ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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今回はだらだらと長文が続くのでスチルを多めに入れました。設定から挿絵表示ありにして楽しんでもらえたら嬉しいです。


(非)日常編 2

『ミンナおはぱお!7時だよ!今日もレッツ・コロシアイ生活!』

 

最悪なアナウンスで目が覚めてしまった。

少し夢なんじゃないかと期待していたけどここに閉じ込められた事は紛れもない現実だったらしい。

それでもしっかり寝たおかげか、昨日もやもやしていた気持ちもだいぶすっきりしていた。

 

起き上がって自分の格好を確認する。服を着替えるのを忘れていたからシャツに立派なしわができていた。

とりあえずシャワーを浴び、新しい服に着替えてトイレに行く。食堂に行くから共有棟のトイレの方が近いよな。

 

入ってみるとかなり綺麗な病院のトイレに近いものだった。勝卯木の言っていた通りカメラもない。個室にもカメラがあるから初めて開放された気分だな。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

「あら宮壁さん、おはようございます。今朝食を作っていますので少々お待ちくださいな。」

 

食堂に入った俺を出迎えてくれたのは安鐘だった。机をふきんで拭いてくれている。

 

「安鐘…ありがとう。」

 

「ふふ、お礼はいりませんわ。用意しているのはわたくしだけじゃありませんもの。」

 

「安鐘はちゃんと休んだのか?昨日はずっと篠田の世話をしていたんだろ?」

 

「夜時間になる頃に戻りましたわ。篠田さんの体調もだいぶよくなりましたので今はご自分の部屋にいらっしゃいますのよ。」

 

「そうなのか!よかった。」

 

篠田の回復を聞きほっと胸をなでおろす。大事にならなくて本当に良かった。

 

「ありゃまー!宮壁さん!おはようごーざいますー!」

 

「潜手も早いな、おはよう。」

 

「当たり前でーすよー!海女の仕事の時はもーっと早いですーからねー!三笠さんー!どわどわ人が増えてきまーしたよー!」

 

「おお、宮壁か。体調は大丈夫か?」

 

「俺は全然問題ないよ、ありがとう。何か手伝う事はあるか?」

 

「そうだな…卵焼きを作ってもらってもいいか?」

 

「分かった。」

 

厨房に入って卵を取り出す。適当なフライパンを見つけて野菜を炒めてる三笠のとなりで卵を割ってかきまぜる。

 

「ほう、手慣れているな。普段から料理をしているのか?」

 

「まあな。簡単なものしかできないけど、仕事で忙しい叔父さんの分も作ってるから手際はそこそこいいと思う。」

 

「それはポイント高いぞ宮壁。」

 

「ポイントって…そんな花婿修行みたいな話を持ち出さなくても。」

 

「彼氏と一緒にご飯を作るのが夢、と言っている女子は多いらしいからな。」

 

「へ、へえ…詳しいな。」

 

「自分の姉がそうなんだ。」

 

「え、三笠、お姉さんがいるのか!?」

 

「ははは、意外だろう?」

 

「すごくびっくりした…。」

 

見た目も性格も兄貴って感じだからてっきり一番上なのかと思っていた。見かけによらないものだな。

そうこうしてる内に卵焼きも炒め物もでき、潜手は味噌汁をお椀についでいた。

 

 

「あっ、もしかして、もうできちゃった…?ご、ごめんなさい…。練習してたらこんな時間になってて…。」

 

端部だ。タオルを首から下げているのを見るにシャワーでも浴びてきたようだ。

 

「いえいえ、かまいませんのよ。どうしましょう?まだ来ていない人を待ってもいいですし、三笠さん達は先にいただいてもいいと思いますわ。」

 

確かにお腹は減ったし、まだ来ていない人には申し訳ないけど食べてしまおうかな…。おそらく安鐘が炊いてくれたのであろうお米を器に盛りつけ、ひとまず自分の分を準備する。

 

「いただきまーすー!」

 

早い。潜手があまりにも早くてびっくりしたぞ。いつの間に卵焼きまで取ったんだ。

 

 

「え!?皆早いね、まだ8時前だよ…おはよう!」

 

「……朝食……完成…早い…。」

 

前木と勝卯木もやってきた。相変わらず仲良さそうに話してるな…いや、会話というより前木の話を勝卯木が聞いているだけなんだけど。

 

「あれ?光ちゃんはまだ来てないの?さっき蘭ちゃんを待ってた時に見た気がしたんだけど…。」

 

「あら、そういえば朝早くに起きるのは慣れているとおっしゃっていましたわ。どうなさったんでしょう。」

 

「ふむ、自分が見てこよう。」

 

そう言って三笠が食堂を出ていき、他の食堂にいる人は朝ごはんを食べ始めた。

 

「おいしい!今日は結局誰が作ったの?」

 

「潜手めかぶとー、安鐘さんとー、三笠さんとー、宮壁さんでーすよー!」

 

「へえ…!すごい!料理上手な人が多いんだね!私もお昼からは手伝うよ、そこまで上手くはないけど。」

 

前木がキラキラと目を光らせて俺達の方を見る。なんだか少し恥ずかしいな。

 

「本当に素敵な方が多くて、わたくし感激しておりますわ。」

 

「何言ってるの、鈴華ちゃんだってすっごく素敵な人だよ!」

 

「うぇっ、あ、ええっと、あああ、ありがと、ご、ござ、いま、す!?」

 

「あはは…安鐘さん、恥ずかしがりすぎだと思うよ…。」

 

褒められてテンパる安鐘に端部が微笑みかける。

 

「そ、そうですわね、嬉しくて、つい…。」

 

「……この…ごはん……好き…自信……もつ…。」

 

勝卯木も嬉しそうに頬を紅潮させている。そしてそのままおかわりをしに席を立った。

 

 

「…おはよう。遅くなってごめん。」

 

この声、高堂だ…ってすごい疲れてる!

 

「ど、どうしたんだ?」

 

「ほら高堂ちゃん、皆がいるんだからスマイルスマイルー!あ、皆おっはよー!」

 

「まきのんのせいでひかりんがシオシオになっちゃったんだよー!美亜も捕まっちゃったー!」

 

「いや美亜もかなり騒がしかったから。でもめちゃくちゃ笑ったわ!光には悪いけど!」

 

「うん…笑ってくれていいよ…。」

 

昨日あれだけ疲れていた難波のエンジンは全快だしそれに加えて桜井と牧野もいる。高堂の疲労具合も大体察しがつくな…。

 

「でも俺大した事はしてないよ!ちょっとお尻触っていい?って聞いただけだし!」

 

「まきのんったら完全にアウトなのに大した事ないって言いきってるのがおもしろいよねー!」

 

「それで牧野が蹴られたんだけど、その足さばきがヤバくって!美亜がもう1回見たいって騒いでたってわけ。」

 

「本当、朝から皆元気すぎるよ。元気そうで安心したけどね。」

 

笑いながら話す難波の横で高堂がため息をついた。

 

「後…篠田は自分の部屋だったよな、大渡と東城と柳原はどこにいるんだ?」

 

「は?まだ寝てるんじゃねーの?ゆうまきゅん起こしに行こうかな。」

 

「お寝坊さんがいっぱいでーすねー!」

 

「私的には規則正しい人が多すぎるだけな気がするけどね…。」

 

そう言いながら前木は目をこすった。まだ眠いのだろう。

 

「アタシはいつもならもっと遅いけどね。今日はあの変なアナウンスに起こされたけど。てことでゆうまきゅんに会ってくる!」

 

難波はまたあのぶりっ子みたいな声で食堂を飛び出していった。ひとまず来たばかりの人に朝食を渡す。

 

「今思ったんだけどさ、柳原はともかく大渡は呼びに行かないと来ないんじゃない?ほら、俺昨日探索してた時全く見てないし。桜井ちゃんはあれから見たの?」

 

