ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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お久しぶりです!のんびりしていたら2ヶ月経っていてびっくり。

まだゆったり読める内容となっております。

3月中に1章完結を目指してここから更新速度を上げていけたらいいなと思います。
1章は大体書き進めているので後は細かい部分をしっかり詰めていければな…。


Chapter 1『ワースト・イズ・リアル』
(非)日常編 1


 

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「…それで、どう分けるんだ?」

 

俺の声かけに皆の目がこちらに向く。今いるのは…勝卯木、難波、前木、潜手、牧野、三笠、端部、柳原…あと俺か。

 

「適当でいいんじゃね?今立ってるところから近い人で3人ずつ。」

 

難波の提案により、難波、潜手、柳原と勝卯木、前木、三笠そして端部、牧野、俺になった。なんだか、不思議なメンツだな。

 

「ちぇー、男ばっかりじゃん。難波ちゃんケチ臭いなー。」

 

「それを考慮して提案したアタシを逆に褒めてほしいんですけど?じゃあ、柳原、めかぶ、さっさと行かね?」

 

「うわあ…!難波さんも頼りになりますね!かっこいいです!」

 

「ほんとでーすー!潜手めかぶも、頑張って役に立つですーよー!」

 

颯爽と立ち去る難波を柳原と潜手がキャッキャと追いかけながらホールから消えていった。

 

「ふむ、では自分達も行くとするか。」

 

「そうだね!…ら、蘭ちゃん?近いね…!?」

 

「……二人とも、いい人……嬉しい。」

 

勝卯木は前木の手を握った状態で三笠の方にも近づいていく。なんなんだ仲良すぎるだろ!

 

「……あの、チーム…やだ。」

 

「そうなのか?自分との違いが分からんが…。」

 

「男の子ばっかりは嫌って事?」

 

「……。」

 

勝卯木は首を横に振りながら困惑する三笠の背中を後ろから押すようにしながらそのまま歩いて行った。え、やだって言われたんだが。

 

「俺もあそこに交じりたかったなー。前木ちゃんの真後ろについていきたかった。」

 

「ま、牧野……さっきから、すごいね…。」

 

「勝卯木が嫌がってたの牧野がいるからだろ!」

 

思わず声に出ていた。いや出ない方がおかしい。

 

「まあ勝卯木ちゃんとは去年同じクラスだったからね。俺もあんまり好きじゃないし。」

 

「えっ、牧野に苦手な女子なんているんだな…。」

 

「そりゃあね。何考えてるか分かんないんだよ。無表情すぎて。」

 

意外と牧野って好き嫌いがあるのか…。思ったより面倒だな。

 

「今俺の事面倒だって思ったでしょ。」

 

ふと意識を前に向けると牧野がじとーっと俺を睨んでいた。

 

「な、なんでわかったんだよ。」

 

「俺の才能忘れた?メンタリスト!宮壁くらいなら何考えてるか大体顔に出るから分かるんだって。」

 

そういえばそうだった。てっきり超高校級の変態か何かかと。俺はそこまで感情豊かなわけじゃないけど、そこは流石といったところだ。

 

「だからコロシアイしようとか考えても分かるから。殺人なんて変な事、絶対しないでよね。」

 

牧野の目は本気だった。真剣に、牧野なりにコロシアイを起こさないようにしているんだ。だけどその目に妙な威圧感を感じて、思わずごくりと唾をのむ。それは端部も同じだった。正直そのくらい今の牧野は、怖い。

 

「ちょっとちょっとそんなに怖がらないでよ!俺のキャラは『明るくてハッピーなウェイ系おしゃれ男子』なんだからさ!」

 

変態もキャラであってほしかった。というかこれ、遠回しにキャラ作ってる事自白してるけどいいのか?

 

「誰か反応してくれる!?怖がらせてごめんって!というかそんな怖がらせる気なかったし!そこまではっきり分かるわけじゃないから安心してよ!さあさあ探索探索!」

 

「そ、そうだね…。」

 

「あ、ああ…。」

 

勝卯木の言う通りかもしれない。

このチームは嫌だ。

 

よし。気を取り直して探索しよう。さっき高堂が保健室を見つけていたし、手帳にマップがあるかもしれない。

手帳を起動させると『校則』アイコンの横に『マップ』と書かれたアイコンがあった。

 

 

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こう見ると広いな…。今いるのはイベントホールってところか。

他にもいろいろ部屋があるから適当に見ていくか。

 

 

とりあえず俺達は温室のあった建物の一階を見ることにした。温室につながるエレベーターの方まで戻り、短い渡り廊下を渡ったところの左手にある重厚な扉を開ける。

 

「ここが食堂、だね。」

 

「じゃあもうあの不味い草は食べなくていいんだな!?」

 

「宮壁今までで一番元気いいのウケるんだけど。」

 

うっ、思わずはしゃいでしまった。牧野に冷めた目で見られるなんて屈辱にも程がある。…端部も苦笑している。なんでだよ!

