1話
6章『僕らの存在理由』
目の前に躍り出た奴は、俺達の前で丁寧にお辞儀をしてみせた。さながら以前披露してくれたショーのように。
「ま、そういう事で俺も生存人数に入れといてよ。」
「……。」
「えーっ?せっかく出てきたのに何その反応?あーあ、こんな事ならもっとリアクションしてくれる人が生き残るようにすればよかった。」
牧野の言葉に篠田の眉がぴくりと動く。
「どういう事だ。」
「3回目の事件からは俺が動機を考えてたんだよね。ほら、柳原が勝卯木ちゃんをいじったせいでアイツは使い物にならなかったからさ。だから死んでほしい人が死ぬように調整したのよ。そもそも柳原が現実を知れば動いてくれる予感はしてたから、そういう意味ではすごくいい動機だったよね!死んだ面々もおおむね予想通りかな。難波ちゃんと東城は早いとこ死んでほしかったし、前木ちゃんも……もっといい感じに死んでくれるとよかったんだけど。」
「なぜそんな事ができる?」
「ああ、大渡は俺の才能なんて忘れちゃった?メンタリスト。人の考える事くらい皆の顔と癖見たら一発だって!」
「……きっしょ。」
「そんな事言いつつ、大渡もだいぶショック受けてるし参ってるじゃーん、強がんなって。難波ちゃんに何を持たされたのか知らないけど、きっと君は」
「黙れ。」
牧野は肩をすくめると大きく伸びをした。
「久しぶりに人前に出たからドキドキしちゃった!そうだ、皆お茶にする?ご飯も用意してるよ!朝から何も食べてないじゃん?」
どこから出したのか、円形の裁判場はたちまち円卓へと姿を変えた。
牧野は奥に戻ったかと思えばお盆にいろいろとご飯をのせて帰ってくる。
「ほら、牧野くんお手製のハンバーグだよ!皆と会えた時に何をご馳走しようかな~ってずっと考えてたんだから、残さず食べてね♡あとはケーキも焼いちゃった!」
どこからともなく現れた椅子にも目をやらず、牧野をただ睨む。
「おい、冷めるだろって。ね?せっかく作ったんだから食えよ。」
……今コイツに逆らうのは得策じゃない。そう思った俺達は各自近いところに着席した。
牧野がじっと見つめてくるので用意されたフォークに手を伸ばした、次の瞬間。
「ふざけるなっっっ!!!!!!!!!!」
篠田がガタンと音を立てて机に拳を叩きつけた。
なんだと篠田の方を見るが、俺の席からは何がおかしいのか分からない。何かハンバーグに……
「…………なんだこれ。」
写真だった。死んだ皆の、『死んだ状態の』写真。たくさんある中で目を引いたのは、先ほど肉塊と化した前木の写真。
「…………!!!」
口を覆う頃には遅かった。感情のまま零れ落ちた吐しゃ物が、写真も食器も汚していく。
「汚っ!ちょっと宮壁、そんなグロい写真なんてなかっ……あ、前木ちゃんかぁ。俺も吐きながら写真撮ったんだよねー。」
牧野は俺の席まで来ると食器を片付け始めた。
「さすがにこんなに汚しちゃ食べられないでしょ?あーあ、結構上手に作れたんだけどなぁ。……あーん、してあげるね?」
適当にフォークで切り取った肉片を俺の口に近づける。何もついてない部分を選んでくれたようだが、そんな事で食欲が戻るはずもない。俺は首を振った。
「もったいない……あ、篠田ちゃんと大渡は吐いてないんだし食べてよね!」
「チッ……まずいもん食わせやがって……」
「ひどい!おいしくできたってば!!」
「正気じゃない……何を考えている……」
「さっきから言ってるでしょ?お前らが苦しんでるとこが見たいだけだよ。どこまでもどこまでも絶望して、生まれた事を後悔するくらいね。」
以前一緒に探索したり、裁判で俺の手助けをしたりしてくれた牧野とは、もう別人なのだろう。だけど声も容姿もテンションも、何もあの頃と変わっていなかった。それがつらいと感じてしまうのは、俺がまだコイツを仲間だと思ってしまうからなのだろう。そろそろ覚悟を決めなければ……
「暗いねぇ3人とも。なにここ、陰キャの巣窟?」
「お前も陰キャだろ。」
「……嫌な事言うなあ。宮壁、何かあった?」
「お前に言う筋合いはないだろ。ただ……」
「全部知ってるだけだ。」