「美亜も見てないよ!呼びに行こうかな!行ってくるー!」

 

牧野の声掛けにあっという間に1人会議をすませて桜井も食堂を飛び出していった。

うーん、あと行くべきなのは柳原のところか。

 

「俺はもう食べ終わったし、柳原を呼んでくる。」

 

皆に聞こえるように言って後片付けをする。すると安鐘が思い出したように立ち上がった。

 

「篠田さんにご飯を届けるのを忘れていましたわ!わたくし、今から届けに…」

 

「その必要はない。」

 

 

「篠田!」

 

久しぶり…と言っても昨日ぶりだけど、篠田が喋っているのが懐かしく感じるな。

篠田の元気そうな姿を見てか、潜手や前木が嬉しそうに声をあげる。

 

「瞳ちゃん!」

 

「よかったですー!もう動けるのでーすかー?」

 

「激しい運動をするのは厳しいが普通に生活する分には困らない。安鐘と高堂には本当に世話になった。ありがとう。」

 

「いえいえ!すぐに回復されてよかったですわ!」

 

「傷が開いたらいけないし、包帯を変える時はあたしに言ってね。」

 

「ああ、頼らせてもらおう。…その事で話したい事があるのだがいいだろうか?」

 

「あ…。」

 

高堂が固まる。な、なんだ?何かあったのか?

 

「うん、分かった、それじゃあ鈴華ちゃんもいた方がいいよね。」

 

「そうだな。安鐘もいいだろうか。」

 

「もちろんですわ。」

 

一瞬、場の空気が固まった気がしたけれど気のせいか?

朝食を食べる手を止めて3人を見ている牧野を見るに、気のせいではないんだろうな…。

 

「篠田、お前も食べるといい。冷めていたら温めよう。」

 

「そのくらいは私にやらせてくれ。気遣い感謝するぞ、三笠。」

 

よかった、牧野も再び食べ始めたし俺も片づけ終わったし…って、柳原の事忘れてた!

 

「あ、俺柳原の部屋行ってくる!」

 

慌てて食堂を出ていく。あれ…そういえば大渡を呼びに行った桜井が全然戻ってこないな…。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

「こらー!あーけーてーよーわーたーりーんー!」

 

ピンポンピンポンピンポン…。

 

案の定というかなんというか。桜井がインターホンを押しながら扉を叩き続けていた。

大渡も頑固だな。あの騒音に耐えられるくらい出たくないのか…。

桜井、と呼びそうになった口を抑える。いけない!声をかけたらまた呼びに行くのを忘れてしまう!

 

柳原の部屋のインターホンを押してみる。

しばらくすると扉が開いた。中から柳原が顔を出す。

 

「ふあ…おはようございます…?」

 

「柳原、もう起きれるか?」

 

「うん…起きる…ます…です…。」

 

かなり寝ぼけているようだ。目をこすりながらそのまま出てきた。

 

「眠いなら起きなくていいぞ?服も着替えてないし…。」

 

「いいんですか…?じゃあ寝ます…。」

 

「ああ、皆には言っておくよ。」

 

「ありがとうございます…えっと…前木さん…?あ、三笠さんですか…?それともモノパオ…?」

 

「今すぐ寝ろ!!!」

 

訳の分からない事を言っている柳原を押し込んで扉を閉めた。

眠すぎて俺が誰かも分かってないじゃないか…。

 

 

「あ!ドS宮くん!ちょっと手伝ってよー!」

 

結局桜井に捕まった。相変わらずインターホンを押す手は止まらない。いい加減大渡も観念すればいいのにな…。

 

「わーたーりーんー!わたりんが来ないとー!美亜朝ごはん食べられないのー!わたりんのせいでー!美亜はー!お腹ペコペコなのー!」

 

「チッ」

 

舌打ちしながらやっと大渡が出てきた。なんか…久しぶりに見たな…。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「何の用だ。」

 

「あのね!皆がわたりんの分の朝ごはんも作ってくれてるの!というか昨日皆で集まることになったんだよー!だから来て!」

 

「行ってどうする。安否の確認なら今できただろ。」

 

「むむ!聞き捨てならないねー!美亜が『わざわざ』来てあげなくちゃわたりんの安否は分からなかったんだからね!感謝して美亜の言う事聞いてよー!」

 

うわ、正論。元々不機嫌そうな顔をさらに不機嫌にして大渡は渋々部屋の扉を閉めた。

そしてそのまますたすたと歩いて行ってしまう。

 

「あ!わたりん!」

 

桜井が驚いたような声をあげる。そりゃそうだよな…。無視までされてさすがの桜井も…。

 

「鬼ごっこしたいの!?待て待てー!」

 

違った。それだけは絶対に違うと思うぞ桜井。大渡が「鬼ごっこがしてぇ」とか言い出したら俺は間違いなく笑ってしまう。

桜井の声を聞いた瞬間大渡が早歩きになった。桜井は楽しそうに大渡に向かって走り出していった…。

 

あれ?俺、何も手伝ってなくないか?

…1人寂しく食堂に戻る事にした。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

「まあ、それでは柳原さんのところにも朝食を持っていかなくてはなりませんわね…それとも昼食とまとめた方がよろしいでしょうか?」

 

「ああ、それでいいと思う。でも、申し訳ないな…余っちゃって。」

 

「………食べる。」

 

「あら勝卯木さん!遠慮なく食べてくださいませ!」

 

「勝卯木、そんなにお腹がすいていたのか…?」

 

勝卯木は首を横に振る。

 

「……食事…好き……つい…。」

 

「あひゃー!勝卯木さーん!いい事でーすよー!もっと食べていいですか―らねー!」

 

潜手が嬉しそうに勝卯木の持つお椀に味噌汁を注いでいた。

 

「和やかにしてるとこ悪いんだけど、これからどうするかって事について話しておいた方がよくね?皆が思ったより元気そうだから話しさせてもらったんだけど。」

 

難波の一言に皆が互いに顔を見合わせる。というか難波の膝に座ってぼーっと宙を見つめている東城に誰もツッコミを入れないのはどういう事なんだろう。かくいう俺も帰ってきてから今までスルーしてたわけだけど。

 

「ボクはとりあえず装置を完成させるよ。その後で保健室の毒薬の処理に手をつけていく。」

 

あ、東城が喋った。難波が偉いねー!と言いながら頭をわしゃわしゃしているけど東城は完全に無視を貫き通している。

 

「そうですわ!わたくし、やりたい事がありましたの!ね、端部さん。」

 

「え、えっとね……その、皆でサッカーとか…できたらいいなって…思ってるんだ。何もしないと逆に疲れるから、その…息抜き、にならないかな…?」

 

「その横でわたくしがお茶会を開きますの!そうすれば運動が苦手な方でも楽しめるでしょう!どうでしょう?もちろん、東城さんの作業を終わらせてから皆さんでやる予定ですわ。」

 

「それって、自己紹介の時に言ってたやつか!」

 

「その通りですわ、宮壁さん!やりませんこと?」

 

「だ、だけど結局ここにグラウンドみたいな広場はないし、まさか本当に木を伐採して…?」

 

その労働で疲れそうだけど…と思っていたら端部が嬉しそうな顔で説明する。

 

「あ、あのね、イベントホール、ってあったでしょ?あそこ、イスと机とカーペットを片付けたら体育館みたいに使えるんだ…!さっきはそこで練習してたんだよ。倉庫にテープがあったから、線はそれで引けるし…ど、どうかな…?」

 

「賛成!やっぱ遊ぶのが一番だよね!言っちゃえばこの建物全体が貸し切りみたいになってるわけだし!」

 

牧野が手をあげて満面の笑みをみせた。それを皮切りに皆楽しそうな顔に変わっていく。

 

「おい…まさか強制参加じゃねえだろうな…。」

 

