ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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2話—前編—

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、告白しないのか?」

 

 

突拍子もない宮壁の言葉に、僕は椅子ごとひっくり返った。

 

 

 

 

 

 

 

 

季節は夏。

 

僕達はあれから順調に打ち解け、ついに目の前にいる男達に元々高堂さんと同じ学校だったという事を白状したのだ。三笠と端部と宮壁は僕の話にいちいち盛り上がり声をあげながら聞いていた。

かろうじて一人称を「俺」にしただけの、ほぼほぼ僕の話に3人は大層興味深いのか耳を傾けてくれた。なんでこんな話をするに至ったかについては……なんとなく、この人達ならいっか、と思ったからである。

 

「えっ、む、無理だよ、俺なんか…絶対フラれるし、そもそもそういう感情じゃないっていうか……。」

 

「うーん、でも、折角同じクラスになれたんだよな?特別学級に入るためにすごい勉強したって言ってたじゃないか。」

 

宮壁はきょとんとした顔で聞いてくる。くそっ、そういうお前は前木さんと何も進展しない癖によく言う……!

 

「言ってみたらいいんじゃないか?自分が見た感じだと、脈は十分ありそうだが。」

 

「うん。俺も…応援、してる。」

 

三笠と端部も笑顔で後押ししてくる。余計なお世話だよ、と思ったけど、それが嬉しかった。

 

「……。いつかするよ。」

 

「何、失恋したらこの4人でカラオケにでも行けばいい。」

 

「俺、恋愛ソングはほとんど知らないけど、応援歌なら沢山知ってるから……!」

 

「いやなんで俺フラれる前提なんだよ!!!!!」

 

「牧野が言ったんじゃないか、絶対フラれるって。」

 

「自分で言うのと人に言われるのは違う!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フォローになっているのかよく分からない応援を受けて、俺は高堂ちゃんに告白する事にした。

 

そしてその1か月後、俺はついに結果報告の為に3人を招集した。

 

 

「あ、あのさ…。」

 

緊張した面持ちが伝わったのか、皆の唾を飲む音が聞こえた。

 

「ど、どうだったんだ…?」

 

ためにためて、結果を伝える。

 

「えっと、OKって…。」

 

「おめでとう!よかったじゃないか!」

 

「夢みたいだよ。というか、どうしていいか分からないし、そもそも付き合って何していいかも分からないし…。」

 

……。

 

「それは今まで通りでいいんじゃないか?少し気を遣いすぎな気はするけど…。」

 

「いや、高堂ちゃんに気を遣うのは当たり前なんだって。」

 

「お主、本当に高堂の事になるとガチになるな…。」

 

「…あ、高堂さん、待ってるよ。俺達にかまってないで行ってあげなきゃ。」

 

……。

 

「え、え、嘘!?待って、髪乱れてない!?いい匂いする!?服の皺とか…!」

 

「大丈夫だって。」

 

……。

 

「あ、えっと…皆、ありがとう。」

 

無事俺は、高堂ちゃんと付き合う事になった。

 

 

今まで以上に目一杯オシャレして食生活ももっと気をつけて身バレに気をつけて運動して勿論勉強だって欠かさずやって成績もある程度を維持して仕事も上手くやって。

 

けど、足りない。

 

 

初恋と呼んでいたそれが、恋慕ではない事を知った。

高堂ちゃんを恋人と呼ぶのは間違いであると、付き合ってから気づいた。

けれど、恋人と言う関係を解消する為の上手い言葉なんて思いつかなかった。

 

 

 

 

高堂ちゃんの隣に立つ人は、もっと完璧でいなければならない。

 

 

 

俺より相応しい人がいるかもしれない、それを押しのけて俺がここにいるのだから、俺の持てる時間全てを注ぎ込んで、高堂ちゃんの横で笑う為の資格を得る。

それが、高堂ちゃんを俺の隣にいさせてしまっている俺がやるべき義務なんだ。

 

 

『高堂ちゃんの隣で笑う牧野いろは』は、そのくらいしなければならない。

 

 

 

 

「牧野、最近忙しそうだね。あたしといる時間、無理に作らなくて大丈夫だよ。連絡もまめにしてくれるし、別に寂しくないから。」

 

忙しそうだと思われている。50点。

 

 

「ねぇ、顔色あんまりよくないよ?保健室行かなくて平気……?」

 

体調が崩れている。20点。

 

 

「牧野、悩んでる事あったらいつでも言ってね。あたしだって牧野に支えられてばかりじゃ申し訳ないから。」

 

気を遣わせている。0点。

 

 

 

 

高堂ちゃんに恋をしていたと思い込んでいた自分が、どれだけ馬鹿だったか。

 

 

俺が必死の努力をしても高堂ちゃんには及んでいないと感じるのは、そういう運命なのだろうか。

 

凡人は天才になれないし、人間は神様にはなれない。

 

高堂ちゃんが何かを簡単にこなしてしまうのを見ると、高堂ちゃんが誰かに信頼されて談笑しているのを見ると、胃がキリキリと締め付けられる思いに駆られた。

 

何もかもが「僕」の上位互換であり、俺が絶対に届かない相手に抱く感情が、恋な訳がなかった。

 

 

 

 

コンプレックスだの苦労だのはこの際大きい問題ではない。

高堂ちゃんが横で笑っている事が嬉しくて幸せで、けれどそれを享受しているのが俺であるという事が、何よりも、ずっと苦しかった。

 

そう、『牧野いろは』は考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

「正直意外だった。牧野の事だし、付き合い始めたらハグとかたくさんするのかなって思ってて。」

 

「えー!俺変態だと思われてる!?」

 

「どっちかというと。でも、その……あたしは牧野とハグとか……してもいいって思ってたから。」

 