牧野は相変わらずにこにことはりつけた笑みで返す。
「何、全部って。」
「お前がやった事大体だよ。」
「いいや、絶対知らないよ、だって俺誰にも言った事ないから。」
「じゃあ全部じゃない、ほとんど知ってる。」
「篠田ちゃーん、宮壁がいじめてくるよー!」
篠田はギロリと牧野を睨んだまま何も返さない。
「怖いなー、もう。」
当の牧野はそれすらも楽しそうにけらけらと笑った。
全部は知らない、か……たしかに、一番重要な部分は高堂からも聞けていない。
『何故牧野が勝卯木に手を貸す事にしたのか』、こればかりは俺がいくら思案しても結論が見えてこなかった。
「じゃ、お腹もいっぱいになったところで、お喋り会再開しよっか!」
「その前に行きたいところがある。」
「え?」
俺は2人の方を見やった。
「篠田、大渡、頼みたい事があるんだけど……。」
「あ?」
「なんだ。」
「2人で、牧野の身柄を拘束してくれ。俺1人で行きたいところがあるんだ。」
「…………は、暴力振るったらおしお」
「1つも痛めつけずに拘束するのは暴力ではない。問題ないだろう。」
「ふん、頼まれてやる。手こずったらぶん殴るからな。」
「ありがとう、行ってくる!!!」
2人にお礼を言い、俺は走り出した。
行先は勿論…………
「前木……。少し失礼させてもらうな。」
俺は前木の部屋に立っていた。裁判場から前木の個室まで止まらずに走ったせいで呼吸が荒い。前木に言われた通り、パーカーの内ポケットを探る。絵面だと結構本気の犯罪者だな。
「……あった、これが、高堂の手帳……。」
これを見ている時間はない。2人が頑張ってくれている内に急いで戻ろう。
前木がダイイングメッセージを残したのも、ロープの先に謎の紙きれを貼ったのも、
全て、個室に置いてきたこの手帳を牧野から隠し通す為だと言っていた。
「ありがとな。俺、がんばるよ。」
□□□□□
「チッ、手間かけさせやがって。」
「悪い。」
「では始めるとするか。」
俺が戻ってくると、ようやく牧野は篠田達から解放された。捕獲された宇宙人みたいになっていたけれど、最終裁判の前にこんな緊張感のない構図になってもいいのだろうか。まあ、リラックスできるに越した事はないな。
「前木を殺したのは牧野、それが俺の結論だ。」
「いてて……なんか関節がおかしくない……?ああ、俺、そこの結論には興味ないんだよね。そんな事どうでもいいんだよ。」
牧野は腕を擦りながら位置に戻る。いつの間にか牧野の遺影はなくなっていた。
「俺がしたい事ってもっと単純で楽しい事だから。」
キラキラと流れ星を宿したような目をして、はじけ飛ぶような笑顔で。
「オマエラの人生、俺が終わらせてあげる!!!」
□□裁判 開廷□□
「ルールは簡単。前木ちゃんが死んだのは誰のせいかっても大事だけど、結局これって気の持ちようだから!オマエラが全てを知っても俺をクロだと言えるならオマエラの勝ち。それまでに精神が駄目になったり俺をクロにしたくない、なんて事になったりすれば、俺の勝ち!」
「有り得ん。」
「まあまあ、大渡も焦ってるみたいだし、ゆっくりやろうぜ。」
「……。」
……何か、視界に違和感がある。瞬きをするが、あまりよくならない。
「ちぇっ、宮壁は相変わらずつまんねー男だなあ。そんなだから柳原にも愛想つかされるんだよ。」
「今は関係ないだろ。」
「はいはーい。じゃあ、好きに喋りたい人、どうぞ!!」
「まず最初に言わせてほしい、私は現状についていくので精一杯だ。」
「同じく。」
篠田と大渡は揃って眉間に皺を寄せている。無理もない。俺も皆に教えてもらってやっと理解できたくらいだ。
「宮壁、何故牧野が裏切り者だと分かった?もう少し詳しく説明してくれないか。」
「分かった。」
「えー!?復讐じゃなくて復習!?誰得!?」
「……最初に違和感を感じたのは、牧野の死体を俺達皆で発見した時だ。」
♢
♢♢
♢♢♢
2章 非日常編1
♢♢♢
「…おい象、コイツも本当に死んでるんだろうな?」
「大渡クンは実はミンナに生きてほしい素敵な人なのかな?前も似たような事言ってたもんねっ!」