「わたりんは強制だよー!美亜が、わ、ざ、わ、ざ、呼びに行ってあげたんだからね!」

 

舌打ちしてそっぽを向いた大渡の横で篠田がほんの少しだけ微笑んだ。

 

「サッカーなら遠慮させてもらうところだったが…安鐘の気遣いには感謝しかないな。」

 

「みなさんで楽しむ、というのがモットーですからね。他のみなさんも好きな方に参加してくださいませ!準備ができたら呼びに行きますわ!」

 

 

 

 

□□□

 

 

 

…さて。

東城のそばにある歪な装置に目を向ける。

集められたのは前木、安鐘、俺の3人。なぜこのメンツなのかは謎だ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「この装置は簡単に言うと、この区域内に足を入れるとかなりの勢いで足に硬直剤が数本撃ち込まれる上に大きなブザー音が鳴るようになっているよ。それでも足をもう一歩踏み出した場合は上からちょっとギザギザしてるシャッターが下りる事になるから、怪我するよ。誰かが倉庫で見張るというのも考えたけど、共犯で凶器を取ってしまう可能性も捨てきれない。よってこの無人装置にさせてもらったよ。」

 

…怖いな…これは入る人もいないだろうな…。

 

「あれ?でも個室は防音効果が高いって聞いたよ?ブザーの音が聞こえるのかな?」

 

「え、そうなのか?」

 

「モノパオが突然私の部屋に出てきてそれだけ言って消えたんだよね。個室内にも現れるなんて聞いてなくてびっくりしちゃったよ…。」

 

「前木さんの言う事ももっともだよ。だからボクは扉を閉めずにいる事にした。」

 

「そ、それでは東城さんが危険になるかもしれませんわ…!」

 

「だからボクの部屋にも同じ装置を設置する。ボクが扉を開けている時に入ったら動けなくなるしケガするから気を付けてね。」

 

…寝ぼけても東城の部屋にだけは絶対に入らないようにしよう。

 

「待て、それならどうやって中から必要なものを取り出すんだ?」

 

「そう、それを教えるためにキミ達を呼ばせてもらったよ。この中のものを必要とする、かつある程度信用できる人をね。」

 

他の人達は信用できないって事か?とても信用が足りないとは思えないけれど…。

 

「必要なのはこれ。基本ボクの部屋に置いているから言ってくれれば貸すよ。」

 

そう言って取り出したのは長い棒だった。これは…物干し竿?

 

「あの倉庫の奥の壁に金属についている小さい針があるよね。あれを押し込むと…。」

 

東城が物干し竿の先端を針にあて、慎重に押し込む。

するとブザーのランプが消えた。東城がその装置を越えても何も起こらない。

 

「この通り30秒だけ解除される仕組みだよ。ちょっと戻って装置を発動させてみるね。」

 

しばらくすると再びランプが点灯した。そこに東城が自分の靴をなげ入れると、針が5本ほど靴の上をかすめ、もう片方の靴を入れるとシャッターが勢いよくしまった。

それだけじゃない。

 

「なんでーすかーこの音―!?」

 

「すごいうるさいんだけど!鈴華ちゃん達、何やってるの!?」

 

「それ、止めてくれぬか…!?」

 

あまりのブザーの音量に高堂達が駆けつけてきた。

東城が耳を塞ぎながら冷静に声を張り上げる。

 

「ごめんね、これ3分は鳴りやまないんだ。」

 

長い!!!そんなの待っていたら耳が割れそうだ!

皆、もちろん東城自身も耐え切れなくなり俺達は慌てて共有棟を飛び出した…。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

耳が痛い。まだぐわんぐわんと鳴っているような幻聴すら聞こえる。

一番遠いイベントホールで端部達の手伝いをしに来たけどここに着いてもしばらく聞こえていた。恐ろしい装置だ。装置というか罠だ。

 

「まあ、あれだけ大きければ気づかれるでしょ…。」

 

高堂はだいぶこたえたのか痛そうに頭を抑えている。

 

「高堂ちゃん大丈夫?」

 

「大丈夫。」

 

「無理しない方がいいよ。後で運動するんだし、今は休んでいいんじゃない?」

 

「あ、ありがと…。」

 

牧野が急にまともな事を言うから高堂は困惑しているようだ。

 

「俺、高堂ちゃんがサッカーしてるのをじっくり見たいからね!絶対いい動きするし!」

 

「うわ。」

 

一瞬で高堂の眉間にしわができる。不審そうな顔のまま端に寄せた椅子に座りに行った。

普通に話してるだけなら脈はできると思うんだけどな…どうして変態発言を繰り返すのか。

 

「こら!宮壁は何人の会話を盗み聞きしてるんだよ!ちゃんと手伝いに行きなよ!」

 

なんで俺が牧野に怒られなきゃいけないんだ、納得いかない。

放っておいて俺は端部の手伝いに向かった。

 

「あ、宮壁、俺の部屋にもう1つ小さいゴールがあるから、持ってきてもらってもいいかな…?手帳、渡しておくね。あ、あと、持てそうだったらボールも1つあると…助かる、かな。」

 

「分かった。」

 

そのまま端部の部屋に向かい手帳をかざす。中に入ると流石と言ったところか、サッカー用具がたくさん並んでいた。倉庫から持ち帰ったのかボールが1つ置かれている。おそらくボールはこれを持っていけばいいのだろう。

 

「あ、意外と軽い。」

 

簡易ゴールなので重さは予想よりは軽かった。肩に枠の部分をかけて立ち上がる。

 

「あ、宮壁くん!お疲れ様。」

 

「前木。それ何を運んでるんだ?」

 

「鈴華ちゃんに頼まれて茶道具を運んでるの。本当、すごく丁寧に包まれてるから運ぶと緊張しちゃうね…。」

 

前木は少し困ったように道具を抱え直す。

 

「前木は安鐘のお茶会に参加するんだな。」

 

「プロのお点前なんてそうそう見られないからね。楽しみ!もちろん、サッカーの試合も見るよ!…宮壁くん。」

 

「どうした?」

 

「私ね、ちょっと不安だったの。同じクラスだった人はいるにはいるけどそこまで話すほど仲良しだった訳じゃないし、この調子で…その、コロシアイに巻き込まれて、ずっとこんな暗い気持ちでいるのかなって。でもね、私嬉しいんだ!皆がそれぞれ自分にできる事をして、楽しませようと、コロシアイを起こさないようにしてくれて。」

 

「前木…。」

 

「だから私、がんばるんだ!皆で協力して、仲良くなれば…コロシアイなんて起きないと思うから。」

 

「そう、だな。俺も何かできる事はしていきたい。がんばろうな。」

 

「うん!」

 

 

 

本当に?

 

起きない?

 

確証はどこにある?

