ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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5章も折り返しです。
今回は特に!挿絵表示を!!!ありにして!!!!!読んでほしいです!!!!!!!うわ~~~~~~!!!!!祭りだ~~~~~~~!!!!


非日常編 2

 

 

 

 

 

じり、と距離を詰められる。

俺の手は震え、思わず後退した脚は机に当たりそれ以上下がらなくなった。

 

「篠田は、知ってるんだな。」

 

「ああ、もう1人のお前と話をしたからな。いや、今のお前がどちらなのかもよく分かっていないが。」

 

平然として言葉を連ねる篠田にドキリとする。そうか、じゃあ、本当に全部分かっているんだな……。

 

「分かっているなら俺の事を止める理由はないだろ。」

 

「……。そうだな、お前が死ねば私達はここから出られる。コロシアイが終わる。」

 

「じゃあ、」

 

「だが、それだけだ。お前がここで死んで得られるものは少ない。」

 

「……。」

 

「前回のコロシアイの公表、裏切り者の正体、勝卯木蓮の目的。どれもが中途半端なままここから出たとして、私は何も満足しない。私の目的はお前を殺す事だけではないのだから。」

 

「今殺してやろうと、何度も思った。だが……私はこれ以上難波や東城の話を無視したくないし、前木の意見も尊重したい。めかぶや三笠に教えられたものをここで捨てたくもない。そもそも今の私には……」

 

「……?」

 

何を言いかけたのか、篠田は俺の視線に気づくと首を振って話を打ち切った。

 

「兎にも角にも、私がここでお前を殺す事はないし、もし本当に殺す事になったとしてもそれは他の問題が片付いてからだ。お前に死んでほしい気持ちがないと言えば嘘になるが、そもそもお前だけを憎む気持ちはない。今コロシアイが続いているのは裏切り者が続行の選択をしたからであって、お前がいるからではないのだからな。完全にお前のせいなどとはき違えるな。」

 

「……じゃあ、どうしろっていうんだ。今の俺にできる事なんて、」

 

途端に呼吸が止まる。篠田は眉間に皺を寄せて俺の胸ぐらを掴んでいた。

 

「他の目的の達成、これに協力してもらう。裏切り者に学園の動き、勝卯木蓮の現在など、暴くべき事は山ほどあるだろう。それが終わるまで弱音を吐くのも自殺に縋るのも許さない。……ほんの少しの私の憎悪くらい、耐えてみせろ。それが学級裁判を勝ち抜きここに立っている者の役目だ。」

 

篠田はいつの間にか俺の手から包丁を奪うと元の場所に戻した。

自殺に縋っているなんて……違う、そんなはずない。それしか残されていないんだ、嫌に決まってるじゃないか。そう思っていたはずなのに、その道を塞がれた方が苦しく思うのは何故なのか。

 

「……俺が逃げてるって言いたいんだな。」

 

「ああ。」

 

篠田は今までのように優しい言い方も口を噤む事もしなかった。

まっすぐに俺を非難するその目は、決して仲間に向けるようなものではない。

 

 

 

俺達は決別したのだと、俺はようやく理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

『オマエラおはよう!今日もレッツ・コロシアイ生活!』

 

 

「……。」

 

ゆっくりと起き上がる。

昨日はあの後部屋に戻って無理矢理寝たんだったな。俺の手元には何もなく、昨日の篠田とのやり取りも現実だった事を再確認した。

 

「……。」

 

食堂か……行きたくないな……。今日くらい休んでも、そう思ったところで篠田の言葉がよみがえる。

 

「逃げるのはダメって事だよな……厳しいけど、ここにいたところで変に頭を働かせるだけだ。」

 

俺は篠田の言葉に従うべく、個室を後にした。

食堂には既に全員が揃っており、俺が来た事に気づいた皆は頭をあげた。

 

「宮壁、くん。」

 

「……おはよう。」

 

「……。」

 

「うん……おはよう。」

 

そういえば前木との問題も残っていた。気まずいな。

篠田はもう話しかけてもこなくなっているし、あまりいい方向には見えない。

 

「食事の場をカビ臭ぇ空気にしてんじゃねぇよ。乾燥機にぶち込むぞ。」

 

「おはよう!!!」

 

「おはよう。」

 

大渡に睨まれて前木と俺は挨拶をやり直した。篠田は変わらず無言だったため大渡に舌打ちされていた。

……いや、大渡も挨拶してないだろ。

 

「……今日も探索の続きをする事になるだろう。それぞれが持つ手がかり……それを確認するためにも、一度監視カメラのないところに移動する必要があるな。」

 

「そんなところあったっけ?」

 

「……あ、あの隠し部屋だな。展示室の裏にあった資料室。電気がないのは難点だけど、あそこにもまだ手がかりがあるかもしれない。」

 

「宮壁に賛成だ。私もそこがいいと思う。」

 

俺と前木が朝食の後片付けをしている間に篠田と大渡が明かりを確保しに倉庫を漁る事になった。2人が出て行った後に取り残された俺達の間に、大渡の言うカビ臭い空気が流れる。

 

前木は何か言おうとしては口を噤み、居心地が悪そうにしている。その様子を見ていると俺までむずむずしてきたので声をかける。

 

「前木、何かあったのか?」

 

「あ、えっと……」

 

前木は一瞬目を逸らしたが、おずおずと確認するように俺の方を見た。

 

「……宮壁くん、今日は大丈夫……?」

 

「え、今日はって……?」

 

「昨日、疲れてたみたいで話しかけても返事がなかったから……ち、違ってたらごめんね……!」

 

「話しかけてた……!?ごめん、本当に気づかなかっただけだ、悪い……。」

 

前木は何度か瞬きをした後、ふにゃりと笑った。

 

「よかった~……!」

 

その様子に余程昨日の俺は無視し続けていたらしい。慌てて謝罪する。

 

「ほんとごめん……!!」

 

「ううん。私こそ謝らなきゃいけないと思ってたから……昨日もそれを伝えようとしただけなんだ。」

 

「謝る?前木が?」

 

「えぇ、忘れちゃったの?私、裁判の後に宮壁くんに酷い事言っちゃったから。」

 

「なんだ、俺だって気にしてないよ。前木の言い分は最もだろ。」

 

「本当?ありがとう。……でもね、肉を焼けって言うのは、本当にやめてほしかった!冗談でも言っていい事と悪い事があるんだよ!」

 

なんだそれ……?と言いそうになったところで合点がいく。アイツだ、アイツがやらかしてたのはそれだったのか。ちょっと前木の言葉足らずで状況が想像できないけれど、最悪な動きをしたのだろうという事はかろうじて理解できた。

 

「ごめん。」

 

前木は俺から見た感じ、本当に気にしていないように見えた。もう大丈夫なのか、少し自信が持てないけれど、前木のきょとんとした視線をうけて考えを改める。

 

「遅くなった。手頃な物は見繕ってきた。」

 

 

 

