ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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4章も折り返しです。
ここで言う事が何もないのでおまけ話をすると、今回の章タイトルは全てひらがなにすると違う意味にとれます。是非。


(非)日常編 3

 

 

 

 

 

 

「大希くん、今日から君は私と暮らす事になった。よろしくね。」

 

「君の両親…私の弟がまさか…。驚いたよ。だけど何よりも驚いたのは…………………」

 

「……大丈夫。今日から君は私の家族だ。まだ混乱してるかもしれないけど、私の事は信じてほしい。」

 

 

これは、叔父さんと出会った時の…。母さんと父さんが死んで、ショックを受けていた俺を養子にすると言ってくれた時の記憶だ。

 

 

「え?大希くんのお父さんが昔どんな人だったのか?んー、まぁ、自慢の弟、とは言い難かったけど………」

 

「ほら、思い出そうとしたらつらくなるだろ。あれは【事故】だ。そう思ってなさい。」

 

 

事故、交通事故だ。両親が死んだのは交通事故のせい。そう思わなきゃ、だって俺を助けてくれた叔父さんがそう言ってるから。

 

「この高校から最近すごい郵便が来るな。大希、高校が決まらないなら制偽学園もありなんじゃないか?勿論どこに行きたいかは大希に任せるけど。」

 

「ははっ、わかった。じゃあ受験手続きは進めておく。勉強がんばれよ。」

 

 

そうだ、懐かしいな。叔父さんに薦められたんだ。だから勉強をして……。

 

 

「お!特別学級、入れる事になったのか!おめでとう!わざわざ電話するなんて珍しいな、今日はケーキだ。」

 

 

そう、俺は、叔父さんみたいになりたくて、叔父さんに感謝してるから…………

 

 

「両親の事をあまり覚えていない?……思い出してもつらいだけだろう。どうしても思い出したいなら止めはしないが。」

 

俺はここで断った。もういらないと思ったから。俺の家族は叔父さんだけだと思っているから。

 

 

 

 

 

 

『宮壁大希の両親は事故死ではない。超高校級の悪魔に殺された。』

 

 

 

 

 

 

「はっ……はっ、はっ……。」

 

滝のように汗を流して我に返る。

 

前木が頑なに隠していた秘密は俺のものだった。

そこに書かれていた文章。

俺はずっと、両親は事故で死んだのだと思っていた。

叔父さんがそう言ってたから。

違った。事故じゃない。

叔父さんは隠していた。正確に言えば、俺がパニックを起こさないために黙っていた。

 

今思い出した。

両親は、目の前で自殺したのだ。

 

なんで自殺をしたのか、両親はどんな人だったのか。それはまだ思い出せそうにない。

だけど、悪魔にやられたのであれば……両親は、悪魔に自殺するよう『説得』させられたんだ。

 

俺の両親を殺したのは悪魔。

それがこの中にいる。コロシアイが終わっていないのだから、まだ生きている。

まだ復讐できる。

 

そこまで考えて、今いる皆の事も頭をよぎる。

いろいろあったし全面的に信用できるわけじゃないけど、皆ここまでがんばってきた仲間だ。そう簡単に殺そうなんて踏み切れない。最初はそんな事考えてもいなかったけど、今となっては……この中の誰かを切り捨てるなんて俺にはできない。そもそも誰が悪魔かの確証も何もないじゃないか。

 

 

一体俺は、誰を味方だと思えばいいんだ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピンポーン』

 

 

 

 

 

 

「!?」

 

慌てて扉を開ける。

 

「こんばんは。起きてるかな?」

 

「ああ、起きてるよ……。」

 

東城はずかずかと部屋に入ってくるとベッドを撫でた。

 

「なんだ?」

 

「ベッドが温かい。寝ていたのかな?」

 

「寝たら死ぬんだ、座ってただけだよ。」

 

今度は俺の腕に何かを巻きつけると機械をいじり始めた。

 

「……うん、問題ないみたいだね。」

 

何かを確認した後、装置を取り外してそのまま出て行ってしまった、なんだったんだ……。

 

 

 

 

 

「……。」

 

寝ていないから頭が働かない。動機を見たのも今さっきのも正夢……じゃないよな、寝てないんだから。

 

「くそ……最悪だ……。」

 

