ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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4章開始です。


Chapter 4『半劇消化、裂かれたヴェール。』
(非)日常編 1


 

 

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「た、たか、え、桜井!?」

 

「……?」

 

「な、なんで2人がここにいるんだ、ここは一体……!」

 

「あれ?ひかりん、今日のドS宮くん変だね。」

 

「うん。宮壁は何を寝ぼけた事を言ってるの?今更ここがどこだなんて。」

 

「…いや、俺がこんなところに来た事なんてないぞ…?」

 

「そもそも前提がおかしいよ。宮壁が来たんじゃなくて、あたし達が来たんだから。」

 

「うん……?ドS宮くん、記憶喪失にでもなってるの?」

 

「記憶喪失?そんなまさか。」

 

「でも、昨日も一昨日もその前も、ドS宮くんは美亜達とずっとここにいたよ?」

 

 

「……は???」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「……は???」

 

『オマエラおはよう!7時だよ!今日も元気に~?コロシアイ生活~!』

 

…………。

 

……朝の放送だ。

朝の放送?

 

「……っ!?ここは……!」

 

周りを見渡したけど、何の変哲もない自分の個室だった。桜井と高堂の姿はどこにもない。

 

「……おい、モノパオ!おい!起きてるだろ!来い!」

 

「もーうるさいなあ!何?昨日は机に突っ伏したまま倒れるから死んだかと思ったよ!」

 

「桜井と高堂はどこにいるんだ!?あれは何だ!」

 

「…………え、何それ……。」

 

「は?お前が何かやったんじゃないのか?」

 

「いや、オレくんただの一般ゾウだし…。きっと夢でも見ちゃったんだよ!裁判があった日にもう会えない人に会えるなんてすっごくいい夢を見たんだね!」

 

モノパオはそのまま、俺の返事も聞かずに消えてしまった。

 

「モノパオにも分からないのか?結局何だったんだ……。」

 

「……。」

 

昨日の出来事が頭をよぎる。裁判が終わったのは夕方で、そこからずっと寝ていて、今は朝。それも机で寝ていたのだから、道理で体中がみしみしと音を立てる訳だ。

喉も渇いているしお腹も減っている。そろそろ食堂に行こう。

 

 

 

「あ、大渡。お前も食堂に行くのか?」

 

「……。」

 

「あのなあ……。」

 

いつになったら大渡とまともに会話ができるんだ。無視して歩いていく大渡を追う。

 

「大渡は大丈夫か、変な夢を見たとか…。」

 

「朝からしつけぇな。」

 

「……。」

 

 

「宮壁と大渡か、珍しいな。」

 

「篠田……。おはよう。」

 

「おはよう。生憎食事はできていない。アナウンスより早くから食堂に来るような人はいないからな。」

 

「そうだな。」

 

朝ごはんの準備をするために厨房に入る。厨房はもう綺麗になっていた。そういえば、昨日は疲れすぎて結局皆の個室を見る事もできなかったな。安鐘の動機も分からず仕舞いだ。

適当に食パンを焼く。体が痛いし、なんだかもう一度眠った方が良さそうな気がする。

 

「篠田、他の3人はどこにいるんだ?」

 

「……前木と東城は見ていない。」

 

「?難波はいたのか?」

 

「また新しく開放されているエリアがあるらしい。その探索を先に始めているとの事だ。」

 

「そうか。」

 

「宮壁も思うだろうが、昨日から難波の様子がおかしい。見張っておくべきだ。」

 

「見張りって……。」

 

「今生きている全員、秘密が誰の元に渡っていたのか明らかになっていない。動機を抱えているも同然な状況で不審な動きをされて、信用などできる訳がないだろう。」

 

篠田は厳しい目で俺を睨みつける。

『信用できない』そんな言葉が俺にのしかかる。

 

「宮壁、私はお前の事も信用などしていない。自分の行動には気をつける事だな。」

 

そう踵を返して、コップを片手に出て行ってしまった。

 

「チッ、勝手な奴ばかりだな。食堂に来るのも気が滅入る。」

 

大渡も篠田を呆れたように見送ると、さっさと食糧を見つけて出て行った。

 

誰もいなくなった食堂で、1人ため息をつく。3度の裁判を乗り越えたその結果がこれか。俺達の間に絆や仲間意識が芽生えるどころか、それを昨日粉々に砕かれてしまった。

信用、か。

どうにかここから積み上げていかないとな。

 

「おはよう……あれ、宮壁くんだけ?」

 

「前木。」

 

「昨日は全然寝てなかったから少し遅くなっちゃった。皆は?」

 

「……見ての通り、バラバラになったよ。」

 

