ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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5章です。
佳境です……。


Chapter 5『世界で1番不幸な日』
非日常編 1


 

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「…………ん、ここは……?」

 

「お、起きたか。」

 

聞く事のないはずの声に驚いて隣を見ると、三笠が腰かけていた。

 

「み、三笠……!?」

 

「……もしや、桜井や高堂が言っていた、あの宮壁か?」

 

「え、いや、俺は宮壁大希だけど……あ、ああ、そうか、そういう事か……。」

 

気を失う寸前に聞いた声……名前は…思い出せない、なんか白い奴が言っていたな。ここが俺の精神世界だと。

 

「……三笠、ごめん。」

 

「?何がだ?」

 

「……。」

 

「……なんだ、そんな事か。」

 

「そんな事って、お前、死んだんだぞ!俺のせいで!!俺がいたから!!」

 

「それならとっくに謝ってもらっているさ。もう1人のお主にな。」

 

「え、」

 

「桜井はロザリオと呼んでいたか。とにかく、その事についてはあいつに散々謝られている。一時は手がつけられなかった程泣きわめいていたぞ。宥めるのに苦労した。」

 

「謝って解決する問題じゃない……謝る機会があるのだって、寧ろ俺だけが得をしてるだろ。」

 

「宮壁……。」

 

三笠はふうと息を吐いた。

ここは何故か現実よりも心が軽く感じる。そのおかげか、その沈黙も不思議と俺の嫌悪を加速させることはなかった。

 

「……まぁ、自分がお主の立場であれば、きっと宮壁と同じ事を言う。それ以外の言葉が出てこないくらいには、申し訳なく思ってしまうだろうな。」

 

「……。」

 

「勝卯木にも謝られたし、安鐘も正直に話してくれた。だが、全部終わった事だ。謝る機会と言うが、こうして再びお主達と話せるなんて、思いもしなかった。」

 

「話せなかった事を、腹を割って話す機会なんてそうそうない。いや、有り得ない話だ。それが可能になる経験ができた事、自分は本当に嬉しく思うぞ。」

 

少しの曇りもない目で、三笠はそう言い切った。

それだけでほんの少し救われた気持ちになってしまうのは、きっと俺が弱くて、三笠に甘えているからだろう。

桜井も高堂も、全てを知っていて俺に対して『今まで通り』接してくれたはずだ。情けない気持ちは胸に沈んだまま、消える事を知らないようだった。

 

「み、かさ、ごめ………ごめん……ごめんな……。」

 

「……お主のせいではない。ロザリオから詳しい話は聞いたか?」

 

「いや、何も……。」

 

「……それはゆっくり話していくか。とはいえ自分もロザリオから聞いただけだから詳しい事は知らないが……。特別学級で企てていた計画。『学園破壊計画』について、東城が思い出しただろう。そのヒントのメモ帳を難波が前木に託したらしい。起きたら前木に聞いてみてくれ。」

 

「あ、それが……実は今……。」

 

三笠は俺のごにょごにょした呟きを拾い、今までとは打って変わってため息をついた。

 

「問題に問題を重ねたな、宮壁……。」

 

「本当に、ごめんなさい……。」

 

「いや、責めている訳ではないが……今ロザリオがお主の代わりにお主の身体を動かしているはずだ。前木とお主が喧嘩中という事、あいつは知らないぞ。」

 

「……。どうしよう……。」

 

「交代のシステムは自分も分からないからな。一旦諦めて療養でもしておけ。」

 

心に渦巻くもやは一向に晴れないものの、三笠の前でこれ以上弱音を吐くのはやめる事にした。

三笠が困ったように笑うのを見て、俺は肩の力を抜いて倒れ込んだ。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「これが電子生徒手帳!すごーい!えっと、食堂は……こっちだ。たくさん部屋があっていいねぇ。このバツのところは入っちゃダメって事かな?」

 

勝卯木の隣の部屋をガチャガチャやってみる。開かない。

 

「んー?鍵、ないや。勝卯木の部屋は?」

 

勝卯木の部屋もガチャガチャやってみる。開かない。

 

「えぇ?本人はいいよって言ってたのに入れてくれないの!?」

 

「ちょっとちょっと宮壁クン!さっきから壊す勢いで何やってんの!」

 

……ぬいぐるみが、喋ってる。

ゾウのぬいぐるみだ。ちょっとかわいいな。目覚まし機能があればインテリアとして飾りたいかも。大希の部屋、簡素すぎて嫌だったんだよねぇ。観葉植物は必須として、ぬいぐるみも数点、おしゃれなタンスと大きなスピーカー、そして外せないのはロッキングチェア……。もう少し何か置きたい気分のオレです。

 

「宮壁クン!?聞いてる!?ここは開かないよ!」

 

「……あ。」

 

これ、モノパオってやつか。敵じゃーん。というかオレが大嫌いなアイツじゃーん。名前も呼びたくなーい。

うわわ、声かけられてるけど何て言おう、オレだってバレないように大希みたいに喋りたいけど、大希ってどんな人間なの!?お互いを共有してくれる素敵な人格はいてもよかったかもしれない……コミュニケーション不足が祟ってるよ。

 

「モノパオくん。オレはそろそろこの部屋が開かないかなぁと思って試していただけだよ。」

 

「宮壁クン、キャラ変した?」

 

あちゃー!失敗!ええ、何が駄目だったの!?あ、喋り方?もっと男らしくしたらいいのかな。

 

「なんでもない。いいから黙って失せろよ。」

 

「はーい。もう開かない扉をいじるのはやめてよね!」

 

合ってた……。え、こんな高圧的な人なの?皆に聞いた情報を元に台詞を考えてみたけど、このノリで生きてたらそりゃあストレス溜まるよね……。勘弁してほしい。

 

 

 

 

「よーし、ご飯を食べるよ!久しぶりのご飯、おいしいお肉でも焼いちゃおうかな!オレはできないから誰かに料理を頼むぞ!」

 

意味のない独り言が止まらない。喉を震わせて、空気を振動させるのがこんなに楽しいなんてね!うおおおおお!やる気出てきた!いいお肉探すぞ!

 

ごそごそと冷凍庫を漁っていると、後ろから物音がして振り返る。

……うわぁ!前木琴奈ちゃんじゃないか!久しぶりに見たよ!

 

「琴奈ちゃ……あ、おい前木、どうせ暇だろ?俺に肉焼けよ。」

 

高圧的な人間って、こんな感じだよねぇ!

