ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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この年で4章が終わりました。
1年で1章ペースだと後2年もかかる事になってしまうのでもう少しがんばりたいです。
それはともかく、残り3分の1!もう終盤になってきた事にドキドキしています。
裏切り者の正体や真相、全てに納得してもらえるように丁寧に書けていけたらと思います。
よろしくお願いします!!


非日常編 3

 

「……宮壁くん、クロに成り代わったって、どういう事……?」

 

「……。」

 

自分で言った癖に、これが嘘であってほしいと思ってしまった。

 

「はぁ?成り代わり?アタシはずっと復讐だっつってんじゃん。勝手に挿げ替えないでくんない?」

 

「……本当に、いいんだな。」

 

「何が。」

 

「本当に、その理由で受け取っていいんだな?」

 

「……いいってば…。」

 

誰か分からないけど、裁判中にアイツが言っていた。難波が優しい人だと。

それならば、動機が復讐だけなはずがない。

 

「待って!紫織ちゃんがよくても、私は納得しないよ!だって、紫織ちゃんは、皆の事を信じてたんでしょ……?それなのに、こんな事になるわけない……!」

 

「……はぁ。じゃあ、まずはこれ見てくれる?」

 

難波が前木に渡した細い紙きれ。あれはまさか……。

 

「リストの続きか。」

 

「そ。アタシが東城に動機を返す前に切り取ってたところ。」

 

「『難波鳩羽』……備考に、何もない……。この人が、そうなの?」

 

「アタシの妹。」

 

「……!!!」

 

「理不尽でしょ。倉骨研究所ってとこは、本当に見境ない屑しかいない。そこに所属してる時点で東城も」

 

「それは違う!」

 

「……。」

 

「たしかに、東城の発言で許せない事だってたくさんあった。だけど、それだけじゃなかっただろ!」

 

「鳩羽に悪いところなんて何一つなかった。東城には悪いところが少なからずあった。それで判断する事の何が悪いんだよ。」

 

「……それ、は、」

 

「…………悪いよ。」

 

俺が言い淀んだ横で、前木は、はっきりとそう言った。

 

「だって、東城くんがいくら悪くても、殺しちゃったらだめなんだよ。紫織ちゃんが悪い事になっちゃうんだよ。紫織ちゃんが殺人を犯さずに済む事もできたはずなのに……。だって、紫織ちゃんが本当に東城くんを許せなかったのなら、この紙きれが綺麗なはずがないもの。」

 

前木の言葉にハッとしたように返したのは篠田だった。

 

「そうか。難波はリストから妹の名前を切り取る際に、ハサミのような道具を使ったのだろう?本当に怒りに身を任せてリストを切ったのなら、普通は大渡のように手で千切る事になるはずだ。」

 

「そうだよ。紫織ちゃんは、怒ってなんかない。最初は怒ってたかもしれないけど、リストを切る時は、丁寧に切り取る事が出来るくらい冷静だったはずだよ。」

 

「……。」

 

2人の言葉を聞いて、難波は腕を組む。

 

「……そんなに話してほしいなら言うけど、」

 

 

 

「殺すつもりは、なかった。」

 

 

 

「紫織ちゃん……。」

 

「復讐をしたかったのも事実。でもそれは、東城だけに向けての復讐じゃない。東城みたいなただの一般研究員に実験体の決定権なんてない事くらい、分かってたからさ。元凶を突き止めるために聞き出そうと思ってた。睡眠薬を交換したのは……人に聞かれたくなかったのもあるけど、1番は瞳に寝てもらいたくて。アンタが1番精神的にヤバそうなのに寝ないとかいうし。無断で睡眠薬をすり替えたら、その時点でモノパオが事件だと勘違いしてくれそうじゃん。」

 

なるほど、俺達が寝るのは事件のために篠田が動く前。その時点で事件性を疑われては危ないと思った難波なりの機転だったという事か。

 

「……いろいろあるけど、アタシは後悔してないから。東城を殺して、良かったと思ってる。」

 

その瞬間、篠田が震え出した。

 

「…………成り代わったというのは、つまり、そういう事か……?」

 

 

 

「私が、クロになるのを、代わったというのか。」

 

 

 

「……違うってば……。」

 

「違わないだろう!!!!!!」

 

篠田は声の限り叫んだ。

 

「そうなのだろう……?あのまま東城が死んでいたなら、私がクロだったはずだ。宮壁が言っているのはこの事だろう。」

 

「……ああ。」

 

俺だって信じたくない。けれど、そう考えた方が、難波らしいと思ってしまった。

 

「何故だ……。」

 

ぼろぼろと零れる涙を拭おうともせず、篠田は難波を見つめていた。

 

「難波、何故お前は私をクロにしておかなかった!!!!!!」

 

「……。」

 

「私が生きたところで何にもならないだろう!!!!!難波の方が余程、周りを見て頭を働かせて動く事ができる!!!!!私にあるものなど、何もない!!!!!!!壁を作り、周りを疑い、その結果友人を失い続けた私に、何ができるというんだ!!!!!!」

 

篠田の声がかすれるたび、胸が痛くなった。

自分をクロにしないために友達がクロになってしまった、そんな事、到底納得できるはずがない。

 

「瞳ちゃん、そんな言い方、」

 

「ずっとそうだ!!!!!!!前回のコロシアイだって、私は周りに迷惑をかけ続けた!!!!!尊敬している人に怪我を負わせて、黒幕は暴けず、挙句の果てにあのコロシアイはなかった事にされている!!!!!!」

 

「瞳」

 

「難波は私よりずっと機転も利くし、証拠を模索する胆力もある。難波が生きてくれる方が、コロシアイを終わりにする可能性だってずっと高いはずだ……!何故、何故そうしない!難波なら分かるはずだろう!私なんかより難波の方が」

 

 

「瞳、いい加減にして。」

 

決して大きくない、けれど、厳しく突き刺さるような声。

篠田は肩を震わせながら難波の返事を待った。

 

「生かした理由?決まってんじゃん。」

 

 

 

「アンタ達に死んでほしくない。それだけなんですけど。」

 

 

 

「あ……ぁ…………。」

 

難波のその言葉は、動機を認めたのと同義だった。篠田が崩れ落ちる。

 

「やめろ……死んでほしくないなど、お前の勝手な決めつけだ……私は、自分の死ならいくらでも受け入れるのに……私にお前の死を受け入れろと言うのか……。やめてくれ……そんなの、偽善だ……。私は何も嬉しくない……。」

 

「喜べよ。」

 

「……。」

 

「そもそも、アタシ、瞳がやったの知らなかったし。」

 

「え?」

 

……あ。

脳が記憶を辿っていく。

 

 

 

 

 