 

常に最悪の事も考えておかないと、後々後悔するかもしれない。

 

 

ダメだ、こんな弱気じゃ。

俺は自分の頭から不安を追い出すようにイベントホールへと向かった。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

「よし、できたね…!」

 

端部の声に改めてホール内を見渡す。こうして見ると立派な体育館だな。線も引けたし人数的にも簡易的なミニゲームならできそうだ。

安鐘の方もできたらしく赤いカーペット…なんだっけ、あれだ、毛氈。それの上に茶道具が並んでいる。安鐘の他には前木、勝卯木、篠田、東城、大渡がいるな。柳原は爆睡しているのか起きてこなかったのでそっとしておいた。

 

決めていなかったけどどちらに参加しようかな…でも前約束したしサッカーに行きたいな。

 

というわけで倉庫にあったジャージに着替えてきた。俺の他にもヒールを履いていた牧野や難波も着替えている。俺達の他にサッカーに入るのは…もちろん端部と三笠、桜井、高堂、潜手がいるのか。ちょうど8人だし4対4でできそうだ。

 

適当に腕章を手に取りチーム分けをする。俺は赤色の腕章をもらった。他に赤い人は…三笠、高堂、桜井か。

 

「では自分がキーパーに行こう。」

 

「えっ!」

 

うっ…端部が相手チームなのが痛い。だけど端部はさすがに自分の本職はマズいという事でキーパーには難波が名乗り出た。そしていざ始まる…という時に安鐘が声をあげた。

 

「あら、そういえば審判はどうしますの?大渡さんがなさいますか?」

 

「…俺にふるな。」

 

大渡は心底嫌そうな顔でそう言いながら入り口の方に歩いていく。

 

「あ!わたりん!出るのはダメだからねー!」

 

「うるせぇよ。…審判なんざコイツにやらせたらいい話じゃねえのか。」

 

そう言って大渡が俺達の目の前に突き出したのはなんとモノパオだった。首を掴まれてモノパオの胴体はバラバラと揺れている。

 

「ちょ、ちょっとちょっと!なんでボクくんがミンナの審判なんかしなくちゃいけないんだよ!手伝う義理なんてあるのかな!こちとら超長時間労働で身も心も疲れ果てているっていうのにさぁ!ひどすぎるパオ!必ず訴えてやるパオ!」

 

「騒ぐな。入り口でこそこそしている貴様に落ち度があっただけだ。」

 

大渡の有無を言わせない目力でモノパオの額に大量の汗が流れる。

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬ…!もう!分かったパオ!やればいいんでしょ!ボクくんサッカーのルールとか詳しくないから適当にするからね!」

 

そう言ってモノパオは安鐘の近くにふんぞり返る。

 

「あの…そこは邪魔ですわ…。」

 

「キーーーーー!安鐘サンの天然かわざとか分からないイジメにボクくん傷ついちゃったパオ!って、ボクくんゾウなのにサルみたいな声出しちゃったよ!パオパオ!ボクくんはゾウパオ!」

 

1人、いや1匹騒がしいモノパオをよそに安鐘はお点前を始めた。

 

「はじめ!!!」

 

え!?安鐘の動作が開始の合図なんて聞いてないんだけど!?

声をあげた張本人である牧野は俺の横をするりと抜いていきなりシュートを放った。

 

「ちぇっ、三笠が相手だと俺じゃあ厳しいね。」

 

「ふふ、そうやすやすと入れられる訳にはいかんぞ。こちらにサッカー経験者は0だ。」

 

なんてかっこいいんだ三笠…!スポーツ漫画に出てくるベテランのコーチみたいな貫禄でボールを手に収め、にやりと笑った。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「頼んだぞ宮壁!」

 

うわっ、飛んできた!

うまい具合に落としてくれたので慎重に蹴る。目の前に端部が来たから進んじゃダメだ!

慌ててパスをしようと周囲を見渡していると端部がすぐそこまで来ていたので大きく外れた方向に蹴ってしまった。

 

「高堂!」

 

「わ、わかった!」

 

「へっ、高堂ちゃん!?…なんてね。」

 

え!高堂なら牧野が譲ってくれると思ってたのに普通にかすめ取った!?

これじゃあせっかく高堂がボールを追いかけてくれたのに意味ないじゃないか…申し訳ない。

 

「まきのん見えてないよー!」

 

桜井が前に躍り出る。すると牧野はすぐに潜手の方にボールを戻した。

 

「はわわー!い、いきまーすねー!」

 

潜手の蹴ったボールは俺と端部の間に落ちる。まずい!

 

「いくよ…!」

 

端部がシュートを打とうとしたので前に寄る。だ、だんだん競争心がわいてきた…!

 

「み、宮壁、危ないよ…!」

 

いや端部優しいな敵チームなのに。

 

「桜井来てくれ!」

 

「らじゃー!」

 

 

…。

 

 

……。

 

 

結論から言うと、俺のチームが点をいれることはなかった。端部が上手すぎて俺のチームは勢いのあるシュートを打つことができないから難波に蹴り返されてしまった。というかたぶん俺がかなり下手だ。完全に足を引っ張ってしまった気がする。点を入れるチャンスを掴む事すらできないまま、俺達の体が悲鳴をあげてしまった。

 

「あー!疲れた!安鐘ちゃん!お茶がほしいーーーーー!」

 

どさりと牧野をはじめ皆が床に寝転がる。

 

「ヤバ、皆超汗かいてんじゃん。タオルで拭きなよー。」

 

難波が転がっている俺達の上にタオルを落としていく。

というか…。

 

「こんなに盛り上がると思ってなかった。」

 

俺がポツリとつぶやいた言葉に端部が起き上がって笑う。

 

「スポーツって、すごくて…いい意味での競争心が芽生えやすいから、誰とでも楽しめるんだ…。俺は、そういうところが好きなんだよね…。」

 

「はたべんが全然手を抜いてくれないから燃えちゃったよねー!絶対1点いれてやるー!って躍起になっちゃったもん!楽しかったー!」

 

「本当に、自分も程よい緊張で楽しめたぞ。」

 

「ふえー!ドキドキしまーしたー!」

 

「牧野があたしの前でふざけて手抜くかと思ったけど真面目でびっくりした。ちゃんとしてるところあるんだね。」

 

「…!へへ、まあね。」

 

あ、牧野めちゃくちゃ嬉しそう。照れ隠しなのか牧野は急に大声を出す。

 

「あーあ!俺明日から絶対筋肉痛だ!宮壁と桜井ちゃんもじゃない?」

 

「た、確かに…というか、すでに若干痛い…。」

 

「ほんとどうしよっかなー!美亜がふらふらしてたら元気な人は助けてね!」

 

「うう、それにしてーもー、お腹減ったでーすー…。」

 

潛手がふらふらしながら篠田の元に歩く。

 

「だいぶ動いていたからな、今抹茶は熱いか…?お茶をもってこよう。」

 

「あ、ありがとーございまーすー、篠田さーん…。筋肉痛ではありませんがー、なんでしょーかー、潜手めかぶ、海の方が疲れにくいのかもですー。」

 

「うーん、水中の方が体力使う気がするけど…めかぶちゃんみたいに慣れてる人はそんな感じはしないのかもね!」

 

前木はにこにことお菓子をお皿に並べている。

 

「……お菓子……おいしい…。」

 

勝卯木はさっきから食べてばっかりだな。

俺も重たくなった体をどうにか起こしてきちんと座りなおす。タオルで一通り汗を拭き、安鐘の動きを見ることにした。

 

 

「綺麗…。」

 

高堂が呟くのも当然なくらい、安鐘の所作は美しかった。

無駄のない流れるような動き。お茶碗を置く音すら綺麗に聞こえる。

叔父さんがお茶会とか好きだったんだよな…静寂の美、ってやつがやっと分かったような気がする。

 

誰も話さずに見守っていた。

ふと気づくと目の前に篠田が座り込んだ。

 

「お茶だ。抹茶も順に点ててくれるだろう。」

 

「あ、ありがとう。」

 

渇いたのどに冷たいお茶が染み渡る。

 

「安鐘の動きはすごいな、超高校級と呼ばれた所以が分かる。」

 

「本当にそう思う。」

 

「鈴華、マジですごいわ。あんなきっちりした動きとか、ただ素早いってだけじゃダメなんでしょ?すげー。」

 

「安鐘さん…すごいね、たくさん練習したんだろうなって、思うよ…。」

 

「うーん、美亜には到底できない動きだよー!」

 

…あれ?安鐘がぴくりとも動かなくなった。

 

「あ、あああああのですね、みなさん、ほ、ほめ、褒めすぎででででででで、すわ…!」

 

一段落ついたらしい。顔が真っ赤になっている。そ、そうか、今までの全部聞こえていたのか…。

 

「でも鈴華、それ普段のお茶会の時はどうしてんの?恥ずかしくならないわけ?」

 

