ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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今回をもちまして(非)日常編は終了となります。
ここまでありがとうございました!
今回は特に挿絵表示をありに設定して読む事をおすすめします。
次話も早めに投稿できるよう、がんばっていきます!


(非)日常編 3

 

「…っ!?」

 

間一髪で避ける。心臓に針を突きつけられたかのような、そんな恐怖。俺は今、死ぬところだった?

 

「ごめん、ごめんね。」

 

前木は声を震わせながらも包丁を向ける事を止めてくれなかった。包丁は俺の提案でしまわずにいたものだった。

 

「待ってくれ!意味が分からない!なんで急に俺を殺そうとするんだ!?」

 

前木を壁に押しつけて包丁を奪う。震え始める前木を横目に壁から離れた。

そしてそれを思い切り、机に刺した。これで抜けないだろう。そのままシャワールームの中に押しいれる。

 

「前木、何があったのか教えてくれ。俺がお前を殺す事はないし怒ってもない。だけど理由を説明してくれなきゃ納得できない。前木はそんな奴じゃないと思ってるから。」

 

前木は謝りながらぺたんと床に座り込んだ。

 

「ごめん、ごめんね、私おかしくなってた。止めてくれて、ありがとう…。」

 

泣き始めた前木をどうしていいか分からず、適当な位置に腰をおろす。

 

「…宮壁くんはまだ見てないんだよね。」

 

前木につられてソファに置いたままだった俺の生徒手帳を見る。

 

「今さっき音が鳴ったと思うけど、私の手帳も鳴ったの。それで…。ここからは、宮壁くん自身が確認した方が早いと思う。」

 

手帳を開くと、『マップ』『校則』の他に『忠告』という項目が増えていた。恐る恐るそのページを開く。

 

 

 

 

 

『たのしい学園生活をおくっているみなさんへ!注意!悪魔がみなさんの中にいます!いい子をそそのかしてくる悪い奴です!みなさんが生きてここから出るために、この15人の中に紛れ込んでいる悪魔を殺しましょう!みなさんの事はどうでもいいけど、悪魔を無事に追い払ってたのしい学園生活が送れたらいいですね!わらい!モノパオより』

 

 

 

 

 

 

 

 

え。

 

 

 

 

 

 

 

 

「この中に、悪魔がいる?」

 

 

 

 

 

 

思わずつぶやいてしまう。一番信じたくなかった最悪の事態になってしまった。もしかしたら、という可能性の話だったものが現実になってしまった。

 

 

 

腹立たしい文面の中に明らかな殺意を感じた。これは忠告なんてかわいいものじゃない。

 

 

 

 

これは、動機だ。

 

 

 

 

モノパオの中の奴が、さっさとコロシアイをしろと痺れを切らしているんだ。

 

 

さっき牧野に言われた事が頭をよぎる。牧野のカマかけは失敗していたのか、あいつもこの忠告とやらを見たかもしれないな。悪魔は相当な手練れなんだろう。そんな奴がこの中にいて、俺達はそいつを殺さなきゃいけない…?

 

 

「じゃあ、前木は、俺が悪魔だと思ったって事か?」

 

「わ、分からない…なんて言ったらおかしいけど、錯乱してて、気がついたら宮壁くんの部屋の前に立ってて…そんな訳ないのに、ごめんなさい…。」

 

「前木…。」

 

「私、とんでもない事しちゃうところだった。…私、東城くんに今の事言っておくね。私は危険人物だって。そうすれば、皆私に注意してくれると思うから。私が間違える事もなくなると思うから…。」

 

目の淵に涙をためながらも、前木の目には決意が宿っていた。もうこんな事は絶対にしないという強い意志。俺はその意思を汲んでやるべきだと思った。

 

「分かった。…がんばろうな、前木。」

 

俺の声を聞いた瞬間、緊張の糸が解けたのか前木は再び涙を流し始めた。

 

 

なんで俺達がこんな目に合わなくちゃならないんだ。

 

目の前で泣く前木の背中をなでながら、俺は何も声をかけなかった。なんてかけるべきなのか、もう分からなかった。

 

…頼むから死んでくれないか、悪魔。

 

お前さえ死んでくれれば俺達は無傷で帰る事ができるんだ。

 

早く死ね。死んでくれって言ってんだよ。

 

なあ、お前は今、どこにいるんだ?

 

自分の胸のあたりを握りしめる。いつになったら終わるんだろうか。

 

こんなところで、不安を抱えたままずっと過ごすくらいなら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は俺なりに、悪魔を殺す準備をしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

探るんだ。俺もこのコロシアイを終わらせる手助けくらいはしたい。

 

 

そして、皆でここから出るんだ。

 

 

 

 

 

 

 

たとえあの中の誰かが犠牲になろうとも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□□□

 

 

 

『おはぱお!今日も張り切ってレッツ・コロシアイ!』

 

昨日以上に最悪の寝覚めだった。気分はすっかり下がり、すぐにベッドから出る気力もなかった。相変わらずふざけたアナウンスに起こされて、しかもモノパオの声を聞くと昨日の忠告が頭に浮かび…。最悪の無限ループだ。それでも用意を済ませて食堂に向かう。

扉の前で固まった。どんな顔で入るべきなんだろう。起きていれば皆見ているはずだ。なんと声をかけるべきなんだろう。

 

「邪魔だ。」

 

「…大渡!?なんでお前がちゃんと来てるんだよ!?」

 

「もちろん美亜との攻防戦で負けたからだよー!ね、わたりん!」

 

「チッ、黙れ。」

 

桜井はすごいな…昨日いろいろ言われたのにすっかり元気だ。俺だったらすぐに折れてしまいそうな暴言だったのに。

 

「その…無理はするなよ、桜井。」

 

「ん?美亜、なにかやったかなー?」

 

「いや、なんでもない。」

 

意を決して扉を開く。

 

「あら、おはようございます!宮壁さん!」

 

「もうできてまーすよー!」

 

普通、だった。何の変りもない風景。笑顔で朝食を食べている皆。数人来ていない人はいるけれど、それでもそこに広がる空気は昨日と何も変わらなかった。

 

「お、おはよう…。」

 

なぜ?どうして皆普通でいられるんだ?この中に悪魔がいるんだぞ?

 

「もー!ドS宮くんたら邪魔だよー!早く入らないとわたりんが逃げちゃうから!」

 

桜井が俺を押しのけるようにして食堂に入っていく。

 

「おはよう宮壁。…顔色悪いけど大丈夫?」

 

「…大丈夫じゃあ、ないよな…。」

 

高堂に聞こえないようにこっそり呟く。もしかして、皆見ていないのか?

 

「見てる。」

 

ぽつりと、俺に向かって発せられた声に我に返ると、目の前に勝卯木がいた。

 

「…皆、忠告、見てる。……だけど、気にしない、ふり……不安……皆、嫌…。」

 

「不安を出さないようにしてるって事か…?」

 

勝卯木は黙って頷いた。…皆はどうやら、俺の何倍も強いらしい。だめだな、俺。

 

俺も不安を顔に出さないよう努めながら皆に挨拶をして食卓につく。今日はパンだった。随分簡素な感じだな。

 

「簡素だなっつった?」

 

え、あれ、俺声に出てた!?