「そっか…。」

 

前木も悲しそうに目を伏せた。

 

「前木はちゃんと寝れたか?」

 

「う、うん!寝たら少し元気になった気がする。あ、二度寝はしてないよ!」

 

「あ、ああ。」

 

気まずい。前木の才能、これについても昨日分かった。前木にはあまり気負ってほしくにないけど、放置する訳にはいかないんだろうな…。

 

「食パン食べるか?無駄に焼いちゃってさ。」

 

「ありがとう。」

 

2人でもそもそと朝食を済ませる。

 

「新しい部屋が開いているみたいなんだ。皆を集めて探索が出来たらいいなと思うんだけど。」

 

「じゃあ、皆を集めるところから始めないとだね。昨日はあれから紫織ちゃんと話せてないし、探したいな…。私を利用したって言った事、気にしてないよって伝えたくて。」

 

「悪いな、難波だけは見当たらなかった。」

 

「瞳ちゃん!」

 

いつの間にか篠田が戻ってきていた。後ろにはコーヒーを飲んでいる東城と不服そうな大渡がいる。

 

「宮壁、私も他の奴等のように自由に動いていると思ったのかもしれないが、そこまで非協力的ではない。全員を呼びに行っていただけだ。」

 

つまり東城の持っているコップはさっき篠田が食堂から運んでいたやつなのか。

 

「そ、そうなのか。ごめん。」

 

「信用はしていない、それは事実だ。しかし、この状況で協力なしでできる事も少ないだろうからな。難波は近くにはいないようだ。個室も反応がなかった。」

 

「そうなんだね……じゃあ、この5人で探索をするの?」

 

「二手に別れよう。5人は効率が悪くないかな。」

 

東城の提案で適当に別れる。何故か俺は前木達と同じ女子組になった。

 

「では、昼頃に再び食堂に集合でいいだろうか。その時に探索以外の話もするつもりだ。」

 

「俺は賛成だ。」

 

「分かった!」

 

「じゃあまた後で。」

 

東城と大渡、何を話すんだろうか……。

 

 

 

「そうだ、言っておきたい事があったんだけど、いいかな?」

 

「なんだ?」

 

「昨日、東城くんから私の秘密が返されたの。私の才能の話が明かされたから、もう渡してもいいだろうって。でも、大した事は書いてなかったよ。昨日の私の幸運の方がよっぽど…って感じの内容だったから、安心してほしいな。」

 

「そうか。見せてもらう事はできるだろうか。」

 

「そう聞かれると思って持って……あれ、入ってない…。入れてきたはずなんだけどな。」

 

「……。」

 

今日は、不運だもんな……。

 

「ちょ、ちょっと待ってね!」

 

前木は自分の秘密を個室の前に落としていたらしく、恥ずかしそうに秘密の内容……『学習発表会で両親への感謝の手紙を読みながら号泣した事』というなんともかわいらしい話をしてくれた。映像は当時家族が撮ってくれたものだったらしい。

 

「……待て、おかしくないか。」

 

「え?そんな重要な話じゃないと思うけど……。」

 

「高堂の弟の病室のカメラもそうだし、柳原の家族の映像もだ。何故黒幕側の人間は、私達のプライベートの映像を入手する事ができている。前木の映像に至っては、家族が撮ったものなのだろう?」

 

「たしかに……。な、なんでだろう。そう考えると怖くなってきたよ…。」

 

「まだ謎は深まるばかりだな。……ついでに言っておこうか。私の秘密は『才能がスパイである事』だった。後で話し合いの際に持って行く。」

 

「どうして篠田は自分の秘密を知ってるんだ?」

 

「……昨日、モノパオから返された。死んだ人間が持っていては渡せないからと言ってな。めかぶが持っていたらしい。」

 

「……!」

 

「めかぶは私の才能を知っても、私の事を信じていてくれた。私個人が皆を信じるかは別問題として、めかぶが信じたお前達に私が協力を惜しむ理由はない。私の知っている事は後で詳しく話そう。」

 

「……ありがとう、瞳ちゃん。」

 

前木も瞳を潤ませながら篠田に微笑んだ。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

電子生徒手帳のマップを確認しながら、3階に上がる。2階の部屋はまだ解放されていないみたいだ。

 

 

 

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「わ……!プラネタリウムだって!行ってみようよ!」

 

前木と同じく、俺の目を引いたのもプラネタリウムだ。どうやら共有棟の最上階に設置されているらしい。この建物の形も徐々に想像がついてきたな。

他にも開放されている部屋はあるけれど、まずは期待を膨らませて共有棟に向かう事にした。

 

