ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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短いですが5章おわりです。裁判を期待していた方には申し訳ない……。


非日常編 3

 

 

 

 

 

重い沈黙。オレが言葉を発してから、2人とも何も言わなかった。

どれくらいそうしていただろう、やっと口を開いたのは響くんだった。

 

「立て。」

 

「……。」

 

無になっているオレの頭に、響くんの命令はすっと入ってきた。言われるがまま立ち上がる。いや、立ち上がろうとした。

 

「……っ!?」

 

次の瞬間、オレは再び床にうずくまっていた。何が起きたのか、働かせたくもない脳を動かす。

そうだ、響くんにお腹を殴られたんだ。痛い、響くんの姿がオレを殴っていたあの人達と重なる。怖い。

 

「…………っ……。」

 

「貴様はいざという時は自分で命を絶つと言ったな。ふざけるな。楽しいか、人を騙して陥れるのは。」

 

「…………ぅ、」

 

違うって言いたいのに声が出ない。怖い、どうしよう、小学生の時に戻ったみたい、ううん、ずっとそうなんだ。オレはあの時から何も変わってない……。痛いのも怖いのももういやだ、たすけて……

 

「ゴミが……。何も言わねぇって事は本心かよ。はっ、見損なうどころか死んでほしいくらいやな。」

 

響くんはオレの髪を掴むと、どんな力がその細腕に眠っていたのか、響くん自身の顔の高さまで持ち上げた。

 

「……っ…………」

 

何を言っているのかもよく聞こえない、恐怖に支配されてしまったのか、オレの耳は機能を失っていた。

 

「被害者面してんじゃねぇよ。この中で被害者なのは、そこで冷たくなってる女だけだ。そいつを殺めた貴様が、そいつ含め俺達全員を騙した貴様が……んな顔する資格はねぇだろうが……!」

 

「待て。下ろせ、大渡。」

 

再びオレを殴ろうと拳を引いた響くんを制したのは瞳ちゃんだった。響くんの手は何の前触れもなく離れ、オレは床に崩れ落ちる。瞳ちゃんはすっとしゃがんでオレの方を見た。

 

「話せるか?無理なら首を動かすだけで構わない。」

 

「……っ。」

 

ゆっくり頷く。

 

「前木を殺したのはお前なのか。」

 

頷いた。オレのせいで、琴奈ちゃんは死んだ。

 

「…………お前は自分が死にたくなくて、前木に死んでもらおうとしたのか。」

 

首を振る。そんな事考えてない……。

 

「……これから学級裁判が開かれるだろう。その時には全てを話し、きちんと裁判の進行に協力すると誓うか。」

 

頷く。早く喋れるようにならなきゃ……。

 

「お前の身体の至る所に血がついている。これはどういう意図だ。」

 

首を振る。オレだってどうしてこんなところにいるのか分からないから……。大希が動いたんだ。

 

「これはお前の主人格の方がつけたという事か。」

 

頷く。瞳ちゃんは数秒考えるそぶりを見せた後立ち上がった。

 

「以上だ。宮壁は部屋に戻った方がいい。」

 

「……!」

 

「……あ?殺人犯を野放しにするっていうのか?」

 

「どちらにしろクロは自白している宮壁なのだろう?今から証拠を消しにいったとしても自白した事実は変わらない。それよりかは落ち着かせて会話ができる状態に戻した方がいい。着替えも必要だろうからな。」

 

「それに、宮壁は私や大渡には勝てない。違うか。」

 

「……チッ、勝手にせぇ……。」

 

「…………ぁ……りが、と……。」

 

「……手を貸そう。」

 

瞳ちゃんに支えてもらって、オレはどうにか両脚で地面に立つ。

 

「個室にお前を送る。その後、裁判まで回復に努めろ。動けるようだったら捜査に協力してもらう。」

 

「……裁判……捜査。」

 

「知らなければ校則を見るなりモノパオに確認するなりしてくれ。」

 

「うん……。」

 

「……チッ、殺人犯がしおらしくしやがって。気色悪ぃ。」

 

「ごめ……なさ……。」

 

「大渡もあまり逆撫でするような事を……」

 

「あ?」

 

響くんの酷く怒りのこもった目つきに、瞳ちゃんもただ事ではないと判断したのか口を閉ざした。

 

「どいつも信じさせるような事を言って裏切る。殺人犯の言う事なんざ、もう二度と信用しねぇ。」

 

「……大渡、」

 

「あぁ、今思い出した。コイツの動機は親が悪魔に殺された事だったな。つまりコイツが自分の親をやったんだ。その時もどうせ騙すような事を言ったんやろ。ゴミ虫が。」

 

返す言葉もなくて俯く。今何を言っても響くんには信じてもらえない。

 

「……私が余計な事を言ったな。すまない。ひとまず宮壁を送り届けてくるからできそうな事は調べていてくれないか。」

 

「チッ……。」

 

瞳ちゃんはオレを担ぎ直すと今度こそ部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「……ありがとう。……いっつ……」

 

宮壁をベッドに寝かせると、素直にお礼を言われた。声は変わらないのに明らかに別人が話していると分かるくらい、普段と全く違って聞こえる。それは仕草も同様だった。

腕を抑えているのを見るに、投げ飛ばされた時に腕を負傷したのだろうか。シャツを脱がせようとボタンに手をかける。

 

「あっ、だ、だめ、」

 

「?血がついているのだから仕方あるまい。軽い手当なら私がやる。」

 

弱弱しく私の手をのけようとするが構わず脱がす。そして宮壁の上半身を見て思わず息をのんだ。

 

「……なんだ、この傷は……。」

 

大渡に殴られたところも後ほど青くなるだろうが、それよりも広範囲に広がる痣や酷いやけどの後に呆然とする。

 

「お前はプールに入っていただろう?その時に誰も何も言わなかったのか?いや、お前自身はプールに入った事を知らないのか。」

 

「……たぶん、オレが隠してたから……気づかれなかったんだと、思う。」

 

なるほど。説得力の才能か。そんな事までできるとは改めて頭のおかしい能力だ。

 

「この傷はなんだ。今更隠し事はやめてくれ。」

 

「……親。治療してないから、治りが遅くて……」

 