 

「ご、ごめん難波、俺、今のは言葉のあやというか…。」

 

「いや実際簡素だからいいけど。アタシが適当に焼いてっただけだし。アタシだからいいけど。」

 

「うっ…ごめん、気をつけます…。」

 

普通に失礼だ。手伝ってもないのにこんな事を言ってしまうなんて。

 

「えーっと、とりあえず?皿洗いは宮壁が全部してくれるらしいから皆は帰っていいよって事で!アタシは東城きゅんのお手伝いにでも行ってくるわ。」

 

「あら、宮壁さんと難波さん、ありがとうございます!」

 

「宮壁…えっと、がんばってね、ありがとう…。」

 

「そうか、申し訳ないがやってくれるというなら任せよう。頼んだぞ、宮壁。」

 

難波の言葉を聞いて三笠や端部をはじめ、そこにいたほぼ全員がバラバラと席を立っていく。

あ、そういう事になるんだな、なるほど。

 

という訳で俺は皿洗いをする事になった。

 

 

 

♢自由行動 開始♢

 

 

 

桜井はどうやら朝食を食べていたらしく、食堂に残ったのは俺と大渡だけになった。

2人きりでひっそり朝ごはんを食べるって…なかなかシュールな絵面だな。

 

「お、大渡…。」

 

「あ?」

 

「大渡はさ、桜井の言う事は聞くよな。」

 

「…は?何が言いたい。」

 

「もしかして桜井と友達になっ」

 

俺の言葉が止まった。痛みで。正確に言うと大渡から木の札が恐ろしいスピードで飛んできて顔にぶつかりました、とても痛いです。

 

「お、お前!いきなり何するんだよ!」

 

「祓った。」

 

「何をだよ!」

 

「害悪人間。」

 

く、くっそーこいつ…!いちいち人をいら立たせる奴だな!

 

「そんなに害悪な事言ったか!?桜井と一緒にいるから気になっただけだろ!」

 

「友達。」

 

「…え?」

 

「その言葉、二度と言うんじゃねぇよ。気に障る。」

 

そのまま立ち上がって木の札を拾う。俺に当たって跳ね返った札は大渡の近くに戻っていたらしい。無駄にコントロールがいいな。

 

「言われなきゃそんなの知った事じゃないだろ。」

 

「チッ、人生平凡平和地味野郎には理解しろなんざ言ってねぇよ。注意しただけだ。」

 

「…俺の人生が平和かどうか、親がいない俺には分からないな。」

 

ちょっと仕返しのつもりでそう返してみる。すると大渡は気持ち驚いたようで振り返った。

 

「俺の両親は俺が小学生くらいの時に死んでる。今は叔父さんの家に住んでるんだ。」

 

「…別に貴様の人生に興味はねぇな。………悪霊になってねぇといいが。」

 

最後付け加えるようにつぶやいて大渡は食堂を後にした。

 

全く、興味ないだの悪霊になってないといいだの…あれ?

 

それって、悪霊になってほしくないってことだよな?

 

…もしかしたら、思ったよりまともな奴なのかもしれない。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「お!壁宮じゃん!」

 

「いやどういう呼び方だよ。」

 

「ジョークだよジョーク。いろはジョーク!」

 

大渡という脅威が去ってから数分後、俺が皿洗いを始めたころに牧野という大差ない脅威が入ってきた。

 

「まだ食べてなかったんだな。」

 

「まあ、皆のいる食堂とか普通に行きたくないよね。」

 

…そうか、行かない手があったのか。

 

「牧野は…どう思ったんだ、いや、言いたくないなら答えなくていいけど、その…。」

 

「うん、悔しいよ。」

 

「…。」

 

「すっごい悔しい。認めたくないよね。そんな隠し事くらい俺が暴いてやるって思ってたけど人生上手くいかないもんだね。俺びっくりしちゃった。」

 

顔と声の調子が不気味なほどに合っていない。そのくらい牧野は笑っていなかった。

 

「…ごめん。」

 

「なんで宮壁が謝るわけ?別にその話を掘り返される事は気にしてないよ、聞いて当然でしょ。」

 

「牧野、俺もさ、悪魔を殺そうと思うんだ。」

 

牧野は目を見開いた。

 

「あー、宮壁って逆にそうなるタイプなんだ。へぇ、変わってるね、普通この中にいるってなったら怖くならない?」

 

「裏を返せば15分の1を当てればいい事になるから、俺は…。」

 

「俺ね、もし高堂ちゃんが悪魔だったら確証持てても殺さないし宮壁にも殺させないよ。」

 

「…は?」

 

「俺、かなり我儘なんだよねー。まあそういう人間もいるって事だよ。じゃあ聞くけど宮壁は『この中の誰が悪魔であっても』変わりなく殺そうと思えるの?」

 

「それは…。」

 

「宮壁は具体的に考えてないね。ほら、想像してみなよ。もし俺が悪魔だったら、宮壁はどうやって俺を殺す?」

 

想像?牧野の目を見つめ返しながら考える。横にはたくさんのお皿。それを割ってその破片で…。

 

「…無理だ。想像できない。」

 

「というかそもそも嫌でしょ。言うは易く行うは難しってやつだよ。実際にその状況になってみないと分かんない事なんていっぱいある、むしろそういう事しかないの。」

 

話を切って牧野は朝食に手をつけ始めた。…言うは易く行うは難し、か…。牧野にたしなめられてばっかりだ。何回か話してるけど、相変わらず牧野が何を考えているのか分からないな。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「…えっと、おはようございます…。」

 

「柳原!おはよう!」

 

まだぽやぽやしているのか目を擦りながら柳原もやってきた。ちなみに牧野は一瞬で食べ終わると出て行った。俺は洗い物が終わりかけたところだ。急いで柳原の分の朝食を準備する。

 

「わあ、ありがとうございます!昨日からすみません、朝に弱くて…。」

 

もそもそと食事を始めた柳原の斜め前くらいの席に座る。お皿は俺が洗う事になるだろうからな。

 

「柳原って夜型なのか?」

 

「えっと、あんまり寝てなくて…むしろここにいる方がたくさん眠れてます!」

 

「そうなのか…やっぱり投資って大変なんだな。」

 

「投資は大変ではないですよ。楽しいです!おれは投資以外にもいろいろやってて…デイトレードってわかりますか?1日単位の取引なんですけど。」

 

「うーん、なんとなく…。」

 

「あれはずっと見ていないといけないんです。寝ない日もあったくらいです!」

 

こうやって話してると柳原は普通に投資家なんだよな。なんで世間知らずなのか不思議なくらいだ。

 

「じゃあ、部屋に投資に必要なものがないって事か?」

 

「そうですね。それが少し心配でもありますが…大丈夫でしょう!ざまあみろというやつです!」

 

「…ん?」

 

え、今なんて言った?ざまあみろ?なんでそうなるんだ?

