今回でまともに事件を取り扱う裁判は最後になります。ぜひぜひ、挿絵表示を有にして読んでくださいませ…。
今年も絶妙に投稿できたのではないかなと思います。来年の完結に向け、さらにパースアップを図りたいものです。
俺達が持っていたパオパオカメラは、モノパオによって回収されていった。
その後しばらく椅子にふんぞり返っていたが、俺達が沈黙を貫いているのを見かねて口を挟んできた。
モノパオ「じゃあオマエラ、さっさと議論を始めちゃってね!」
難波「随分淡々としてんね。」
モノパオ「まあね!何回もやってきたわけだし、いちいち裁判の説明するのも野暮ってものじゃない?」
難波「ふーん。」
前木「瞳ちゃん、体調は大丈夫……?まだ動きが……。」
篠田「……ああ。心配しなくて大丈夫だ。」
大渡「……。」
これで全員か。こうして見渡してみると、随分減ったのを実感する。そして、またここから減るかもしれないという事実を頭から無理矢理追い出す。そんな事、今考えても仕方ないんだ。
宮壁「……。」
モノパオ「あれ?男は喋らない縛りでもやってるの?そんなんじゃ事件なんて解決しないよ?」
宮壁「…………皆、やるぞ。」
モノパオ「ちょっと!無視しないで!」
持ってきた証拠を確認し終えて、俺は再び前を向いた。
□□学級裁判 開廷□□
宮壁「まずは東城を発見した時の状況を俺から説明する。一応、第一発見者だからな。」
数人が頷き返してくれたので話を進める。
宮壁「今朝、俺が部屋を出た時にモノパオに呼び止められたんだ。そこで事件が起きているという話を聞き、思い当たる場所として浮かんだ教室6に向かった。そこには篠田が倒れていたんだ。」
篠田「……私は、教室6にいたのか?」
宮壁「ああ。篠田は記憶にないだろうが、俺が発見したのは教室6だ。」
篠田「そうか。」
宮壁「防音室の扉が開いている事に気づいた俺は中に入り、東城が死んでいるのを見つけたんだ。そこからはモノパオにアナウンスを鳴らしてもらって、皆と合流したんだ。」
難波「なるほどね。アタシはアナウンスに起こされるまで完全に寝てたから鳴らしてくれて正解だわ。」
前木「それにしても、私達が寝てもおしおきにならなかったから、計画が成功したんだ!って嬉しくなってたよ……。」
モノパオ「やだなー!オレくんがそんな計画に引っかかる訳ないじゃん!あ、今回からはオマエラが少なすぎて可哀想だから、いい感じに茶々を入れてあげるね!」
篠田「……。」
モノパオ「ちょっと!さっきから無視するなんてひどいよ!!」
難波「じゃあ次は東城の死因とか?現場に凶器っぽいもの落ちてたし、話しやすそうじゃね?」
宮壁「分かった。」
東城の死因。大渡の検死の結果もここで共有していくべきだろうな。たぶん、大渡はそんなに喋らないだろうから……。
―議論開始―
難波「モノパオファイルによると2箇所撃たれてたみたいだけど、【どっちが致命傷か】って分かってんの?」
篠田「大渡が検死をしてくれていたな。」
前木「致命傷まで分かるんだね……!」
大渡「……。」
なんだそりゃ!!!
▼[検視結果]→【どっちが致命傷か】
宮壁「大渡が言えよ!!!」
難波「宮壁、アンタその切り込み方、この上なくダサいけど大丈夫そ?」
宮壁「俺だって好きでこんな同意の仕方なんてしない。」
難波「おつ。」
前木「大渡くん……。」
大渡「何の為に共有してやったと思う。裁判で同じ説明なんざしたくねぇんだよ。」
宮壁「はぁ…。とにかく、大渡によると、致命傷は心臓の方らしい。心臓を撃たれたとなれば大体長くはもたないだろうから、死亡時刻付近に撃たれたんだと思ってる。どちらも現場に落ちていた拳銃によるものだ。」
前木「なるほど……?あ、そもそもの話なんだけど、東城くんってどうして防音室にいたの?架空の事件では教室6にいる予定じゃなかったっけ?」
前木の疑問、これについてはあの人に説明してもらったらいいだろうな。
―コトダマ提示―
▼【篠田の証言】
宮壁「篠田、改めて話してもらってもいいか。」
篠田「……分かった。東城が何故規定の場所にいなかったのか、私にも分からない。私が理科室や教室6に向かった時には、すでに東城はいなかった。」
篠田「その後しばらくして、防音室にいるのを見つけて私から近づいたのだ。だが……。」
難波「ん?どした?」
篠田「…………。私は……。」
篠田が不安そうに俺を見る。
俺は、自分が持っている情報を照らし合わせてみた。その上で、俺は……。
犯人かは分からないし、動機なんてさっぱりだが、それでも怪しい人は既にいる。2人、明らかにおかしい発言をしている人がいるんだ。
そこに篠田は入っていない。篠田をかばう準備はできている。
しっかりと、頷き返した。皆にも信じてもらえるよう、俺からも説得していくんだ。
篠田「東城と何者かに襲われ、東城に向かって銃を撃ってしまった。」
前木「え、え……!?」
大渡「……。」
難波「……え、じゃあ、あれは瞳がやったって事?」
篠田「……東城の腹部の傷は私が撃ったものだ。」
難波「マジか……。」
宮壁「でも、俺は篠田がクロだとは思えない。今からその話をしていこうと思う。」
まずは、篠田が撃った場所と致命傷の位置が違う事を説明しよう。
―コトダマ提示―
▼【モノパオファイル6】
宮壁「これが証拠だ。」
前木「ファイル……。東城くんは2箇所撃たれたんだよね。」
宮壁「ああ。篠田が撃ったのは腹部の1発だけ。その後篠田は気絶してしまったから、心臓の方は別の誰かが撃ったんだ。」
大渡「……そんなの、そのスパイが嘘ついてるだけかもしんねぇだろ。2発とも撃った可能性だってある。」
宮壁「それでも、この2発には時間差がある事を証明してくれる人がいるんだ。」
大渡「証人?全員寝ていたのにか?」
心臓の方は後に撃たれたもの。それを説明しなくちゃいけないな。
―議論開始―
篠田「私が東城の元に向かったのは、【夜時間になった頃】だ。」
前木「夜時間っていうと、大体10時すぎだね。私達がご飯を食べたのが8時かぁ。」
大渡「その間は2時間。睡眠薬を飲んでないスパイ女はともかく、他は全員寝てるだろ。」
モノパオ「まったく、オマエラったら制限があるのに普段通りの時間に寝ちゃったの!?そりゃ今元気な訳だね!」
難波「急に出てきたと思ったらガヤ?うるさいんだけど。」