♢♢

♢♢♢

4章 非日常編2

♢♢♢

 

そこに篠田は入っていない。篠田をかばう準備はできている。

しっかりと、頷き返した。皆にも信じてもらえるよう、俺からも説得していくんだ。

 

篠田「東城と何者かに襲われ、東城に向かって銃を撃ってしまった。」

 

前木「え、え……!?」

 

大渡「……。」

 

難波「……え、じゃあ、あれは瞳がやったって事?」

 

篠田「……東城の腹部の傷は私が撃ったものだ。」

 

難波「マジか……。」

 

宮壁「でも、俺は篠田がクロだとは思えない。今からその話をしていこうと思う。」

 

♢♢♢

♢♢

 

 

 

 

 

「そうだ、あの時、難波は腹部の銃痕が篠田によるものだと知らなかった。だとすれば、まさか、難波は。」

 

思わず唾を飲み込む。難波は、アイツの入れ替わりで防音室に入った。倒れた篠田を抱えて防音室を後にした………

 

 

「大渡がやったと思っていたのか?」

 

 

自分の名前が出た事に驚いたのか、大渡がぴくりと反応する。

 

「……あ?」

 

「あーやだやだ、宮壁ったら変なとこで記憶力がいいんだよね。いや、確証はなかった。大渡か瞳かどっちかかなーみたいな。東城もあんまり答えてくれなかったし。」

 

「じゃあ、本当なんだな。」

 

「大前提として、それだけが動機じゃねーから。そこは間違えんなよ。」

 

「それでも、放置しても死ぬ事が決まっていた東城に、わざわざとどめを刺したんだ。そう考えた方が自然だろ。」

 

「……そうかもね。」

 

「そんな、紫織ちゃん、本当なの……?」

 

「……琴奈、泣きすぎ。」

 

「だ、だって……!!」

 

そこから言葉を紡ぐ事はなく、前木は流れる涙を拭うので精一杯のようだった。

 

「…………理解ができん。スパイ女やそこの幸運の為というなら、まだ分かる。俺がまともに貴様と会話をした事があったか?偽善にも程がある。」

 

「そう?アタシは裁判の時からずっと言ってる。アンタ達は全員信用できるってさ。」

 

「本当に、それだけなのか?意味分かんねぇ……。」

 

「ふふ、分かんないかもね。大渡の過去について詮索するつもりはないけど、大体予測ついてるし。」

 

「あ……?」

 

「邪を清めるってのが信条の人夢信教。そんな宗教の信徒であるアンタの母親。アンタの才能ともいえる霊感を、母親含め信者達はどう思ったんだろうね。」

 

「……うるせぇ……。」

 

「清めの力としてあがめられたのか、それとも邪悪な力として排他されたのか。どっちにしても、アンタはその場で異端だったはず。アンタ自身は人夢信教に心酔しているようには見えないのに、どうして首なんて目立つところにタトゥーが入っているのか。」

 

「いい加減にせぇよ。貴様の話をしろ。」

 

「とにかく、アンタにアタシを理解するのは不可能だって言いたいの。アンタは人を信用した事ねーもん。でもアタシは違う。妹の事も、怪盗の仲間の事も、アンタ達の事も、全員同じくらい大事よ。アタシ達は仲間だったから。」

 

「……待ってくれ、その根拠が分からない。難波がそこまで俺達を信用する根拠……この中に裏切り者がいないだけにしては、あまりにも信じすぎじゃないか?」

 

俺の言葉に難波はまた笑うと、くるくると指に髪を巻き付けた。

 

「そんなに気になるなら話してあげるよ、アタシと東城がアンタ達を信じた理由。」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「難波さん。こんな時間に何の用事かな。」

 

「それは勿論……って何、アンタ怪我してんじゃん。」

 

「ミスだよ。いろいろあったんだ。ボクは今日で死ぬ。」

 

「……。」

 

「……で、何が聞きたいのかな。」

 

「とりあえず聞きたいのは……アタシ達が死んだ後の話。」

 

「達?」

 

「アンタ、それ自殺じゃないんでしょ。じゃあアタシがクロになるわ。」

 

「何故?」

 

「死ぬなら犯罪者が死んだ方がいいでしょ。」

 

「まぁ、それはたしかにそうだね。とはいえ事故でも銃撃されたのは事実だ。犯罪者が沢山いる事になるね。」

 

けろっとした顔でそう言い切った東城に、このまま殴り殺してやろうかと思ったけどぎりぎり堪えた。

 

「最低。で、質問に対しては?」

 

「……今後の事は彼らに任せるしかない。ボク達には何も……」

 

「できる。今のアンタは明らかに今までのアンタとは違うから。」

 

「どうしてそう思う?」

 

「なんとなく。勘ってやつ。」

 

「……ははっ!難波さんらしいや。」

 

「!!!」

 

びっくりした。東城が、声を出して笑っている。

それに、『アタシらしい』?何を急に知った風な口を…………

 

「そういう事か。記憶、戻ってんだ。」

 

「さすが難波さん。頭の回転が速くて助かるよ。実はお腹の痛みで走馬灯みたいなものがずっと見えていてね。記憶もばっちり戻ったよ。」

 

「まーね。どう?現状については。」

 

「最悪だよ。桜井さんと端部くんなんて何馬鹿な事をやってるんだって感じだし、牧野くんに至っては最低だね。好きな人を犯罪者にするなんて。三笠くんと潜手さんに安鐘さんは、惜しい人を亡くしたっていうのが正しいかな。昔は本当に頼りになっていたんだ。柳原くんの才能については初めて知ったよ。やけにテスト勉強をしないとは思っていたけれど、しなくてもできていたんだね。」

 

「まぁ、総括すれば地獄絵図って感じだよ。全くとんでもない事をしたね、勝卯木蘭って奴は。」

 

「え、光の事忘れてる?とんだけど。」

 

「いや、彼女についてはこれから言おうと思っていた。」

 

東城は、とんでもない事を口にした。

 

 

 

「ボクはね、裏切り者は高堂さんの事だと思う。いや、彼女は死んでいるから今モノパオを操作しているとは思えないのだけれど、少なくとも、『コロシアイの前からボク達と対立していた』のは高堂さんだけだから。」

 

 

 

「……どういう事?」

 

「高堂さんは……ボク達の『ある計画』を邪魔しようとしていた。理由は分からない。けれど、ボク達は絶対にその計画を進めなければいけなかった。それが、『制偽学園を破壊するため』に必要な事だったからね。」

 

「制偽学園を、破壊?計画?光がその邪魔をした?なんで?ちょっと待って、もっと詳しく……!」

 

「……具体的には言わない方がいい。カメラがある。絶対ボク達の会話を聞いているよ。それに、ボクは常に万一に備えているからね。キミが来るまで走り書きしていた。これを……。」