冷凍のお肉を琴奈ちゃんに差し出す。偉そうな男らしく、足を組んで立ちふさがってみたよ。

 

「…………。」

 

待って、琴奈ちゃんが見た事もない怖い顔してる。助けて誰か……怖いです……。

 

「宮壁くんの方が料理できるよね。」

 

……絶対そこ以外に話の本質あるじゃん……。何を間違えたの、大希……。

 

「……ふー…………っす。ぁ……ざっす……焼かせていただきます…………。失礼します……。」

 

「……宮壁くん。」

 

「はい、なんでしょうか。」

 

「よくふざけられるね。信じられない。」

 

じわっと目に涙が浮かんだのを見て何も言えなくなった。

 

「……。」

 

琴奈ちゃん、絶対用事あったのに何もせずに帰っちゃった。

 

うわーーーーーーーー!!!嘘だ!!!

オレ悪くないよ!!!大希が何かやらかしたんでしょ!?最低だよ大希!!!

どどどどどうしよう、瞳ちゃんと響くんに頼るしかないけど、オレ、2人とはそこまで仲良くなかったからなぁ……怖い人しか残ってないよ……。うぅ、悲しみの底におぼれるオレ、かわいそう。

 

と、そこまで考えてふと思い出した。さっき紫織ちゃんが来たって事は、今って裁判直後?紫織ちゃんと琴奈ちゃんは親友だった。そして生肉を抱えるオレ。……少し掴めてきたかも。

 

「生肉は見たくない、そういう事だったんだね、琴奈ちゃん……。」

 

それはそれとしてオレは肉の気分なので、焼いて食べる事にした。全体的に黒いから焼きすぎな気がしたけど高級なお肉だったのか、あまり固くなかった!

満足したので炭酸水を喉に押し込む。肉、炭酸水、肉、炭酸水!沈黙の食堂、暴飲暴食をするオレ。

はじめての皿洗いに苦戦しつつ、オレは久々の食事を終えた。おいしゅうございました。

 

「……ふー、オレの幸せゲージも上がってきたし、そろそろ本腰入れますか。」

 

と思ったけど、いくら探しても誰にも出会わない。すごーい、誰も外に出てない。引きこもりばっかりだ。まだ夜ご飯の時間ですらないのにね。これじゃあコロシアイを終わらせるのも無理な話だって!

せっかくオレなんだし、琴奈ちゃんと遊びたいけどあの様子だと無理だよなぁ。瞳ちゃんと響くんは怖いし……しばらくはここにある施設で遊んでいよう。

 

「……わぁ!プラネタリウムがあるじゃん!見に行こーっと!」

 

 

 

 

 

 

 

『こちらは冬の大三角、右上にあるのは有名なオリオン座のベテルギウスで……』

 

「……。」

 

こうして1人で暗いところでプラネタリウムを見上げていると、いつもの空間に戻ってきたように感じる。

今がイレギュラーなのであって、あの空間ではずっと1人だった。そんなオレは、特別学級で信用できる人に出会って、初めて叔父さん以外の人の前で話した。

……楽しかったな。大希が抱える全てを請け負って、神経をすり減らして、時間が解決するまでひっそり苦しんでいたけれど、皆といる時は心から楽しかった。オレの悩みとか心のおもりみたいなものが全部なくなって、羽が生えたように浮き足立って、青春を謳歌した。大希ばっかりずるくて、オレも頻繁に顔を出していた。

 

 

そんな大切な人達が、オレのせいで死んだ。

 

 

……早く、終わらせなきゃ。

皆が死んだ時の痛みがキリキリと心臓を捻じ曲げていく。コロシアイを終わらせて、オレは皆のいる桃源郷に戻るんだ。大希にこれからの事は任せて、オレは皆と一生お喋りするの。もう二度と表に出なくていい、そんな素敵な世界を構築したから。だって、大希ばっかり、ずるいよ。オレだって楽な生き方を知りたい。

 

「大希、ごめんね。……オレ、もう限界なんだぁ。」

 

殴られた痛みも理不尽な叱責も苦しみも制偽学園への憎しみも今モノパオを操っているアイツへの憎悪も皆への後悔も自分への嫌悪も……全てを抱えるのは、しんどいよ。10年以上耐えてきて、もうだめになってきちゃった。これまではどうにかなっていたけど、今回のコロシアイのダメージが大きすぎた。あと少し何かが起きってしまったら、きっとオレが先に壊れてしまう。今まで大希の事をずるいなんて思った事なかったのに、あらゆるものへの感情が否定的になってきている。絶対ヤバい。

 

「……後少しならがんばれるから、これが終わったら、後は自力でがんばってね。オレ、本気でやるから。」

 

深呼吸する。

 

「俺は宮壁大希だ。誰もそれを信じて疑わないし、それが真実だ。」

 

……ふふ。今なら腕が綺麗に見える。

 

「綺麗に消えたな、包帯も。」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「宮壁、大丈夫か。」

 

「……まぁな。篠田こそ、ご飯とか食べられるか?一応うどん茹でただけにしておいたけど。」

 

「すまない、助かる。」

 

「ちなみに、他の2人の様子とか……。」

 

「それについてだが、宮壁、前木が先ほどより機嫌が悪くなっていたように感じた。まさか2人で何か話をしたのか?」

 

「……ちょっとな。」

 

瞳ちゃんはため息をついた。そしてほかほかと湯気をたてるうどんに向かって手を合わせた。今のオレは大希だと言い聞かせてるから、うどんくらいなら上手に作れるんだよね。

 

「仲介するから、その時は私に話を通せ。2人だけではどうにもならないだろうからな。」

 

「ありがとう。」

 

今のオレは琴奈ちゃんと何があったのか知らないし、瞳ちゃんも一緒にいてくれるのは心強いや。

 

「……なぁ、篠田。」

 

「?」

 

 

 

 

「オレがコロシアイを終わらせるから、篠田はもう何もしなくていい。」

 

 

 

 

「……は?」

 

「篠田には、これからオレの言う事を聞いてほしい。」

 

「何を言っている……。」

 

「絶対にここにいる誰も殺さないでくれ。どんな動機が来ても、オレが終わらせるまで我慢するんだ。篠田ならできる。」

 

「宮壁、お前、何かおかしいぞ……!!」

 

「そうかな。」

 

「は?」

 

「そもそも、コロシアイなんてないんだよ。」

 

「何を言っている!お前も見ただろう、皆が死ぬところを……!!!」

 

「俺はそんなもの見てない。」

 

「…………何、を、」

 

「そもそも、ここって本当に現実なのか?夢なんだよ、特別学級だの制偽学園だの、全部嘘なんだ。夢が覚めるまでもう少しなだけ。だからつらく思うだけ無駄なんだ。な?」

 

「…………。」

 

まだ効かないって、どんだけ強い精神してんだよ。さすが篠田家が仕込んだだけあるなぁ。

 

「思い当たる事、あるだろ?」

 

「………………?なん、の、話だ……そんなもの……」

 

「コロシアイなんてものを記憶しているからつらいんだ。全部存在しない、そう切り替えよう。篠田、そうすればお前だって楽になれる。」

 

壮太くんとめかぶちゃん、ごめん!瞳ちゃんの事、いじらせてね!

