「お?いろはくんおはよう!…え?なにやってるのか?なんでお前がここにいるのか?何をしたらいいか?質問多いね!うるさいよ!って無理ないか!さっき自分が裏切り者って事を思い出したんだもんね。」
「死体発見アナウンスに特殊な音波を混ぜるの、大変だったんだよ。」
……。
そうか、お前が黒幕だったんだ。思い出したよ。
「そうだよ。ボクくんが黒幕。かっこいいしかわいいでしょっ!」
「キミは裏切り者だから、もしコロシアイが起きない日が1週間続いたら…そうだなあ、この人以外を殺してね。え?なんでこの人はダメなのか?そりゃこの人が正真正銘悪魔だからに決まってるじゃない!あれ?キミはこの事知ってるはずだよね?」
そうだった。ヤバい、思考回路が完全に止まって何も考えられない。
「もしかして、急にいろいろ思い出しちゃったから頭が混乱してる?」
「まさか自分が裏切り者だなんて知らなかったからびっくりしちゃった?」
裏切り者。
「あーあー、泣かないでよ、よしよーし…って、痛っ!急に手叩かないでよ!」
……俺は、僕は、何やってるんだ。
「いぴぴ、怒ってる怒ってる。怒って忘れてるのかもしれないけど、これから裁判だよ?ほら、お互いやるべき事をしようよ。ね?せっかくボクくんに仲間が増えたんだもん。相性抜群のパートナーとは言い難いけど、それでも協力せざるを得ないもんねっ!がんばろーよ!……あ、そろそろ行かなきゃまずいかも。」
「いろはくん、ここでいい子にして待っててね。」
裏切り者、それが僕の役割だった。
どうしよう、どうしてこんな事になってるんだ。高堂さんは?違う、それだけじゃなくて、どうしよう。
気づき始めた僕の感情に無理矢理蓋をする。こんな事自覚したらすぐにでも死んでしまいたくなる、今はだめだ。
これは牧野いろはが感じてるだけで、僕の感情じゃない!!僕は一度もこんな事考えてない……!!!
ぐわんぐわんと脳が揺れる。今までの記憶とコロシアイで過ごした記憶とがごちゃごちゃになって、それは解けないまま頭を支配していた。
かろうじて勝卯木蘭が出ていく姿だけ目に映すと、僕の意識は再び暗転した。
目が覚めた。
どれくらい気を失っていたのか、先ほどのダストホールではない、見知らぬ天井が広がっている。どうやら寝転がって倒れているらしい。
手首に痛みを感じたので視線をやると、両手両足が紐で縛られていた。
ぐるぐるといろんな事が思考を巡る。一度に大量の記憶が戻ったからか、意識は混沌としていた。今はとりあえず考える事をやめた方が良さそうだ、そう思い至って目を閉じ
「やあ!牧野クン。」
させてはくれなかった。
「モノパオ……。何ここ、どこ……?」
「ここはまだミンナが来られない部屋。牧野クンをしばらくここで監禁させてもらうよ。」
「…………。お前、勝卯木蘭じゃないだろ……」
「気づくのが早いね。今はモノパオを通して喋っているから声は機械音声のままなんだけど。」
「改めて、久しぶりだね。■■くん。」
「……勝卯木、蓮。」
「そんなに怖い顔で睨まないでよ。仮にも仲間でしょう?」
「!!!そうだ、なんで高堂ちゃんも俺もコロシアイなんかに巻き込まれてるんだよ!!話と違う!!!それにこんなところに連れてきて、俺の扱いはどうなって……!!!」
「分かった、1つずつ答えよう。なぜ君達がコロシアイに参加しているのか、それは君達に好き勝手させないため。」
「……。天使計画から外すって言った癖に……」
「天使計画からは外しているよ、だけどコロシアイに参加させないなんて約束は1つもしていない。倉骨さんとも話をしたんだろう?」
「倉骨の奴、約束を破ったのか……!?」
