝えた方がいいんでしょうか?毒の作用についてはここからでは読めませんし、諦めるしかないですね…。」
「そうだな、ついてきてくれてありがとう。」
「いえいえ!助手として当然の事です!」
「そうだ、柳原、俺はたぶん夜見張る事になるから今から少し寝ておこうと思う。夜ご飯の時間になったら呼んでくれるか?」
「分かりました!出来上がったら呼びに行きますね!」
こうして俺達は倉庫を後にした。
□□□□□
「おお、宮壁か。」
「宮壁さんがなかなか起きなくて困りました!」
「ごめん…。」
意外としっかり眠ってしまったようで、もう7時になっていた。4時間近く寝ていたらしい。
柳原はまだ探索の結果を報告していないようなので、前木達が戻ってきてから話す事にした。
「勝卯木の様子は?」
「いや、まだ見ていなくて分からないのだ。あれから東城と前木も戻ってきていなくてな。」
「もしかして、3人でご飯を作ってくれていたのか?最近手伝えなくてごめん。」
「宮壁も見張りをしてくれるのだろう?探索もしてもらったし、お互いできる事をするまでだ。そうだ、眠くなったら私と交代しないか。夜起きるのには慣れている。」
「そうか?それなら助かる。夜中の…3時くらいに交代できるか?」
「分かった。」
そんな話をしていると潜手がお盆に食事をのせて運んできた。
「三笠さんー!これが安鐘さんの分ですーよー!」
「ああ、ありがとう。」
三笠はそれを受け取ると難波と交代しに食堂から出て行った。
「潜手は優しいな。」
「そうでーすかー?」
「…ああ、優しいよ。」
少なくとも、俺はあんな事があった直後に安鐘にご飯を作ってあげられるほどお人よしじゃない。三笠のように直接ご飯を持っていくのも少し抵抗がある。どんな顔をして話していいか分からないからだ。
「めかぶは見張りまでやらなくていいからな。釘を刺しておかないと言い出しかねない。」
「ほわー!たった今言おうとしてたんでーすよー!篠田さんにはお見通しなんですねー!」
「ふふ。めかぶの事なら少しは分かってきたからな。」
「もうベテランさんですよー!」
「わあ!おれもみなさんのベテランになりたいです!えっと…じゃあ…宮壁さんの好きなタイプはなんですか?」
「て、典型的な質問だな…えっと、俺は…優しい人、かな。」
「わ!じゃあ潜手さんですね!あ、でも、前木さんや三笠さんも優しいですよね!」
危うくお茶を吹き出しそうになった。
「ほわわー!宮壁さん、潜手めかぶがタイプだったんですーかー!」
「え、あの…。」
潜手が優しいのは事実だし、否定するのは失礼だからしたくないけど、この質問の誤解は解きたい……!
「宮壁…お前はめかぶにふさわしい男だと胸を張って言えるか?」
「なんで篠田が1番怖い顔してるんだよ!」
「変な男に捕まってほしくないからだ。」
即答だ……。
「…俺はふさわしくないと思う。すみませんでした。」
「わわ、宮壁さんは十分素敵な人ですよー!」
潜手にフォローされるのが1番申し訳ない…!!
「お、盛り上がってんじゃん。何の話してんの?」
「難波!」
「いろいろとな。難波の好きなタイプはいるのか?」
篠田の問いかけに難波の顔を見る。確かに難波の好きな人って想像つかないからちょっと興味がある。
「え?タイプ…あー、妹かな。」
「え、難波ってシスコンだったのか…?」
「アタシが男だったらああいう明るい優等生タイプが好き。かわいい。男の好みは…まだ理想の人とかに会った事ないから分かんねーわ。ショタは美亜の漫画の影響だし。」
シスコンな事は否定されなかったけど、つまりそういう事でいいのか?