篠田「【他に起きている人はいない】ように聞こえるが……。」
ところどころ俺の知っている事実と違う発言をしているけど、とりあえず篠田が発砲した時に起きていたあの人に話をしてもらおう。
▼[難波の証言]→【他に起きている人はいない】
宮壁「難波!お前は知っているよな。」
宮壁「難波は銃声を聞いている。そうだったよな。」
前木「えっ?紫織ちゃん、まだ起きてたの?」
難波「いやー、アタシも言うだけ言ってみてよかったわ。意外と役に立つもんだね。そ!アタシは緊張で寝られなくてギリギリまで起きてた訳。そしたらなんか変な音がしたんだよね。」
難波「何があったか確認に行けよって感じなんだけど、とはいえ眠気がすごくて夢かも?って思ってたくらいだから聞くだけ聞いて終了。ま、1発だったって事は信じてほしいかも。」
宮壁「ありがとう。それに加えてさっきのファイルや大渡の検死でもあった通り、心臓の方が致命傷で、しかも死亡時刻は午前1時頃。そもそも篠田が3時間も間を空けて心臓を撃つ理由がないよな。その後教室6で倒れているのもおかしい。篠田がクロだとすれば犯行に違和感がありすぎるんだよ。」
前木「たしかに、クロなら犯行を早めに終わらせて寝た方がいいよね。事件が起きた以上、自分の意思で寝ても校則違反にはならないし、寝るなら自分の個室に行くし…ってことだ。」
宮壁「そうなんだ。それに、心臓の方が後に撃たれた根拠は他にもある。」
篠田「私も一緒に見ていたが、ここは宮壁に説明してもらった方がいいだろう。頼んでいいか?」
宮壁「ああ。」
腹部の後心臓を撃っていないと成り立たない証拠、東城の身に着けていたものだな。
―コトダマ提示―
▼【東城の白衣】
宮壁「これを見てくれ。」
宮壁「東城の白衣には1箇所しか穴が開いていないんだ。篠田が白衣の上から撃った後に、わざわざ白衣を脱がして心臓を撃つのもおかしな話じゃないか?」
大渡「……チッ、それもそうか。」
宮壁「なんで舌打ちなんだよ……。」
前木「とにかく、これだけおかしな点があるなら瞳ちゃんの証言は信じていいと思うな。」
篠田「……感謝する。」
難波「ところでさ、一応、瞳は銃で東城を撃ったんじゃん?なんで3時間も生きていられたのか、分かんなくね?そんなに放置されても大丈夫なもん?」
東城が延命処置を施されていた証拠。あれの事だな。
―コトダマ提示―
▼【東城の腹部】
宮壁「これが証拠になる。」
宮壁「篠田は気絶する直前まで東城の止血をしていたらしい。東城の腹部にタイツが巻かれていただろ?それに今の篠田は素足だ。」
皆の視線が自分の足に集まったのを察し、篠田は居心地の悪そうな顔をした。
篠田「全員で見るのはやめてくれないか、妙な気分になる……。」
前木「ご、ごめん…!」
難波「いやー、本当に全身に入ってんだ。そりゃプールは無理な訳だわ。いいね。」
篠田「そうか……?」
宮壁「え、えっと、話を戻していいか?」
篠田「すまない。……モノパオ、ここで人のカメラの映像を確認する事はできるか?」
ん?
モノパオ「できるけど、誰の映像を確認したいの?」
篠田「大渡の……東城の検死を始める時点の映像を用意してもらえるだろうか。」
モノパオが映像を用意するまで数分。緊張感の漂う裁判場には、沈黙が広がっていた。
大渡「おい……俺の検死に文句があるなら貴様がやってくれればいい話だ……。」
篠田「そういうつもりではない。ただ……1つ気になる事がある。確認してもらいたい映像も、検死の前だ。」
検死の前……つまり、俺が東城を最初に発見したのと同じ状態って事だよな?
映像には、大渡が検死のために東城の服をまくっている様子が映っていた。応急処置として使われた篠田のタイツも、変わらずきつく巻かれている。何か変わったところがあるようには思えない……。
篠田「……宮壁、捜査の時に言おうか迷ったのだが、お前はまだ、この違和感に気づかないか?」
宮壁「……え?」
篠田「私は、東城に弛緩剤を注入された後、睡眠薬の効果も出てきたため、応急手当は不十分だと言ったな?つまり、私の行った処置では、3時間も止血できないという事だ。」
宮壁「……。」
篠田「……なぜ、タイツがきつく巻かれていると思う?変だと思わないか?」
難波「東城が、残りは自分でやったとか……?」
篠田「自分で処置ができるなら、そもそも途中まで私がやる必要がない。」
変だ。どう考えてもおかしい。
篠田でも東城でもなければ、誰が応急処置の仕上げをしたんだ?
東城が死なないように手当した人。考えられるのは……。
Aクロ
B篠田を襲った人物
Cモノパオ
→B
宮壁「そうとしか考えられない……。」
前木「え、ど、どういう事?瞳ちゃんを襲った人がクロじゃないの?」
宮壁「そもそも、東城が篠田に撃たれた様子を見ていた可能性があるのは、東城と一緒に篠田を行動不能に追い詰めた奴だけだ。クロが発砲したのは深夜の1時。それに、応急処置をした上でクロがもう1発撃つ理由なんてないはずだ。」
難波「つまり、東城と手を組んでた奴と東城を殺した奴は別、そう言いたいの?」
宮壁「ああ。」
篠田「では、誰が……。」
……見えてきた気がする。
架空の事件は失敗なんてしていなかった。ほとんど計画通り行われていたんだ。
その『真の架空の事件』は、俺達に共有されていなかった。そういう事だ。
宮壁「……そもそも、東城がこんなに穴のある架空の事件を作るはずがない……。俺達全員に事件の概要を共有するなんて、そんなグレーゾーンを渡るような奴じゃない。あいつならどうする?俺達を確実に眠らせるために、あいつがしようとした事は……。」
難波「ちょっと、声小さいんだけど!」
東城優馬は、危ない橋は渡らない。自分の信条に反した事もしない。
東城が篠田に撃たれたのは篠田の事故だ。だから応急処置を施された。
あいつの事を考えたら、すぐに分かる事だったんだ。
東城は自分の手を汚す事も、自身が危険になるような事もしない。
例えそれが架空の事件であっても。
……篠田は、超高校級のスパイ。東城に言わせれば『犯罪者』だ。
じゃあ、協力者は…………。いや、それはまだ分からないな。だけど証拠になりそうなものは揃っているはずだ。
天啓のように次々と考えがまとまっていく。前木が幸運だからか?