まだ初日だというのにここまで頭が回らないなんて先が思いやられる。

動機のおかげというべきか、全く眠れる精神状態でなかったのはありがたいけど、体の疲労は動機がない方がよっぽどマシだった気がする。意味のない朝のアナウンスを耳に入れ、せめて何か食べようと重い腰をあげて食堂に向かう事にした。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「宮壁。」

 

「ああ、篠田、おはよう……。」

 

「……。」

 

篠田は何も言わずに席を立ち、しばらくしてカップを片手に戻ってきた。

 

「飲むといい。」

 

「ありがとう。……うわ、苦……!」

 

「ギリギリおいしく感じる苦味にしている。甘くては眠くなるだろうと思ってな。」

 

「なるほど……。」

 

さすがに苦いので適当にパンを食べつつコーヒーを飲みきる。

 

「宮壁、大丈夫か。昨日動機をもらっていただろう。内容は……今は聞かないが、良からぬ事を考えているのであれば、私達の前で隠し通せると思うなよ。」

 

……心配をしているのか圧力をかけているのか、よく分からない言葉をかけられた気がするけど気にするだけ無駄だろう。

 

「ああ。ショックなのはショックだったけど、今の俺にできる事ってほとんどないからさ。気楽に構えるしかないなって思ってる。」

 

「……そうか。それならいいんだ。」

 

「2人ともまだ生きているみたいで安心したよ。」

 

突然食堂に現れた東城にびっくりしつつ声をかける。

 

「東城!深夜のやつ、なんだったんだよ!」

 

「そうだ、結局何の説明も無かったが。」

 

「え、篠田のところにも来ていたのか?」

 

「その様子だと宮壁もか。」

 

「ところで、眠気に勝つ方法を思いついたのだけれど、聞きたくないかい?」

 

「は?」

 

「ボクは自分で調合した眠気覚ましのドリンクがあるからまだ何とかなっているけれど、キミ達はそうはいかないだろうからね。」

 

こちらの話を聞いてほしいけど、東城も若干眠そうだし諦めるか。

 

「まずこれを使う。」

 

手に持っているのはトンカチだった。さすがに察しがつく。

 

「私が1番手慣れている。気を失いたければ私に任せろ。」

 

「篠田も便乗するな!」

 

「かといって、他に方法もあるまい。」

 

「他といえば、先日の裁判で大渡くんが上手い事篠田さんを気絶させていたね。あれも手だよ。」

 

「た、たしかに……。」

 

気絶は睡眠に入るのか?

 

「オレくんとしては、できれば気絶させないでほしいね。死んだのか寝たのか分かんないし!そもそも故意の気絶は睡眠じゃん!」

 

「なるほど、故意であれば睡眠扱いになるのか。」

 

「オレくんが急に出た事に驚きもせずメモを取る東城クン、優秀すぎるよ……。」

 

俺と篠田はわざわざモノパオと会話するつもりもないので、冷めた視線を送り続ける事に決めた。

 

「モノパオ、昨日の深夜ボクが皆に使って回った機械、もっと精密なものが欲しいのだけれど。」

 

「?なにそれ。深夜とか起きてる訳ないじゃん!」

 

「知らないなら監視カメラで確認してくれるかな。」

 

くそ……モノパオの奴、寝てやがったな。

 

「はいはい、また教えに行くからそれまで待っててね。じゃ、バーイ!」

 

モノパオが消え、俺達はそのまま解散になった。

無駄に歩き続けても疲れて眠くなるだろうが、じっとしているのも眠くなるだけだ。他の皆の様子でも見に行ってみよう。

 

 

 

 

 

試しに温室に向かう。久しぶりに来たけれど、最初と比べて少し雑草が伸びてきていた。どうやらここの手入れはされていないらしい。

 

「あ、宮壁くん!おはよう?こんにちは?」

 

その雑草を抜いているのが前木だった。いよいよ暇だもんな……。

 

「おはよう。」

 

「……見たの?」

 

「ああ。前木が隠したがってた理由も分かったよ。」

 

「そっか……。」

 

「だけど、今の俺は何かしようなんて少しも考えてない。」

 

「そう、なの?」

 

「最初は、悪魔を殺す事を視野に入れて動いていたけど、それじゃダメな気がするんだ。なんとなく。」

 

「……。私もそう思う。なんというか、悪魔を暴くよりももっと大事な事があるような。」

 

「……うん。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「静かだね。最初ここで目が覚めた時は賑やかだったから…こんなに静かな場所だなんて知らなかった。」

 

……俺も皆と自己紹介をした時の事を思い出していた。

 