「つかこのメンツでそんな話し始めるのって誰?宮壁?」
「俺じゃない!柳原だ。」
「意外。アンタそんな事に興味あったの?」
「いえ、おれは興味ないんですけど、人と仲良くなるには恋バナなどのプライベートな話をするといいと書いてあったので!」
「それアンタが興味なかったら意味ないやつじゃね?」
「え、そうなんですか!?じゃあ話しても仲良くはなれないんですね…。」
柳原はしょぼんと肩を落とした。そんなに周りの恋バナに興味がなかったのか……。
そんな会話に一区切りついたところで、俺達はご飯を食べ始めた。
「前木さんと東城さん、なかなか来ませんねー…潜手めかぶ、呼んできましょうか…?」
「そこまでしなくても、そろそろ来ると思うが…。」
けれど、俺達が夕食を食べ終わった後も、ここにいる人が変わる事はなかった。
「俺、保健室に行ってみる。」
「アタシも行くわ。」
「えーっと…じゃあ、潜手めかぶは残りのみなさんのご飯の用意をしておきますーねー!」
「うーん…おれはここで待ってます!」
「柳原、お前もめかぶの事を手伝ってくれ。」
「…!お手伝いすれば篠田さんと仲良くなれるんですか?やります!」
「そういう事にしておこう。」
一通り役割を決めると、俺と難波は保健室に向かった。
□□□□□
保健室に向かうと、2人はその近くの廊下で何かを話しているようだった。
「あ、宮壁くんと紫織ちゃん。ごめんね、食堂に行けてなくて…。」
「いや、それはいいんだ。2人とも、勝卯木は、どうなんだ?」
「……えっと…。」
前木は言いづらそうに下を向く。そのまま近くの教室に足を運んだ。
「とりあえずできる事はしたよ。結論から言うと、助からない。」
「…!」
「マジで言ってんの…?じゃあ、ほんとに蘭と鈴華は死ぬって事?」
「そうなるね。でも今回の裁判はクロが決まっているから心配いらないよ。皆の命が脅かされる事はない。」
「そういう問題じゃねーだろ!」
難波が東城の胸ぐらを掴む。
「アンタは悔しくねーの!?超高校級の化学者なんて大層な肩書きもらっといて、人1人助けらんないわけ!?」
激昂する難波の腕を抑える。
「難波、それは違う。東城もやる事はやったと言ってるし、東城の性格上、手を抜く事はありえない。焦る気持ちは分かるけど、そこで東城を追い詰めていい理由にはならないと思う。」
「……ごめん。」
「ふう。宮壁くん、どうもありがとう。流石いつも冷静なだけあるね。」
「そういう話をしている場合じゃないってだけだ。具体的にどういう毒なのか分かるか?」
「そうだね、症状は倦怠感や頭痛、吐き気…大体熱と同じようなものだよ。見た感じ、そこまで重症という程でもないからものの数時間で死ぬような状況ではないけれど。毒が全身を回ると凝固していき、血液や酸素その他体に必要なものが回らなくなる。…一種の血液凝固剤みたいなものだと思うけれど、生憎ここには十分な機材がないから成分を調べる事がかなり難しい。成分が分からなければ明確な解毒剤を作る事もできない。熱みたいな症状が出るという事は他の作用もあるだろうし、作用についてもはっきりと特定する事はできないと思っていい。」
「蘭ちゃんにはまだ言ってないんだ。死ぬ事が決まってるなんて言えないし、私も言いたくなくて…。」
前木は泣いていたのだろう、赤く腫れてしまった目を伏せて状況を話してくれた。
「一応倦怠感さえどうにかなれば安静にしてなくてもいいみたいだけど、まだだるいって言ってたから、蘭ちゃんにはご飯を持って行ってほしいな…。個室に寝かせる予定なんだ。ちょうどその話を決めていたところなの。」
「分かった。後、めかぶ達が夕食の準備をしてくれてるからそろそろ食堂に行ってほしいんだけど今から行ける?」
「うん!とりあえず蘭ちゃんを個室に連れて行ってから行くね!」
「…ま、琴奈に任せた方がいいか。頼んだ。」
「うん…!」
ということで俺達は先に食堂に戻って待っておく事にした。
「わ、ど、どうでしたか…?」
心配そうに迎えた潜手に東城が淡々と状況を説明する。
「勝卯木さんには個室に戻って寝てもらうから食事はそこまで運んでほしい。前木さんも後から来るよ。」