「!!!何故それを先ほど言わなかった。大渡に言えばあんな言葉を吐かれずに済んだのだぞ。」

 

「オレが全部悪いのは知ってるから、響くんに怒られるのも仕方ないんだよ。」

 

顔をあげずに小さい声で話している宮壁を見ているとだんだん「いつまでいじけるつもりだ!」とはたきたくなってしまうが、そんな事をすれば私も敬遠されて終わりだろう。どうにか優しい言葉にできないか模索する。

 

「宮壁もなよなよした奴だと思っていたがお前も大概だな。コロシアイの原因と大渡の暴言とお前の虐待は、全て話が別だ。分けて解決せねばなるまい。」

 

「……ごめん。」

 

及第点らしい。全く、人を気遣う声のかけ方など教わっていないのだから勘弁してくれ。

 

「その様子を見るに、だいぶ話せるようになったようだな。大渡はまだ怖いか。」

 

「もう少しかかる、かも……ごめんね……。」

 

「……謝っても何も解決しない。だが、そうだな、1つ教えてくれないか。」

 

「何?」

 

「名前はあるのか。呼びにくくて仕方ない。」

 

 

「ろ、ロザリオ。って呼んで。」

 

「漫画の見すぎか?」

 

「ち、違……!」

 

「まあいい。ロザリオ、前木のいたイベントホールで待っている。モノパオが来ても相手にするなよ。」

 

「……うん。」

 

 

 

宮壁の個室から出て廊下をなんとなく見渡すと頭が冷えていくのを感じる。平静を装ってはいるが、私だってこの状況が何なのか、出てこないモノパオは何をしているのか、宮壁…いや、ロザリオが前木を殺したのは事実なのか……

 

そもそも、何故前木が死ななければならなかったのか。

 

何も、分かっていない。焦る気持ちもこんな動機を出したモノパオへの怒りも、仮に本当にロザリオが犯人なのであればロザリオに対する憎しみも、全てを飲み込むにはあまりに理解が追いつかない。ロザリオに暴言を吐かずにいるのがやっとだった。大渡の言葉も、頷けてしまう。

加害者が、被害者の顔をしないでくれ。

その言葉は、今までクロとして同じ境遇の人々を断頭台へ送った時の私達自身にも言える事だ。無論、中にはクロの癖に被害者の顔をする者もいたが、彼らとて殺しがしたくてやった訳ではない。こんなところに閉じ込められ、精神を折られるまでは殺人なんて重罪とは無縁の人生を送れていたはずなのだから。

そう、私を何よりも苦しめているのはこれだった。

なぜ、誰も悪いと言えない状況で、誰かを悪としなければならないのか。

悪なのは生徒会長であり、学園のシステムであり、倉骨研究所であり、一部の仲間の家族であったはずだ。

その悪に対し、何か行動を起こす事すら許されない。

 

……前木、必ずお前の死の真相も暴く。待っていろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待たせたな。」

 

「やぁ、待ってたよ。」

 

「!!!」

 

イベントホール……前木の遺体がある部屋に入ると、大渡の鬱陶しそうな視線を受けているモノパオがいた。

 

「チッ、今回はファイルとやらはねぇんだと。」

 

「ない?これは事件だろう?」

 

「事件よ。だけど捜査したところで全てを知ってる人がクロじゃないから裁判なんて光の速さで終わるのよね。だから証拠を探すのは勝手だけどいつ裁判場に来てもいいのよ。疲労のあまりオカマ口調でも許して頂戴。それとも、このご時世口調に名前を付けるのはよろしくなかったかしら?」」

 

「は?」

 

『全てを知っている人がクロじゃない』?

 

「あぁ?どういう事だ。」

 

「宮壁クン、もといロザリオクンはクロじゃないの!他の人なの!これでいい?オレくんもう退屈で退屈で……おかげさまで最悪な事にもなっちゃったし、嫌な事は消し去りたい主義なんだよね。てことでバーイ!おつカレーライス!」

 

宮壁はクロではない。あまりにもあっさりと告げられた衝撃の事実に、モノパオが去った後も私達は固まっていた。

 

「……。」

 

「どういう事だ。アイツは自分が殺したっつってただろ。」

 

「宮壁、いや、ロザリオは、『実行犯ではない』……?あくまで前木を手にかけたのは別人という事らしい。」

 

「ソイツが悪魔か。」

 

「ああ。」

 

「……貴様はソイツの言葉で『殺人ができない』とか言ってやがったな。だが俺だってやってねぇ。全容を知っている奴がいる中で嘘を吐くメリットはないだろ。」

 

「同感だ。」

 

「だとすると残った可能性は……」

 

「裏切り者が直接殺したか、前木の自殺だ。」

 

「前者であればいいがな。」

 

私達は共に状況把握へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―捜査開始―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回裁判は手短に終わるらしいが、いくら全容を話してくれるとはいえ、ロザリオの体調が戻るまでにいろいろ調べておくのはアリだろう。」

 

「まずはこの紐か。緞帳の一番上にひっかかって垂れ下がっている。今までこんなものはなかったはずだ。」

 

「緞帳を動かすのには3階のブレーカーのある部屋に行く必要がある。」

 

「1人じゃできねぇ芸当だな。」

 

「この仕組みを理解したい。手分けするか。」

 

「……だりぃ。」

 

そんな事言っている場合か、と思ったけど別々に行動している時に連絡手段がないのは手痛い。

 

「モノパオ、通信機器くらいあるだろう。貸せ。」

 

「ゾウ使い荒杉晋作。はい、どうぞ!」

 

不気味なテンションのモノパオは颯爽と現れると簡易トランシーバーを配ってきた。

 

「安物だな。私が使っていた物と比べて遥かに音質が悪い。」

 

「いいじゃん!本職と比べないでよ、我慢して!」

 

「では大渡、ブレーカー室に向かってくれ。」

 

「チッ、人使いも荒いのやめろ……」

 

「え?オレくんの事ガン無視?」

 

大渡が出て行ったのを見送り、私も持ち場に戻る。

紐はステージ天井の横棒にかけられ、意味もなくぶら下がっている。一体これは何に使われたのだろう……。手あたり次第触っていると、端の方にセロハンテープと紙きれがついていた。どうやら緞帳が下りた状態で客席側に紙が見えるようにしていたらしい。尤も、今現在その紙を確認する事はできないが。

