オシオキタイトルのセンスの悪さは仕様です。
ガチャガチャから出てきた玉を拾うとモノパオは嬉しそうに跳んだ。
「すごいすごいっ!あいつの作ったガチャガチャも正常に動いてるし、ばっちりだね!」
普段なら元気になれるはずのサッカーの応援歌が流れるこの場所に、笑顔を浮かべる人は1人もいなかった。
…目の前で小躍りしているモノパオを除いて。
「というわーけーでー!超高校級の漫画家、桜井美亜サンを殺したのは人畜無害そうな超高校級のサッカー選手、端部翔梧クンでした!見事、正解でーすっ!」
「たしかこの後処刑があったよね。始めようよ。」
「と、東城くん?何を言ってるの…?」
「それはボクの台詞だよ、前木さん。今後コロシアイが起きないようにするために対策を練らないといけない。こんなところに時間をかけている場合ではないと思うよ。」
東城の言い方に何かを察したのか、前木は少し語気を荒げる。
「だからって、そんな言い方ないよ!それじゃあ、まるで…」
「分かった。分かりやすく言おう。早く死んでほしい。」
東城のまっすぐな、曇りのない視線は、端部を捉えていた。
「おい。」
牧野が東城の前に出る。気づいたら俺もほぼ同時に東城の前に出ていた。
「東城、訂正しろ。そんな事言うのは間違ってる。」
「えっと…なんでボクが悪者になっているのか分からないけれど、桜井さんの前でも同じ事が言えるのかな。」
「…!」
「言える。」
俺がうろたえる中で牧野はハッキリと言った。
「理解できないな。」
「桜井ちゃんなら分かってくれる。俺はそう信じてる。それじゃあダメかな?」
「ダメだよ。君はメンタリストという才能で他人の事でも理解できると過信しているだけで、本当は自分の理想の感情を相手に押し付けているようにしか見えない。」
「…もうやめた。君と話したところで埒が明かない。」
牧野は不機嫌そうに言い捨てる。気味の悪い、微妙な空気が広がっていく。
「…東城の、言う通りだよ。俺が悪いんだから。」
「…端部さんー…。」
潛手が眉を下げる横で東城はきょとんとした顔を浮かべる。
「まさか犯罪者自身が肯定するとはね。そういう自覚があるならどうしてやったのか、尚更意味が分からないな。今となっては関係のない事だけれどね。」
何が関係ないだ。そう咎めたくなるのをこらえる。俺は知りたい。端部と桜井に何があったのか。端部も桜井も悪い人なんかじゃない、そう信じ切るために。
「端部、昨日の夜の事…教えてくれないか。」
「そんな事聞く意味ないよ、宮壁く」
「ある。」
東城を睨むと観念したのか、何も言わなくなった。
「話す事なんて…ないよ。俺が全部悪いから。桜井さんは何もしてない。」
「もー、端部クンったら物静かすぎてつまんないパオ!もっとべらべら言いたい事言えよーって感じだよねっ!」
「なんでここでアンタがしゃしゃり出てくるわけ?」
「学園長は全てを知る生き物パオ!端部クンに何があったのか、ばっちりボクくんの心と監視カメラに記憶してあげてるパオ!」
「え…。」
端部が焦ったようにモノパオの方を見る。
「あれれ?端部クン、そんなに目を泳がせてどうしたの?何かやましい事でもあったのかなっ?」
「べ、別に…ない、よ…。」
「じゃあ見せちゃうパオー!」
プツン。と音がしていつの間にか天井からぶら下がっていたモニターに映像が映し出される。
―――
教室だ。桜井と端部がいる。
桜井が、動いている。
本当に、ついさっきまで生きていたんだ。いまだに桜井がここにいない事が信じられない。
♢♢♢
…昔から、何かに名乗りをあげたり、人から注目されたりする事が苦手だった。