オレはすっと立ち上がると、瞳ちゃんが食べているうどんを彼女から遠ざける。瞳ちゃんはすっかり箸を置いていた。

 

「コロシアイなんて非現実的な事、ある訳ないじゃないか。全部夢だ。瞳ちゃんが昔経験したコロシアイも含めて、ね。」

 

「…………そうであれば、どんなに良かったかと考えた事はある……だが……」

 

「夢なんだってば。自分からつらい悪夢に縋りつこうとするなんておかしいよ。オレや琴奈ちゃんや響くんは実際のクラスメートだけど、他の人達は存在しない。随分個性的な面々に出会った顔をしているけど、それも夢の中だけの空想の人物だよ。そんな事も忘れちゃった?そろそろ夢から覚めていいんだ。」

 

「ちが、そんな…………」

 

「そうなんだよ。もう少しこの夢が続いた後、元の平和な生活に戻れるんだ。気楽にいよう?」

 

「……。」

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 

 

「私が、おかしいのか?」

 

「そうだ、コロシアイなんて何言ってんだよ篠田。怖い事言うなよな。」

 

「…………。」

 

 

 

 

 

「そう、だったな。」

 

 

でーきた。久しぶりに本気でやってみてるけど、うん、まだ衰えてないね!

 

心のよりどころが出来たからか、先ほどまでとは打って変わって穏やかな顔をしている。これでいいんだ。嫌な事は全部忘れた方がいい。現実逃避上等だよ。

現実に囚われて苦しむのは、オレの役目だから。

 

瞳ちゃん、今までよくがんばったね。君はもう休んでいいんだよ。前のコロシアイの凄惨さも、今回の君のやってきた事も、全部皆から聞いた。感情移入したらオレが駄目になりそうだから深入りしなかったけど、ここまで本当によく耐えられたね。これは、超高校級の悪魔からのプレゼント。

 

 

「宮壁が真面目な顔をするから、何を言い出すのかと思えば……ふふ。本当に嫌な夢だな。」

 

 

瞳ちゃんの微笑みに、オレも笑って返した。そのまま食堂を後にする。

 

……でも、オレの存在はきっと、瞳ちゃんにとって現実を思い出させる鍵になる。オレがロザリオである事は、この先一生言えないんだ。

そんな当たり前の現状に気づいて、食堂を出る頃にはオレの顔から笑顔は消えていた。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「……おーい……大渡、いないのか?」

 

……。え?死んでる?響くん、微塵も出てくる気配がないんだけど。

 

「大渡!おい!聞いてるのか!」

 

無意識で拳を扉に打ち付けていた。

なるほど、大希はこういう時は扉を拳で叩くんだね!強引な男の子に育ったんだなぁ。

しばらく扉を叩いているとのっそりと響くんが顔を覗かせた。

 

「大渡、ちょっと話が」

 

「キショいゾウの呼びかけも死体発見アナウンスもねぇし、探索は明日すると命令したはずだが?貴様の記憶力はダチョウ並か?失せろ、去れ、細胞全部消えろ。」

 

「……ごめん。」

 

 

響くんの個室を後にする頃には、オレは半泣きだった。

こ、怖いよう…………。

「細胞全部消えろ」は死ねって言ってるのと変わんないよ……。

大希ならワンチャン親友になってないかなと期待したけど、オレと同じ結果らしい。響くんと喋ってた美亜ちゃんは心が強すぎる。あの響くんが「勝手にしろ」って言って一緒にお弁当食べてたなんて、今考えると信じられないよ。

 

「参ったなぁ。」

 

結果は半々ってところか。瞳ちゃんをけしかけて無理矢理にでも響くんに話を聞いてもらえるといいけど、あの様子だと今日中に話すのは無理そうだもんね。

 

それに、寝るとさすがに大希に交代しそうな気がする。大希もほんの僅かな絶望でつぶれる程弱くないはずだし。何より、向こうには皆がいるから。皆がいればきっと立ち直れるよね。

 

……あれ?

そもそも、モノパオに言う事聞かせたらよくない?

やだ~!オレってばダチョウ並に頭悪くなっちゃってる!?

善は急げ!やる事さくっとやっちゃうぞ!!!!!

 

 

「……宮壁クン。」

 

 

と思ったら、今まさに脳内で話題のゾウくんが現れた。何やらただならぬ様子だ。

 

「何だよ。」

 

 

 

 

 

 

 

「さっきの篠田サンとの会話。少~しだけ、聞いてたんだけど。キミ、やってるよね。」

 

「……は?」

 

 

 

 

……ロザリオくん、どうやらポンコツのようです。

 

仕方ねーーーーーーーーーじゃん!?

オレ監視カメラのある生活とか知らないんだけど!?はぁ!?あれってダミーじゃないの!?本当に全部動いてるの!?そんなぁ!!!!!!!オレがお馬鹿すぎる!!!!!!!!

皆、オレにちゃんと説明しておいて!!!!!!!!!いやオレが話聞きたくなくてスルーしてたのか!!!!!!!!だって好きな人達が殺し合ってる話とか聞きたくないもん!!!!!!!

 

 

「……何の事だよ。」

 

「ふーん?あくまでとぼけるんだね、もう1人のキミは。」

 

本当に、本当にコイツが嫌いだ……。死ねばいいのに!コイツが死ねばいいのになんで生きてんだよ!お前だけが死ねばいいんだ!死ね!死ねって言ってんのに、ずっとお前が死ねばいいって思いながら待っていたのに、コイツは、まだ生きてる……!!!!!!