 

「…あっ、なんでもないです!えへへ!」

 

「いや…隠し方が無理矢理すぎるだろ…。」

 

「えっと…その、おれ、家が貧乏なので、今頃困ってるんだろうなと思って!」

 

「それでなんでざまあみろになるんだ…?」

 

そう聞いた瞬間、これは聞いてはいけない質問だったと認識した。

 

「困ってるのが嬉しいからです。これでやっとお互い様になるからです。おれがいなくてきっと困ってるはずです。それが嬉しいんです。」

 

無邪気な顔でそう言う柳原に、俺は何も返せなくなってしまった。人の事情に首を突っ込むのはよくない。…だけど、『家族が困ってるのが嬉しい』という柳原は、たぶん、おかしいと思う。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

無事に皿洗いも終わり、そんな自分へのご褒美にコーヒーを淹れる事にした。もちろんインスタントだ。ご褒美に労力のかかる事はしたくない。

 

「あら、宮壁さん!その匂い…コーヒーですか?」

 

「ああ。安鐘はコーヒー飲むか?よければ淹れるよ。」

 

「あら、いいんですの?わたくし、コーヒーも大好きですわ!ありがとうございます!」

 

2人でお茶をする事になった。

 

「宮壁さん…ブラックなのですね!すごいですわ!」

 

「え、まあ、気分によるけど…って安鐘!?何本砂糖入れるつもりなんだ!?」

 

見るとすでにスティックシュガーは2本破られ、3本目を破きかけていた。

 

「えっと、5本ですわよ…?」

 

「せめて3本にできないか…?そんなに入れるのは体に良くないと思うぞ。」

 

「そうですわね…!気をつけますわ!」

 

3本目の砂糖が消え、おまけにミルクを大量に入れてから安鐘はカップに口をつけた。

 

「…あら!おいしい!家の人が甘党なものでこれが普通だと思っていたのですが、これは1本でもよさそうな味ですわね!」

 

そう言って俺の方を見つめてきた。え、この流れはまさか…。

 

「一口いいでしょうか?飲んでみたいのです!」

 

「えっ!?あ、ああ、どうぞ。」

 

普通に飲まれると逆に恥ずかしい。俺ばっかり意識しちゃってるじゃないか!

 

「うーん、ええ、飲めますわね!おいしいです!ありがとうございました!」

 

安鐘は何も意識していないようなので俺は黙っておこう。お互いのために。

 

「それにしても安鐘の家の人、すごいな…。」

 

「ええ、糖尿病にならないのか心配ですわ。兄さんがその辺りはきちんとしていらっしゃるとは思うのですが。」

 

「あ、安鐘は妹なんだな。じゃあ家元を継ぐ必要もないのか?」

 

「ええ。ですが、兄さんは両親と不仲でして、どうなる事やら…。」

 

ため息をつく安鐘からいろいろと相談を受けながら、気づけば一時間が経っていた。安鐘と一緒に洗い物を済ませ、俺達は食堂を後にした。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「あ、宮壁くんだ!」

 

「前木!なんか…1人でいるの、珍しいな。」

 

「確かに。蘭ちゃんは裁縫やるって張り切ってどっか行っちゃったんだよね。」

 

「そうなのか。」

 

そういえば勝卯木は前木のスカートのほつれを直すとか言ってたな。相変わらず不思議な人だ。

 

「せっかくだからお散歩でもしようよ!温室とかどうかな?」

 

そんなこんなで俺は前木と一緒に散歩する事になった。

 

こうやって温室を歩いていると前木と初めてあった日…3日前を思い出すな。というかまだ3日だったのか…。

 

「そういえば、裁縫セットのやつはどうにかなったのか?」

 

「あ、あれ、モノパオが入れ忘れてたみたいで、朝補充しに来たんだよ。うっかりなところあるよね!」

 

うっかりですませていいものではないだろうけど、確かにモノパオは抜けているところがある。モノパオの首は縫い目が雑だからか中からピンク色の綿が出ているし。化学やサッカーにも疎いみたいだし。あんな調子でよく俺達を攫ってこんな事させようと考えたもんだ。あの調子ならいつか墓穴を掘るに違いない。

 

「へえ…。前木以外の人はそんなミスはなかったみたいだし、ドンマイだな。」

 

「うーん、やっぱり私のどこが幸運なのか分からないんだよね…。あ!でもね!今日はたまたま私の割った卵が双子でね、黄身が二つ入ってたんだよ!」

 

「そ、そうなのか。あれって結構珍しいやつだよな?不思議な事もあるもんだな。」

 

「いいこともあれば悪い事もあるって事なのかな?でもそんなの皆そうだし、結局なんで私が特別学級に入る事になったのか分からないなぁ。」

 

不安そうにつぶやく前木を見ていろいろと考えてみる。確かに、幸運なんて才能は聞いたことがないし、本人が納得いっていないのも仕方ないのだろう。

その後散歩をしながら前木は次々と四葉のクローバーを見つけていった。俺がやっと1つ見つけた時には四葉の束を抱えていた。こうしてると運がいいとしか思えないんだけどな…。

 

「せっかくだから栞みたいにしようかな!何か分厚い本があればいいんだけど…。」

 

「あ、じゃあ俺の部屋に会った本でも貸すよ。」

 

「本当!?ありがとう!えへへ、おまもり…みたいな感じになったらいいなあ。宮壁くんのおかげで今こうやって笑顔でいれるんだもん。お返ししなきゃね!」

 

前木の笑顔を見ながら、俺も「ありがとう。」と返す。こんな平和な日が続けばいいのに。そう思いながら俺達は温室を後にして、前木に本を渡した。できたら栞は配るつもりらしい。楽しみだな。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「ほわー!宮壁さーんでーすー!」

 

おっ、潛手だ。相変わらず元気がいい…って待ってぶつかるから止まってくれ!?

 

「い、いてて…。」

 

「あ、あわひゃー!宮壁さんー!大丈夫ですーかー!?」

 

「な、なんとか…。」

 

幸いにも気づいていたから受け止められた。よかった。潛手は慌てながら立ち上がる。

 

「あーーー!!!」

 

「うわっ!?こ、今度は何だ!?」

 

「宮壁さん!怪我してまーすー!」

 

「あ、本当だ。」

 

ちょっとしたかすり傷が手の平にできていた。全然気づかなかったな。

 

「潛手めかぶ、手当しーまーす!」

 

次の瞬間俺の体が浮いた。…え?浮いてる?

 

「運びまーすよー!」

 

「待て潛手!そんな事しなくて大丈夫だ!俺重いだろ!?そ、それに、これ!お姫様抱っこじゃないか!」

 

「1番簡単なんでーすよー!ではではー!」

 

「いやそもそも俺が怪我したの手だけだから歩けるんだって!」

 

おろされる気配はないので諦める事にした。

誰にも見られませんように。その事だけを考えて目を閉じる。廊下に潛手の走る音が響き渡った。

 

「はーい!着きまーしたー!」

 

誰にも会わなかった。本当によかった。

 

「あ、ありがとう…それにしても、潛手って力持ちなんだな…。早起きだし料理は作れるしすごいよ。」

 

「えへへえ、宮壁さんは褒め上手でーすねー!照れちゃいまーす!」

 

にこにこ笑顔の潛手を見るとこっちまで楽しい気分になってくる。そうやって話ながらでも手際よく処置を施していくところを見るとかなり手馴れているらしい。

 

「よく手当とかやってるのか?」

 

「簡単な怪我なら潛手めかぶ自身もしちゃいますしー、海女さん仲間のみなさんも怪我しちゃう方がたくさーんいるのーでー、場数は多いんですーよー!」

 

「へえ…。素潜り、だっけ?危なそうだもんな。」

 

「たしかにー、怖い事もありますけーどねー?かわいいおさかなさんたちと泳ぐのは楽しいのでおっけーなんでーすよー!」

 

そんな感じで潛手と話して過ごした。ちなみにずっと保健室にいた。

 

 

 

□□□

 

 

 

 

昼だ。そろそろ食堂に行こう。

食堂を覗くと、勝卯木が椅子に座って何かごそごそしていた。

 

「勝卯木…何してるんだ?」

 

「……裁縫…スカート…。」

 

「あ、そういえばやるって言ってたな…あれ?まだやってたのか?」

 

俺が前木と出会う前には始めてたんだよな…?遅すぎないか?