 

【メモ:緞帳にかかっていたロープ。用途は不明。客席から見えるように紙を端に貼り付けていたようだ。】

 

他に気になるところは、やはり凶器だろうか。

厨房の包丁のようだ。前木のお腹にしっかりと刺さっている。あらかじめ用意していた手袋を身につけ、包丁をゆっくりと取り出す。ひやりとした感覚が手に残る。慎重に傷を触っていると、どうやら傷は一か所のようだ。何度も刺したようには見えない。

 

【メモ:前木の腹部には包丁が刺さっている。傷は1箇所。】

 

生憎指紋等を調べる事ができないので、折角凶器が分かってもここから犯人を割り出す事は無理だろう。他に傷は見当たらなかったので前木を床に寝かせた。ずっと座らせるのもいい心地はしない。顔を隠すのはためらってしまったので、せめてと生々しい傷の残る腹部をタオルで隠しておいた。

他に気になるのは後ろの壁だ。血痕とは明らかに異なる血が付着している。横棒と上に読点のような「、」がある事しか分からない。前木の手を確認すると、右手の人差し指に血が付着しているので前木本人が書いたものなのだろう。他にも何か書いていたらしいが、擦られたような跡が残るだけだ。誰かが消してしまったのだろうか。私と大渡が駆けつけた時からは誰も触っていなかったので、それ以前に消されたのだろう。

 

【メモ:前木がダイイングメッセージのようなものを残しているが、ほとんど擦り取られているようで解読はできない。】

 

 

 

『あー、あー。聞こえてんのかこれ。』

 

トランシーバーから大渡の声が聞こえたので、作業を中断して耳に集中する。

 

「大渡、早かったな。何か変わった様子はあるか。」

 

『ありまくりだな。緞帳を上げるボタンが机に設置されてあって、その上に壁掛けの棚があったろ。その棚からボタンめがけてコップが吊るされている。糞象を問い詰めたところ、糞象が押すまで緞帳は下りていたらしい。要はこのコップにボタンが押されて、普段は上がっているはずの緞帳が閉まっている状況になっていたという事だ。ちなみにコップの中には水が入っている。』

 

「水……なるほど、続けてくれ。」

 

『ステージから下りろ。』

 

「?分かった。…………下りたぞ。」

 

私が言い終わると同時に、ゆっくりと垂れ幕が下がってきた。やがて締め切られ、ステージにいる前木の姿は見えなくなった。

 

『じゃあステージに上がれ。』

 

「閉まっているのにか。」

 

ステージ横の階段からステージ内に入ろうとするが、無理に押すと緞帳が壊れてしまいそうだ。

 

「入れないぞ。このイベントホールは体育館のように体育倉庫から上がる仕組みもない。ステージの縁に立つ事はできるが、ステージに入って何かするのは無理だ。」

 

『つまり、死んだ女がステージに入った後に緞帳が下りた。順番としてはそういう事になるな。少し待ってろ。監視カメラがステージ内にあるのか確認しろ。』

 

相変わらず命令口調は抜けないらしいが、大渡の言いたい事にも納得できたので素直に従う。緞帳が上がり始めたのでステージ内に戻る。ぐるりと見渡したが。どうやら監視カメラはないようだ。

 

「ない。緞帳を下ろすとステージ内はカメラに映らないだろう。」

 

『決まりだ。その女は自ら監視カメラの死角を作り出した訳だ。』

 

「……!前木は、何を企んでいたんだ……?」

 

こうなってくると前木もただ殺されただけではないらしい。むしろ、この事件を起こした張本人のような動きだ。他人が緞帳を下ろすならボタンを押すためと考えられる仕掛けも必要ないはずだ……。

 

【メモ:緞帳の装置のボタンにコップの仕掛けが施されていた。コップに水がたまると重さでボタンが押される仕組みのようだ。】

 

【メモ:前木がステージ内に侵入した後に緞帳が下りた。また、ステージ内には監視カメラがなく、緞帳が下りると完全な死角になる。緞帳のボタンの仕掛けも前木自身が仕組んだ可能性が高い。】

 

『もう何もなさそうだから今からそっちに行く。』

 

「ああ。こちらの調べものも一区切りついたから一度ロザリオの様子を見に行ってみよう。気になる事があれば大渡の方でも何か調べていてくれ。」

 

私の声が止んだと同時にブツリと通信が切れる。もう間もなくやってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

「入るぞ。」

 

相変わらずベッドの上でぼんやりとしていたが、私の声に顔を上げる。

 

「鍵も閉めなかったようだな。」

 

「……今から裁判?」

 

「そうだ。行けるか。」

 

「うん……。」

 

もう肩を貸す必要もないようで、ロザリオは立ち上がると私より先に扉に近づいた。扉を開けると私に出るように促す。

 

「どうぞ。」

 

「……ん?」

 

「え、普通女の子が先に出るもんでしょ……?」

 

「いや、宮壁からそのようなエスコートを受けた事がなくてな。多少面食らってしまった。」

 

「マジかぁ……。」

 

ロザリオは明らかに引いた顔をしたが、自分のエスコートは崩さず私を先に廊下へ出した。

 

「そういえば、宮壁の普段の様子も知らないとなると、本当に何も共有できていないのだな。」

 

「今まではオレの存在すらないものとして過ごしていたからね。特別学級にいた時はもっといい感じだったはずなんだけど。」

 

「待て、そうか、お前は別人格だから記憶を失ってはいないのか?」

 

「それがそうでもないんだよ。なんでコロシアイが起きたのかっていう根本を忘れちゃってるみたい。たぶんその時は大希じゃなくオレだったんだろうね。」

 

「なぜコロシアイが起きたのか……?勝卯木蓮の計画の一部だろう?」

 

「そうなんだけど……オレ達が学園破壊計画に乗り出した時、当時学級委員だった光ちゃんがすっごい止めてきた事があったんだよね。今思えば、その忠告をちゃんと聞くべきだったんだ。いや、聞いたはずなんだけど、そこからが思い出せなくて……」

 