「瞳ちゃん、大渡くん!お疲れ様、私達も丁度片づけ終わったところだよ。」

 

「じゃあ行くか。」

 

モノパオは見ているだろうけど、資料室の中で話している事までは聞こえないし見えないはずだ。篠田から懐中電灯を受け取ると、俺達は展示室の隠し部屋、資料室に向かった。

 

 

 

 

 

俺達の持つ懐中電灯が資料室内を照らす。特に何かが減っているようにも見えない。埃も相変わらず積もっており、正直長居はしたくない。

 

「……まだ資料はそのままみたいだな。」

 

「裏切り者にとってはそれほど重要な証拠ではないのだろう。」

 

「そういえば特別学級の名簿に切り取られたページがあったよね、裏切り者が私達がここに来れるようになるまでに準備したってことなのかな。」

 

「私はそう考えている。」

 

そうして俺達はお互いの持つ情報を交換する事にした。難波からもらったものを照らし合わせて今日以降の各々の動きを決めるという流れだ。

 

「じゃあ俺から話す。俺がもらったのはこれだ。」

 

ポケットからヘアピンを取り出す。

 

「ヘアピン……?」

 

「皆の個室の鍵だ。難波が作ってくれていたらしい。」

 

「……!!!そんな事までしていたのか……。」

 

篠田もさすがに驚いたのか、しばらく瞬きを繰り返しヘアピンを眺めていた。

 

「では、宮壁は全員の個室を頼む。」

 

「……俺1人でか?」

 

「人手が少ない今、単独行動を規制する理由はない。例え小さな発見でもお互い報告するようにすればいいだろう。……私達の目的は全員一致しているはずだ。」

 

「分かった。」

 

ここは篠田の温情に甘えて1人で探索する事にしよう。次に名乗りを挙げたのは篠田だった。

 

「私が預かった物は東城のメモだ。2つあったらしく前木にも配っていると言っていた。」

 

「うん!私もメモ帳をもらってるよ。」

 

篠田は頷くと軽くぱらぱらとめくってみせた。

 

「じゃあ、私も同じだから言う事はないね。どこを調べたらいいかな?」

 

「そうだな……私は今までの部屋をもう一度見返していくつもりだ。この資料室を調べてもらってもいいだろうか?暗い場所ですまない。」

 

「ううん、大丈夫!見つけるのとかは得意じゃないから助かるかも。」

 

なるほど、篠田とは後で会う事もありそうだな。

 

「大渡は難波に何て言われたんだ?」

 

「……共有するのもやめろと言われた。これでいいだろ。」

 

共有もできない、という言葉に篠田が怪訝そうに眉をしかめる。

 

「……どういう事だ。難波がそう言ったのか?」

 

「そうだ。」

 

「紫織ちゃん、あれだけ信じろって言ったのにそれはないよ……。」

 

前木が困ったように笑い、それを見た大渡がつけ加える。

 

「貴様らに話しても意味のない話題だ。オカルトの話なんざ知らねぇだろ。」

 

「オカルト……?難波はそういうの嫌いそうだけど……まぁ、たしかに大渡の言う通りかもな。」

 

「俺は地下の行き方を調べる。他にもあるだろうからな。」

 

「他?」

 

「……行ってくる。」

 

大渡はどこか心当たりがあるのか、1人で歩きだしてしまった。

 

「……私達もそれぞれ探索に向かうとしよう。くれぐれも気をつけるように。無理はするな。」

 

篠田の合図で俺達も行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は死んでしまった人達の部屋に順番に入る事にした。今まであった事を振り返って整理するためにも、ここは死んだ順番に巡るのがやりやすいかもしれない。

 

「……やりやすいというか、やらなくちゃいけないんだ。」

 

意を決して桜井の部屋に入る。

とは言っても桜井、端部、牧野、高堂の部屋は各裁判後に入った覚えがある。あまり探し過ぎるのも悪いので女子の部屋は軽くで引き上げる事にした。端部の部屋も同じく引き上げた後、牧野の部屋で初めてはたと立ち止まる。

 

「そういえば、牧野の動機は知らないままだったな。」

 

変わらず同じ場所に封筒が置かれていたので手に取る。幸いUSBらしきものも一緒に入っていた。他は以前と変わりないようなので後にする。高堂の動機は裁判で見たので割愛。

ここからは入った事がない面々になる。いや、勝卯木と安鐘の部屋は入った事あるけど。

 

 

 

三笠の部屋に入る。トレーニング器具がずらりと並んでおり、綺麗に畳まれた布団に近づけられたテーブルには薬の瓶が置かれていた。

 

「……あ、睡眠薬。東城にもらっていたって言ってたっけ。」

 

まさか瓶ごともらう程困っていたなんて。あの時も、そして俺の精神世界で出会った時も、一度もそんな悩みを抱えているようには見えなかった。……それだけ、隠していたという事になる。

 

「端部や安鐘もだけど……そんなに、頼りなかったかな……俺達。」

 

3人の性格を考えるに、それぞれ気を遣って言わないでいたのもあるだろうし、そんな込み入った話をできる程仲良くはなかったとも言える。それがどうしても歯痒い。

そんな後悔の念も三笠の部屋をうろうろする間に心から抜け落ちて、

 

「ま、他人だしな。」

 

なんとも無関心な感想に落ち着いてしまった。

そんな自己分析を終える前に三笠の動機も無事回収し終えたので、安鐘の部屋に向かった。

 

 

 

安鐘の部屋は難波と2人で安鐘を問い詰める時に入ったのが最後だ。

当時は内装なんて全く気にも留めていなかったが、他の面々と比べると和風の小物が揃っており、どこかい草に似た匂いも感じとれた。

あの時の言葉を精一杯拾っていれば……安鐘が死ぬ事は避けようのない出来事だったとしても、あんな風に殺される事はなかったはずだ。いや、おしおきされる事がとてもマシとは思えないが。

安鐘が何故扉を開けてしまったのか、俺にはいまだに分からないけれど、安鐘が身を挺して守ろうとしたものが、きっとこの動機に書かれているのだろう。丁寧にしまわれた着物や、その他整理整頓された小綺麗な部屋で唯一、投げ出すように乱雑に置かれていた封筒を拾う。

 

あまり物色するのも悪いので俺は次の部屋に向かった。

 

 

 

次は勝卯木の部屋だ。意外にも簡素な部屋は、あの嫌な記憶を思い出させるのに十分な空間だった。

…………あそこで、潜手を一緒に連れて帰っていれば。勝卯木と一緒になって泣いていた潜手の事を思うと勝卯木に対する怒りもふつふつと湧き上がってくるが、今更それを嘆いたところで仕方がない。勝卯木の動機は……もう俺達が知っている内容だし意味はなかったはずだ。一応封筒を見つけたものの、中に何か入っていることもなく。

あと気になるものと言えば――

 

「この扉、他の皆の部屋にはなかったはずだ。……方向的にこれは……」

 

以前入った時はそれどころじゃなかったから気がつかなかったのだろう。幸い鍵はかかっていなかったようで、すんなりと扉は開いた……が、何かが邪魔をしているのかほとんど開かない。押せばなんとかなりそうだったのでガンガンやっていると舌打ちの音と共に急に視界が開けた。

 

「うっせぇ。……これで塞いでいたらしい。」

 

「大渡!」

 

勝卯木の個室の隣、つまりモニタールームに繋がる扉だったのだ。なるほど、これで誰にも見られずにモニタールームと自室を行き来できるという話らしい。

大渡が避けてくれたのはモニタールームに不自然に設置されていたロッカーだ。何故かロッカーは開いており、移動させるのにはさほど力を要しなかったようだ。……あれ、このロッカー、内鍵もついているのか。何の意味があるんだ……?