少なくとも、あいつしか協力者になり得ないんだ。まずは手当の話から黙ったままのあいつに話を聞くしかないな。
宮壁「東城の考えた架空の事件は、篠田が被害者役、大渡がクロ役だったんだ。」
篠田「……は?」
前木「大渡くん?な、なんで急に?」
宮壁「篠田を襲ったのは大渡だ。」
大渡「証拠は。」
こ、怖すぎるだろ……。俺の声に被せるように響く声からは、今までとは訳が違う怒気が含まれていた。大渡を納得させて、全部話してもらうしかない……!
宮壁「証拠は、大渡が篠田を襲った方法だ。何かを投げつけられた、篠田はそう言っていたよな。」
篠田「ああ。……!そうか、大渡は以前にも木札を投げていたな。あのコントロール力ならば、私の手に当てるのも可能かもしれない。」
♢
♢♢
♢♢♢
1章 (非)日常編2
♢♢♢
「大渡はさ、桜井の言う事は聞くよな。」
「…は?何が言いたい。」
「もしかして桜井と友達になっ」
俺の言葉が止まった。痛みで。正確に言うと大渡から木の札が恐ろしいスピードで飛んできて顔にぶつかりました、とても痛いです。
「お、お前!いきなり何するんだよ!」
♢♢♢
?章 「非」日常編2
♢♢♢
柳原「いった……。」
篠田「殺すぞ。」
難波「ちょ、マジでやめろって!」
篠田「触るな!!!」
難波が慌てて止めに入るが篠田はびくともしない。
篠田の目は本気で、2人の力の差なんて明らかだ。まずい……!
ゴンッ!
鈍い音が裁判場に響き、直後、篠田が崩れ落ちる。いつの間にか、傍に木札が転がっていた。
大渡「うっせぇんだよ。耳障りだ。」
♢♢♢
♢♢
♢
宮壁「どうなんだ、大渡。」
大渡「……。」
相変わらず黙ったままだ。どうして何も言わないんだ。クロと協力者は別人とまで言っているのに、どうして……!
大渡「偉そうな口きくんじゃねぇよ……。」
宮壁「……!」
♢反論ショーダウン♢
大渡「大体、クロと協力者が別ってのも推測だろ。そうやって俺をクロに仕立て上げる気か?」
宮壁「俺はそんな事言ってない!お前が篠田を襲ったと考えるのが筋が通る。協力者ってだけだ!」
大渡「投げつける?スパイ女にぶつけるだけなら【誰だってできる】。」
宮壁「それなら大渡ができると発言してもいいだろ。」
大渡「何を投げたのかも分からねぇ癖にわめきやがって……。」
宮壁「きっと木札を投げたんだ。お前が一番コントロールよく投げられるのは札だからな。」
大渡「そんな証拠がどこにある。【木札を投げた痕跡】でも見つかったか?」
……あそこだ!
▼[オイル跡の違和感]→【木札を投げた痕跡】
宮壁「これがその証拠だ。」
宮壁「防音室に零れていたヘアオイル。その染みの一部に何かで擦れた跡がついていたんだ。大渡、これってお前の木札とほぼ同じ大きさじゃないか?」
大渡「……。」
篠田「木札……。たしかに、手にぶつかった時の衝撃から考えて、有り得なくない話だ。大渡、本当なのか?お前が東城と手を組み私を襲撃したのか?」
大渡「俺は犯罪者じゃねぇだろ。さっきそのクワガタ頭は、化学者野郎がスパイ女を計画に入れたのが犯罪者だから、そう言ったな?そこの矛盾はどうする。」
意地でも認めないつもりらしいな。大渡が犯罪者である、または犯罪者と関係を持っていてもおかしくない証拠は何か。おそらく、理科室に落ちていたあれだろう……。
―コトダマ提示―
▼【人道光望夢受信教】
宮壁「これじゃないのか。」
難波「?何それ。パンフレット?」
宮壁「これは人夢信教のパンフレットだ。存在は耳にした事がある人もいるんじゃないのか?」
前木「私にはさっぱり……。」
難波「……いや、アタシも完全に名前だけだわ。」
篠田「東城の所属していた倉骨研究所と同等の権力を持つ、かなり厄介な新興宗教団体だ。そして、ここに所属する人間はほぼ全員ある程度の手練れだ。そういう意味では私の所属する組織に近い存在と言えるだろうな。」
前木「でも、私はこんなパンフレットは見た事ないし、第一どうしてこれが大渡くんに関係しているって断言できるの?」
篠田「私もそれが疑問だった。図書室にも置かれていなかったこの冊子が、何故理科室に落ちていたのか。」
宮壁「このロゴだよ。大渡の刺青と似ていないか?」
前木「よく見ると、たしかに真ん中の部分が似てる、ような……?」
大渡「……。」
難波「……!そういう事ね。」
宮壁「難波は分かったみたいだな。」
難波「図書室にもないなら、これはアタシ達に配られてた動機に入ってたんじゃねーの?この中で秘密が他人に知られていないのは、最初から自分の動機をもらっていた大渡だけじゃん。なんで理科室にあるかはともかく、アタシ達全員がこのパンフレットに見覚えがないなら、大渡、アンタの物って事になるけど。」
大渡「……。」
宮壁「他の証拠だってある。」
―コトダマ提示―
▼【大渡の証言】
宮壁「これだ。」
宮壁「普段のお前なら断言するのに、どうして東城と篠田を見てないと言った時に言い淀むようなふりをしたんだ。おかしいじゃないか。」
宮壁「それに、捜査の時もだ。篠田が東城を撃った事はあの時は俺と篠田しか知らなかった。なのに、検死の結果を聞きに行った時、お前は篠田がつけた傷だと言っていたよな。どうして篠田が東城を撃ったと思ったんだ?」
大渡「チッ……。」
モノパオ「やあやあ、諸君、お待たせ!」
難波「え、何?」
モノパオ「大渡クンみたいな手のかかる人をどうにかするには、動かぬ証拠ってやつが必要だと思ったんでね!じゃじゃーん!これがダストホールに捨てられてましたぁ!」
そう言ってモノパオが取り出したのは、一部が変色した木札だった。モノパオがそのまま投げてきたので慌てて掴むと、じっとりと何かが染みているのが分かった。