何かきっかけがある訳でもなく、ただ人より弱い俺はそういう人間なのだろう。
そんな俺が唯一得意だった事が、サッカーだ。
ボールを追いかけて、蹴る。シンプルな動きの中に込められたたくさんの技術と経験が勝敗を決める。夢中だった。
それでも、人気になれるかどうか、チームに選ばれるかどうかは本人の意思が必要だ。
「端部は全部優秀だし、その大きさを活かしてキーパーもいいんじゃね?」
好きなのもやりたいのも、キーパーではなかったけど……俺は皆の言う事に従った。
そもそもサッカーも親に薦められた事だし、たまたまうまくなって、普通の家なら反対されるようなスポーツ推薦すら親の方から薦めてくる始末だった。
もちろん嬉しい。俺に期待してくれているのも分かるし、俺が嫌なら好きな事をやればいいとも言ってくれた。
だけど、他にしたい事もないし…。
とにかく、俺は意志を貫く事がとてつもなく苦手だった。
そんな俺がコロシアイや悪魔の話を聞いてどう思ったかなんて、言わなくても分かると思う。
「はたべん!用事があるんだよね!不安そうだけど大丈夫―?」
「う、うん…実は、俺…倉庫から武器を取っちゃって…。」
「は、はたべん、まさか、誰かを…!?」
「ち、違うよ!そんな事考えてないし、俺にはできない…。だけど、悪魔も黒幕も裏切り者も、怖くて…皆の事を疑っているわけじゃないんだ、でも…。」
「…その武器、ずっと持っておくの?」
「そ、それは…。」
桜井さんの真剣な顔に、何も言えなかった。返そうと思って相談したけれど、いざそう言われると恐怖心が勝ちそうになる。
「返そう。しろゆまくんに頼んで、戻してもらおう。たぶん…それを持ってる間は、はたべんはずっと怖がっちゃうよ。関連するものはなるべく持っておかない方がいいよ。…大丈夫、はたべんは強いよ。絶対はたべんを襲う人はいないし、はたべんも襲わない。」
桜井さんが俺の手を掴んだ。
「はたべんは、美亜の事を信じてくれたんだもん。皆の事も信じられるよ。それに…」
そして、パッと両手をあげ、
「美亜も、はたべんの事信じてるよ!なんにも持ってないよ!」
そのままくるりと回って笑ってみせた。
「えへへ、はたべん、元気になったかな?美亜ねー、『説得には自信があるんだ』!編集者さんを説得するのも何回もやって………………………え?」
気づいた時には、桜井さんは動かなくなっていた。
♢♢♢
…察してしまった。
桜井の失言。きっと本人にとっては失言でもなんでもなくて、端部をより元気づけるための言葉。
「いぴぴ!いやー、びっくりですなあ!まさかあの一瞬で『桜井さんが悪魔だと勘違い』しちゃうなんてね!変なところで頭が回る癖に肝心の犯行は穴だらけ…ざるもいいところだよねー!」
「端部…顔で、語らないでよ…。」
牧野は恐怖のどん底…いや、絶望のどん底にいるような表情を浮かべた。
彼にはきっと、俺達の何倍もの情報が入っている。牧野はそのまま目をつぶって下を向いた。
なんて声をかけたらいいのか分からない。
仮に桜井が本当に悪魔だったなら、俺達は裁判も行わずに今頃外に出られていた。
端部のした事は間違っていた。でもそれは結果論だ。
端部が俺達の為にやったかどうかは分からない、本人は教えてくれないだろう。
「端部さんー…桜井さんー…。」
潜手や前木のすすり泣く声が聞こえる。
「ちょっとちょっと!端部クンもミンナも、ここで終わったと思ってない?」
「…!待って、これ、時間が…。」
高堂が震える指で画面の右下を指さす。
【PM10:30:12】
…は?