「え、」

 

「……!!!!今のなし、忘れて。やめよ。もう解散!今日は一緒に帰らない!」

 

「た、たか、えっ、高堂ちゃん!!!!!!」

 

「またね!!!!!!」

 

「えー、高堂ちゃん、マジか……。」

 

僕は…………。

僕の気持ちに、今は気づかないふりをした。

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、オレ、大希と一緒の身体にいるんだ……。き、気持ち悪いよね、ごめんなさい……。」

 

僕がどうにかメンタルを持ち直して牧野いろはを続けて数ヶ月。

ある日態度が一変した宮壁を見て、皆も顔を見合わせていた。

 

心理学の勉強中に見た事がある。解離性同一性障害、要は多重人格。最初は宮壁がふざけているのかと軽く見ていた一部も、宮壁?の神妙な面持ちにいよいよ現実を受け入れ始めたところだった。

 

「牧野とかこういうの詳しいんじゃね?どうなのよ。」

 

「うん、本当だと思う。嘘ついてないし、明らかに別人なのが分かる。宮壁……じゃないのか、君、名前は?」

 

「な、名前?えっと……。」

 

どうやら無いらしい。宮壁からこんな話は聞いた事もないし、今まで知らなかったのか何やらただならぬ事情がありそうだ。

 

「はい!目がキラキラだから、ロザリオとかどうかな!美亜的にかわいい名前だと思う!」

 

「だって。どう?」

 

「……ロザリオ……。うん!ありがとう!」

 

ご満悦の表情。普段の宮壁とはかけ離れた少年のような笑顔に少し肩の力が抜ける。それほど危険視しなくてもよさそうだ。

 

「皆の事はぼんやり知ってる。えっと、大希にはオレがいる事を教えないでほしいんだけど、それでもよければ、オレとも仲良くしてほしい、です……。」

 

「うん、よろしくね、ロザリオ。」

 

「えへへ……!あ、勿論いつもは出てこないから!大希を困らせる訳にはいかないし……。」

 

「だけど、ちょっとだけ。大希が楽しそうで……。」

 

「牧野さんが面倒見たらいいんじゃないですか?心理学に詳しいんですよね?」

 

柳原の言葉に「なんで僕が」と声がでかかったが、牧野いろはならそんな事言わないだろう。

 

「ま、いいけど。ロザリオが俺でよければ、一緒に遊ぶ?てか皆も一緒に遊んであげるよね!?俺だけ独り占めしちゃっていいんですかぁ~??」

 

「えー!美亜もお喋りしたーい!」

 

「潜手めかぶもいろんな事聞きたいですー!」

 

「わ……!皆、ありがとう……!」

 

僕の考えた最強の誘い文句だなんて微塵も気づかないロザリオは、嬉しそうに目を細めていた。

 

 

 

 

 

「ねぇいろはくん。いろはくんはどうしてメンタリストになったの?この3年程度で人気になったのっていろはくんくらいだって紫織ちゃんが言ってたよ。皆もっと昔からやってきた事が認められたって人がほとんどなんだって。」

 

「そりゃ俺が天才だからだよ。」

 

「そっかぁ!」

 

つまんねー。とか思ってはいけない。

そんなこんなで、僕はロザリオが宮壁に代わって出てくる時は大概一緒にいた。まぁ、隔週に1回程度だし、かつ僕が仕事じゃない時だけだし……ごちゃごちゃと己を納得させてロザリオの話を耳に入れる。

何故人格が生まれたのか等いろいろ気になる事はあれど、悪い奴ではなさそうだし見守る事にした。

 

「オレね、いろはくんの事も好き!いっつも優しくしてくれるし、いろいろ相談にも乗ってくれるし……。」

 

「俺の得意分野みたいなもんだしね。そうだ、なんか精神的にやばいなって事あったら言いなよ?」

 

「うん!いろはくんも、オレが変な事してたらちゃんと止めてね!」

 

「あ、それで思い出した!さっき安鐘ちゃんが教室出ようとしてたの割り込んでたでしょ。ああいうの普通は女の子が先だからちゃんとエスコートしてあげてね!他の人達は君が世間知らずとか知らないから、少しでも平気なように覚えときなよ。」

 

「そうなんだ!へへ、いろはくんは頼りになるなぁ。」

 

コイツは悪い奴ではない、ずっとそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

その数週間後、僕達はとんでもない話を耳にする。

 

 

 

 

 

 

「コロシアイ……?」

 

 

 

 

 

「……そう、なんか、勝卯木蓮って人が誰かと話してるのを聞いたというか。アタシ、ちょっと用事があって学校の資料室に忍び込んでたら、あの人が入ってきて電話してて……。」

 

「非現実的すぎるな……本当なのか?」

 

「三笠もさすがに疑うか……ま、冗談だよね……。」

 

皆が聞き間違いだろうと難波さんをなだめようとした時、僕の目に篠田さんの表情が映ってしまった。

 

 

あ、事実だ。

 

 

「篠田ちゃん、なんか知ってるね。」

 

 

「!!!牧野、いや……」

 

「篠田、顔が青いぞ。お主、」

 

「………………私は、参加した事がある。聞き間違いではないだろう。」

 

「さ、参加!?しのみぃが無事って事は生き残れたって事だよね!?」

 

篠田さんは黙って頷く。しかし肩は震えており、顔色もどんどん悪くなっている。まずいな、PTSDかもしれない。

 

「篠田ちゃん、ちょっと保健室行こう。」

 

「あ、あたしが連れていく。牧野は?」

 

「俺も行くよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「瞳ちゃん、大丈夫?」

 

「……すまない。」

 