 

「に、苦かっただろ…?」

 

二人は揃ってにっこり微笑むと何も言わずに厨房の方へと歩いて行った。…頼むから急に意気投合しないでくれ。前木と勝卯木もだけどその急な距離の詰め方はなんなんだ。ついていけない。

 

「すっげー!めっちゃでかい肉がある!絶対高いやつじゃん!」

 

「…ホットプレートもあるね。いろいろ、作れそうだよ…!」

 

「冷蔵庫にも大量!食器の数も申し分なさそうだね!よし!探索終わり!」

 

「次は…横の部屋に、行ってみる…?」

 

「横ってなんだっけ?あ、倉庫って書いてある!」

 

「じゃあ、俺達は…倉庫に行ってくる、ね…。宮壁はどうして立ち尽くしてるの?大丈夫…?」

 

「宮壁なにやってんの?早くしなよー、じゃあね!」

 

「え、ああ、大丈夫だ…。」

 

ついていけなくなっていた間に二人は食堂から出て行った。

チームって、なんだっけ…。

 

もういい!1人で探索してやる!

その方が無理に会話しなくていいから楽だし!

 

食堂は15席のプラスチックの椅子に囲まれた大きい長方形のテーブルが1つ。学校によくある食堂、って感じの見た目だ。

 

厨房も給食室みたいな銀を基調としたよくある風景。その中でも目を引くのは冷蔵庫の数だ。5個もある。肉用と魚介類用の冷蔵庫は別にあり、中で霜降り肉や魚の鱗がキラキラと光っている。

 

「これなら当分食事の心配はしなくていいな。」

 

「当分どころじゃないパオ!」

 

「…首が戻ってる。」

 

「え、ええ~!?今のは普通急に出てきたボクくんに驚くところじゃないのっ!?」

 

モノパオが出てきた。とれたはずの首が治っている。相変わらず縫い目は歪だけど。

 

「先代のボクくんは使い物にならなくなったからね!ボクくんはモノパオ2世なのさ!あ、呼び方はモノパオのままでいいよっ!」

 

「で、食事の心配はいらないってどういう事だ?」

 

「ボクくんが定期的に食料を補充しに来るってことだよ!もちろん、ルートは秘密パオ!」

 

「そうか、分かった。」

 

「ひ、ひどいパオ!そんな冷たくあしらわなくてもいいのに!そんなだからぼっちになるんだよっ!」

 

「ぼっちなのとは関係ないだろ!」

 

もう嫌だ。早く誰かと合流しよう。コイツに関わるのは一番面倒だ。

 

ため息をつきながら廊下に出る。倉庫はあの2人が調べてくれるみたいだし、俺はこの棟から出てホールがあった方に向かってもいいかもしれない。そう思いながら廊下を見ると、トイレの前に前木と三笠が立っていた。俺に気づいた前木が話しかけてくる。

 

「あれ?宮壁くん、どうして1人なの?」

 

「そっちこそ、なんで2人で固まってるんだ?」

 

「蘭ちゃんがトイレに行ったから待ってるんだよ。…あ、出てきた!」

 

「では、ここからは4人で行くとするか。」

 

「三笠…ありがとう!」

 

三笠が俺に起きた出来事をなんとなく察してくれたらしい。なんていい人なんだ…!あとの2人も頷いて俺の参加を受け入れてくれた。ありがとう…ありがとう…!

 

「……トイレ、綺麗。…カメラ………ない。」

 

「む、そうなのか。それは安心だな。」

 

「よかった!トイレまで見られたらどうしようかと思ってたから…。」

 

監視カメラがない場所もあるらしい。流石にトイレまで見られたらプライバシーもへったくれもないからな。よかった。

 

「あれ?4人揃って何をしているの?」

 

げ、東城だ。東城は何やらガラクタのようなものを抱えている。

 

「東城こそ何してるんだよ…。」

 

「保健室にも行ったんだけど結局高堂さんと安鐘さんに追い出されちゃってね。ボクはさっき言った通り『コロシアイ対策』をしているところだよ。」

 

コロシアイ、という言葉に思わず固まる。今は何事もないようにふるまっていたけれど、まだ気持ちの整理がついていない人もたくさんいる。その証拠に前木は元気がなさそうに下を向いた。

 

「大丈夫、ボクはボクなりに対策をするつもりだし、そもそもここにいる皆がそんなことをする人じゃないって信じているから。あとは皆がボクの期待と信頼に応えてくれればいいだけだよ。」

 

つらつらと言葉を並べていく東城に勝卯木は眉間にしわを寄せて呟く。

 

「……東城、殺さない……確証…ない…。」

 

「うーん、そこは信じてもらうしかないよね。まあ、詳しくは対策が完成してから説明するよ。じゃあまた。」

 

そう言ってガラクタを抱えたまま倉庫やエレベーターがある方に向かって進んでいってしまった。一体何を作るつもりなんだ?