 

そう言って東城からメモをもらった。これに情報がまとまっているらしい。アタシは失くさないようにポケットにしまった。後で部屋にでも隠しておこう。

[情報⑨:特別学級の皆で、制偽学園を破壊するためのとある計画を目論んでいた。高堂光だけは終止それに反対していたらしい。]

 

「その計画ってさ、成功したの?」

 

「失敗したからこんな事になっているんだよ。ボク達が相手にするには敵が強大すぎた。」

 

「……そう。次は特別学級の本当のメンバーについて知りたい。」

 

「了解。はは、次々質問されてそれに受け答えするなんて、さながらチャットAIだ。」

 

……東城って、こんなにノリ良い奴だったんだ……。

 

「とはいえ、真の超高校級の記憶力の人についてはボクも詳しくない。あくまで走馬灯で見えた記憶が戻っただけで、他の事は知らないままだからね。彼女がコロシアイに巻き込まれなかったのは一重に勝卯木蘭が代わりに入る事になったからだし、彼女とこのコロシアイは無関係だろうね。彼女もボク達と一緒に学園と戦ってくれていた。おそらく今はどこかに軟禁されているのではないかな。」

 

「て事は、その人が裏切り者とも言えないんだ。」

 

「うん。……なんだったかな、たしか、桜井さんには『たまちゃん』と呼ばれていたはずだよ。ボクは特別学級にいた時も交友関係が広い訳ではなかったからね。彼女ともあまり話していなかった。」

 

……たまちゃん、彼女って言い方からしても、16人目は女子だった事以外分かりそうにないな。

 

「ふうん。」

 

「そうだ、あとは超高校級の説得力について言っておこうかな。記憶さえ戻ってしまえば正体なんて簡単に分かる。何せ、ボク達はあの人とも協力して計画を練っていたからね。」

 

「……?待って、悪魔は敵じゃねーの?」

 

「学園の敵である事は間違いないし、世間的にもいい存在ではないよ。けれど……その志はボク達と同じだった。彼も制偽学園を破壊する事に賛成してくれていたからね。」

 

「彼……悪魔は男?」

 

「……いや、男、なのかな。」

 

「は?」

 

「あくまでその人の別人格だから、悪魔本人に性別はなかったはずだ。特別学級で過ごしていた時、クラスメイトであるボク達の前で本人がその話をしていたよ。いや、スカートも履いてみたいと言っていたけれど……。」

 

「……。」

 

なるほどね。これはもう、ほぼ確定と思っていいかもしれない。

悪魔についての考察はここで打ち止めでいいや。たぶん合ってるし。

 

「とにかく、ボク達の敵は悪魔じゃない。だけど、それを踏まえた上で、キミが悪魔の人格を持つ人をこれから殺しに行くとしても、ボクは止めない。ボクはもう死ぬから、後の事なんてどうしようもないからね。」

 

悪魔を殺すかどうか。

アイツを殺せば、悪魔以外、つまり、アタシも一緒に出られる訳だ。

この上なく魅力的な提案だろうけど……

 

 

「……やらねーよ、人殺しなんて。出てもアタシが警察に捕まるだけだし。罪状多いから損だわ。」

 

「ボクを今から殺す人の台詞じゃあないな。」

 

「アンタを殺したところで、アタシも被害者でしょ。ノーカンノーカン。」

 

「……はぁ、生粋の犯罪者は、思考回路がどうもずれているらしい。」

 

頭を抱えてきたけど、そもそも人体実験に絡んでる時点で同類じゃんか。なんて愚痴を飲み込み、東城の話を促した。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「ざっとこんな感じ。はいはい、もう何もないから納得してよね。」

 

「…………。」

 

難波は、自分がクロになったどころか、悪魔が誰か分かっていて殺さない選択を取るのか。生きてここから出る方法が分かっているのに、柳原と同じ道を選ぶのかよ。

 

「紫織ちゃん、やだ、やだよ……。死なないで……。」

 

「だから、死ぬしかないんだって。琴奈はいつまで泣いてるつもり?」

 

「だ、だって……!!そもそも、瞳ちゃんが誤射したのだって、私の不運のせいじゃないの…?だって、昨日は私が不運だったんだよ……?こんなの、私が引き起こしたようなものだよ!私のせいで瞳ちゃんが誤射して、それで今紫織ちゃんがクロになって……!」

 

「それは……。」

 

「やっぱり……!あはは、やっぱり私のせいなんだ……!ごめんね、本当にごめんなさい……!代わりに私がクロになればよかったのに……!不運なのは私なんだから……!!!」

 

「前木、やめろ…!お前のせいじゃない!私が、私が大人しく東城に反抗しなければ……!」

 

「ちょっと、2人ともやめてってば……。」

 

悪魔についてもかなり分かった。要は悪魔は二重人格で、今はその人格が出ていないから最初の事件の前に牧野の才能をもってしても割り出せなかったんだ。

 

「理解できねぇな。悪魔が分かっているのに殺さない選択肢があるか?今すぐ殺せば俺達も出られる。これ以上ない解決策だろうが。」

 

「出たって捕まるのに殺す馬鹿がどこにいんの?」

 

「あ?未成年者なら罪状も重くならねぇし、そもそも特殊な状況下だ。十分に情状酌量の余地があんだろ。おいクワガタ、貴様の得意分野じゃねぇのか。」

 

東城は他にも気になる事を言っていた。

俺達が考えていた計画、それが何か、どうやったら分かる?難波がどこかに隠していてくれるなら、後で探しに行った方がいいな。

 

「おい、聞いてんのか。」

 

「……え、あ、あぁ、悪い……。」

 

大渡は舌打ちをして二度と俺の方を向かなくなってしまった。さすがに俺が悪い。

 

「私は……何度同じ事をすれば…………」

 

篠田は床にへたり込んだまま立ち上がろうとしない。前木も泣いたまま一言も話さなくなってしまった。

 

「……チッ、じゃあ悪魔の正体とやらを教えろ。そこのスパイ女が殺すだろ。」

 

「大渡……!!!」

 

難波が食って掛かるように大渡の前に立つ。

 

「悪魔を殺せば、難波が助かる……?だが、誰かを殺さないと、難波は死ぬ……どうすれば、どうすればいい……?」

 

「アタシは言わない。瞳が何かする必要はねーよ。」

 

「……。」

 

「私は……。」

 

「つまり、貴様は俺達がこれから先もコロシアイを続ける事を強要する訳だ。まぁ、そこでくたばったところで貴様には関係ないだろうからな。高みの見物ってやつか?」

 

「はぁ……。」

 

