ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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裁判がやっと終わる回です。
伏線らしい伏線をもっとしっかり張るべきだったなと反省。


「非」日常編 2

 

モノパオの木槌の音が聞こえても、数秒、誰も話さなかった。

全員の緊張がこの裁判場を支配していた。

 

宮壁「……。」

 

柳原「なんだか、減りましたね。人。」

 

潛手と勝卯木が死んで、ここにいるのはたったの7人。

真実がこの中に隠れているんだ、気を引き締めないと。

 

モノパオ「ちょっとちょっと!何ボーっとしてるのさ!話してくれないと投票に移っちゃうよ!」

 

難波「……だそうだけど、何から話す?」

 

前木「えっと…とりあえず、めかぶちゃんの事を話せばいいんじゃないかな?」

 

篠田「そうだな。捜査で分かっている事も多い。きっと何か突破口が見えてくるだろう。」

 

有無を言わせない迫力で裁判場を睨みつけると、篠田はモノパオファイルを開いた。

 

篠田「めかぶは毒殺された。そこに間違いはない。そうだったな、東城。」

 

東城「そうだよ。潛手さんの死因、そしてそれに使われた毒はすぐに理解できるだろうね。」

 

篠田「分かった。改めて説明を頼む。」

 

東城が再びバインダーを取り出す。

絶対に間違えてはいけない。そんな緊張が背を伝うのを振り払い、裁判席の手すりを握りしめる。今度こそ、正解に近づかなくては……!

 

 

―議論開始―

 

東城「潛手さんは毒殺。そして死亡時刻も知っての通りだ。」

 

東城「潛手さんは【吐血していた】。症状として現時点で確実なのはこれだけだよ。」

 

難波「あの体調不良がなんとか…ってのは確実じゃねーの?」

 

東城「三笠くんみたいに相談を受けた訳でもなく、あくまで傍から見ただけだからね。ボクの口からは確実とは言えない。」

 

大渡「チッ、使えねー奴。」

 

前木「慎重なのはいい事だと思うよ…?」

 

東城「……。とはいえ、彼女には【三笠くんの時には見られなかったもの】がある。」

 

柳原「潛手さんだけに見つかったもの。あれの事ですね!」

 

 

…いや、柳原がそのまま言えよ!仕方ないので俺から説明しておこう。

 

 

 

 

▼[検視結果](同意)→【三笠くんの時には見られなかったもの】

宮壁「これだな。」

 

 

宮壁「潛手の口内にブルーライトによる反応が会った事。これが三笠とは違う点だったな。」

 

前木「ブルーライトで毒の種類が分かるんだよね。」

 

東城「そうだよ。大渡くんの指も同じく反応があるからその毒と推測できる。」

 

難波「……東城、大渡の指、ブルーライトで照らしてみてよ。アタシ実際には見てないし。」

 

東城「?分かった。」

 

大渡「あ?何の意味がある。」

 

東城は言われるがまま、大渡に指を出させるとライトを当てる。俺との捜査中に黒くなってしまった指が青白く光った。

 

難波「……ぶふっ。」

 

東城「それで、何か判明した事でもあるのかな。」

 

難波「ウケる。」

 

東城「は?」

 

東城が訝し気な顔をすると同時に、大渡が機嫌を損ねてしまった。……難波の発言は場違いだけどいい緊張の緩和にはなったかもしれないし、実際指先だけが発光してるのってめちゃくちゃおもしろいんだよな。

 

難波「大渡が推理と関係ない話しかしねーからお灸据えてやってんだけど。」

 

大渡「……ほんとうぜぇ。」

 

難波「それ!それやめろって言ってんだよ!」

 

裁判場が騒がしくなってきたのを見かねて篠田が口を挟む。

 

篠田「……そろそろ次の話題に移っていいか?」

 

難波「はい。」

 

大渡「……チッ。」

 

前木「そうだ!ブルーライトで思い出したけど、『あの証拠』も、このブルーライトに関係があるよね。」

 

東城「このブルーライト反応があったもの。確かにいろいろあったね。」

 

難波「お、ブルーライト反応が起きた毒が分かれば、いろいろ推理も捗りそうじゃん。」

 

前木の言っている証拠ってあの事だよな。

ブルーライト反応があった毒を示す証拠は……。

 

 

―コトダマ提示―

 

 

 

 

 

▼[特製の毒(液体)]

宮壁「これの事だな。」

 

 

前木「そう!」

 

宮壁「使われた痕跡のある毒の内、液体の特製の毒にのみブルーライトによる反応があったんだ。潛手に使われた毒はこれで間違いないと言えるんじゃないか?」

 

東城「ボクもそう考えているよ。そして、もう1つ液体の毒と粉末の毒の違いについて説明しよう。」

 

東城「三笠くんや黒幕に使われた粉末タイプとは違って、こちらは効果が出るまでの時間が半日~1日とかなり短い。潛手さんに毒が使われた時間を絞る事もある程度可能だ。次は彼女が毒を服用したと考えられる時間について解明していきたい。」

 

柳原「うわぁ……!東城さん、淡々としていてかっこいいです!おれも賛成です!」

 

潛手がいつ毒を摂取してしまったのか。これが分かれば犯人の候補も一気に絞られていきそうだな。

 

―議論開始―

 

難波「めかぶが今から1日以内に口にしたものを考えればいいって事?」

 

東城「とはいえ、あの毒は使用量が増えれば増えるほど死ぬまでの時間が短くなる。1日以内と考えてしまうと【少し範囲が広すぎる】。」

 

柳原「でも、そんなにたくさん食べちゃうと潛手さんも【変だって気づく】んじゃないですか?液体ならなおさらです。おれ、使用量は大した事ないんじゃないかな、と思っていますけど……。」

 

難波「じゃあ半日だと短すぎ?てか、そもそも【使用量なんて誰も知らない】し、できるだけ長い時間で考えてみるのがいいと思うけど。」

 

前木「じゃあ、このまま話を進めて行っていいのかな?」

 

柳原「おれは異論ないです!」

 

難波「アタシも。」

 

……いい、はずだ。ここに矛盾なんて……

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

『支援』

▼[特製の毒(液体):追記]→【変だって気づく】

篠田「その矛盾、逃がさない。」

 

 

柳原「え?」

 

篠田「柳原、そうとも言い切れない可能性があるのだ。」

 

宮壁「そうなのか?」

 

篠田「……宮壁、東城、前木。お前達は先ほど私と一緒に武器庫で毒の説明について確認をしただろう。何故忘れている。」

 

宮壁「えっと……」

 

1回見ていたからラベルを全部読み返しては見ていなかった、なんて言えない……。

 

篠田「これは特製の毒のラベル……液体の方に書かれていたものだ。」

 

♢♢♢

『特製の毒B

無色無臭な液体。

水の代わりにできるので飲み物に混ぜて使おう!

致死量を摂取した場合は治療できず、大体半日~1日後に死ぬ。

症状はふらつきと吐血。場合によっては体調不良が続く事もある。』

♢♢♢

 

篠田「水の代わりにできる、という事はこの毒は無色無臭なのに加え、味も無いという事だろう?」

 

宮壁「!」

 

前木「そっか。この毒は肌に触れると黒くなる事以外には気づきようがないって事だよね。忘れてたよ、ごめんなさい…。」

 

篠田「かまわない。」

 

柳原「なるほど。でも、そうなると潛手さんがいつ毒を飲んだのかはいよいよ分からなくないですか?」

 

篠田「分からなくとも怪しいところがあるかもしれない。念のためだ。覚えている限りの事は話し合おう。」

 

潛手が毒を飲んだと考えられるのは大体半日から1日。この間の潛手の行動を全て振り返ってみよう。事件が発覚したのは朝。今は昼ご飯を食べ終わった後だから、大体昨日の昼頃から考えればいいはずだ。

 

 

―議論開始―

 

篠田「昼はめかぶや三笠と共にしていた。本人が作っていたから心配はしていない。」

 

東城「その後に黒幕が毒を食べたから、ボクと前木さんは黒幕の事を看ていた。他の人達の動向については詳しくない。」

 

難波「アタシはその間ずっと見張りだったから、同じく知らない。」

 

篠田「……めかぶは全員の夜ご飯も作った。夜ご飯にも毒はないだろう。」

 

柳原「その後はおれや篠田さん達と一緒にいましたが、何も食べたり飲んだりはしていませんでしたよ!」

 

前木「私達がご飯を食べた後、めかぶちゃんは…蘭ちゃんの部屋に行ったんだっけ?宮壁くんと一緒にって言ってたよね?」

 

宮壁「ああ。だけど2人で泣いていたから、俺は後にして難波の待つ安鐘の部屋に行ったんだ。」

 

宮壁「……。」

 

篠田「……?」

 

 

 

 

 

 

 

…………あ。

 

 

 

あの時は、何も思わなかったから『あの部屋で2人にした』。

今、考え直すと、俺は……『あの部屋で潛手を黒幕と2人きりにしてしまった』?

 

他に怪しいところは、ない。

 

 

♢♢

♢♢♢

3章(非)日常編3

♢♢♢

 

 

「…怖い……!」

 

 

そう呟きながら、声を押し殺すように涙を流す勝卯木を見て、潜手も声を上げて泣き始めた。

 

……とりあえず、難波のところに向かおう。

俺は何も言わずにその場を後にした。

 

 

(中略)

 

 

「ま、そういう事だから宮壁も用心してがんばって。」

 

「ありがとう。じゃあ。」

 

「ん。」

 

2人は難波の部屋に帰っていった。その後篠田が勝卯木の部屋に入り、潜手を連れてそれぞれの部屋に戻る。潜手は思ったより長い間勝卯木の部屋にいたようだが、出てきた時にはもう涙は止まっていた。

 

 

♢♢♢

♢♢

 

 

柳原「……宮壁さん?」

 

宮壁「俺は……。」

 

篠田「めかぶは私が迎えに行った時、『食欲のない勝卯木の代わりに残りのご飯を食べた』と言っていた。めかぶが部屋に入ったタイミングは勝卯木に食事が渡った後だろう。」

 

難波「は、え、じゃあ、」

 

宮壁「………………。」

 

俺が殴られる直前に聞いた、モノパオの声がよみがえる。

 

(「現実は宮壁クンの思い通りになんてなってくれないパオ!『私』がそうはさせないからねっ!」)

 

 

…………あの時点で、勝卯木はやりたい事を終えた後だったんだ。

 

 

東城「全員、黒幕に殺されたという事だね。」

 

目の裏が揺れるような、乗り物酔いした状態でエレベーターに乗っているような、不安定な何かが体を襲う。立っていられなかった。吐き気とかそんなレベルじゃなく、意味の分からない感覚に崩れ落ちる。

前木が駈け寄ってきてくれたような気がするし、柳原が声をかけてくれたような気がするし、難波が手を引っ張り上げてくれたような気がするけれど、誰が誰か、あまり認識できなかった。

だってそれじゃあ、俺は、俺がやった事は……。

 

黒幕を助けたようなものだ。

 

黒幕の計画の、決定的なレバーを引いたのは、俺だった。

 

これが、黒幕が明かそうとしていた真実だっていうのか?