 

「あれ?東城って倉庫に行くのか…?」

 

「宮壁、倉庫に誰かいるのか?」

 

「ああ、牧野と端部がいる。」

 

「…お疲れ様、とだけ言っておこう。」

 

「本当にありがとう。」

 

どうやら完全に察したらしい。三笠は苦笑していた。

そのまま4人で食堂や倉庫があった棟から離れ、ホールのあった棟に移った。

 

「これ…個室だったんだな。」

 

モノパオに案内されながらホールに向かった時は緊張のあまり周りを見渡す事を疎かにしていたから気づかなかったけれど、思ったより広い。後ろを見ると『←共有棟 現在地…生活棟』と書かれている。つまり食堂、倉庫、エレベーターがあった棟は共有棟で、ホールのある棟は生活棟と呼べばいいのか。

 

「生活棟の方が広いしいろんな部屋がありそうだよね。一回自分の個室を見てみるのはどうかな?」

 

前木の提案により俺達は一度分かれてそれぞれの個室を見てみる事にした。

そういえばマップに拡大する場所があったな。そう思い立ってマップを開く。

 

 

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俺の部屋は共有棟から出て右に曲がった廊下の一番奥にあった。俺が壁際で一部屋挟んで隣が三笠。前木は大きい廊下に一番近いところで、勝卯木はその通りを挟んで前木の反対側の部屋らしい。

 

勝卯木は無言で前木のそばを離れると自分の扉に歩いて行った。俺達もそれぞれ自分の部屋の前に立つ。

「ミヤカベ」と書かれたプレートが付いている部屋を開け…あれ、開かない?

 

「呼ばれてないけどじゃじゃーん!モノパオくんだよ!」

 

俺と三笠の間にモノパオが割り込んできた。

 

「なぜ開かないのだ?」

 

「これは自分の電子生徒手帳がないと開かないんだよ!ここのパネルに手帳をかざすと開く仕組み!言ってしまえばオートロックってこと!だから絶対に手帳をなくさないでね?ボクくんとの約束パオ!」

 

「そうか。」

 

声がうるさいので適当に返事をする。三笠も前木も訝し気な目でモノパオを黙って見つめていた。

 

「だからなんでボクくんにはそんなに冷たいの!」

 

「優しくする理由が一切ないだろ。」

 

「あーー!言ったな!ボクくんに優しくしないといつか酷い目に合うんだからね!どうなっても知らないよ!」

 

「…次からは気をつける。」

 

嫌な予感がしたので渋々つけ足しておく。モノパオは俺の言葉を聞くと満足そうに胸を張った。

 

「聞き分けがよろしい生徒さん、ボクくんは大歓迎だよ!じゃ、ボクくんはやりたい事もあるんで消えまーす!バオバオ~!」

 

モノパオを怒らせるとまずそうだ…あからさまな態度を取るのはよくないな。

とりあえずパネルに手帳をかざす。ピッという音を聞いてドアノブを回すと難なく開いた。

 

「意外と普通の部屋だな…。」

 

これが第一印象。よくあるホテルにもう少し生活用品を足したような部屋だ。ソファと棚、ベッド、机、クローゼットがある。机にはある程度の文房具なども揃っているようだ。あれ?モニターって個室にもあるのか…最悪な気分だ。おまけにあの監視カメラもある。これじゃあ個室にいても外にいるのと変わらないようなものだ。

 

それとは他に扉を1つ見つけたので開けてみる。シャワールームだ。扉の内側に『夜時間は水が出ません』と書いてある。早めに洗っておいた方がよさそうだ。どうやら簡易的なアパートみたいな作りになっているらしい。

もう少し注意深く見ていくか。とりあえず机の引き出しを開けてみる。ん?これは…文房具が一式揃っているみたいだ。あとはノート。小さめだし一冊くらい持っておくか。

 

その隣の少し大きめの引き出しには2つの箱が入っていた。おそるおそる開けると簡単なドライバーやペンチ…これは工具か。もう1つの箱には待ち針などの裁縫道具が入っている。これがあればある程度の服のほつれは直せそうだ。

 

棚には法律関連の書籍がずらりと並んでいる。読んだ事のない本もいくつかあるし、優遇されていると言ってもいいほどの数だ。モノパオは一体何を企んでいるんだ…?