「参加の事は深く聞かない。けど、どうして今まで黙っていたのさ。勝卯木蓮って学園長の孫だよね。学校ぐるみでそんな非現実的な話……。」

 

「やはり、勝卯木蓮が黒幕だったのか。私は自分が巻き込まれたコロシアイを世間に公表したい。あのコロシアイを事故として揉み消されたまま終わりにしたくない。」

 

「事故……あ、もしかして、学校の研修先で火事が起きたって話が出てた……?火事じゃなかったって事?生き残った人達は精神的ダメージが大きくて退学したって聞いてたけど。」

 

篠田さんは高堂さんの質問に頷き返す。

 

「火事ではない……いや、あの後コロシアイを隠すために施設ごと燃やしたらしいな。だが、コロシアイが起きたのは事実だ。」

 

「ちょっと待ってよ。なんでコロシアイなんて物騒な事を学校内で、それも学校の関係者が起こすのさ。目的はないの?」

 

「……超高校級の説得力。奴等はそれを探している。才能のある人物に恐怖を与え他の人物にも同じように超人的な才能を植え付けたいらしい。」

 

「はぁ?」

 

まるで意味が分からない。そんな事をして何になる?

 

「理由は私も知らない。篠田家……私が住んでいるところは以前から制偽学園を怪しんでいてな、丁度調査をしている。が、ここは寮制。私に情報が届くのは先になってしまう。勝卯木蓮が電話をしていた相手が誰なのか、何故隠蔽されたコロシアイの話が再び持ち出されているのか……。」

 

「……あたし、勝卯木蓮に接触してみる。」

 

「あ、危ないよ高堂ちゃん!やめなって!」

 

「そうだ、いくらなんでも危険すぎる。それこそ私がやるべき任務だ。」

 

「でも、あたしは勝卯木蓮の連絡先を持ってる。何か手を打たないと、嫌な予感がする。」

 

「……。」

 

本気だ。

止めるのも違う、かといって無理してほしくない。何かあってからでは遅い。

 

「……俺も協力するよ。篠田ちゃん、やった方がいい事とかあれば教えて。」

 

「……感謝する。」

 

 

篠田さんは深々と頭を下げた。通りで今まで僕達にあまり関わってこなかった訳だ。無理矢理にでも絡みにいかないとまず話すことがない。それも周りへの警戒からだったみたいだ。

 

とりあえず、高堂さんが危なくならないように僕が守ろう。

こういう時のために彼女の近くにいられる資格を手に入れたんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこから先は怒涛の忙しさだった。それこそ、僕が牧野いろはとの乖離に対して思い悩む暇もないくらいに。

僕達3人の話で皆も納得し、協力して『制偽学園破壊計画』を企てた。

 

普段と変わらぬ態度で学校の目を欺きながら、僕達は次々と制偽学園の隠し持った情報を明らかにしていった。

 

 

「あ。」

 

「柳原さん、どうしたんですーかー?」

 

「警視庁にハッキングできました。へへ、がんばったかいがありました!すごいですよ情報の量が!」

 

「ほわー!!なんでもできちゃいまーすねー!」

 

「アタシら、もしかしなくても犯罪集団になってる?」

 

「……今更だよ、スパイだの怪盗だのがいるのだからね。これは昨日の研究のレポート。コピーしてきた。」

 

「はぁー?あ、どうも。」

 

「そーそー!正義の為っていう目的があるし!!でも美亜今月の締め切りが迫ってて……今日はちょっと早めにお暇するね!」

 

「俺も試合の準備あって……。ごめんね……!」

 

「おつー。」

 

こんな感じでその日に時間のある人達で集まって作業をする事になった。

倉骨研究所の情報を俺達に横流ししいてる東城だってバレたらタダでは済まないと思うけど、彼なりのけじめなのだろうか。自分のいた研究所もコロシアイに加担していたと知ったから……。

 

 

「……あのさ、前にアタシ、資料室に忍び込んだって言ったじゃん。」

 

「そうですね。そういえばその理由、珠結たちは聞いておりませんね!」

 

「アタシが一緒に怪盗として活動していた人たちと、連絡が取れなくて。」

 

「……!!!」

 

「あの人達は超高校級の人間じゃない。でも、なんか、……」

 

「……無事だと、いいですわね……。なんだか、本当に全てが繋がっているんじゃないかというくらい、嫌な事が起きすぎですわ……。」

 

 

 

 

 

「オレ、力になれるよ。」

 

 

 

 

 

 

「へ?ロザリオが、力に……?」

 

しばらく宮壁が話さないと思ったら、ロザリオに変わっていた。

 

 

「オレ、ずっと言わなかったけど、説得なら得意だから……それで、先生とか、その勝卯木蓮って人も説得すれば、全部解決するよね?オレ、皆が変な事に巻き込まれるのいやだよ。」

 

 

 

 

 

『説得』?

 

 

 

 

 

コイツじゃん。

 

 

 

 

コイツこそ、勝卯木蓮が探している人間だ。コロシアイの原因だ。

そっと高堂さんの方を見る。同じ事を考えていたようで、僕達の間に緊張がはしった。

今日は篠田さんはいない。よかった、最悪の事態は避けられそうだ。

 

どうする?ロザリオの力を借りて計画を進める?篠田さんとの和解が先?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんて、僕の必死な思考はここで終わりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『高堂光さん。学園長室まで来てください。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

「という事で、高堂さんが相応しいと僕は結論づけている。どうかな。」

 

 

 

「……そんな事で呼んだのですか。正気とは思えません、勝卯木先輩。」

 

「たしかに正気ではないだろうね、だけど、試す価値もあれば、技術も人員も揃っている。やるなら今だ。」

 

勝卯木先輩の異様な迫力にあたしは気圧されていた。

 