「だいぶ経ったような気がするけど、1ヶ月も経ってないんだよな。」

 

「そうだね……。」

 

俺達はしばらく温室で過ごした。この時間に何か意味があったかと言われると頭をかくしかないけど、動機の後にしてはひどく穏やかでいられた。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「み、見つけた……。」

 

「ん?宮壁じゃん。」

 

「難波は最近何をしてるんだ。どこにもいないから探したぞ。」

 

「ごめんごめん。調べもの。」

 

「玄関ホールにこれ以上調べるものなんてないだろ……。」

 

難波は「どうかな?」とでも言いたげな顔でにやりと笑ってみせた。これ、調べるものが確実にあるんだろうな……。俺には見当もつかないけど。

 

 

「宮壁もだし、瞳もか。結構アタシの事注意して見てるみたいだけどさ、アタシが調べてるのは大体裏切り者の手掛かりについてだから。」

 

「……なら、いいんだけどさ。」

 

難波は、今までほとんど自分の話をした事がない。単純に言いたくないんだろうけど、信用されてないように感じてしまう。かといって聞き出すのも失礼だろうし……でも聞かなきゃ一生教えてくれないだろうし……うーん、堂々巡りだ。

 

「宮壁は目星ついてる?」

 

「え?」

 

「だから、裏切り者とか悪魔とか。いろいろあるじゃん。」

 

「いや、俺は何も……。」

 

「そっか。やっぱ行けるとこ増やしたいよねー。」

 

「……誰かが死ぬくらいなら、増えなくていいよ。」

 

「それはそう。」

 

どっちなんだ。

 

「アタシだってそんな最悪、想定したくない。だけど、このままじゃここから出る方法がないのも事実じゃん。きっとアタシ達が動かなければモノパオが強制的な動機を出してくる。何もせずにいるってのも、得策じゃないと思う。」

 

思わず閉口する。何か進展があれば、この状況でも気楽に構える事ができるかもしれない……。

 

「何か分かったら共有するわ。アタシはこう見えてもアンタ達の事、ちゃんと信用してるからさ。」

 

「ああ、よろしく。」

 

この後、大渡の個室を訪ねたが、人と関わりたくないから個室にいるのに空気が読めないだのクワガタ頭だの散々な暴言を吐かれたので嫌がらせにチャイムを連打して逃げ去る事でストレスを解消した。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「今日皆をここに集めたのは他でもない、今回の動機である睡眠妨害の対策案を講じるためだ。」

 

その日の夜時間、眠い目を擦りながら強制的に皆で監視カメラの無い大浴場に集まっている。

英語の例文のような口調で話す東城を皆で取り囲んでいた。

 

「とは言え、これは大渡くん発案だ。詳しい説明は彼からお願いしたいのだけれど。」

 

お、大渡~~!!?!?!?

なんて大声がでかかったが、そんな事を言ってしまった日には二度と口を開かなくなりそうなので全神経を唇に集中させて耐えきった。

というか、大渡、この中だと圧倒的に東城と会話してるよな……俺じゃ何がダメなんだ。

 

「……。」

 

「いや話せよ!!!」

 

痺れを切らした難波がついに盛大なツッコミを入れた。この間、30秒。

 

「…………貴様のが詳しいだろうが。俺はあくまで、他人に眠らされてしまえばいいんじゃないか、そう言っただけだ。」

 

「それはつまり、今朝東城が言っていたようにトンカチで殴りつけると言う事か?」

 

「馬鹿か貴様は。俺は気絶させるとは言ってねぇよ。眠らされる……つまり、薬を盛ればいいって話だ。」

 

「!」

 

「たしかに、他人に薬を盛られて眠ってしまっただけなら、故意の睡眠にはならない……。やるじゃん大渡。」

 

トンカチよりはよほどいい案だと思うけど、朝のモノパオの発言を思い返すと簡単には頷けないんじゃないか……?そう考えていたら東城が補足をしてくれた。

 

「ただ、この提案をそのまま鵜呑みにするとかなりグレーゾーンだ。モノパオの話に則ればこれはアウト扱いになる。ボク達が『薬を盛られる事を了承して眠らされる』のであれば、故意の睡眠ととられてしまうからね。」

 

「そうだよね……。それに、薬を盛る人自身は自分に睡眠薬を使う事はできないよね。その辺りはどうするの?」

 