 

「邪魔して悪い。そういえば地下への入り口を探すって言ってたよな。この部屋に何かあるのか?」

 

「ここしかねぇだろ。黒幕や裏切り者が日常的に使用する部屋だ。誰にも見られずに地下の裁判場に遺影を増やすにはこの部屋から地下に降りるしかねぇと思うが。」

 

「たしかに。」

 

大渡もこう見えて結構頭が回る方だよな、なんて呑気な事を考えていると俺の手に抱えている者に気づいたのか珍しく大渡の方から疑問を投げかけてきた。

 

「なんだそれは。」

 

「これか?皆の動機だ。分からなかった人のは見ておくに越した事はないと思ってな。」

 

「……物好きな奴。」

 

「仕方ないだろ、何でもいいから情報が必要なんだよ。」

 

「……」

 

会話は終了したらしい。手で追い払われたので俺は大人しく自分の探索を進める事にした。

 

 

 

潜手の部屋に入る。かわいらしい魚の置物がある他、水草のような植物が揺れている小さな水槽があった。壁にも潜水に使うであろう道具がかかっていたり、潜手が実際にこの部屋を拠点としていてもおかしくないような設備が揃っていた。

そういえば潜手も自分の動機についてはほとんど何も聞かなかったな。その上三笠ほど参っている様子もなかった。本当に、何も分かってやれなかった仲間の1人だ。……死ぬ直前まで、篠田をはじめ皆の心配をしていた彼女の事を思い出し、しばらく何もせず突っ立ってしまった。

だめだ、こんな調子じゃ。潜手に顔向けできるだけの成果をあげないと、そして……篠田に殺人をさせない。潜手が最後に言っていた事はせめて、俺も全力でサポートしたい。

 

「はは、それどころじゃないんだけどさ。全力は尽くすよ。」

 

誰もいなくなった部屋に向かって声をかけた。

動機の封筒には何かが入っているようだった。後で確認させてもらおう。

 

 

 

次は柳原の部屋だ。とはいえアイツの動機はもう知っているんだよな。

入った瞬間、今まで入った部屋とは打って変わって酷く物が散乱した光景にぞわりとする。俺が持っていたUSBはぐしゃぐしゃに踏まれたのか木っ端微塵になっていた。あの動画を見て暴れたのだと思うと胸糞悪くなったが、今それを考えても仕方のない事だ。

高校生とは思えない程汚い字で書かれているメモには、これから自分がするべき事が羅列してあった。

俺が襲われずに安鐘を守り通せていれば、勝卯木は被害者として死んでいたし、安鐘は無惨な殺され方をせずに済んだし、柳原は実行犯ではないのだから死なずにここにいたはずだった。決して俺達の仲間にはなれなかったろうけど、今の俺達4人の関係を鑑みるに最低限の協力関係は結べていたはずだ。

 

「そうだ、あいつは裏切り者の正体も分かったって言ってたよな。何かヒントとかないか……?」

 

ごそごそと汚い部屋をさらに汚くしてしまったが、特に何も発見できなかった。俺は時間に追われるように柳原の部屋を後にした。

 

 

 

さて、東城の部屋に入る。

人間がしばらく生活していたとは思えないのは、おそらく棚に陳列された薬品のせいだろう。薬品特有の匂いはたくさん放置された白衣から漂っていた。とはいえ几帳面な奴の事だ、それ以外は綺麗に整頓され、埃もほとんど見られない。

東城なら気にしないだろうと思っていろいろ探してみたが、やっぱり渡すべきものは事前に皆に渡していたようでこれといって何かが見つかる事はなかった。動機の封筒もどこにも見当たらない。内容は知っているけど封筒自体がないのも変だ。

 

「……東城の動機、誰かが持ってるのか?東城が捨てるなんて事はしないだろうし。」

 

後でその行方も確認しようと、俺は次の部屋に向かった。

 

 

 

難波の部屋もおよそ同じ感じだった。必要なものは全て俺達に渡るように手配してあったから当然の事だ。探すものがなくなった俺は、改めて難波の部屋を見渡す。怪盗だからといってお宝が並んでいる訳でもなく、鏡台に並ぶ化粧品の数が他の女子より多い事を除けば、俺の部屋とほとんど変わらないくらいには殺風景な空間だ。

だがその中で1つ、明らかな私物があったので近寄る。写真立てのようだ。おっとりしてそうな黒髪の女性に肩を掴まれ恥ずかしそうに笑っている難波。その横でそれ以上に慌てた様子の金髪の少年、そして眼鏡をかけた20代後半に見える細身の男性が笑顔で映っていた。

 

「もしかして、これがあのリストに載っていた難波の怪盗仲間か。」

 

最年少はこの少年だとしても、普段自信に溢れ堂々とした様子からは想像もできない程、まるで末っ子のような顔をした難波は珍しいものだった。隣を見るとおそらく妹であろう中学生程の女の子と仲良く笑っている写真立ても飾られていた。

 

「……これだけ大事な人を殺されたんなら、怒るよな。」

 

俺にとっては叔父さんみたいな存在だろう。もし叔父さんが人体実験に利用された挙句死んだなんて聞かされたら……。難波がその怒りに耐え続けた執念を感じた。難波の動機も見つからないし、おそらく俺以外の誰かに手渡したのだろう。

 

 

これで全員の個室は見て回ったはずだ。後は自分の部屋に戻って皆の動機を確認してみようか、と廊下に出たところで大渡と出くわす。

 

「なんか、汚れてないか?」

 

「あぁ?……チッ、汚ねぇんだよ地下が。」

 

「!やっぱり地下に行く道があったんだな!」

 

「声がでけぇよ。後で言うからさっさと戻れ。一旦情報を整理するぞ。スパイ女にも約束は取り付けてある。」

 

「分かった。頼りになるな。」

 

「貴様が糞程頼りにならんだけだ。」

 

「……。」

 

案の定何度かやり取りをしたところで雰囲気が悪くなっただけだったので、俺達は無言のまま食堂に戻る事にした。

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

「……わ、埃っぽい……。」

 