大渡の言い方もいつにも増してキツい。だけど今回ばかりは大渡の気持ちも少し分かってしまった。難波が頑なに悪魔の正体を言わない理由。それは……

 

「悪魔が俺達の仲間だから、殺すわけにはいかない…って事か?」

 

「そう。」

 

「……。」

 

本当に、たったそれだけの理由で、難波は死ぬ事を受け入れている。

嘘のような話だけれど、難波の表情はとても嘘を吐いているように見えなかった。

 

それでも、存在しなくてもよかったはずのクロという存在。これから待ち受けるもの。この状況を作りあげている全てが俺達の空気を重くしていた。

 

「んじゃ、皆はちゃんと仲良くしてよ?」

 

「ま、待って紫織ちゃん……!」

 

「ちょっとちょっと、待つも何もこの場を仕切ってるのはオレくんなんですけど!待たせるか待たせないかは、オレくんだけが決められるんだよ!」

 

「モノパオは黙っていろ……。」

 

顔色の悪い篠田に睨まれ、モノパオは腰に手をあて宙を見上げてしまった。

 

「……。」

 

モノパオが黙り込んだのと同時に俺達も沈黙してしまった。

何をどう話せばいいかも分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

……けれど、その沈黙を破ったのも、やはり難波だった。

 

 

 

 

「あ~~~~~~あ!!!最悪!!!東城だけかと思ったら瞳も死んでもいいみたいなスタンスでさ!!!!アタシの命、そんな死にたがりのために浪費したくねーんだけど。」

 

「!?」

 

突然、難波は大げさなため息と共に愚痴をこぼした。そのまま大渡の方をきつく睨む。

 

「大渡!」

 

「……あ?」

 

「大渡もいつもみたいに無愛想でいてくんねーかな!?何を今更悔しそうな顔してんだよ!!!!そんな顔できるなら美亜の時からしとけよ!!!!!だっっっさ!!!!!!」

 

「……っ。」

 

 

 

「紫織ちゃん……?」

 

「琴奈も!!!!!アンタさっきから自分の才能のせいっつってるけど、そもそも暴かれなくてもクロとして名乗り出て説明するつもりだったし?アンタの運なんかなくても、アタシは生き延びるつもりじゃねーっての!!!」

 

「へ……。」

 

 

 

「何を言って……」

 

「瞳、アンタは何のためにここにいんの!?アタシはアンタの人柄も才能も買ってる!買ったからクロになってんの!!それをいつまでもうじうじ……!!いい加減開き直ってもいいんだけど!?」

 

「……!」

 

 

 

「……なに、わ、」

 

「宮壁もいつまで間抜けな面してる訳!?アンタが突き止めたんでしょ!?クロが分かった途端にやっぱ突き止めなきゃよかった~みたいなふざけた事言ってんなよ!!!!アンタの甘っちょろい判断でアタシの感情まで決めつけんな!!!!」

 

「……。」

 

 

 

 

 

「アンタ等全員、これで生き延びれるぞって勝ち誇った顔してくんないかな!?ほんっと、面倒くさい奴等……!!!!」

 

難波は心底だるそうに頭を抑える。

 

 

 

「アンタ達にはこのアタシが直々に助けてやるだけの価値があんの。理解しろよ。」

 

 

 

 

無理だ、無理に決まってるだろ。

難波が俺達のために死を選んだと知って、その死を惜しまずにいろなんて、なんて酷な事を言うんだ。

 

「紫織ちゃん。」

 

「投票を間違えて代わりに私達が死ねばよかったなんて、そんな綺麗事が言える程、私は強くないよ。でも、それは今笑えるかどうかっていうのとは、話が違う!」

 

「……琴奈。アンタもそろそろ、」

 

「私は、笑いながら紫織ちゃんとお別れなんてできないよ!死んでほしくないって、一生おしゃべりしていたいって。そう思わなきゃ、本当にだめなの!!!」

 

「紫織ちゃんの事をずっと大切に思いたい、紫織ちゃんの事が大好きだから。私にとってそれは、笑顔でのお別れなんかじゃない。」

 

「紫織ちゃん、ごめんね。私、弱いから、紫織ちゃんの言う通りできない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はどうしたって、泣きながらお別れがしたいよ………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

前木は、これ以上ないくらいに号泣していた。

その場に崩れ落ちたまま、前木は溢れる涙を袖で拭っていた。

 

 

「……私もだ、難波。すまない……涙を止められなくて……。」

 

 

 

 

「……ほんと、弱すぎて、ウケるんだけど。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………難波。貴様には世話になった。以上だ。」

 

 

 

 

「あはっ、大渡が言うの、キツ…………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本当は、こんな言葉なんてかけるべきじゃない。

難波はすでに半泣きだった。皆にこんなに必死で言われて、泣きたいのをこらえているんだ。

これから死ぬっていうのに、怖くない訳ないじゃないか。

自分から死を選んだからって、難波は死にたい訳じゃないのだから。

 

そう、分かっているんだ。

けれど、そんな理性がはたらくはずもなく、俺の口は勝手に動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、難波。俺達、絶対に生き残るよ。」

 

 

 

 

「あははっ!ばーか。当たり前じゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

難波は、泣きながら笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、アタシからいろいろ言いたい事があるんだわ。」

 

 

難波は最初に前木に近づくと何かを手渡し、ささやいていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん。宮壁も。」

 

 

そう言って俺にこっそり渡されたのは、先の曲がったヘアピン。俺の傍で耳打ちする。

 

「電子生徒手帳は玄関ホールに保管されてるけど、今まで死んだ奴等の部屋に入れない理由、知ってる?」

 

「え?」

 

「個室には手帳の電子キーとは別に普通の鍵がかかるようになってた。」

 

「……要は、このヘアピンで今まで死んだ奴全員の部屋にいつでも入れる。ほんと作るの苦労したわ。間違っても曲げんなよ?」

 

「…………!!!」

 

 

 

ああ、難波、お前は最後まで俺達の心配をしてくれるのか。

 

 

難波は大渡と篠田にも何かを渡したようで、全員の顔が明るくなったような気がした。

 

 

 

 

 

 

「アタシは悪魔の正体も、モノパオ、アンタの事も、コロシアイについても、ほとんど予測できてる。見てな、モノパオ。もうアンタの思い通りにはならない。」

 

「間違いなく、このコロシアイは終わる。アンタが元気でいられるのも今の内って事よ。」

 

そう言って、難波はいつもの不敵な笑みを見せた。

何を考えているか分からない事も、怪しく見える事もあったその笑みが、今は何よりも俺達の背中を押してくれるように感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不甲斐ないな。

まだ生きていく俺達が、これから死ぬ難波に勇気づけられるなんて。

笑ってしまうほど情けなくて、自分が憎いほど悔しいけれど。

 