苦しそうに顔をしかめながら言葉を紡ぐロザリオを制する。聞かなければならない事はたくさんある。順を追って説明してもらわなくては。

 

「分かっている事だけでいい。大渡も揃った時に聞かせてくれないか。裁判場でもいいが。」

 

「うん、分かった。」

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、んだこの数。」

 

大渡が悪態をつくのはもちろん、裁判場に並んだ遺影達についてだろう。3人以外、12もの遺影が並んでいる光景は見ているだけで気分を害してくる恐ろしさを孕んでいた。

あの後特に調べる事はなかったようで、大渡と合流した後はすぐに裁判場に向かう事となった。エレベーターの前で立ち尽くしているとモノパオが現れ、大渡、ロザリオ、モノパオ、私という何とも珍妙なメンツで地下の裁判場へと下る事になったのであった。

 

 

「よし!遺影ばっかりでいえいいえーい!悪魔とかいうクソチートはいらねぇーい!どうも!オマエラのアイドル、超高校級の裏切り者、モノパオくんです!」

 

いつにも増してテンションの高いモノパオはスルーして議論を始めようかと思ったが、初めて裁判場に来たロザリオには無視できなかったらしい。

 

「何がアイドルだ!別にオレはチートなんかじゃないし!あとこの遺影ほんとやめて!!!ゴミカスうんち!!!」

 

「全部丁寧に返さなくていいんだ。無視しておけ。」

 

「はぁ!!!??!?うんちって言った方がうんちだろうがよ!!!!!!」

 

「なにそれ意味分かんない!人間性ランキング最下位の奴は口閉じててよ!!!」

 

「おい。次無駄口叩いたら殴り倒すぞ。」

 

「ひゃい……。」

 

「いえーい!オレくんの勝ちー!」

 

「ロザリオ、私達なりに考えている事や状況について説明しよう。それらの中で補足できる箇所があれば指摘してくれ。」

 

大渡の前では相変わらずびくびくしているロザリオだが、私の声にようやく落ち着いてきたようだ。

 

 

 

「まず…私の考えでは、前木は自殺だと考えている。ロザリオ、お前は自分が前木を殺したと言っていたな、それは実行犯としての意味ではないな?」

 

「……!実行犯じゃないと、クロにはならないって事?」

 

「そうだ。モノパオもお前がクロではない事を仄めかしていたからその確認をしたい。お前は、前木を直接傷つけたのか?」

 

「……ううん、そういう意味なら『オレが殺した』っていうのは、少しだけ語弊があったかも……。ごめんなさい。」

 

「気にするな。次に、前木はステージ内に後から入るのは不可能な事、そして緞帳が下りれば監視カメラの死角になる事を利用して、前木自身があのほぼ密室とも言えるステージを作り出したと考えている。これに心当たりは?」

 

「何も……どうやって死ぬのかは、何も聞いてなかったよ。」

 

「その言い方だと死ぬ事は聞いていたみたいだが。」

 

「……。」

 

「おい、貴様がクロじゃねぇならはよ言え。」

 

「あ、あとでじゃだめ……?」

 

「あぁ?」

 

「え、えと、たぶん、琴奈ちゃんは自殺だと思う。それは間違いないの。オレが来た時はすでに琴奈ちゃんは死んでいたんだ。だから、クロは琴奈ちゃんだよ。」

 

「……そうか。」

 

状況証拠からそうとしか言えない様子ではあった。だが、誰か他の人間も事件に干渉しているのは間違いない。今の様子だとまだ言える精神状態ではなさそうだ。このタイミングで宮壁に代わったところで意味がないので、ロザリオのままでいてもらう必要がある。慎重に話を進める他ない。

 

「ロザリオ、では次に学園破壊計画について教えてくれ。」

 

「うん……。学園破壊計画っていうのは、文字通り制偽学園の機能を失わせるために、『瞳ちゃんが巻き込まれていたコロシアイと、倉骨研究所との共同で行っている天使計画について告発する事』が目的の計画だよ。瞳ちゃんと響くんもだし、オレもだけど……特別学級の皆で協力して、学園に対していわゆるデモを起こそうとしたんだ。オレ達皆が協力すれば、今まで犠牲になった人達も浮かばれるってね。」

 

「……!!!」

 

「この辺りの事はちゃんと覚えてるんだ。瞳ちゃんは当時生存した先輩達の身元を特定していたし、響くんと紫織ちゃんは天使研究の情報をたくさん調べてた。翔悟くんや美亜ちゃんみたいに人脈の広い子達は警察にもあたってくれていた……。」

 

「……他の面々は?」

 

「優馬くんは皆の動きを見て途中で考えを変えてくれて、倉骨研究所に戻って情報をこっそり流してくれていたんだ。あの頃から紫織ちゃんとも本当に仲良くなってたんだよ。龍也くんは皆のためにいろんな勉強をしてくれて、とんでもない天才になってたんだ。本当に敵なしって感じ。そう、皆友達になってたんだ……。」

 

「おい、感傷に浸ってる場合か。一緒に反対していた奴等ばかりじゃねぇんだろ。」

 

「……光ちゃんが、突然『学園破壊計画は中止にしてくれ』って言い出したんだ。それまでは一緒に調べてたんだけど、本当に急に……。」

 

「理由は分かっているのか?」

 

ロザリオは首を振った。つまり高堂は理由は明かさずに闇雲に皆と対立したというのか?学園破壊計画が今の私達にとっても悪い計画には思えないために、余計違和感が残る。

 

「理由は聞いたんだけど、『相手が悪すぎるから』の一点張りで……でも、あまりにも必死にお願いするし、オレがいくら説得しても光ちゃんは聞く耳を持ってくれなかった。」

 

「いぴぴ!高堂サンはすっごいからね!オマエの説得も効かないんだよ!」

 

何度説得されても聞く耳を持たない?それが高堂の力なのか?悪魔の説得すら受け付けない、確固たる意志……おかしい、こんな単語を最近どこかで耳にした事がある。

 

「……まさか!!!」

 

思い当たるメモを引っ張り出す。

 

 

 

[情報⑩:倉骨佳依のメモ]