「ううん、あの人は狂人だけど約束事には真摯だからね。ただ、君がこちらをやけに警戒するから彼女達を邪魔させてもらった。天使計画や記憶操作、その他重要な施設は壊していないけれど、僕達を一方的に利用できるなんて思わない方がいい。」
……あの中学生が今何してるか、それも聞いた方が危ないかもしれない。荒ぶる感情とは別に佇む理性がそう諭し、僕はギリギリ口にするのを止めた。
「……警察か。でもそれを使えばお前も終わりだろ。」
「いいや?彼らは僕の仲間だからね。ふふ、驚いてる。僕の才能、忘れちゃった?」
「超高校級の人望、でしょ。表向き生徒会長って才能にしてたけど、本当に恐ろしいのはその引力……。警察を引き込めるほどだなんて想像してなかった俺が悪いって事かよ。」
「正解。よく覚えてたね。ところで、そろそろ■■くんと話がしたいな。牧野くんには用が無いんだ。」
「……どっちにしろ、お前らにこれ以上滅茶苦茶にされてたまるか。事件はどうなったんだ。僕が死んでいないのにここにいたら……」
動かないモノパオから無機質に響く機械音声の癖に、それは僕の質問に疑問符を浮かべているようだった。
「いいや、君は死んだよ。このコロシアイでは死亡者として扱っている。君があそこで気を失っている間に捜査も行われたし、今は裁判の終盤さ。蘭がモノパオを操作して君をここまで連れてきたんだよ。捜査の終了間際に会いに来てくれていただろう。皆と仲良く会話しながらこっそり君を移動させるなんて、あの子もなかなか器用でしょう?」
「……え。裁判って、終盤って何、どうなってるの。」
「今から見せるよ。ちょうどいいところなんだ。」
電子生徒手帳を手渡される。画面には監視カメラのものと思しき映像が流れていた。しかし、裁判場ではない。高堂さんただ1人が画角に収まっており、他の面々は見当たらない。
まさか。
「なに、これ、」
「おしおきが始まるんだよ。高堂さんはクロとして処刑される。仕方ないよ、■■くんは僕達を手伝う約束だったのに、死のうとするんだから。」
どっと冷や水をかけられた気分になる。
死ぬ?誰が?
高堂さんが???
「お、お願い、やめて、僕が出て行けば裁判なんてなくなるでしょ……?」
「クロがいないのにクロを選んでしまったから、全員おしおきだね。それでもいいの?」
「は……!?なんだよそれ!!!!理不尽だ!!!」
「どうやっても助からないよ。君のせいで、高堂さんだけは、絶対にね。」
「へ?…………いや、ちが、だってお前がやったのに、お前が勝手に俺を死なせないように仕組んだのに、」
「■■くんが勝手に動くからだよ、こんな事する予定全くなかったのに、中途半端に早合点したのが悪いんじゃない。」
「だって、僕は………」
「何をどう勘違いしているのか知らないけど、元々の計画は、■■くんが裏切り者である事を自覚してから、高堂さんを人質にしっかり私達に協力してもらう予定だったんだよ。もちろん高堂さんが死なないようにサポートするつもりだった。それが、■■くんが事件を起こしてしまうから、高堂さんを助ける事が不可能になってしまったんだよ。」
長ったらしい話は、ほとんど僕の耳に入ってこなかった。
何かに引き寄せられるように、目はカメラの映像を移し続ける。
「逃げて、お願い。」
「ねぇ!!!!!逃げてよ!!!!!!!!!!!」
電子生徒手帳に向かっていくら吠えたところで、地下まで声が届くはずもない。
吊り上げられた斧が、高堂さんを真っ二つにした。
「あ、あ………………?なにこれ、」
目の前が真っ暗になるとは、こういう事を言うんだろう。
僕の好きな子は、何か許されない事をしたでしょうか。
僕が何かしたのなら僕だけを苦しめたらいいのに、何故大切な人が酷い目に遭わなければならないのですか?