 

笑顔とは程遠い顔で、難波から、反撃のためのバトンを貰う。

 

 

 

これが俺達の別れだ。

希望を繋ぐ、涙の別れなのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はいはーい、ここらへんで打ち切っちゃって大丈夫そ?オレくんももらい泣きしちゃったよー。いやぁ、友情っていいもんだなあ。そんな友情を美しく飾ったままでいるのももったいないので、ここで1つ、現実ってのを突きつけちゃおっかな!」

 

「現実……?」

 

「篠田サン復唱ありがとう!オレくんは途中まで篠田サンか大渡クンがクロだと思ってたから2つは考えてたんだけど、難波サンのおしおきなんて用意できてないの!だ・か・ら~……」

 

 

 

 

 

 

 

ぞわりと、鳥肌が立った。

俺達は忘れていたんだ、今のモノパオがこんな希望に溢れた状況で終わらせてくれるはずがないって事を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「難波サンには、篠田サンと大渡クンにやる予定だったおしおき、2つを執行しちゃいまーす!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ?」

 

「は……?」

 

「……っ!瞳!大渡!聞かなくていい!どっちにしろアタシが処刑されるんだから方法なんてどうでもいいじゃん!!!」

 

 

「あはは、そうかなぁ?本当なら自分が受けるはずだった痛みを、難波サンが代わりに受けてくれるんだよ。文字通りオマエラは難波サンを身代わりにして生き残る。」

 

「うっせーんだよ!!!!!!!余計な事吹き込むな!!!!!!」

 

「じゃ、目も耳も心もかっぽじってよく見ておいてね。難波サンへのおしおき、始めちゃいまーす!」

 

「身代わりなんかじゃねーよ!!!!違う!!!!!!真に受けんな、馬鹿!!!!!!」

 

 

 

 

 

モノパオの笑い声以外、何の音も聞こえない。

 

 

難波が何かを必死で叫んでいるのに、それすら聞こえない。

 

 

 

 

全てモノパオのせいなのか?

 

今この現状は、俺達がかける言葉が見つからないせいじゃないのか?

 

顔面蒼白の篠田と、眉間に皺を寄せたままの大渡と、口を抑えて震える事しかできない前木と、思考が止まってしまった俺。

 

俺達の全員が何も言えないから、難波は今、こんなに苦しんでいるんじゃないか?

 

俺達は、最後の最後で、難波の心をぐちゃぐちゃにしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

GAME OVER

 

ナニワさんが クロにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「これ見て。」

 

アタシは、鳩羽の名前を見せた。

 

「……難波鳩羽……?難波さんの知り合い?というより、この紙きれは……。」

 

「アンタの秘密にあったこのリスト、アタシが先に見て切ってた。何か弁明は?」

 

「弁明も何も、ボクは知らないよ。」

 

「……!!!アンタ、記憶が戻ってんじゃねーの!?知らない訳ねーだろ!!」

 

「戻ろうが戻らまいが、ボクはずっとボクだよ。」

 

「じゃあ、反省も何もないんだ……?アンタのポリシーだった犯罪者がどうのってのは何だった訳?最近様子がおかしかったのも関係ないんだ?」

 

思わずまくし立てるように言ってしまったけど仕方ない。

東城はアタシの言葉に何を思ったか、自分の膝に視線を落とした。

 

「……それは、違うよ。ボクは犯罪者でない人が実験に使われるなんてあってはならない事だと思っている。ありえない事を平気でやっていた研究所にも、過去の自分にも腹が立つ。けれど、何よりも苦しいのは……」

 

「ボク自身が、何も思い出せない事だ。」

 

「……!」

 

「現に今も、過去の自分が何を考えていたのかまるで分からない。死にかけても走馬灯すら見えないのなら、きっと一生思い出す事はないのだろうね。」

 

「償うといってもここでできる事なんてたかが知れている。そこでボクは閃いたんだ。このコロシアイを打破する方法をね。」

 

「は?」

 

「前木さんの幸運を利用する、あの運のメカニズムを確定させる。あれを上手く使えば、ボク達にとって都合のいい展開にする事も可能だ。」

 

「…………まさかアンタ……最初から……。」

 

 

「前木さんが眠った瞬間に幸運になるなら、ボク達の架空の事件は成功する。前木さんが眠りから覚める事が条件ならば、架空の事件は失敗する。」

 

東城は、ここで初めて見た時と同じ、キラキラと輝く目をして言った。

 

 

 

「実験したんだ、ボク自身の命を利用してね。結果は失敗。前木さんは眠りから覚めたタイミングで運が交代すると考えられる。」

 

 

 

きっと、彼の記憶にない東城優馬は、こんな顔でアタシの妹を殺したんだろうと、悟った。自分の命も他人の命も、犯罪という枠で括られなければ、きっと軽いものなのだろう。

 

ここでコロシアイを運営するモノパオよりも、コロシアイを企てた勝卯木蓮よりも、東城優馬は、人の命を軽視している。

 

 

「……アンタの事、よく分かった。やっぱ嫌いだわ。」

 

 

それでも……。

 

「倉骨研究所の人間は等しく『こう』だよ。いけない事だとは知っているけれど、それを罰せられないのであれば何でもやる。そういう人間の集まりなんだ。」

 

「いろいろ思い出した事がある。それはそのメモに書いているから、難波さんに任せるよ。残り少ない人生、どう活かすかはキミ次第だ。」

 

 

それでも、今浮かべている表情は、とても人生に満足しているとは思えないものだったから。

 

 

 

 

「少しの間、助手になってあげる。他に話したい事があれば、何でも言ってよ。」

 

 

 

「……!……はは、いいね。これ以上ない適任だ。世間的な犯罪者同士、仲良くしようね。」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

……うーん、やっぱ東城の事、大嫌いかも。

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

『密偵!ナイトスクープ』

 

 

 

難波の目の前に現れたのは無数の赤外線センサー。

おしおき直前にモノパオに配られたゴーグルをかけるとようやく見えるそれは、難波の行く手を阻むように重なっていた。

難波にも同じゴーグルがかけられているため、きっと難波からも見えているだろう。

 

一匹のモノパオがちょこちょこと赤外線に触れると、どこからか登場したマシンガンによって一瞬でハチの巣になった。

俺達の全員が唾を飲むと同時に、センサーはぐるぐると動き始め、難波を狙う。

 

クリアしたら出られるような仕掛けなどどこにもなく、ただただ襲い来るそれに、死ぬ事を受け入れたはずの難波は、反射的に避けていく。

本数が増え、いよいよ常人、それも何の道具も持たない状態では厳しくなった時、一本のレーザーが難波の腕を赤く照らした。

 