念のために持ってきておいたモップで埃を取りながら資料室にあるファイルを開く。篠田もまだ全てを確認できていない程大量に積まれた資料は、前木の眼前に大きな影となって立ちはだかっていた。

 

「今日は幸運、だったよね。いい感じに重要なファイルにあたったりして。」

 

そう呟き適当に一冊手に取る。資料のほとんどが難解な学園の規則や金銭管理など、特別自身のおかれた状況に関係しないものばかりだった。

闇雲に探すのを諦め、タイトルで振り分けていく。

しばらく時間が経った頃、ようやく今までと雰囲気の異なる資料に辿り着いた。

 

「……あれ、これだけ制偽学園のロゴがない。……クラホネ、って……!」

 

ページをめくる。英文も混じり、いよいよ読解が困難だと諦めかけた時だった。あるページにペンで走り書きがされてあるのを見つける。

 

 

 

 

 

 

「……『天使計画』…………?」

 

 

 

 

 

 

天使。自分達のコロシアイで狙われている悪魔と対をなす存在。

 

研究所の資料に突然舞い降りた非現実的な単語は、勉強も活字もあまり得意ではない前木の目をくぎ付けにした。

 

「……。」

 

時が止まったかと思えば、前木がページをなぞったり次のページを開いたりする音が響く。

 

 

 

 

 

「……ぎ。」

 

 

 

「…………。」

 

 

 

「前木!」

 

 

 

 

 

 

「へっ!?あ、ひ、瞳ちゃん!?どうしたの!?」

 

「そろそろお互い報告する時間だ。……その様子だと何か見つけたようだな。」

 

「うん……コロシアイに直接関係はないかもしれないけど、知っておいて損はない事だと思う。持っていくね。」

 

「ああ、助かる。では食堂に行こうか。」

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせ……!」

 

「皆お疲れ。」

 

篠田が前木を連れてきてくれた事で全員が揃った。

 

「じゃあ俺からだ。地下への入り口はモニタールームのカーペットの下にある。機材を避けたら床下に繋がる梯子があった。間違いねぇだろ。」

 

「そうか。その中には入ったのか?」

 

「報告する程の物は見つかっちゃいねぇが、壁伝いに移動すれば地価の地図を作る事ができる。後でもう一度行ってみるつもりだ。」

 

「感謝する。次は私が話そう。」

 

「今までの部屋にもう隠し部屋はない。全ての部屋を見て回ったから間違いないだろう。宮壁と途中合流したので全員の個室も確認済みだ。どの部屋にもいない以上、今裏切り者は地下にいる可能性が非常に高い。これといって手がかりを見つける事はできなかった。申し訳ない。」

 

「瞳ちゃんが謝る事ないよ!」

 

大渡と篠田の話を聞くに、後調べなきゃいけないのはモニタールームから行ける地下だけって事だよな。他の場所は調べ終わったって事になる。それにしては情報が少ない気がするけど……もう情報は出尽くしたって事なのか?

 

「じゃあ、私も言うね。資料室でいろいろ見てたんだけど、唯一手掛かりになりそうなのはこれかなと思って持ってきたんだ……」

 

「手に抱えてるやつか。何の資料なんだ?」

 

「倉骨研究所の極秘資料、だよ。ここって東城くんがいたところだよね?」

 

「……!!!」

 

「何故そのようなものがこの施設にある……?その極秘資料を学園に、いや、勝卯木蓮に渡す程結託していたという事か……?」

 

「とは言っても、ほとんどのページは英語や専門用語で分からなかったんだけど、ここだけ他と内容が違うんだよね。」

 

 

前木が開き指さしたページのタイトルは、天使計画。

 

全員の顔が少し引きつる。前木の説明を聞きながら読み進める事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっと……立案者は研究所の所長、倉骨佳依さん。この人が天使計画を今も実行し続けている張本人みたい。」

 

「天使を作る計画、とあるな。一体天使とは何を指す?超高校級の悪魔と関係する人物なのか?」

 

「……えっとね、この計画で言う天使っていうのは、『不老不死の賢王』。天使計画は、絶対的な善性を持つ人間を不死身にして、その人を最高権力者とした永遠の統治国家を創る計画なんだって。」

 

「……???」

 

ちょっと、話が壮大すぎてついていけない……。

 

「よく分からない……何故、そんな存在が………………そうか、ここで治安の話になるのだな。もう少しきっかけを覚えていれば……。」

 

「あ、きっかけってこれの事かな?こっちのページにそれらしい事が書いてあって……」

 

前木はその前のページを開く。そこには他のページとは違い、直接書き込まれた文章が並んでいた。

 

 

 

『権力を持つ者達と協力し、賢王を創る。

世界各地の戦争を終わらせ全ての争いごとを無くすには、世界を1つにまとめる必要がある。

王――以後、天使とする――には以下の項目が必須である。

・この世の全ての人間を服従させるための力

・天使としての絶対的な良心

・生涯を終えられない事に耐えうる精神

・他の人間の言葉に惑わされない鋼の意思

以上、全てを満たす者を探し、天使とする。

候補は勝卯木蓮に選出してもらっている。』

 

[情報⑩:倉骨佳依のメモ]

 

 

「この国だけの治安というよりは世界の為……なるほど、馬鹿げた話だ。こんな無謀な計画を企てるとは。」

 

「この天使様とやらを創るのに必要な服従させる力ってのが説得力か。気色悪ぃ。」

 

「モノパオ……蘭ちゃんが言ってたよね。説得力を持つ人格を目覚めさせるには精神負荷がいるって……。そのために用意されたのがこのコロシアイなんだよ……!!」

 

なんだ、それ……天使を創るために、俺の中にいるアイツを探す必要があって、それで、こんなコロシアイが行われた……?学級裁判だのおしおきだのが、全てアイツを叩き起こす為だけに用意されたっていうのか……??

 

……寒気がする。

 

「正直このメモが一番きれいにまとまってるんだよね。さっきのページは天使をどうやって生き永らえさせるかっていう話が続いて、途中からはよく分からなかったの。」

 

「ちなみにどうやるんだ?」

 

おそるおそる聞くと、前木は今までよりもさらに真剣な顔をして答えた。

 

「なんか、ほぼ機械みたいになって、その機械のメンテナンスも機械がして、精神というか脳だけはデータとして一生保存、みたいな……?詳しい仕組みは全然分かんないけど、それこそ普通の人には耐えられないと思う……。一生世界の為に指示を続けるなんて、絶対無理だよ……。説得力さんの能力を移す、みたいな事も書いてあったよ。」

 

「……?おい、悪魔がそのまま天使になるんじゃねぇのか?」

 

「え、あ、うん。別人みたいだね。メモには勝卯木蓮さんに選出してもらうって書いてあるし……。」

 

「……。」

 

まずい、謎が多すぎて訳が分からなくなってきたな。あと話が壮大な上に難しい。

要は……

倉骨佳依は勝卯木蓮に協力を仰ぎ、天使計画を実行している。

天使となる人間は勝卯木蓮が選んでいる。

天使に必要な説得力を持つアイツを表に出すためにコロシアイをしている。

こういう事だろうな。

 