神様がいるなら、助けてあげてください。
あの子を、あんな恐怖から、絶望から、救ってあげてください。
そんな願いすら聞き届けられない。
小さな画面の中で、高堂さんが死んだ。その間、自分は暗い部屋に閉じ込められて縛られていただけだった。
「……………………はは、」
絶対に殺す。目の前にいるモノパオ、もとい、勝卯木蓮を。
「……言っておくけれど、今回ばかりは僕だって本意では」
「本意かどうかなんて関係ない。」
言い切る前にモノパオを縛られた両手で殴りつけた。思いきり機械の部分に当たったのか、ズキズキと拳が痛む。
「危ない事するね。」
「いつまでもそんなところで優雅にくつろいでいられると思うなよ。絶対にお前を地獄に引きずり下ろしてやる。」
「君がコロシアイに必死になっている間に僕は計画を進めなきゃいけない。君がどう暴れようと、宮壁くんが壊れてくれれば話は進む。」
「……!!!」
僕はその言葉に、一筋の希望を見出した。
こんな従うような事言いたくないけれど、コイツに復讐する為に手段なんて選んでいられない。
「……やるよ。宮壁をダメにすれば良いんでしょ。」
「いい子で助かるよ。じゃ、またどこかで。」
モノパオが姿を消した後、僕は倒れたまま脳をフル回転させていた。
「……………………。」
「……高堂さん、怒るだろうなぁ……。でもごめんね、僕どうしてもやりたい事が見つかっちゃった。」
「……アイツに後悔させてあげよう。全部壊してあげる……勝卯木の計画も、コロシアイも。」
暗がりに転がったままぼうっと無機質なコンクリートを見つめていると、目の端にあの日の教室が映った気がした。あの教室で見た桜が、青々とした葉が、夕陽が、日没後の薄ピンクの空が。
バチバチと、千切れた何かが繋がっていく。あの日、というものを、僕は知っている。
楽しかった思い出が、辛く苦しい出来事が、計画の駒にされた俺が、今の僕と一致していく。
自覚したくなかった事を、ようやく自覚した。
それが牧野いろはの感情なのか僕の感情なのか、よく分からない。
再び電子生徒手帳を覗くと、裁判場で泣いている連中の姿が映っている。画面にそっと触れた。
今、僕はこいつらの命を握っている。どうやらサディストの気があるらしい、ひどい優越感に身震いした。
「……僕の為にオマエラの事も、壊してあげる。ごめんね。」
勝卯木蓮は宮壁大希を壊せと言った。
そうじゃない、僕がしたいのは。
ロザリオの人格を消し去る事だ。僕が気絶させた時は宮壁大希だったから、ロザリオには記憶操作の影響が届いていない可能性が高い。つまり、このコロシアイで1番ダメージを受けるのは、宮壁大希ではなくロザリオだ。
先に潰れるならロザリオの方だろう。
アイツに対するいら立ちも解消する、そして何より、アイツがいなくなれば勝卯木蓮の計画に打撃を与える事ができる。勝卯木蓮の計画を潰すために、何としてもコロシアイを上手く進めていく必要がある。
『皆の事を嫌いになりたくないのだろう?ならお主はいい奴だ。高堂だってわかってくれる。自信を持て。皆自分の事で手一杯だった。だから今日の事は起きてしまった。避けられる方法があったとするならそれは今日1日でどうにかなる事じゃない。信頼が足りなかった。あまりにも短い時間ではどうしようもなかったというだけだ。』
『お主はそうやって反省できる奴だ。前に進める奴なんだ。お主はお主が思う以上に、がんばってる奴だ。』
「……。」
ぐちゃぐちゃだ。皆の事を嫌いだった過去の自分と、皆と仲良くできたつい先日の自分が重なって、前が見えない。
皆を苦しめたい気持ちは変わらずある。だけど…………だめだ、余計な事考えちゃ。