「きめぇ。」
モノパオを鼻であしらうと、いつの間にファイルをダウンロードしていたのか黙ってでていこうとする。
♢♢♢
「勝卯木はその…アリバイとかはないか?」
「アリバイ………ない。…話す事……ある……。」
「なんだ?」
「保健室……牧野…出てきた……。」
「え?いつくらいの事だ?」
「6時10分11秒……。」
「相変わらず細かいな…。」
「すごいね…蘭ちゃん…!」
「……ピース。」
♢♢♢
3章 非日常編3
♢♢♢
「貴様が黒幕で、今までの事件の証言も信用ならなくなった訳だが……。あれは事実を言っていたのか?」
「は?それは証拠に説得力を持たせるために、クロに不利になるような発言をあえてしてたって話じゃねーの?」
「……実は事実は言ってないんだよね!いいじゃん、クロを正しく突き止めるために嘘ついてたってさ!私の証言もあって今までの裁判を勝ち抜けてるんだから、ミンナからすれば万々歳だよね?」
「なっ……っ!」
「貴様らは鈍いのか忘れてるのか知らねぇが、コイツがこうやってありもしない証言をしていた事を踏まえると、『あの行動』が偶然じゃねぇ事に気づくはずだ。」
「あの、行動?」
不安そうな前木を一瞥すると、大渡はとんでもない事を口にした。
「前回の事件。クワガタ頭が問い詰めた『事件の発端』。コイツが変態野郎に動機を返した事だっただろ。」
「………蘭、アンタ、あれもわざととか言わねーよな。」
「ちょ、ちょっときょうくん!それは最後まで内緒にしようと思ってたのになんで覚えてるの!ひどい!」
……今回の事件だけじゃない?
前回の事件も、勝卯木がわざとやったっていうのか?
♢♢♢
♢♢
♢
「俺が気になったのは大渡が牧野は死んだのかと確認した時、モノパオは死んだと答えなかった事だ。端部のおしおきの時は確実に死んだと答えていたからな。」
「あと、勝卯木の嘘の証言。勝卯木が黒幕だと分かった時に、勝卯木は『自分の今までの証言は嘘』だと言っていた。つまり、二度目の事件で勝卯木は、牧野が保健室から出てきたところなんて見てないんだよ。」
「へー、すごい、正解だよ宮壁。さすが今までの裁判を牽引してきただけあるね!」
「……じゃあ、誰が輸血パックを保健室から取り出したのか。」
「まさか、勝卯木自身か?」
「その可能性が高い。勝卯木ならダストホールから自分の部屋に帰る事ができる。あの現場を密室のままで置いておく事ができたのは、被害者だった牧野以外には勝卯木しかいないんだよ。」
「それに俺達は床に大量にまかれた血だけが輸血パックのものだと思い込んでいたよな。だけど本当は、牧野の腹から出ている血も輸血パックのものだったんじゃないのか?」
「うんうん、正解だね。ほぼほぼオレの血じゃない。もっと言うなら、あの時オマエラが見つけてた血痕もそうだよ!」
「血痕……?」
「ああ、大渡は覚えてるんじゃない?東城が言ってたやつ。あ、よく考えたら誰も聞いたなかったかも。」
♢
♢♢
♢♢♢
4章 (非)日常編1
♢♢♢
「知るか。」
「……交渉決裂だね。じゃあ1人でやってくるよ。血痕が落ちていた事は誰にでも言うといい。」
「……。」
「本当はもう1つ違和感はあったのだけれど、それは今言う必要はないか。」
「ボク達より先に死体保管室に入った人がいる。足跡から見てヒールのある靴を履いている人だから……うん。どちらかが『血痕のあった場所に落ちていた何か』を持ち去っている。」
♢♢♢
「やっぱ俺しか聞いてなかったよ。死体保管室に入ったヒールの靴、難波ちゃんの前に俺~~~!!!!俺俺~~俺もヒールです~~!!!保管してるの俺なんだから入りまくってるに決まってんじゃん!で、なんか勝卯木ちゃんが輸血パックの袋をこっそり陰に置いてたみたいでさ!俺それに気づかなくて難波ちゃんに盗られちゃったんだよね。なんであんなとこに勝卯木ちゃんが隠したのか知らないけど!ね、俺の時現場に輸血パックの袋とかなかったでしょ?」
思い出した、牧野の事件の後、新しく入ったエリアのゴミ箱も血がついていたはずだ。
「勝卯木がずっといろんなところで隠していたのか。」