コロシアイの事ではなかった。

 

 

突如降ってきた『天使計画』への参加の提案。

 

 

不死身になって世界を創り続けるだの、機械的なイヴになるだの背筋の凍るような宗教じみた話を解説される。

 

 

 

「そんな話、何故急に、」

 

「悪魔の正体も、君は知っている。違うかな?その人が常に才能を発揮できる状態にして、君の言う事を絶対に聞くように躾ければ、君とその子で絶対的なルールの体現者になれる。」

 

「そもそも、何故あたし、いえ、私を……もっと親切な人はいると思います。」

 

「……いろいろ条件があるのさ。そうだ、計画に乗るなら弟くんの医療費を出してあげよう。」

 

「そんな事、他人にお願いする程貧困に飢えてはいません。」

 

「そうか、じゃあ、家族が今後働かなくていいように全ての資金援助をしてもいい。」

 

「この計画だっておかしいです……!!そんなもの成功するはずがない……!!!」

 

「成功するよ。全人類を同じ思想に揃えて、機械的な生活を送らせられたなら、それは恒久的なものとなる。」

 

「……拉致があきません、こんな事私は絶対に認めな」

 

 

 

 

 

「じゃあコロシアイを始めようか。」

 

 

 

 

 

あたしの頭は、その一言で真っ白になった。

 

「……コロシアイって、先輩方がやってた、」

 

「ふふ。天使計画の事はさておき、本題はこっち。カマをかけたんだけど、やっぱり知ってるんだ?」

 

「!!!!!」

 

慌てて口を抑えても、何も取り繕えない。

 

「誰が情報を流した?君達が生存した人達とつながりがあるとは思えな……ああ、瞳ちゃんかな?クラスメートにそんな話をするなんて、あの子も随分クラスメートを信用できるようになったんだね。」

 

この人には隠し事なんてできない。きっともう何もかもお見通しだと、頭でうっすらと理解し始めていた。だけど認められなかった。認めたくなかった。

 

「先輩は、何がしたいんですか。」

 

謎の威圧感で、まともに頭が回らない。

勝卯木蓮はあたしの顔を一瞥するとおもむろに携帯を取り出し、誰かに電話を繋いだ。

 

「……もしもし、倉骨さん?僕です。白木くん捕まえてましたよね?確定なのでやっちゃって大丈夫ですよ。ついでに篠田家の連中も全員逮捕しちゃいましょう。はい、堀本さんに伝えてください。あの人達、結構いいところまで来てるみたいなので。」

 

「先輩、答えてください、」

 

「そうだ、今度天使候補の子達も連れていきます。ええ、中でも1人僕が推してる子がいるのですが、なかなか考えを曲げてくれなくて……そうでしょう?僕もそう思います。そういう子こそ向いてるって……」

 

「先輩!!!!!!!」

 

力任せに先輩からスマホを奪い取る。今更自分の言った事は取り消せない、せめて相手の番号を

 

 

 

 

「痛っ…………!」

 

 

 

気がついたらスマホはあたしの手ごと踏みつけられていた。割れた破片があたしの手に突き刺さり、血が床に垂れた。

 

 

 

「さすがにおいたがすぎるな。そんなにやんちゃな子だったなんて。」

 

「倉骨……東城の……あとは、警察ですか?随分頼もしい味方がいらっしゃるんですね。」

 

「わあ、そんなに怖い顔もできるんだね。怒っているのか知らないけど、僕だって事情がある。それを説明して、皆に信用してもらっているだけだ。」

 

「じゃあ、あたしにもその事情を説明してください。きっと納得なんてしませんが。」

 

少しくらい言い返してもいいだろうと棘のある言い方を選ぶ。

しかし勝卯木蓮は逆に目を輝かせた。

 

「……!!やっぱり君が一番適していると思っていたんだ……!!仲間の為に少ないヒントでも得ようとするところも、自分の意志を絶対に曲げないところも、それでも他人の意見を聞こうと手を差し伸べるところも、何もかもが完璧だよ……!!!!」

 

先ほどまでこの人に手を踏みつけられていたのに、今度はその手をとって微笑まれた。

 

「破片を取ってあげる。痛かったよね。」

 

色白の細い指があたしの手の甲をなぞり、丁寧に刺さった破片を取り除いていく。その間、あたしは何も声を出せなかった。

 

「……。」

 

「そうだ、最近君のクラスメートの大渡くんのお母さんも収容されたところだよ。そちらは何も関与していないけれど、君が了承するならその実験を止めてもいい。制偽学園の生徒だった白木くんの実験も中断してもらおうか。」

 

「な、」

 

「難波さんの怪盗仲間もまだ命はある。どうかな、勿論、先ほど話していた弟くんの医療費もご家族の生活費も負担しよう。」

 

「そうだ、もっと素敵な事を教えてあげよう。」

 

「君達のクラスに超高校級の説得力、もとい悪魔がいる事も、クラスで僕を告発しようとしている事も、僕は把握しているんだ。彼にショックを与えるためにコロシアイをさせようと考えていたのだけれど……」

 

 

 

 

 

 

「君が彼らの計画を壊してくれるなら、コロシアイをやめて他の方法で考えてあげよう。」

 

 

「高堂さん、僕に協力してくれるかい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だめだ。あたしじゃ勝てない。

 

宮壁が、ロザリオが悪魔だなんて、どの口が言うのか。

 

 

 

 

 

 

 

正真正銘の悪魔は、あんただろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

「分かり、ました…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高堂ちゃん。」

 

絶句したままのあたしを待っていたのは牧野だった。あたしの、好きな人。

 

「ねえ、大丈夫……?何があったの、何言われたの、俺に話せない?」

 