「薬を盛る人だけはもう一晩耐えてほしい、そして、その人にはモノパオの目を欺くために行動してもらう必要がある。」

 

「というと?」

 

「睡眠薬を悪用している、と思わせなければならない。」

 

「悪用……。」

 

その言葉で真っ先に思いつくのは、事件を起こすという事だろう。

 

「そこで、皆をここに呼んだ理由を改めて説明しよう。」

 

事件を起こすために睡眠薬を使ったとモノパオに思わせるために、俺達がやるべき事……。

 

「皆で、『架空の事件』を考える。」

 

なるほど、俺達全員がグルになってモノパオの目を欺き、動機を突破するつもりらしい。

 

「……待って?それ、本当にここにいる全員で考える訳?この中に悪魔と裏切り者がいるってのに?」

 

「……あ。」

 

前木の素っ頓狂な声が漏れ、篠田の顔が険しくなる。

 

「それは問題ない。」

 

「な、なんで言い切れるんだよ……。」

 

「ボクは悪魔の正体は知らないけれど、裏切り者の正体には目星がついているからね。」

 

「は!?」

 

「え、だ、誰なの!?」

 

「待って。目星と言っても1人に絞れた訳じゃないんだ。宮壁くん、篠田さん、今朝のモノパオの話を思い出してほしい。」

 

今朝……モノパオと篠田と東城がいた時の話か。

そこから裏切り者の正体に結び付く話があったっけ……?

 

 

「ボクは昨日の深夜、皆の部屋に入っていった。皆普通に生活していたよ。脈拍や呼吸を見る装置で寝起きかどうかのチェックもしたけれど、異常はなかった。ここにいた人は全員、確実に徹夜している。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そうか!!!!

 

「モノパオは寝ている!これがヒントだったのか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……どういうこと?」

 

「皆、モノパオは東城が皆の部屋に来た事を知らないんだ。これはモノパオが寝ているからなんだけど、そうだとおかしくないか?『俺達は全員起きていたのに、モノパオは寝ていた』なんてさ。」

 

「…………マジか。すげー進展じゃん。」

 

 

「そうだよ、ボク達は確実に真実に近づいている。ここから導ける結論、それが『この中に裏切り者はいない』という事だよ。」

 

 

「じゃ、じゃあ、皆を信じていいって事だよね……!」

 

前木を筆頭に皆が声をあげる。俺達同士が疑い合う理由が1つなくなった。それだけでとてつもない嬉しさがこみ上げる。

 

「先ほどの話に戻るよ。つまり裏切り者はボク達以外の誰かだ。それが死んだはずの人なのかまだ隠れている部屋にずっといる他の誰かなのかは分からない。そこは了承してほしい。」

 

「ううん、十分だよ……!本当にありがとう……!」

 

 

前木は早くも涙目になっていた。難波も久しぶりにちゃんとした笑顔を見せ、篠田も穏やかな表情だった。

バラバラにだった俺達が、ようやく本当に団結し始めた気がした。

張りつめていた糸がやっと切れたような、脱力ともいえる安心感に喜びを分かち合ったのは言うまでもない。

 

……いや、かっこうつけた言い方をしたけど、純粋に嬉しい。

ここまで、どれだけ長かったか。皆を疑って、疑われて、昨日までの日々が一気に頭を駆け巡った。

 

 

 

 

「じゃ、皆で事件考えますか!そんでしっかり寝よう!」

 

難波の号令で、俺達は架空の事件作りに取り掛かった。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「ここでいうクロ……実行役は瞳、頼んだ。」

 

「ああ。私が皆の飲料に睡眠薬を入れ、眠らせる。その時に東城の分には入れないように気をつければいいのだな。」

 

「そうだよ。ボクが被害者役として、篠田さんに狙われる役だからね。比較的即効性があるこの睡眠薬寝ていては話にならない。その後ボクが1人で理科室に籠る。いつものルーティーンだからモノパオも特別怪しまないだろうね。」

 

「そこに私が声をかけ、3階の教室に誘う……。」

 

「物置に凶器があるから、そこと近い部屋がいいって話だったよね。」

 

「つまり、瞳と東城以外は全員この時点で寝てる訳だ。」

 

 

「そして篠田は東城を襲うが、眠気に耐えかねた篠田は攻撃を外してしまう。……篠田が攻撃を外すなんてそうそうないと思うけど……。」

 

「ああ。そこは私も怪しまれるのではないかと考えていた。」

 