「お?宮壁は思い出した?天才だね!」
……勝卯木が輸血パックの袋を隠し続けた理由。
それは、コイツを炙り出してもらう為だったのかもしれない。輸血パックを使用した事件は牧野と高堂の事件だけだ。難波もそれで目星をつけたに違いない。
「……そう言われてみればそんな会話もあった気がするが……。」
「チッ、んなもん覚えてられる訳ねぇだろうが。」
「ま、まあそれはそうだよな。他にも思い当たる事はある。例えば……」
♢
♢♢
♢♢♢
2章 非日常編2
♢♢♢
難波「は?その言い方だと、裁縫セットを使ったのも牧野って事になるけど。」
宮壁「その可能性が高い。実は玄関ホールにはクリアケースがあって、その中にある電子生徒手帳を使えばここにいない人の部屋に入る事ができるんだ。」
三笠「そして、桜井と端部の部屋を自分と大渡で見に行ったが使われた形跡はなかった。さらに重要なのが、そのクリアケースの中に牧野の電子生徒手帳は入っていなかったという事だ。」
♢♢♢
♢♢
♢
「牧野の電子生徒手帳だけ、クリアケースに保管されていなかった事。モニタールームにいなくても俺達の居場所を知るには、常に見たい場所の監視カメラを見られる状態にする必要がある。」
「なるほど、電子生徒手帳にも監視カメラの映像が映るようになっていたという事か。それならば私達が探索していた時に牧野と一度も遭遇せずに済んだ事にも説明がつく。」
「宮壁、もしかして本物の超高校級の記憶力?ま、本物さんは外で縛り上げられてると思うんだけど。」
「外で縛り上げ……?」
「うん!唯一記憶操作できていないからね!なんかめちゃくちゃ記憶力いいから技術が敗北するっていう謎のオチよ。まぁ、それも先日までの出来事で、今は脱走してるみたいだけどね。」
「脱走、助かっているという事か!?」
「さぁ?俺はオマエラをぶちのめしたら次は珠結ちゃんとか勝卯木蓮とか倉骨研究所をぶっ壊しにいくから、逃げても逃げてなくても今は関係ないかな。」
「たまゆい……?それが超高校級の記憶力を持っているクラスメートの名前か?」
「あ、そうそう!珠結詩乃女ちゃん。たまちゃんだの、しのめちゃんだの、好きに呼んであげてよ。」
「珠結……そうか、無事でよかった。」
まだ見ぬ仲間の生存を確認できたのはよかった。何をしているのか気になるけど、上手い事捕まらずにいてくれてる事を願おう。
……まただ。何か違和感が……まさか、ロザリオにいよいよガタが来てるのか?まずい、早く結論を叩きつけないと。
「牧野がクロの根拠は」
「まず、コロシアイの目的からだよね!順番に考えていこう!」
「……っ、」
大丈夫、まだ、大丈夫だ。
「目的……お前は散々復讐だと言っていたな。」
「あ?さっき言ってたやつが目的ならもう話す必要はねぇだろうが。」
「あるよ。俺はそれだけを目的にしていたんだから。」
……牧野、いや、あの時はまだモノパオだったな。裁判での言葉……その時はロザリオだったからぼんやりとだけど、俺も覚えている……。
♢
♢♢
♢♢♢
5章 非日常編3
♢♢♢
「コロシアイが、制裁?」
「過去のコロシアイを告発しようとしたオマエラには、そもそもその記憶を消してしまう必要があった。なんならその情報を知る奴は全員殺されてもおかしくなかったと思うよ。まあ、結果こうして大半がお亡くなりになってるんだけどね!」
「どういう事……?」
「計画が実行されるされないに関わらず、オマエラの記憶の消去は決まっていた。それと同時に、計画の中で芽生えた才能や関係なんかも初期化される運命だったんだよ。で、本当に実行されそうならついでにコロシアイに放り込んで悪魔の安定を図る予定だったってワケ。オマエラも情報を手に入れた奴が死ぬんじゃないかと危惧して、行動に移すまでは特別学級内の秘密になっていたからね。オマエラさえ封じれば完璧ってことよ。」
「あ?だが結局山女に従ったんだろ。コロシアイに巻き込まれる理由がどこにある?」