 

意識が遠くなっていく。

俺はこの真実にショックを受けて気絶するらしい。情けない。

最後にできたのは、そんな冷静な自己分析だった。

 

 

 

××××××××××××

××××××××××××

 

この感覚を、知っている。

 

自分がそこに立っている自信すらなくなるような。

ここにいる全員で息を止めたくなるような。

足元が崩れて、空が丸ごと落ちてくるような。

 

この【絶望感】を、俺は知っている。

 

「…………」

 

「…………」

 

そしてその度に俺は。

自分に、自分の周りに、真実に、環境に。全てに、絶望する度に…………。

 

助けてもらっていたはずだ。

 

それは希望ではなかった。

希望か絶望か、正義か悪かでいうとそれは、絶望であり悪なのかもしれない。

だけど俺にとっては、希望のようなものだった。

希望のような、だけどそれは、希望とは別物の。

そんな何かだ。

 

××××××××××××

××××××××××××

 

 

 

前木「宮壁くん、宮壁くん!」

 

柳原「どうしちゃったんですか、宮壁さん!」

 

皆の声に目が覚める。

やけに頭がすっきりしていて、視界もクリアだ。

体中の不純物が落ちたような清々しい気持ちになっている。

 

篠田「……大方、ショックでも受けたのだろう。」

 

宮壁「心配かけてごめん。少しふらついただけだ。」

 

大渡「……?」

 

篠田「……。」

 

たぶんいつもなら篠田に何も言えないところだろうけど、今の俺は不思議なくらい平然と受け答えが出来た。篠田が俺に送る目線はほとんど敵に対するようなものだったけど、それも当然だし気にしてはいけないだろう。

 

難波「いや、マジで大丈夫?」

 

宮壁「ああ。難波もありがとう。」

 

難波「え、ああ。うん。」

 

前木「ほんとに?」

 

宮壁「ショックを受けたのも本当だし、意識が朦朧としたのも本当だ。だけど、もう大丈夫。」

 

前木「そっか。それならよかったけど……。」

 

篠田「その前に言う事があるだろう。」

 

宮壁「……ごめん。」

 

篠田「宮壁はクロとめかぶを放置した。あのタイミングでしか毒を飲めたと考えられない。お前が最後までめかぶについていてやれば!」

 

難波「そ、そうだけど。瞳、アンタは落ち着いた方がいいって。」

 

篠田「……落ち着いている。」

 

難波「いや落ち着いてねーから。そもそもあの時は誰も真相に気づいてなかった。それを察知して、一緒にいてやれっていうのは無茶ぶりだと思うけど。」

 

篠田「……。」

 

東城「そうだね。ボクも宮壁くんに非があるとは思えない。」

 

篠田「……すまない。」

 

宮壁「いや、いいんだ。俺もそう思ってる。」

 

俺だって、後悔している。だけど……

この事件の暴かなくてはならない真実は、これだけじゃない。

 

宮壁「次は、黒幕の仕組んでいた『本当の計画』について考え直していく。」

 

柳原「え?今の話だと、勝卯木さんが3人とも殺したクロだと分かったから、それで終わりじゃないんですか?」

 

宮壁「俺は違うと思っている。黒幕はこう言っていたからだ。」

 

♢♢

♢♢♢

3章非日常編3

♢♢♢

 

「……分かった。話すからそんなに怒らないで?私が2人を狙う計画を作ったのは単純な話で、『2人がいい人だったから』だよ。」

 

「は?」

 

思わず口から間抜けな声が漏れる。

 

「ん、え……?いい人だからって、どういう事ですーかー……?」

 

「そのままだよ。2人とも、とってもいい人でしょ?いつもミンナの事を考えて気にかけて、支えて、励まして……。そういう人達ってさ、いい人すぎて、『コロシアイの邪魔』なんだよね。そんないい人がいたら、ミンナ自分で考えて悩んで成長する事をやめてしまう。何かあったら2人に相談しようってなる。それじゃあコロシアイの意味がないもん。」

 

「そんな理由……冗談、だよね?」

 

「も~!冗談を言ってる顔に見えるの?ひどいよことなちゃん!黒幕として話してる今は嘘なんてつかないよ!」

 

(中略)

 

 

コロシアイの邪魔。

 

 

……そんな理由で、俺達の大切な仲間が殺された。

2人とも、いい人だけど完璧な人間って訳じゃなかった。

勝卯木を黒幕だと思って犯行に及んだ安鐘も、仲間を助けられなかった事を悔やんで嘆く三笠も、自分なりに必死だっただけなのに。決して悩みがない人達じゃなかったのに。2人と過ごした時間が脳裏によみがえる。

そんな2人がこれほど理不尽な理由で殺されたなんて、納得できなかった。

 

「……本当にその理由が正しいのか?それだけなのか?」

 

「ひとみちゃん、顔が本当に怖いよ!もう何も隠してません!たぶん!いや、言い方にも気をつけてるし、間違いは言ってないよ!それは誓うから許してっ!」

 

 

♢♢♢

♢♢

 

柳原「……なるほど。計画に入っているのが『2人』と明言されているにも関わらず3人殺されていますから、まだ計画が分かったとは言えないって言いたいんですね。」

 

宮壁「そういう事だ。」

 

柳原「でも、それって話す必要がありますか?安鐘さんと三笠さんを殺したのが勝卯木さんだと判明した上に、潛手さんも勝卯木さんが殺したと言い切れる。潛手さんはそのタイミングさえなければ死ぬ事はなかった訳ですし、突発的な犯行であって計画の内には入っていないという事かもしれないですよ?」

 

東城「ボクも柳原くんと同意見だね。そもそも、あの黒幕の事だから言い間違えていただけの可能性も十分ある。」

 

前木「うん、私も変だとは思わないかな……。嘘はついてない、とは言ってたけど、計画に入っていなかったら実際に嘘は言ってない事になるもんね。」

 

宮壁「……さっきの黒幕の発言で俺がおかしいと思ったのは2点。1つ目は、『殺した計画とは言わず、狙った計画という言い方をしている』という事。そして2つ目は、『誰を狙った計画なのか、黒幕本人は一度も口にしていない』という事。」

 

難波「え、言われてみればマジだ。」

 

宮壁「そして、そこに疑問を抱いた状態であの発言をもう一度考えてくれ。計画に含まれる『条件』に、潛手はかなり合致するんじゃないか?」

 

篠田「条件。『皆の事を気にかけ、支え、励ます人』。たしかに、あの時点で殺人を犯した事が判明していた安鐘よりもめかぶの方が狙われる人物としては理解できる……。」

 

宮壁「そう、計画に入っていたのは潛手の方だったんだ。」

 

宮壁「俺達は先に殺された三笠と安鐘が計画に入っていると思い込んでいたけど、改めて、三笠と潛手が狙われた計画だと想像してほしい。黒幕が何故おかしな言い方をしたのか説明がつくんだ。」

 

前木「!まだめかぶちゃんはあの時死んでいなかった。だから、あの時は『殺した計画』とは言えなかったんだね…!」

 

東城「そして、そう考えると計画に入っている人間の名前を明言しなかったのも筋が通る。潛手さんが計画に入っている事をバラしてしまえば、それは黒幕にも関わらずシロであるボク達に答えを教えたも同然……。コロシアイのゲーム性が失われてしまうから、黒幕がそういった事は出来なかったという事だね。」

 

宮壁「これが、俺が今考えている計画に関する事。安鐘の事件こそ、『突発的な犯行』だったんだ。じゃあどうして安鐘は殺されたのか。」

 

柳原「……口封じですね?」

 

宮壁「ああ。安鐘は勝卯木が黒幕である事に気づいていた、その事を知った勝卯木は、他の誰かにその情報を共有される前に殺す事にしたんだ。」

 

篠田「しかし、安鐘が犯行を犯した時点で黒幕自身も死ぬ運命に置かれた。口封じする必要があるのか?」

 

難波「これは想像だけど、黒幕だとバレたら誰も看病なんてしてくれなくなる。苦しみながら死ぬのは嫌だって事じゃねーの?実際、琴奈と東城のおかげで死ぬ前までかなり元気そうだったじゃん。」

 

前木「だけど、鈴華ちゃんは見張りつきでずっと個室にいたよね?もう口封じするタイミングもほとんどなかった気がするけど…。」

 

宮壁「そこはまだ、俺もはっきりとは言えない。そこを明らかにするためにも、ここで別の話をさせてほしいんだ。」

 

難波「何?」

 

宮壁「安鐘が突発的な犯行だとすると、殺害方法に疑問が出てこないか?」

 

大渡「……突発的な犯行にしては、感電装置だの厨房への誘導だの、たしかに随分と手が込んでやがる。」

 

東城「体力的に不利な状況を覆すためとはいえ、たしかに、黒幕があそこまで手の込んだ事をする必要はないね。それこそ、宮壁くんを襲ったように待ち伏せして襲い、その場で殺した方が楽だったはずだ。」

 

宮壁「そうなんだ。そして黒幕の発言にはまだおかしい点がある。」

 

♢♢

♢♢♢

3章非日常編3

♢♢♢

 

勝卯木「私もね、お兄様が悪魔についての情報を手に入れてから全然かまってくれなくなって寂しかったの。だから私は『悪魔の関係ない裁判を補助して、さっさと悪魔を殺してもらおう』と思ってたんだよっ!」

 

宮壁「それで今までクロがあまり有利にならないように立ち回っていたっていうのか!?」

 

篠田「お前と一緒にするな……!」

 

勝卯木「お兄様に初めて反抗している私と、組織に背いた行動をとっているひとみちゃん。やってる事も目的も一緒だなんて、やっぱり私、ひとみちゃんの事を手助けしてあげたら良かったな~!」

 

難波「……?」

 

 

♢♢♢

♢♢

 

難波「あれね。アタシも変だなって思ってた。」

 

宮壁「たしかに、難波はあの時点で怪しんでいそうな表情だったな。」

 

難波「まーね。」

 

前木「…?何か変なところなんてあるの?」

 

難波「『やっぱり瞳の手助けをしたらよかった』。仮にもクロは蘭なのに、なんであんな言い方をしたんだと思う?あれじゃあまるで自分以外にもこの事件にクロ側として関わってる人がいるみたいじゃん。」

 

前木「……!えっと、鈴華ちゃんの事件は1人で仕組んだ訳じゃないって事?」

 

難波「そうなんじゃないかなとは思っているけど。」

 

宮壁「俺も難波と同じだ。その人がクロかどうかは分からない。だけど、何かしら、俺達が知らない事を知っているはずだ。」

 

宮壁「だから俺は、ここでその『共犯者』を突き止めたいと思っている。」

 

東城「もちろん、具体的な根拠はあるのだろうね。」

 

宮壁「……ある。」

 

これで真実に近づけるはずだ。これが、俺達が探し求めていた真相、そう信じて……!