『権力を持つ者達と協力し、賢王を創る。

世界各地の戦争を終わらせ全ての争いごとを無くすには、世界を1つにまとめる必要がある。

王――以後、天使とする――には以下の項目が必須である。

・この世の全ての人間を服従させるための力

・天使としての絶対的な良心

・生涯を終えられない事に耐えうる精神

【他の人間の言葉に惑わされない鋼の意思】

以上、全てを満たす者を探し、天使とする。

候補は勝卯木蓮に選出してもらっている。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天使計画の天使候補は、高堂光だ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?学園破壊計画と天使計画が繋がるのか?」

 

「超高校級の説得力とも言われるロザリオの説得が効かない。そして高堂は、学級委員として勝卯木蓮と連絡が取れる。その勝卯木蓮が選出する人間として最も適当なのは高堂だろう。」

 

「……。」

 

モノパオが無言なのを見るに、きっとこれは正解なのだろう。

 

「少し話題を転換しよう。勝卯木蓮と倉骨研究所が学園破壊計画を知ったらどうする?」

 

「えっと、止めに来る……よね。」

 

「……止めるなんて易しいもので済むはずがない。奴等は制裁を加えるはずだ。他にも強大な勢力を味方につけていてもおかしくない。」

 

「!!!警察……!美亜ちゃん達が調べてくれてた、警察は天使計画を黙認していたんだ!結果論を重視して、その間の犠牲は罪に問われなかったはず……前回のコロシアイの生存者が追い払われたのもそこら辺の妨害があったからだって話が出てた……!」

 

「決まりだな。奴等は、私達が計画を実行すれば大事になる前に何か制裁を加えていただろう。高堂が仮に勝卯木蓮のスパイだとすれば、その前から中止させようとするのは違和感があるし、そもそもこうしてコロシアイに巻き込んで命を落とさせるのはおかしいと思わないか。どうだ、ロザリオ、お前にとって高堂はどういう印象を持つ?」

 

「……いい人だよ。だからオレ、オレのところに呼んだんだもん……。止める時も、怒ってるというより哀しそうな感じだったから結局オレ達は光ちゃんの言う事を聞いたからね。」

 

ロザリオの言い方には迷いがなかった。きっと本心だし、これが事実であろう。

 

「このコロシアイが起きている原因は謎だから後回しにするとして、結局その山女は味方だったっつう話になるのか?」

 

「ああ。高堂は、私達に起きる制裁の内容を知って止めようとしたのだと思う。」

 

「その内容って……?」

 

「それは、まだ何とも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コロシアイだよ。」

 

 

 

 

 

 

急にモノパオが口を挟む。それも、とんでもない言葉を。

 

 

 

「コロシアイが、制裁?」

 

「過去のコロシアイを告発しようとしたオマエラには、そもそもその記憶を消してしまう必要があった。なんならその情報を知る奴は全員殺されてもおかしくなかったと思うよ。まあ、結果こうして大半がお亡くなりになってるんだけどね!」

 

「どういう事……?」

 

「計画が実行されるされないに関わらず、オマエラの記憶の消去は決まっていた。それと同時に、計画の中で芽生えた才能や関係なんかも初期化される運命だったんだよ。で、本当に実行されそうならついでにコロシアイに放り込んで悪魔の安定を図る予定だったってワケ。オマエラも情報を手に入れた奴が死ぬんじゃないかと危惧して、行動に移すまでは特別学級内の秘密になっていたからね。オマエラさえ封じれば完璧ってことよ。」

 

「あ?だが結局山女に従ったんだろ。コロシアイに巻き込まれる理由がどこにある?」

 

「結局高堂サンの言う通りにした?結局ってなに?ロザリオだっけ、オマエも忘れたフリしてんじゃねぇよ。オマエラはただ高堂サンの話を聞こうとしなかったんじゃない。高堂サンと学園破壊計画の実行を天秤にかけて、高堂サンを計画の輪から……オマエラの大好きな『仲間』から外したんだ。」

 

「……!」

 

「ロザリオ、本当か?」

 

「……ご、ごめ、あの時は皆必死で、」

 

「ふぅ!柄にもなくイライラしちゃった!オレくんは皆のアイドルだから、どんなに嫌な思い出話をされても笑顔でいなくちゃいけないの!で、勝卯木達ですら計画が実行される日時も掴めなくなって、実行するしない問わずコロシアイの制裁が決定したのよね。ま、そのちょっと前からオレくんはオマエラの敵になる事を選んだのですが!なんならコロシアイの実行が確定したのはオレくんがオマエラの秘密を横流ししたからですが!がはは!逆にオレくんがオマエラの中のスパイでしたってオチ!今度からはオマエラもちゃんと仲間を疑っていこうね~!」

 

「……。」

 

モノパオを睨み上げるが、感情も表情もないぬいぐるみを見上げたところで、操縦されなければ反応が返ってくる事もない。お互いに殺意を向け合う為の沈黙が続く。

 

 

「チッ、新たに分かったのはその程度かよ。さっさと本題に戻るぞ。」

 

見かねたのか大渡が口を開く。気持ちを切り替えるべきだ、と私とロザリオも改めて深呼吸をした。

 

「そろそろ貴様も話す気になったか。」

 

「……うん。」

 

「大渡も私も、事件の流れだけはある程度把握できている。ロザリオが何も知らなければ、その確認をしてから話をすり合わせていこうと思う。」

 

「分かった。」

 

「前木は垂れ幕操作の装置を作成。時間差で垂れ幕が下りるようにした前木は、イベントホールのステージ内という密室兼監視カメラの死角を作り、その中で自分を刺した……。」

 

「ダイイングメッセージやらロープの端についていた紙きれやらは分かんねぇが、それが第三者によるものなのは明らかだ。貴様は身に覚えがあるか?」

 

「ううん、どっちも知らない……オレは、琴奈ちゃんの『動き』には何も干渉してないから。」

 

「そうか。じゃあ知っている事を話せ。」

 

「……え、も、もう?」

 

「あ?何度同じ事を言わせやがる。さっさと吐け。」

 

 

 

 

 

 

「え、えと……………………」

 

ロザリオはその後も少し言い淀んだが、数秒後、ようやく口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日、琴奈ちゃんが部屋に来て、それで、『お願い』されたんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

ぼんやりと大希の声が聞こえる。そろそろ入れ替わるのかもしれない。

 