「ここは2階と違って渡り廊下があるのだな。温室だけは1階か3階からエレベーターを経由しなければ行けないのか。」

 

「そうみたいだな。」

 

なんて適当な話をしながらプラネタリウムに入る。たくさんの椅子が並んでいる中央に、投影機が設置されている。思ったより本格的みたいだ。他の部屋とは違ってぼんやりとしか明かりが灯っていないけど、こういう程よい暗がりはテンション上がるな。

 

「……これがプラネタリウムか。初めてだ。」

 

「そうなの?時間があったら一緒に見ようよ。楽しいよ!」

 

「ああ。」

 

やっぱり篠田、前木には少し優しいよな。気のせいかと思っていたけど、俺にはあの対応だったし…と今朝の会話を振り返る。

 

「宮壁くんも見る?」

 

「え、ああ、もちろん。」

 

「やった!」

 

特に怪しいところはなかったのでプラネタリウムを後にし、今度は反対の行事棟に入る。

 

「えっと、ここは展示室みたいだな。」

 

展示室には、骨董や絵画、その他芸術作品が並んでいた。星の模型なども飾られている。展示室というだけあって各ブースに分かれて物が置かれており、博物館に来たような気分になる。

 

「……これは、カラスの剥製か。そういえば下の理科室にも人の臓器が置かれていたような……篠田?」

 

見ると、篠田が1つの棚の前で立ち尽くしていた。

 

「瞳ちゃん、どうしたの?」

 

「見ない方がいい、死体のようなものだ。」

 

「……え?」

 

その言葉に思わず棚を覗き込む。

 

『超高校級の設計士の肺』

ホルマリンに漬けられた臓器の下のプレートにそう書かれていた。

 

「超高校級って、まさか……!」

 

「以前のコロシアイに巻き込まれ、命を落とした人の物だ。」

 

「な、なんでこんなところに……!」

 

「私の方が知りたい。」

 

篠田は立ち上がって芸術品の方に戻った。前木はおろおろと篠田の後をついていく。

棚に飾られている他の物も見てみると、どの臓器や骨も超高校級の人達……つまり、篠田と共にコロシアイに巻き込まれていた人達の物のようだった。

 

「理科室にも人の脳があったんだ。あれも関係あるのかもしれない。」

 

「……私の考えになるが、あの理科室で展示品として完成させたものをここに運んでいたのだろうな。あの人達をなんだと思っているのか……。火災として隠蔽した癖に、展示だと?ふざけるのもいい加減にしてくれ。」

 

篠田は拳を震わせ、必死で怒鳴りたいのを耐えているようだった。

 

「……。」

 

「ま、展示品には目当てのものはないでしょ。アタシもそろそろ出るわ。」

 

嫌な気分になったまま、俺達は展示室を出た。

……ん?

 

「し、紫織ちゃん!?今までどこ……って、え?今、私達と一緒に展示室から出てきたよね!?」

 

「え、うん。何?」

 

「いや、何って……皆お前の事を探してたんだよ。篠田が呼びに行こうとしたのに見当たらないし。」

 

「あー、ごめん。てかアンタ達、展示室の裏は見なくていい訳?」

 

「裏だと?」

 

「展示室ってイベントホールとかプールと同じ広さのわりに少し狭いじゃん?……見てもらった方が早いか。ちょっと来て。」

 

難波の後に続く形で展示室に戻る。いろいろなコーナーを抜けてゾウの子どもの剥製の棚に辿り着く。

 

「ゾウ……モノパオとつながりがあるのか?」

 

「ここの横に……これ。」

 

「仕掛け扉か。この棚がスイッチになっているのだな。」

 

棚の側面のへこみを押すと、壁の一部がずるずると上がっていき、人1人が通れる程の入り口が現れた。

 

「朝からこれ見てたら遅くなったって事。」

 

「難波、さすがだな。」

 

「これでも怪盗やってるからね。……て訳で、これが資料室。マップには書かれてないけど。」

 

資料室は薄暗く、展示室の明かりを借りてどうにか中の様子が分かる感じだった。

決して広くないが、ところ狭しと並んだ本棚やガラスケースの中に、分厚いファイルや書籍が並んでいる。

 

「ちょっと字を読むには暗いけど、紫織ちゃんは平気なの?」

 

「もちろん懐中電灯持ってるから。そんな手ぶらで探索する人なんている?」

 

「……。」

 

いたたまれない気持ちになって目を逸らす。今度からは俺も懐中電灯を携帯しよう。

難波は懐中電灯で棚を照らすと一冊のファイルを取り出した。

 

「生徒名簿?最近のだね。」

 