 

「……お前こそ、オレの友達を殺しておいてよくそんな調子でいられるね。オレがどれだけ皆の事が大事か知らないの?」

 

目が痛いし体は熱い、のに、オレの身体からは涙なんて1つも流れていなかった。

 

「知らないし、そんなのこっちの台詞だよ。オマエのせいでこんなコロシアイが起きたのにさ。」

 

「……お前ッ!」

 

思わず、ゾウの胸ぐらを掴んで殴りかかった。そして、その拳はゾウの顔に命中した。

ゾウの首の縫い目が千切れ、ピンク色の綿と共にゾウの身体は宙を舞った。

 

 

「いぴぴ。オマエさぁ、ここのルール、知ってる?」

 

「は?ルール?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前に、大きな槍が見えた。

 

え、これ、死………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガキンッッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オレの身体は、宙に浮いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けれど、槍を受けたのは、モノパオだった。

槍はモノパオに内蔵された機械部分に突き刺さり、バチバチと音を立てている。

 

 

 

 

 

 

壊れかけのスピーカーから、音がする。

 

 

「あー、そっか……。今日は前木サンが幸運だから間に合っちゃうんだ。いや、幸運だけの力じゃないね。あの説得を受けてここが夢だと思っていたならば、その速度で助けられるはずがない。」

 

 

 

「強靭というか狂人というか。人間やめてるよ、そのメンタル!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘、オレの才能が効かない?なんで?

 

 

 

オレを抱えて飛び上がって、しかもモノパオを槍の先に投げつけた?あの一瞬で?

 

 

 

 

 

 

 

 

「しの、だ?」

 

 

 

 

 

「…………校則を知らない人間に、そのルールを適用するな。以前にも言ったはずだが。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スピーカーは完全に壊れてしまったのか、もう音はしなかった。

 

瞳ちゃんは俺を下ろすと、何も言わずに去ろうとする。

 

「……しの……。瞳ちゃん……ありが」

 

顔は向けてくれないけど、瞳ちゃんは足を止めた。

 

「…………。私はまだ、お前を全く信用していない。何をしようとしているのかも分からない。」

 

 

「だが、私は決めている。お前だってむやみに死なせない。私は、守れる奴を守らない人間ではないし、忘れてはいけない事を簡単に忘れる人間でもない。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あまり人間を舐めるな。」

 

 

 

そうオレを一瞥して、今度こそ姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「琴奈ちゃんが幸運、瞳ちゃんはお化けで、響くんは頑固だから効かない。え?詰んでる?オレの才能って無能なの?いやでも、包帯とかはバレてなかった訳だし、ね、うん、そんなにポンコツじゃないはずなんだよ。」

 

 

 

人間を舐めるな、そう言った瞳ちゃんの目が忘れられない。

 

忘れたくない事だって、そう言ってた。

 

こんなにつらいのに?オレだけが耐えられなくて、皆は耐えられるの?どうして?

 

……オレだけが皆を大好きだったの?

皆は記憶がないから耐えられるんだろう、そう思い込みたくても、それすらオレの片想いみたいでどうしようもなく悲しかった。

 

オレには皆しかいないの。そんな皆が死んだ。苦しんで、酷い殺され方をした子がたくさんいる。

 

現実には、皆はもういない。

 

「やだ……おいていかないで……。」

 

腕を強くつかむ。痛いけど、今はとにかく胸の痛みを逃がしたかった。

 

「死んだ後の世界なんて嘘だ。死んだら、もう皆と会えない。」

 

「でも、死んだら、こんな事も考えずに済むのかな……。」

 

 

心臓が紐で引っ張られてるみたいに、きゅうっと苦しくなる。

戻ったところでもう皆の顔も見れない、でも1人になりたくない、現実はもっとつらい、大希とは話した事がない。

きっと大希もオレの事なんて大嫌いになってるよね。

 

交代してもつらいなら、意味ないや……。

 

 

 

オレがいる意味って、何なんだろう…………。

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『オマエラ!朝7時だ!今日はオマエラの想像通り新しいところに行けるぜ!ゆっくりしていってね!』

 

………。

 

「……戻った、のか。」

 

久しぶりにこんなにしっかりと眠れた気がする。今までとは比べ物にならないほど体調もいい。

あの苦しみが、全部アイツに渡ったって事か……?

申し訳ない、とチリチリと痛んだ胸もすぐに消えてなくなった。ダメだ、きっと考えない方がいい。アイツに負荷をかけすぎたら交代してしまうという事だろう。アイツを出さないために俺はどうすればいい?

……負荷をかけないようにすればいい。

 

 

そうだ、俺が学級裁判の度にやってきた事だ。私情を捨てて、目に映る事実だけを処理すれば、目の前で起きる事に何も感じないように気をつければ、俺は俺でいられるはずだ。

いや、何も感じなくなった俺は、果たして俺なのか?

 

「やめよう。考えても何も変わらない。」

 

俺は皆の様子を見に行くために身支度を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダチョウ、貴様が最後だが。それが女共より時間のかかる風貌か?」

 

……。ダチョウ、うん、聞き覚えの無いあだ名が増えている。アイツが何かやらかしたんだな。

 

「……。」

 

「……。」

 

「ごめん、おはよう……。」

 

前木は分かる。篠田はどうしてこっちを睨んでるんだ?

まさか、アイツが話しかけた?それでバレたんじゃ……。大渡の反応を見るに大渡はアイツと話しても大丈夫だったようだ。

篠田は生徒手帳を取り出すと淡々と話し始めた。

 

「このマップを確認したところ、✕になっていた部屋が開いている。今日はこの部屋の確認、そして他の隠し部屋がないかの調査を行いたい。異論はあるか。」

 

「私は大丈夫だよ。……探索は皆バラバラでやるの?私……」

 

「男女別だ。」

 

「!うん、分かった。」

 

アイツ……何をどうしたら女子にここまで嫌われる事ができるんだよ……。前木の態度も明らかに昨日より悪化してるんだって……。

 

「悪い、大渡、よろしくな。」

 

「ここで人望を捨て続けた俺の方が貴様より人望があるとは、ある意味才能だな。」

 

「……ありがとう……。」

 

そんな状態の俺に唯一普通に話しかけてくれている時点でお前は悪い奴じゃないんだよ。大渡の悪口も今となっては日常を感じさせてくれるからありがたい。そういう感情を込めて大渡を見つめると、心底ドン引きした顔をしていた。

 

「気持ち悪ぃ……。」

 

俺は笑顔を消した。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

篠田と前木は有無を言わせぬスピードで消えてしまったので、諦めて朝食を食べながらマップを確認する事にした。

 

「……今まで✕だった部屋が開いている…これですべての部屋に行けるようになったって事か。」

 

「名前のねぇ部屋があるのも気になる。朝食くらい抜いてもいいだろ、さっさと行くぞ。」

 

「食べなきゃ力が出ないんだ。」

 

「チッ、んなの迷信だろ。」

 

朝食の必要性を執拗に否定する大渡を横目に俺は片付けを終えた。

 

 

 

 

 

 

 

「1階で開いたのは勝卯木の隣の部屋か。前に16人目の部屋じゃないかと思っていたけど何も書いていないな……。」

 

 