 

「勝卯木ちゃんやめた方がいいよそれ!」

 

うわ牧野か急に来るなよ。

 

「は?蘭がんばってんじゃん。牧野は水ささないでもらえる?」

 

難波も来た。食堂にいるメンツとしては珍しいな。牧野の言葉を聞いてもお構いなしに針を動かしている。

 

「そ、そうだぞ牧野。何もそんな言い方しなくても。」

 

「だってそのまま進んだら確実に指に刺さるし。宮壁も難波ちゃんも危なっかしいと思ってるでしょ?」

 

「う、それは…。」

 

申し訳ないけど勝卯木のおぼつかなさはヤバい。ふらふらと宙で揺れている針を見ているこっちが怪我をしそうな気分だ…。

 

「光か鈴華呼んでこようか?三笠も得意だったと思うけど?」

 

難波の提案もガン無視したまま勝卯木は針をゆらゆらさせている。

 

「あーっ!勝卯木ちゃん!やらせて!」

 

痺れを切らしたのか、しばらくしてついに牧野が勝卯木に手を差し出す。勝卯木は観念したのか無言で手渡した。

牧野は思ったよりもスイスイと縫っていく。しばらく見守っていると縫い終わったのか勝卯木にスカートを返した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……縫い目、不思議…。」

 

「え?そう?」

 

確かに、牧野の縫い方変わってるな…なんというか、凝ってる。

 

「……変。」

 

「変でも縫えていればいいの!指血だらけにするよりマシ!」

 

「……刺してない。」

 

あああなんですぐ喧嘩腰になるんだ。たしかに牧野の縫い目は珍しいけど!

 

「終わったしもういいや。じゃあねー。」

 

牧野は食事を手伝う気はないのか。そのまま出て行ってしまった。

 

「ふーん?まあ牧野メイクも濃そうだし意外とそういうのできるんだろーね。じゃ、アタシは食べとくわ。このカップ麺食べていい?」

 

「いいんじゃないか?毎食作るのも疲れるし。」

 

難波が厨房に向かった後に勝卯木が呟く。

 

「……不服。」

 

「勝卯木も意地張るのやめろよ・・・一応やってくれたんだから。」

 

心なしか眉間にしわを寄せながら勝卯木はうなずいた。

 

さて、俺も自分のカップ麺でも作りにいくか。

 

俺達がカップ麺を食べている間に続々と人が集まってきて、各々の好みのカップ麺を取ってはお湯を沸かして準備していた。篠田と大渡は来なかった。安鐘や柳原は初めてカップ麺を食べるようで戸惑っていたが、おいしいと言っていた。カップ麺はおいしい。特に焼きそばは好きだ。自分で作る時も焼きそばだけは異常に味を濃くしてしまう…って、どうでもよすぎるな。

 

さて、特に何事もなく終わったし、まだ時間はたっぷりと言っていいほどある。

何かする事があればいいけど…。

 

 

 

♢自由行動 開始♢

 

 

 

 

「あ、宮壁…今、あいてる…?」

 

「端部!丁度暇だった。どうした?」

 

「えっと、その…もしよかったら、ボール磨きを手伝ってほしいなって…。」

 

「分かった、手伝うよ。」

 

端部の部屋に入る。ボールはだいぶ汚れていたし、昨日使ったゴールなんかも汚れていた。

 

「あ、俺、そのまま返してたよな!?ごめん!」

 

「え、それはいいんだよ…!俺が何も言ってなかったんだし…。」

 

「ボール磨き好きなのか?」

 

「うん…このボール、普通のよりもろいから傷もつきやすくてね…。まだ1週間は綺麗なまま使えると思うけど、こんなにもろいサッカーボールなんて初めてだよ…。すぐボロボロになると思う。」

 

「モノパオは雑だな…。このサッカーゴールもあんまり大きくないもんな。」

 

「そうだね…軽いから本気で蹴ったら壊れるんじゃないかな…?」

 

端部がゴールを拭く間にボールを拭く事にした。あまりにも汚れていてびっくりした…というかボロボロになってきてるんだよな。風化とかじゃなくて単純に作りが悪い。

 

「ありがとう…!できるだけ使いたいからね…。」

 

「そうだな、いやいや、手伝えてよかったよ。」

 

「またやりたいね…それまで、何も起きなかったらいいなあ。」

 

遠くを見つめる端部は寂しそうだった。

この中に悪魔がいる。皆気にしないふりをして、心の中では不安に思っているんだろう。

 

「まさか!そんな事あるわけない。大丈夫だろ。」

 

無理矢理笑い飛ばして、俺は端部の部屋から出て行った。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「あれ、宮壁じゃん。相変わらず暇そうな顔してんねー。」

 

「…そっちこそ暇そうだな。」

 

「それ大渡に対する対応とほぼ一緒じゃね?アタシが一緒にされるとか心外なんだけど。」

 

ふてくされたようにそっぽを向いた難波を見て俺はため息をついた。

 

「は?仮にも女子の前でため息とかヤバくね?モテたかったら我慢も大事なんだけどー。」

 

「うっ…ごめん。」

 

「てかアタシが用もないのに話しかけると思う?いやー宮壁が死んだフナみたいな顔して歩いてたから大丈夫かと思って声かけたの。アンタ疲れてない?大丈夫?」

 

「そんなように見えるか?」

 

「いや、目が死んでただけだからなんとなくで言ってみただけ。」

 

「まあ、どうしていいか分かってないのは事実だ。」

 

「…考えすぎなんじゃね?そんな考えてもいい事ないと思うけど。」

 

難波の神妙な顔に思わず俯く。分かってるつもりなんだけどな…。

 

「はー!まあそれで?いい事があるならどうぞご自由にって感じだけどさ、アタシが言いたいのは、そんな辛気臭い顔してたら周りにも影響するって事!いい?皆はアンタの事も見てる。『これから』も大事だけど、『今』も大事なの。」

 

「!ご、ごめん。」

 

難波の言葉にハッとする。

 

「ふふん、さっきよりは少しはいい顔になったんじゃねーの?じゃ、夕食はアタシの分はアンタが作るって事で。」

 

「え!?あ、ああ…分かった。」

 

端から見れば俺をいいように使ってるとしか見えないだろうけど、難波の言葉には確かな優しさを感じた。話せば話すほどいい意味で普通のしっかり者の女子って感じだ。…なんで怪盗になったんだろう…。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

暇すぎて部屋に戻ってきてしまった。うーん、寝るか。ソファに転がる。

 

『ピンポーン』

 