宮壁「これ、オイルじゃないか?」
大渡「おい、ダストホールに落ちたごみは拾えないんじゃなかったか。」
モノパオ「はて?何の事でしょう?運営側は自由に決まってんじゃん!何馬鹿な事言ってんのー?あはは!」
ひとしきり笑うと満足したのか、何事も無かったかのように静かになった。この落差が不気味なんだよな、今のモノパオって……。
難波「宮壁、それ、宮壁の言ってた通りなの?」
宮壁「ああ。……大渡、いい加減観念してくれないか。」
大渡「……チッ。頭だけは回りやがって……。」
宮壁「なんで隠すんだよ、お前がクロだって言ってる訳じゃないだろ。」
大渡「どうでもいいだろ、そんな事……。」
篠田「認めるのだな?であれば話してほしい。架空の事件の本当の概要とは、一体どういったものだったのだ?」
大渡「……。」
大渡「チッ、糞野郎が……。」
頭をかくと、すっと懐から紙きれを取り出した。
大渡「これを使って糞化学者に強制参加させられた。」
宮壁「その紙きれ、もしかして……!」
―コトダマ提示―
▼【破れたリスト】
宮壁「これか?」
大渡に差し出された紙きれを持っていたリストと合わせる。破れた部分がぴったりと一致した。
篠田「何と書いてある?………………殺人?」
大渡「母親だ。尤も、あんなゴミを親だと思った事なんざ一度もねぇが。」
実の親をゴミなんて、と言葉がこぼれそうになったが、ギリギリのところで口を閉ざした。
柳原のようにまともじゃない家庭で育った奴もいたんだ、知ったような口を利くのは良くない……。
宮壁「そういえば、脅された、みたいな事は少し前から言ってたよな。あの時から2人で組んでいたのか……。」
大渡「チッ、んな事どうでもいいだろ。……化学者にリストを見せられて腹が立ったんで千切った。それだけだ。」
難波「うわ、横暴極まりない奴だ。」
意外と、手が出るタイプだよな……。
大渡「架空の事件の概要はこうだ。1度しか言わない。」
大渡「そもそも、疑われないために俺は睡眠薬を飲んでいなきゃなんねぇ。その眠気に負けないために『アレ』を用意する事にした。」
宮壁「アレって、もしかして……!」
―コトダマ提示―
▼【目覚ましドリンク】
宮壁「そのために作っていたのか……!」
大渡「うぜぇな、話を遮るな。」
宮壁「……ごめん……。」
大渡「あれを飲む事で作戦中は眠気に耐えられるって話だ。その後は基本あの化学者が主体となり、注射器やスパイ女をどうやって防音室に呼び出すかを考えていった……。」
篠田「待て、そもそも何故現場を防音室に変更する必要があった?教室6でも問題はないはずだが。」
大渡「……おい、クワガタ、代わりに答えられんだろ。」
宮壁「お前なぁ……!」
危うく手が出かかったので、手すりを掴む事で自分を落ち着かせる。
深呼吸をして、そうだ、記憶を消すんだ……大渡は今は当時の状況を話してくれるロボット……。つまり、俺がその補足をしてあげなくちゃまともに会話ができないんだ。
……よし。
宮壁「おそらく、防音室にしかなかったものを利用するためだ。」
―コトダマ提示―
▼【防音室のオイル】
宮壁「これの事だ。」
篠田「私が足を滑らせたのは、そのオイルのせいだったからな。……なるほど、それが目的か。」
難波「それもトラップの1つにしたって事か。」
大渡は2人の納得した声を確認すると、話をつづけた。
大渡「スパイ女を2人がかりで動きを止めるには、相当ハンデを与える必要があった。完全な隙をつく事、足元を覚束なくする事、あとは化学者がスパイ女を狙っている事を悟られないようにする事。これらを揃えても、上手く事が運ぶかどうかは五分五分だと奴は言っていた。」
大渡「俺は姿を見られないようにするため、札を当てた後はすぐに扉を閉めた。その後どうにかコイツが気絶したんで、弱った化学者に頼まれて俺が教室6に運び直した。そこで解散だ。化学者もその間に帰ったはずだった。以上。」
篠田「本気でモノパオを騙そうとするなら、私を確実に罠に嵌める必要があった、という事か……。なるほど、納得した。」
前木「つまり、東城くんにとっても大渡くんにとっても、瞳ちゃんが東城くんに誤射する事はイレギュラーだったんだね。」
大渡「チッ……しぶとい奴だ。」
篠田「…………。」
モノパオ「なるほどねー!オレくん、それなら大渡クンにちゃんと騙されてたよ!篠田サンを呼び出して殺す気なんだな~って思ってたからね!」
モノパオ「篠田サンが防音室に入った後を大渡クンが追いかけてたから、あの時に事件だって思い込んでオマエラの校則違反を見逃したんだよ。すごいねぇ、本当にオレくんを騙せるなんて!よかったねオマエラ、感謝するんだゾ!とはいえ、事件じゃないと分かったらその時点でやっちゃってたかもしれないけどね!」
大渡「……俺の動きは計画通り、何も間違っちゃいねぇよ。」
この話でかなり前進した気がする。
それでも、いや、だからこそ……疑問が残る。
篠田「こうして考えると、私視点、あまり分からない事もなくなってきた気がするな。一度整理し直してみてもいいのではないだろうか。」
難波「だね。大渡の言ってた事も踏まえて探ってみるか。」
―議論開始―
難波「瞳が動き始める前から架空の事件は起きていた。東城と大渡は協力して【目覚ましドリンクを作成】して、眠気に対抗する術を用意した。」
前木「瞳ちゃんが東城くんのいる防音室に向かったのを確認して、後から大渡くんが追いかけて……【瞳ちゃんの動きを止めようとした】んだね。」