続いてクローゼットも開けてみる。

 

「うわっ、なんだこれ。」

 

今着ているものと同じ服がたくさんある。一応寝間着のような服もあるけど、それ以外は下着類も含めて全て同じだ。正直言って気味が悪い。

部屋はこのくらいでいいだろう。そろそろ出てみるか。

 

「おお、宮壁も終わったか。」

 

「三笠はどんな感じだった?」

 

「レジャー道具が一式揃っていた。あとはクローゼットやベッドなどがあったぞ。」

 

「ん?本棚とかはなかったのか?俺の部屋にはレジャー道具はなかった。」

 

「ふむ、なるほど。この様子だとどうやら各々の才能に沿ったものも置いてあるらしいな。」

 

「あ、2人とももう終わってたんだ!」

 

ふとその声に廊下の方に目をやると前木と勝卯木が並んで歩いてきた。

 

「次はどこに行く?」

 

「保健室はどうだろうか。篠田の様子も気になるからな。」

 

「……賛成。」

 

ということで保健室に向かうことになった。教室の中から声がしたからあそこは別の誰かが調べてくれているらしい。

 

「あら、4人も揃ってどうなさいましたか?」

 

「瞳ちゃんなら今は寝てるけど。」

 

安心感抜群の安鐘と高堂が迎えてくれた。壁際のベッドには篠田が横になっているのが見える。

 

「傷は大丈夫だったのか?」

 

「かすったくらいだったから。まあしばらくは痛むと思うけど。」

 

「そういえば東城くんが追い返されたって言ってたんだけど、本当に来たの?」

 

前木はそもそも東城が来たことも信じてなかったらしい。思わず苦笑してしまう。

 

「来ていましたわよ。篠田さんは寝ていらっしゃいますし、東城さんに任せたい事も特になかったので戻っていただいたのですわ。」

 

「それに。東城が呑気な顔してたから単純にちょっと腹が立った。」

 

「そ、そうなのか…。」

 

「変わったところ……ある…?」

 

勝卯木の質問に2人はしばらく顔を合わせる。

 

「そうですわ、変わった事でしたらこちらを見ていただけませんか?」

 

安鐘が指さした棚をよく見てみる。

 

「これ、毒か?」

 

「かなりたくさん常備されていますの。あ、今思いつきましたわ!東城さんに処分していただけないかしら!」

 

安鐘はパンと手をたたいて声をあげる。

 

「鈴華ちゃんの提案、私はいいと思う!」

 

前木も嬉しそうに頷く。

 

「東城さんは化学者ですから毒についても詳しいはずですわ!あら、ですがわたくし先ほど追い返してしまいました…。」

 

「あたしもすっかり忘れてた。あとで聞いてみよう。東城はコロシアイを起こさないようにする、なんて言ってたし手があればどうにかしてくれるかもしれない。」

 

こうやって皆ができることをしようとしてくれているのが嬉しかった。皆コロシアイなんて起こしたくないって思ってるんだ。俺も何か見つけたら対策を練ってみよう。

 

「そういえば、宮壁達は今何してるの?」

 

「ああ、とりあえずこの施設内を探索することになったんだ。でも人手は足りてるようだから2人は篠田を見ていてほしい。」

 

「そう。それなら任されておくね。あと、東城を見つけたら保健室に行ってほしいって伝えてもらえるかな。」

 

「分かった。」

 

 

保健室から出て俺はほっと胸をなでおろした。なにはともあれ篠田が重傷じゃなくてよかった。

さて、次はどこに行こうかと考えていると急に前木が驚いた声をあげた。

 

「ら、蘭ちゃんまたトイレ?」

 

「琴奈…トイレ……行く…一緒、いい……。」

 

「も、も~男の子がいる前でトイレに行くとか言わないでよ~!恥ずかしい…。」

 

「琴奈…トイレ……先…言った。」

 

「そ、それを言われると何も言えない…あ、み、宮壁くん三笠くん!私、ちょっと離れるね!」

 

俺達の視線に気づいたのか慌てふためいた様子で前木は駆け足でトイレに向かった。その後を勝卯木が無言でついていく。本当ぴったりついてるな…。

 

「前木には申し訳ない事をしてしまったな。勝卯木があまりにもトイレが近いから思わず見てしまった。」

 

そして三笠のこの反応。こうやってすぐに謝れるような人になりたいと切実に思った。俺的には勝卯木が前木のいないところにいるのが嫌なんだろうと思ったけど三笠は素直に受け止めたらしい。いやもし本当だとしたら近すぎないか?