 

 

―議論開始―

 

前木「そうは言っても、共犯者がいるっていう【手掛かりなんてどこにもない】よね……?」

 

柳原「現時点でヒントになるのは勝卯木さんの発言のみ。他に何かあればいいのですが。」

 

篠田「そもそも共犯者のした事が分からない。具体的にどの部分を共犯者が行ったのか、そしていつ動く事ができたのか。」

 

東城「ボクも分からない。誰か【証言のある人】はいないのかな。」

 

柳原「証言できそうな人がもういませんし、今までの話を振り返ってみる必要がありますよね。」

 

 

証言、手掛かり、ヒント……。

皆が頭を悩ませているし、俺もさっきまでそうだった。

共犯者がやった事。俺を襲ったのが勝卯木なら、共犯者は例の手の込んだ仕掛けを作ったはずだ。俺を襲い、装置を作り、安鐘の扉を叩き、安鐘が出てくるまで待つ。さっきまでは勝卯木がこれを全て1人でしたと思い込んでいたけれど、正直な話、時間だって余裕はない。3時には篠田が廊下に出てくる事が決まっていたからだ。俺がそれより先に意識を取り戻す可能性だってあった。

そして、仮に役割分担をそのようにすると、1人だけ、勝卯木以外に厨房での作業ができた可能性のある奴がいる。

 

それは……『最後に食堂から出て行った人』だ。そして、それが誰なのか、俺が一番よく知っている。

 

 

▼[宮壁の証言]→【証言のある人】

宮壁「俺が証言できる。」

 

 

東城「へえ。」

 

宮壁「その前に、共犯者がやった事についてまとめておきたい。俺を襲ったのは黒幕で間違いないとすると、共犯者がその間にやった事として想像つくのは何だと思う?」

 

篠田「感電装置や厨房に水を張った事か。」

 

宮壁「そうなんだ。そして、それをやったタイミングについては確定できないけれど、共犯者が装置を作るメリットとしてあげられるものは?」

 

東城「時短だね。いくら厨房がひろくないとはいえ、水を数センチ張ろうと思うと数10分はかかる。先ほどの推理が正しいなら、犯人はホースなどを使わずに食器棚の横板をついたてにしていたようだからね。」

 

宮壁「つまり、共犯者は勝卯木が俺を襲うよりも先に厨房での準備を終わらせておく必要があったんだ。ここで東城と大渡に聞きたい。2人は夜、ずっと自室にいたはずけどそれを証言できる奴はいるか?」

 

大渡「無理だな。一歩も出てねぇ。」

 

東城「……宮壁くんと潛手さんが保健室にいた時。難波さんが見張りをしていた時に帰ったはずだよ。」

 

難波「うん。見たから東城は厨房には行けていない。」

 

宮壁「じゃあ、大渡が食堂に来ていない事は証明できそうか?」

 

篠田「私はめかぶを黒幕の部屋に呼びに行くまでずっと食堂にいたが、そこまでで大渡は一度も来ていない。その後の事は知らないが。私より長く食堂に残っていたのは、三笠と柳原だったな。柳原、大渡はその間に食堂に来た事はあるか?」

 

柳原「………………いえ、来ていませんね。」

 

大渡「これでいいか?」

 

宮壁「ああ。じゃあ1人しかいない。」

 

 

 

 

宮壁「柳原。感電装置を作ったのはお前だ。」

 

 

 

 

裁判場全体に静電気が走った。そう錯覚するほどに空気がぴりつく。

当の本人はその空気を気にする事もなく、ごく普通に返答する。

 

柳原「……何故?時短も共犯者も、何もかも、憶測と言ってしまえばそれまでです。おれ1人が疑われるなんて……。」

 

宮壁「たしかにそうだな。」

 

難波「は?そんな簡単に引き下がっていいわけ?」

 

宮壁「じゃあ、別の話をしよう。共犯者が、一体どこで勝卯木とその計画を練っていたのか。」

 

東城「たしかに、柳原くんと黒幕が一緒にいた事なんてほとんどないように思えるね。」

 

前木「……待って。あるよ!」

 

東城「そうなの?」

 

前木「ほら、前の裁判が終わって、新しいところを探索しようって話になった時……!」

 

 

♢♢

♢♢♢

3章(非)日常編1

♢♢♢

 

「あ、宮壁さん、おれもう1回行ってもいいですよ!」

 

「え、そうなのか?」

 

「はい!みなさんと探索したら何か別の物が見つかるかもしれませんし…。」

 

柳原は何かを探すようにきょろきょろと辺りを見渡した後、目当ての人の元に駆けて行った。

 

「おれ、勝卯木さんと一緒に行動してみたいなって思うんです!いいですか?」

 

「……。」

 

すごく嫌そうな顔をしているけど、本人は何の文句も言わないしいいんだろうか…。勝卯木は基本ちゃんと嫌な事は嫌って言うタイプだから、そこまで嫌って訳ではないって事なんだろうけど…。

 

「……分かった…。」

 

あ、折れた。いつも妹らしさ全開の勝卯木でも柳原には勝てなかったようだ。

 

 

(中略)

 

 

「いや、私は動機として残っている秘密の書かれた封筒をどうするか決めてほしい。これまでに本人に見せた人がいるなら知りたいな。」

 

篠田の発言で少し空気が固まる。

 

「その事だが…どうやら牧野が持っていた秘密は自分のだったようでな。裁判の後モノパオから手渡されて今は自分で持っている。」

 

「俺は柳原に秘密を返している。俺のは知らないけど。」

 

「はい!おれは宮壁さんからもらいました!大した事ないので安心してください!あと勝卯木さんにおれの持ってた秘密を返しましたよ!」

 

「……内容、大丈夫…。」

 

「勝卯木さん的には内容も問題ないらしいです!」

 

 

♢♢♢

♢♢

 

前木「いつも一緒にいたから、急に柳原くんが誘うなんて珍しいな…って思ってたんだよね。それにあの後、蘭ちゃんに秘密を返してる。このタイミングなら、蘭ちゃんが黒幕だって事を話した可能性だってあるはずだよ……!」

 

前木の言う通り、俺も思い出したらそうとしか考えられない。

あの時、俺達は探索中にほとんど2人とは会っていない。そして探索の報告会、2人はどこの場所の説明もしていなかった。あの時間ずっと話をしていたなら、この計画を立てるのだって難しくないはずだ。

 

篠田「むしろ、その時としか思えない。三笠などがあまり秘密は他人に見せないように注意していたはずだが、危ない事をしているなと感じていた。まさかあの時にこの計画が始まっていたというのか……?」

 

宮壁「俺もそうだと思う。どうだ、柳原。」

 

柳原「……なんでまたおれが疑われてるんですか?」

 

篠田「は?」

 

柳原「だっておれ、みなさんのためにがんばって勉強して、裁判でいろいろ言えるようになって。それなのに、みなさんはまた、最初の裁判みたいに大した根拠もないのにおれを疑うんですか?」

 

東城「論点をずらすのは犯罪者の常套手段だよ。やめてくれるかな。」

 

柳原「犯罪者?誰が?おれ何もしてませんけど。人体実験なんてやってる東城さんの方が、よほど犯罪者ですよ。」

 

東城「……。論点をずらし続けるのはやめないか、そう言っているつもりだけど、もしかして聞こえていないのかな。」

 

柳原「生憎間違っている意見なんて聞くつもりがないので。」

 

本当に埒が明かなくなりそうだ。ここは何か……いや、決定的な証拠を叩きつけるしかない。

俺は知っているはずだ。柳原に共犯者である事を認めさせる重要な証拠を。

さっきの捜査で初めて分かった、『あの毒が使われていた場所』が根拠になるはずだ!

 

 

―コトダマ提示―

 

 

 

 

 

▼[床の染み]

宮壁「これで認めろ!」

 

 

前木「それ、毒の染みだったよね。もしかして、この形が事件と関係してるの?」

 

宮壁「そう。この形に違和感があった。そしてモノパオの証言による無駄遣い。おそらくあの発言はあそこに貴重な毒をこぼしてしまった事を指していたんだ。」

 

難波「こぼしてあの形になるって事は、あの切り取られたみたいになってる部分に何か物があったって事になる。」

 

宮壁「そう。おそらくこれは、靴にかかったんだ。だから、ここにいる全員の靴をブルーライトで確認すれば、すぐに分かる。」

 

柳原「……。」

 

難波「でもそれってここにいる人全員知ってるくね?」

 

宮壁「さっきの捜査で初めて知った事だ。しかもそこから今まで、誰にも靴を変えるような時間はなかった。もしかしたら数日前の事だし靴を変えられている可能性もあるけど……。」

 

あいつに、定期的に靴を変えるなんて習慣があるとは思えない。きっと、今も当時と同じ靴を履いているはずだ。この証拠は決定打になる。

 

宮壁「いや、やってみた方が早いな。東城、まだライトは持っているよな?」

 

東城「分かった。」

 

全員が緊張した面持ちで見つめる中、東城は柳原の元に近づく。そして柳原の黒い革靴にライトを当てる。

 

……結果は、言うまでもなかった。

 

前木「や、柳原くんが、本当に……。」

 

柳原「……。」

 

東城「判明したところで、具体的に何をしたのか、そしてその理由を教えてもらえるかな。宮壁くんの言っている事はどこまで正解なのか。」

 

柳原「……そんな事、裁判の後でいいじゃないですか。勝卯木さんが3人殺したという事が分かった今、さっさと投票に移るべきです。」

 

篠田「ふざけるな。お前の口から全てを聞くまで、この裁判を終わらせるつもりはない。」

 

柳原「みなさんだってもう疲れているはずです。明日になればおれも正直に話します。約束します。」

 

大渡「……どの口が言ってやがる。ここまで共犯者である事を隠し続けた奴の事を信じられると思うか?」

 

柳原「……。じゃあ早く終わらせてしまいましょう。他に疑問はありますか?宮壁さん。聞いてくださればちゃんとお答えしますよ!」

 

仕草も口調も表情も、普段と何も変わらない。それがとてつもなく怖かった。今までのクロと違う、恐ろしいまでの平常心。怖い事を言う事はあったけど、本当にそんな事をするなんて、未だに信じられなかった。

 

宮壁「俺が疑問に思っている事。お前が本当に勝卯木と共犯なのであれば、他にも怪しいところが見えてくるんだ。」

 

柳原「そうなんですか?」

 

宮壁「その前にこれをはっきりさせておきたい。柳原、お前と勝卯木、どっちがこの計画を最初に思いついたんだ?」

 