 

「前木……分かった。」

 

 

何が映ってるの、何が起きてるの、それを見たくて、手を伸ばし空を掴む。

 

「うん、宮壁くん。」

 

琴奈ちゃんの手に包丁が握られていた。だめ、だめだよ、死にたくない、どうしてこんな事になってるの。

琴奈ちゃんが大希を、ひいてはオレを刺し殺すのだと、この時まで誰もがそう考えていた。

 

 

「もう一人の君に、代わってくれる?」

 

 

オレ?なんでその事がバレて、いや、そんな事より、どうしてここでオレが必要なの?大希も目を丸くして固まっている、そんな気がした。

何言か会話が続き、ずるずるとオレの瞼が重くなっていく。

 

 

目を開けると、今度ははっきりと琴奈ちゃんの姿が目に映っていた。

 

「……宮壁くん、じゃ、ないんだよね。はじめまして。ううん、久しぶり、なのかな?」

 

琴奈ちゃんはふわりと笑った。この胸の高鳴りはきっと大希の感情で、オレのじゃない。琴奈ちゃんの手に包丁が握られているのが間違い探しの間違いみたいに、この空間でただ1つ異質だった。

琴奈ちゃんは仲間の大希を殺したくないから、せめて仲間じゃないオレを殺そうとしてるのかな。オレも仲間だったし友達だったんだけどな。覚えてないのだから仕方ない。

 

「今日は君にお願いがあってきたんだ。そうだ、何て呼べばいい?」

 

「ロザリオ。美亜ちゃんがそうつけてくれたんだ。」

 

「……!美亜ちゃんらしいね。ロザリオくん……ロザくんでいい?それとも、女の子かな?」

 

「分かんない、考えたことないから……。」

 

これから殺す相手に何を呑気な事を言っているんだ、だけど、オレの中の記憶は叫んでいた。ここにいる誰も、オレ以外誰一人として覚えていなくたって、オレだけは忘れてやらない。

 

 

たとえ記憶がなくたって、琴奈ちゃんはオレを殺すような人じゃない。

琴奈ちゃんが、とってもいい人だって。

 

 

だからオレは気づいたんだ。

琴奈ちゃんの声が、ずっと震えていることに。

 

 

 

「今ね、『24時間以内に誰かが死なないと順番に皆を殺す』っていう動機が出てるんだ。」

 

「さっき、宮壁くんから自分の別人格が悪魔だって話を聞いたの。君が、超高校級の悪魔なんだよね。」

 

 

「……うん。」

 

 

「悪魔ってことはさ、『説得』できるよね?」

 

「……え、」

 

嫌な予感がした。それはきっと、オレが死ぬより、嫌なこと。オレが、やりたくないこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の中にある死ぬ事への恐怖心も、ロザくんなら説得できるよね。」

 

 

「やだ!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

反射的に声が出ていた。そんなの、そんなの………………

 

「いいんだよ!!!!!!ごめんね、全部オレのせいなのに!!!!!!オレのせいで皆死んじゃった!!!!!琴奈ちゃんまでいなくなる必要ないよ、絶対オレが死んだ方が都合いいんでしょ?琴奈ちゃんは死ななくていい!!!!!!!!!!キミが死ぬ必要がどこにあるんだよ!!!!!!!」

 

琴奈ちゃんは、もう怯えた目を隠そうとはしなかった。震えながら、泣きながら、オレに肩をゆすられ続けている。

ほら、怖いんじゃん。嫌なんじゃないか。そんな子を、死に誘う事なんてオレにはできない。

 

「きっと大希がオレの事をバラしたのだって、大希も死ぬ事を覚悟したからでしょ?ならいいんだよ!!!!!死にたがってる奴が、死んだ方が皆の為になる奴が、オレが死ねばいいんだよ!!!!!!!」

 

「……。」

 

「オレが死んだ方がいい理由はいくらでもあるよ!!!!!オレって最低だから、親を殺したんだよ!!!!叔父さんに迷惑かけて、厄介な学校に目をつけられて、皆を巻き込んだ!!!!無関係の皆が死んだ!!!!!!コロシアイなんてものが起きた!!!!!オレさえいなければ、何も起きなかったのに!!!!!!!!!!」

 

今までオレの世界でも吐き出せなかった怒りを、全部無関係の琴奈ちゃんにぶつけている。

ほら、こうやって人に迷惑かけてるのに、そんな奴が生きてる資格なんて、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは違うよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

琴奈ちゃんの目は、もう震えていなかった。

 

「ロザくんは、生きたがってる。そんなロザくんを、宮壁くんを、私は絶対に犠牲になんてしない。」

 

 

「オレのどこが生きたがっ……!!!!!!」

 

「私を生かしたいなら、私が死なないように説得すればいいだけの話だよ。それをしないのは、2人がまだ生きたいって思ってる証拠だもん。」

 

「ち、ちが、オレは、」

 

違う、本当にそんなつもりない、オレは生きたいなんて贅沢な事思っちゃいないよ。

世界に死ねと指をさされているのに、生きていたい程馬鹿じゃない。

 

「私が死にたいの。」

 

琴奈ちゃんは絶対そんな事思ってない、本心じゃない。本心だったら、そんな悔しそうな顔で死にたいなんて言わないんだよ。それなのに、

 

 

 

 

 

それなのにオレは、好きな人に死にたいと言わせてしまった。

 

俺のせいで、オレのせいで、死のうとしている。止めなきゃいけないのに、オレは気づいている。大希みたいに鈍感じゃないから、琴奈ちゃんの気持ちに気づいてしまった。

 

 

 

 

琴奈ちゃんも、同じ事を大希に思ってるんだ。

 

 

 

 

 

「なんて、ごめんね、ロザくん。知ってるよ。ロザくんが説得しないのは、私の気持ちを汲んでくれてるってこと。ロザくんは今すぐにでも説得したいんだもんね。ごめんね、酷い事して……」

 

「琴奈ちゃ……やだ……死なないで……」

 

「……私だって、死にたくないよぉ……。でも、」

 

 

 

「好きな人には、生きててほしいんだもん……。」

 

 

 

 

 

大粒の涙は、じわじわと目に映る色彩を暗くしていく。

 