 

「三笠、俺この先の玄関ホールってところに行ってみようと思うんだけどどうする?」

 

「お、そこは見ていなかったから同行させてもらおう。」

 

さっき皆が集まっていた場所はイベントホールという部屋らしい。あんな最悪なイベントを見せられた後だし、入りたいとも思わないな。イベントホールが共有棟の入り口のちょうど向かいにあり、玄関ホールはそこを右に曲がったところにある。イベントホールほどではないけれどなかなか重苦しい雰囲気の扉だ。

 

「これを開けば出られたり…はしないか。」

 

「それはさすがにないだろうが、何か手掛かりはつかめるかもしれぬぞ。」

 

わずかな期待を込めて扉を開く。

 

他の場所とは違ってコンクリートでできた壁と床。目の間にある一際大きな扉が出口なのだろう。

ここを開けば出られるのにしばらく開くことはないのだろうという威圧感を受ける。

それがとてつもなくもどかしい。

 

「これは開きそうにないな…。」

 

三笠も険しい顔で扉を見上げる。何せ扉にはいくつもの鍵と鎖、そして監視カメラの横に銃器のようなものが設置されていた。カメラの下の位置にはり紙がある。

『無理に鍵などを壊すと銃でうつパオ!』

 

なんとも腹立たしい書き方だ。

 

「おい宮壁、これ、なんだと思う?」

 

三笠の声に右を向くと人1人が通れるくらいの幅の小さめの…これ、ドアか?

 

「ドアノブがないな…自動ドアかもしれない。」

 

もしかしてこっちが本当の出口なのか…?

三笠と二人で爪を入れて横に引っ張ってみるが全く動く気配はしない。

 

「いててっ、爪が折れそうだ。」

 

「ここも諦めた方がいいだろうな。向こう側は見えないし完全に閉まっている。」

 

「そうだな、残念だ…。」

 

あとはその扉の横に空のクリアケースがあるくらいだ。

 

「もう出てもいい気がするな。これからどこに行こうか…。」

 

「自分は東城のところに行って伝言してこようと思う。宮壁は教室などは見ていないのだろう?その辺に行ってみたらどうだ?まあそこまで情報があったとは思えんが。」

 

「そうする。本当にありがとな!」

 

「はは、お互い様というやつだ。」

 

 

三笠と別れて俺は教室に向かった。教室は玄関ホールを出たすぐの右手に2部屋ある。左手にあるのはトイレだな。手前にあるのは「教室1」のようだ。

 

「うわ、本当に普通の教室だ。」

 

机と椅子が20個ずつくらいある。ここにいる人数より多いけど、一体何のために作られたんだ…?

相変わらず監視カメラやモニターがあるくらいで他にめぼしいものはなさそうだ。

 

 

「…というわけでアタシはそこから大脱出!レーザーなんてなんのその!」

 

「わはー!難波さんはあの『スピーダーマン』みたいにスルスル動けちゃうんですーねー!すごいでーす!」

 

「すごーい!さすがしおりん!美亜のメモがどんどんたまっていくよー!」

 

「あ!宮壁さんじゃないですか!どうして1人になってるんですか?迷子ですか?」

 

さっきからずっと話し声がしていた「教室2」に入ると案の定難波達がいた。柳原の声に他の3人も俺に気づいて声をかけてきた。ん?3人…?あ、桜井がいるのか。

 

「え?なに?またボッチじゃん宮壁!ウケるー!」

 

「はわわあー、宮壁さんの顔が渋くなってますーよー?もしかしたら迷子じゃないのかもでーすねー!」

 

「当たり前だろ!電子生徒手帳に地図があるから流石に迷わないぞ!」

 

「じゃあなんでボッチなのー?」

 

「あのメンツで察してくれないか…?」

 

きょとんとしている桜井の横で察しがついたらしい難波は冷静に答える。

 

「そこを意地でも捕まえておかなきゃ友達なんてできねーと思うけど?」

 

うっ、それは正論だ…あの2人の後を追いかけて倉庫に行けばよかっただけの話だもんな。

俺が上の空になっているといつの間にか難波が目の前に来ていた。俺の耳元に口を近づける…。

 

「あのね、アタシもこう見えて疲れてるから。」

 

難波がびっくりするぐらい小声だったので俺の声もつられて小さくなる。

 

「そうなのか?」

 

「美亜が来てからずっと、アタシ自分の武勇伝語ってんのよ?めかぶも柳原も楽しそうに聞いてくれるから、最初思いっきり動きまでつけちゃってさ。だんだん疲れてきたけど急に動きなしになるのもかわいそうじゃね?正直宮壁が来てくれてめっちゃ安心した。」

 

「難波…!お前もお疲れ様…!」

 

「嬉しそうにしないでくんない?面倒事から逃げてるアンタとは疲れ具合が違うんだけど。」

 

「ごめん。」

 

一気に難波の目つきが鋭くなったのですぐに謝った。確かにその通りだからな…。

 

「わー!いきなり耳にキスだなんてしおりんったら大胆だね!ショタじゃなくてもいいんだ!」

 

桜井の声に恐ろしいくらい一瞬で距離がひらいた。正直その勘違いは俺も恥ずかしい。

 

「誰がいきなり宮壁の耳にキスなんかするわけ?お金もらってもやりたくないわ。」

 

ちょ、さすがにそこまで言わなくてもいいじゃないか!