難波「は?そこから変わってくるって言いたいの?」

 

宮壁「まだ可能性の話だ。だからこそこうして今聞いている。どうなんだ?」

 

柳原「……宮壁さんの推理を聞かせてほしいです!そもそもどうしてそんなところに疑問を持つ必要があるんですか?相手は黒幕です、普通に考えたらおれが脅されてると思いませんか?」

 

聞いたら答えると言った癖に、答えてくれるつもりは無さそうだな。仕方ない。

 

宮壁「そもそもお前と勝卯木が話したのは新しいエリアが解放されてすぐ後の事だ。その時に床の染みがついたのだと思っている。ここで疑問が出てくる。」

 

宮壁「あの日は前の裁判が起きた次の日だ。あの時、新しい動機すら出ていなかったんだぞ?」

 

前木「……そっか。普通、黒幕なら自分が動くよりも前に動機を出す、よね……。実際、鈴華ちゃんは動機が発表された後で動いたから、黒幕がそんな早くから動く必要はないはずだよね。」

 

宮壁「そうなんだ。モノパオの面倒くさがりな性格からしても、連日事件を起こそうとするとは思えない。黒幕がこの計画の言い出しっぺとは考えにくいんだ。」

 

篠田「というより、勝卯木を誘ったのは柳原だろう?黒幕が計画を立てたならば、黒幕の方から誰かを誘うはずだが。」

 

東城「それもそうだね。ボクもそっちが計画を企てたと考える方が自然だと思うよ。」

 

宮壁「ああ。その前提で話を進める。」

 

柳原「えー、もっといろいろ考えられると思いますけど。」

 

難波「だったらさっさと否定しろっつーの……。」

 

今はしばらく俺の発言を聞いてもらおう。そしてその後で……柳原を動揺させるしかない。あいつから絶対に真相を聞き出してみせる。

 

宮壁「柳原がこの計画を立案した。そのタイミングで勝卯木から特製の毒を受け取った。つまり、特製の毒はこの時に武器庫から黒幕によって取り出されているんだ。それ以降に取り出された可能性があるのかどうかはまだ分かっていない。けど、他にも特製の毒の出どころが分かっていない人がいただろ?」

 

前木「分かってない人……?」

 

難波「……。なんとなく、宮壁の言いたい事が分かってきた気がする。でも、それが本当だとしたら……」

 

口を噤み、難波は心底ドン引きした顔で柳原を睨みつける。

 

難波「アンタ、マジでヤバいよ。……本当に、とんでもない事をした。」

 

 

―議論開始―

 

東城「2人だけで話を進めないでくれるかな。何が言いたいのか説明してほしい。」

 

篠田「柳原が計画を立て、勝卯木に毒をもらった。そしてその毒を……?」

 

前木「ん?えっと、でも、実際に毒を使ったのは【蘭ちゃんだけ】だよね?」

 

大渡「……特製の毒、2種類とももらったって言いてぇのか?」

 

宮壁「ああ。」

 

難波「ここまで言えば皆分かるんじゃね?アタシ達が気づいちゃった事……。」

 

難波「柳原が【蘭以外の誰に毒を渡したのか】、ね。」

 

前木「……え。嘘、だよね……?」

 

篠田「……!」

 

 

今ならこの突拍子もない推理でも、全員を納得させられる。

言ってみるしかない。俺は、絶対に真相を突き止めなくちゃいけないんだ……!

 

 

 

▼[安鐘の証言]→【蘭ちゃんだけ】

宮壁「柳原が毒を渡したのは、安鐘もなんだ。」

 

東城「……まさか。」

 

宮壁「本当だ。俺が最後に安鐘と話した時、安鐘は頑なに毒の入手法を話してくれなかった。」

 

篠田「それが柳原にもらったからだと言うのか?」

 

難波「何があったか知らないけど、鈴華にも毒を渡したってのが本当なら、アンタの考えた計画はアタシ達がさっきまで話してたものなんかの比じゃない。そろそろ少しは話してくれる?」

 

柳原「全部、何の根拠もないでしょう。」

 

宮壁「……。」

 

柳原「そもそも、もし本当におれが2人に毒を渡したなら、どうして2人ともそれを言わなかったんですか?隠す必要なんてありますか?」

 

……もっともだ。今も、それだけが分かっていない。

だけど、逆に言うなら、そこ以外は柳原がこの計画に関わっていると言えそうな根拠が存在する。

 

難波「それはそうだけど、でもアンタが犯人側の人間だと仮定しても矛盾がないじゃん。今だってはっきりとは否定してない。」

 

柳原「否定するほどの内容でもないですから。」

 

難波「否定したらボロが出るからじゃなくて?」

 

2人は数秒、バチバチと火花の散るような視線を交わす。難波はやがてため息をつくと、俺に推理の続きを促してきた。

 

宮壁「まず、柳原が安鐘に毒を渡したと考えた理由を説明しよう。」

 

(宮壁さん。わたくしは、勝卯木さんを殺してもよい人間だと判断致しましたわ。そしてわたくしには漏らしてはいけない動機…秘密がある。わたくしは勝卯木さんを殺した事を後悔した訳ではないのです。…勿論、三笠さんに見破られた事は想定外でしたが。流石は三笠さんですわね。)

 

♢♢

♢♢♢

3章(非)日常編3

♢♢♢

 

 

「…え?」

 

「あ、やっぱり毒だったんですか。おれも見てました。あまりにも堂々としているから砂糖なのかと思っちゃいましたよ。」

 

横にいた柳原の一言でその事実を再認識する。

 

 

安鐘が今、殺人を犯そうとしていた。

 

 

「鈴華、今の、本当?」

 

難波の視線も厳しいものになる。

 

「……バレるなんて、思ってもいませんでした…。鋭いのですね、三笠さん。」

 

それだけ呟いて、落ちて潰れてしまった和菓子を拾い集める。

三笠もゆっくりと体を起こし、無言で近くの和菓子を安鐘の持つお盆にのせる。

 

 

♢♢♢

♢♢

 

 

宮壁「おかしいと思ったんだ。安鐘が毒を仕込んだ事が発覚した時、安鐘は『三笠と柳原』に毒の事を指摘されていた。でもあの時、安鐘は毒の存在を見破られたのは三笠だけだと言った。」

 

宮壁「加えるなら、柳原は俺を食堂に誘う時に『お腹が減っているから一緒に行こう』と言ったのにも関わらず、全く和菓子に手をつけようとしていなかった。それどころか『お腹が空いていないからいらない』と言っていた。……柳原、お前、あの時点で安鐘が犯行に及んでいた事を知ってただろ。」

 

柳原「……。」

 

宮壁「犯行が目の前で行われているのを知りながら、お前は勝卯木が毒を口に入れるのを黙って見ていた事になるんだぞ。それが、お前が計画に加担している証拠になるはずだ。」

 

柳原「そうですか?」

 

宮壁「そうだ。いい加減に認めてくれ。」

 

柳原「……。」

 

一呼吸おき、柳原は申し訳なさそうに下を向いた。

 

柳原「……認めます。おれは、勝卯木さんと安鐘さんの犯行を知っていて止めませんでした。」

 

あくまで、自分が立案したとは言わないらしいな。だけど、そこまで口を割らせただけでも進歩だ。モノパオだってここで止めるような事はしないだろう。まだまだ裁判の時間はあるはず。

 

篠田「何故だ!何故そんな事をする必要がある!?」

 

柳原「コロシアイが起きてほしいからです。」

 

……そんな冷静な考えは、柳原の一言で吹き飛んでしまった。

 

宮壁「は?」

 

柳原「宮壁さんには話しましたよね?『たいせつなものを守るために、何も自分が殺人を犯す必要はない』って。この中にいる誰かさえ動いてくれれば全員のたいせつなものが守られるんです。」

 

大渡「貴様、自分の手を汚さずに自分の動機のために動いたって事か?」

 

柳原「そういう事です。勝卯木さんが必死に明かしたがっていた真実とは、おれが犯行を考えてあげたという事だったんですよ。」

 

冗談で終わらせてくれたと思っていたあの話。あの話を聞かされた時にはすでに実行していたっていうのか?それに、急に自分が計画を考えた事まで認めて……一体何がしたいんだ?

 

篠田「どこまで考えた。毒を渡したという事は、殺害方法はお前の仕業だな。」

 

柳原「そうなりますね。」

 

篠田「その毒を誰に使うかは?」

 

柳原「それは……お任せしました。おれの目的はコロシアイを起こす事ですから、誰が狙われるかなんて関係ないですからね。だからその2人が持ってきたものには一切口をつけていません。」

 

篠田「いつ犯行を起こすかは?」

 

柳原「それはおれが決めました。じゃないと、変なタイミングでコロシアイが起きればおれが疑われてしまうかもしれないですからね!あと、最終的にはお互いが殺し合ってもらうようには頼みました。口封じのためにね。」

 

篠田「分かった。もう黙ってくれ。」

 

柳原「えっ、自分勝手すぎませんか!?」

 

どっちもどっち、いや、柳原は自分勝手なんてレベルじゃないな……。

 

大渡「それで、他に何を話す事がある?まだ何か解決してねぇ事があるのか?」

 

宮壁「勿論、この計画の全貌を明らかにする。柳原が2人に行った詳しい指示は分かっていないからな。」

 

難波「だね。最初に、蘭に向けた指示を明確にしたい。『特製の毒を使う事』、『相手は不問』、安鐘を殺すように仕向けたのもアンタだった。それについては何て指示したの?」

 

柳原「えっと、『おれが安鐘さんを厨房に案内するので、そこまで追いかけまわしてほしい』、『その前後の事は任せる』と言いました。それ以降は厨房には入っていません。」

 

……そもそもなんで勝卯木がこんなに柳原の言う事を聞いたのか分からないけど、とりあえずその発言はメモしておくか。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

・・・コトダマ「柳原の証言」

 

前木「案内って、じゃあ柳原くんも鈴華ちゃんが蘭ちゃんに追われている時に一緒にいたってこと?」

 

柳原「ええ。じゃないと安鐘さんがわざわざ厨房まで来てくれるとは思えなかったので。そうじゃなきゃ、感電装置も無駄になってしまいますからね。」

 

難波「……!つまり……。」

 

▼[情報②:(難波の発言)安鐘の精神状態から考えると、自分から危険な場所に行くとは思えない。何か別の理由があるのではないか…?]

難波「やっぱり鈴華は自分から厨房に行った訳じゃなかった。アンタが厨房まで誘導したんだ!」

 

前木「そんな……!」

 

柳原のその説明の通りならばそうなる。安鐘は勝卯木に追われてパニックになっているところを、自分に殺害方法を提示した共犯者の柳原に誘導されたんだ。だけど、柳原は安鐘だけの共犯者ではなかった。勝卯木の共犯者としても動いていた柳原に騙されて、縋る思いで厨房に駆けこんだはずだ。……そして、安鐘を柳原の仕掛けた感電装置が襲った。その後を勝卯木に殺されたんだ。

たしかに安鐘は殺人を犯した。それを擁護するつもりはない。だけど、だからと言って、こうまで悲惨な目に遭う必要がどこにあったっていうんだ……?