頷くしかなかった。言ってしまったら、牧野まで巻き込まれるに違いない。巻き込みたくない。あたしが1人でどうにかすれば。

 

「……。」

 

「高堂ちゃん、……大丈夫、俺、ずっといるよ。」

 

何も言わずにあたしを見て微笑む牧野を、見ていられなかった。

こんなに優しい人をあんな奴のコロシアイに参加させたくない。死ぬかもしれない環境に牧野を連れていきたくない。地獄に手を引かれるのは、あたしだけでいいんだ。

 

こんな目に遭っているのは、きっとそれまでに十分すぎるほどの幸せを享受したからだろう。

 

 

 

……我慢しよう。

 

 

そう、決心がついたあたしの目に映った牧野は、微笑んでいなかった。

 

「何それ。」

 

 

「え?…………あっ、」

 

 

 

 

 

 

牧野の目が、あたしの手に向いていた。咄嗟に隠す。

 

 

 

 

「何されたの。」

 

「いや、これは本当に大した事じゃ」

 

「されてるじゃん。勝卯木蓮がやったの?」

 

「違……。」

 

「そうなんだ。」

 

「ちがう、待って牧野、あの人に関わっちゃだめ。」

 

「こんな事されといて?お願いだから危ない事しないで……俺、高堂ちゃんがいないとか、嫌なんだ。」

 

「……ありがとう。」

 

「……俺にできる事、本当に何もない?」

 

牧野はすごく哀しそうな顔をしていた。

何もかもに申し訳なかった。

 

あたしは弱いから、1人で皆の計画を壊す事が怖かったのだと、今になって気づいた。

 

 

 

「……お願い、してもいい?」

 

「わかった。俺なんでもするよ。」

 

牧野は、あたしがお願いの内容を言う前に了承するような人だ。

だからこそこんな事頼みたくなかったけど。

 

 

 

 

 

 

「皆の計画を一緒に止めてほしい。」

 

牧野は驚いたように目を見開いた。けどそれも一瞬で、すぐに笑顔になる。

 

「任せて。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、僕はたまたま仕事で学校にいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「計画の中止って、なんで?」

 

「それは言えないけど、本当に待って。絶対やめた方がいいと思う。お願い。」

 

「とはいえ、理由も分からないのにそれを受け入れるには……。」

 

「お願い……」

 

「光ちゃん、勝卯木蓮に何か言われたんでしょ。オレあんな奴に負けない。」

 

「ロザリオ、待って、」

 

「言いなりになっていては何も始まらない。そちらの理由を明かしてもらえないのにこちらが言う事は聞けないよ。」

 

「せっかくいろいろ調べたのだ。ここで諦めては私は……。折角のチャンスを失いたくない……」

 

「そうじゃないの、信じてもらえないかもしれないけど……!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心配になって、仕事の帰りに高堂さんの元を訪ねた。

 

追い返された。

 

今は1人にしてほしいと言われた。

 

すぐに分かった。アイツらが、高堂さんを1人にしたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

一目見れば、彼女が悪意をもって計画に反対しているはずがない事くらい分かるじゃないか。

 

今まで彼女がどんな人か見てなかったのか。

 

 

 

 

 

それとも。ロザリオが他の皆を説得した?

 

 

 

 

 

彼女を追い詰めた人間が、こんなに沢山いる。

 

 

 

何故彼女だけがあんな思いをしているのか理解できない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

友だちなんて言ってたのが馬鹿らしいな……。

 

 

 

 

 

 

 

「…………………。」

 

「…………さん。」

 

「…………………。」

 

「あの、牧野いろはさんですよね?」

 

 

 

 

 

 

「え、」

 

気配もなく聞こえた声に後ろを振り返ると、長い黒髪を二つに結んだ女子がいた。

 

「……誰。」

 

「勝卯木蘭です。去年一緒のクラスだった……。」

 

「ああ……。」

 

聞き流そうと思ったけど名前で思いとどまる。勝卯木?

 

「勝卯木蓮の。」

 

「妹です。すみません、少しお話いいですか?」

 

「……。いいよ!」

 

 

 

 

 

あは、最初はコイツでいっかぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「牧野、まだいる?もしよかったら少し話………………」

 

 

「……なんて、いないよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、話って何?」

 

「今度コロシアイをやる事が決まったんです。牧野くんのクラスで。」

 

「…………は?」

 

「だけど、高堂光さんは不参加なんです。天使だから。」

 

「天使?」

 

いや、高堂さんが天使なのは同意だけど、誰?って感じの距離感の人ですらそう思うのは考えにくい。別件だ。

 

「天使計画っていう、お兄様が関わっている計画に参加するんです。」

 

「何それ。」

 

「詳しい事はお兄様に聞いてください。お兄様、どうぞ。」

 

勝卯木の言葉に合わせて何歳か年上の成人男性が入ってくる。小綺麗な顔に僕と同じような作った笑みを浮かべていた。

 

「妹がお世話になったね。兄の勝卯木蓮です。よろしく。」

 

「お前、高堂ちゃんに怪我させたろ。」

 

握手を求めてきた手を払いのける。

そんな事では全く表情を変えないそいつは、淡々と天使計画の説明、そしてコロシアイの実行日を伝えてきた。

 

「……は?なんで俺には実行日を教えるの?コロシアイさせるんでしょ。」

 

「君には裏切り者として、僕達と一緒にコロシアイの運営に携わってもらいたい。」

 

「誰がお前らなんかとするかよ。……もういいですか。」

 

「そう言うと思って提案を用意してきたよ。」

 

「天使計画の天使候補は何も高堂さんだけじゃない。他にも数人見繕ってるんだ。」

 