 

「宮壁もなんか勘違いしてるみたいだけどさ、アタシが嫌なのはほぼ初対面だからって話。」

 

「あ、ああ…そういう事か。」

 

「全く、こんなことでショック受けてどうすんのよ。」

 

呆れたようにため息をつく難波の横で柳原が首をかしげる。

 

「あの…『きす』ってなんですか?」

 

「え、柳原…知らないのか?」

 

「あ、ごめんなさい!常識でしたか?」

 

この反応から見るに本当に知らないようだ。高校生なのにそんな事があるのか…?

 

「キスはですねー、簡単に言うと唇で相手に触れることで-すよー!もしくはー、お魚さんの名前ですーねー!」

 

「えっと、それでは、耳にキスするって言うのは、唇を耳に当てるって事なんですね!」

 

「ですでーすー!」

 

「へえ…あれが、そうなんですね…。おれは宮壁さんと難波さんがキスするの、いいと思いますよ!」

 

「おー!ここに新たなCPが爆誕したってことだねー!2人とも安心して!これは同人だよー!」

 

「わひゃー!おめでとうございまーすー!」

 

「これアタシどうしたらいい?」

 

げんなりした様子の難波を見ながら俺もかなり疲れを感じていた。この3人相手にずっと喋っていた難波はすごいと思う。

なんて考えているとふと聞きたい事があったのを思い出した。

 

「桜井、大渡はどうしたんだ?」

 

「ん?わたりんはねー、ずっとわたりんの部屋の前で美亜とおしゃべりしてたんだけど、いよいよキレそうになってたから離れたんだよ!あの顔は怖かったよ、なまはげと般若を足したような顔だったー!」

 

それを大渡に言っていたら間違いなくキレてただろうな…。桜井が無事でよかった。

 

一段落ついたので改めて教室内を見渡す。教室自体は「教室1」とあまり変わらないようだ。あるとすれば掃除用具入れという紙が貼られたロッカーが後ろにあるくらいか。三笠の言う通り特に手掛かりはないみたいだ。

 

「じゃあ俺、別のところに行こうかな…。」

 

「待って宮壁、アタシも行く。」

 

難波は素早くドアの前に移動した。相当出たいらしい。

 

「えーしおりん行っちゃうのー?じゃあ次はやなぎいがお話してー!」

 

「おれでよければ…うーん、投資の話しかできないんですけど…。」

 

3人はまたおしゃべりを始めた。ついていくとか言われなくてよかった…。ずっとあのテンションだとかなり疲れる。きっとあの2人は柳原の話で寝るんだろうな。特に潜手。

 

「あー!疲れたー!楽しかったけど疲れた!」

 

教室を出た途端難波は大きく伸びをした。

 

「で、宮壁はどこ行こうとしてんの?」

 

「ああ、倉庫の方に。ちょっと東城が何かするらしくてな…。」

 

「は?ゆうまきゅんが?何するか聞いた?」

 

…その変な呼び方には絶対つっこまないからな。

 

「コロシアイの対策をするとか言ってた。」

 

「ふーん、ゆうまきゅんなりに止めようとしてんのかな。瞳に怪我させといて何言ってんだって感じだけど。」

 

「同感だな。」

 

そう適当な話をしながら共有棟に入る。

 

「あ!宮壁じゃん!結局女子との方がよかったって事?全く宮壁も男子だなー。」

 

「ご、ごめんね、置いていっちゃって…まさか来ないとは思わなかったから…。」

 

「端部は謝らなくていいから!」

 

「え、俺は謝らなきゃいけないの?おかしくない?」

 

「そんな事一言も言ってない!」

 

牧野と端部に合流した。まだいるなんて思わなかったな。端部はサッカーボールを抱えている。嬉しそうだ。

 

「なんか普通のサッカーボールより柔らかい気がするけど、十分強度もあるし立派なボールだよ…!よかった…。」

 

「モノパオの顔がプリントされてるのだけが欠点だよね。ほんと趣味が悪いな~。」

 

「つかアンタらずっと倉庫にいたの?宮壁と食堂は見たんでしょ?進展なさすぎじゃね?」

 