……。普通の、なんて事ない用事だよな?さすがにアレの後じゃ何の考えもなしには動けないな。

一冊の本をもって扉に向かって、思い切り開ける。

 

「……本……なぜ…?」

 

勝卯木がポツンと立っていた。

 

「ご、ごめん。なんでもない。…というか、勝卯木が1人なのも珍しいな。」

 

「……いろんな人、見る、大事……お兄様、言う……。」

 

「お兄様?勝卯木、お兄さんがいるんだな。」

 

俺の言葉に勝卯木は頷く。それにしても、お兄様、か…そんな呼び方する人あんまりいないよな。

 

「もしかして、お金持ちとか?」

 

「……人並、以上…やや、裕福…。」

 

「へえ…。それで、何の用なんだ?」

 

「……いろんな人、見る。その為…。」

 

「え、ええ…?見るためだけにわざわざ来たのか?こんなところで話すのもなんだし、俺の部屋…はナンパみたいになるな。えっと、食堂にでも行くか?」

 

「……行かない。」

 

「そ、そうか。ここでいいのか?」

 

勝卯木は頷くだけで話を振る気はないらしい。前木、よく勝卯木と話が続くな…。それとも話しまくってるだけなのか?

 

「う、うーん、勝卯木のお兄さんは何歳なんだ?」

 

「4歳上。…イケメン。」

 

「へえ、かっこいいお兄さんか。羨ましいな。」

 

「……宮壁、少し…ほんの少し、似てる…。」

 

「え!?そうなのか!」

 

それってもしかして俺も少しはイケメンって事か…!?

 

「性格。」

 

まるで心を読んだかのように少し不満そうに付け加えられた。は、はい…そうですか…。

 

「……宮壁、おもしろい。また……話す…。」

 

そう言って勝卯木はくるりと回れ右をするとちょこちょこと走っていった。

勝卯木は相変わらず会話が難しい人だな。結局何がしたかったんだ…。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「おお、宮壁。元気そうだな。」

 

「三笠ほどじゃないけどな、時間が経ってだいぶ気持ちの整理がついてきたところだ。」

 

「ふむ、自分も同じ気持ちだ。お、コーヒー牛乳があるじゃないか。」

 

ここは食堂だ。のどが渇いたから寄ったところ、シャワーを浴びてきた三笠に会ったわけだ。

いつもあげている前髪がおりてるから一瞬誰か分からなかったな。

 

「急にこんな話をして申し訳ないけど…三笠はその、怖くないのか?」

 

「ははは、怖いぞ?」

 

「!…そのわりには全然そうは見えないな。」

 

「まあ、いろいろと慣れておるからな。様々な場所で過ごしてきた。こういう閉鎖空間にいたところもあるさ。…もっとも、コロシアイを命じられた事は初めてだけどな。」

 

「俺、自分が思ってる以上に怖がってるんだなって思ってさ。だから、皆が普通にしてるのが怖かったのかもしれない。…不安に思ってないなんて、そんな事あるわけないのにな。」

 

突如、頬に冷たいものが当たる。三笠がコーヒー牛乳を渡していた。

 

「これでも飲め。後シャワーでも浴びろ。」

 

「はは、ありがとう。」

 

2人で一気飲みする。冷たいものは一気に飲まない方がいい、なんて聞くけど…とても気持ちよかった。

 

「別の事を考えようにも何を考えていいのか思いつかない時がある。そんな時は自分の気を引くものを用意すればいい。自分で自分を退屈させるなよ。楽しく生きるためのコツだ。」

 

そうやって笑う三笠は本当に大人びていて…すごく頼りになる。北風と太陽に出るなら…そう、温風みたいな人だ。

 

「温風って…例えが変わっているな、宮壁。」

 

「え!?声に出てたか!?」

 

「普通に出ていたぞ。」

 

「そ、そっか…。」

 

なんて話をしながら俺は自分の気が安らぐのを感じていた。

 

 

 

♢♢♢

 

 

 

 

「あ。」

 

たまたま廊下を歩いていたら部屋から出てくる篠田を見つけた。俺を見た瞬間すぐに部屋に戻ろうとしたので慌てて追いかける。

 

「し、篠田!なんで戻るんだ!」

 

「私に会ったら不快に思うに違いないだろう。なるべく会わないようにしているのだ。」

 

「ま、待ってくれ!そんな事誰も言ってない!」

 

「大渡はそう言っていただろう。」

 

「そ、れは…。いや、それでも俺は不快になんて思ってない。用事がなくても出歩く権利くらいある。篠田も自由にしていいんだ。」

 

「…そうか…いや、それでもしばらくはむやみに出歩く事はしない。出なくても平気な用事だからいいんだ。」

 

「ちなみに、何をしようとしていたんだ?」

 

「…食料の調達に厨房へ行こうと思ってな。」

 

その言葉に篠田が朝も昼も食堂に来ていなかった事を思い出した。

 

「ちょっと待っててくれ!」

 

急いで食堂にかけこみ、とりあえず3食分くらいの菓子パンや温めなくてもいいものを揃えてビニール袋に詰める。そしてそのまま篠田の部屋に走っていった。

 

「なんだ、これは…。」

 

「とりあえず1日分くらいの食事だ。」

 

「…!すまない、余計に迷惑をかけてしまった。」

 

悲しそうに眼を伏せる篠田がさっきまでの俺と重なる。

 

「篠田、謝る事じゃないんだ。頼ってくれていい。この中に悪魔がいたとしても、それでも…俺達は、仲間だ。同じ境遇の仲間だ。」

 

「ありがとう、宮壁は強いな。頼もしい。」

 

「俺は弱いよ。皆に励まされただけだ。だから、今度は俺が励ます番なんだ。がんばろう。一緒に。」

 

篠田は微笑みながら俺からビニール袋を受け取った。

 

「宮壁の気持ち、確かに受け取った。…よろしく頼む。」

 

「ああ、もちろんだ。」

 

 

 

□□□

 

 

 

 

あっという間にこんな時間だ。いつの間にか篠田以外の皆が揃って食卓につく。

 

「篠田さんの食事…本当にいいんですの?」

 

「篠田がいらないって言ってた。大丈夫だ。」

 

不安そうな安鐘に気持ち力強く答える。遠くで大渡が舌打ちをしたような気がしたけどそんなものは無視だ。

無視だ。

 

「折角ほぼ全員いる事だし、提案させてほしい事あるんだ。」

 

東城が口を開く。提案?