前が見えないなら、自分で勝手に道を作るしかない。
「……全然いい奴じゃないよ、僕。」
□□□□□
目的が決まってからはスムーズだった。
犠牲者数は問わず、己の目的を遂行する。倉骨とやり方が一緒だけどこの際気にしていられない。
自分の考えたコロシアイの流れを崩されたくない。無論、私情なんてものに引っ張られている場合ではない。
三笠があまり元気がない。東城に睡眠薬をもらっているようだ。……。
柳原に動機を返したら早速動いてくれた。それも勝卯木蘭を脅すという最高の形で。
勝卯木がすごい大馬鹿をかましたので宮壁の部屋に挨拶に行った。まだまだ元気そうだ。
安鐘さんの秘密、作った時はあまり深く考えていなかったけど知らないと重いよなと思った。可哀想だったのであまり見ていない。
「いろはくん。」
「んお?何?」
「お兄様がコロシアイに参加してる。」
「ん?え?何?え、怖い。」
「お兄様がコロシアイにいるの……!!!!どうしよう!!!!」
指さしたモニターに映っているのはどう見ても柳原ですが。
「よく見てご覧、あれは柳原龍也くんだよ。」
「違う、だって私あの人のためにずっとがんばって……!!!!」
……あらら、聞いた事ない話をしそうな予感。これに乗じて一旦いろいろ聞いちゃうか。
「何してきたの、具体的に。」
「え、えっと、私はお兄様よりできない事が多かったから、お兄様がいつも助けてくれて……。お兄様の言う通りにしたら勉強も少しできるようになって、足もちょっと速くなって、それで、」
「おお、もう十分。」
「お兄様、私が怒られたらおいしいもの作ってくれて怒る人に反論してくれたの。この世の中にいる人みんながお兄様みたいな人なら、私、もっと素敵に生きられるよ。」
「あー……そうかな?」
しょ、しょうもねぇ!!!!!!嘘、本気で言ってる?それでお兄様信仰始まるの!?怖すぎ!!
「はいじゃあクイズ!どっちが勝卯木ちゃんのお兄ちゃんかな!?」
柳原と勝卯木蓮の画像を並べる。
「……あえ…………?え、あれ、どういうこと、なに……?」
「……こっち。こっちが勝卯木蓮だよ。こっちは違う人。」
「で、でも、言う通りにできるよねって……何、どうなってるの……?」
これ本当におかしくなってるじゃん。まずいな。口で説明しても伝わんないか……。
「……いい加減にしろよ。」
「いっ……!?」
同級生の胸のあたりを殴ってみた。そんなタイトルの動画を出したら大炎上して社会的に死にます。
「……ひ、ひどい、いろはくんなんでこんな事するの、お兄様助けて……」
画像を2枚とも手にして泣き始めてしまったので諦める。これもう戻らないや。
「残念、この部屋の隅っこはカメラの死角なんだよ。もうやらないから安心してお兄様のとこにも戻りな。」
「ぐす……。」
すごすごと帰っていった勝卯木を見送りため息をつく。何か余計な事やらかしそうで困るな……。これで死ぬメンツに支障が出ないといいけど。
三笠が死んだ。少しの間放心した。……え、なんで三笠?てかもう1人潜手さん?人選おかしくない?ええ……頭……おかしくなりすぎだよ……柳原のせいだ……。
勝卯木が泣いていた。これを見ている勝卯木蓮がどんな顔をしているのか確認したくて電話した。思ったより深刻なダメージを受けているようで、けれど僕が完全に仕組んだ訳じゃないからお咎めはなかった。身内が死んだ時だけ悲しそうな顔をするなよ、絶対に復讐すると改めて心に誓った。
柳原が僕の才能を学習して僕より天才になっていた。これに対して当たりが強くなったのは純粋な嫉妬だった。皆には絶対に真相を暴いてほしいけどここは祈るしかない。