「……俺は後で三笠と見張りの交代をするから、勝卯木のご飯も俺が持っていくよ。それがちょうどいいと思う。」
「分かりましーたー…!」
東城は勝卯木の状況をどこまで話すのだろうか…と気にした時には、東城は既に皆に説明し始めていた。
「モノパオさんの言ったことはー…本当だったって事ですーかー?」
「ボク達のいない時にモノパオが何か説明していたという事かな?」
「…ああ。東城達が勝卯木を保健室に連れて行った後、モノパオが現れ「勝卯木は治らない」と。同時に、「安鐘が投票をすればクロとして処刑される事も決まっている」とも言っていた。」
「なるほど。ボクの処方が間違っていた事はなさそうだね。モノパオはこういう局面では嘘をつかない。」
「そうか…。」
皆の顔が暗くなる。当たり前だ、まだ誰も死んでないのに死ぬ事が分かってしまった人が2人もいる。
「勝卯木には、最後まで言わないつもりか?」
「それアタシも気になってた。蘭が死にそうになった時はどう説明するの?「善処は尽くしたけど助からなかった」じゃあ本人は嫌だと思うんだけど。」
「だけど、なんて言えばいいんだ…?俺には説明なんて、とても……。」
「てっきり、私はモノパオが勝手に言うのかと思っていたが。」
「あの様子だと、モノパオが勝卯木さんに言う事はないんじゃないですかね?」
「?柳原、何か知っているのか?」
篠田の怪訝な顔を見て探索の事を思い出した。
「毒の場所を探していた時にモノパオに会ったんだ。その時も聞きたい事にはほとんど答えてくれなかったし、そもそも東城達が保健室にいる時に「助からない事はしばらく教えないでいる」と言っていたんだ。あの性格から考えて勝卯木に教えるとは思えない。」
「…じゃあ、私達で蘭ちゃんに直接言わなきゃいけないんだね…。」
声のした方を向くと、前木が戻ってきていた。
とりあえず全員揃った事だし俺達の探索の説明もする。ガラスケースの鍵は黒幕が持っている事なども含めて。
「…鈴華が黒幕って事?」
「さすがに、それだけで決めつけるのは、どうなんでしょうかー…?」
その後もいろいろと簡単な議論は交わしたが、ろくに進展しなかった。結論、安鐘が話さなければ何も分からない。
「あ、えっと、結局、蘭ちゃんには誰が言うの…?」
前木の言葉でその場は静まり返る。
「ボクが言えば1番納得してくれると思うけれど。」
…少し考えて、俺は東城に返事をした。
「……東城、頼んでいいか?」
「分かった。」
東城は頷くとすぐに食堂を出て行った。
「宮壁くん…。」
「勝手に答えて悪い。申し訳ないけど、少なくとも…俺には、言えない。東城が1番勝卯木の容態も知ってるし、嘘を言うような奴じゃない。任せて大丈夫だろう。」
前木も納得したようで頷き返してくれた。
「アタシ、鈴華にまだ毒を隠し持ってないか探しに行こうと思うんだけど…宮壁はこれから交代だっけ?」
「あ、ああ。……でもその前に、1回だけ勝卯木の様子を見に行ってもいいか?」
「えっと、あのー!潜手めかぶも勝卯木さんに会いたいですー!」
「分かった。じゃあアタシはその間に鈴華に会っておく。三笠には悪いけど、もう少し付き合ってもらうように言っておくから。」
「ごめん、ありがとう。」
□□□□□
「……宮壁、めかぶ…。」
「…体調はどうだ?」
「……普通。」
「お見舞い?ボクはもう帰るよ。言う事は全部伝えたから。」
東城はほぼ俺達と入れ替わりで勝卯木の部屋から出て行った。
全部伝えた、か……。軽く息を吐いて、まっすぐに勝卯木を見る。
「……私、死ぬって……聞いた。」
「……。」
「……悪い、私……。勝手に、食べ…」
「違いますー!」
勝卯木の話を遮ったのは潜手だ。
「勝卯木さんには悪いとこなんて、1つもないでーすよー!そんなこと、言わないでくださいー…。」
泣きそうになりながら勝卯木の手を握る。
「……三笠以外の俺達が気づかなかったのが悪いんだ。勝卯木が自分を責める事じゃない。…本当に、ごめん。」
「……。」
悔しい。まだ勝卯木は目の前で生きているじゃないか。
俺達にできる事は、何もないのか?