いたたまれない気持ちで安鐘の遺影を見る。なんで、どうしてあの時、一言も言ってくれなかったんだ。あの時俺がもっと強く聞き出していれば、何か変わっていたのだろうか。

 

絶対に黒幕と柳原を許す訳にはいかない。コロシアイが起きるだけでいいはずなのに、こんなに手の込んだ事をして人の心を弄んだのだから、それ相応の報いは受けてもらわないと。

 

篠田「少し話が逸れるのだがいいだろうか?」

 

宮壁「どうした?」

 

篠田「安鐘が柳原の誘導にのったという事は、安鐘は柳原が勝卯木と組んでいる事を知らなかったのだろう?そして、勝卯木も自分の食べた和菓子に毒が含まれている事を知らされていなかった。勝卯木もまた、安鐘と柳原が組んでいる事を知らなかった事になる。」

 

前木「じゃあ、柳原くんは2人ともを騙してたって事?だけど、黒幕なら監視カメラがあるから組んだ事すら気づかれないなんておかしいよ。」

 

宮壁「勝卯木に指示したのはおそらく安鐘より前だ。だからこそ、俺は、『その指示自体』に何かおかしいところがあるんじゃないかと思っている。」

 

宮壁「そろそろ話してくれてもいいんじゃないのか?」

 

柳原「そうですね。今ならおれが説明した事も納得してもらえるでしょうし。」

 

宮壁「納得……?」

 

柳原「だって、何の根拠もない状態でいきなりおれが全部を仕組んだと話したところで、誰も信じてくれないでしょう?」

 

宮壁「……。」

 

まぁ、言えばどのタイミングでも皆怪しんでくれるけどな。

……そんな蛇足でしかない悪態は心の中にしまうとして、話を進めるとするか。

 

柳原「まず結論として、おれは2人に指示をした訳ではありません。殺人の動機と殺人を犯しやすい環境を提供しただけです。指示したとすれば、おれがその殺人に関わっている事、ひいては動機を与えた事を黙っているように頼んだ事くらいですよ。」

 

柳原「勝卯木さんが黒幕だと分かったおれは、その情報で勝卯木さんを説得して殺人を犯すように仕向けた後、『一緒に黒幕を倒そう』と安鐘さんに持ちかけました。2人ともおれの必死の説得に耳を貸してくれただけなんです。」

 

柳原「勝卯木さんは黒幕である事をバラされたくなかったようなので、その事を秘密にするという借りを作りました。あとは、お兄さんが好きらしいので1番お兄さんの為になるのは事件を起こして皆さんに打撃を与える事だと伝えました。少し時間はかかったのですが、最後の方はお兄さんの為ならと元気に拳をつき上げていましたね。」

 

柳原「安鐘さんには黒幕を倒そうと持ち掛けて勝卯木さんが黒幕である証明をしました。安鐘さんは動機で相当参っていたみたいですし、黒幕なら殺してもいいんじゃないかと言ったらわりと簡単に話にのってくれましたよ。」

 

誰もが唖然としていた。

 

篠田「だから安鐘は勝卯木が黒幕である事を知っていたのか。」

 

難波「……てかそれ、説得じゃなくて脅しでしょ。」

 

東城「そもそもキミは、勝卯木蘭が黒幕である事を安鐘鈴華に話している時点で約束を守っていないじゃないか。紛れもなく殺人教唆、犯罪だよ。」

 

柳原「でも、このコロシアイにおいては殺人教唆をしたところで何の罪にも問われません。そもそも……」

 

柳原「殺人教唆をした、という話が肝心の2人から聞けていない。つまり、おれが嘘だと言えばこの話は嘘になるんですよ。だって、2人とももう死んでいるんですから。」

 

これが、真実?

俺達が責めていた2人はどちらも、柳原に脅されて何も言えなくなっていたっていうのか?……そこまで考えて、俺は初めて自分が柳原の話を鵜呑みにしている事に気がついた。

何が本当で何が嘘なんだ?柳原の言う事はどこまで信じられるんだ?

 

篠田「待て。」

 

柳原「?」

 

篠田「お前のその殺人教唆の練度。悪魔はお前か?」

 

柳原「いや、違いますけど。」

 

難波「さすがにアンタじゃねーの!?そう簡単に2人も動かせる訳ねーだろ!」

 

柳原「動かすだなんて!おれは話を聞いてもらっただけですよ?」

 

篠田「じゃあどこでお前がそんな技術を身につけられる!?今までもそうだ!今のお前は、何もかもが最初の裁判とは比べ物にならないだろう!」

 

柳原「だから、勉強しただけってずっと言ってるじゃないですか。おれが2人に動機を与えた事はすぐに信じる癖に、信じたくない事は頑なに信じてくれないんですから困りますよね。」

 

宮壁「待ってくれ。皆気になると思うけど今大事なのはそこじゃない。俺達はまず、この事件を振り返り何があったのかを整理する必要がある。」

 

前木「ちょ、ちょっと待って……だんだん訳が分からなくなってきたよ……。」

 

東城「一旦整理しようか。」

 

東城がまとめていた紙を見せる。

 

♢♢♢

【勝卯木】

・毒を三笠、潛手に使用。

・宮壁、安鐘を襲う。

・後日安鐘の毒で死亡。

【安鐘】

・毒を勝卯木に使用。

・個室を出たところを勝卯木に襲われ、柳原に誘導される。

・感電装置にかかり、その後死亡。

【柳原】

・それぞれに毒を渡し、指示。

・感電装置を制作。

・勝卯木と連携して安鐘を追い詰める。

♢♢♢

 

難波「うん、てかこう見ると分かってない事ってほとんどなくね?」

 

前木「あとは動機……って思ったけど、それはさっき柳原くん本人が話してくれてたよね。」

 

柳原「はい。」

 

……これで終わり、なのか?

 

篠田「……柳原、お前が三笠とめかぶを狙うように指示した訳ではないのだな?」

 

柳原「はい。本当なら難波さんと宮壁さんを狙ってほしかったので、そこもちゃんと指示すればよかったと少し後悔しています。」

 

宮壁「……え?」

 

難波と、俺?

柳原は、俺達が死ねばいいと思っていた?

いや、待て、落ち着け。そんな事で動揺してる場合じゃない。今動揺しなきゃいけないのは俺じゃない、柳原だ。そんなごちゃごちゃした頭をさらに乱すような話が続く。

 

柳原「おれは勝卯木さんに『どうせならコロシアイの邪魔になりそうな人を標的にしてください』と言いました。おれはてっきり頭の回転が速いあなた達2人をやってくれると思っていたので、三笠さんと潛手さんが死んでいるところを見た時は拍子抜けしましたよ。」

 

篠田「……は?」

 

柳原「たしかにコロシアイの目的をきちんと把握していなかったおれが悪いのですが、それにしたって……よりによってあの2人だなんて。2人が何の役に立ったって言うんですか?」

 

一瞬だった。俺が目を動かすよりも速く、篠田は柳原に飛びかかっていた。

 

柳原「いった……。」

 

篠田「殺すぞ。」

 

難波「ちょ、マジでやめろって!」

 

篠田「触るな!!!」

 

難波が慌てて止めに入るが篠田はびくともしない。

篠田の目は本気で、2人の力の差なんて明らかだ。まずい……!

 

ゴンッ!

 

鈍い音が裁判場に響き、直後、篠田が崩れ落ちる。いつの間にか、傍に木札が転がっていた。

 

大渡「うっせぇんだよ。耳障りだ。」

 

前木「え……?瞳ちゃん……?」

 

宮壁「大渡、お前何やってんだよ!」

 

大渡「あ?あのまま全員でボーっと突っ立って成り行きを見守って、これ以上死体を重ねるつもりか?友情ごっこはこんな場所にいらねぇんだよ。あくまで冷静に、事実だけを話し合えばいい。」

 

大渡「学級裁判に余計な感情は不必要、そうだろ。」

 

そのまま今度は、篠田の横でゆっくり起き上がっている柳原を指さす。どこかぶつけたのか、柳原は痛そうに足をさすりながら立ち上がった。

 

大渡「この気持ち悪ぃ奴が正真正銘の屑だって事。それだけがこの裁判に必要な情報だ。」

 

柳原「気持ち悪いなんて初めて言われました……。とはいえ、大渡さんの言う通りです。おれが死んでたら篠田さんも道連れになっていましたから。本人が望んでおれを殺したとしても、それは流石にかわいそうですよ。」

 

難波「何を他人事みたいに……。」

 

柳原「じゃあ、ここまで言い当てられちゃった訳ですし、おれから詳しく説明してあげますね!」

 

宮壁「せ、説明…お前が?」

 

柳原「はい!宮壁さんや前木さんがよくやってるやつ、おれにもやらせてください!」

 

自分がどんな目で見られているか分かっているはずなのに、それでも少しもひるむ事も調子を乱す事もない。そんないつも通りの柳原は、どこからか取り出したメモ帳を開き、事件の解説を始めた。

 

 

 

??クラ××ッ×ス推理??