「これにアタシ達の情報が載ってた。全員個人情報に変なところはないんだけど、このページを見て。」

 

難波が見せてくれたのは係のページだった。他の学年の特別学級の面々の事も書かれているが、そもそも……。

 

「俺達の特別学級での生活がここに示されているのか。」

 

「私達がなくした記憶の情報って事だよね?瞳ちゃんは何か覚えているものはある?」

 

「……今制偽学園の大学に進学しているはずの首謀者、勝卯木蓮と直接連絡が取れるのは各クラスの学級委員だけだったはずだ。生徒会長であった勝卯木蓮と繋がりがあると考えられるのはその人しかいない。」

 

「つまり、学級委員が怪しいって事?えーと、アタシ達の学級委員は……」

 

ページをなぞっていた難波の指が止まる。

 

 

「高堂光。」

 

 

「……この考えは間違っていたのだろう。高堂は死んだ。繋がりがあったとしてもここにいないのであれば何の情報にもならない。」

 

篠田がそう結論づける中、俺は今朝の夢の内容を振り返っていた。あれは何だったんだ?

情報⑧[高堂光は、特別学級の学級委員だった。]

 

「待って、このファイル、ところどころ切り取られてるよ。この係のページもだし、私達の個人情報のページも!」

 

「えっ?」

 

「よく考えたらおかしいな。この特別学級には『私達の名前しかない』。」

 

「……どういう事だ?」

 

「宮壁、特別学級の仕組みを思い出してくれ。」

 

……特別学級は、毎年制偽学園が「才能があると判断した生徒15人」で構成された特進クラスだ。

改めてファイルに記載された名前を見る。大渡、桜井、篠田、高堂、東城、難波、端部、前木、牧野、三笠、俺、潜手、安鐘、柳原。

 

「あ、勝卯木の名前がないのか。」

 

「そもそも勝卯木は特別学級の人間ではない。ここに載ってないのは当然だ。」

 

「…!じゃあ、ここのページで切り取られているのって……!」

 

俺の言葉に篠田も頷いた。

 

「……このファイルには、このコロシアイに巻き込まれている私達14人の名前だけが記載されている。つまり、『コロシアイに巻き込まれていない本来の私達のクラスメイト』の情報がない。」

 

今まで考えもしなかった。たしかにそうだ。特別学級は全部で15人。これに例外はない。俺達はすっかり失念していた。勝卯木が特別学級の人間だと偽っていたのであれば、当然ここにいない超高校級の人間がいるという事じゃないか。

 

「ソイツが裏切り者なんじゃね?アタシはそう思ってるけど。」

 

「た、たしかに……私達が巻き込まれて、その人だけ巻き込まれていないのはおかしいもんね。瞳ちゃんはその人について覚えてる事ってある?」

 

「いや……私も全く覚えがない。今の今まで考えてもいなかった。つまりそれは……」

 

「篠田の記憶からも隠すべき真実だって事になる。」

 

くそ、こんな大事な事をなんで今まで忘れていたんだ…!

あの時思いついていれば勝卯木に聞けたのか?もっと頭が回っていれば……今更悔やんだところで仕方がないし、裏切り者なら何か知っているかもしれない…。

 

「待て、裏切り者はこの中にいる、勝卯木はそう言ってたよな?」

 

「モノパオの中の人が本当に裏切り者なのかも分かんねーじゃん。普通に考えるなら黒幕ってこう、裏でいろいろやってるイメージだし。」

 

「紫織ちゃんが見つけた時からこのファイルはこうなってたの?」

 

「……そう。他のも読んでみてるけど、モノパオが見せてもいいと思った情報しかないのかもね。」

 

「でも、今までの探索に比べたらかなり大きな情報になるかもしれない。もっと読み込んでおきたいな。」

 

「じゃあそのファイルは宮壁が持ってれば?アタシはもう一通り読んだしいいわ。」

 

「そっか。2人は俺が持っておくのでいいか?」

 

「ああ。」

 

「うん。よろしくね。」

 

そんな訳で、俺はこの『制偽学園生徒情報ファイル』を手に入れた。

帰ったらもう一度詳しく読んでみるか。

 

「じゃ、アタシはこれで。」

 

「あっ、紫織ちゃん、待って!」

 

難波は俺達が止める間もなく立ち去り、前木がその後を追って行った。

ここからは俺と篠田で探索をしよう。

 

 

他に空いているのは物置の奥の部屋……防音室に入る。

音楽室のような重厚な壁に囲まれており、声を出してもほとんど反響しなかった。音の反射を防ぐ構造になっているみたいだ。

 

「ゲームセンターも防音加工がされていたが、こちらもかなりしっかりと騒音対策がされている。」

 