勝卯木がこれから死ぬ事が信じられなくて、俺は下げた頭を上げる事ができなかった。
「………怖い……死にたく、ない…。」
俺の目線の先に雫が落ちていくのに気づき、ハッと顔を上げる。
勝卯木は泣いていた。当然だ。
「…怖い……!」
そう呟きながら、声を押し殺すように涙を流す勝卯木を見て、潜手も声を上げて泣き始めた。
……とりあえず、難波のところに向かおう。
俺は何も言わずにその場を後にした。
いつの間にか、自分の手の平に爪の形がくっきりと残っていた。
□□□□□
安鐘の部屋に向かう。ノックすると難波が顔を出した。
「……入って。」
緊張を高めながら俺は奥にいる安鐘の元へ歩み寄る。
「…安鐘。」
普段の着物は着ておらず、別人と間違うような顔色をしていた。
「こうやって宮壁も連れてきたんだからそろそろ話してくれる?動機は何?」
「………話しません。」
「アンタ、反省するつもりもない訳?アンタがこんな無差別に人を殺す奴だとは思わなかった。」
「……。」
何も答えない安鐘に難波はいい加減頭にきているらしい。軽蔑の目で睨みつけていた。
「安鐘、順番に質問するよ。まず1つ目。どうやって武器庫の毒を手に入れたんだ?」
「……言えません。」
「じゃあ次。いつからこれを企てていたんだ?」
「……動機を、見てからですわ。」
忘れないようにとメモを取る。
「そっか。次は…どうして犯人だとバレやすいような殺し方にしたんだ?」
「…え?」
「もし安鐘が本気で、外に出たいという理由で人を殺すなら、わざわざ自分が作ったと皆に説明している和菓子には毒は仕込まないはずだ。例えば、もっと大人数でご飯の支度をしている時に紛れ込ませたり、冷蔵庫に入っている飲み物に仕込んだり…。安鐘のやり方じゃあ、自分が犯人だとすぐに分かってしまうんじゃないか?」
「……効果が出るのはしばらく経ってからですわ。わたくしの作った和菓子が原因だなんて、候補にこそ出るかもしれませんが確定はできないでしょう。それに、全てに致死量の毒を仕込んでいた訳ではありませんから。」
「じゃあ、鈴華は蘭を狙ったって事?蘭が取ってた和菓子は他のより少し大きかった。食い意地の張った蘭なら大きいのを取ると踏んだの?」
「……まぁ、そんなところですわね。誰かを殺すなら勝卯木さんだと決めていました。」
「なんで勝卯木なんだ?何かそんな……」
「ん、宮壁?」
前回の動機で柳原の元に配られた勝卯木の秘密を思い出す。
『勝卯木蘭には才能がない』、あれと何か関係があるのか…?だとしても安鐘がそれを知るタイミングなんてないはずだ。
「あ、いや、なんでもない……。」
「……宮壁さんも、何か心当たりがあるのですか?」
「少なくとも、殺していい理由にはならないと思うけどな。」
「ねぇ、2人して何の話してんの?理解が追いつかないんだけど。」
「宮壁さん。わたくしは、勝卯木さんを殺してもよい人間だと判断致しましたわ。そしてわたくしには漏らしてはいけない動機…秘密がある。わたくしは勝卯木さんを殺した事を後悔した訳ではないのです。…勿論、三笠さんに見破られた事は想定外でしたが。流石は三笠さんですわね。」
顔色こそ悪いけれど、安鐘は真剣そのものだった。端部や高堂みたいに、殺人を悪だとは思っていない顔だった。まっすぐな目で、凛とした声で、そう言われてしまった。
責められない。
直感で、そう思った。
安鐘は自分がやった事が間違ってるなんて思っていないんだ。俺達や世界の常識を破って自分の手を染めてまで、彼女には守りたい何かがある。そんな彼女にはきっと何を言っても無駄だし、俺が彼女に何か言われても共感なんてしないだろう。
「ちょっと!何の話してんだって聞いてんだけど!」
「えっ、あ、その……。」
「難波さんは知らないなら知らないままでもいいと思いますが…そうですわね、わたくしの事を理解してほしいとは思ってはいませんが、同じ疑問を抱いてもらいましょうか。難波さん、勝卯木さんは腕時計なんて持っていませんよね?そして、この建物には秒針のある時計がありません。廊下に至っては時計すらありませんわ。」