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扉を開けると、俺達の個室とはさほど変わらない、しかし不気味なモニターが並んでいるうす暗い空間が広がっていた。ゲーミングチェアがぽつんと置かれており、無機質な空気が漂っていた。モニターにはこの施設中の部屋の映像が映し出されている。その内の1つに篠田と前木の姿があり、これが現在の様子を映し出しているものだと理解できた。

 

「モニタールーム……?俺達を監視していた部屋みたいだな。」

 

モニタールームが隣だからこそ、勝卯木はバレずに皆の監視をできていたという事だろう。

 

「……おい、この椅子。」

 

大渡が座席部分を指さしているので何かと思って触ってみると、ほんのり温かかった。

 

「……!これ、誰かが座っていたって事か!?」

 

「声がでけぇよ。俺達がここに来るのが見えたから逃げたんだろ。」

 

「じゃあ、モノパオを操ってる奴が今は外にいるのか……?」

「知るか。」

 

モニターには廊下の様子も映っていた。なるほど、これを見て事前に出て行ったのか。そうは言ってもどこに……?

電気を点けて辺りを見渡す。通信機材がたくさん置かれているからか、床に大きいカーペットが敷かれている。モニターがたくさん並んでいる事以外は個室とほとんど変わりない、が。明らかに異質なものもあった。

 

「ロッカー……?」

 

教室にある掃除用具入れのような縦長のロッカーが1つだけポツンと置かれていた。開けようとするが鍵がかかっていて開かない。

 

「大渡、お前ここの鍵とか持ってないか。」

 

「ある訳ねぇだろ。アイツから貰ったのも鍵とかじゃねぇよ。」

 

さすが大渡、俺が言わんとする事もちゃんと理解していたらしい。ここは諦めるしかなさそうだ。

 

今回の探索では、電子生徒手帳のマップも更新されない以上見るだけ無駄だろうな。そう考えて俺は自分のメモに地図を描く事にした。これなら前回の隠し部屋の情報もまとめられるし便利だろう。

 

「それにしても今日はモノパオが静かだな。何かあったのか、単純にこの部屋を解放しているから出てこれないだけなのか分からないけどさ。」

 

「……。」

 

「大渡はどう思う?」

 

「知るかよ。」

 

 

 

 

 

 

次に向かったのは2階。パソコンルームの上の部屋が解放されていた。前木と篠田が先客でいたようで、しばらくの沈黙ののち、口を開いたのはなんと大渡だった。

 

「面倒くせぇ。」

 

「は?」

 

「仲違いするのは勝手だが、まともに情報交換もできねぇのは阿呆のする事だろうが。貴様らのいざこざに部外者の俺を巻き込むな。情報があるなら出せ、ねぇなら貴様らが出て行け。俺はまだこの部屋を見てねぇんだよ。」

 

「ご、ごめんね、大渡くん。いろいろあったけど何の証拠か分からなかったんだ……。そのままにしてるから、きっと何かの証拠になると思う。えっと、言いたかったのはそれだけ!失礼します……。」

 

前木はそそくさと篠田を急かすと部屋を出て行った。うっ、アイツは何をしたんだ、本当に……。いや、何もしなくても前木とは昨日からまずい事になってたけど……。

2人がいなくなった後、大渡は俺の顔をまっすぐ見て言った。

 

「だりぃ。」

 

「う、悪い……。」

 

 

 

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それにしても、この部屋は今までとまるで違う重苦しい雰囲気が漂っていた。

例えるなら、監禁部屋。無機質なコンクリートで覆われた窓1つない四角い空間。あちこちに散らばっているロープと包帯。つい先日まで人がここで囚われていたと考えるのが自然なくらい、嫌な気配で包まれていた。

 

手近な包帯を手に取ってみると、血がついているのも見て取れた。乾いてはいるが色を見るとそこまで古そうには見えない。少なくとも1ヶ月以内、いや、それより最近か……?

 

「大渡、この部屋って……。」

 

「俺からすりゃ大した事ねぇな。人夢にも似た部屋はあった。」

 

「あ……。」

 

「それに、ここで人が死んだ感じはしねぇ。ここに囚われていた奴は生きてんじゃねぇのか。」

 

「はぁ!?だけど、俺達の誰もここに連れていかれた奴なんていなかっ……」

 

裏切り者がここで縛られる理由も分からないし、俺達の中にいるとは思えない。けど。1人、いるのか?

 

「……東城が本当の超高校級の記憶力の持ち主だって言ってた、たまちゃんって奴か……?」

 

「ここにいた奴は死んでねぇっつってんだろ。そいつだとして俺達の目の前に頑なに姿を現さない理由がねぇよ。」

 

じゃあやっぱり裏切り者?だけど、おかしくないか?

どうして俺達の敵のはずの裏切り者がここで縛られる事がある……?

 

……。

 

いや、待てよ。

 

裏切り者は元々俺達と同じように記憶を奪われていた。裏切り者のモノパオが、途中で思い出したって言ってたよな。

じゃあ、ここで縛られていたのは……『記憶を取り戻す前、もしくは取り戻した直後の裏切り者』?

記憶を取り戻すトリガーにも思い当たる事がある。

2回目の事件の動機、そしてその後もずっと俺達を苦しめた秘密だ。勝卯木が裏切り者にあの秘密を見せる事で、裏切り者であると思い出させたとしたら?

 

「……大渡。」

 

「あ?」

 

「ここにいたのは、たぶん裏切り者だ。」

 

「……んだそりゃ。」

 

訳が分からないとでも言いたげな顔で大渡はそっぽを向いてしまった。

……もう少しでもっとはっきり言えそうだけど、現段階では根拠がない。これ以上喋っても俺の憶測だって一蹴されるだろうな。

 

他にめぼしいものはなく、俺達は3階に向かう事にした。

 

 

 

 

 

「なぁ、嫌ならいいんだけどさ。大渡の話ってできたりしないか。」

 

「…………。」

 

「…………ごめ」

 

「親が離婚して母親についていったら引っ越し先で人夢にハマって終わりやがった。強制的に入れられそうになって父親の神社に逃げたが、この首のせいでろくに交流もできやしねぇ。1人暮らしがしたくて制偽学園に入ってこの有り様だ。自分の悪運に反吐が出る。」

 

「……。」

 

まさか話してくれると思わなくて固まってしまった。

 

「おい、次は貴様の番だ。」

 

「え?」

 

「貴様の動機は悪魔に両親を殺された事だったな。悪魔と貴様の両親にどんな関係がある?」

 

「え、と……」

 