……そう考えると、きっとアイツを表に出す事だけが目的じゃない。

俺という人格は天使計画には不必要だ。俺自身は今もこうしてアイツに変わる事を反対しているからな。計画の邪魔、という言葉がぴったりだろう。

……。勝卯木蓮は、俺という人格を消すつもりだったんだ。俺が潰れて人格が消失すれば、この体もアイツのものになる。それが狙いなんだ。

 

あともう1つ考えたいのは、天使が誰なのかという事。

 

「なあ前木、その天使が誰なのかってどこにも書いてないのか?」

 

「後で確認してほしいんだけど、私が見た限りでは書いてなかったかな。メモにも書いてないって事は、この時の倉骨さんはまだ誰が天使なのかを知らなかったのかもね……。」

 

「なるほど……ありがとう。」

 

「うん!」

 

誰なのかは分からなくても、勝卯木蓮が選んでいるという分である程度推測はできそうだ。

要は、勝卯木蓮と接点のあった人間だ。それでいて、自分を顧みない犠牲心に溢れた人……。

…………まさかな。まさかとは思いつつ、彼女についてもっと調べる必要がありそうだと頭にメモをする。

 

「待て、気がかりな事がある。勝卯木蓮もこれに協力していたという事であれば、このような大がかりな計画にただの若者の勝卯木蓮が絡んでいるのは何故だ……制偽学園はどうしている?学園長は何をしている?警察は?他の組織は……?」

 

「う、その辺りは私も調べられなかったんだ……。ごめんね……。」

 

「……もう一度資料室を調べ直した方がいいかもしれない。少なくとも、コロシアイの全容は分かる気がするな。」

 

「そうだね。あ、ちなみに裏切り者についての資料とかはありませんでした……。」

 

「いやいや、かなりの進歩だろ。コロシアイの目的と奴等の企みが分かったんだから。」

 

「えへへ、だとしたらよかった…!」

 

「じゃあ、俺からも報告していいか。」

 

「ああ、頼む。」

 

俺が口を開こうとした時、

 

 

 

 

 

それは、唐突に鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピンポンパンポーン』

 

 

 

 

 

『えー、校内で何やら嗅ぎまわっている探偵気取りのオマエラ、オレくんがお呼びです。至急、イベントホールにお集まりください。』

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

「今度は何を企んでいる……。」

 

「ここ食堂だし、私達の会話も聞こえてたよね……?どうしよう、『お前達は知りすぎた…』みたいな事になったら……!」

 

「裏切り者は勝卯木蓮でも倉骨佳依でもない。資料も持ち去られていなかった以上、罠のような事はしないだろう。」

 

「だ、だよね……!」

 

慌てる前木を篠田が落ち着かせるが、そうと理解できたところで別の不安が押し寄せる。

今までイベントホールに集められて素敵なイベントだったためしがない。今更何の用があるっていうんだ……?

 

「……チッ、行くぞ……。」

 

俺達を覚悟を決めてイベントホールへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イベントホールに入ると、いつもは上がりっぱなしの緞帳が下りていた。ジジ……と音を立てゆっくりと幕が上がる。モノパオは、まるで今からステージを始めるとでも言いたげな立ち姿で俺達を出迎えた。

俺達を見渡しモノパオはにやりと笑った。といってもモノパオの表情は変わらないのであくまで雰囲気の話だが。

 

「やぁやぁ!オマエラお揃いだね。ちゃんと集まって偉い偉い!わたりんも皆に相談して調べものだなんて、すっかりお利口さんになったね、オレくんは嬉しいよ!」

 

「それをやめろと何度言わせるつもりだ……」

 

早速大渡の神経を逆なですると、モノパオは大げさに咳ばらいをした。

 

「オホン!えー、オレくんがオマエラを呼んだのは他でもありません、オマエラに対して釘をさすためです。」

 

「どういうこと……?」

 

「オマエラさぁ、オレくんの事を甘く見すぎだよ。」

 

急に、温度が変わる。

 

俺達が自由に探索していた事すら予定調和とでも言いたいのか。俺達がこのコロシアイについて調べる事を望んでいながら、肝心な時に収集をかけて邪魔をしてくるような裏切り者を、俺達は心の奥では舐めていたのかもしれない。

卑怯な動機を提示し、難波に卑劣なおしおきを行うような今のモノパオの事を、俺達は知らなさすぎたのだ。

 

「オレくんの正体やらコロシアイの秘密やら天使計画やら、随分張り切って調べてるね?」

 

「……!その言い方、天使計画の事も知っていたのだな。」

 

「やだなー、オレくんもその計画には大反対だったよ。昔はオマエラと一緒に一生懸命学園や勝卯木蓮に反発したよね……懐かしい青春だ。今のオレくんにとっては最低の思い出だけどさ!オマエラに協力したからオレくんはこんなに不幸になっちゃった。」

 

「何が言いたい……?昔は味方だったと?こちらから願い下げだ。」

 

篠田がモノパオに対し一層鋭い目を向ける。

 

「いぴぴ、いいよいいよ、オレくんだってオマエラなんかの味方だったなんて胸糞悪いんだから。オマエラの苦しむ姿で返してよ、オレくんの幸せ。」

 

「……。」

 

「ほら、こういう会話は意味がないんだよ、お互い嫌な気持ちになるだけだからね。」

 

そういうとモノパオはふうと息を吐いた。この話はもうおしまいと言いたいらしい。

 

「じゃ、話を元に戻そっか。探偵ごっこに必死なのはいいけど、それに対してオレくんが何の介入もしないと思った?探索に制限をしない、なんて校則どこにもないのに。」

 

「え、」

 

 

俺達の誰かが何かを言いかけるよりはやく、その言葉は俺達の耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、お待たせ!動機のお時間で~~~~~~~~す!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………え?動機、って?」

 

「こんな人数になってもまだお前はそんな事を言うのか……!!!!」

 

「なんだよ、それ……」

 

「……。」

 

 

周りの顔色を窺う事もできない程、俺の目はモノパオに釘付けになっていた。

 

「わぁー、いい反応!じゃあ時間も押してる事だしさっさと発表しちゃうね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「24時間以内に死人が出なければランダムに1人おしおき。そこからさらに24時間死人が出なければ2人目。つまり、96時間放置すればオマエラ全員死ぬって事。あ、3人死んだ時点でコロシアイなんてできないから実質72時間だったか!いぴぴ、ひりついてきたね……!」

 

 

 

「あ、そうそう、この動機では最後の1人は脱出できるなんて事もないから安心てね。最後の1人は何もできずに24時間後に死ぬのを待ってもらうよ。これはオマエラ全員仲良く死んでくれよって話だからさ!」

 

 

 

 

 

 

 

……なんだよ、それ。

 