「はぁ?」
「え、安鐘、何言ってるんだ?」
「は?宮壁は分かってたんじゃなかったの?」
「い、いや、ちょっとそれは俺も知らなくて…。」
「まぁ、宮壁さんもでしたの。……とにかく、これを理解すればお二人もある可能性に行きつく事ができますわ。そして、これこそが、わたくしが勝卯木さんを選んだ理由です。」
結論から言うと、その他の事は何を聞いても教えてくれなかった。
「……じゃあそろそろ時間だしアタシは行くわ。三笠も待ってるし。宮壁は?」
「…俺もすぐ出る、けどちょっとだけ時間をくれないか?」
「分かった。三笠に言っておく。」
「まだ何かありますの?」
「えっと…何かあったら、俺達に言えよ。」
「……。」
「今からしばらくは俺が外にいるし、一応部屋の外には誰かがいるようにするから。」
「………。ふふ、お気遣いありがとうございます。」
「……じゃあ、また明日。」
「あの。」
「?」
「これは、たぶん、言ってはいけない事だと思いますが…どうか気をつけてくださいませ。裏切り者や黒幕…おそらく悪魔などよりも、ずっと質の悪い人が、あなた達を狙っていますから。わたくしが死んだ後も、くれぐれも気を抜かないで。」
「……肝に銘じるよ。」
俺は安鐘の言葉を受け取り、扉を閉じた。
「………宮壁さん。」
「みなさんも…どうかご無事で。」
□□□□□
「宮壁、大丈夫か?」
三笠が心配そうにしている。
「…大丈夫、三笠達にばっかり任せてられないから。」
「そうか…何かあったらすぐに呼べ。」
「うん、ありがとう。」
三笠が食堂に戻った後、1人で壁にもたれかかる。
「……はぁ。」
今日1日でいろいろな事がありすぎて、正直頭が追いついていなかった。
何かしなきゃと思って今見張りをしているけど、そもそも見張りの提案をしたのは難波だ。三笠はいち早く皆を止めた。東城は勝卯木の看病をして、前木はつきっきりで世話をしていた。潜手達はこんな状況でも全員分の食事を作ってくれた。
……俺は?俺は、何をした?自分の不甲斐なさに唇を噛む。
皆のために、自分のために、何かしただろうか?
こうやって見張りをしているけど、明日からも続くのだろうか…勝卯木が死ぬまで。
何を考えようとしても頭から離れてくれない。死にたくないと、死ぬのが怖いと泣いていた勝卯木を、このまま見送る事しかできないなんて…理解できなかった。
誰のせいでこんな事に…と考えたところで、安鐘の事が頭によぎる。
…死ぬのが決まっているのは安鐘も同じだ。端部や高堂の受けたようなあの惨いオシオキが待っている、その事実だけでも気分が悪くなる。
どうしてこんな事になっているんだろうか。ほんのついさっきまで、楽しく過ごせていたのに。
「あ、いたいた。宮壁、これ。」
「難波…と前木?どうしたんだ?」
「何も持たずに出て行ったから、水分補給用にこれ……。」
と水筒を差し出してくれた。
「あ、一応2人で確認し合って用意してる。毒とかは入ってないから。」
「あ、ああ、そうだよな。そういう確認も、大事だよな。」
「後、これ。フライパンくらい持っておきなよ。なんかあった時のためにさ。」
「ごめんわざわざ。何も考えずに出て行ってた。」
どうにか笑顔を浮かべて受け取る。
「……宮壁くんが考えてる事は、皆考えてると思う。…悔しい、よね。」
前木はずっと泣いていたのだろう。目の赤みは引いていなかった。
「そうだ、今日は私、紫織ちゃんと一緒に寝るんだ。…寝られるか分からないけど。」
「そうなのか。うん、その方がいいと思う。」
「ま、そういう事だから宮壁も用心してがんばって。」
「ありがとう。じゃあ。」
「ん。」
2人は難波の部屋に帰っていった。その後篠田が勝卯木の部屋に入り、潜手を連れてそれぞれの部屋に戻る。潜手は思ったより長い間勝卯木の部屋にいたようだが、出てきた時にはもう涙は止まっていた。
その後晩御飯を終えた三笠も部屋に戻っていった。