「じゃあ、ボクの方で何か準備しておこう。目くらましになるような薬品を相手にかける事でそのまま逃げるとかはどうかな。」

 

「たしかに、東城も黙って人の誘いについていくような人ではないからな。その方が筋が通るだろう。」

 

「そういえば、瞳ちゃんと東城くんは寝られない訳だけど、それは大丈夫なの?私達だけ、なんだか申し訳ないな……。」

 

「私は徹夜や深夜の行動に慣れている。適任なのは間違いないだろう。」

 

「ボクは自作の目覚ましを持っているからね。いざという時はそれを飲んで死んでも起き続けるつもりだよ。」

 

「死んでもって、洒落にならないからやめてくれよ……。」

 

ざっとこんな感じだ。大がかりな仕掛けを作る訳でもなく、あくまで動機の睡眠妨害に耐えかねての半ば突発的な犯行、という事になった。

 

「これで寝たら琴奈の運も幸運になるから、そういう意味でも悪い話じゃないと思う。」

 

「そう、だね。今日の不運も目にゴミが入ったとかそんな事だったけど、どうなるか分からないから私も早めに変わった方がいいと思ってたの。」

 

「分かった。この辺で解散しようか。あまり長居するのもよくないだろうからね。」

 

俺達は今度こそ解散した。

自室に戻った後、まさか数日前のあの空気感からここまで持ち直して皆で協力できるなんて思ってもみなかった。

裏切り者の正体はいまだにつかめないけど、それでも大きな進展があったのも確かだ。難波の言うように新しい場所が開かないと次に進めない、とも言いきれない。その点は東城に感謝しないとな。

 

明日は東城にお礼でも言おうか、そんな事を考えながら今日も無事、寝ずに過ごす事ができた。

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

今日が計画実行の日。2日連続で徹夜した頭はぼーっとしているしすでに限界だ。でも、それも今日で一旦寝られると思うと、かなり気が楽だった。その希望的観測を得た時点で昨日の話し合いはかなり有意義だった気がする。

それ以降の6日間の事はまた明日考えていけばいいだろう。何より、寝ていない頭で考え事をするのは無理がある。

 

「おはよ。」

 

「難波!この時間に食堂にいるの、珍しいな。」

 

「たしかに、最近1人で食べてたわ。久しぶりにのんびりしようかと思って。息抜きも大事って言うじゃん?」

 

「ああ。」

 

難波と談笑していると篠田と前木も来た。……男子、本当集まらないよな……いや、東城は昨日まで来てたんだけどさ……。

 

「紫織ちゃん!」

 

「琴奈、瞳。元気そうじゃん。」

 

「うん!2日徹夜したのは初めてだからすごく眠いけどね……。」

 

「私はまだ大丈夫だ。難波は平気か?」

 

「まあね。」

 

こう見ると、女子組は男子組とは違って随分仲が良く見える。そういえば昨日も篠田の髪をいじるために一緒にいたんだっけ。

 

男子ももう少し仲良くなれないか。そう思い俺は2人を探す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

そして2人を理科室で見つけた。信じられない事に2人とも理科室にいた。

うん、正直察してはいたんだ、俺だけが仲良くなれていないんだろうなって。

 

「大渡くんは助手に向いているね。何度も誘ったかいがあったよ。」

 

「……貴様が人を脅すような事をするからだ。助手なんざ死んでもやりたくねぇよ。」

 

 

 

 

嘘だと思うじゃないか。あの大渡が、人と普通に会話するなんて……。

 

本当に、俺が大渡に負けるなんて事、嘘だ……これは夢だ……。

あまりにもショックすぎてしばらく2人を見つめたまま理科室の入り口に立ち尽くしてしまった。

 

「?宮壁くん、何か用事?用がなければ入り口を開けないでほしい。」

 

「丁度いい、交代しろ。」

 

「駄目だよ大渡くん。キミは手伝う約束じゃないか。」

 

「……。」

 

大渡は今までで一番大きな舌打ちをして黙ってしまった。

俺、本当に、大渡に負けてるのか……?この舌打ちマンに……?嘘だろ……?