「ふ、普段はお茶会中に話す事はありませんし、最後の挨拶も社交辞令ですし、何よりプロの方がほとんどですから…純粋に褒めていただくことはめったにありませんのよ。」

 

手で赤くなった顔を仰ぎながら安鐘は一息ついた。

 

「というか!ボクくん!いる意味なかったパオ!絶対訴えてやるパオ!」

 

だからどこに訴えるんだよ。と内心でツッコミを入れておいて無視しよう。

モノパオは沈黙に耐えかねたのか泣きながらドアを飛び出して行った。なんだったんだ…。

 

「さすがに長時間でしたので後の方々は点て出し…その、お点前をしなくてもいいですか?」

 

「うん!大丈夫だよー!」

 

「鈴華ちゃんありがとう。…もう片付ける?」

 

高堂の言葉にそういえば道具を片付けなければならない事を思い出した。

 

「なんか、終わるのがもったいないね。またしようよ。」

 

牧野がゴールを片付けながら端部に話しかける。

 

「うん…!牧野達の筋肉痛が治ったらまたしようよ…!」

 

「ちょっと鬼すぎない端部!?」

 

「そ、そうかな…?」

 

端部達がこんな風に楽しく笑ってるのは久しぶりに見たな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

牧野と端部が話して笑っているのを見たのはこれで何度目?

 

 

 

 

いや、初めてだよな?

 

 

 

 

 

じゃあ、俺はなんで『久しぶり』だと思った?

 

 

 

 

 

 

「……宮壁、後で、いい?」

 

高堂だ。目があちこちを泳いで不安そうに俺の方を見る。

 

「牧野のいないところでなら。あいつすぐ怒るだろ?」

 

 

 

 

 

 

あれ?なんで俺はそんな事を知ってるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

怖い。何か知ってはいけない事を知っている気がする。

 

高堂の方を見る事ができず、俺は返事も聞かずにゴールを担いでホールから出て行った。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

「…い、おい!」

 

「えっ!?な、なんだ、篠田、どうした?」

 

振り返ると篠田がすぐそこまでついてきていた。ずっと呼びかけてくれていたのかと思うと申し訳ない。

 

「顔色が悪いぞ。何があった?」

 

「な、なんでもない。」

 

「嘘をつくな。」

 

篠田の目が鋭くなった。これは…怒らせるとヤバそうだ。

 

「その…信じてもらえないかもしれないけど、俺達、会ったことがあるんじゃないかと思って。」

 

「なんだと…?私は全く心当たりがない…宮壁、お前は私と会った記憶もあるのか?」

 

「そ、それはない…けど、今さっき端部と牧野が話してる光景を見たことがある気がするんだ。」

 

「嫌な予感がするな。イベントホールでモノパオが何をしていたのかもよく分からないし、何か聞ければいいが…。モノパオ!いないのか!」

 

篠田が呼びかけても現れる気配はない。結局どうする事もできないまま俺は端部の部屋に戻る事にした。

 

「宮壁、本人達には言ったのか?」

 

「いや、まだ確証はないし言わない方がいいと思ってる。」

 

「そうだな…何かあれば私も言おう。問い詰めてしまって悪かったな。」

 

篠田はくるりと振り返ると安鐘の部屋に戻っていった。

嫌な予感…か。どうしても嫌な事がちらついてしまうあたり、俺はかなり不便な性格らしいな。

 

 

その後安鐘の点てたおいしいお茶を飲み、疲れたこともあって少し休んでから昼食をとる事にした。

昼は安鐘が豚肉を焼いてくれたりポテトサラダを作ったり…朝食を作ったメンバーに加え前木と高堂が手伝ってくれた。…そこで事件は起きた。

 

俺がポテトサラダを作り終わり一息ついていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゃあああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

安鐘の悲鳴。何事かとそこにいた皆が厨房にかけつける…まさか、何か…!

厨房にあるコンロが真っ黒になっていた。正確にはフライパンにのってる何かが炭になっている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ご、ごめんね…美亜も、手伝いたいって思ったんだけど、やめておけばよかったねー…。」

 

しょんぼりしているのを見るに、この事態を引き起こした犯人は桜井のようだ。

 

「ヤバ…何があったわけ?」

 

「桜井さんが手伝うと言ってくださったので、お肉を焼くのをお願いしたんです。わたくし、それでここを離れていたらいつの間にか油がコンロの方に落ちていたみたいで、火が出たのですわ…。桜井さんお怪我はありませんの?」

 

「美亜はないけど…お肉が焦げちゃった…ごめんね豚さん…。」

 

桜井は豚の心配が第一なのか、真っ黒になってしまった豚肉を見て悲しそうに目を潤ませている。

 

「あ、あのね、火はすぐに俺が消したから…大丈夫。あとは飛び散った油を十分に拭けば、安心だから…皆も戻っていいよ。」

 

「ごめんねぇ、はたべん、やすずちゃん…。皆もごめんね、心配かけちゃって…。」

 

わわわ、桜井がちょっと泣きそうになっている。俺が口を開くより先に、難波が桜井の元へと近づいた。

 

「は?美亜、アンタには誰も怒ってないから。何もなくてよかったっていう意味で皆アンタの事見てんの。別に美亜が失敗したわけでもないんだからそんな責任追わなくていいの。分かった?」

 

「し、しおりんー!わかった!美亜、気をつけてお手伝いするね!」

 

桜井はパアッと顔を輝かせて頷く。そしてそのままメモを取り始めた。前木が不思議そうに首を傾げる。

 

「美亜ちゃん、何をメモしてるの?」

 

「これ?これはね、皆の素敵な言葉を書き溜めるメモだよー!かっこいい事を言ったら漫画に載せるかもしれないよ!」

 

「へえー!私も、何か言ってみようかな!でも紫織ちゃんには勝てる気がしないなあ。」

 

「フッフッフ、まあアタシだから仕方ないっつーか?カッコよさではトップクラスだから!」

 

難波が胸を張る。その周りにキラキラした目で桜井と前木が声援を送る。無事にこの場が収まったようで安心した…。

 

「よーし!これが終わったらごはんでーすよー!」

 

潜手が嬉しそうに声をあげる。と同時にお腹が盛大に鳴った。

 

「めかぶちゃん、お腹すいた?」

 

雑巾で床を拭きながら高堂が笑いかける。潜手は意外にも顔を真っ赤にしている。

 

「ふ、ふひゃあ~、恥ずかしいですーねー聞かれてしまーいましたー…!」

 

「えっ、ご、ごめんね、皆の前で言っちゃって…ほら、男子は早く戻って。」

 

明らかに高堂の目が俺と三笠と端部に向いている。確かに完全に立ち聞きしてるもんな…。

 

昼ご飯を食べ終えた俺達はいったん部屋に戻る事にした。数人は油で汚れたからな。

俺も部屋に戻ってみたけど…特にする事もない。別に眠くもないし、適当に歩いてみるか。

 

 

 

 

♢自由行動 開始♢

 

 

 

あ!そういえば後で高堂と話をしようとしてたんだった。探してみるか。

 

「あ、宮壁。ちょうどよかった。聞きたい事があるんだけど、今大丈夫?」

 

「ああ。それで、何を言いかけていたんだ?」

 

「宮壁も何か思い出したような顔をしてたから。」

 

「俺『も』って、まさか高堂も見覚えがあったのか?」

 

「あたし、牧野や端部と会った事ある気がする。テレビで見たとかじゃなくて。これってどういう事なんだろう?あたし達、ここに来るまでに覚えてない部分もあるし、その間で会ったって事なのかな。」

 

「モノパオになんかされたって事か?皆が一斉に同じ時期の記憶がないなんておかしいもんな。」

 

「そうだね。だからといってどうすればいいのかの目途なんて立たないし、宮壁以外に明らかに動揺してた人はいなかったから確認も取れない。」

 

「さっき篠田に様子がおかしいからって問い詰められて答えてしまったけど、篠田は全くそんな事は思わなかったって言ってた。」

 

「そっか。あたしは牧野に聞かれたけど答えてないよ。」

 

「え?そうなのか?」

 

「逆に宮壁みたいに簡単に口を割ってるのが心配なんだけど。牧野もなんとなく察してくれたみたいで詮索はしてこなかった。」

 

…自分では気をつけてるつもりだったけど危機感がないって事か…。気をつけよう。

 

「そうだ、高堂って牧野の事どう思ってるんだ?」

 

「は?急に何?恋バナ好きなの?」

 

「え、いや、別に俺は恋バナのつもりで言ったんじゃなくて…よくお尻を触られそうになってるから。」

 

そう返した瞬間!俺は高堂にはたかれた!わりと痛い!なんで!?