 

「夜時間は出歩かない。ここは強制ではないけれど、皆夜が不安で寝不足になっても困るからね。こればっかりはお互いの信用がカギになってくる。いいかな?」

 

「あらー東城きゅんは偉いねー!」

 

難波のいつものは放っておいて。素直に賛成だな。鍵はオートロックだからそこまで怖がる事もないけど、インターホンが鳴ったらまず怪しむ事ができるという訳か。

 

「東城…聞いたのか?」

 

俺の遠回しな聞き方だったけど、東城はうなずいた。それでこの提案に出たのか…東城は本当によく頑張ってるな。悪魔の事をどう考えているのか聞けていないから、後で聞いてみるのもいいかもしれない。

 

皆の賛同も得たようで、無事に夜時間の出歩きはなるべくしない、という方針で固まった。

 

「あと、化学物質の分解は終わった。分かりにくくしているから使いたいものがある人はボクに言ってほしい。最適のものを用意するよ。無論、用途は細かく聞かせてもらうし、その薬品を摂取するところまで監視する。薬は人を殺すための道具じゃないって事をモノパオの中の人に思い知らせるべきだからね。」

 

「わー!東城きゅんえらーい!お疲れ様!」

 

「ありがとう。それで早速なんだけど、今日使いたい人はいるかな?」

 

誰の手も挙がらなかった。そんなこんなで今日の夕食はお開きになった。

 

「東城さーん、すーごいですーねー!がんばりやさんでーすー!」

 

「本当。よくちゃんとやり切れるよね。あたしにできる事はあんまりないけど、何かあったら言ってね。」

 

「ありがとう、潛手さんに高堂さん。心配は無用だよ。後はボクの部屋に仕掛けを施したら終わり。」

 

「そう…まあ、ほどほどにね。」

 

高堂が肩をすくめながら潛手とともに食堂を出たところで東城に話しかける。

 

「東城、聞きたい事があるんだけど…。」

 

「前木さんの事か悪魔の事、どちらかな?」

 

「どっちも。」

 

さすが話が早いな。

 

「前木さんは信用しているからね。ボクは放置でいいと思っているよ。」

 

「どうしてそこまで信用してるんだ…?」

 

「そこまで話す義理はないね。信用ではなく、一種の実験だから。実験が終わるまでは確証がないから話す事はできない。」

 

「そうか…まあ、とりあえずの安心はできた。後は、悪魔の事だけど。」

 

「悪魔、の情報次第かな。名前こそいかにも犯罪者みたいだけどモノパオの中の人にとっての悪魔ならばボク達にとっては味方の可能性もある。」

 

「そ、そうか…!だけど、それならモノパオにとっては悪魔が死んでくれた方がコロシアイがしやすくなるはずだし、悪魔が死ぬ事でコロシアイが終わるなら違う気がするけど…。」

 

「まあ、低い可能性だとは思っているよ。どうすればより情報が得られるのか。その辺りも調べていかないといけないね。」

 

……正直頭が痛くなる話だ。昨日から考えすぎで疲れてる気がする。一回考えるのをやめよう。

東城に挨拶だけして俺はその場を後にした。

 

 

そのまま眠りにつく。…そういえば、今日は何も既視感を感じなかったな…なんだったんだろう。

 

 

 

□□□

 

 

 

 

「おはよう、宮壁くん!」

 

「前木、おはよう。」

 

「宮壁か、おはよう。」

 

昨日アナウンスよりも早く寝たおかげですっきり目覚めた俺は食堂に早めに行ったのだが…よく見る顔ぶれも揃っていたが、なんとその中に篠田がいた。

 

「篠田!?珍しいな!もう大丈夫なのか?」

 

「いや、実は…。」

 

「潛手めかぶが呼んだのでーすー!三笠さんの号令でーすよー!」

 

「号令というかだな…やはり心配になってしまって潛手に頼んだのだ。」

 

「…という訳で。お邪魔させてもらっている。」

 

「あーあー!またお邪魔って言ったでーすねー!三笠さーん!」

 

「そうだな、ミカン1.5個から2個に変更だ。」

 

「む、むむ…そんなに必要ないのだが…。」

 

どうやらマイナス発言をするとデザートが増える仕組みらしい。

というかこの3人はなんだか新鮮だな…。初めて会話しているところを見た気がする。

 

「…と、とにかく。朝食をいただいてら一足先に退室させてもらう。」

 

「えー?なんででーすかー?」

 

「私がいては困るだろう。私なりの配慮なのだ。」

 

「あ!ではでーはー、潛手めかぶが篠田さんのお部屋に行けばいいんでーすねー!三笠さんはどうしまーすかー?」

 

「自分が女性の部屋へ行ってもいいものなのか?」

 

「そこは気にしなくていい…ではなく!なぜ私のところに来ようとするのだ…!?」

 

「篠田さん1人で何するんでーすかー?する事がないんですーからー、潛手めかぶとお話しましょー!ねー!三笠さん!」

 

「という訳だ。もし篠田がよければ自分も参加しよう。」

 

「…そ、そこまで言われると断れないではないか…。分かった。後でな。」

 

少し恥ずかしそうにしながら朝食に手をつけ始める。それでも、篠田はなんだか嬉しそうに見えた。

 

 

 

□□□

 

 

 

 

「わーたーりーん!もー!いい加減にしてよー!」

 

そしていつものやり取り。なんか…懲りないな、2人とも。

 

「桜井…お前諦めが悪いな。」

 

「えー!?何で美亜が悪い人みたいになってるのー!?逆だよねー!?びっくり!わたりん、こうでもしないと来ないんだよー!知ってる?昨日も昼と夜は来てないの!わたりん食糧備蓄してるんだよ!それでも何の音沙汰もないと怖いでしょー?」

 

「それは怖いな。」

 

これだけ必死に扉を叩いたりインターホンを押したりしている桜井を見ていると一周回ってかわいそうになってくる。

俺も一緒になってインターホンを押してみる。しばらくすると大渡がのそりと顔を出した。

 

「…増えやがって…。」

 

「大渡、桜井が毎日呼びに来てあげてるんだからいい加減お前が自分で来いよ。」

 

「頼んだ覚えはねぇ。」

 

「だから、安否確認のためだって言ってるだろ。」

 

「そもそも俺の死体を見つけてもらおうなんざ思ってねぇ。勝手に死んでたら放っておけばいいだろ。」

 

「わたりん!そんな事言わないの!心配するんだよー!」

 

桜井の必死の説得にも耳を傾ける気配はない。もう好きにすればいいんじゃないのか、コイツは…。

なんて俺が思っている間も桜井は説得をやめなかった。

 

「わたりんは分かってないよ!美亜も皆も、心配するんだからね!心配してくれる皆に感謝してよー!」

 

「俺は貴様が死んだところでなんとも思わねぇけどな。貴様が悪魔なら寧ろ死んでくれた方が嬉しい、ここから出られるしなにより静かになる。」

 

「ここで言うのは洒落にならない。訂正しろ。」

 

さすがに見過ごせなかった。思わず手が出そうになるのをなんとかこらえ、睨みつける。

大渡はその倍くらいの目力で俺を睨みつけてきた。俺達の横をすり抜けようとするので腕を掴む。

 

「訂正しろ、失礼だ。謝れ。」

 

「謝るような事は言ってねぇ、事実だ。」

 

「お前…!もういい、好きにしろよ。お前が死んでも知らないからな!」

 

「…!……チッ。」

 

大渡が去った後、大渡が見ていた方を見る。

 

「……桜井…。」

 

桜井が、泣いていた。

 

「…あっ!ごめんね、じみやくん!」

 

「桜井!」

 

「……美亜、慣れてないんだ…漫画が貶された事はたくさんあったけど、美亜が貶される事、なかったんだ…皆いい人だったから…ごめんね、気にしないでね。すぐ直るから!」

 

廊下を駆けていく小さな背中は、こっちに来ないで、と言っているようだった。

 

 

心配だから、昼ご飯の時は様子を見に行こう。

不穏な気持ちを抱きつつ、俺は暇をつぶす事にした。

 

 

 