「結局高堂サンの言う通りにした?結局ってなに?ロザリオだっけ、オマエも忘れたフリしてんじゃねぇよ。オマエラはただ高堂サンの話を聞こうとしなかったんじゃない。高堂サンと学園破壊計画の実行を天秤にかけて、高堂サンを計画の輪から……オマエラの大好きな『仲間』から外したんだ。」
「……!」
「ロザリオ、本当か?」
「……ご、ごめ、あの時は皆必死で、」
♢♢♢
♢♢
♢
「俺達の学園破壊計画、それは勝卯木蓮が中心になって起こした過去のコロシアイを告発し、学園としての権威を損なわせる事だった。だけどそれが学園側、もとい勝卯木蓮に見つかって、俺達はそのコロシアイに関する記憶を消去される事が決まっていた……。」
「そう!オマエラでコロシアイをするために記憶をいじったんじゃなく、そもそも記憶の消去は確実に行われる予定だったってワケ。勝卯木蓮はオマエラの計画を絶対に止める必要があった。そのためにオマエラの内部でオマエラの邪魔をする役割が必要になったんだよ。」
「……納得した。だが私は記憶を消去された後もコロシアイの事を覚えていた。それは何故だ?」
「篠田ちゃんは元々入学前にコロシアイを経験しているからね。篠田ちゃんにとって何よりも消すべき記憶は、『同じクラスの奴等と一緒に計画を立てられるほど仲良くなれていた事』。そこさえ消せば、慎重派の篠田ちゃんはまず人にコロシアイの事なんて話さない。現に今回コロシアイに巻き込まれてもずっと言わなかったでしょ?」
「それに、篠田ちゃんが忘れたところで篠田家の人達は全員把握している。あの人達がいる限り篠田ちゃんの記憶を消すメリットはないんだよね。」
「……。では次だ、私達の邪魔をする存在が牧野、お前だったという事か?」
「半分正解で半分不正解。って、ずっと俺が質問に答えてたらオマエラが考える事をやめて脳細胞が死滅しちゃうじゃん!ちょっとは考えなよー。」
牧野は急に質問に答えるのをやめてしまった。勝手な事言いやがって……。
「半分って事は、2人いたって事か?だとすれば高堂だ。」
「あーっ!ちょっとだけ知ってる、とかしまらないキメ顔で言い切ってた宮壁が答えちゃったよ!おいおい他2人も真面目に答えてくれる~?」
「……。」
「はいはい、答えたくないのね。宮壁も少し惜しいかな!元々裏切り者は高堂ちゃんだけだったんだよ!俺は……ああもう、この辺はどうでもいいんだってば。何を思ってたかなんて誰も興味ないでしょ?」
「俺がずっと聞きたいのはそこだ。牧野、お前の行動を聞いてる。」
「……。高堂ちゃんを助けたかったんだ。オマエラも思い当たる事はない?」
高堂を助ける。何から?……ロザリオの見た景色にどうにか頭を巡らせる。ダメだ、あいつが近くにいない。
「天使……。」
「篠田ちゃん正解!高堂ちゃんは天使計画の候補にされていた。オマエラが辿り着いた通りだよ。」
「俺はね、その計画から高堂ちゃんを外してもらうためにオマエラを売ったの!」
「……!!!」
「驚く事かな?だって、僕にとって大事な人なんて1人しかいないんだから。比べるまでもないよ。」
笑顔でそう言う牧野を前に、俺達は無意識に後ずさりしていた。次の瞬間、先ほどの笑顔とは打って変わった見下した表情になる。
「なのにオマエラときたら俺が死んだと思い込んじゃうし、挙句の果てに高堂ちゃんを処刑しちゃうしさぁ……ほんっと、使えない奴等……。推理に自信があるならあの時にここまで辿り着いてくれてもよくない?」
「馬鹿を言うな。そもそも、俺達を嵌めたのが貴様らなら、何故貴様ら自身もコロシアイに参加する必要がある?死にたくねぇなら外部から見ときゃいいだろうが。」
「ちょっとちょっと、俺の地雷踏むのやめてよ!俺だってそのつもりだったんだから!勝卯木蓮は約束を守らない奴だったって事。それで納得してくれる?」
俺の考えが合っているなら、本当にコロシアイの参加は牧野にとっても想定外だったのだろう。だけどその様子を微塵もこちらに感じさせないせいで、じわじわと自信を失ってしまう。
「……何故私達なのだ、それなら、勝卯木蓮に対して憎悪を抱く方が先ではないのか……?私達に非がないとは言わない、だが、約束を守らずにコロシアイを強制した勝卯木蓮こそ、本当に憎むべき相手ではないのか……?」