嫌な考えが頭を回る。たぶんそういう事だ、こいつ…………

 

 

 

 

 

 

 

「君が僕達に協力するなら、高堂さんを天使候補から外してあげる。今は超高校級の説得力の人格に主人格を乗っ取ってもらう方が先決だから、コロシアイを起こす方が大事なんだ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺を脅すんですか。ほんと汚い奴……」

 

「!!お兄様を悪く言わないで!」

 

「汚い奴を汚いって言って何が悪ぃんだよ!!!!!お前らが高堂ちゃんを脅して言う事聞かせてんだろうが!!!!!!!コロシアイだって、俺の友達をそんなもんに巻き込ませる訳ないだろ!!!!!!」

 

「ひっ……。」

 

「急に怒鳴るのは感心しないな。この子は怒鳴り声が苦手なんだから優しくしてあげてくれ。」

 

「はぁ……?お前らだけに人権があるのはおかしいだろ……。僕達は何も悪い事してない……。」

 

「あっ…………お兄様、えっと……。今の。」

 

「ああ。それが君の本性か。やっと会えたね、■■くん。」

 

「!!!!!!!」

 

「僕がずっと用事があるのは君だよ。ようやく本心で話してくれる気になったんだね。」

 

「……。」

 

僕に、用事。

この数年間で、初めて言われた。

 

 

あれ、

 

違和感が背筋をなぞる。気づかない方がまともでいられたのに、どうして今更頭を駆け巡るのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『僕の』友達なのに、皆は僕の事を何と呼んでいたっけ

 

 

 

 

 

 

「牧野」

 

 

 

 

 

 

僕じゃなかった

 

 

 

 

 

 

何故忘れていたのだろう、皆は『牧野いろは』の友達であって、僕の友達じゃない。

 

皆が好きなのは俺で、僕じゃない。僕が誰なのか、誰も知らない。

 

 

 

 

 

 

コロシアイを止める?何故僕が、牧野いろはの友達を助ける必要がある?

他人同士のコロシアイに、何故僕が関係しているのだろう。

 

 

 

 

 

止めなくていいじゃん。

 

そもそもコロシアイのきっかけは宮壁大希だ。

余計な事をして勝卯木蓮に目を付けられたのは、牧野いろはを含む特別学級の愚か者達だ。

 

何もしていない僕が、そんな愚か者の為に命を賭ける必要がどこにあるというのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

存在しているのは、『僕』が好きだった高堂光その人だけだ。

 

であれば、全てにおける最優先事項も、必然と決まってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「高堂さんを追い詰めたあの人達を苦しめるだけでいいんですよね。」

 

「そうだよ。」

 

「じゃ、じゃあ、協力してくれるの……?」

 

「はい!僕でよければ!その代わり、約束はちゃんと守ってくださいね!」

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイを上手く誘導して、宮壁大希という人格を消す。

 

心理学の勉強がこんなところで高堂さんを救うための役に立つなんて!

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイが終わったら次はこいつらの番だ。こいつらも地獄に落としてあげよう!

 

僕は意気揚々と部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■くんは僕達の事も殺そうと考えてるみたいだね。」

 

「えっ!?お兄様、どうするの……?」

 

「勿論、彼の記憶も消すよ。僕の『人望』のおかげで僕達の処理がクラスメートより後回しになっただけで、彼が完全に僕達の味方になる事はないだろうからね。」

 

「あの子がその気なら、僕も全力であの子を利用させてもらう。お互い様さ。」

 

 

 

「天使計画に携わらないのは倉骨さんが許可してくれた。天使計画から外すという条件は満たせたんだ。つまり高堂さんは協力者ではなく、僕達の話を1番よく知ってる厄介者になったんだよ。」

 

「高堂さんとあの子もコロシアイに参加させよう。記憶も消してね。」

 

「……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「牧野、何やってるの…………?」

 

 

 

 

 

 

「何って、俺は何もしてないよ。高堂ちゃんは早く帰りなよ。」

 

「どういう事!?ねえ、なんで皆倒れてるの……!?」

 

牧野は何も答えない。何を考えているのかまるで分からない真顔のまま、あたしの方に近づいてきた。

 

「何……?答えて、牧野。お願い。」

 

「……高堂ちゃん、これで計画は止められたよ。このまま皆には当分眠ってもらう。その間に記憶をいじるんだって。」

 

「記憶……?さっきから何言ってるの……?」

 

「高堂ちゃんもだよ、計画とかコロシアイとか……」

 

「全部忘れて。」

 

「……?」

 

まただ、また悲しそうな顔をした。忘れるって、何?どうしてあたしがそんな事。

勝卯木蓮には学園破壊計画を止めるのを受け入れる事を条件に、コロシアイからは手を引き、倉骨研究所の実験を数人打ち止めしてくれるという約束をしたはずだ。あたし自身が記憶を失うなんてそんな話、どこにもなかった。

 

「牧野、まさか、あんたも何か言われて脅されてるの?ねえ、何言われたの!?」

 

「……牧野なんて人間、この世にいないんだよ。」

 

「は……?なんでそんな事言うの、意味分かんない……!!!!あたし、あんたが話してくれるまでずっとここにいるから!!!」

 

牧野はあたしの後ろに声をかけた。

 

「後はよろしく。つれていってあげて。」

 

「え、誰…………」

 

 

そこからあたしは気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くれぐれも丁寧に扱えって言ったよね。親子揃っての登場どうも。……倉骨さん。」

 

背の高い女と、その横でにこにこしている女子中学生を睨みつけた。よくこんな状況で笑えるな。

 

「高堂光……惜しい人材だが、君に免じて天使候補からは削除させてもらった。彼女の記憶を消去次第、我々の方で元の生活に戻れるよう、手厚くサポートする事を誓おう。」

 