♢自由行動(おまけ) 開始♢

 

 

 

 

「…」

 

え、普通に帰りたい。大渡と話す事は何もない。

 

「やだなー何この雰囲気!高堂ちゃんも何か言ってあげてよ!」

 

「おはよう宮壁。」

 

「そうだね!挨拶は大事だもんね!」

 

そして牧野と高堂。ここは食堂だ。ペットボトルの調達に来たらこうなっていた。

 

「…じゃあ俺は帰る。」

 

「えー!なになに!なんか宮壁の癖に大渡みたいな雰囲気になってるよ!おもしろいな!」

 

「…牧野、たぶんそういう冗談が言える雰囲気じゃない。」

 

「へへ、知ってた。」

 

「だろうね。」

 

牧野と高堂の謎の漫才を見届けたことだし、俺は帰ろう。

 

「宮壁…何かあったの?大丈夫?って、あたしが聞いてもどうしようもないけど。」

 

「大渡がやらかした。」

 

それでなんとなく察したのか牧野は笑顔をやめて大渡に向き直る。

 

「やらかさないでくれる?俺達は誰も信用できないような状況におかれてるんだから、少しでも協力しようとする努力をみせてもらっていいかな?迷惑。」

 

「ちょっ、牧野、さすがに言いすぎ…。」

 

「言われなくても関わるつもりはねぇよ。勝手に絡んでくるのが悪ぃ。」

 

大渡の何がすごいって悪びれるそぶりが全くないところだよな。頭おかしいんじゃないか?

 

「いいんだよ高堂ちゃん。こういうタイプはちょっと言ったくらいじゃ大したダメージにならない。言葉よりも出来事がいい。」

 

「ふーん…まあ、変な火種は起こさないようにしてね。大渡も気をつけなよ。」

 

「チッ、うるせぇな。」

 

「は?親切心で言ってるのになんで舌打ちしてんの?高堂ちゃんにも失礼でしょ。」

 

「牧野、大渡、黙ろう。」

 

高堂の目が一気に厳しくなった。食堂が静かになる。

 

「…はい、終わり。気分を下げてどうするの。」

 

そう言い残して高堂は食堂から出て行った。

 

「あっ!待ってよ高堂ちゃん!ごめんってー!」

 

「…帰ろう。」

 

誰にともなく呟く。いつの間にか大渡も消えて食堂には俺1人になった。…どうしてこんな事になってるんだ…。肩を落として水だけ持って部屋に帰った。

 

 

 

□□□

 

 

 

いつものように安鐘達と簡単な食事を作り、珍しく全員揃って食べていた時だった。

 

 

 

「久しぶりパオー!ミンナ、元気に怯えてるかなっ?」

 

 

 

この気味の悪い声を聴くのはアナウンスを除くとわりと久しぶりだが、何度聞いても最悪な気分になる。

 

「って!全然怯えてないね!なんでさ!いつやるかやられるかハラハラドキドキするもんでしょここはっ!もっとギシギシ…じゃなくて!ギスギスいてほしいんだけど!もっとガタガタしてほしいんですけど!」

 

「何しに来たのー?」

 

桜井が怒ったようにモノパオに詰め寄る。

 

「なんのなんの、せっかく悪魔についての特大ヒントを与えてあげたのに誰も動かないから手助けしにきてあげたんだよ!」

 

手助け。それが何を意味するのかは嫌でも分かった。動機だ。あれだけじゃまだ足りないというのか。モノパオはどうやら意地でもコロシアイをさせるつもりらしい。

そんな手にのってたまるか。

 

「あ、そうそう!学園長からの手助けを受け取らないなんて悪い子がこの中にいる訳ないと思ってるけど、もし受け取らない子がいたら罰則…いや、オシオキがあるからね!注意するパオ~!」

 

オシオキ…東城に向かって降ってきて篠田を傷つけた無数のナイフの事が頭をよぎる。

あれと同じような事を起こすっていうのか…?大人しく手助けとやらを聞くしかないようだ。

 

俺がいろいろ考えている間もモノパオはちょこまかと皆の間を行ったり来たりと騒々しい。

 

「誰を狙えばいいか分からない、怖くて何もできない、そんな生徒もいるよね!そのためにボクくんは悪魔についての情報を追加で送ってあげたパオ!後で確認して推理に役立ててねっ!」

 

「それでも…私は、もう動かないよ。モノパオ、あなたの思い通りになんて絶対させない。」

 

「うわあ!前木サンはそんな事言っちゃって、ミンナを油断させるつもりなのかなっ?」

 

「前木さんがそういう事を率先してやる人だとは思わないよ。まあ、犯罪者なら殺してしまう方が妥当だとは思うけれどね。そういうキミこそ、そんな程度の煽りばかりしてレパートリーが尽きたのかな?」

 

東城の方を見てモノパオはブルブルと震え始める。笑っている。

 

 

 

 

「いぴ、いぴぴぴぴ…!そうやって意気込んでいられるのも今のうちパオ!なんてたって、ボクくんには秘密兵器ならぬ、秘密仲間がいるんだからねっ!」

 

 

「秘密…仲間…?それって、俺たちの、敵って…事…?」

 

 

「端部クンその通り!ミンナの中に、ボクくんの仲間が紛れ込んでいるんだよ!その名も『裏切り者』!ソイツはね、あまりにもコロシアイが起きなかったら、『悪魔以外の人間』を殺しちゃうんだ!ね?ずっとミンナで仲良く固まっていてもミンナの中から誰かが死ぬのは避けられないんだよ!」

 

 

「さあさあミンナ!横にいる人を刺してごらん!後ろにいる人を殴ってごらん!当たる可能性もなくはないパオ!いぴ、いぴぴぴぴぴぴぴ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の中に、もちろん皆の中にもあったであろう考え。

『たとえ悪魔がいたとしても、皆で励ましあって、どうにか悪魔を見つけて、皆でここから出る』という考え。

 

 

 

 

それが、一瞬にして打ち砕かれた。

 

 

 

 

 

皆で出るんだ。そう思っていたのに。

 

 

 

 

 

 

これじゃあ、無理じゃないか。

 

 

 

 

 

 

「え、えっとつまり…どういうことですか…?」

 

「簡単に言うと、俺達の中から必ず1人は、死者が出る。」

 

 

自分で柳原に向かって言った言葉が、随分遠くから聞こえる。まるで別の人間が話しているように。

 

 

 

理解してしまった。悪魔を殺さないと、このコロシアイは終わってくれない事を。

意地でも悪魔を探し当てて殺さないとならなくなったという事を。

 

受け入れてしまった。この中の誰かが、数日後には死体になっているという未来を。

 

 

未来に何が起こるかなんて分からない。普通はそうだ。

 

 

ここは、普通じゃない。

 

 

俺達の目の前にある未来は、たった1つ。その未来は変えられない。

 

俺達が変えられるのは、その未来で死んでいる人物が誰なのかという事だけだ。

 

 

 

苦虫を嚙み潰したような顔で篠田がモノパオに詰め寄る。

 

「学級裁判は裏切り者にも適用されるんだろうな?」

 

「もちのろんパオ!投票結果が正しければちゃんとクロはオシオキするパオ!それがたとえボクくんの秘密仲間であってもね!」

 

「むー、自分の仲間に優しくない悪役は美亜あんまり好きじゃないなー!」

 

「別に桜井サンにどう言われようがへっちゃらだもんねー!よーし!言いたい事言ったから終わり!じゃあミンナ、いい結果が出ることを期待してるよ!まったねー!」

 

モノパオが消えてもしばらく沈黙が流れた。

 

 

 

どうしていいか分からない。

 

相談しようにもその相談相手が悪魔だったり裏切り者だったりしたらどうすればいいんだ?