難波も怪訝に思ったのか牧野に問い詰める。

 

「いやいやそんなすぐに探索終われないくらい広かったんだって!しかも途中東城がやってきてなんかごちゃごちゃし始めるしさあ…。」

 

「あ、そういえば、宮壁にも見てほしいって東城が言ってた…。」

 

「ああ、言ってたねそんな事。端部よく覚えてるね!」

 

「牧野が覚えるようとしなさすぎるだけなんじゃないかな…。まだいろいろやってたから見てきたらいいと思うよ…。今さっきまで俺達も手伝わされてたんだ。」

 

端部は困ったように笑うと倉庫の方を指さした。見たらわかるって事か。

難波も見たいと言うので2人で倉庫に向かう。

 

 

「あれ、2人揃ってどうしたの?」

 

「いやこっちのセリフなんだけど。東城きゅんはこの一角を完全に封鎖するつもり?」

 

「正直一角というよりほぼ全部だけどな…これ…。」

 

結論からいうと東城は凶器になりそうなものを全て倉庫の奥に集め、そこに入れないように不気味な装置を作っていた。

 

「…ん?東城きゅん、それ、包丁?」

 

「そうだよ。包丁なんてものを外に出しておくのは危険すぎるからね。」

 

「いやちょっと待て!これからしばらくここで生活するんだろ?それなのに包丁がなかったら料理に作るときに不便じゃないか?」

 

「包丁を使わなくて済むような料理を作ればいいと思うけど。」

 

「それはさすがに…。」

 

困惑する俺の横から真剣な顔をして難波が口を挟む。

 

「東城、アンタが何を思ってここまでコロシアイに対して必死になってるのか知らないけどさ、そこまで頑張ったところで起きるときは起きるよ。」

 

「…え?」

 

難波が口にしたのは、俺の想像していた言葉とほぼ正反対の言葉だった。東城も不審そうに難波を見上げる。

 

「よく考えてみなよ。凶器なんてなくたって手で首を絞めたり顔を何度も殴ったりすれば人は殺せる。それじゃなくても、日用品で凶器になりうるものなんて数えだしたらキリなんてねーの。アタシが言いたいのは、ある程度は信じるしかないってこと。」

 

「つまり難波さんは、包丁は厨房に戻してこいって言いたいのかな?」

 

「そういう事。包丁くらいは見逃さないと、それが隠されてるって事が余計にコロシアイっていう状況を彷彿とさせるんじゃないかってアタシは思うわけよ。」

 

「…そうか、そういう考えもあるという事だね。参考にさせてもらうよ、ありがとう。」

 

「どーいたしまして。」

 

険悪なのか和やかなのか、微妙な沈黙が流れる。難波の言葉を聞いてから倉庫の奥を見ると、どう考えても今後必要になりそうなものもいくつかしまわれてしまっている。

 

「そうだ、包丁はともかく、たまに必要になるかもしれない凶器はここに入れておくとして、封鎖してしまうんじゃなくって必要に応じて取り出せるようにすればいいんじゃないか?」

 

「うん、確かにその方がいいかもれないね。ありがとう宮壁くんと難波さん。」

 

「本当に微妙なラインを作ってくるなー!腹立たしいパオ!」

 

「うぎゃっ!?急に出てくるなよ!」

 

突然横に現れたから変な声を出してしまった。なんなんだ全く!

 

「はぁ…、悲しいから愚痴でもしゃべらせてよ!あのね、もし完全に取り出せないように封鎖してたらそれは『欠品』っていう扱いになるから元の場所に新たに補充するつもりだったの!それで東城クンが嘆き悲しむ顔でも拝んでやろうと思ったのに宮壁クンが余計な事言うから!けちけち!」

 

言いたい事を言い終えたのか俺達の反応は聞かずに消えてしまった。

 

「宮壁のファインプレーだったってこと?いいじゃんいいじゃん、そうしよ。」

 

「包丁は2本だけ厨房に返すことにするよ。他はここに閉まっておく。もちろん、簡単には取り出せないようにするから完成したら見ておいてよ。ボク以外数人には取り出し方も教えるけど、誰に教えるかはボクの独断で決めさせてもらう。それでいいかな?」

 

「問題ない。東城もありがとな。」

 

「お礼を言われるような事ではないけれどね。」

 

そのまま立ち去ろうとしたが1つ思い出したことがあった。

 

「あれ、東城、三笠がこっちに来なかったか?お前に伝言をしに行ったはずなんだけど。」

 

「ああ、三笠くんなら来たよ。とりあえずこれが終わってから行くと伝えておいた。」

 