「マイクがあるって事は、スピーチとかをする部屋なのか?」

 

「そうかもしれないな。奥に舞台とスピーカーがあるのがその証拠だろう。」

 

大学の教室のように舞台が一番低く、後ろの席ほど位置が高い造りになっている。舞台の上に立って席を見渡してみたけど、こういうところに立つのは気が引けるな。

 

「奥に楽器もいくつか保管されている。ここで弾く用らしい。」

 

「なるほど。……今回新しく開放されたのはこの3階の3部屋だけか。」

 

「まだ全て開放される訳ではないようだな。」

 

たしかに、たった3部屋というのは少ない気もする。

だけど、その部屋数に見合う情報があると信じるしかないな。そっとファイルを抱え直した。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「あはは、紫織ちゃんったら!」

 

「何ー?琴奈笑いすぎ。」

 

食堂に戻って1番最初に目に入ったのは仲睦まじく談笑する前木と難波の姿だった。すっかり今までと同じ雰囲気になった難波を見て安心する。

東城と大渡は俺達より先に帰ってきていたらしく、その4人で俺と篠田を待つ形となっていた。

 

「全員集まったようだね。今回も探索の結果を報告していこう。」

 

東城は白衣からメモ帳を取り出すと声をあげる。というか、探索中どこにもいなかったけど東城と大渡は何をしていたんだ?

 

「では、まずは私からだ。」

 

篠田が手を挙げる。

 

「私は新たに開放された部屋、プラネタリウム、展示室、防音室を見て回った。プラネタリウムはかなり広く、上映もできるようだった。防音室はマイクやスピーカーの音響機器と楽器があった。簡単なホールのような造りになっていた。」

 

「展示室には何が?」

 

「……。まともな物も置かれていたが、基本趣味の悪い展示だ。」

 

思い出してしまう。きっとあの中には、篠田がコロシアイの中で仲良くなった人もいただろう。知らない人の物でも若干見るのが苦手なのに、展示されている物が友達の死体だなんて考えただけでもぞっとするな…。

 

「瞳ちゃん、大丈夫……。」

 

前木がそっと肩を震わせる篠田の背中を撫でる。

 

「……じゃあ、アタシが途中から説明するわ。」

 

「難波さんはどこにいたのか、まず説明してほしいな。」

 

「アタシは展示室の奥にある隠し部屋、通称資料室を調べてた。奥のゾウの剥製の棚に入り口を開けるスイッチがある。」

 

「チッ、また隠し部屋かよ。」

 

「え、また?」

 

「大渡くん、ボク達の話は後でいい。口を挟まないでくれるかな。」

 

「うぜぇな……。」

 

大渡が中途半端な事を言うから気になるけど、とりあえず難波の話を聞こう。

 

「資料室にはその名の通りいろいろな資料、特に、制偽学園についての情報が記されたファイルや文書が保管されてた。そこまで埃っぽくはないから、おそらくモノパオも存在を知っている。アタシ達に見せても問題ない情報しかないって訳。」

 

その後、俺達の気づいた事…15人目のクラスメートの話を共有した。

 

「ついでに言うならこの人物についての記載が切り取られたのもかなり最近だと思ってる。このファイルだけやけに綺麗だったから。」

 

「なるほど。なかなか興味深い……いや、重要な情報になりそうだね。何故その人物はここにいないのか、だとすればどこにいるのか。」

 

「ね、ねえ、そういえば、個室って一部屋開放されてないよね……?」

 

「あ、マジじゃん。琴奈も冴えてんねー。」

 

「そういうのじゃないよ…!でも、蘭ちゃんの隣だったし、ちょっと気になるよね。」

 

「かなり気になるけれど、今すぐどうにかできる問題ではないだろうね。」

 

あの個室に、俺達の本当のクラスメートがいるっていうのか?裏切り者でもない限り一度も会わないなんて変だもんな…。

 

「それで、東城と大渡は何を見つけたんだ?その口ぶりからして……」

 

「うん。ボク達も隠し部屋を見つけたんだ。キミ達も2階だけ渡り廊下が無い事は気づいているよね。3階の渡り廊下に、下に降りる梯子を見つけた。」

 

「2階の渡り廊下がなくてマップにも記載されてないのは、隠し部屋になってたからって訳ね。マジでここ謎の空間多すぎでしょ…。」

 

「それで、その空間には何があった。」

 

「……チッ。展示室と似たようなモンだ。」

 

「え?」

 

「今までここで死んだ人の遺体が保管されているようだった。そういう施設があるなら尚の事、犯罪者をあのような殺し方で殺す事は無意味だと思うのだけれどね。」

 

「アンタ、まだそんな事言ってんの?」

 

「そういう性分だからね。いつまでも言うよ。」

 

くそ……!東城の馬鹿、何余計な事言って空気を冷やしてるんだ!