親子です、なんて、俺には言えなかった。

正直に話して、大渡にどう思われるのか考えるだけで恐ろしかった。俺が死ねばすぐに出られるんだ、実は。

ごめん、死んでなくて、生きててごめん。何と言えば許してもらえるか全く分からなくて、脳がチリチリと煙を出しているようだった。

さっきまで忘れたふりして平気で話しかけてたのが嘘みたいに、呼吸するのも難しくなる。

 

「……チッ、それが人の信用を得たい奴の態度か?どこまでもゴミクズみてぇな……」

 

 

 

 

 

■■■■■

 

✕✕✕✕。

 

✕✕✕✕✕✕。

 

✕✕✕✕✕✕✕✕✕。

 

✕✕✕✕✕✕✕。

 

……。

 

■■■■■

 

 

 

 

 

「……なんでもねぇ。」

 

「え?」

 

「今の話はナシだ。俺の言った事も忘れろ。」

 

「え、あ……?」

 

「今日はもうやめだ。時間もいいくらいだろ、俺は食堂に戻る。」

 

大渡は、俺を残して帰っていった。

 

帰ってしまった。

 

記憶が抜けている。

アイツが、やったのか。

 

アイツが、大渡を説得した。よかった。よかった?大渡を騙した事が?大渡の信用を軽視した事が?

せっかく大渡も協力的になっているのに、俺はその気持ちを無下にしたんだ。自分に都合のいいように、蔑ろにした。

俺、最低だ……。人の話は聞くだけ聞いて、自分のは黙って。そんな自分勝手が通ると思っているし、実際通っている事に、心臓が寒くなる。

 

仲間をこんな風に扱った事が、いい事のはずがない。

 

「だめだ、そういう考えをしちゃ、またアイツに負荷が……」

 

俺が正直に言えばいいのに、俺が言わないからアイツが嘘を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺のせいで?

 

 

 

 

 

 

 

 

違う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………アイツのせいじゃないか。

 

 

そもそもアイツがいなかったらこんなつらい思いしてないのに、なんでアイツが存在してるんだ。俺がいるからじゃない、アイツがいるからコロシアイが起きてるし、アイツがいるから俺も悩んでるし、皆を傷つけてるんだ。アイツがいなかったら、俺1人だったら……

 

 

 

 

 

 

 

 

「はは、また責任転嫁だよ。」

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「あれ、大渡くん1人?」

 

「宮壁はどうした。」

 

「チッ、ダチョウは体調が悪いとかでどっか行きやがった。」

 

「今朝から思ってたんだけど、そのダチョウって何?」

 

「物忘れが激しい。」

 

「ほぼ悪口ではないか。」

 

「悪いのはそう言われるような行動をとる方だろうが。」

 

「あはは……。」

 

食堂には宮壁を除く3人が揃っていた。遅めの昼食を摂り、情報の交換を行う。

 

「私達は1階の部屋を見ていないので教えてほしい。開いたのは勝卯木の隣の個室だったな。」

 

「あそこはモニタールームだ。俺達を監視するための部屋らしい。いつでも入れるとは限らなさそうだった。」

 

「なるほど、それなら勝卯木の部屋が隣だったのも納得がいくな。」

 

「そうだね……。あ、2階の部屋はどうだった?」

 

「……奴は裏切り者が閉じ込められていたんじゃねぇかとか、訳分かんねぇ事言ってやがった。」

 

「……?」

 

「どういう事だ……?」

 

大渡はやっぱり話すんじゃなかったと舌打ちした。説明できないものを紹介したところで疑問を共有するだけだ。三人寄れば文殊の知恵とは言うがこの2人と一緒に謎解きをするような間柄でもないし、どうせ分からない奴が何人集まっても分かる事はない。

 

「裏切り者は敵で、敵を閉じ込めていた人は味方…?いや、味方なら今日より前にあの部屋に入れないからやっぱり敵で……ん……?」

 

「俺だって知るか。知りたきゃ直接聞け。」

 

「そうだよね……。」

 

肩を落とした前木に代わり、篠田が口を開く。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「では私からは3階の部屋について話しておこう。3階で解放された部屋は2つ。とは言っても1つは部屋と呼べるものではなかったが。」

 

「部屋と呼べない?」

 

「ゲームセンターに隣接している小部屋には冷房設備が揃っていた。部屋中にあらゆる電子機器の発熱部位が並んでおり、あの部屋で冷却しているようだ。」

 

「つまり、そっちは何もねぇって事か。」

 

「ああ。気をつけなければならないのはもう1つの方だ。冷房設備のある部屋の上……3階のトイレの隣だな。あそこにはブレーカーがあった。この施設全体のものだ。他にはイベントホールの垂れ幕や照明の操作板、プールや大浴場の水量の調整機が並んでいた。ご丁寧に操作方法も書かれていたな。」

 

「そう!モノパオが出てきてね、ブレーカーは冷蔵庫の電源にも繋がってるからむやみに触るなって言ってきたから、気をつけようね。」

 

「……ゾウが出てきた?アイツのモニタールームに行った時はもぬけの殻だった。何故貴様らがブレーカー室にいると分かった……?」

 

「他にもモノパオを操作できる部屋があるのではないか?それこそ勝卯木の部屋、もしくは……地下だ。」

 

「地下?裁判場しかねぇんじゃねぇのか。」

 

「難波はしきりに地下の構造を気にしているようだった。何かを見つけたのかもしれない。」

 

「とは言っても、地下に行く方法なんて思いつかないよね……。」

 

「それが今の一番の問題だな。」

 

「それもだが、ブレーカーに気をつけるも何も入る事なんざねぇだろ。」

 

「まぁ、そうだな。」

 

「むしろモノパオ自身が気をつけてねって設備しかないもんね。」

 

「以上だな。」

 

大渡はお互いに情報が渡ったのを確認すると、誰かが止める言葉をかける間もなく食堂から出て行った。

 

「大渡くん、相変わらず無愛想だけど優しくなったよね……!」

 

「ああ見えて大渡も成長しているのだろう。いい事だ。」

 

「……誰目線だ貴様ら、潰すぞ。」

 

 

 

「……へへ、聞こえてたね……。」

 

「ああして反応が返ってくるのも成長のうちだ。」

 

瞳ちゃん、なんだか皆のお母さんみたいに達観してるな……と思いつつ、前木と篠田も解散となった。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「それで、宮壁さんとの意思疎通は微塵もとれそうにないと。前木さんに怪訝な顔をされ、篠田さんとモノパオにはバレたという事ですね?」

 

「……うん。」

 

「まぁ、想定内ですよ。そのくらいは。」

 

「分かってたなら龍也くんが知恵をおくれよ!オレ上手いコロシアイの過ごし方知らないもん!」

 

「コロシアイが上手ければここにいませんしあなたと会話する事もありません。もう呼ばないでください。」

 

オレは絶賛、態度があの頃と違いすぎる龍也くんにひやひやしているよ。何かいい考えがないかと恐れ多くも呼び出して、案の定呼ばなきゃよかったと後悔している。呼ばないと絶対来ないからね、彼!