 

この数日間過ごして悪魔じゃないと確信できた人なんていない。

 

いや、そもそもこんなところで腹を割って話せるほど信頼できる仲間ができる事自体怪しい。

こんな状況になった以上、今までの姿を信じろと言われても無理だ。

 

俺は今、皆の事を、疑っている。

 

そんな自分に寒気がする。信じたくても本能が拒否して信じられない。

『信じられる訳がない』と脳が拒否しているのが分かる。

 

きっとお互いそう思っているはずだ。その証拠がこの長い沈黙に違いない。

 

 

 

「…その、悪魔の情報は皆で見た方がいいんじゃないかと思う。」

 

誰に、というわけでもなく独り言のように言ってみる。

ゆっくり辺りを見渡すと俺の言葉に従って皆が電子生徒手帳を開いていた。

 

…俺も意を決して『忠告』の中に追加された『悪魔の情報』のページを開く。

 

『【超高校級の悪魔とは?】

 あまり聞きなれないこの才能はあのお方がそう呼んでいるだけであり、正式には【超高校級の説得力】という才能である。その名の通りたぐい稀なる説得力を持ち、自分の意見を相手、あるいは周りにすぐさま納得させてしまう。その意見が正しくても、はたまた間違っていても。

あのお方によると一般人に殺人を行う事を提案し、殺人鬼を生み出した事もあるようだ。本人が実害を出している訳ではない上、殺人鬼になった者はまともな価値観と倫理観を失っていたため一般市民にはおろか、警察にも悪魔の情報は一切広まっていない。この人物を野放しにしていては平和で安全な生活を送ることは不可能であろう。一刻も早く処罰されるべき人物である。』

 

説得力…。

意味が分からないくらい恐ろしい才能だ。

 

…でも、モノパオの中の奴や『あのお方』って人は、どうして『悪魔が高校生であり、かつこのメンバーの中の誰か』だと確信してるんだ?警察にも広まっていない情報を手に入れる事ができるような奴がこのコロシアイを動かしているって事になるのか?それともたまたま制偽学園に入っただけ…?いや、そもそも年齢も分からないのだから悪魔が入ったところで普通なら気づくことはないはずだ。学園長なら入ってくる生徒の選別はできるか…いや、そういう問題なのか…?

 

 

 

 

俺がいろいろ考えあぐねている間も、誰も口を開こうとしなかった。

 

「誰なのか特定できたらボクは動くよ。こういう人間は野放しにしておかない方がいい。世の中のためにね。それまでに裏切り者が動いてしまわなければいいけれど。このままじゃあ埒が明かないし、ボクは部屋に戻るね。」

 

東城の言葉を皮切りに、大渡や篠田、難波辺りが黙って扉の方に足を向けたその時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日の夜ご飯は、美亜が腕によりをかけておいしいご飯をふるまっちゃうよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…え?

皆の視線が桜井の方に向く。急にどうしたんだ?

 

「たしかに疑っちゃう気持ちも分かるよー?今も怖いもん。だけどね、美亜はそんな時でも構わず減っちゃう自分のお腹を優先させたいんだよ!皆もお腹減ってるはずだもん!」

 

今までずっとにこにこしていた桜井が真剣な顔をしていた。

その目を見て、俺は体が震えた。

桜井の声が、発する言葉が、ひとつひとつ脳と心にぶつかってくる。

 

「そーですねー!潜手めかぶも手伝うですー!みなさーん!お手伝いしまーすよー!」

 

「…ふふっ、桜井さんはこりごりだったのではありませんの?料理はわたくし達にお任せくださいな。」

 

「確かにな。自分達が料理は作ろう。」

 

「へへ、そうだったー!じゃあ美亜、お皿運びは絶対やるからねー!」

 

「あ…じゃあ、洗い物は…俺がやるね…。」

 

皆が口々に役割を決めていく。

ピリピリとしていた雰囲気が少しずつ和やかになっていくのがわかった。

 

「皆で手伝うか。今日は親睦を深める日にしてもよかろう。」

 

「わーい!俺も盛り上げちゃうよ!誰かお尻を触ってほしい人はいるかな!?」

 

「悪い意味で盛り上げるのはやめてくれる?」

 

「高堂ちゃん、視線がガチじゃん…。」

 

「よーし!全員参加だからね!わたりんも絶対来てよ!来るまでピンポン押しまくるからねー!」

 

「…チッ」

 

 

 

盛り上がっていく皆を見て俺は自分を責めた。

俺はだめだな。こういう時にかける言葉が何も見つからない…。

俺が人の事を疑ってばかりいる間に、皆はこの状況を打破するための一言を探していた。

 

自分の最低さに思わず失笑する。

 

 

「暗い顔しちゃだめだよ、宮壁くん。」

 

目の前で前木がにっこり笑いかけてきた。

 

「宮壁くんも、もっと皆の事を頼っていいと思うな。…それに、宮壁くんにも力はあるよ。私を止めてくれたんだもん。」

 

「…そうだな、悪い。」

 

「もう!謝ることでもないんだよ!ほら、美亜ちゃん達を手伝いに行こう?」

 

ちょっとむすっとした顔をして、また笑顔に戻る。

そんな前木に、俺はどきっとしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

夜ご飯はこの三日間で一番楽しい時間になった。

いや、皆が悪魔の事を忘れられるように思い切りはしゃいでいたからだろう。

相変わらず不機嫌そうだったりセクハラをかましたりする人もいたけれど…悪魔や裏切り者への不安はずっと心にあったけれど…それでも、この瞬間はそれを隅において、ちゃんと仲良くなってきていると、そう思えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それなのに、この状況は一体なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして、次の日の朝に。

 

どうして。

 

潜手が青い顔で食堂に入ってきた?

 

大渡の手を掴んで走り出した?

 

三笠が朝食を作る手を止めて後を追いかけた?

 

安鐘がトレイを置いて駆け出した?

 

端部が真っ青になりながら俺達と合流した?

 

高堂がシャワーで髪を濡らしたまま駆けつけてきた?

 

柳原が震えながら床を見るように促してきた?

 

勝卯木の無表情が少し崩れて青ざめている?

 

難波の目尻に涙が浮かんでいる?

 

篠田が悔しそうに唇をかみしめながら床を見つめている?

 

牧野が腰を抜かして床にへたり込んでいる?

 

東城が真顔で立ち尽くしている?

 

前木が目の前で悲鳴を上げている?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

どうして、桜井の頭から血が流れているんだ?

 

 

 

皆の呼びかけにも桜井が目を開けないのは、なぜなのか。

 

 

 

俺は、分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の被害者の挿絵は情報を省いておりますので、この挿絵を元に推理する事は推奨致しません。
(補足)
・自由行動(おまけ)のメンバーは作者のツイッターの方で投票を行った結果の上位3人となっております。
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