そんなの、もう動機でもなんでもない、ただの脅しだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……1つ確認させろ。24時間以内に死人が出たなら全滅は免れる、そう解釈していいんだな?」

 

「大渡クン、大正解!そしてこれからしようと思ってた補足をありがとう!オマエラが被害を最小限に抑えるには24時間以内にコロシアイするしかないって事。うーん、我ながら鬼畜でバイオレンスで最低な動機!ロマンの欠片もないヤケクソ展開ってこの事を言うんじゃないかな?」

 

「ふざけるな……!!!!」

 

「それが嫌なら、そもそもオマエラの中に潜む悪魔を殺しちゃえばいいんだよ。動機もクリアできるし残った人達はここから出られる訳だからね。」

 

「……。」

 

前木は顔面蒼白で声も出なくなってしまっている。

篠田も床を睨みつける事で溢れ出す感情をどうにか抑えているようだった。

 

俺は、

 

 

 

 

俺は、自分の死を受け入れ始める事に必死だった。

 

俺が死ぬ事で終わるのなら、そうするしかないんだ。これ以上誰も死なせる訳にはいかない、俺が、やらなきゃ。

今なら篠田が止めに来ることもないはずだ。……やらなきゃ。

 

滝のように背中を流れる汗の不快感も忘れてしまうくらい、俺は死ぬ事への覚悟を固め始めていた、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん、じゃあ簡単だな、この動機は。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……大渡の言葉を聞くまでは。

 

 

「……はぁ?何?大渡クンが動くの?」

 

 

「俺はそもそも人殺しなんぞに興味ねぇよ。犯罪者になるのだけは願い下げでな。だが、殺しても問題ない奴が1人いる。要は誰かがそいつをぶちのめせばいいっつう訳だ。」

 

 

「……ああ、大渡クンも悪魔を殺す気になっ……」

 

 

「貴様だ。」

 

 

大渡は普段より遥かに敵意をむき出しにした瞳で、目の前にいるモノパオを睨みつけていた。

 

 

「死ぬのは貴様だ。」

 

 

「……オレくんの正体なんて知らないよね?」

 

「はっ、それを今から調べるんだよ。怪しい場所だってまだある。貴様が死ねばコロシアイも終わる。そもそも貴様が憎い。殺す相手にこれ以上の適任がいるのか?」

 

 

大渡はモノパオを鼻であしらうと、俺達の方を振り返る。

 

「異論はねぇな。限界まで足掻くぞ、貴様ら。」

 

 

「……了解だ。」

 

「うん……!」

 

篠田と前木も賛成している。どう転ぶか分からない、けれど俺達ができるギリギリまで、やってみせる……!

 

 

「ああ、がんばろう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

『なんだよ、せっかくどん底に突き落としてやろうと思った動機なのに、この状況で協力するとか言っちゃってんの??理解できないよ……。』

 

 

いつの間にモノパオが消えていたのか、モニターにモノパオの姿が映し出される。明らかにやる気をなくしたモノパオは、退屈そうに俺達の注目を呼びかけた。

 

『えー、オレくんは裁判場に隠れてるから好きなだけ探索を続けてください。裁判場以外、どこでも自由です。……………………』

 

「何故黙る。」

 

『いやぁ、この後のオマエラの反応が楽しみだなと思って!オレくんてば悪知恵に関しては超高校級どころか超人類級に天才なんだよね!』

 

急に元気になったモノパオは、にひひと笑うと今度こそモニターから姿を消し、画面は暗くなった。

 

「アイツに構っている場合ではない。……そうだな、大渡と宮壁、前木と私に別れる。私達は資料室に向かうから2人で地下を調べてくれ。」

 

「分かった。」

 

篠田のてきぱきとした指示の元、俺達は再調査に赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「は、」

 

 

「嘘……これ、瞳ちゃん…………」

 

 

「は、はは…………!!」

 

 

 

 

 

 

『空っぽになった資料室』を視認した直後、篠田が壁を殴る音が響き渡った。

 

「どうしよう……ごめ、私が全部持ってくればよかっ…………」

 

「…………大体は確認していた。前木は倉骨の資料も手に入れている。そもそもいつ隠されてもおかしくなかったものだ。だが、まさかこのタイミングで隠すとはな…………」

 

ショックのあまり音もなく涙が頬をつたい始めた前木の横で、拳から血を垂らす篠田は何度も壁を殴った。

 

「…………っ……どこまで捻くれている…………!!!!」

 

「瞳ちゃん、やめよう!手が血だらけだよ。ね、お願い……」

 

前木が必死に篠田にしがみつく。

 

「この調子だと宮壁くん達の方もどうなってるか分からないよ、ね、2人のところに行こう……?」

 

「…………ああ……」

 

壁に血を残したままふらふらと歩きだした篠田の後を、少し遅れて前木がついていく。

資料室を出る直前、何かに惹かれるように前木は後ろを振り返った。

 

「……。」

 

しばらく暗闇と対峙した後、部屋の中に歩を進める。

 

 

 

「幸運にも大切なものが残ってたり、しないかな……。」

 

 

 

「たり、だなんて、違う……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は幸運だから見つけられるの。そうだよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと懐中電灯を向ける。何か報われてくれと、その一心で本棚の中に手を入れる。棚板が外れ、奥に挟まっていた物が落ちる。小さな手帳のようで、隅に綺麗な字で名前が書いてあった。

 

 

 

 

 

「…………光ちゃんの、手帳……。」

 

 

 

それを誰にも見られないようにポケットに入れると、何事もなかったかのように篠田の後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!?そんな事になったのか!?」

 

「チッ、ゴミ虫以下だな。」

 

前木がモニタールームに向かうと、すでに篠田は2人に資料室の件を話し終えていた。

 

「前木。」

 

宮壁の声に篠田も我に返ったようで、前木がついてくるのを確認しなかった事を詫びた。

 

「この下だ。貴様らが来るまでに地図を作る準備をしていた。」

 

宮壁がカーペットをめくり、大渡は定規や筆記用具を携えたまま床下の扉を指さした。

 

「……なぁ、ここの探索って全員でしないといけないのか?」

 

「あ?」

 

「俺が探索したのは皆の個室で、何人かの部屋から動機を持ってきてたんだ。その確認がまだできていなくてさ。」

 

宮壁の言葉に篠田が口を開く。

 

「二手に別れるか。……大渡は地下を見てもらうが……私達はどちらに行こうか。」

 

「……私は地下を見たいな。きっと何か掴んでくるよ。」

 

前木の何か確信めいた眼差しに一同は顔を見合わせる。たしかに、既に手に入っている情報を見るよりは未知の場所に赴いてもらう方が彼女の運もはたらくかもしれない。

 

「了解した。では前木は大渡についていってくれ。大渡、くれぐれも親切にな。」

 

「……。」

 

大渡は無言で地下に入り始める。しばらくした後、

 

「下から照らすから貴様も来い。」

 