えっと、後見ていないのは……。
「宮壁さん?」
声をかけられ、前を見ると柳原がいた。
「見張りなのに下ばかり見ていていいんですか?」
「ごめん。」
「えっと、おれに謝る事じゃないと思うんですけど…。」
「……俺は誰かのために動けていないなと思って、ちょっと落ち込んでただけだ。柳原の言う通り、見張りくらいは真面目にやらないとな。」
「おれも、誰かのためになんて動いてませんよ?」
「……えっと…。」
「宮壁さんのその言い方は、おれの事も非難しているように聞こえます。」
「ご、ごめん、そんなつもりじゃなかったんだ。それに、柳原はいろいろ勉強してるじゃないか。前の裁判だって、柳原に助けられた事がたくさんある。」
「おれ、役に立てたんですか?」
「もちろん。」
「…へへ、でも、おれも、宮壁さんには助けられているので!お互い様じゃないですか?宮壁さんだっていろいろできる事をしてくださっています!おれはそれで充分だと思いますよ。」
にこにこと笑顔を浮かべる柳原にお礼を言うと、きょとんとしていたけれど嬉しそうにしてくれた。
「じゃあ、おれはもう戻りますので!おやすみなさい!見張りがんばってくださいね!」
「おやすみ。」
うん、これで全員が部屋に戻ったな。
晩ご飯前に寝たのと緊張も相まって眠気は襲ってこなかった。冴えた目で見渡しながら1人でぼーっと時間が過ぎるのを待つ。3時になったら篠田と交代だ。シンと静まり返った廊下を見る。おそらく皆もう寝ているだろう。
「やあやあ、こんな夜中にご苦労様パオ!」
「……何しに来た。」
あれからしばらくして突然、共有棟に続く廊下と反対側にモノパオが現れた。
「いや?ちょっと参ったなと思ってね?こんな夜中にずっと見張られたらボクくんが食堂の物を補給するのが大変だなーって事だよっ!」
「毎日見張ってやろうか。」
「そんな事してたらいずれ食糧が尽きちゃうよ?」
「……。」
「もー!暇つぶしに付き合ってあげてるんじゃん!もっと楽しくおしゃべりしようよっ!」
「…お前は黒幕の方だな。」
「えーっ!なんで分かるの!?」
「喋り方で分かる。お前と話すくらいなら1人で過ごしてた方がいい。そもそも誰のせいでここで見張りをしなきゃいけなくなったと思ってるんだ。」
「え?安鐘サンのせいだよね?」
「……違う!そもそもお前が毒を渡さなければ…!」
「そもそも毒を欲しがるのが悪いよね?だって、ミンナは我慢してるよねっ?宮壁クンも叔父さんが死ぬまで日がなかったのに殺人は企もうとしなかったでしょ?安鐘サンはそれが我慢できなかったんだよ?仕方ないよね?悪いのは安鐘サンだよね?」
「……こんな状況を作ったお前が悪いんじゃないか!」
「もー、強情だなあ。じゃあ、ボクくんの次に悪いのは誰?安鐘サンだよね?」
「……!それは…。」
「安鐘サンに全く非がない訳じゃないよね?それに、勝卯木サンの前で安鐘サンを非難しないなんて、そんな事できる?美人だから庇おうとしてるのかなっ?」
「……。」
「ほらほら!言っちゃえば楽になるよっ!たぶん宮壁クンが今もやもやしてるのって、安鐘サンに鬱憤をぶつけてないからだよ?ほーらー!はーやーくー!いつまでそのお子様な正義を振りかざしてるの?ボクくん1人を悪役にしない方がいいよ?」
深呼吸をする。
「…悪いよ。安鐘のせいだよ。モノパオも悪いけど、安鐘がこんな事をしなければ勝卯木は死なずに済んだし、安鐘自身だって死なずに暮らせたんだ。」
「うんうん!」
「だけど、それをお前に言ったところで何の解決にもならない。俺は無意味な事を言うつもりなんてない。」
「……えー、おもしろくなさすぎ…。宮壁クン、よく今までKYとか言われずに過ごしてこれたね…。え、本当におもしろくない答えなんだけど…。ま、ボクくんから答える事は1つだけパオ。」
「現実は宮壁クンの思い通りになんてなってくれないパオ!『私』がそうはさせないからねっ!」
ふいに、後ろに気配を感じた。
頭に強い衝撃が走る。
誰だ?誰が俺を殴った?