 

「柳原に聞く前にアタシに聞けばいいのにさ。」

 

「紫織ちゃん!!!……って、もう大丈夫なの?」

 

「だいぶ整理はできたかな。おかげさまで。でもアタシを入れるなら東城はいらなかったし、東城がいるならアタシは入れてくれなくてよかった。」

 

「ひぃ……ごめんね……。何も考えてなくて……。」

 

「あは、怒られちゃいましたね。」

 

「龍也くんは笑わないで!」

 

「そういえば柳原とはまだ喋ってなかったわ。どうなの、その……アンタの様子を見た皆の反応は……。」

 

「……さぁ、全然話してないので……。でもきっと、みなさんは狼狽えながらもおれを無意味に気遣ってくれるんじゃないですか?それで今までと変わらない態度で接して、死んだおれを今更助けてくれようとするんでしょう?みなさん、馬鹿だけど優しいから。」

 

「……聞くんじゃなかった……想像つくから尚更嫌だわ……。」

 

「そういう意味では難波さんの一貫した態度は嬉しいですよ。おれの味方になんて絶対ならないって感じで。」

 

「なる訳ねぇだろ。自分の行いを振り返ってみな。」

 

「行い関係なく味方でいてほしいだけなんですけど……。」

 

「じゃあ振り返る必要もないって事かーっ!よかったじゃん、楽で!」

 

「…………きらいです……。」

 

「ストップストーーーーーーーーップ!!!!!ごめんね、本当にごめん、もう大丈夫、オレ1人で考えるよ!」

 

「最初からそうしてください。」

 

「それな、元凶だし。」

 

「ひえぇ…………。」

 

 

2人に睨まれて死にかけのオレだけど、許さないと面と向かって言ってくれるのはこの2人だけなんだよね。それはそれでありがたいというか。そういう2人に囲まれているのもオレの精神にはかなり休息になっているようだ。

 

……もちろん、存在しないはずのオレの胃は痛くなってるんだけどね。

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

「私、謝ろうと思ってて。」

 

「宮壁の事か?」

 

「……うん。紫織ちゃんの事がショックで、言っちゃいけない酷い事言っちゃって……。すぐに我に返って、昨日の夜、謝ろうとしてたの。」

 

「でもね、「お前は暇だろうから俺に肉を焼け」みたいな事言ってきて……!あれは、ちょっとおかしいんじゃないかと思う!」

 

「…………。そういう事か……。」

 

「?……私ね、それでまたイラっときて怒っちゃったんだ。今思うと宮壁くんなりの冗談だったのかなって……。」

 

「怒っていい冗談だろう、それは。馬鹿にしているとしか思えない。」

 

「だ、だよね!?よかったー……。私が怒りっぽいのかと思ったよ。」

 

「ふふ。」

 

「あ!想像して笑ったでしょ!で、でもね、おかしいけど私にも非はあったから……」

 

「…………そうか、だが……。私から1つ、言わせてほしい事がある。」

 

「?」

 

「前木から謝るのもいいとは思うが、私は……宮壁から声をかけるべきだと思っている。」

 

「……!」

 

「前木は昨日、皆の事をどう思っているのかと聞いていたな。私は、前木の質問に答えるべきだと思う。こうして協力関係にある今、私達の間で何かもやもやしたものを残すのは危険だ。大渡も探索の時に言っていただろう。」

 

「たしかに……。」

 

「対等な協力関係を結ぶためにも、お互いの気持ちを知らねばなるまい。……あくまで私の考えだ、前木がどうしたいかも聞かせてくれないか。」

 

「瞳ちゃん……。」

 

 

 

 

 

 

「あのね、私……やっぱり、先に謝りたい。宮壁くん、臆病だから……私が話を聞くよってちゃんと言わないと、きっと話してくれないと思うんだ。」

 

「……。」

 

「宮壁くんが何も感じてないなんて嘘だもん、宮壁くんの答えなら、宮壁くんがちゃんと教えてくれてた。あまり言葉にしない人だけど、皆の気持ちを慮る事ができる素敵な人だよ。」

 

「……さすがだな、前木。よく見ている。」

 

「えぇっ、そうかな……!」

 

篠田は前から思っていた疑問をぶつける事にした。

 

 

 

「好きなのか?宮壁の事。」

 

「…………へ?」

 

 

 

 

「…あっ、ち、違ったか、すまない。早とちり…………」

 

 

 

 

 

 

 

「……………………よ、よく……分かるね…………。」

 

 

 

伏せたまつ毛に蛍光灯が反射していた。

揺れる髪の隙間からは赤く色づいた耳がのぞき、固く結んだ口はその想いのたしかさをとどめていた。

 

 

 

「……ふふ。」

 

篠田は微笑むように笑い、コーヒーを淹れに厨房へ向かった。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

『オマエラ、夜時間だよ!元気ないけどちゃんと寝てる?また睡眠が動機になるかもしれないんだから寝れる時にしっかり寝ること!いい?ということで惰性でお送りしました、モノパオでした。』

 

モノパオのアナウンスが流れた時、俺は食堂横の倉庫でいろいろと漁っていた。眠れないから快眠グッズでも漁ろうと立ち寄ってみたはいいものの、ろくな成果は得られそうにない。

 

「……。ふふ……。」

 

誰か殺しにきてくれないかな。今なら前木でも殺せるよ、俺の事。

アイツのせいで俺が死ななくちゃいけないのは納得いかないけど、全てが終わるならそれもいいんじゃないかと思う。

 

今は、誰にも会いたくない。

……明日、そうか、明日があるのか……。

どうにかして打開策を考えないと。俺は立ち上がり個室に戻る事にした。

 

明日をどうやってやり過ごすか、そもそもやり過ごした果てに得るものなんてあるのだろうか、脳内を嫌な事ばかりが駆け巡る。

 

 

 

 

 

 

「!宮壁くん……!」

 

 

 

俺は、どうするべきなんだろう。

 

 

 

「あ、ま、待って……!私、話したい事があって……!」

 

 

 

俺にできる事……俺がすべき事……。

 

 

 

「宮壁くん!聞こえてる……?!待って……!!」

 

 

 

個室に戻り息を吐く。俺のために、俺がしなくちゃいけない事なんて、もう無いんじゃないのか。

 

 

 

『ピンポーン』

 

 

 

俺のためになる事は、もうない。じゃあ、俺のためにはならないけど俺にできる事は?