と下の方から声が聞こえた。

 

「……うん!」

 

前木も穴に向かって返事をすると梯子に手をかけ、下りて行った。

 

「宮壁、2人の安全を確保するために私達もここで確認したい。動機を持ってきてもらえるか。」

 

「ああ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

一通り見終わった俺達は、揃ってため息をついた。

 

「なんだ、このUSBは……!!!」

 

動機の紙は確認できたものの、それぞれの封筒に入っていたUSBは別物にすり替わっていた。

 

『オマエラの思考は丸わかり!だってオレくんは意地悪が大得意だから!モノパオコーポレーション。』

 

今も俺の生徒手帳には、コマーシャルを模した悪質な映像が永遠にループしている。こんなデータ壊れてしまえと、何の前触れもなくUSBを引き抜いた。

成果が得られなかったというのもそうだが、皆の苦しみを理解してやれない事にも腹が立つ。

篠田も自分の生徒手帳に適当なUSBを差し込み、改めて再生する。

 

『オマエラがここに辿り着くと思ってあらかじめ仕掛けていました。ぎゃはは!難波ちゃ~ん!残念だねえ!もしかしたら難波サンじゃないかもしれないけど!』

 

「……難波が見ると考えられていた物もあるという事は、かなり前からすり替えていたのだろう。コイツにとってどこまで想定内なのだ……。」

 

「……。」

 

俺もさすがに頭を抱えた。しばらくの沈黙の後、篠田がゆっくりと口を開く。

 

 

 

 

 

 

「宮壁、もしもの時、どうするか決めておかないか。」

 

 

 

 

「…………。」

 

「今はモノパオだって監視できない……完全に2人きりだ。だから、私の本音を受け取ってほしい。」

 

「本音って……」

 

 

 

 

 

 

 

「私は、お前に死んでほしいなど微塵も思っていない。」

 

 

 

 

 

 

俺の目は、無意識に見開かれた。

 

「お前がいなければ解決しなかった事件がある。お前と過ごした時間だって私にとって大切な時間だ。お前を、憎まなければならないのも、お前を殺すかどうかの判断を迫られる事も、ずっと嫌だったに決まっているだろう……!!」

 

「酷い事を言ってすまなかった。お前を友人だと認める事が、私には酷すぎる……。これから失うかもしれない相手を大切だと思う事そのものに、これ以上耐えられない……。だから、だから……私は、お前を友人とは……」

 

「しのだ、ごめん。……ありがとう。」

 

続きを篠田自身に言わせるのは意地悪だと思った。嗚咽をあげないように必死で唇を噛む篠田を見る。

俺の友達をここから出すためなら仕方ない。

 

「俺に任せろ。」

 

そう言って俺は笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

しばらくして大渡と前木が帰ってきたので情報を確認する。動機にはほとんど手がかりがなかった事を伝えると、元々元気のないように見えた2人は明らかに肩を落とした様子だった。といっても大渡は眉間の皺が増えただけだったが。

 

「一応、これが地下の地図だ。」

 

「大渡くんが丁寧に描いてくれたんだよ!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

なるほど、俺よりもずっと几帳面なのか定規を使って書かれている。

 

「このよく分かんねぇ機械だが、像いわく浴場だのトイレだのの下水関連の物らしい。特に不審な点はなかった。」

 

「で、この下の空間なんだけど、ゴミ捨て場みたい。普段私達がここに投げ込んだゴミが全部処理されてるのは、ここからモノパオとかが捨ててくれてたんだと思う。」

 

「なるほど……。このはてなになっているところは?」

 

「奴が裁判場に籠ってるから不明なだけで、エレベーターがこの辺だっただろうという想像だ。裁判場にはは入れてねぇ。ちなみに、この斜線部が梯子な。このモニタールームから下りた場所っつう話だ。」

 

「だとすると、難波はこの梯子とかを見つけていたのか。」

 

「難波で思い出したが、東城のメモに難波が書き足している部分があった。おそらく2人で話している時に東城の代わりに難波がメモをしていたのだろう。」

 

篠田は自身の持つメモ帳をパラパラとめくると、該当のページを俺達の前に広げた。

 

「『モノパオの首』?なんだこれ。」

 

「この単語しか書かれていない。ほとんどが今までの事件の話や薬品の配合についてで、コロシアイの根幹に関わる話は難波が書き足したこのページくらいだろう。」

 

「ふん……。待て、これで終わりか?」

 

大渡の声にしんと静まる。

 

「えっと……」

 

「……。」

 

「チッ、奴に大口叩いて馬鹿みてぇだな。あの糞像の死体でも拝めなきゃ死んでも死にきれねぇ。」

 

大渡の棘のある、けれど悔しそうな声色に心臓の動きが速くなる。

全員俯きがちになるが、ぱちりと篠田と目が合った。

 

 

 

 

もしもの時。そろそろそれを共有しなければならなくなったのだ。

 

 

 

 

 

 

怖い。怖いけど、言おう。言わなくちゃ始まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆に、お願いがある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「明日、俺を殺してほしいんだ。」

 

 

 

 

 

「……!」

 

「あ?何を、言ってやがる……」

 

「俺が……」

 

心臓がどんどん冷えていくような寒気を覚える。こんな気持ちになるくらいなら黙っていた方がましだ。

 

でも、それでも……言わなきゃいけない、皆だけでも生きてここから出すには、こうするしかないんだ。

 

 

 

 

 

「俺が、悪魔だからだ。」

 

 

 

 

「宮壁、くん。」

 

「……あ?本気か?」

 

「事実だ。」

 

篠田が肯定した。

大渡と前木の視線に耐えかねて無意識に目を逸らす。篠田が言い放った時点で、この話は確実になったのだ。

 

「私は宮壁のもう1つの人格と会話をしている。……超高校級の説得力である事は間違いない。現に私はそいつのおかげで『誰かを殺める事ができない』からな。」

 

「……え?」

 

「宮壁は知らないのか。だとするとお前は悪魔と記憶を共有していないようだな。あいつと話した時に言われてしまって以降、お前を殺す事ができなかった。」

 

「……じゃあ、篠田は動けないってことか。」

 

「そういう事だ。」

 

 

 

「じゃあ、明日けりをつける。たぶん今ならいけるから、俺が自分でやるよ。」

 

 

 

これ以上ないほどの暗い空気が広がる。篠田がようやく口を開く頃には、夜時間が始まるアナウンスが鳴り響いていた。

 

「……明日の朝、集まろう。今日は体力も尽きているし、とても冷静な判断なんてできやしない。明日……先延ばしにするなというのであれば従うが、どう思う?」

 

篠田の問いかけに2人は首を縦に振った。俺だけは固まったまま動けないでいたけれど、前木に声をかけられ、モニタールームを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

「……おやすみ。」

 