 

「……。で、全員いる事は確認した訳?」

 

「それが、使用されている保管庫にはカードリーダーがついていてね。玄関ホールのクリアケースからいろんな人の電子生徒手帳を持ってきて試したのだけれど、どれを重ねても反応しなかった。」

 

「そもそも使用されている保管庫が7つ。死んだ奴の数と合わねぇ。」

 

「……は?」

 

今まで死んだのは桜井、端部、牧野、高堂、安鐘、三笠、勝卯木、潜手、柳原の9人だ。2つも違うなんて。

 

「生きて、いるのか?」

 

篠田が呟く。

 

「いや、しかし、今の状況で生きていてもいい意味ではないだろうな。忘れてくれ。」

 

そりゃ、俺もあの中の誰かが生きていたらなんて考えるけれど、そうだとした場合、その人が俺達と同じ単なるコロシアイ参加者とは考えにくい。死んだ奴まで疑うのは、やめておきたい。

 

「なあ、その保管庫の開け方をモノパオに聞く事ってできないのか?」

 

「もー!オマエラ、何を根拠に死者まで容疑者にしてんのさ!」

 

「モノパオ。」

 

「反応薄……。って、まあそれはおいといて、あの保管庫は全部で10個しかないの!すぐ埋まっちゃうと思って、死んで小さくなった奴はまとめてるんだよ!だから死んだ人数より少ないの!ちなみに腐るのが早くなるから開けません!オレくんが持ってるカードでしか開けられないからね!」

 

「東城、10個しかないっていうのは本当なのか?」

 

「そうだよ。まあ、そのモノパオの説明で筋が通っていないとは思わないかな。」

 

「そうか。じゃあモノパオ、いつでもいなくなっていいぞ。」

 

「ちょっと!宮壁クンは少し前までぼっちだった癖にイキっちゃって!」

 

「イキってない!」

 

モノパオは好きな事を言い散らかすと消えていった。

 

「それよりも、探索を終えた今、ボク達には早急に話さなくてはならない事がある。違うかな。」

 

「……そうだな、先にその話をしてしまおう。篠田。」

 

「分かった。前回私が経験したコロシアイとその顛末について、覚えている事は全て話す。」

 

篠田は自室から持ってきたと思われる封筒をテーブルに置いた。中の紙には先ほどの発言通り、『篠田瞳の才能はスパイである』と記されている。

 

「了解。」

 

「まずは私が所属している組織についてだ。」

 

「正式名称は出せないから篠田家と呼ぶ。一言で言うなら反社会勢力だ。私は孤児だったところを篠田家に拾われ、ずっとスパイとして育てられた。前回の裁判でも言った通り篠田家の目的も超高校級の悪魔であり、その才能を持つ者を探りあわよくば持ち帰る事を目標に私を送り込んだ。」

 

「……なるほど。」

 

「コロシアイでは昨日説明した通りだ。5回事件が起き、死者は10名。生存者の中に勝卯木蘭の兄、勝卯木蓮がいた。」

 

「他の人達はどうしてるか分からないんだったよね……。」

 

前木の言葉に篠田は頷く。

 

「…だが、今はそんな事を気にしている場合ではない。後話すべき事は、外の様子についてだな。結論から言うと、治安の悪化が凄まじい。外的要因があるのか否か、普段組織の外に出たり情報を入手したりする事のなかった私には分からない事の方が多い。勝卯木蘭も自分より詳しい人がいると言っていただろう。これについて知るにはその人物を探るべきだ。」

 

「なるほど。あまり成果は得られないね。」

 

「私もあのコロシアイが隠蔽された事は知らなかった。記憶の改ざんは私にも例外なく行われているはずだ。……先ほど難波が見つけたファイルと同じで、私の記憶も黒幕にとって都合の悪い物は消去されているのだろうな。」

 

「そんな……こんなにいろいろなものが消えてるのに、私達は何が消えたのか思い出せないなんて……。」

 

「俺達はよっぽどすごい技術を相手しているのかもしれないな……。」

 

話に一段落つくと、

 

「分かった。じゃあアタシはこれで。」

 

「な、難波。」

 

「何?」

 

「どうしたんだよ、お前……最近変だぞ。」

 

「……宮壁はそんな事言ってないでファイルでも読めば?アタシにも用事があんの。」

 

「待っ……!」

 

難波は言う事を聞かずに出て行ってしまった。

 