「ロザくん、会ったばかりだけど、私、ロザくんのことも好きよ。大希くんをずっと守ってきたロザくんが、どこか懐かしい気がするの。もしかして、少し思い出してきてるのかも。」

 

「やだ……」

 

「なんで思い出すのがだめなの、変だよ、ロザくん。」

 

「やだ…………」

 

「……。」

 

こんなんじゃだめだと思っているのに、涙も声も止まってくれない。何が悲しくて琴奈ちゃんを殺す必要があるんだろうか。

 

「私は死んでも皆の味方だよ。絶対に皆の事、負けさせないから。」

 

「次に目が覚める時まで、私は最強なんだよ。だから……ずっと最強でいてあげられる。皆のために、私がんばるから。」

 

「?どういう……」

 

「ふふっ、こっちの話!」

 

 

 

琴奈ちゃんは死にたくない。

 

 

死ぬのが怖いから、1人じゃ死ねなくてオレに頼っているんだ。

 

 

今だって涙は流れ続けているし、肩だって震えている。お世辞にも平気そうとは言えない。

 

 

 

それでも、琴奈ちゃんの目には、たしかに希望が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………わかった、琴奈ちゃんの言う通りにする。」

 

 

琴奈ちゃんがゆっくりとオレのことを抱きしめる。抱きしめられるのが、オレでいいのかな。このぬくもりが数時間後には感じられなくなるのが嫌だ。怖い。

 

「不安そうな顔しないで。ロザくんも大好きよ。」

 

嬉しい。こんなオレの事も好きだと言ってくれる琴奈ちゃんが、オレも好きだ。

 

「……大希が、琴奈ちゃんの事好きだって。琴奈ちゃんが近くにいると、ずっと心臓がどきどきしてるんだ。」

 

琴奈ちゃんはすっとオレから身を離し、「ほんと?」とでも言いたげな視線を送る。ほんとだよ、とアイコンタクトを送った。

 

「……!!!」

 

「大希が直接言うべきなのに、ごめんね、交代できなくて。」

 

「ふふ。…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「困ったなぁ、死にたくない理由が増えちゃった。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「……。オレは、『琴奈ちゃんから恐怖心をなくした』。だから琴奈ちゃんは自分を刺す事にも、装置を作る事にも抵抗すら感じなかった。」

 

 

「息をするみたいに、自殺したんだ。」

 

 

ロザリオからの告白を終える前に、私はとっくに崩れていた。

私や大渡に言えば、私達は前木を止めて宮壁に決断を迫っただろう。前木を縛り付けてでも彼女の死を止めただろう。

そうされないために前木はロザリオを頼ったのだ。

 

「…………チッ……。」

 

視界の端に大渡が頭をかいているのが見えた。

 

「ごめんなさい…………」

 

ロザリオが誰にともなく頭を下げる。

 

 

 

 

 

 

「えーっと、じゃあ裁判は終わりでいいすか?」

 

 

 

 

 

「は?」

 

場違いに明るい声、テンションの高い機械音声は瞬く間に裁判場の空気を支配した。

 

「だってさぁ、もうクロは決まってるじゃん?もう投票に移っていいよね?」

 

「待ってよ、まだ分かってない事があるって瞳ちゃんが……!!!」

 

「隠そうとするって事は貴様の仕業でいいんだな?尚更話す必要があるだろうが……!!!」

 

ロザリオと大渡もモノパオを怒鳴りつけるが、全く聞く耳を持たない。

 

「はぁ?オレくんがなんでオマエラの進度に合わせてやらなきゃいけないのさ。もう一回言わなきゃダメ?」

 

 

「クロは、分かってるよね?」

 

 

「いい加減にしろ……っ!!!!!どこまで弄ぶつもりだ……!!!!!!」

 

「てことで、オマエラはお手元の投票ボタンでクロだと思う人に投票してください!」

 

何の返事もかえさないまま、私達の手帳が投票ページに変わる。

 

「ッ、中断、投票は中断だ……!!!!前は聞き入れただろうが!!!!!!」

 

大渡が裁判場の席を力いっぱい叩く。人がその拳を受けていたら骨折もありうる程の激しい音がしたのに、モノパオは素知らぬふりで何かを操作した。

 

 

『30秒』

 

『29秒』

 

 

「オマエラうるさいからさぁ、タイムリミットつけてあげたよ!」

 

 

 

 

「貴様…………っ!!!!!!!!」

 

「最低だよ、ほんと、最低…………!!!!!!!!!!」

 

 

私達は、負けるしかないのか?

 

『19秒』

 

『18秒』

 

何も分からないまま、コイツの言う通りに、裁判が終わってしまうのだろうか。

 

『11秒』

 

『10秒』

 

 

「くっ……!!!」

 

「チッ………。」

 

 

 

 

 

負けてしまう。

何か逆転劇でも起きてくれないものか、そんな淡い期待は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『0秒』

 

『投票を受け付けました』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この絶望の前で、跡形もなく消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ということで、満場一致で前木サンがクロ。大正解!!!!前木サンはオマエラの為にその身を投げた儚き勇者だったのです!!ぱちぱちぱち……泣かせてくれるね。オマエラ2人は見てないだろうけど、ロザリオとかいうのと前木サンの会話劇はそこそこ人気の出る名シーンとも言える、それはもう素敵なものでした!あれを見てたのがオレくんだけだなんて勿体ないな~!」

 

 

「あはは、どう?裁判でも言いたい事が言えず、動機も適当な糞システムで、強制的にコロシアイさせられた気分は。」

 

 

 

我慢の限界だった。

 

 

「おまえっっ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

血管が千切れる音か、私の理性が途絶える音か。

 

 

私はたしかに、モノパオに飛び掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

全部、繋がった。

もちろん、皆に教えてもらった事もある。

いよいよ現実世界と精神世界がリンクし始めた事で、俺にも裁判の流れはつかめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「篠田!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

ギリギリモノパオと篠田の間に割り込む。篠田の渾身の拳が俺の腹部に直撃したが、そんな痛みもすぐに吹き飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!?宮壁、なのか、」

 

 

 

 

篠田が目を見開く。泣きはらした目が痛々しい。

待ってくれ、俺が全部話すんだ……!!!