「うん、オマエラが終わったら俺は勝卯木蓮を片付けに行くよ。それに、勝卯木蓮への復讐だって既に半分やってる。」
「……!そうか、妹だな。」
「そう!その通り!俺が最初に絶対殺そうと心に誓ったのは勝卯木ちゃん!その為に柳原をゆすったんだ。」
「……は?」
「勝卯木ちゃんにのせられて事件を起こしちゃった俺、やっぱり腹が立ったからさ。勝卯木ちゃんを殺してくれそうな奴に目星を立てたんだ。ほら、宮壁の部屋から動機を盗んで柳原に返したってやつ。あれ、俺がやったの。がんばれーって言ってあげたよ。クロが勝っても既に死んだ判定になってる俺は死なないからさ。」
「そうか、それで柳原は勝卯木よりも裏切り者の方が地位が上だと知り、勝卯木を脅す事ができたのだな。」
「勝卯木ちゃんも訳分かんない脅しで言う事聞くんだからほんと扱いやすい女の子だよね!そんな奴に嵌められた俺、かわいそうでしょ?ちょっとの復讐くらい許してよ。生き甲斐なんだ。」
ランランと目を輝かせる牧野を逆上させるかもしれないけど、言葉を放つ。
「それで高堂が喜ぶとでも思ってんのか。」
怒りのあまり零れた言葉にも、牧野は無反応だった。
「思わないよ。だって高堂ちゃんはオマエラの事を守ろうとしたんだからね。コロシアイを続行させてるって知ったら怒るんじゃないかな。」
「!!!では何故っ……!!!!」
「じゃあ何?俺は高堂ちゃんを失っても復讐もしないで、途方に暮れた方がいい?絶望の末に1人寂しく自殺でもした方がよかった?俺そんなの嫌なんだけど。大切な人を亡くして、なんで俺だけ何もしちゃいけないの?オマエラは友達を犠牲にした俺に、何かしらの処罰を与えたいんだよね?それって復讐でしょ?俺も同じ事をオマエラにしたいだけだよ。エゴイストのオマエラなら分かるだろ?」
駄目だ、話が通じる相手じゃない。
高堂の言葉すら届かないんじゃないか、そう思ってしまう。暗い穴に突き落とされた気分だ。
「いいな~、オマエラの復讐は正当化されるんだろ?オマエラの正義はヒーローになれる正義なんだ。俺の正義だって認めてくれてもいいのに。」
「もっと他に方法があっただろうが。黒幕の女はコロシアイを続行するかは貴様の自由だと言った。あの時に終わらせて全てを伝えた方がしかるべき対応ができた、お互いにな。」
「俺の気持ちなんて同じ状況にならなきゃ分かんないよ。なぁ、宮壁。どう?」
「どう、って、何……」
牧野はにっこり微笑むと、俺の方に歩み寄ってきた。
「オマエは俺と同じになってくれる?」
「誰がお前なんかと……!!!!」
伸ばされた手をはねのけようとするが、もう片方の手で掴まれてしまった。
「だって俺ら似てるじゃん。宮壁も前木ちゃんが死んだ時モノパオの事殴り殺しそうな勢いだったよ。俺も勝卯木蘭の事殴った事あるんだけどさ、その時の俺見てるみたいだった。」
「ふざけんなよ……っ!!!!」
必死で自分の服の裾を掴んで怒りを堪える。
耐えろ、コイツの言葉に乗せられて一度でも手が出たらアウトだ。それだけは絶対に避けなければ。
耐えられれば、この感情もじきに消える。そう、今のこの瞬間だけ耐えたら…………
あれ。
耐えたその感情は、どこに行くんだっけ。
嫌な予感がした瞬間、耐えられたと思っていた感情が全て戻ってきた。
違う、『俺のじゃない感情』が流れ込んできた。
たまらず倒れ込む。
「宮壁!!!!……牧野、お前はどけ。」
「え、もしかして人格代わる?うわーっ!生で見るのは初めて!」
かろうじて2人の声が聞こえる。大渡の姿も見える。けれど、もう1人、声が。
「大希、代わって。」
「だめだ」
篠田が近くに来た。俺の事を支えてくれている。
「宮壁、どうした、どうなっている?」
「ねえ大希、代わって……お願い……!どいて……!!!!」
「駄目だって言ってんだろ!!!!!!!!すっこんでろ!!!!!!!!!」
「大渡、宮壁の様子がおかしい……!」
「チッ……おい、聞こえてんのか。」
「はっ…………はぁっ…………」
やばい、コイツの感情、最悪だ。そんなもんを俺に寄越すなよ…………!!!!!!