「チッ、こんな報告会で親睦が深まる訳ねぇんだよ。」

 

「誰が言ったんだそんな事。」

 

「そこの化学者だが?……帰る。」

 

「は?東城が?っておい!大渡!」

 

食堂には東城、前木、篠田、俺が取り残された。

 

「東城、お前が親睦なんて言葉……。」

 

「……そうじゃない。」

 

「?」

 

「違う……ボクは何も知らない……知らない、いや、知らないだけで、ボクも忘れているのだとしたら……?」

 

「東城!」

 

肩を強く叩くと我に返った様子で振り返った。

 

「急に何かな。痛いのだけれど。」

 

「え、あ、いや……お前も大丈夫じゃなさそうだからさ。」

 

「……薬を飲めばどうとでもなるよ。お気遣いありがとう。」

 

 

「ね、ねぇ……。」

 

前木が不安そうにつぶやく。

 

「私達、大丈夫かな……。」

 

「……どうだかな。」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

ひとまず個室に戻った俺は、持ち帰ったファイルをよく読んでみる事にした。

 

「著者は勝卯木市造。勝卯木のおじいさんだったな。印鑑もあるから本物で間違いない。」

 

制偽学園の校則、校歌、歩み……様々な情報が並ぶ中、自分達に関するページを見つけた。

 

「……高堂。」

 

まさか今朝の夢に出てきた彼女を怪しむ時がくるなんて。他にもっと情報はないか……。

 

「なんだこれ。3年生で行う、学習合宿……?」

 

そんな行事があったのか。

何よりも驚いたのはその行事で使用される施設だ。写真に写っている教室や食堂は俺達がいる場所と全く同じだったのだ。

 

説明によると特別学級の生徒は、3年生の夏に1ヶ月ほど学習合宿という宿泊行事があるらしい。才能を伸ばすための実技的な授業をこの夏に詰めて行われるようだ。

つまり、この建物は正真正銘制偽学園の管轄って事だ。だけどコロシアイに踏み切ったのは勝卯木蓮を含む数名だって言っていた。勝卯木蓮の持つ権力が想像より遥かに大きいのか、あるいは学園が機能していないのか。他には……。

 

「……世間からは俺達が学習合宿に行っていると思われているのか。」

 

いろいろ考えてみても埒が明かないな。

気分転換に少し散歩してみよう。

 

 

 

そんな俺が来たのは図書室だ。なかなか誰にも会えないから暇つぶしに逃げるという訳だ。

 

「そうだ、レシピ本でも見てみるか。」

 

せっかくの機会だ、何か新しい料理でも覚えてみるのはいいかもしれない。パラパラとパスタのレシピをめくる。

 

潜手がここでフレンチのレシピを読んで、隣で柳原が推理小説を読んでいたっけ。ふとそんな光景が頭をよぎった。

最近の話なのに、俺達は確かに2人が死ぬところを見たけど、それでも信じられなかった。

 

「よし、潜手や安鐘みたいに上手くは作れないけど、がんばってみるか。」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

いろいろなレシピを見ながら数種類スパゲッティのソースを作ってみた。麺は一玉茹でたものをそれぞれのソースにつけて食べる予定だ。

 

「わ、いい匂いがすると思ったら宮壁くん、お料理してたの?」

 

「夕飯か?」

 

「前木に篠田。夕食にどれか作ろうと思って、いろんな種類のソースを試しに作ってみたんだ。よかったら味見してくれないか。」

 

「いいの!?」

 

前木はうきうきしながら厨房に手を洗いに行った。篠田はじっと自分の爪を見ているので声をかける。

 

「篠田は手を洗わないのか?」

 

「いや、さっき洗ったのだ。前木がマニキュアを塗ってくれた時にな。」

 

「なんだよ、2人も楽しく過ごしてたんだな。」

 

「気を張る事ばかりだから、今日くらい息抜きしようって誘ったの!紫織ちゃんにも声をかけたんだけど、忙しそうだったから……。あ、でも、宮壁くんも知っての通り、だいぶいつもの紫織ちゃんに戻ってると思うよ!」

 

「そっか。良かった。」

 

「最初はそんな気分になれないと断ったのだが、前木がどうしてもと言うのでな。」

 

「瞳ちゃん!どうしてもっていうか、どうにかして瞳ちゃんに休んで欲しかったんだよ!」

 

「ふふ。」

 

「!ね!宮壁くん!瞳ちゃん、笑うとすっごくかわいいの!」

 

「え、ああ……。」

 

「見るな。」

 

篠田にギロリと睨まれた。

 

「あぁ、戻っちゃった……。」

 