篠田「大渡の奇襲や東城の筋弛緩剤、それに加え【事前に睡眠薬を盛られていた】事もあり、私は上手く立ち回れず、挙句の果てに東城に向かって発砲してしまった。」
宮壁「そこからはさっき話し合った通り、篠田に代わって大渡が東城の止血を行ったんだな。」
大渡「……あ?」
……これでいいはず、なんだけど、おかしいんだよな。
大渡の話していた内容と一致しないものがある。
▼[睡眠薬を飲んだ篠田]→【事前に睡眠薬を盛られていた】
宮壁「待ってくれ!」
篠田「?何かおかしな事を言ってしまっただろうか……?」
宮壁「……大渡の話に、睡眠薬は出てこなかった。そもそも、睡眠薬を用意したのは篠田じゃないか。」
篠田「……!」
前木「大渡くんが言い忘れてた、とかじゃないの?」
宮壁「俺も一瞬そうかと思ったんだけど、それだと矛盾が起きるんだ。」
―コトダマ提示―
▼【睡眠薬】【目覚ましドリンク】
宮壁「これを見てほしい。」
前木「ええっと、大渡くんは睡眠薬を飲んでて、その効果を打ち消すために目覚ましドリンクを飲んでる……。瞳ちゃんは本来飲まないはずだけど睡眠薬を飲んじゃってて……?分かんなくなってきた……。」
難波「……人数が合わない。」
前木「へ……?」
篠田「前木、私が睡眠薬を入れたコップは4つで、睡眠薬の入っていないコップは2つだ。現時点で、私と大渡は睡眠薬を飲んでいる。本来飲むはずのない私が、睡眠薬を飲んだという事は……。」
前木「あっ……!誰かのコップと瞳ちゃんのコップがすり替えられたって事……!?」
宮壁「そうなる。」
大渡「おい。コイツが間違えてる可能性もあるんじゃねぇのか。」
それはないんだよな。あいつが証言してくれている。
―コトダマ提示―
▼【前木の証言】
宮壁「お前も見てたんだよな、前木。」
前木「うん。私と紫織ちゃんは瞳ちゃんと一緒にご飯の準備をしていたから、瞳ちゃんが4つだけに睡眠薬を入れていたのを確認してるよ。もちろん、その時は架空の事件に則って動いていたからこっそり見てただけだけど……。」
難波「瞳は間違ってない。アタシからも証言させてもらうわ。」
宮壁「そういう事だ。大渡、念のために確認しておくけど、東城が睡眠薬を飲んでいたような素振りはあったか?」
大渡「……アイツは目覚ましドリンクこそ飲んでいたが、それはアイツが今日も寝られない予定だったからだ。ドリンクの効果も3時間程度しかもたねぇ。……いや、正式に証明はできないな。」
宮壁「それはどうかな。東城は目を開けて死んでいた。睡眠薬を盛られていたなら、深夜1時にもなって起きていられるはずがない。防音室に目覚ましドリンクを持ってきていた形跡もないし、東城が睡眠薬を飲んでいないのは明白だろうな。」
難波「とすると……、あと睡眠薬を飲んだかどうか分からないのは、アタシと琴奈と宮壁ね。大渡もちゃんと証明されたとは言えないけど。」
……思ったより絞れなかったか。
…………いや、大渡があそこまで話したんだ。きっと……
そこまで考えが及んで、急に世界が暗くなり始めた。
×××
×××
(もう1人怪しい人がいるじゃん?クロはあの子で決定だね。さっさと論破してオレの心を安定させなくちゃ!)
誰だ?
(早く裁判を終わらせよう。じゃないと間に合わなくなっちゃう。こんなに緊張するところにいつまでもいると危ないよ。オレが壊れちゃう前に、クロを倒してしまおう?)
ダメだ、こっちの声が聞こえてないらしい。
(大丈夫、安心して。あの子は裁判を上手く引っ張ってくれるよ。あの子は優しいからね。きっとこの裁判も上手くいくさ。深呼吸しよう!脳に酸素をいきわたらせて、そう……。)
……気持ちが落ち着いた気がした。
(いいね。もうばっちり!後は淡々と追い詰めるだけだよ。大丈夫、オレももう少しは耐えてあげるから。……いってらっしゃい。)
×××
×××
前木「……宮壁くん?大丈夫?」
ハッと我に返る。なんだ、今の……?やけに気分がすっきりしている。
宮壁「あ、ああ、大丈夫だ。……俺は、コップの入れ替えができた人は1人しかいないと思ってる。」
大渡「何……?」
篠田「そうなのか……!?」
宮壁「難波、俺はお前が怪しいと思ってる。」
前木「へっ?み、宮壁くん、何言って…」
難波「他の人達は信用できるって事?本当?そんな調子で信頼関係が結ばれているのか、甚だ疑問だけど……。」
難波「アタシをクロ呼ばわりするって事は、それ相応の証拠を揃えてんでしょ?アタシが納得できるように説明してみなよ。」
……狼狽えるどころか、当然の流れとでも言うように言葉を並べる。今まで味方だった分、こうして敵に回すと恐ろしいな……。
宮壁「そもそも、睡眠薬を入れた人物がどうしてクロになると思ったんだ?俺は怪しいとしか言ってないだろ。」
難波「じゃあ逆に何?架空の事件に関わってないならコップを入れ替えた奴がクロだと思われんのは当たり前じゃん。」
宮壁「……。夕食を用意したのは篠田、前木、難波の3人だ。俺と大渡はどのコップに睡眠薬が入っているか知らない。入れ替えができるのは3人だけだろ。」
宮壁「それに、難波は超高校級の怪盗だ。お前の才能があれば可能だった事だらけなんだよ、この事件は。」
難波「……例えば?」
宮壁「コップの入れ替えもだし、そもそも東城と大渡の計画を聞いた可能性があるのもお前が1番高いだろ。1人行動が多かったからな。その時たまたま架空の事件について話しているのを聞いたんじゃないか?」
宮壁「あとは……大渡と遭遇しなかった事だ。2人が何時に解散するかも分からないのに、どうやって丁度大渡がいなくなったタイミングを狙ったんだ?ずっと隠れていたんだとすれば、そんな事は難波にしかできない。」