それを確認するよりも早く、俺の意識は途絶えてしまった。
□□□□□
「死体が発見されました!ミンナいろいろバタバタして大変だと思うけど、食堂も大変な事になってるから急いでおいでよっ!」
……?
頭が痛い。後頭部を抑えながらゆっくりと体を起こす。
俺、確か、殴られて……。
「紫織ちゃん!宮壁くん『は』起きたよ!たぶん無事だと思う!」
「分かった!残りの皆に連絡してくるから、琴奈と瞳と東城は様子見てて!」
「宮壁くんおはよう。急いで難波さんの後をついて行ってくれるかな。」
……?
死体?
今、死体発見アナウンスが鳴ったのか?
東城達は俺には目もくれずに誰かの治療をしているようだ。
頭が回らない。
「三笠!三笠、しっかりしてくれ!」
篠田の聞いた事もないくらい大きな声に、俺の意識は覚醒した。
「え?三笠……?」
横のベッドには三笠が倒れていた。
口から血が溢れている。
「え、え?三笠?なんで、え?」
「三笠くん、ボクが分かる?」
東城の問いかけにも応じない。
薄く開かれた目は天井しか映していないようだった。
何が起きている?
「やだ、やだ、三笠くん、しっかりしてよ……!」
前木も泣きじゃくりながら三笠の口を拭っている。
「三笠、いつやられた!?何があった!?」
篠田の悲鳴にも近い声が俺の心拍を速めていく。
「三笠、おい、何があったんだよ。」
三笠は何も答えてくれない。時折大きく胸を動かして口から血を出す事しかしてくれない。
「三笠っ!!!!」
「………。」
三笠とは思えないほど弱りきった目は、俺の事も映してはくれなかった。
何かを言いかけては口から溢れる血が邪魔をする。
そのまま、三笠の目は、閉じられていった。
まばたきをしただけだと、そう信じたくても、いつまでたっても三笠の目は開かない。
「三笠…………っ!!!」
「やだ、待って三笠くん、なんで、待ってよ……。」
「いつだ?毒を摂取する場面はなかったはずだ。何があった?おかしい。何が起きている?」
ベッドの手すりに縋りつくように泣く篠田と涙をこぼしながら最後に口を拭う前木、初めて人間らしい表情でぶつぶつとつぶやく東城。
俺は放心していた。
ぼうっと立ったまま、思考が停止していた。
「……宮壁くん、難波さんの方に行ってもらえるかな。誰が死んでいるのか、確認してほしい。」
「それ、三笠の事じゃない、んだよな。」
「そうだよ。もう1人死んでいるらしいから。」
□□□□□
頭が痛い。口も渇く。
脚がもつれそうになる。走り方を忘れてしまったかのように、俺の脚はまともに動いてくれない。
心臓も肺も痛い。こんな嫌な気分になったのは初めてだろう。
息切れする。つらい。しんどい。
呼吸も忘れて、肩で息をしながらどうにか食堂に向かう。
「あ、宮壁さんー、無事だったんですーねー…!」
潜手が泣きながら俺の存在を確認してくれたおかげで、大渡と柳原もその場を避けてくれた。
難波と勝卯木が青ざめた顔で立ち尽くしているのも見えた。
「宮壁さん、昨日、何があったんですか…?」
「…ごめん、分からない。」
「そうですか……。」
柳原の心配そうな顔を見た後、その先に広がる光景を視界に入れた。
あまりにも、見違えていて、一瞬誰か分からなかった。
ただ、今まで、ここに来るまでに会っていない人は1人しかいない。
一体何があった?何を思ってここで命を落とした?
何を聞いても、今度こそ、彼女は何も答えてくれない。
体中を真っ赤に染められた安鐘の目は、もう開く事はないのだから。