とはいえ、少しは恥ずかしそうにしてるんじゃないかと……思いたい、希望的観測。

 

 

「私はトマトが好きかも!全部おいしいけど……。」

 

「私は……このほうれん草の入ったものだろうか。」

 

「なるほどな。2人ともありがとう。」

 

「いえいえ!こちらこそいっぱい味見させてくれてありがとうだよ!」

 

「宮壁は料理が手慣れているな。生活力がある。」

 

……うわー。三笠にも似た事言われたな、なんて思うと、ふと泣きそうになってしまった。

 

「宮壁くん?」

 

「いや!何でもない!今日はトマトクリームにしようかな。」

 

「おー、私と瞳ちゃんの意見を合わせたんだね。」

 

「どちらも得ようとした訳か。」

 

「人聞き悪すぎるだろ。」

 

なんて他愛のない会話を交わし、夕食は2人の手伝いもあって無事においしいトマトクリームスパゲッティを皆に振る舞う事ができた。

俺には厳しい難波も珍しくグーサインを出してくれたので、やっぱりレシピ本様様だな。潜手が見ていたようなものも作れるように練習してみよう!

 

 

 

「……ふう。」

 

そして今は再び個室に戻ったところだ。

 

『夜時間だよ!オマエラ、早く寝ろ!』

 

雑で不快なアナウンスを聞いたところで久しぶりにゆっくりした心持ちでベッドに入る。この個室もすっかり自分の部屋みたいな匂いがするようになったな……と思いながら布団を口元までかける。

嫌な事もあったけど、こうやってゆったりした気持ちで眠れるのはいい事だ。

昨日しっかり寝た事もあって、だいぶ精神的にも安定している気がする。

 

(まだまだいけるよ、ミンナなら。まだ苦しんでないもん。)

 

そんな勝卯木の言葉がよみがえる。これ以上苦しんでたまるか。

……嫌な気持ちになりそうだったので、アイマスクをして無理矢理眠る事にした。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「……。」

 

「珍しいね。キミがボクに何の用?大渡くん。」

 

「死体保管室に何があった。俺に隠れて何か見つけてただろ。」

 

「それに気づいていたのに、皆の前では何も言わずにいたのが不思議で仕方ないよ。」

 

相変わらず無言で睨み続ける大渡に、ついに観念したように東城は手を挙げた。

 

「血痕だ。」

 

「……あ?」

 

「誰の物か分からないから今から調べに行く。ボク1人で全てやるつもりだったけれど丁度いい、大渡くんも協力してくれないかな。」

 

「帰る。」

 

「待ってよ。桜井さんの血かもしれないよ。」

 

「……。」

 

「前から思っていたけれど、大渡くんはあれだけ散々な物言いをしていたわりに桜井さんの事をとても気に入っ……!」

 

東城の頭に木札が飛ぶ。

 

「過度な暴力は犯罪だよ。」

 

「それ以上言うなら殺す。」

 

「馬鹿だな。殺したらキミもおしおきされるよ。」

 

「知るか。」

 

「……交渉決裂だね。じゃあ1人でやってくるよ。血痕が落ちていた事は誰にでも言うといい。」

 

「……。」

 

 

「本当はもう1つ違和感はあったのだけれど、それは今言う必要はないか。」

 

「ボク達より先に死体保管室に入った人がいる。足跡から見てヒールのある靴を履いている人だから……うん。どちらかが『血痕のあった場所に落ちていた何か』を持ち去っている。」

 

「はぁ。皆が怪しすぎて話にならない。」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「……。」

 

『やあ!ここに辿り着いたという事は、君も正義の怪盗団に加わりにきたんだね!?』

 

『そうだろう、我々は偉大な怪盗団として世界を股にかけているのさ!』

 

「……ヒョウガさん。」

 

『うふふっ。じゃあ、今日からアナタもワタシの仲間入りね。』

 

『早速一緒に出かけましょう?怖くないわ。夜はワタシのお友達。』

 

「ヴィラさん…。」

 

『はぁ、なんで僕が君についたいかなくちゃいけない訳?』

 

『行くよ紫織!僕の足引っ張んないでよ?』

 

「ジャスパー……。」

 

もうその3人には会えない。

 

いつまでもこんなところにいる訳にはいかない……。

 

「……絶対に裏切り者を炙り出す。悪魔でもいいけど、裏切り者の方が可能性は高いか。」

 

 

探索中、死体保管室で見つけたある物。これはきっと、数少ない『裏切り者のミス』だ。

この謎が解けたら、コロシアイだって。

 

 

 

「コロシアイを終わらせるのは、アタシだ。」

 

 

 

 

 

 

 


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