難波「……はぁ、がっかりだわ。状況証拠は?全部推理どころか憶測にも満たない。」
宮壁「……。篠田、前木、難波の3人しかコップの入れ替えは不可能だ。そこで思い出してほしい事がある。」
―コトダマ提示―
▼【前木の才能】
宮壁「昨日の夕食の時、前木は不運だった。コップの入れ替えを、篠田と難波の目を盗んで行うなんて、少なくとも昨日の前木には不可能だ。」
難波「どれもはっきりしないな……。やる気ある?」
宮壁「……。」
やる気が、あるかって……そんなの、あるに決まってるだろ。やらなきゃ死んでしまうんだ。そんな状況で気を抜くはずがない。
難波「じゃあアタシから反論させてもらうけど、そもそも凶器は拳銃でしょ?アタシは拳銃なんか触った事もないし、それこそ誤射すると思うわ。」
宮壁「……そうか。おい、モノパオ。もう一度大渡の検死している映像を映してほしい。大渡は、この致命傷となった心臓の方は、どの距離で撃たれたのか分かるか?」
大渡「生憎素人だ。そこまでは知らねぇ。」
篠田「……なるほど、私が映像を見ながら検死すればいいという事か。」
宮壁「ああ、よろしく頼む。」
モノパオ「ちょっとちょっと!オレくんにもよろしくとかお願いしますとか、そういう言葉があってもいいよね!?」
宮壁「お前がやるのは当たり前だろ。」
モノパオ「しょぼん……。はーい、じゃあどうぞー。」
再びスクリーンに映し出された大渡視点の映像を見る。ちょうど心臓の傷を見ているところだった。数分間かけて傷口を丹念に調べている。
篠田「……。ふむ、大体分かったが……妙だな、至近距離から撃たれたように見える。ゼロ距離というべきか。弾丸がかなり奥まで届いていたのもそのためだろう。腹部の弾丸は心臓に比べると浅い位置にある。」
宮壁「遠くから狙うならともかく、至近距離であれば誤射の心配もないはずだ。それに……。」
―コトダマ提示―
▼【拳銃】
宮壁「この拳銃は自動拳銃。素人でも比較的容易に扱う事ができる種類だ。凶器からお前がクロじゃないとは言えない。」
難波「そう。じゃあ次。至近距離で撃たれたなら僅かでも返り血が散ってきそうだけど、それはどう説明すんの?」
……。なんだ、この違和感は……。
いや、今までの推理に間違いはないはずだ。特に疑問に思う事は無いし、何より怪しい人物は難波1人だ。クロもきっと難波だろう。それなのに。何かが……この議論の何かが、ずっとおかしい……。
―議論開始―
難波「もう一度聞くわ。クロは返り血をどうしたの?」
前木「犯行は夜だし、単純に【帰ってから洗った】んじゃないのかな……?」
篠田「洗わずとも着替えは個室にある。【服を着替えたら済む】話だろう。」
大渡「そもそも【返り血がつかないように工夫した】んじゃねぇのか。面倒臭ぇだろ。」
難波「普通に全部有り得そうだけど、宮壁はどう思う?」
▼[東城の白衣]→【返り血がつかないように工夫した】
宮壁「大渡の意見に賛成だ。」
大渡「それらしい証拠もあったからな。」
宮壁「ああ。東城の白衣の背中側に血痕がついていた。きっとあれは、クロが返り血を防ぐために使ったんだと思う。」
難波「なるほどね。でもそれって、アタシじゃないとできない事?怪しいかもしんねーけど、クロだって断定されるには早いんじゃね?」
宮壁「難波、お前……。」
どうしてさっきから、俺達を誘導するかのように議論を進めているんだ?
ふと、高堂を思い出した。彼女は裁判を迎えるにあたり、自分だけが生き残るのを躊躇い俺達に事件を解決させたんだったよな。
今の難波からは、なんというか……あの時の高堂と同じような空気を感じる。自分の事を他人事のように話しているような……。
宮壁「……。」
考えてみれば、難波がどうしてあんな失言をしていたのかずっと疑問だった。頭のいい難波が、『あんな嘘』をついて怪しまれないと思わないはずがない。わざと言ったんだ。
宮壁「なあ、難波。お前はどうしてあんな嘘をついたんだ?」
難波「は?嘘?」
―コトダマ提示―
▼【難波の証言】
宮壁「銃声を聞いたって証言だ。」
宮壁「最初に篠田も言っていたし、大渡も話していたよな。大渡は、篠田に奇襲をかけた後すぐに扉を閉めているんだ。現場は防音室。外に銃声が漏れることはないんだよ。」
難波「……。」
宮壁「捜査では拳銃が近くに落ちていただけで、拳銃が本当に凶器なのかは誰にも分からなかったはずだ。捜査の時点で銃声があったと証言できるのは、お前が拳銃を使ったからじゃないのか、難波。」
難波「なるほどね。つまり、アタシは大渡と東城が解散したのを見計らって防音室に入り、東城を撃ち殺した。聞いた銃声ってのは篠田の誤射じゃなくてアタシ自身が使った時の音。そう言いたいんだ。」
宮壁「ああ。」
難波「なるほどね。大体わかった。」
前木「紫織ちゃん、なんで……そんなに冷静なの……?」
難波「……。」
難波「あのさ、1つ言っていい?」
宮壁「なんだ……?」
難波「瞳の事をどうしてそう信用できるのか分かんないわ。動機の事を隠してるのによく信用できんね。」
宮壁「え?」
難波「瞳は自分に配られた秘密が『スパイである事』だと言った。でもよく考えてみなよ。モノパオが配った秘密は『自分の知らない自分の秘密』。それって、瞳自身は前から分かってる事じゃね?」
難波「ねぇ、瞳、なんで嘘吐いたの?」
篠田「……!嘘じゃない……紙は見せたはずだ!」
難波「偽装くらいできるでしょ。」
篠田「違う……!」
難波「大渡も宮壁も、結局自分の秘密について話してない。そんな事でよく協力だの信頼だのが言えるわ。この中に裏切り者はいないんだから信用して話せばいいのに。」
…………。
難波は、何を言っているんだ?