 

「何を作ってるんだ?」

 

そんな俺の心とは裏腹に、口からは平凡でありきたりな何のひねりもない質問が飛び出してしまった。

俺ももしかしたら大渡みたいに変な悪口を言うべきなのかもしれない。だって、その大渡に負けているのだから……。

 

「今を生き延びるための目が覚めるエナジードリンクだよ。倉庫にあったものを改良して強制的に起きれるレベルにしているんだ。」

 

「なるほど……。できたら欲しいな。」

 

「できたら?俺が貴様の分まで作る訳ねぇだろ。随分偉くなったもんだな。」

 

「すみませんでした。」

 

非を認めて2人を手伝う事にした。

少し、俺のどういうところが大渡に負けているのか分かった気がする。この何にも流されるぐらぐらのメンタルをどうにかした方がいいらしい。

 

 

エナジードリンクはたくさんできた。一応全員に配ったようで、後は俺に渡すのみとなっていたらしい。俺も数本貰って帰った。

 

ちなみに東城にお礼は言ったのだが、「何を当たり前の事を」とでも言いたげな、呆れた返答しかされなかったので割愛する。

 

 

 

 

 

そんな感じで俺達は夜を迎えた。

 

 

皆どこか緊張した面持ちで夕飯に並んだコップを見る。この中に篠田が入れた睡眠薬が入っていて、それを飲む事で俺達は今日を寝て過ごす。モノパオに気づかれずにその芝居を打てるかどうか、ドキドキしながら食卓についた。

 

そのために昨日も全員で一緒に夕食をとったとはいえ、ドキドキするのは避けようのない事実だ。

 

準備は篠田を中心として行い、前木、難波、俺も各所で手伝う形となった。篠田はさすがというべきか、普段と何一つ変わらぬ顔でテーブルに食器を並べていた。

 

 

「いただきまーす。」

 

難波が真っ先にコップを手に取った。

 

俺達もつられるようにコップを手に取り、食事と共に胃に流していく。

 

せっかくおいしそうな肉を焼いたにも関わらず、緊張で普段より味がしない。皆同じようで、どこかそわそわしながら食事を進めていった。

 

「ごちそうさまでした!」

 

前木が無理矢理元気よく締めの挨拶をすると皆もそれに続く。モノパオも現れないし、何とか誤魔化す事ができたんじゃないだろうか。

 

東城は恐らく準備のために一足先に食堂から出て行った。残った俺達5人は黙々と後片付けをしている。

 

「そうだ琴奈、瞳、提案があるんだけど。」

 

「?」

 

「明日、久しぶりに3人でお風呂入らない?最近皆バラバラってか、シャワーばっかだったと思うんだよね。」

 

「うん!瞳ちゃんは入った事ないよね?行けそう……?」

 

「……ああ。大浴場自体が初めてだから、何かあれば手ほどきを頼む。」

 

「分かった。大浴場にはとんでもなく厳しいルールが存在するからアタシに任せな。」

 

「紫織ちゃん!堂々と嘘つかないでよ!」

 

「てへへ。」

 

「……ふふっ。」

 

楽しそうな話で盛り上がっている。……べ、別に羨ましくなんかない!第一、大渡と東城と入ったって何にもならないし!

 

 

 

……部屋に帰ろう。

戻る前に厨房で飲み物を調達していると大渡も入ってきた。

 

「大渡も飲み物か?」

 

「……。」

 

はい、もう聞きません。

 

「…………動機の事だが、」

 

「えっ!?!!?」

 

「うっせぇな。」

 

「だ、だって、大渡が俺に質問するなんて前代未聞すぎるだろ!」

 

「……動機が全員の元に返ったってのに、貴様は随分呑気そうだと思っただけだ。」

 

「それはそうだけど……。でも、皆ここまで来た仲間だからさ。」

 

「花畑野郎が。」

 

「それに、たぶん今の俺は真面目に考えたところで正常な判断ができない。これだけ寝てないんだ、考えないようにした方がいいと思ってるだけだよ。」

 

「……はっ、どいつもこいつもおかしい奴だからな。」

 

「大渡、あまり人を逆撫でするような事ばっかり言ってると……」

 

「今度は小言か?」

 

「……。」

 

東城、大渡とどうやって会話して……いや、東城は東城で人の話を聞かないから大渡が何を言おうと無視しているだけなのかもしれない。

 

「小言くらい言わせろよ、目に余る事もあるんだ。」

 

なんて話していると、だんだんと眠気が強くなってきた。

 

「じゃあ俺は戻るよ。」

 

「……。」

 

 

 

部屋に戻り、久しぶりに寝る準備をしようと思ったけど、それだと眠らされた感が無い事に気づき、仕方なく上着を脱ぐだけにとどめた。

本当はぐっすり眠る準備をしたいけど仕方ない。本を持ってベッドの上に転がる。

 