潜手さんが死んだ。覚悟していたけどなかなか可哀想だ。何も悪い事してないのにね。勝卯木の善性だなんて笑わせるけど、それのおかげでこの事件は上手く運びそうだ。
前木さんの才能。これを計画の時に利用できていれば。数えてみたら高堂さんが処刑されたのも前木さんが不運の時だった。……もし、あの時幸運だったら、何か違ったんだろうか。今後はできるだけ注意していきたいが、あまり時間はない気がする。
無事事件はコロシアイ続行という形で結末を迎えた。宮壁は相変わらず元気そうだ。
久しぶりに勝卯木蓮から連絡が来た。
「やあ■■くん。珠結さんが逃げ出したみたい。どうやらあの子が篠田家を頼って珠結さんを連れ出したみたいなんだ。さすがに予想外だったよ。このコロシアイを見守っていられるのも残りわずかかもしれない。」
「おお、捕まってくれるんですか?」
「まさか。隠れる場所ならいくらでもあるからね。」
「チッ。クソ人望野郎がよ。」
「仮に僕のやっている事が間違いだったならば、きっと僕は最初のコロシアイで脱落していた。そうならなかったという事は、そういう事だよ。」
ひぃ、なんだこいつ気持ち悪いな。勝手に言って勝手に逝ってろ。
「まぁ、たまに様子を見に来るから頼んだよ。」
……まだ見てるかあ。そろそろ見放してくれるとやりやすいんだけど。
難波さんに地下のゴミ捨て場について問い詰められた。もうバレているらしい。仕方ないので場所は言わず隠し部屋が存在している事を教えてあげた。資料室の資料は一通り僕が選んで置いているけど、皆にとってはほんの少しの希望になるだろう。
東城が倉骨研究所と離れていた事で奴等の異常性にようやく気付いたようだった。学園破壊計画の時も気づいて離れていたし、あまり向いてないんじゃないかと思う。
そういえば倉骨志求真についての情報がこちらにも届いていない。倉骨所長がどうなっているのかも分からないので、記憶が戻るメカニズムや天使計画関連の施設装置等は勝卯木蓮が盗んだと見ていいだろう。コロシアイが終わったらやる事が増えてしまった。
ロザリオが出る前兆が前回の裁判で出ていたのでそろそろだと思い、今回は身体に負荷をかける動機を出す事にした。精神負荷はそろそろいい感じだと思っているんだけど、何故か予定より出てくるのが遅い。何か事情が違うのか?
大渡と東城が何か計画を練っている。篠田さんも計画に巻き込まれるらしいけど、ほんと篠田さんは運が悪いというか。少し同情する。
難波さんが動いてくれそうだ!そうか、この2人も学園での記憶がなければ何もかもがリセットされているんだ。以前の俺と同じだね。
東城と2人で何かごにょごにょ話している。この2人、やっぱり協力すると手がつけられないなぁ。もっと早くに脱落……柳原と勝卯木が上手い事協力できなかったから、少しズレが生じている気がする。
難波さんが皆に何かを渡している。ヒントか、励ましか。でも残念、難波さんは主人公でもヒロインでもないじゃないか。君が皆の背中を押したり引っ張ったりする役割を担ってはいけないんだ。
主人公じゃないけど主人公補正だけはある宮壁とロザリオ、主人公補正に振り回されて主人公やらされてるのが前木さん。たぶんこんな感じじゃない?
前木さんと宮壁が喧嘩した。これはお出ましかな?わくわく!
やっとロザリオが出てきた。……どうしてコロシアイについて若干知ったような口をきいているんだ?皆が死んだ事について触れないのは何故?宮壁のフリをするって事は、ロザリオである事を隠そうとしているという事だ。普通篠田さんとかに他の皆の居場所を聞くはず。……どこでコロシアイの現状を把握した?それがロザリオの覚醒が遅かったのと関係があるのかも……?