 

 

 

柳原「細かなところはおれの方から補足させていただきますね。まずおれは、勝卯木さんが黒幕だと気づいてその事を確認するために一緒に行動する事にしました。おれの発言に彼女は終止驚いていましたよ。そして彼女には黒幕である事を黙っている代わりに、おれの計画に協力するように説得しました。」

 

柳原「特製の毒を使って適当な人物……特に、コロシアイの邪魔になりそうな人物を排除してもらう計画です。勝卯木さん自身も邪魔に感じる人がいたようですし、そういった意味ではおれ達は本当に協力関係にあったのかもしれませんね。」

 

柳原「そして、おれはその日の夜に勝卯木さんが黒幕である事を安鐘さんに伝え、黒幕を殺す計画を伝えました。え?なぜ2人に別々の計画を用意したのか?それは事件をややこしくする事でおれが計画に噛んでいる事を悟られないようにするためです。現に、潛手さんがあんな都合のいいタイミングで死ななければ、裁判はあそこで終わっていたでしょう?本当に惜しかったんですよ。」

 

柳原「あ、なぜ安鐘さんがみなさんにおれの事を一言も言わなかったんだと思います?ここだけはちょっとおれが悪いんですけど、勝卯木さんに聞いたところ、安鐘さんにはトラウマがありまして。そこを刺激したら一瞬で縮こまっちゃったんですよね。泣き始めた時は少し焦りましたよ、あんなにかっこよかった安鐘さんが、まさかこんなに弱いと思わなくて。」

 

柳原「で、2人ともおれの言った通りに動いてくれたんですよ。そうだ、和菓子に手をつけなかったのは勿論、スポーツドリンクはあの場で適当に捨ててましたよ?誰を狙うかは分かりませんでしたし、実際安鐘さんはほぼ無差別の犯行でしたからね。」

 

柳原「そして先日、おれは最後まで食堂に残り、みなさんが帰った事を確認すると厨房の仕掛けを作ったんです。その後の事は宮壁さんの推理通り……さすがですね!」

 

柳原「ここまで言えば分かりましたか?たしかにこの事件のクロは勝卯木さんです。だけど計画を考えたのはおれ。これが事件の真相なんです!」

 

 

 

 

柳原「まあ、そんな感じでおれから言える事は全てです。これで納得していただけましたか?」

 

難波「まだアンタと一緒に過ごさなくてはならないという事なら嫌と言う程分かった。」

 

柳原「そうですね、これからもよろしくお願いします!」

 

大渡「おい……さっさと投票に入るぞ……。」

 

前木「瞳ちゃんを起こしたら投票に入っていいんだよね……?」

 

モノパオ「久しぶり!全員が投票をしない限りは投票結果を出す事はできないからね。篠田サンが目覚めるまで待ってあげようね!」

 

前木「……。」

 

前木はモノパオの言葉に無言で頷くと篠田の頭を膝にのせ、自分のパーカーをかけた。

辺りはしんと静まり返った。

 

……本当に、これが真実なのか。

黒幕である勝卯木と安鐘をそそのかし、2人に事件を起こさせた柳原。

その結果、その2人に加え、三笠と潛手まで死ぬ事になった。

コイツの存在を知らせるために、勝卯木は無駄に裁判を引き延ばした…。

これが、俺達が追い求めた真相なのか。

 

全くすっきりしなかった。今までの裁判もすっきりしていないけれど、今回はそれ以上だ。

勝卯木には潛手を殺した事を俺達に知られる事なく毒で死んだ。俺達は、勝卯木に潜手を殺した事を謝ってもらっていない。謝ったからと言って潛手が帰ってくる訳じゃないけど、それでも、勝ち逃げされたようでとてつもなく悔しかった。

当の柳原はこの裁判が終わったところで死ぬ事はない。今後も俺達と普通に生活していく。自分の目的のために平気で人を殺人の道へとそそのかすような奴と、これからも一緒にいなくちゃいけないのか……?

 

いや、そもそも、本当に柳原は悪魔じゃないのか?だって、どう考えても、柳原のやった事は超高校級の説得力そのものだ。柳原を殺せば、このコロシアイは終わってくれるんじゃないか?

 

一度その考えが頭に浮かんでしまえば振り払う事は不可能で。俺はもやもやとした気持ちで、でも確実に、柳原に対する敵意を強めていた。

 

しばらくして、篠田の目が覚めた。

 

篠田「……投票は……。」

 

難波「これから。今から裁判を終わらせる。」

 

篠田「そうか。……どうも、血が上りやすくなっているみたいだ。すまなかった。大渡だろう?感謝する。」

 

大渡「……。」

 

難波「いや、仕方ないって。あんな事言われたらさ。…じゃ、モノパオ、頼んでいい?」

 

モノパオ「ほいきた!ではでは、お手元の電子生徒手帳を確認してください!」

 

言われるがまま電子生徒手帳を開く。投票のページには『裁判閉廷』と『投票続行』が表示されている。

 

モノパオ「やっとこの長くて苦しい裁判を終わらせられるよ!じゃあ、この裁判を終わってもいいかなって思った人から投票していっちゃってねー!」

 

……投票が始まった。

俺達は、きっと、このまま終わっていいはずなんだ。

しばらく皆、この裁判に疲れたようで呆然としていたが、おそるおそる裁判閉廷に指が伸びる。

 

終わって、いいんだよな?

 

そう言い聞かせて、俺は、突如、自分の顔が熱くなっているのを理解した。

 

脳が焼き切れるような熱を発しているのが分かる。知恵熱ってやつか?

分からない、それでも、何か、何か………。

 

そう、俺は何かを忘れている気がしているんだ。

何を忘れている?何か俺はずっと違和感を覚えていたはずで……。

 

なに、か……………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

 

!!!!!!!!!!!

 

 

 

直後、俺の体に衝撃が走った。その衝撃に蹴飛ばされるがまま、裁判場に向かって吠える。

 

宮壁「投票はまだだ!!!全員止まれ!!!!」

 

 

 

難波「はっ!?」

 

篠田「まだ、何かあるのか……?」

 

東城「何かあるならもっと早く言ってくれるかな。もう投票してしまったよ?」

 

宮壁「なっ……!」

 

まずい。

 

宮壁「誰が投票した!?まだ投票してない人は!?」

 

柳原「おれは投票しましたよ。」

 

篠田「私も、してしまったが……。」

 

東城「ボクを含めて3人投票している。変更なんてできないけれど大丈夫なのかな。」

 

宮壁「他の皆は……!」

 

頼む。俺の気づいた真実で、今度こそ皆を導かなきゃいけないんだ!

絶対に絶対に絶対に、俺はもう、間違えてはいけない……!

 

難波「アタシは今押そうとしてたところだからまだ。」

 

大渡「同じく。」

 

俺も当然未投票だ。丁度3人ずつ。これで、運命は、

 

宮壁「ま、前木、前木は……!?」

 

前木に託された。

急な話でついていけなかったようで、前木は慌てて俺の問いかけに応じる。

 

前木「あ、え、えっと…………押したけど、手が震えて押せてなかったみたいで……。」

 

 

前木「まだ、投票してないよ!」

 

 

 

……よし。

 

もうミスは許されない。緊張で手がじっとりと湿っていく。

ここからは俺が裁判のかじを取る。

絶対に、もう誰にも裁判の邪魔をさせない。

 

 

宮壁「モノパオ、投票を中断してくれ。まだ話す事がある。」

 

モノパオ「宮壁クン、そういうのはオレくんの権限だよ?何を偉そうに……」

 

宮壁「投票を待て、って言ってるんだ。」

 

モノパオ「怖……。」

 

モノパオの声の後数十秒して、投票画面に『中断中』という文字が現れる。これで間違えて投票する事もないだろう。

 

俺は絶対に間違えてはいけないんだ。

安鐘が最後に話してくれた事を。

三笠が言おうとして言えずじまいだった事を。

勝卯木が裁判を引き延ばした意味を。

潛手がその死をもって裁判延長を確定させてくれた事を。

俺の声が、皆が投票を終える前に届いた『幸運』を。

 

決して、何一つ無駄にはしない。

 

 

視線を、『真っ先に「裁判閉廷」に投票していた人物』に向ける。

 

 

宮壁「柳原。」

 

柳原「……。」

 

宮壁「……ずっと、疑問に思っていた事がある。」

 

相変わらずいつもの笑顔を浮かべて、柳原は俺と目を合わせる。

 

柳原「何ですか?」

 

宮壁「どうして、自分が共犯者であった事を、ここまで詳細に教えてくれたんだ?」

 

そう。俺がずっと感じていた違和感はこれだ。

そもそもこんな話、柳原からすると、話す必要がないんだ。

 

俺達は真実が知りたいから聞いていたけど、柳原は自分が共犯者としてやった事を詳しく白状したところで何もメリットはない。

ここで自分が殺人教唆をしたという話をしてしまえば、この裁判を終えてからは誰も柳原の言う事に耳を貸さなくなるだろう。今後の信用も失うし、それ以前に殺されてもおかしくない。

 

本当にただの共犯者であれば、ここまでの悪印象を周りに与える必要がないのである。

 

今までの柳原なら、全て正直に話せばいいと思っていただろうが、今は違う。そんな話をすれば仲間がいなくなる事くらい、『今の』柳原なら分かっているはずなんだ。

 

柳原「そっちが聞いてきたんじゃないですか。……ひどいですよ!まだ話が必要なんですか?」

 

宮壁「必要だからこうしてるんだ。」

 

柳原「……。」

 

宮壁「……。」

 

 

しかし、唯一、共犯者であると話した方がいい場合が存在する。

 

 

それは、『裁判の後という概念がない場合』だ。

裁判の後の事を考えなくていいなら、好きなだけ白状すればいい。

 

 

柳原「で、宮壁さんは何が言いたいんですか?」

 

 

そうすれば周りが、『殺人を犯してはいない、ただの共犯者』だと信じてくれる。

 

その方がスムーズに、より確実に、裁判閉廷へと投票される。

 

 

そして、裁判が終了された瞬間、『クロの卒業』が確定するからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

宮壁「柳原。お前がクロだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

前木「……えっ?」

 

篠田「どういう事だ。先ほどの話で結論は出たのではなかったのか?」

 

東城「それが間違いだった、という事かな。」

 

宮壁「ああ。」

 

柳原の顔をじっと見る。……何の変化もない。クロだと言い切ってもこれか。

半ばカマかけのつもりの糾弾だっただけに、ここまで無反応だと骨が折れるな。

 

難波「……宮壁。」

 

宮壁「なんだ?」

 

難波「さっきまでアンタ自身が言ってた事、皆が話してた事を全部否定してその話を結論とするって事は、ちゃんと根拠があるんだよね?こんな事言いたくないけどさ、アンタもアタシ達も、この裁判で1回間違えてるも同然。そう簡単にはいそうですかとはならねーよ。」

 

……絶対にある。カマかけは失敗したけれど、俺はまだ何か、決定的な証拠を見逃している気がするんだ。そしてそれこそ、俺達が求めていた『本当の真相』のはずだ。

 

宮壁「分かってる。だけど説明自体はそこまで長くない。」

 

だけどあくまで証拠が分かっているふりをする。少しでも弱気なところを見せてしまえば。投票に移られてしまうかもしれない。きっと今の裏切り者はそういう奴だ。

ゆっくり周りを見渡す。全員まるで理解ができないとでも言いたげな表情だった。

 

前木「えっと、最初に聞きたいんだけど、柳原くんがクロだとしたら誰を殺したの?」

 

……それはあいつしかいないよな。

 

Q柳原が殺した相手は?