 

「あんた、牧野の次にデリカシーないね。」

 

「えっ!?ご、ごめん!」

 

「そうやってすぐ謝るあたり、無自覚なのが恐ろしいよね。…牧野の事…まあ、嫌いではないよ。」

 

「そ、そうなのか!」

 

よかったな牧野!

 

「しっかりしてるんだなって思ったから。変態なのは素直に腹立たしいけど。」

 

「だ、だな…。気をつけないとな。」

 

「そうだね。じゃあこれあげる。」

 

「ん?タオル?どうして急に?」

 

「今さっき叩いちゃったから。ごめんね。」

 

さっきの自身の行いを恥ずかしがっているのか、高堂の顔が少し赤い。

牧野が好きになる理由も分かる気がした。

もちろん俺は2人の為にも好きになるつもりなんて毛頭ないけれど。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「やあ、元気そうで何よりだよ。」

 

「本当に薬の分解なんてやってるんだな…。」

 

「どうしてやらないなんて事象が起きるのか説明してもらってもいいかな。」

 

あ、相変わらず面倒くさいな…!

 

「独り言だから気にしないでくれ。」

 

「独り言で嘘を言う事はまずないよね。つまりそれは本心だ。それならば余計になぜその一言を発したのか、詳しい説明が知りたい。という事で解説を頼むよ。」

 

「特に理由はない!うまい返しが思いつかなかっただけだ!強いて言うならすぐに取り掛かると思ってなかったんだ!察してくれ!」

 

「別にうまい返しを求めてはいなかったよ。」

 

もう帰ろう。そんなダラダラ話されると気分が下がってしまう。

 

「せっかく来たというのに、手伝ってあげようという親切心はないのかな。」

 

「…手伝います。何をすればいいか教えてください。」

 

「了解。」

 

という訳で東城のお手伝いをする事になった。

 

 

「キミは手際がいいね。研究者が向いていているよ。」

 

「ありがとう。とても嬉しい。」

 

棒読みには棒読みで返す。ストレスを減らすために俺がこの1時間で学んだコミュニケーション方法だ。

それにしても、だいぶ分解は進んでいてノートの表に『終了』と書かれた枠が増えてきた。

しかし同時に不安も増えてくる。

 

「これ、モノパオが欠品として新たに増やす、とかそういう事はないのか…?」

 

「ないよ。アレは化学について詳しくないみたいだから、どの瓶が無毒なのか把握できていないらしい。」

 

そんなポンコツでいいのか…?この調子だと意外とコロシアイの原因がなくなる事もあり得るんじゃないか?

 

「って、東城、モノパオに会ったのか?」

 

「勿論、実験だよ。無毒の瓶と未処理の瓶を並べておいておく。しばらくして帰ってきたけど変化はなかった。倉庫の時はすぐ下りてきていたところを見ると、今回はどうしていいか分からなかったのだろうと考えてボクは作業を続行しているという事だね。」

 

また実験、か…正直東城のいう実験は危ういものが多くて怖いな。

 

「毒の瓶が他の誰かに取られてたらどうするつもりだったんだ。」

 

俺の一言に東城の動きが止まる。そして俺の目をじっと見つめてきた。

 

「宮壁くん。驚きだよ。まさかキミが、そんなに周りの人を信用していないとは思わなかった。」

 

「え…?」

 

「そこは信用するしかないじゃないか。あれだけ周りを気にかけていたと見せかけて、実はボクよりも他人を信じていなかったようだね。恐れ入ったよ、キミみたいな人間が一番怖いな。」

 

相変わらず棒読みだけれど、その目は『実験したい物』を見つけたと言わんばかりにキラキラと輝いていた。

そして俺は、東城に反論する事は出来なかった。その意味に取れるのはごく普通の事だったから。

 

「気をつける。」

 

早く真っ向から反論できるようになるために。

 

「そうか。今日はありがとう。また何かあったら頼むかもしれないからよろしくね、助手くん。」

 

「いつから助手になったんだ…。」

 

相変わらず奔放で論理にうるさい東城をいつかぎゃふんと言わせてやる、そう思いながら保健室を後にした。

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

「あ!宮壁くん、じゃなかった、じみやくんだー!」

 

「最初ので合ってる。というかなんだ、じみやくん…?」

 

「地味な宮壁くん、略してじみやくんだよー!」

 

ふ、増えた…。だけどじみやくんの方があだ名っぽくていいな…じゃなかった!地味も比較的悪口の部類に入るぞ!?桜井は相変わらずにこにこと楽しそうにしている。そしてメモを取り出すと何か書き込み始めた。

 

「あれ?そのメモって雑誌の付録についてたオレジカのやつか?」

 

「そうだよー!不良品は美亜がもらうんだけど、部屋にたくさんあったんだー!じみやくんは持ってるの?」

 

不良品なのか…。まあ作者だしそれでいいのか?

 

「俺はコミック派だったから持ってないな。」

 

「そっかぁ…。あ!ちょっと待っててー!」

 

そう言って個室の方に消えていき、ものすごいスピードで戻ってきた。

 

「はい!あげる!不良品だけどねー!」

 

「いいのか?ありがとう。」

 

かわいい像のマスコットキャラクターが描かれている。

 

「そういえば桜井は何をしていたんだ?」

 

「今ね、ネタを探してたんだ!」

 

「ネタって、漫画の?」

 

「そーだよ!ここから出たら続きいっぱい描かなきゃだもん!ネタのストックをためるいい機会だよー!それにね、ここにはネタになるような人がたくさんいるからね!楽しいよー!」

 

鼻息を荒くして語る桜井から伝わる熱意は流石超高校級といった感じだ。

 

「それって、やっぱり難波や大渡の事か?」

 

「うんうん、やっぱり世間を騒がせていた正体不明の怪盗が派手なギャルJKだったなんて、展開としてはなかなかいいよねー!」

 

凄い…!難波の事がコンパクトにまとめられている…!え、これ、褒めてるよな?うん、褒めてるはず。

 

「あとわたりん?アレはすごいよー!きっと中二病真っただ中なんだろうね!幽霊を祓うタイプの漫画は多いけど、その漫画で言うと主人公になりうる能力を持ってるわたりんが人付き合い悪いっていうのは珍しい展開だと思うんだよねー!」

 

なんだかこれ…貶してないか?

 

「それにしても、桜井は皆の事を本当にしっかり見てるんだな。」

 

「まあねー!見てて飽きないからメモも止まらないよー!えっとね、ドS宮くんはねー…。」

 

って、俺の事もメモしてたのか…。特に書かれるような事はないと思うけど。

 

「まずねー、地味でしょ?」

 

「おい!そんな事書く必要ないだろ!」

 

「いやいや、大事な事だよー?地味なキャラって大体何か隠し持ってるんだからね!例えばすごい能力がある、とか!ほら、宮壁くんは判断力でしょ?それって立派だよー!キャラは立ちにくいけど。」

 

…褒めて上げてから落とすのはやめてくれ。悲しくなる。ま、まあ、地味なんだから仕方ないよな。

 

「俺…髪の毛緑にしようかな…。」

 

「う、うわー!じみやくんが典型的な大学デビューみたいな事しようとしてるー!やめなよ失敗するよ!」

 

ボ、ボロクソだな…!