 

 

 

「モノパオ!!!!!!この裁判は間違ってる!!!!!!!!!!!」

 

 

「はぁ?オレくんが正解だって言ってんだよ?」

 

 

「その判決がおかしいって言ってんだよ!!!!いいからそのボタンをしまって話を聞け!!!!!」

 

 

いくら怒鳴ってもモノパオの飄々とした態度は変わらない。

 

 

「オマエラの中にクロはいない。前木サンは自殺。おしおきを受けるのも前木サン。これ以上ない平和な終わり方でしょ?」

 

 

「黙れ!!!!!!!!」

 

「は、おしおきだと?」

 

「何を、言っている……?」

 

モノパオ、違う、アイツの好きにはさせない。そう約束したんだ。

 

「じゃあ、おしおきタイムってやつ?やっちゃう?やりたーい!じゃあやりまーす!!」

 

 

 

 

 

 

慌ててモノパオに駆け寄る。

やめろ、そのボタンを押すな、前木をこれ以上傷つけたく

 

 

 

 

「あっ、」

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮壁ごめん、手が滑っちゃった♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

GAME OVER

 

マエギさんが クロにきまりました。

おしおきをかいしします。

 

 

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

 

 

 

 

目を閉じたままの前木の前に現れたのはサイコロと機関銃だ。

モノパオがサイコロを転がすと、6の目が出た。

6つの機関銃が、前木に矛先を向ける。

 

 

 

 

【無題  超高校級の幸運 前木琴奈処刑執行】

 

 

 

 

 

6が出る度に、前木に向けられる銃口が増えていく。

 

そこから発射された弾丸は無情にも前木の喉を、腹を、胸を、足を貫いていく。

 

…………。

 

………………。

 

 

………………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先の描写は、本当に必要だろうか?

何度振ってもサイコロが6になった事も、その数の機関銃が用意されていった事も、前木がその餌食になった事も……正直、思い出したくない。

 

 

目の前で人間の形をとどめていない前木の姿を、見ていられなかった。

 

 

 

サイコロは、全ての面に6が書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

意味が分からない。前木が、死んだ。とっくに死んではいたのだが、その死すら殺された。

 

「…………。」

 

呆然とその処刑を見守った俺達は、互いに無言のまま時が経つのを待った。

 

 

「あれれ、オマエラどうしたの。オレくんはグロいのが苦手だから見ずに全自動でやってたんだよ。もう終わったみたいだし、あれなら何とか……いや、グロいなぁ。」

 

 

前木をグロいだなんて言うな。

 

「裁判をやり直せ。」

 

「えーっ!宮壁クンったらまだそんな事言ってるの!?」

 

「お前がクロなんだろ。全部知ってるんだぞ。」

 

「……えぇ?ろくに捜査もしてないオマエに何が分かるのさ。」

 

「おい、コイツがクロってのは本当なのか。」

 

大渡の目に、かすかな光が宿った気がした。

悪意にまみれた言動を繰り返すコイツに制裁を加える事ができるのかと、そう言いたげな目に俺は頷き返す。

 

「ああ。正体も分かってる。ロザリオにしか分からない事もあるだろうけど、話は聞いた。」

 

「モノパオ、お前が前木を殺したんだろ。」

 

俺が睨みつけるとモノパオはありもしない肩をすくめた。

 

「宮壁クン、どうしたのさ、そんなに怒り狂っちゃって。投票を間違えたというなら、オマエラが全員おしおきされても構わないって事?」

 

「……っ、だけど、不正解を正解だと言ったお前の落ち度だ。お前にも罰則はあって然るべきだろ。」

 

「罰則?やだなー。もう人生5周分の罰は受けたつもりなんだけど。」

 

「……もう全部知ってるんだ。そんな機械なんて通さずに普通に話せよ。」

 

 

「宮壁、お前は全て分かったという事か?」

 

「ああ。……モノパオ、もう一度言うぞ。裁判をやり直せ。」

 

 

「……。」

 

 

「そもそも、俺達が検死できなかった奴なんて1人しかいない。ダストホールに落ちたものは拾えない、そう言われてたから近づけなかったお前だけだ。」

 

「……ダスト、ホール……。」

 

篠田の目が見開かれる。そうだろう、その単語で思い当たるのは1人しかいない。

 

「だけど地下の地図にはゴミ捨て場が空白の部屋として書かれていた。大渡が調べてくれたやつだ。ダストホールに落ちても、地下で裁判場や玄関ホール、さらにモニタールームと繋がっているのだからいくらでも移動はできたはずだ。」

 

「……貴様……!」

 

大渡の視線も鋭さを増す。モノパオは固まったまま動かなくなっていた。

 

「モノパオの首は、中身が勝卯木からお前に変わってから縫われていた。その縫い目も、あの時見たのと同じ特徴的な縫い目だった。難波が言っていたのはこの事だ。」

 

「極めつけは、」

 

「あー、もういいから。」

 

「!!!!」

 

モノパオから発する声ではない。マイクを通した声でもない。実際に、俺達の目の前にいる声だ。

 

お前が犠牲になった事も、皆本気で悲しんでいたのに……そんなお前が、どうしてこんなことを、

 

いや、その理由も、皆から聞いたんだ。

 

 

 

だからといって許される所業じゃない。

 

 

 

「あれ、変声機切れてない?ちゃんと俺の声に戻ってると思うんだけど。ていうかモノパオやってる時も喋り方自体は普段通りだったはずなんだけど。」

 

「…………。」

 

「……糞が……。」

 

 

「やだなーわたりん!糞なのはお互い様じゃーん!」

 

「それをやめろと何度言わせるつもりだ……。」

 

 

「篠田ちゃん、顔が真っ青だよ?あり得ないって?俺がこんな事するはずないって?好印象ありがとう!」

 

「……。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだな、牧野。」

 

明るい金髪が俺達の前で揺れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

「久しぶり、宮壁。元気してた?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

CHAPTER5 『世界で1番不幸な日』

 

END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

超高校級の幸運 前木琴奈

【???により死亡】

 

 

 

残り生存者数 4人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼[幸運のクロスピン]を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT →→→ CHAPTER6『僕らの存在理由(レゾンデートル)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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