瞬間、難波の腕に穴が空く。

絶対に叫ばまいと、唇を強く噛む難波の口から血が滴る。

 

まだ2つ目が待っているからか、難波の胴体に穴が空く事はない。

致命傷が与えられないまま、難波は倒れる事なく自身の血だまりの中で座り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうじゃみち』

 

 

 

難波はいつの間にか、狭い山小屋に閉じ込められていた。

 

人を殺した、と何かの声が響き渡り、小屋の中にモノパオが入ってくる。

足を引きずりながら押し込められる前に小屋を出ると、火の玉のようなものが難波を追いかけていた。

 

まるでアトラクションのようにぎりぎり難波に追いつかないスピードで難波を追い詰めるそれは、徐々に数を増やしていく。

 

貧血を起こしたのか、難波は倒れこんでしまう。池のような場所に滑り落ちてしまった難波は、ただでさえ泳ぐのが苦手だと言っていたのに満身創痍の身体でまともに泳げるはずがなかった。

 

それでも声をあげようとしない難波の足を、水中から何かが掴んだようだ。

難波は必死で池の縁に捕まろうと足掻く。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

けれど、そんな抵抗は虚しく、難波はそのまま池の底に姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

……終わった。処刑が終わった。

2つ連続、前代未聞のおしおきがようやく終わった。

 

「オマエラ見た!?難波サン、苦しんでたね~!!」

 

「くっ……!」

 

「紫織ちゃん……。ごめ、ごめんなさい……。」

 

「……。」

 

「いやあ、すごくいい気味だったね!あの難波サンでも痛いと泣くんだよ!いいねいいね、オレくんすっきり!オマエラへの復讐の一環としては悪くないおしおきになったんじゃないかな?」

 

復讐……?モノパオが、俺達に?

何を言っているのか分からないけど、何かのヒントになるかもしれない……。

[情報⑩:裏切り者はコロシアイ参加者に対して復讐するのが目的らしい。]

 

「あちゃあ、すっごいお通夜ムード。誰もオレくんと会話してくれないじゃん……。ま、オレくんの前で何をごちょごちょしてたのか知らないけど、オマエラ、好き勝手するにも限度があるんだからね!」

 

モノパオはさっさと消えていった。

俺達の誰も、誰かに向けて語りかけようとはしなかった。

 

「やだ、やだよ…しおり、ちゃん…うぅ……」

 

「……うっ、ぐす、……ッ!」

 

モノパオが消えてもなお泣きじゃくる前木を支えるように篠田は泣きながら寄り添っていた。

2人とも、もう人目なんて微塵も気にしない様子で涙を流し続けていた。

 

「チッ……糞みてぇなモン遺しやがって……。」

 

大渡の悪態が、かろうじて意識が離れるのを止めてくれているみたいだった。

 

 

 

 

 

 

「……見つけよう。」

 

 

 

「あ?」

 

いつの間にか座り込んでいた腰をあげて立ち上がる。

 

「難波が悪魔の正体を突き止めた証拠を……コロシアイの真相を…モノパオの正体を……。絶対、もうあるはずなんだ。」

 

「貴様1人でやるつもりか。」

 

「違う。もちろんここにいる皆でだ。やろう。」

 

訝しげな目で篠田と大渡が見てくる。

 

「宮壁、今すぐにというのは……。」

 

「早くせずに証拠が消えたらどうするんだ。誰もやらないなら俺1人で」

 

 

 

 

 

「信じられない。」

 

 

 

 

 

 

前木が俺の言葉を遮ってきた。

 

 

 

「宮壁くん……どういうこと?」

 

「どういうことって、そのままだ。俺たちでモノパオの正体を暴こうって」

 

「なんで今なの?」

 

「だからそれは証拠が消えるかもしれないから」

 

「消えないかもしれないよ。」

 

「消える可能性の方が高いじゃないか。」

 

 

前木が立ち上がる。

篠田が止めようとするが振り払って俺の方に来て…。

 

 

 

 

 

睨まれた。

 

 

 

 

 

「私はそんなに強くないよ。宮壁くんみたいに、友達が死んだ直後に『次』に向けて動くことなんてできない。」

 

「前木、」

 

「宮壁くんはいつもそうだよね、誰が死んでも泣いたり悲しんだりしてない。表情も変わらない。…なんでそんなに冷たいの?私には、宮壁くんが機械にしか見えないよ。」

 

 

 

 

……え?

慌てて自分の顔を触る。普段通りだった。

 

 

 

「俺、そんなつもりじゃ」

 

「そんなつもりじゃなくてもそういうつもりに見えてるの!いつも黙ってるだけだよね…!別に声をかけてほしいわけじゃないよ!だけど、そんな態度ってことはさ、……宮壁くんにとってここにいた皆は、死んでも泣いててもどうでもいいってことなんでしょ?皆は、宮壁くんにとって何なの?友達じゃないの?仲間じゃないの…?答えてよ……!」

 

 

 

 

 

あれだけ後悔したのに、何も、言えなかった。

 

 

 

 

 

何を返していいか分からない。

 

 

 

 

 

俺は、今まで何を考えていたんだっけ?

皆が死んでいく時に何を思っていた?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚えていない。

 

 

 

 

 

気持ち悪いくらい、何も記憶にない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺、ちゃんと悲しんでたか?

 

 

何があったかは覚えているのに、その時何を感じたか、まるで記憶にない。

 

桜井が血を流して倒れていた時。

端部が焼け焦げてその匂いが鼻についた時。

牧野が穴の底で息絶えていた時。

高堂が真っ二つにされた時。

三笠がベッドの上で息を引き取った時。

安鐘が自分の血と水に濡れているのを見つけた時。

勝卯木が口から血を吐いて鼓動を止めた時。

柳原の身体に火が回った時。

東城の手が冷たくなっていた時。

そしてたった今、難波が姿を消した時。

 

俺は、何を思っていたんだっけ。

悲しかった、ような気がする。

びっくりした?かもしれない。

笑ってはいなかったはず。だって、笑っちゃいけない場面だから。

怒った?何に対して?この状況?黒幕?自分自身?