だんだんと避けようのない眠気が襲ってきている気がする。この感覚からすると、篠田はちゃんと薬を入れる事ができたみたいだな。篠田と東城は今日も眠らずに過ごすみたいだけど、俺達が手伝っていた東城特製の眠気覚ましドリンクもまだストックがあるようだし、ひとまず安心だろう。

 

本当に故意の睡眠にならないか不安はあるけれど、きっと大丈夫だ。全員で考えて、誰も文句を言わなかった計画だ。俺は信じる事しかできない。

 

 

ずるずると引きずられるように、俺の意識は薄れていった。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

久しぶりによく寝た、気がする。睡眠薬に引きずられたとはいえ、アナウンスも聞こえない程深く眠れたのはよかったな……。

これで睡眠不足もだいぶリセットされたようで、かなり元気だ。よし!

 

なんて元気よく扉を開けたのが間違いだった。

 

 

 

「やあ宮壁クン。オレくんを騙してまでとった睡眠はどう?その様子だと随分気持ちよく眠れたみたいだね!」

 

 

 

「……。」

 

目の前に現れたモノパオに思わず顔をしかめる。

 

「何の事だ。」

 

「いくら深夜に集まっていたとはいえ、オマエラが全員で大浴場に行く時点で怪しさしかないからね。オマエラの計画なんて知ってたよ。オレくんを勝卯木サンと一緒にされると困るな。」

 

「裏切り者はこの中にいない、だっけ?うん、確かにそれは正解だよ。計画を立てていたオマエラの中にオレくんはいない。……あはは、でもさぁ。」

 

「どうして裏切り者じゃないなら信用できるなんて思ってんの?」

 

「……何が言いたいんだ。」

 

何だその言い方は。それじゃあまるで…………

 

「あははははははは!!!よかったねぇ!今回は【クロ】に感謝しなくちゃ!アイツがいなくちゃオマエラ今頃死んでたよ!」

 

「オレくんは騙されたんじゃない。【本当に事件のために動いてる奴がいたから、事件前のオマエラの睡眠を黙認してあげた】だけだよ。」

 

「…………。」

 

返事ができない。

脳が揺すられるような衝撃と恐怖と焦燥を胸に、モノパオに背を向けて走り出した。

 

 

 

部屋を出て行くときに肩辺りをぶつけたのか、ひどく痛む。袖口から包帯が見えていた。どうやら昔の傷が開いたらしい。

 

個室を訪ねる時間も惜しく、1人で3階に駆け上がる。架空の事件の現場だった教室6に向かい、中を確認する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

床で倒れている人影、いや、篠田がいた。

 

 

「篠田!篠田!!!!」

 

「……。」

 

 

起きないが脈はある。

周りは荒らされており、机などもぐちゃぐちゃになっているが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 

 

 

「篠田、聞こえるか!?」

 

 

……これ、眠らされているのか……?篠田は睡眠薬を飲まなかったはず。一体どうして……。

 

 

 

 

嫌な予感がする。モノパオに声をかけられた時から心臓の音にかき消され、周囲の音が聞こえない。

今ここで何が起きているのか。篠田に何があったのか。

 

 

クロがいるという事は、被害者がいると言う事だ。

 

 

 

 

……とりあえず他を探そう。少なくとも、篠田は被害者ではない、はずだ。

隣の物置を見ようと思った瞬間、目の端に開いたままの防音室の扉が映った。

 

 

 

 

……。

 

中に入った。

 

 

 

 

 

いや、入らなくても明らかに分かる匂いがそこにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと疲れているんだろう。

 

きっと睡眠薬の副作用で、だから……。

 

この血の匂いは、きっと偽物だ。

 

だって、これは俺達が考えた事件じゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、起きろよ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ずっと好きにはなれなかったし、理解し難い発言をしてきた。

 

それでも、お前がやってきた事が無駄じゃなかったのは俺だって知ってる。

 

 

今回だって、お前が俺達にお互いを信じ合うきっかけをくれたんだ。

 

 

 

 

 

 

そう、これは全部偽物で、だからお前の死体だって偽物のはずなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「東城!!!!!起きろってば!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれだけ肩を揺さぶっても、東城は起きない。

 

だらんと力なく垂れた腕に、温度はなかった。

 

 

 

 

 

 

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