 

「って、待ってよ!ドS宮くんはキャラ立ってるじゃん!」

 

「え?何かあったのか!?」

 

「ドS!」

 

もう嫌だ、俺は疲れた。桜井のとどめの一言に俺が何を思い何と返したのか、あまり覚えていない…。

 

 

 

 

□□□

 

 

 

そうこうしているうちにお腹が減ってきたな。食堂に行ってみるか。

 

「あ、宮壁、遅かったね。」

 

「夜はお魚さんを食べますーよー!」

 

厨房に立っていたのは潜手と高堂だった。珍しく東城もいる。

 

「何やってるんだ?東城。」

 

「ああ、食糧の調達だよ。面倒な薬品を後回しにしてしまったし、今晩は徹夜かな。」

 

「東城さんーそんな無理しなくてもー…潜手めかぶ、なんだか申し訳ないでーすー…。」

 

「無理とかそういう話じゃなくて義務だから。コロシアイをさせないためにできる事はしていくつもりだよ。」

 

「東城、それであんたが倒れたら狙われる格好の的になる。そんな事をする人がこの中にいるとは全く思えないし思いたくもないけれど、明らかに弱ってる人を見たら動きたい気持ちが後押しされるかもしれないでしょ。…めかぶちゃん、あれ分けてもいい?」

 

「あ!なるほどでーす!………ほい!」

 

潜手が渡したのは…するめいか…?

 

「あとはこの辺の干物ね。めかぶちゃんが自分の部屋にあったからってここに置いてくれてるの。これでも食べて。あとは……はい、せめてパンでも食べなきゃ、あんたそのサプリメントで乗り越えるつもりでしょ?」

 

高堂の言葉に東城の手を見るとたくさんの錠剤を抱えていた。高堂と潜手から食べ物をもらうと東城は初めてにっこりと笑った。

 

「2人ともいい人でボクは嬉しいよ。このまま変な気はおこさないようにしてね。」

 

そのままくるりと踵を返すと食堂からでていった。2人が東城の背中に声をかける。

 

「こらこらー!言われなくても潜手めかぶは殺人なんてぜーったいにしませーんよー!」

 

「めかぶちゃんに同じく。」

 

 

 

東城が完全に姿を消した後、夕食の本格的な準備が始まった。

潜手はすばやく魚をさばいていく。綺麗に三枚におろされた大きな魚を見て高堂と俺は感嘆の声をもらした。

 

「すごいな…!さすが潜手だ。」

 

「ほ、ほわわーっ、緊張しちゃいますーねー。」

 

潜手はそう言いつつも手のスピードが衰える事はなく、あっという間に綺麗に並べられた刺身が俺達の前に姿を現した。

 

「うわ…すごいな…料亭とかに出てくるやつと全く一緒だ。」

 

「飾り切りっていうんだっけ?このきゅうり、花の形になってる。あたしもやってみたいな。」

 

「ではではー、まだ時間もありまーすしー、潜手めかぶが直々に教えますーよ!宮壁さんもーやりまーすかー?」

 

「あ、ああ、やってみる!」

 

潜手の教え通りに切ってみるけど…こんなに加減が難しいものなのか…!簡単にできるとは思ってなかったけど、潛手があまりにも楽々とやってのけるから簡単に見えてしまっていたみたいだ。

 

「あっ、切りすぎた。」

 

「俺は全く切れてなかった…。」

 

「うふふー、難しいですからーねー、何事も練習あるのみなのでーすよー!」

 

不器用ではないと思っていたけど、ちょっとやそっとの器用さではなかなかうまくいかないもんだな…。

 

 

 

だいぶ時間が経っていたようで、俺達があらかたの準備を終える頃にはほぼ全員が食堂に揃っていた。

 

「あ!美亜も手伝うー!」

 

「あら、高堂さん潜手さん宮壁さん…!ありがとうございます。」

 

「あ、あの!おれも手伝います!まだ何もしてないので…!」

 

桜井と安鐘と柳原が駆け寄ってきた。分担して食事の準備を済ませ、席につく。

 

「あれ、ゆうまきゅんは?」

 

「まだ保健室でしょうか…?わたくしは覗いていないので知りませんわね…。」

 

「じゃあ、俺、見てくるよ…。」

 

端部が立ち上がる。

 

「あ!わたりんもいない!美亜呼んでくるよー!」

 

桜井も端部の後に続いていった。すると前木が突然口を開く。

 

「あ、そういえば今日ってあれからモノパオを見た人っている…?」

 

誰も反応しないのをみるに、会ってないようだ。

 

「前木、急にそのような事を聞くとは、まさか何かあったのか?」

 

三笠が心配そうな顔をするので慌てて前木は言葉を続ける。

 

「あ、いや、実は私の部屋の裁縫セットに針が入ってなくて、モノパオに出してもらおうかと思ったんだけど、何回呼んでも出てこなかったんだよね…。」

 

針がない裁縫セットとか何の意味があるんだよ。

 

「ちょっとスカートのほつれを直したかったんだよね…何もしてないのにほつれるなんてびっくりだよ…。」

 

こんな短期間でスカートがほつれるなんて事があるのか…?さっきから前木が幸運どころか不運になっている気がする。

軽くため息をつく前木に勝卯木が手を差し出した。

 

「蘭ちゃん、どうしたの?」

 

「…縫う…。」

 

「そんな、悪いよ…!蘭ちゃんがやった訳でもないのに!」

 

「……琴奈、悪くない。」

 

「え、えっと…分かった、じゃあお願いしちゃうね!」

 

謎に固い意志表示をして勝卯木は前木に向かって両手でサムズアップをやってみせた。なんのやり取りだよ。

 

「チッ、なんでわざわざ来なきゃなんねぇんだよ…。」

 

「やあやあ皆!わたりんったらあいかわらずひきっこぐらししてたよー!」

 

大渡が恐ろしい形相で睨みつけているが桜井はけろっとした顔で食卓につく。

 

「あ、皆生きているね。安心したよ。」

 

「こらゆうまきゅん!いつまでもそんな事言ってるとアタシの拳がうなっちゃうぞ!」

 

端部の隣で不穏な事を言う東城を難波が笑顔で脅す。

これで何気に今日初めて全員が顔を合わせたわけだけど…思ったより元気そうだな。よかった。

東城と大渡以外の皆が食事を食べ進めてしばらくした時だった。

 

「皆、ごはんを食べながらでいいから聞いてほしい。」

 

三笠が少し神妙な面持ちをして話を始める。

 

「自分の中でいろいろ考えてみたが…ここから出る方法は、今のところない、と考えている。あるとすれば、まだ行けないところ…有力なのはここの地下、そして可能性があるのは二階以上の上の階だ。」

 

「探索場所が広がるのを待つって事?まあそのくらいしかないか。俺はそれでいいと思うけど。」

 

牧野は悪魔を殺すつもりだって言っていたけど…ここでは言わないつもりなのか…?