そう言うと倉骨佳依……倉骨研究所の所長は、気絶した高堂ちゃんの様子を確認し始めた。

 

「こう見えて母さんは約束にはとっても律儀な人なので、安心してくださいね。あ、自分としては人体実験にそもそも反対というか、全くどうでもいいというか……。とにかく、自分も気をつけるんで。高堂先輩の身柄に関してはお気遣いなく。」

 

「うるさ。」

 

「牧野先輩、テレビで見るより随分と態度悪いですよねぇ。あ、自分、志を求める真、と書いてシグマ。倉骨志求真と言います。どうぞよろしくです。そうだ、質問いいですか?」

 

握手を求めてきたが無視を決め込んだ。が、何事もなかったかのように質問をぶつけてくる。

 

「自分、牧野先輩と高堂先輩の馴れ初めが気になってて!あはっ♡先ほどの会話劇、めっちゃ滾りました……!ふふふ、やっぱり恋愛とか宗教染みた憧憬とか愛情って本当に良くて……!牧野先輩も高堂先輩も、精神構造が一般の人と異質と言いますか、とにかく異常なまでの犠牲心を見て興奮しちゃって!!母さんは世のために薬をせこせこ作ってますけど、自分それには微塵も興味なくて、ただひたすらおもしろい人の観察をしていたい質でして……!」

 

「志求真、ちょっかいも程々にしろ。協力する相手への礼儀というものがある。」

 

「あぁ、確かに…………ごめんなさい。」

 

「……別に。」

 

そろそろその綺麗な顔を殴ってやろうかと思っていたら、ちょうど倉骨さんが準備を終えたようだった。

 

 

「勝卯木蓮のコロシアイに巻き込まれないよう、くれぐれも宜しくお願いします。アイツの事だから何か裏を回してると思うんで。」

 

「……善処しよう。」

 

「確実に、お願いします。」

 

「不確かな事に肯定はできない。」

 

「母さん堅物なんですよ、すみませんねぇ……。」

 

「……倉骨さん、コロシアイの中で同じ研究所の人がいると思うんだけど、それについてはどうお考えで?」

 

「天使計画はともかく、コロシアイに関しては私は無関係に等しい。いや、悪魔を炙り出す為の精神負荷は必要不可欠だが、コロシアイのメンバーについて私は口出しした事がないという事だ。君がどういった答えを期待しているのか知らないが……そうだな。」

 

「必要な犠牲であれば仕方あるまい。優秀な人間だから、そうならない事は願っているがな。」

 

顔色1つ変えずそう言い切る倉骨を見て安心した。

もし僕の復讐の余波が倉骨に届いたところで、全く良心は痛みそうにない。

 

 

 

「……君にもう1つ話しておきたい事がある。志求真、部屋から出ていろ。」

 

「はーい。」

 

子どもを追い出して何を始めるのか。倉骨さんの次の言葉を待つ。

 

「……これは、仮にの話だ。仮に、勝卯木蓮が我々の想定を上回っていた場合…………」

 

 

 

 

その次の言葉に僕は目を丸くした。

 

「母親なんですね。曲がりなりにも。」

 

「何、君と私で予防線を張ろうというだけだ。あの男は我々を駒として見ているのがいけ好かない。君の方が純真でまっすぐだ。お互い利用しない手はないだろう。君の要望も聞こう。」

 

「……じゃあ、倉骨さん、代わりに俺がコロシアイする時はすっごい毒でも用意してくださいよ。あなたの部下でもどうにもできないヤバいの。」

 

「……ふふ、私が自分で調合をするのは久々だ、腕がなる。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……。」

 

結論から言うと、倉骨佳依と牧野いろはの間に結ばれた約束は反故となる。

倉骨佳依が高堂光やその他特別学級の面々を連れて研究所に戻り、記憶消去を終えた頃。

 

警察の参入により全員の身柄を確保されたのであった。

 

「母さん、帰ってきたらびっくりするだろうなぁ。」

 

ただ1人、倉骨佳依の娘である少女、倉骨志求真は一部が損壊した研究所の中をうろついていた。

倉骨佳依が警察に事情聴取を受けている間、中学生の娘は先に研究所に戻り、倉骨研究所の惨状を目の当たりにする。

 

「おーい、起きてます?……あ、死んでる。」

 

倒れた柱で下敷きになっている研究員を覗き込み、彼女はその死亡を確かめた。

 

「……居心地よかったんだけどなぁ。母さんもいつ戻るのやら。」

 

天使計画に使用されるもの以外の施設を警察に取り押さえられ、何カ所かもぬけの殻となっている。彼女は黄色いテープの中退屈そうに散歩していた。

 

「まさか牧野先輩と手を組んだがために、うちが警察や勝卯木蓮から手を切られるとは。も~、牧野先輩、ちゃんと考えて行動してくださいよ。うちの家半分くらいなくなったんだけど。いいなぁ、せめてコロシアイでも見せてくれたらおもしろいんだけど、牧野先輩の連絡先なんて知らないし母さんはいつ帰るか分かんないし。」

 

「……待てよ、なるほど。高堂先輩をコロシアイに巻き込む事で、牧野先輩にコロシアイ内で好き勝手出来ないように牽制してるんだ。頭いいな。コロシアイ運営とかやる時は協力者の人質をとるといいのか。私はやらないけど。」

 

 

倉骨志求真は親に違わず頭の回転が速い人間である。だからこそ、

 

「ふふふ……!勝卯木蓮先輩の暴走もここまでじゃない?牧野先輩を敵に回したら何されるか分かんないよ?それこそ、勝卯木蓮先輩の大切な人が殺されちゃうとか!」

 