 

誰かがそこだけ持ち去ってしまったかのように、俺の感情は空っぽだった。

忘れてはいけないはずのものを忘れているような気がする。

 

もっと昔に、忘れられない出来事を、忘れさせられた気がする。

 

 

 

 

 

 

『大希くん、その怪我、何があった。教えてくれないか。』

 

俺も知りたいよ、叔父さん。

 

『なんでもない?そんな訳がないだろう。だって、こんなの…………』

 

なんでもないなんて、俺そんな事言ってない。誰かが、誰かが俺の代わりに喋ってる。

 

 

 

 

待って、俺にも教えて。隠さないでくれ……。

覚えてないと、そうでないと……!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…こんなに言っても答えられないんだ。」

 

 

 

「紫織ちゃんには、お互いを信じてって言われたけど……私、宮壁くんの事が信じられない。ごめんなさい。」

 

「前木!」

 

「……。」

 

 

 

 

前木は篠田の声かけに軽く頭を下げ、裁判場を後にした。

 

 

「宮壁、何でもいいから何か言うべきだったと思うが。」

 

「そう、だよな……。」

 

篠田の若干呆れたような視線が痛い。

前木の後ろ姿に何も言えなかった自分が恥ずかしいし、後悔の念が押し寄せる。

……だけど、きっとこの気持ちもすぐに忘れると思うと、どうでもよくなった。

 

「……。宮壁、大丈夫か。たまにお前はそうやってぼーっとする事があるが。」

 

「……ごめん、大丈夫じゃ、ないかもしれない……。」

 

「それを前木に言えばよかったと言っているんだ。前木だってそんな状態の人に怒る程、気は短くない。」

 

「ああ……。」

 

「チッ、今から探索なんて不可能だろうが。さっさと寝ろ。探索は明日、これは命令だ。」

 

「……。」

 

モノパオに証拠が消されないか、未だに不安はなくならないけれど、ここは大人しく従う事にした。

俺だけができる事は、実は他にもう1つ思い当たる。今日はそれをして寝てしまおう。

 

「ごめん、2人とも。」

 

「ふん。」

 

「肩を貸してほしければ言ってくれ。私でよければ支える。」

 

「いいよ、篠田だって疲れてるだろ。」

 

「……まぁな。」

 

 

俺達はそのままエレベーターに乗り、個室のある通路についたところで解散となった。前木には明日謝ろう……。篠田と大渡が各自個室に戻ったのを確認し、俺も自分の部屋に入った。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

すっかりこの施設で1番落ち着く場所となってしまった個室の椅子に腰かける。

 

俺が今日やらなければならない事は、悪魔の正体を突き止める事だ。

……いや、俺の中にある嫌な予感が当たっているのか、確認すると言った方が正しいだろう。

 

 

「ノートに書いていくか。」

 

今までの情報もメモから引っ張り出しながら、頭の中を整理していく。

 

[情報⑤:悪魔は確実に生存している。]

「まず、悪魔は生存している。この時点で今いる大渡、篠田、前木、俺の4人に絞られたんだ。」

 

そして、悪魔は裏人格である。要は二重人格って事だ。

……まずい、脳が拒否しているかのように思考がぼやけてきている。いつもの頭痛も始まった。

 

「……何かで見た事がある。人格を交代する時に意識がなくなる事があるらしい。」

 

気を失ったり、または失いかけた事がある人物。

……。

 

1番気になっていた事は、1つ前の事件。

柳原が、超高校級の学習力で『悪魔の才能を学習していた』事だ。

本を読んで推理力を手に入れ、少し話をしただけの難波から歩き方を習得、牧野のショーでメンタリズムに詳しくなり、勝卯木を観察してポーカーフェイスを手に入れた。前木の幸運だけは頑張っても学べなかったと言っていた。

 

……じゃあ、柳原とよく一緒にいた俺は?

俺からは、何を学んだ?

推理力?違う。それなら本をあんなに沢山読む必要がない。

 

………………嘘で、あってくれ…………。

 

 

 

どうにかして覆せないかとメモ帳をめくっているとある文が俺の目に止まった。

 

 

[情報⑥:前木が宮壁を襲った日、正真正銘、前木は超高校級の幸運だった。]

 

 

あの時、どうして俺はあんなに巧みに動けた?

人に殺されそうになる経験なんて、俺の知る限りでは一度もない。

俺の知らない動きが、あの時の俺にはできた。

 

あれが前木にとってのイレギュラーだったとすれば、本来なら俺はあそこで死んでいたんじゃないだろうか。

俺が死ぬ事が、前木にとっての、ひいては『前木と同じ立場の人にとっての幸運』であったなら。

俺が死ぬ事が、『コロシアイを終わらせる方法』だとしたら。

 

………………。

 

 

…………さっきから視界に映る腕の包帯の怪我は、いつ、どこでできたものなのか。

俺は知らない。

 

そもそも、こんな傷があった事すら、俺の記憶にない。

俺が毎日シャワーを浴びる時も気づかなかったし、プールの時も誰にも指摘されなかった。

 

 

……誰かが、『俺が無傷だと説得していた』としたら?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、悪魔の正体は、俺だ。」

 

 

 

 

 

 

 

分かってしまった。だって、俺しかいないじゃないか。

 

汗が滝のように吹き出す。

 

俺がいたから、コロシアイなんてものが起きてしまった。俺がいたから桜井も端部も牧野も高堂も三笠も安鐘も勝卯木も潜手も柳原も東城も難波も死んだ。俺のせいで、今もここから出られない。

 

 

………どうしよう。

 

 

こういう時って、どうしたらいいんだろう。俺、応用が利かないんだ。分からない。

死んだらいいんじゃないか?

だけど、今のモノパオを信用できるか?モノパオは、本当に俺が死ねば皆を解放してくれるだろうか。もしそうならそれもアリかもしれないな。

怖い。

死ぬってなんだろう。どうなるんだ?死んで、生まれ変わって、また悪魔だったらどうする?また死ぬ?何回?痛いのは嫌だし苦しいのも嫌だ。本当なら今こうして頭を抱えているのも嫌なんだ。なんで俺がこんな目にあってんだよ。俺が何か悪い事をしたんだろうか。記憶にない。だけど俺は記憶にない事だらけだから、悪い事をしていてもおかしくない。

仲間?

難波は、こんな奴を仲間だと言って殺さなかったのか?どうして。俺くらい殺したって誰も責めやしないのに。ああ、叔父さんは悲しむかな。だけど叔父さんだって俺がした事を知ったら失望するだろうな。何をしたのか、何もしていないのかすら俺は知らないけど。どうして俺の事なのに俺が部外者になってんだろう。分からない事しかないのに俺が決められる事なんて何もない。

……判断力ってのは、きっと説得力の副産物みたいなものに違いない。

結局俺には何もないんだ。俺は、こんな状況でもまだ死ぬのが怖いからと、存在しない抜け道を探そうともがく哀れな肉の塊。それが俺の正体ってやつなんだ。

…………。

 

もうなんでもよくなってきた。寝よう。寝て、寝て、寝て……。

このまま目を開ける必要のない世界になってしまえばいいのに。

 

 

 

 

頭痛が酷い。

そのまま眠りに落ちるように、いや、俺の意識は、どこでもない場所へと転がり落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、起きて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ねぇ、大希。やっと会えたね!」

 

「……。」

 