 

「だが、そうなるとモノパオが現れないとどうすれば他の階や部屋に行けるのか勝手が分からないな。」

 

「まどろっこしい事はせずに悪魔を殺せばいいんじゃねぇのか。そこの才能の分かんねぇ女、貴様か?」

 

篠田の言葉にかぶせるように大渡が一番危惧していた事を口にした。場の雰囲気が一瞬で凍りつく。

 

「私は悪魔などという才能ではない。」

 

「じゃあ隠してる理由くらいは言えんだろ。」

 

「…言えない、まだ、言えないんだ。…寧ろ理由の方が言えない。」

 

「その言い方は悪魔で確定か?」

 

「それは違う!勿論、信じてもらえない事も分かっている。ただ、私じゃない。それだけしか言えない。」

 

「こらこらー!何をもめてるですーかー!」

 

「そーだよー!わたりん、いい加減にしないと美亜怒るよ!」

 

潜手と桜井が止めに入るが大渡は聞く耳を持たない。

 

「じゃあ貴様らはどう思っている。まさかコイツが全く怪しくないと本気で思ってる訳じゃねぇだろ。」

 

桜井が少しうろたえる。俺も何か言わなきゃ、雰囲気が最悪だ。

 

「潜手めかぶはー本気ですー!篠田さんはー、危険も顧みずに東城さんを助けたんでーすよー?悪魔さんが悪い奴なら、そんな事は絶対にしまーせーん!」

 

「はっ、勝手にほざいてろ。ここにいる意味はねぇな。帰る。」

 

「むむー!わたりんのバカ!そんな事ばっかり言ってたら死亡フラグが立っちゃうんだからねー!」

 

「騒ぐな。気味の悪いあだ名をつけやがって俺と対等になったつもりか?いいご身分だな。そういう貴様にこそフラグとやらが立ったんじゃねぇのか?そこらでくたばっとけ。」

 

「…」

 

桜井が言葉を返せないのを一瞥すると大渡はそのまま帰っていった。

いやなんなんだあいつ!言いたい放題言って単純に腹が立つ!

桜井も何か言ってやれ、そう思いながら俺の目が映した桜井は、俯いていた。

 

「…もぐちゃん、ありがとう。もぐちゃんのおかげでしのみーを信じる理由が分かったから。…でも、美亜、帰るね。あ、ごはんは持って行っていいかな…?」

 

「もちろんでーすよー!」

 

「ありがとう!…みんな、おやすみ!」

 

笑顔を作って桜井は帰っていった。俺が気づいてしまうほど、桜井の笑顔はぎこちなかった。

 

「すまない。私が早く才能を言えばいい話なのだ…だが、まだ待ってもらえないだろうか。きっと言う。約束しよう。…私はもうここにいない方がいいだろうから、すまないが食器をお願いする。」

 

篠田はそう言い残して、いつの間に食べ終わっていたのか食器を片付け、食堂から出て行った。

 

「…やはり、よくなかったか。すまなかった、自分がこのような話を始めてしまったせいだ。」

 

「三笠が謝る事じゃないと思うけど?いつかは話さないといけない話だったし。全員で協力するのは難しい話だと思う。」

 

高堂も深いため息をつきながら食事を再開した。

三笠はすっかり自分のせいだと落ち込んでしまったらしく、言葉を発さなくなった。重い空気が広がる。

そのまま長すぎる1分が経とうとしていた時だった。

 

 

 

 

「ああっ!?」

 

突然大きな声が食堂に響く。皆の目が俺に向いているのを見て初めて、それが俺の声だと気づいた。誰かが、いや、あいつしかいない!

 

「牧野、こんな時に俺の尻を触って何が楽しい!?空気を読め!というか空気を読むのはお前の得意分野じゃないのか!?」

 

牧野はけらけらと笑うと俺の尻から手を離した。なんか触り方が手慣れてて気持ち悪いな!

 

「あはは!得意だよ!いやーそれにしても宮壁のお尻は微妙だね!こんな事なら東城のにすればよかったよ!」

 

「ボクのお尻に興味があるの?」

 

牧野が目を細めて笑う。これは何か考えついたのか…?

 

「そうそう、いろんなお尻を触り比べて『実験』するんだよ!」

 

「へえ、実験。具体的にどんな事をするのか聞いてもいいかな。興味があるな、牧野くんの実験。」

 

その言葉で東城の興味をひこうとしたのか!?

というか東城も実験に興味示すのやめろ!?

 

「そうだなー、じゃあ東城はとりあえず難波ちゃんのお尻を触ってもらっていいかな?」

 

「ゆうまきゅんが、アタシのお尻を…?ゆうまきゅんならいいかな、なんちゃって…。」

 

いやいやいやいや、誰か止めろよ!難波もぶりっこ声で便乗するな!と思った矢先、高堂が牧野の頭をはたく。

 

「あんたがやりたい事はなんとなく分かったけど、もっといい話題にしてもらっていい?」

 

「あ、東城、高堂ちゃんのは触ったらだめだからね!絶対だよ!」

 

「分かった。他の人の尻部を触り比べてレポートにすればいいんだね。とりあえず尻部の感触と体重と体脂肪率が比例するのか調べてみるよ。」

 

「ちょっと待ってゆうまきゅん?女子に体重と体脂肪率を聞くのはタブーなの知ってる?」

 

「へえ、タブーなのか。知らなかったよ。興味深いね。」

 

「牧野はいい加減にして。これ以上言ったら本気で呆れるから。」

 

「ご、ごめん高堂ちゃん!もうやめる!はい終わり!ごちそうさまでした!片付けてきます!」

 

がやがやと騒ぐ4人を見て思わず笑う人もいれば肩をすくめる人もいた。…牧野がやりたい事、というのが俺もなんとなく分かったかもしれない。

 

皆食べ終わり席を立つ。途中のあの暗い雰囲気はすっかり、とまではいかなくてもほとんど元に戻っていた。

片付けも終わる頃に俺は牧野に話しかけた。

 

「牧野、盛り上げてくれてありがとな。」

 

「まあ、俺も悪魔を殺すのには賛成だけどね。」

 

「お前それ絶対人前で言うなよ。」

 

「分かってるって、誰に言ってんの。あ、あと少しいい?」

 

厨房の方にごめん!と手で謝る。安鐘が笑顔でOKサインをくれたので一足先に食堂を後にした。

入ったのはトイレだ。もちろん人の少ない教室の前にある方だ。

 

「あの後全員にカマかけたんだよ。いなかった。」

 

「は?」

 

「悪魔だと思える人はいなかった。俺の読み取りがあまいのか、悪魔の人が隠すのが上手なのか、それともこの中にはいないのか。どれかだろうね。超高校級を名乗ってる身としては読み取りがあまいとは思いたくないけれど。」

 

「…それで、なんで俺に話すんだ?俺が隠してる可能性はないのか?」

 

「そういう事を聞いて確認してくれるタイプの人間だからまだ信頼できるかと思ってね。もしかしたら俺が一番怪しんでるから聞いてるのかもしれないよ?」

 

…そう言いながらにやりと笑う牧野の本心が一番分からないな。

 

「俺を疑ってもいいけど、1人で動くとか変な気は起こさないでね。悪魔が判明したら他の全員に共有してどうするか決めたいし。」

 

筒抜けだったか。相変わらずよく見てるな…牧野なりにいろいろ考えてるのは分かるから口出しもしない方がいいだろう。

 

「分かった。牧野も…気をつけろよ。」

 

高堂のためにも、な。

 

「何、心配してくれてるの?ありがと、じゃあね。」

 

さすがにそんな事までは見抜けないのか、牧野は笑顔で手をひらひらさせながら部屋に入っていった。

 

 

 

 

 

 

今日は運動もやったし疲れたな、もう寝るか。寝支度を済ませて布団に入る。

 

それにしてもなんだったんだ、あの既視感。

俺がどうして牧野と端部を見たことがあるような気がしたのかも分からないし、そうだとしたらどうして俺と高堂以外は一切そういった話をしないんだ?いろいろとおかしいところがある。

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン。夜時間になりました。グッドスリーピングをエンジョイしてね、おやすみパオ!』

 

…もうそんな時間か。無駄に考えても仕方のない事だ、寝てしまおう。

そう思い無理矢理目を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピンポーン』

 

 

 

寝かけていた頃にチャイムが鳴る。眠い目をこすりながら扉を開けると前木がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、宮壁くん。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いている彼女の手には、包丁が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピロンピロン』

 

 

 

電子生徒手帳から、不気味な音が鳴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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