倉庫の中もいろいろ見て回ったけど品数が本当に多い。ジャージやタオルなどの日用品から遊び道具まで…なんでも揃っている感じだ。何か欲しいものがあればここに来てもいいだろうな。

 

「じゃあアタシは向こう戻るわ。東城きゅんファイト!頑張るショタに幸あれ!」

 

急にぶりっ子みたいな声を出しながら難波は帰っていった。…俺も戻るか。

もう全て見て回っただろうしこのまま食堂に行くことにした。

 

 

「わー!高堂ちゃん久しぶり!会いたかったよ!!」

 

「琴奈ちゃんおつかれ。」

 

「ひ、光ちゃんこそお疲れ様!瞳ちゃんは大丈夫なの?」

 

「今鈴華ちゃんが残ってくれてる。あたしは状況を聞きにきたってところかな。」

 

高堂にガン無視されている牧野はおいておこう。今は…東城、篠田、安鐘、大渡以外はいるようだ。

一応情報共有はしたけれど、俺は全て回ったから知っていたし、これといって新しい情報はなかった。

 

「まだ探索してないところで気になるのは二部屋くらい行けない部屋があったのと、1つ空いた個室があったのと、二階への階段は封鎖されてたって事くらい?マジでここ広すぎじゃね?歩くだけでだいぶ時間かかるんだけど。」

 

難波が呆れたようにしゃべる中、勝卯木がおずおずと手をあげた。

 

「……エレベーター…地下…上の階……両方あった…。」

 

「共有棟の方もまだまだ探索できない場所があるという事か。現状いま行ける範囲に出口はなかった、という事しか分かっておらぬな。」

 

三笠も腕組みをして唸る。

皆浮かない顔をするのかと思えば思ったよりなんてことはなさそうで驚いてしまうな。

 

すると桜井がぴょんぴょんと飛び跳ねながらパンの入ったカゴを持ってきた。

 

「あ、そうだ!皆はもう部屋に戻ると思うんだけど、美亜は菓子パンを見つけたからとりあえず今日はこれを食べたらいいと思うよ!それでね、明日からどうするのか聞きたいなー!」

 

「確かに…朝ごはんとかも、作らなきゃいけないよね…。俺は朝早くから起きれるけど…。」

 

「うーん、早く起きれた人で作る、とかじゃダメかな?ほら、自分の家じゃないし早く起きれない人とか、その逆もいると思うんだ。」

 

結果、前木の提案によりとりあえず明日早く起きた人に任せる事にした。

…これ、皆朝ごはんを作るのが面倒で誰も起きてこないなんて事はないよな…?

 

「ほよー!潛手めかぶの好きなクリームパンがありますー!」

 

「うわあ…!おれ、こんな豪華なパン、見たことがありません!チョコが入っています!」

 

柳原はチョココロネを手に取り穴に入ったチョコを覗き込んでいる。

皆思い思いのパンとお茶やジュースを手に取り、今日はとりあえず解散という事になった。

 

 

 

 

 

 

「そうだ、宮壁、聞きたい事あるんだけど。」

 

個室に戻ろうとしたところで牧野に声をかけられた。

 

「どうした?」

 

 

「悪魔ってお前?」

 

 

「…は?」

 

え、何がどうしてそんな事になったんだ?だけど、牧野の顔は冗談を言っているような顔じゃなかった。

それでも身に覚えは一切ない。しばらく沈黙が続くと牧野は急に笑い始めた。

 

「あーあ、これは違う反応じゃん!残念。」

 

「え、えっと、どういう事だ…?」

 

「全員にカマかけてみようかと思って。怪しい反応した人がいれば調べていけばいいわけだし、その結果本当に悪魔ならその人を殺せば他の皆は出られるんでしょ?ならやらない手はないかなって。」

 

「牧野は、悪魔を殺すつもりなのか?」

 

「悪魔じゃない被害者が出るよりかはマシだと思うけど。もちろん、悪魔が誰かにもよるけどね。」

 

「そ、そう…だな…。」

 

「じゃ、俺は疲れたから寝まーす!宮壁も鍵はちゃんとかけようね!おやすみー!」

 

 

俺が何か返す前に牧野はドアを閉めてしまった。

俺はそのまま自分の部屋に入り、ベッドに転がった。

 

思ったより皆が、いろいろ考えている。

 

 

…どうしたらいい?すごく嫌な予感がする。

もしかすると、本当に誰か死んでしまうんじゃないか?

 

今は何も起きない事を信じるしかないけれど、とてつもなく怖い。

 

いや、信じよう。

 

何を信じればコロシアイなんてものが起きずにすむのか分からないけど、とにかく信じるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

これが、長すぎるコロシアイ生活の、最初の夜だった。

 

 

 


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