 

 

 

「宮壁くん、昨日も今日も酷い事言ってごめんね……それだけ言いたくて……。」

 

 

 

「……ある。」

 

 

 

「…………おやすみなさい……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

「……ふーっ……。」

 

ゆっくりと深呼吸をする。

 

どうして殺さないのか、そう問いかけるかのような宮壁の視線を思い出し、頭を振った。

むやみに殺すつもりはないが、悪魔となれば話は別だった。悪魔を殺せばここから出られる。私個人の目的は最初から悪魔を殺す事だったのだから、やらない理由がない。

 

 

 

殺さないのではなく、殺せなかった。

 

 

 

「なんだ、あの化け物みたいな才能は……。」

 

コロシアイを忘れろという説得は断ち切れても、全ての話を遮る事などできやしなかった。

『絶対にここにいる誰も殺さないでくれ。どんな動機が来ても、オレが終わらせるまで我慢するんだ。』

あの言葉が、ずっと私の脳を掴んで離さない。宮壁をモノパオの放った槍から救った時、救わずに見過ごしてもよかったし、救った後で首を絞めてもよかった。そうしなかったのは、それができなかったからだ。

 

 

 

『人を殺すなんて、言わないでくださいー……。』

 

 

 

悪魔の力だけだと思いたくなくて、めかぶに言われた言葉を反芻する事で自力でとどまったと思い込んだ。

 

「めかぶ……三笠……。私は、どうすればいい……?したくてするのではない、だが理由があれば仕方ないと言ってくれないか。殺さずにいて、もしまた動機がきたらどうする?悪魔を殺すなら、私だ。前木や大渡の手を汚す訳にはいかない、やるなら私なのだ。だが、今の私には…………」

 

「今の私に、人は殺せない。」

 

皆の為に、自分が手を汚す事もできない。

難波と東城にもらった手がかりも、全員と共有するには宮壁が信用ならない。2人の言いつけも守れない。

前木の好意を知りながら、私にはどうしたって宮壁を許す事も恨むのをやめる事もできなかった。

 

「私には、やはり……できない事だらけだ……。」

 

 

「だから言ったんだ……私がクロでよかったのに…………。」

 

その感情が私を支えてくれた人達を否定しているのだと分かっていても、そう考える事を止められなかった。

 

「…………。」

 

気分が悪い。こんな部屋に閉じこもっているのがよくないのだろう。私は部屋を出て食堂に向かう事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、自殺だ!!!

 

 

 

 

 

 

なんで今まで思いつかなかったんだろう。その理由も今なら分かる。俺がどうしようもなく自分が大事で無責任で自己中心的だからだ。

俺のためになる事が思いつかないなら、皆の為になる事をしよう。今まで皆の為に動くという発想すらなかったんだ、そう気づいてまた自己嫌悪に陥る。これから死ぬんだからアイツの負荷なんてどうだっていい。交代するギリギリまで俺が動けるならなんだっていいんだ。

 

「どうやって死ぬのがいいんだろうな……。」

 

簡単にできて、できればそこまで苦しくないやつで……そうだな、モノパオにも直前まではあまり自殺だと思われたくない。それこそいろんな形で茶々を入れてくるかもしれないし。

 

後始末の事は考えなくていいし、人に迷惑をかける死に方だってここではできないから大丈夫だ。個室に鍵をかけてしまえば、モノパオ以外が俺の部屋に入る事はできなくなる。事件性も疑われない。念のために簡単な遺書を食堂に遺して、それから実行するのがいいだろう。

 

苦しい気持ちもすぐになくなるし、怖いものは何もない。

 

 

俺は食堂に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

ねえ。

大希、何を考えてるの?

 

やめて、嫌な予感がする。こんな感情、もらった事ない……。

体中から汗が出るような、体温が奪われていくひどい寒気。

嫌な事考えないで……。苦しい……。

 

「ロザリオさん!……っ、大丈夫、大丈夫ですわ……!わたくしもいますから……!!!」

 

「鈴華ちゃん……ぐずっ、うぅ……痛いよ…………怖いよ…………」

 

コロシアイで抱えた痛みが1番今のオレと近いのが鈴華ちゃんだから、今ここにいてくれるのかな……。

 

死が近づく恐怖。

今日、槍が目前に迫った時とは比べ物にならない恐怖。突然の死ではなく、これからじわじわと歩み寄ってくる死。

 

「……失礼しますね……。」

 

鈴華ちゃんがそっと肩を抱き、オレは身を寄せるようにもたれかかった。こうして見ると、オレの銀髪も年老いた人の白髪みたいだ。酷く軋んで、荒れている。

 

「死にたくない……。」

 

「……。ロザリオさんは死にませんわ。大丈夫です。ここにはロザリオさんの味方がいますし、向こうも頼れる方々ばかりですわ。」

 

「うん……。」

 

「……。」

 

遠くから蘭ちゃんもこちらをじっと見つめていた。鈴華ちゃんもそれに気づいたのか、顔を向ける。

 

「……すずかちゃん。私も、一緒にいて、いい……ですか……。」

 

「……ええ、もちろんですわ。」

 

まだぎこちないけど、少しずつ変わってきたみたい。蘭ちゃんはしばらく心配そうに辺りを見回した後、ゆっくりと鈴華ちゃんの傍に腰をおろした。

 

「私を入れてくれたロザリオくんなら……大丈夫。……大丈夫だよって、説得してあげるね。」

 

「へへ、まぁね。」

 

なんだかむずがゆくて、少しだけ胸の痛みも治まった気がした。

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

包丁を手に取ると、それはずっしりと俺の手に重みを残していく。

 

最初からこうしていればよかったんだ、これに気づかなかった理由は……考えるだけ邪魔だからやめておこう。

 

「……やっぱ首かな……痛そうだけど、どのくらいで終わるだろ……。」

 

他人事のように、平然とした口調を崩さないように、それさえ気をつければ交代する事もないはずだ。アイツ自身の考えが分からない以上、下手に交代するのは避けたい。

 

上着に包丁を忍ばせて適当な場所に封筒を置くと、俺は食堂を後にした。

 

後は個室に帰るだけ、それで…………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何をしている。」

 

突然響いた声に、足が止まった。

 

「…………何をしていると聞いてもお前は答えないだろうから、こちらで仮定しておく。」

 

 

 

 

 

「お前が本気で死のうと言うのならば、私は全力で邪魔をしよう。」

 

「……篠田、」

 

「話をしようか、宮壁。」

 

鷹のような目は、確実に俺の足を掴んで離さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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