今は裁判で、クロを突き止めるのが何よりも優先事項だ。どうして今、俺達の信頼関係について問い詰められているんだ……?
そもそも、難波だって自分の秘密を話していない。
どうして、『難波の言う信頼関係』には、難波自身が含まれていないんだ。
篠田「本当に違うんだ。私に配られたのはこれだけで……!」
大渡「おい。もう貴様がクロでいいんじゃねぇのか。消去法で貴様しかいねぇだろ。」
難波「宮壁は?アタシがクロだと思う?」
宮壁「……それは……。」
難波の狙いが何も分からない。だけど、これは、もしかすると……。
難波が高堂と同じ、いやそれ以上の何かを得ようとしているのならば……。
宮壁「……。分かった。難波の言う通りにしよう。全員の秘密をここで公開する。皆もそれでいいか?」
篠田「お前達の狙いは分からないが……了解した。」
前木「……宮壁くん……。」
大渡「チッ……。」
宮壁「難波、お前も言うって事だよな。」
難波「ん。オッケー。」
宮壁「じゃあ俺から。俺の動機は、『両親が超高校級の悪魔によって殺された事』だった。」
篠田「……!面識が、あるのか……?」
宮壁「いや、いろいろ見たけどあまり思い出せなかった。」
俺の発言に前木を除く皆がざわついているけど、今はそれぞれの情報を公開する事だけが目的だ。今は俺の話は早めに切り上げるとしよう。
篠田「そうか……。次は私だな。『才能がスパイである事』、本当にこれだけが書いてあった。……信じてほしい、と言う事しかできない。」
難波「……そう。」
前木「えっと、私は『小学生の時の発表会で号泣した事』。知らない秘密というより、昔すぎて覚えてなかったって感じだと思う。家族が撮ってくれた映像がついていたよ。」
大渡「……。『桜井美亜と友人だった事』。」
宮壁「……!」
難波「だった、ねぇ。」
大渡「知らねぇよ。映像には、おそらく制偽学園の行事に参加している様子が映っていた。俺の記憶にはないが、まぁ事実だったんだろう。」
……。謎だな。俺が時折感じていたデジャヴもこれに関係しているのかもしれない。」
[情報⑧:大渡と桜井は過去に友人だった。なおその記憶はなし。]
難波「なるほど。大体分かってきた感じ?まぁ、これでお互い秘密はなさそうじゃん、いいね。」
宮壁「難波の番だぞ。」
難波「あ、そうだった。アタシの秘密は『怪盗の仲間を見捨てた事』。大した事じゃないからこれ以上は割愛するわ。この共同生活に関係する事もないし。」
篠田「……。」
5分の2が重い内容だったのもあって、皆沈黙してしまった。順番、変えたらよかったな……。
前木「……私が最後に話せばよかったね……。あ、そうだ!東城くんの秘密も共有しておいた方がいいよね。」
大渡「秘密?あのリストが全てだろ。」
宮壁「いや、研究所が犯罪者を実験に使っていた事は東城本人も前から言っていた。それは動機となる秘密じゃないんだ。前木、皆に見せてやってくれないか。」
前木「うん。捜査の時に宮壁くんには見せたんだけど……これだよ。」
前木は東城の封筒を開き、中の紙を読み上げた。
前木「『倉骨研究所が犯罪者の家族も実験に使っていた事』。これが東城くんの動機だよ。」
篠田「……待て。おかしいぞ。このリストではその秘密の証拠にはならない。」
宮壁「……。」
そもそもこのリスト、表の下側に余白がない。こんな事があり得るのか…………まさか。
宮壁「このリストには、続きがあるのかもしれない。」
前木「じゃあ、誰かが切り取ったって事……?」
大渡「俺が化学者に見せられた時はすでにこうなっていた。」
宮壁「東城が切り取ったのか、あるいは、東城より前にこのリストを手にしていた人物が切り取ったのか。この2つしかあり得ない。東城がこの残りを持っているか、今は判断できないから、まずはお前に聞くぞ。」
宮壁「難波、最初にリストが手に渡ったのはお前だよな。最初は何が書いてあった?」
難波「…………。」
難波「それも推理できる?当ててみなよ。」
宮壁「……っ、分かってる。お前は言ってたよな、捜査の時……」
♢
♢♢
♢♢♢
4章 非日常編1
♢♢♢
「宮壁さ、理科室のリスト、見た?」
「え、ああ。これか?」
急にその話が出てくるとは思わなくて、慌てて持ち帰っていたリストを見せる。
「持ってんなら話は早いわ。この3人、アタシの仲間。」
「え?」
難波は3人の名前にぽんぽんと軽く指を置いていった。
そういえば難波は、以前から『頭の悪い怪盗は捕まってしまう』と言っていた。捕まえられるって、この実験に使われるって事だったのか……!?