なんだかんだで仲良くなってきてしまった。受け入れるのが早いというか。あの状況で篠田さんがロザリオを殺さずにいられたのは、彼女なりの成長なのかな?随分強くなったね。強がっているだけにも見えるけど。
あれ?これ、この建物の外から何か……。ヤッバい。マジで時間ないじゃん。
「あのー、勝卯木さん、聞こえてる?」
無音。
「勝卯木蓮さーーーーーん。」
「はい。お待たせ。どうしたんだい?」
「くそ。」
「……悪口を言いたいだけなら切るけれど。」
「いやあ、まだいたんだなと思って。」
「できれば最期まで見守りたいからね。」
「……。」
何も言わずに通信を切った。
天使計画についての情報を得たようだ。……うん、察しつき始めてもおかしくないな。
もう少しだ。もう少しで……。仕方ないので最終手段の動機を繰り出した。できれば前木さんに動いてほしい、いや、彼女ならきっと。
ここで希望を持たせるのも大概にしておこう。早めに資料を回収して無駄に資料探しする時間を省こう。大した情報なんてないんだし。
前木さんが何やら緞帳の装置をいじっている。動いてくれるのは嬉しいけど何をするつもりだ?
まずい、カメラからは何をしているのか見えないし、あの紙に書かれているの……
ふう、一体どのタイミングで気づいたのか知らないけど、直接会いに行かなきゃいけなくなった。
□□□□□
前木さんは、ステージの壁にもたれかかり、こちらに気づくと軽く手をあげた。そんな呑気にしている場合ではないと思うし、現に彼女の腹部に刺さった包丁はこの空間で異質さを放っていた。
「牧野くんなら、来てくれると思ってたんだ……。」
「……。」
「これ、見つかったら困るもんね。」
前木さんは緞帳から吊るされた紐についている紙を指さす。『牧野いろはは生きている』と書かれた紙を、僕は無造作に破り取った。
「モノパオの身長じゃこの紙は取れない。牧野くんが自分で来るしかこの紙を取る方法なんてないもん。作ってよかった……。」
「……。」
「詳しい内情は知らないけど……私、牧野くんの真意を知りたいの。教えてほしいな。」
「……。」
ずる、と音を立てて、前木さんは腹部に刺さった包丁に顔を歪めながら体勢を整える。
「私は、このコロシアイを終わらせるために死ぬの。君がこれからどう動こうと、結果は決まってるよ。」
「……大口叩くね。」
「うん、幸運だもん。」
「前木ちゃんの才能に気づいていれば、何か変わってたのかな?……いや、俺自身は何も変わんないか。」
そう嘲笑しかけた。
「変えるよ。」
まっすぐな目で、前木さんの瞳は僕の心を貫いた。
ロザリオの目とは全く違う、けれど光り輝く目は、確実に、僕を見ていた。
「……私は、牧野くんだって……違う、君だって、変えてみせるよ。」
「私自身にできる事はもうほとんどないけど、1つだけあるの。そのために、ロザリオくんに頼んだんだから……!」
前木さんは、大きく息を吐くと、後ろの壁を見やった。
「ここにもダイイングメッセージ書いてみたんだ。マキノって。後ろ手で書いたから、逆さになっちゃったけど、宮壁くん達なら一瞬で気づくよ。」
「!!!」
無意識に、足が前木さんの傍まできていた。壁に書かれたそれを消してやろうとしゃがみ込む。
しかし文字を消そうと伸ばした腕は、前木さんに掴まれていた。
「え……」
前木さんは僕の手の上から自分の手を重ね、そして、包丁を握らせていた。そのまま自分の腹の方に押し込む。
「は、え、何やってんの、」
「これで、クロは牧野くんだよね?」
「何それ……どうかしてる……」
「こっちの台詞だよ。……私はロザリオくんに恐怖心を消してもらったの。何も怖くないよ。」
慌てて前木さんの顔や手足を確認する。どこも震えていない、寧ろリラックスすらしていた。
「死んじゃうってのに、よくやるよ……」
完全に動揺していた。今まで狂気と憎悪に突き動かされていた僕は、すっかり我に返っていた。
「そうだよ、よくやるんだよ。」
反対に前木さんは僕を睨みつけていた。
「これが、君が光ちゃんにやらせた事なの。」