 

A 安鐘

B 三笠

C 潛手

 

 

 

 

 

 

→A

宮壁「もちろん、安鐘だ。」

 

 

篠田「……何故だ?先ほどまでそんな話は1つも出ていなかっただろう。」

 

宮壁「いや、正確にはうやむやにされていたんだ。」

 

この根拠となる証言、それは……。

 

―コトダマ提示―

 

 

 

 

 

 

▼[柳原の証言]

宮壁「柳原自身が説明してくれた。」

 

柳原「おれが……?」

 

宮壁「ああ。お前は言ってたよな、自分が安鐘を厨房に誘ったって。」

 

柳原「はい、言いました。」

 

宮壁「どうやって厨房に誘導したのか教えてくれるか?」

 

柳原「安鐘さんが遠くから見えたタイミングで、まずは共有棟に案内しました。そのままおれが食堂に入り、安鐘さんもついてきたんです。厨房に入ってしまうとおれまで感電に巻き込まれる可能性があったので厨房には入らず、少し強制的にはなりましたが安鐘さんを厨房に入らせました。」

 

宮壁「なるほどな。それは事実なんだな?」

 

柳原「はい。」

 

宮壁「そして安鐘は感電し、倒れてしまった。お前はその後勝卯木が安鐘を殺した、なんて言っていたし、実際その前の裁判での俺達の結論もそうだった。だけど、俺が注目している事こそがそこなんだ。」

 

俺の発言に相槌が聞こえる。その声の主はやっぱり難波だった。

 

難波「……なるほどね。『どっちがとどめを刺したのか、判明していない』って事だ。」

 

東城「たしかにそうだね。だけどそれは誰にも分からないのではないかな?」

 

宮壁「いや、実はそんな事はないんだ。」

 

……口ではこう言っているけど、正直、俺にも確信に至る根拠が分からない……。

でも今は、少しでもその可能性が残っていたという事が何よりも重要だろう。

安鐘を殺したのが勝卯木なのか柳原なのか、それが未だに謎であるという事。この謎を放置した状態で投票なんて絶対にできない。

 

宮壁「その証拠はもっと納得できる状況になってから話すとして、これで皆も、俺が投票を中断させた理由について納得してもらえたと思う。」

 

俺の言葉に皆は頷いた。

 

篠田「では、そこについていろいろ話し合ってみるとしよう。」

 

 

―議論開始―

 

前木「鈴華ちゃんが誰に殺されたのか……【殺害方法】は今までの話で合ってるんだよね?」

 

篠田「モノパオファイルに失血死と書いてあるから、嘘ではないだろうな。」

 

東城「【殺害した時間】とかで炙り出せないかな?」

 

難波「瞳が出てきたのは夜中の3時だから、それより前に殺されているのは確実。少しずれたくらいで何か変わるとは思えないわ。」

 

大渡「本当に和服女に傷をつけたのが1人なのかもよく分からねぇな。【2人でやった】可能性はねぇのか?」

 

篠田「それではクロにとっても博打になる。柳原が自分の命を賭けのような状況におくとは思えない。」

 

柳原「……埒が明きませんね。そもそもそんな【証拠なんてない】んですよ。」

 

 

……。これは、俺の観察眼だけに頼った証拠だ。

だけど、きっとこれが、柳原がクロである事の証明になる。俺はそう信じてこの証拠を叩きつけるしかないんだ。

 

 

♢♢

♢♢♢

3章非日常編1

♢♢♢

 

ふと隣を見ると、柳原が俺と同じようにしゃがんだままじっとしていた。

 

「柳原?どうかしたのか?」

 

「あ、いえ……特に、大した事じゃないです。」

 

またそれか……。しかし、柳原の近くをよく見ても変わったところはなさそうだ。

 

♢♢♢

3章非日常3

♢♢♢

 

勝卯木「そろそろ裁判も締めたいなって思うけど、何かあったらなんでも聞いてね!いくらでも裁判を続けさせてあげる!」

 

柳原「おれはもう終わってもいいですけど……。ずっと立ちっぱなしで痛くなってきました。」

 

勝卯木「んー……。ミンナは?」

 

宮壁「まだ終わらせるつもりはない。いくらでも話す事はあるはずだ。」

 

柳原「え?そうなんですか?」

 

(中略)

 

柳原「もー!いつまでどうでもいい事話してるんですか!早くコロシアイを終わらせるための話し合いをしましょうよ!」

 

体力のない柳原は疲れたのかいよいよ証言台にもたれてぼーっとし始めてしまった。

 

♢♢♢

?章「非」日常編1

♢♢♢

 

「いや、俺も行くならそこのつもりだったから大丈夫だ。柳原……柳原?どうしたんだ、調子悪いのか?」

 

さっきからずっと椅子に座りっぱなしの柳原に声をかける。

 

「え、あ、その……」

 

調子が悪い、という言葉に篠田がビクリと反応する。

 

「体調がすぐれないのはいつからだ?何かあってからでは遅い、心当たりは……!」

 

「あ、えっと、疲れただけなので……。」

 

柳原は申し訳なさそうに立ち上がる。

 

「今日は朝から立ちっぱなしだったので、脚が痛くなってきちゃって。本当に何でもないです!ごめんなさい!」

 

(中略)

 

「頭を使う時は特に食事が大切だからね。……まあ、柳原くんは飛びぬけて疲れているだけだろうけど。」

 

「え、どうしてそう思ったんですか?」

 

「長距離歩いた後のような、長時間立つ事に慣れていないような歩き方をしていたからね。」

 

「おれ、普段家から出ないので……。」

 

♢♢♢

?章「非」日常編2

♢♢♢

 

大渡「学級裁判に余計な感情は不必要、そうだろ。」

 

そのまま今度は、篠田の横でゆっくり起き上がっている柳原を指さす。どこかぶつけたのか、柳原は痛そうに足をさすりながら立ち上がった。

 

♢♢♢

♢♢

 

 

これらの柳原の行動。これに共通している事こそ……!!!

 

 

 

 

▼[壊れた電子レンジ]→【証拠なんてない】

宮壁「これで証明させてもらうぞ!!」

 

 

柳原「電子レンジ?それがどうかしましたか?」

 

宮壁「柳原。お前、足……おそらくつま先を、怪我してるんじゃないか?」

 

柳原「……。」

 

難波「怪我!?そんなの柳原ならすぐに言ってくるはず……いや、言わなかったって事はむしろ……。」

 

東城「そういえばさっきの捜査でも歩き方が変だと思ったのだったね。ボクはあまり柳原くんと共に行動していないから気づかなかったけど。」

 

宮壁「ああ、とりあえず柳原、足を見せてもらえるか?お前にとってもそれが何よりの証明になるはずだ。」

 

柳原「…………。」

 

前木「柳原くん……?」

 

柳原「…………分かりました。ここで靴を脱げばいいんですね?」

 

宮壁「ああ。」

 

柳原はここにきても相変わらず表情を変える事はない。その表情の変わらなさは勝卯木以上で、本当に不気味だった。

 

柳原は何も言わずに靴と靴下を脱ぐ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

篠田「……!!!」

 

前木「ひっ……!!」

 

東城「……どう見ても、怪我なんて生易しい物じゃないよ。近くで見ないと正しい事は言えないけれど、骨折していてもおかしくない腫れだ。」

 

予想の遥か上をいく足の甲の変色と腫れ。それはとても痛々しくて、見ているだけでこちらが痛くなってくるほどだった。

昨日の事件から今までずっとこの状況だったはずなのに、コイツは誰にも言わず微塵も顔に出さず、怪我をしている事すら悟らせないでいたっていうのか……?

 

柳原「みなさんに心配をかけたくなくて黙っていたのに、それをまさか、おれがクロだと言いがかりをつけるための証拠なんかにされてしまうなんて……。」

 

篠田「言いがかり?お前はいつまでしらを切るつもりだ?そんなもの、普段のお前なら絶対に周りに言っていたはずだが。」

 

柳原「そうでしょうか?」

 

篠田「そうでもなくては、こんな怪我、放置していられるはずがないだろう……!」

 

宮壁「痛く、ないのか?」

 

柳原「痛いに決まってるじゃないですか。」

 

宮壁「じゃあなんで……!」

 

柳原は俺を無視して靴を履き直すと、さっきまでと同じように立つ。その様子は、あの足を見た後でも怪我をしていると思えないくらい普通だった。

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

柳原「では、反論させていただきますね。」

 

 

宮壁「……は?」

 

難波「は?今ので認めないとかある?」

 

柳原「というより、まだ一度も認めていませんよ?」

 

いや、それでも、きっと切り崩せるはずだ。

レンジで怪我をした事は、絶対に柳原が安鐘を手にかけた事の証拠になる!

 

 

 

♢反論ショーダウン♢

 

 

 

宮壁「じゃあ、改めてどこに反論の余地があるのか教えてくれ。俺はないと思っていたが。」

 

柳原「おれが怪我をした事と、安鐘さんを殺した事に繋がりなんてありませんよね?」

 

柳原「先に、どうしてそれが証拠だと言い切れるのか教えて欲しいです。」

 

宮壁「そんなの決まってる。電子レンジが落ちたのは安鐘を襲った時だからだ。」

 

柳原「だから、どうしてそれが言い切れるのですか?」

 

柳原「おれが装置を作っている時に落ちてきて怪我をした可能性だってあります。」

 

柳原「電子レンジがいつ落ちたかなんて【分かりようがない】んですよ。」

 

宮壁「いや、それが分かるから俺は証拠だと言っているんだ。」

 

宮壁「お前も一緒に見たよな?電子レンジは雑誌の上に落ちていた。それが何よりの証拠だ。」

 

柳原「そうでしょうか?雑誌なんて【いつでも置く事ができた】はずです。何度も言うようにたまたま厨房に入った時に落ちてきたんですよ。」

 

 

詳しく厨房を捜査し直してよかったな。これで、終わらせてやる……!!!