「初めまして、オレは……名前はないんだけど、美亜ちゃんが『ロザリオ』はどうかって。だからそう呼んで!超高校級の説得力を持つ、もう1人のキミだよ。ビジュアルはオレ好みになってるんだぁ。」

 

「……。」

 

「心が空っぽになっちゃって話せないんだね。可哀想だけど大丈夫。そうしないと生きられないからね。オレ達は。」

 

「……。」

 

「ここは大希の精神世界っていうのが正しいかな。オレがここの番人みたいになって、大希の事を守っていたんだけど、だいぶガタが来てね。オレのメンタルも限界なんだぁ。でも、最近はたくさん知り合いが来るから楽しいよ!本当、大希が霊媒体質でよかった!でも憑りつかれ過ぎて頭痛くない?大丈夫?」

 

「……。」

 

「そうそう、さっきも言ったけど、美亜ちゃんはロザくんって呼んでくれるんだぁ。オレと大希を差別化できるようにって。あ、このコロシアイで死んだ人は皆ここに来てるの。オレ、皆とたくさんおしゃべりしてるんだよ。さっきは優馬くんに実験されそうになってさぁ……!」

 

「……。」

 

「今の状況って、オレの抱えてる精神負荷が許容量を超えて、大希にも漏れちゃったみたいなんだ。大希は今まで一切のストレスを抱えずに生きてきたから、そのショックで声も出せなくなっちゃったんだろうね。」

 

「……。」

 

「大希、もう少しがんばろうぜ。そのくらい耐えてよ、主人格でしょ?」

 

「……………………。」

 

「……あ、まずい、これ本当にだめかも。ねぇ大希!起きて、早く戻って!じゃないとオレが出て行くことになっちゃう…………」

 

……。

 

……。

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

「参ったなぁ、こんなつもりじゃなかったんだけど。」

 

「オレが出てきちゃった。」

 

 

 

 

頬をつねってみようと動かす手も、つねられた頬の痛みも、全てが自分の感覚となっていた。

大希がダメになってしまった……無理もないか。コロシアイという緊迫した状況に、あの大希が最後まで耐えられるはずがない。いつかはこうなると分かっていた。

 

「大希、まずいよ。これじゃあオレ達殺されるぜ。」

 

ここで起こる見た目の変化は、何も目つきなどの細かなものではない。

 

シャツを脱いで自分の裸体を鏡に映す。

案の定、オレの体にはたくさんの傷跡があった。何年もかけてほとんど見えなくなってはいるが、それでも一度ボロボロになった身体はそう簡単に綺麗にならないもので。辛うじて包帯で隠していた腕も痛々しい傷を見せていた。

 

「そこそこ余裕あったんだけど、オレも案外弱いもんだよねぇ。」

 

あの時まではオレの才能のおかげで誰にも暴行の跡を知られずに済んだけど、今朝は大希の視界に包帯が映ってしまった。もう隠し通せるのも時間の問題だろう。今まで誰にも知られなかったのだから、治療した事などあるはずがない。オレはずっと、この傷を人に見られないよう、大希自身にも気づかれないよう、その目を誤魔化し続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

宮壁大希は普通の人間だと、この世の全てを説得し続けてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、オレの力で今までこの傷を隠してきた訳ですが、こうしてオレが表舞台に立った今、そんな事に割ける力はありません!どうする?大希。」

 

(……。)

 

「あらら、まだ気絶してるよ。というか今まで喋れた事なんてないんだけど。向こうはオレの存在すら知らなかったからね。」

 

 

 

 

 

 

 

……さて、オレが死ねばコロシアイが終わるって事だけど、あいにくオレだって死にたくはないんだよな。

 

 

 

「うーん、大希を大事に思ってくれる叔父さんには悪いけど、大希が死にかけてるからオレに使わせてもらうよ。この体。」

 

 

 

 

 

 

♢♢

♢♢♢

 

 

 

「大希くん、今日から君は私と暮らす事になった。よろしくね。」

 

「君の両親…私の弟がまさか自殺するなんて、驚いたよ。だけど何よりも驚いたのは……」

 

 

 

 

「君が虐待を受けていたのに誰も気づかなかった事だ。」

 

 

 

 

 

「どうして誰にも言わなかった。どうして、こんな傷を隠して…。……?」

 

「あ、あれ?傷があったはず、なのに、大希くん……」

 

『何も無いよ。虐待なんてされてない。』

 

「……何も無かった、それは本当なのか?」

 

『うん。』

 

「…………分かった。君がそう言うなら、今は無理に聞かない。」

 

 

「君が大希くんじゃない事についても、知らないふりをしておこう。きっとそれは、私の弟達のせいだろうから……。くれぐれも気をつけてね。」

 

 

「……大丈夫。今日から君は私の家族だ。まだ混乱してるかもしれないけど、私の事は信じてほしい。」

 

『…………ありがとう、ございます。』

 

 

 

♢♢♢

♢♢

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全部全部全部全部全部全部、オレが抱えてやったんだ。大希は何も知らなくていい、大希の親を殺したのもオレだ、大希じゃない。

 

 

大希が死なずに済んで、コロシアイが終わるにはどうすればいい?

そこまで考えてふと閃いた。

 

 

こうしてオレが出てきた今、コロシアイをする必要なんてない。

 

 

そうだ、全てを説得して終わらせてやろう。

 

 

 

 

今回も、オレが全部抱えてあげる。

 

 

このコロシアイも、大希の記憶から消してあげよう。大希を守るには、この出来事を大希に忘れてもらうしかない。その痛みも苦しみも、全部オレが抱えてしまえばいい話なのだから。

 

……まだ生きている奴等の記憶も消せるかな。

他の人が思い出させようとしてもよくないから、このコロシアイごと全ての人の記憶から抹消すればいいんだ。

 

死んだ人には悪いけど、オレだけはおまえ達の事を覚えていてあげるから、それで許してほしい。

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

「さて、誰からいこうかな。」

 

オレにできる方法で、この物語を終わらせよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CHAPTER4 『半劇消化、裂かれたヴェール。』

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超高校級の化学者 東城優馬

【銃撃により死亡】

 

 

超高校級の怪盗 難波紫織

【おしおきにて死亡】

 

 

 

残り生存者数 4人?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼[研究者のバッジ]を手に入れた。

 

▼[勲章のダイヤ]を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT →→→ CHAPTER5『世界で1番不幸な日』

 

 

 

 

 

 




ネタバレの塊の超高校級の説得力さん。
彼彼女の事は「十字」もしくは「ロザリオ」とお呼びください。
桜井みたいにロザくんでもいいと思います。

知らない人はなんのこっちゃなので、名前を出してもネタバレにはならないと思います。作者は普通に呼ぼうと思います。
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