「!!!!!!違、あれは!!!!!!」
「何も違わないよ、君は自分を殺させた。しかも、君は死んでいないのに光ちゃんはクロとして処刑されたの。」
「そんなつもりじゃ、今だって、前木ちゃんを殺すつもりなんて、」
「……そう、仲間じゃないのにそう言ってくれるんだ。」
「……っ。」
違う、全員殺すつもりで、全員地獄に落とすって決めたのに、僕は何を言っているんだ。
「まだ君の善性が残っているんだよ、きっと。」
「……ちが、」
「まだ道が消えてない証拠だよ。光ちゃんの事だけが大事ならやってなかった事だってたくさんあるはずだよ。まだ、牧野くんだった事を捨てないで。」
「自分が思い出せないなら、私がそう言ったって事を覚えていて。」
「光ちゃんに出会う前を、コロシアイと無縁だった時間を……記憶をなくした皆がここで出会った時の事を。君が必要ないと捨てたもの全部、忘れないで。」
「………………。」
「君は、牧野くんだよ。」
無理矢理自分で閉じ込めた感情があふれ出した。一生心に呼び戻すまいとしていたたくさんの感情、奇しくもコロシアイ生活の中で築かれたそれは、牧野いろはの感情も僕のものであるという証明だったのかもしれない。
ここまで散々皆を苦しめておいて今更だ。きっと冷徹を貫こうとする僕の何かは、今後も皆を苦しめるだろう。もう同情なんてしないし、お世辞にもできた人間とは程遠い僕だ。
「……。」
勝卯木蓮を陥れるためだけに続けてきたこのコロシアイで、僕は取り返しのつかない所業を繰り返している。冷静に今までを振り返られるのは、牧野いろはを客観視していた自分が■■■■の事も同じように俯瞰している証拠なのだろう。
「……久しぶりに、今の牧野くんの顔、見たなぁ。」
懐かしむように微笑む前木さんに、一体僕はどう見えているのか。
「……前木ちゃん。俺やりたい事があるんだ。」
「……。もう誰も殺さない?」
「ロザリオは……どうなるか分かんないかも。」
「そっか……嫌だなぁ、どうにかならない?」
「……アイツら次第だよ。」
「きっと大丈夫だよ、ここからはずっと幸運だから。」
「……。」
前木さん、何か隠してるんだろうな。けどどこに何を隠してるのかも知らないしどうしようもない。その何かを宮壁が叩きつけてくるのを大人しく待って……それで、もしかしたら僕は終わるのかも。
諦めに似た何かと、それでもコロシアイを完遂するための覚悟を固める。最後まで気づかずにいられたらもっと楽だったんだけど、ここから皆をいじめるのは大変だな。
特に意識していなかった僕の顔に、この気持ちがそのまま表れていたのだろう、前木さんは少し困ったように下を向く。が、すぐにこちらを見据えた。
「これから私が提案する事を、聞いてほしいの。お願い。」
前木さんは再び微笑んで、最期の言葉を口にした。
□□□□□
約束されてばっかり。僕、そんなに約束守りそうに見えなくない?
倉骨さんがどうやら死んでいない事は確認できた。危ない危ない。
珠結さん達が裏で動いているのは間違いない。篠田家と組まれたら僕にできる事なんて何もないよ。志求真ちゃんも随分図太いツテを見つけたもんだ。
残り僅かな時間を使って、何をしようか。何ができるだろうか。考えあぐねて、今に至る。
…………。
今までの全てを、余す事なくつなぎ合わせた。
この世の中も嫌いだし、目の前で敵対しているコイツらも言うほど好きじゃなかった。
高堂さんは俺の事が好きなのであって僕の事は知りはしない。
特別学級とか制偽学園とか、名前も聞きたくない。
倉骨の連中だって嫌いだ。
こんなゴミに育ってしまった、両親に合わせる顔がない。
友達なんていないし無駄に人の顔色が分かるから最悪な気分もたくさんしてきた。
全部なくなればいいのに、と今でも思う。
だけど。
俺が、僕が、本当に復讐するべき相手は。
……最初から、1人しかいなかったんだ。
「久しぶり宮壁。元気してた?」
僕の存在理由とする真意を知れば、きっと神は嗤うのだろう。
ダンガンロンパノウム 0話
END