「汗の量が尋常じゃない。牧野、救護するくらいいいだろう。」
「えー?放っておけばよくなーい?」
「……では何かしら拭く物を用意しろ!裁判どころではないのは見たら分かるはずだ!」
「……うん、オッケー!宮壁が勝手に苦しんでて最高の気分だし、飽きるまで待っててあげる。」
俺達は騙されていた。
やばい、コイツを今外に出したら絶対にまずい。だってこいつは、こいつ、は、
「いろはくんの事放っておけない。だってオレ、いろはくんの事好きだもん。」
…………裏切り者の肩を持っているから。
□□□□□
——これは、僕の記憶だ——
「あの、牧野いろはさんですよね?」
「……誰?」
「勝卯木蘭です。去年一緒のクラスだった……。」
黒髪を高く二つに結んだ同級生の女の子に、僕は声をかけられた。
ダンガンロンパノウム 0話
桜が散り緑に染まり始めた夏の気配が近づくこの時期に、僕は14人のクラスメートと共に眠気と戦いながら授業を聞いていた。
僕の名前は……もう使ってないからどうでもいいか。
一応、芸名は牧野いろは。なんとなく、言いやすくていい感じの名前にした。
僕は超高校級のメンタリストとして特別学級への進学が決まったんだ。
といっても、その才能を得るに至った経緯は人に語るには恥ずかしい、純度100%の下心。好きな人を追って、超高校級の称号を手に入れる為に学んだものだった。自分の顔がコンプレックスなのもあって人の目をひどく気にするきらいがある僕は、どうせなら人と関わるのに役に立ちそうな才能にしようと思って心理学の勉強を積み重ねた。
僕の努力なんてどうでもいい、話を戻そう。その好きな人というのが、高堂光。名前の通りキラキラと眩しい人で、中学校の時からその人気も名声も痛いほどこちらに伝わっていた。というのも、僕は高堂さんとは会話すらした事がなかった。噂に聞いてたまたま全校集会で見かけた時に、一目惚れというやつをしたのだ。
「牧野の出てたテレビ、前見たよ。すごく堂々としてて、かっこよかった……!」
「なに謙遜してんのかなぁ、端部のプレーに比べたら全然だって!俺お忍びで行っちゃったもんねー!」
「え、ええ!?言ってくれたら声掛けに行ったのに……。」
小説の登場人物よろしく脳内でモノローグを繰り広げていたら、前の席の端部が話しかけてきた。いつの間にか授業が終わっていたらしい。目の前でしょんぼりしている彼は人気サッカー選手。この雰囲気であのプレーだもんな、真の陽キャは君だ。断言できる。
「いいって!端部来たら女の子に囲まれて俺の事もバレちゃうじゃん!……てかさ、課題どこって言ってた?」
「うわ、お前聞いてなかったのかよ。なんか上の空だったもんな。」
「は~??そうやってイケメンの俺を見守ってた宮壁は聞いてるんですか???」
「標準問題集45ページから47ページ。提出はないけど、休み時間のうちに黒板に書いてないといけないやつ。」
「残業じゃん。」
「あれ意味不明だよね……休み時間になんでチョーク持たされてんだろうって……。」
数学の苦手な端部は肩を落としてため息をつく。分かる。授業の事は授業時間にやろうぜ。
「宮壁くん……次の公民、何にも分かんないです……助けてください……。」
「お、分かった。」
「待ってアタシも聞きたい。憲法とか知るかよ、こちとら法律破りまくっても学校行けてんだわ。」
「……。」
「東城は睨んでんじゃねーよ!!アンタ一限の国語で寝てたじゃん!!」
「授業中の睡眠と法律違反を同列に語るのは正気じゃあないよ。」
「だまれ~~~~。」
宮壁は半泣きでやってきた前木さん筆頭の女子達に拉致されていった。まったく、超高校級の判断力だかしらないけど公民の時だけ先生気取りやがって……。幸運っていうよく分かんない才能の前木さんはこの中では安心感がある。普通に接してて楽しい感じの子だ。化学者の東城と怪盗の難波さんは相変わらず。もし僕がストーカーまがいの事をしてるってバレたら、僕も東城の要注意犯罪者リストに載るんだろうな。ちな、全員僕より陽キャでめっちゃいい人達。いっぱいすき。対する僕はキモ陰キャ構文しか浮かばない愚か者です。