俺の挨拶に大渡は見向きもせずに個室に帰っていった。大渡はあれ以降、一度も口を開かなかった。記憶が共有されていないという篠田の言葉がなければ殺されてもおかしくない程の怒りをぶつけられたが、俺だって悩んだ末に決めた事だ。どうにか交代する事もなく耐えられた。

 

 

「宮壁くん。」

 

前木が目の前で何かを言いたげにしているが、俺には何の事か見当もつかない。

 

「どうした?」

 

「……またね。私は、信じてるから。」

 

「……。」

 

ぼろぼろと涙をこぼしながらなんとか挨拶を終えた前木は、そのまま食堂の方に走り去っていった。

 

 

「……宮壁、すまない……私の力不足だ、」

 

「何言ってんだよ、誰のせいでもない。裏切り者のせいだ。」

 

「……絶対、全てを終わらせる。まだ18時間はあるからな。本当にぎりぎりになるまで、どうか…………」

 

「ああ。」

 

篠田は先ほど泣きじゃくったからか、もう涙は枯れてしまったようだった。長い事頭を下げると、踵を返して個室に戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだ、最期にあれだけ確認しよう。何か分かったら明日共有すればいい。そう決心した俺はモノパオを呼びだす事にした。

 

「やあ宮壁クン!聞いたよ~、明日死ぬんだって?」

 

「……確認したい事がある。暴力は振るわないから静止してくれないか。」

 

「へ?……うん、いいよ!ちょっとでも暴力だと認識したらアウト判定にするからね!」

 

動きが止まったモノパオに近づき、その首を確認する。

 

「……触るけど、引きちぎれなかったら暴力じゃないだろ。」

 

「まあ、そうだね!」

 

そうだ、モノパオの首が直ったのは裏切り者に交代してからだったな。おそらく勝卯木との分別の為だとは思うが、これに一体何の秘密が……………………

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

「は、」

 

 

 

 

 

 

無意識に声が漏れていた。

 

 

「お前、まさか、」

 

 

 

「あれ?その顔……もしかして、本当にオレくんが誰か分かっちゃった感じ?実はオレくんの目はカメラになっていてね、オマエの顔もよく見えるんだよ。そう、オマエがそうやって目をまんまるにしてるのを見れば、大体想像がつくのさ。いぴぴ、じゃあこう言うべきかな?」

 

 

 

「久しぶり、宮壁クン。」

 

 

 

 

「お前……ッ!!!!」

 

「おっと危ない、オマエ命拾いしたよ!今オレくんが避けてなかったら校則違反だったんだけど!あ、そうだ、自殺とか微塵もおもしろくないから止めてあげるよ。自殺じゃなければ大歓迎!」

 

「……!!!!」

 

「ひょ、ひょええ、キレてる……。じゃあ、オレくんはお暇します!お疲れ様でした!」

 

モノパオは慌てたように消えた。

……今から言うか?ただ……今の俺達に裏切り者をどうこうする事はできない。

結局モノパオの動機に従うしかないのか。どこまで本気なのか分からないけど……。

 

時刻を見る。明日の夕方頃まで時間はある。何か手立てを考えるんだ。それを皆に遺すのが俺の役目のはず。

それまで俺ができる事をするんだ……。

 

 

 

 

 

俺は俺の考察をメモ帳に書き続けた。おそらくこれで間違いない。詳しい説明はできなくとも、必要な情報は揃っているはずだ。できあがったものを見返して息をつく。個室に戻る前に最後の晩餐だと思って持ってきた食事を終わらせ、メモ帳を机の引き出しにしまった。とりあえず明日を迎えるために寝具を整える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ピンポーン』

 

 

 

チャイムが鳴る。

 

何事かと扉の前に駆け寄り、ドアノブを回す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんね、」

 

 

 

 

 

 

 

「宮壁くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

泣いている彼女の手には、包丁が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚悟を、決めた。

少し予定より早いけど、前木がそう言うのだから、間違いない。

 

 

彼女の幸運を、俺も信じる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先の記憶は、ない。

だから、きっとこの後に続くのは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何が起きているのか、何故こんな事になっているのか、そんな理論的な事には思考が及ばなかった。

 

 

無。

 

 

ショックだとか怒りだとかそんな感情を失ってしまった俺は、時を止めたように動かない前木がおかしくないように、俺も一緒になって静止していた。

 

何も動かないこの空間が存在する限り、目の前で動かない前木は不自然なものではないと思えるような気がした。前木だけが動かないのではなく、前木も俺も動かない。そうする事で世界が動いていないのだと、俺自身に言い聞かせていた。

 

 

 

 

 

そんな空間を邪魔するかのように、ゾウの形をした物体は俺の足の周りを飛び跳ねていた。

 

「いやぁー!やっぱね、好きな人がいるオマエみたいな奴にはその好きな子を殺すのが一番効果的だよね!前木サンが動いてくれるのかは賭けだったけど、見事に前木サンが死んでくれてとっても嬉しいパオ!」

 

 

うるさい……。動くなよ、それじゃあおかしくなってしまうだろ。

 

ここで動かない前木が、この世の理に反しているとでも言いたいのか。

 

俺が睨みつけるとモノパオは何も言わずに消えた。

 

 

 

……。

 

一歩、前木に近づく。ゆっくりと。目を閉じたままの前木は、この間一度も瞬きをする事はなかった。

 

近づいたので見下ろす。こんなに近くに立っても前木はぴくりとも動かない。

 

周囲に広がる血に触れる。床に温度を奪われた血液は、既に体内の温かさを宿してはいなかった。

 

隣に座る。床に零れた血が服を伝い脚を湿らせるが、これといって不快ではなかった。

 

 

 

 

前木の隣で俺は、ゆっくりと寝息を立てる事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……オレが、殺しちゃった。」

 

オレの世界にやってきた琴奈ちゃんの顔を見れなくて、無我夢中で祈っていたらようやく変われた。

変わったけど、オレの目に映るのは冷たくなった琴奈ちゃんの身体だけだった。

 

「琴奈ちゃん……」

 

そっと頬に触れる。いつの間に自分の手に血をつけていたのか、優しく撫でるだけのはずが琴奈ちゃんの顔に血を塗り付けてしまった。

琴奈ちゃんに抱きついてもいいのかな、今のオレは大希の身体だからやめた方がいいかな。考えても分からないし、いいや、抱きついちゃおう。

 

琴奈ちゃんに自分の体温をあげれば何か変わるんじゃないかと、その一心で強く抱きしめる。

お願い、何かの間違いで、嘘だって事にならないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………何を、している。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなオレと琴奈ちゃんの空間に割って入ったのは、響くんの低い声だった。

全く気配も感じなかったからびっくりして、琴奈ちゃんから手を放す。

 

 

 

「…………まえ、ぎ?は、なんで、おい、宮壁……何があった、まさか、」

 

 

 

瞳ちゃんの動揺した声も背中越しに聞こえている。

 

 

 

 

「……答えろ、貴様は何をしている。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………オレが殺したんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「オレが、琴奈ちゃんを殺したんだよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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