勝卯木蘭の死亡、そして牧野いろはによるコロシアイの乗っ取り。それらを予想する事は容易い事であった。

 

 

「え、見たい!そうでなくてもコロシアイなんて極限状態、たくさんのおもしろい人達がおもしろい事してくれるんだよ?私も見たくなってきちゃった。どうにかしてコロシアイを観戦できないかなぁ。……そうだ。」

 

脳裏によぎったのは、記憶消去の技術が適応されない超人的な記憶力を持つ、牧野いろはのクラスメート。

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

「あの人達のところに行ってみよう。警察相手にするのは骨が折れるし、母さんと牧野先輩の約束が破れた今、私達も何されるか分かんないけど……うん、いい方向には転ぶはずだよ。」

 

これら一連の独り言を全て無表情で言い切ると、彼女は研究所を去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、青い空が広がっていた。

 

 

どこかで頭を打ったのか、とても頭が痛い。

 

俺の名前は、牧野いろは。超高校級のメンタリスト。

 

……なんでメンタリストなんかになってんだっけ。

特別学級、制偽学園。それについては覚えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

覚えていなかったのは。

 

 

 

 

「牧野、何やってるんだ?」

 

「ひっ!?…ってまた宮壁か脅かすなよ!ちょっとあそこにいる女の子を見てよ。」

 

「それで、あの子がどうかしたのか?」

 

 

「……タイプ。」

 

高堂光ちゃん!

なんてかわいいんだろう!

俺のキャラのせいで第一印象最悪だけど、これから仲良くなれるかな……?

 

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた矢先に桜井ちゃんが死に、学級裁判なるものが開かれた。

 

友達だと思っていた端部を、友達だと思っていた宮壁が追い詰めて、仲間だったはずの俺達で処刑台に送りだした。そんなの、俺に……僕に耐えられるはずがなかった。

 

 

三笠に僕を見ていると言われて嬉しかった。三笠の事は信じよう。他の皆も、きっと段々信じられるようになる。

裁判とかコロシアイとかで皆おかしくなっているだけで、本当はこんな人たちじゃないはずだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「牧野……これ。」

 

「ん?勝卯木ちゃん、これって……」

 

「牧野の動機。」

 

は?三笠達との話し合いでむやみに見せるのはやめようという話になったばかりだったはずだ。

 

「……何言ってんの勝卯木ちゃん、そんなもの見ないよ、俺。」

 

「知ってた方……が、いい……怖い事、書いてない……。」

 

「……えぇ……?何させる気?」

 

「……。」

 

埒が明かない。引き下がる様子ではないのはなんとなく理解した。

 

「分かった、もらうだけもらうから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

るんるん気分で僕は自分を殺す準備をしていた。

 

動機には高堂ちゃんと自分が付き合っていたらしい証拠が残されていた。どこで撮ったのか学園の様子。もしかして俺達全員友達だったりして。そんな考えが頭を掠めたけど、それよりも、何よりも大事なのは!

 

「高堂ちゃんって俺と恋人だったんだ!さすが牧野いろは、人気者だね!」

 

あははと1人で笑った。高堂ちゃんは何の事かさっぱり知らないらしいけど、それもそのはず。これって僕しか覚えてない事だから!

学園で何があったのか、そんな事覚えてないしどうでもいい。とりあえず今は牧野いろはと一番親密だったであろう高堂さんを外に出す事が先決だ。

 

ずきずきと刺されたお腹が痛む。包丁を抜いてダストホールに投げ捨てた。やばい、血出てきた。

 

「ふぅ……死ぬのかぁ、俺。」

 

極限状態によりテンションがこれ以上ないくらいハイになっている。周りの景色も光り輝いていた。

 

ダストホールに腰かけた時、ちょうど視界に扉のついたてが見えた。

あれ、あんなもの使ったら高堂さんだってバレちゃうよ、捨てないと……

 

そう立ち上がろうとした僕に、立ち上がるだけの体力が残されていない事なんて気づけるはずもなく。

 

 

 

僕はそのまま転落する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だめーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危ない、ほんと、危なかった……!!!!いろはくん、死なないで!!!待って、今手当するからね!私初めてだけど、がんばって応急処置のやり方覚えてきたの!!」

 

 

 

 

 

 

「……は?」

 

ダストホールの後ろから背中を押され、床に倒れ込む。後ろから現れたのは勝卯木さんだった。

 

「あのね、治したら一旦ダストホールに落ろすから!時間ないから、説明はちょっと待って!」

 

 

めちゃくちゃな手順でどうにか包帯を巻き、ゴミ捨て場の床に輸血パックを撒くと僕の服にもかけてきた。

 

「これで死んでる風になるよね、よし、じゃあ下りてきて!」

 

訳も分からず引きずり降ろされる。待って、あのついたてを片付けなくちゃ、高堂さんが、

 

「ねぇはやく!時間ないんだよ!!!ゆうまくんが見てたの気づかなかったの!?」

 

「何、は、え……?」

 

 

 

 

 

混乱した頭は冷静さを取り戻せず、言われるがまま梯子を伝ってダストホールに下りた。

 

「……うっ……。」

 

「わーっ!貧血!?大丈夫!?えっと、じゃあこの辺で転がってて!」

 

勝卯木さんはどうにか瓦礫の山に僕を座らせる。持っていた輸血パックの予備をいろんなところにかけると、

 

「いい?しばらく動いちゃだめだからね!!!こんなの聞いてないんだから!!」

 

そう言い聞かせると、使っていた梯子を僕がいる隣の瓦礫の山に向かって押し倒した。

それとほぼ同時に、僕は貧血に耐えられず目を閉じ、気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

……ガッシャアアン!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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