「あれ?てかなんでこのリストこんな破れてんの?前見た時は普通だったけど。」
「!!!そうだ、難波、お前が東城の動機とこのリストを持ってたんだよな!最初誰の名前があったか知らないのか!?」
「あー……、ごめん。アタシも身内の名前見つけてキレてから見ないようにしてたからさ。そのリストが燃やされずに残ってるだけでも感謝してほしいくらいだわ。」
「そうだよな、悪い。」
♢♢♢
♢♢
♢
宮壁「あの時、俺はお前の言う身内は怪盗団の仲間の事だと思い込んでいたけど、もしかして、仲間とは別に家族の名前があったんじゃないのか?」
難波「……。」
宮壁「そして、あの時の発言もお前の失言だな。お前は何故か『理科室にリストがある事を知っていた』。大渡と東城が計画を立てている際に理科室に持ち込まれたんだから、これがどこにあるか知ってるのはおかしいんだよ。」
宮壁「難波、これが俺の結論だ。」
難波「……なるほどね。銃声はわざとだけど、そっちは本当に無意識で言ってたわ。よく気づけんね。」
前木「……!じゃ、じゃあ……。」
難波はいつも通り不敵な笑みを浮かべていた。
まるで、まだ守らなければいけないものが他にあるかのように。
篠田「……待ってくれ、私には理解できない……。確かに証拠もある。難波がクロだという推理が間違っているとも言わない。だが、事件を起こして、どうして平然としていられる?」
前木「そ、そうだよ!紫織ちゃんが皆と信頼し合えるって言ってたのに、なんでこんな事になってるの?全く分からないよ……!」
難波「リストに家族の名前があった。」
宮壁「……。」
難波「東城に問い詰めて、カッとなって殺した。」
難波「近くに銃があったからそれを使った。アタシ自身がどうなるとか、全然考えてなかった。」
本当にさっきから何を言っているんだ。最初にコップを入れ替えたのは難波じゃないか。
宮壁「……嘘だ。バレバレの嘘を吐くな、難波。」
難波「……あ、コップの事言ってる?東城と2人きりで話す時間が欲しくて邪魔させてもらっただけだけど。」
前木「ねぇ、紫織ちゃん、変だよ!嘘言わないで!クロになったのも理由があるんだよね!?紫織ちゃんがカッとなって人を殺すような人じゃないって、私だって分かるよ!」
難波「うるさい。」
前木「……え。」
難波「じゃあ、琴奈は、家族が殺されたって知っても平然としていられる?殺した奴が目の前にいて、平気で話ができると思う?」
前木「……それ、は、」
難波「アタシはできなかった。この話、もう終わりにしていい?そんなにアタシを信じたいって言うなら、他に怪しい人に投票すれば?」
前木「……。」
前木をわざと傷つけるような物言いをしているにも関わらず、俺達の誰も難波に反論できなかった。
それは俺達が言葉が思いつかないとかではなく、なんとなく、難波の言いたい事を優先させてやるべきだと、心のどこかで思っていたからだと思う。
難波が何を思ってここに立っているのか、今の俺には分からない。けれど、思考を巡らせれば、数分先の未来の俺が、何かを掴めるはずだ。
この事件の、本当のきっかけを……。
♢♢クライマックス推理♢♢
宮壁「事件の発端は東城の考えた『架空の事件』だ。東城は俺達に話していた事件とは別に、被害者役もクロ役も違ったもう1つの『架空の事件』を用意していた。そして、そのクロ役に選ばれたのが大渡だった。具体的な流れは分からないが、東城の動機についていたリストで協力を仰いだらしい。そして、今回のクロは偶然にもこの会話を聞いていた。聞き耳を立てる事はクロの特技でもあったし、バレなかったんだろうな。目覚ましドリンクを作ったのもこの本当の架空の事件の為だったんだ。
そして決行当日。篠田は当初の計画通り、コップに睡眠薬を仕込んでいった。だけど、ほんのわずかな隙を狙って、クロは自分のコップと篠田のコップを入れ替えた。篠田を眠らせ、自身が起きているようにするために……。」
宮壁「解散した後、篠田は東城との計画を進めるために拳銃を手に入れた後、現場に向かった。指定の場所にいなかったからしばらく探し、東城のいる防音室に入ったんだ。そしてその後を追うように大渡も防音室に向かった。大渡は目覚ましドリンクを飲んでいたから平気だったけど、この時点で篠田には睡眠薬の効果が現れ始めていたはずだ。あの篠田が大渡がついて来ている事に気づけないのはおかしいからな。そして、大渡は篠田に向かって木札を投げつけたんだ。」
宮壁「木札は篠田の手に当たり、拳銃を落としてしまった。そこをすかさず東城が襲い掛かったんだ。東城は、元々用意していた注射器で、篠田に筋弛緩剤を打ち込んだ。動物にも効果のある薬で篠田は思うように動けなくなり……その後東城に発砲してしまった。」
宮壁「篠田は自分のタイツを割いて手当をしようとしたけれど、体力の限界だった。東城の手当の途中で睡眠薬によって眠らされてしまったんだ。その様子を見た大渡が途中から手当を交代。東城の手当を済ませた大渡は、東城の指示に従って篠田を教室6に運び、2人はここで解散になった。そして、大渡と篠田がいなくなったのを見計らって、今度はクロが防音室に入ったんだ。」
宮壁「その後、クロと東城の間で何があったのかは分からない。クロは東城を射殺。返り血は手当の時に脱いでいた東城の白衣を使って防ぎ、現場をほとんどそのままにした状態で去って行った。架空の事件で凶器などは用意されていたから、クロが改めて用意するものは何もなかったんだろうな。」
宮壁「一連の行動、特にコップのすり替えや篠田や大渡の尾行ができた人物は1人しかいない。問題のリストを最初に切り取る事ができたのもお前だけだ……。」
宮壁「超高校級の怪盗、難波紫織……お前がクロなんだ……!」
難波「……やるじゃん。ま、今回は証言も多かったからね。」
難波は、腕を組んで頷いていた。クロだと言われた直後とは思えない程、ごく自然に。
難波「正解だよ。アタシがクロ。東城にとどめを刺したのは、アタシだ。」
大渡「理解ができん。貴様は本当の架空の事件を知っていた。何故殺人を犯す必要がある?」
篠田「そうだ……。何故なのだ、難波。意味が分からない……。」
難波「だから、復讐に決まってんじゃん。東城がアタシの家族に手を出したのは事実。それが許せなかった。」
さっきから誰に何を言われても同じ事を言い続ける難波に、いつしか恐怖が勝るようになっていた。本当に、本当に難波は、復讐のために東城を殺したっていうのか?
そんな訳がない、そう否定したいのは、俺の単なるエゴなのか?
……。
何か、違和感がある。
モノパオ「はい、じゃあオマエラ!投票してね!といっても、答えが出ちゃってるんですけどね……はぁ、つまんないの……。」
モノパオの嫌味を聞き流しながら、俺達は無言で投票ボタンに手をかけた。
『とどめを刺したのは、アタシ』?
何故、東城は大渡に部屋まで連れて行ってもらわなかった?
……篠田が睡眠薬で眠らされた事で、別の人物が絡んでいる事に気づいたから。
東城は、何故自分で自分の手当ができなかった?
……それができないほど、弱っていたから。
モノパオ「大正解!今回の事件のクロは難波紫織サンでした~!!」
宮壁「……まさか、クロに成り代わったんじゃないよな。」
モノパオの非情極まりない宣告。
それとほぼ同時に俺の口から漏れ出た言葉。
一度疑えば、そうとしか思えない。
難波の視線が、揺らいだ気がした。