 

 

 

 

 

 

▼[床の雑誌]→【いつでも置く事ができた】

宮壁「これが最後の証拠だ!」

 

 

宮壁「これも、さっき捜査した時に言ったよな?雑誌はすぐに濡れてしまうから、足場として使える時間はほとんどない。そして、装置を作った時は感電しないから足場なんて必要ない。」

 

宮壁「そもそも、お前はさっき自分で『装置を設置してからは厨房には入っていない』なんて言ってたけど、そこにも矛盾が生じているよな。」

 

宮壁「あの雑誌が足場として使われたのは、クロが安鐘を殺すために近づいた時だけなんだ。」

 

柳原「……。」

 

宮壁「まだ反論できる事があるか?」

 

柳原「じゃあどうして、クロはそんな見え透いた証拠……レンジを棚の上に戻さなかったんですか?」

 

……見え透いた、か。クロもこれが確実な証拠になると分かってたんだ。

だけど、クロはこれを『戻せなかった』。勿論その理由も、クロを証明している。

 

 

♢♢

♢♢♢

1章非日常編1

♢♢♢

 

「う、うう…こんなに重いもの、持てません…!」

 

「柳原力なさすぎじゃね?わざと?」

 

「わざと足を引っ張るなんてバカみたいなことしません!これが重すぎるだけですよ!」

 

柳原が持ち上げる前に30秒がきそうだったので一旦出る。そしてもう一度入ってから難波が柳原の持てなかった荷物を調べ始めた。

 

「うっわ、アタシが持ってたのよりだいぶ軽いんですけど。」

 

♢♢♢

♢♢

 

 

宮壁「お前が非力だったからだ。勝卯木もそこまで力のある方じゃない上に、犯行時の勝卯木には毒が回っていたしな。」

 

柳原「……。」

 

難波「……終わりでいい?」

 

宮壁「難波。」

 

難波「柳原、諦めてもらうために言っておきたい事があるんだけど。」

 

柳原「何ですか?」

 

難波「アンタが認めようと認めまいと、アタシはアンタがクロだと思ったから、そう投票する。この学級裁判って、真相全てに気づいてなくても投票に移っていいんでしょ?クロさえ分かれば、他に何も判明してなくても学級裁判は終わっていいんだよ。」

 

篠田「そうだな。私もお前に投票する。」

 

前木や東城も頷く。大渡はそっぽを向いたけど、同意と見ていいだろう。

学級裁判は、あくまでクロを…投票先を突き止めるためのもので、言ってしまえば、トリックだとか動機だとかを当てる必要はない。俺達はより確実に、より自信をもって投票するための議論をしていたにすぎない。

『学級裁判で真相に気づく事は必須ではない』、難波はその事を言いたいんだろう。

 

宮壁「……勿論、俺もだ。」

 

難波「もう、アタシ等の投票先は変わらない。それがアタシ等の答え。どう?」

 

柳原「…………。」

 

柳原「………………。」

 

難波と目を合わせると、しばらくして柳原はため息をついた。

 

柳原「あは。それもそうですね。」

 

初めて聞く柳原の笑い声が、こんなに冷たいものだなんて思わなかった。

 

前木「宮壁くん。」

 

宮壁「……分かった。」

 

 

 

♢♢クライマックス推理♢♢

 

 

 

宮壁「今までの推理で判明していたところは省くぞ。今回の犯人は勝卯木だけじゃなかった。というより、勝卯木に殺人をそそのかした奴こそが、今回の首謀者だったんだ。首謀者は、勝卯木が黒幕である事に気づくと、それを交渉材料にして、自分の考えた殺人計画を実行させる約束をとりつけたんだ。その時の毒の受け渡しで、勝卯木は首謀者の靴に毒…よりによってブルーライトで反応する、液体の特製の毒をこぼしてしまった。そして、交渉材料だった黒幕の正体をすぐに安鐘に教え、安鐘には黒幕を殺すための計画を指示した。」

 

 

宮壁「2人とも首謀者の言う事を忠実に守り、本当に殺害計画を実行した。勝卯木は三笠と時間をおいて潛手に毒を飲ませ、安鐘は勝卯木に毒を飲ませる事に成功したんだ。首謀者の本意とはそれた標的だったらしいけど、そこは首謀者と勝卯木の目的の違いによるものだった。安鐘に毒を盛られた事は勝卯木にとって想定外だったけど、実は、首謀者と勝卯木の計画は三笠と潛手だけが標的ではなかったんだ。そして、その事を安鐘は知らないまま夜を迎えてしまった。」

 

 

宮壁「勝卯木は安鐘を廊下に連れ出す係、そして首謀者は安鐘を感電させるための装置を作る係に分かれた。首謀者は最後まで食堂に残り、装置を完成させた後、何食わぬ顔で俺と話した後自室に戻る。その後、勝卯木が俺を襲い、首謀者は再び食堂へと向かったんだ。後は安鐘が出てくるのを待つだけだ。」

 

 

宮壁「安鐘は勝卯木に追われ、適当に逃げていただろうな。だけどその時、食堂の方に首謀者の姿が見えた。安鐘と協力関係にあった首謀者が、まさか追いかけてくる勝卯木とも協力しているなんて思わなかったはずだ。助けを求め、必死で首謀者の元に駆けより……首謀者の仕掛けた装置にかかってしまった。ここまでは何もかもが首謀者の思い通りだったはずだ。」

 

 

宮壁「そこまで完璧だった首謀者だけど、ここから少しずつ計画は瓦解していく。殺すために安鐘の元に向かう際に、電子レンジが自分の足の上に落ちてきたんだ。しかも足場に使ったのが雑誌だったせいで、足の怪我が自分が厨房に入った事の決定的な証拠になってしまった。かなり焦っただろうけど、非力な首謀者と毒で弱っている勝卯木では、レンジを戻す事は叶わなかった。だからこそ、首謀者は怪我の事を黙っている事にしたんだ。」

 

 

宮壁「その後首謀者は安鐘を殺し、三笠も翌朝毒で力尽きた。だけど、計画が上手くいかなかったのはそこだけじゃない。それは、何を思ったか勝卯木が、裁判を引き延ばしていた事だ。そこの真意は分からないけど、おそらく潛手が死ぬまでの時間を稼ぎたかったんだろう。……その思惑通り潛手は、投票直前に命を落とした。それが結果としては、俺達に裁判の結論を思いとどまらせる重要な鍵となったんだ。」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

宮壁「これが俺の、俺達の考えた、この事件の真実……。たしかに安鐘も勝卯木も人を殺したし、勝卯木に至っては許しがたい黒幕だ。だけど、そんな2人をそそのかしてコロシアイを起こし、潛手と三笠の命を奪わせ、そして安鐘の命を奪った奴の事を許す訳にはいかない。」

 

 

【挿絵表示】

 

 

宮壁「超高校級の投資家、柳原龍也!お前がこの事件の首謀者なんだろ!!」

 

 

 

 

 

 

柳原「モノパオさん。投票、やっていいんじゃないですか?」

 

モノパオ「あ、そう?いいの?」

 

柳原は犯行を認める事も否定する事もなく、モノパオに投票を促す。もう何も隠す事がなくなった今になっても、表情は少しも変わらない。それがとてつもなく不気味だった。

 

正解、だよな?俺達の考えは合っているよな?

あまりにも堂々とした態度に一瞬不安になるが、俺は『投票続行』を押す。

大渡、難波、前木も同じように投票した。

 

「さて!投票の結果、クロはまだ他にいる、『投票続行』が多数派となりました!果たして、正解なるかーーーっ!!」

 

モノパオの声と共に、どこからかドラムロールが鳴り始める。

頼む、合っていてくれ、頼む……!!!!

 

 

 

 

「……正解!!!ではオマエラ、お次はクロを指名してくださーい!」

 

何も、起きていない。

これで仮に柳原がクロではなかったら、俺達はこの時点でゲームオーバーになっているはずだ。クロを指名できるという事は、合っていたという事。

 

震える手で、投票する。

誰の心臓の音が聞こえているのか分からないくらい、裁判場を緊張が覆っていた。

 

 

 

 

 

 

「大正解!もう一人のクロは柳原龍也クンでした!」

 

「……!!!」

 

瞬間、緊張の糸が切れて、膝から崩れ落ちる。

モノパオの宣告で、自分達の結論が正しかったと分かった、これは……安堵だ。

前木や難波もぐったりとした様子でしゃがんだ。

 

「はぁっ、はぁっ……いや、マジでキッツ……。」

 

「終わった、の…………?」

 

「……そうか、これで、やっと……終わったのだな。」

 

篠田も真夏のように汗を流し、息を切らしていた。

 

「……ふぅ……。」

 

「はっ……はっ…………。」

 

東城も俯いたまま顔をあげないし、大渡も肩で息をしている。

 

全員が、体力の限界まで、脳の限界まで達していたに違いない。

かく言う俺も、崩れ落ちた姿勢のまま、少しも動けなくなっていた。きっとスポーツ選手の大会直後はこんな感じなんじゃないかとどうでもいい事が頭をよぎるくらい疲れていた。マラソンでもしてきたとしか思えないほどの大量の汗が首を伝う。

誰もが、安堵していた。

やっと終わった。俺達は勝ったんだ。この長く苦しい裁判を、勝ち残ったのだ。

そこまで考えて、自分自身に寒気がした。

スポーツの後に感じるのは、高揚感だ。

 

今まで端部や高堂や勝卯木の投票直後に、こんな気分になった事はない。

クロを突き止めた事を、俺達は素直に喜んでしまっている……?

 

「違いますよ。」

 

「……え?」

 

重くて仕方のない頭をあげる。目の前で柳原が覗き込んでいた。

 

「宮壁さんは、さっきまで命の危機に立たされていた。だから緊張が解けて、安心しているだけ。みなさんも同じです。みなさんはこの裁判に自分の命がかかっている事を、投票先を間違えかけて初めて、本当の意味で自覚したんです。」

 

……なんで、お前……俺は、まだ何も声に出して言ってない……。

 

「声に出さなくちゃ何を言っているか分からないなんて、不便じゃないですか?」

 

意味が分からない。俺は何も話していないのに会話が成立している。

 

「えっと、宮壁くん、何か喋ってる?柳原くんが独り言を言っているようにしか聞こえないんだけど……。」

 

「いや、何も喋ってない。」

 

「は……?」

 

「どういう事、かな……。」

 

篠田と東城が目を見開く。

まるで牧野じゃないか、いや、声に出さなくても会話ができるなんて牧野の比じゃない。

 

柳原は軽い足取りで自分の席に戻って行く。足音1つ立たない、まるで……。

 

「ずっとおかしかった。アンタ、そんな怪我してる癖になんで足音すら無い訳?」

 

「あ?」

 

大渡も息を整えながら周りの状況を把握していく。

 

「アンタの歩き方、『アタシに似てる』。いや、アタシはそんな怪我してたらその歩き方とか無理だけど……。」

 

「難波さんの歩き方、おれ、好きですから。」

 

その顔は、何を考えているのか一切分からない『普段の柳原の顔』だった。

なんだよお前、もっと感情豊かな奴だったじゃないか。そんな勝卯木みたいに、いや、勝卯木よりももっと無機質な……。

 

…………は?

なんだコイツは。安堵による汗はいつの間にか油汗に変わっていた。

 

「なんでおれはこんな人達に負けちゃったんでしょうか。」

 

そんな中、少しの汗も緊張も疲れも感じさせない様子で、首謀者は立ち尽くしていた。

 

「モノパオさん、おかしいと思いませんか?この人達は何度も間違えかけていたんです。あのまま間違えてくれたらよかったのに、なんで今おれが負けているんですか?」

 

「それはもう宮壁クン達がお見事だったからだよ。オレくんも焦ったんだよ!?まさか本当にここで終わるんじゃないかってドキドキしてたんだから!」

 

「宮壁さん達が、お見事……?」

 

意味が分からないとでも言いたげな顔でこちらを見る。

 

……。

…………。

たしかに柳原のテンションや表情は普段と何も変わっていない。

だけど、裁判を終えた今1つだけ、明らかに変わっている事がある。

 

「こんな馬鹿な人達の、どこがですか?」

 

 

今の柳原は、俺達の知っている柳原じゃない。

 

 

 




今回の挿絵は一部別の媒体で描きました。
昔の挿絵が目も当てられないので消すか直すかしたいな、と思っています……。
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