「心理学があったら俺も先生になれるんだけどなー。」
「えー!牧野先生の心理学講座、美亜聞きたーい!ね、はたべんも聞きたいよねー!」
相変わらず大渡にちょっかいをかけていた桜井さんが飛びついてきた。
「うん、牧野が学校にいる事少ないしいる時にたくさん話聞きたいな……。」
「え、ほんとにやっちゃう?次の自習これにしちゃう?俺本気になっちゃうよ……?」
「ええ!?珠結、全く課題終わってないのでそちらやっちゃいてぇのですが!?」
「たまちゃん!?え、え、どこから来たの!?美亜全然見てなかったよ!?」
「ふふふ……珠結は天才なので?桜井ちゃんの死角もかいくぐれちゃうんですねえ!」
「えー!!」
端部と桜井さん珠結さんに挟まれた僕、北風と太陽で言うなら太陽と太陽と太陽に囲まれた旅人だよ。有名サッカー選手に加え超人気ロリっ娘漫画家とメモリースポーツ大会出場者の褐色ギャル、才能と陽の暴力である。
キリキリとコンプレックスを刺激される僕の隣で欠伸が聞こえた。
「んむ……ん……あれ、授業、終わってる……?変です……。」
「おーい、柳原、今休み時間。課題まだだったら見てやるから。」
「……?三笠さん……?」
「俺だ俺、宮壁大希。なんで間違えるんだよ。」
「だって、2人とも『み』から始まるじゃないですか……。」
「はははっ、おはよう柳原、起こしそびれたな。」
「本物の三笠さんだ、おはようございます。あ、課題は何もやってません!」
「少しはやろうな……。」
あの調子でクラスで一番稼いでいる投資家の柳原、そして久しぶりに孤島から帰ってきたサバイバーの三笠。いつの間にか戻っていた宮壁も、柳原の申告に三笠と揃って困惑しているようだった。三笠は僕の視線に気がつくと笑顔を浮かべ言葉を投げかけてきた。
「そういえば牧野、声が聞こえたが次はお主が授業をするのか?」
「え!?本当にやっちゃっていいすか!?何の話からしようかな、人間の欲求?」
「お、興味深いな。」
「欲求……おれはおかねにしか興味ないです……。」
「そんないい面して勿体ないよー。その美貌があれば女連れ放題だよー。」
「あーっ!美亜のいるところでそんな話、よくないんだ!」
「そうですよ!いくら柳原くんが顔がいいとはいえ、珠結は連れられたりしねぇので!」
「柳原、とりあえず課題と授業に興味持つようにしよっか。」
宮壁がわりと真剣な顔で柳原のノートを見ながらつぶやく。いや、授業中何してたの?すっげえ真っ白だけど。
てか、今の宮壁の顔、前に宮壁の叔父さんに会った事あるけど、ほんと真剣な感じが似てるなぁ。
「はーい、そろそろ席について。授業始まるぞ。自習だけど私語は控えるように。」
「はーい。」
ぱらぱらと返事をする。先生が扉から出て行くと、難波さんが廊下に出て先生が完全に消えた事を確認する。
「行った。」
「よし、じゃあ俺やるわ。」
「わーい!」
難波さんの合図とほぼ同時に僕が立ち上がると海女さんをしている潜手さんがいの一番に拍手してくれた。もちろん皆盛り上がってくれてるんだけどさ。
「あ、あの……わたくし、課題をしながらでもよろしいでしょうか?まだ終わっていないものがあるのです……。」
「いいよ!俺の話が聞きたかったら耳だけでも貸してくれれば!」
「楽しい話が気になってしまうから集中できるでしょうか……。ふふ、ありがとうございます……。」
そんなに畏まらなくてもいいのに、ちょこんとお辞儀までしてくれるのはもちろん茶道家として活躍中の安鐘さん。特別陽キャ!って感じではないけどシンプル顔がかわいいよね。それだけで世の中勝ち組なのだよ。
壇上に上がると皆の顔が良く見えた。皆、僕なんかと仲良くしてくれる友達。
皆がわくわくとしているのは本心だ。顔を見たら分かる。僕の事を嫌っていないし、全員友好な関係が築けている。たぶん、一部怪しいけど、本当。
「牧野、騒ぎすぎたら皆で怒られるから、程々にね。」
その中で微笑んでいるのが、高堂光ちゃん。
僕の初恋で、大切な女の子だ。