モノパオファイルには、『死亡推定時刻は23時頃』と書かれていた。22時半はまだ23時頃とは言わない。
俺の中に、おそらく端部の中にも嫌な予感が渦巻いた。
モニターに目が釘付けになる。
―――
焦ったように端部は周りを見渡すと推理の通りに血を拭き、教室を後にした。
「はた…べん…な…ん……で…。」
ずる、と手が動く。
「……だれ…か………たす…け…て…。」
ゆっくりと、桜井が顔をあげた。動くたびに血が床に広がっていく。
「……いや、だ……だ…れか…。」
桜井はそれを無視して廊下に向かって少しずつ這いずっていく。
「……おね………い……。」
だけど、途中で、止まった。
桜井が止まって数秒後、足音がした。
桜井は顔をあげる気力が残ってないのか、それでもわずかに足を横に動かす。
気づいて、助けて、と言わんばかりに。
帰ってきたのは他の人でも、助けでもなく、手にハンマーを携え恐怖に顔をひきつらせた端部だった。
そして、そのハンマーはそのまま……。
右下の表示は【PM11:00:08】だった。
―――
「うそだ…。」
端部が顔を真っ青にする横でモノパオがふんぞり返る。
「まったくもう、端部クンはせっかちすぎるよ!とどめを刺さずにちゃんと最初に殴っちゃった後に確認していれば『今頃桜井サンも立って歩いてた』のにねっ!」
「あ、あ…ごめん、なさ…俺…。」
目から光を消し、呆然と涙をこぼし続ける端部と、声がでない皆と、満足そうなモノパオ。
端部は唇を噛んでいるのか、床に涙と血が混ざったしずくが垂れていく。
これを地獄と呼ばずに、他のどこに地獄があるんだ。
「ごめんなさい…ごめんなさい…。」
俺よりも大きかった背中は、今では誰よりも縮こまっていた。
「全く桜井さんは悪くなかった。キミは勝手な勘違いにかられて『キミを信じてくれた人を殺した』。これで何のしがらみもなくキミを処刑台に送り込む事ができるよ。」
東城はそう言いながら青い顔を下に向けて震える端部に近づいていく。
「…。」
「そもそも、キミがただ勘違いしただけなら裁判で自白してくれたらいい話なんだ。それでもキミはその事を隠して、犯行を暴かれまいとしていた。その時点でキミは自分1人で生き残ろうとしていた。紛れもない犯罪者だよね。キミに同情する人がいるとしたらそれはおかしい話だ。」
「ごめん…なさい…。」
「ところでキミは謝ってばかりだけどどうしてほしいのかな?桜井さんは死んだ。ボク達にキミを許す権利はないのだから謝ったところで無駄だよね。」
何か続けようとした東城の声が止まる。難波が東城の肩を掴んで見た事がないほど強く睨んでいた。
「それ以上言うな。これは命令。アンタこそそこまで追い詰めて何がしたいわけ?」
「コロシアイを起こさせないためだよ。犯人になって暴かれた時どれだけ惨めな思いをするか分かれば殺人を犯そうと考える人はいなくなる、そう考えたんだ。そもそも…。」
今度は東城が難波の腕を掴む。
「犯罪者の癖に偉そうに語らないでもらえるかな、難波さん。」
「!…アタシは…!」
「えーっと、2人で騒いでるとこ悪いけど、そろそろ初めていいかな?ボクくん今日は早く休みたいパオ!」
モノパオの恐ろしい一言に嫌な汗が出る中、潛手が泣きながら叫ぶ。
「端部さんを殺すなんて、あんまりでーすー!潛手めかぶは嫌ですー!」
「じゃあ殺人犯と一緒に暮らしていくの?悪魔だと思われたら殺されちゃうよっ?こっわーい!よし!ではそろそろいっちゃいますか!」
「ごめんなさい…俺が…頼れば、よかったんだ…。もっと早くに、皆に相談したら良かったんだ…。」
「端部…待ってくれ、死ぬなよ…。」
俺がぐるぐる回る頭をどうにか抑えてかけた声も意味はなく、端部は謝罪の言葉を繰り返すだけだった。
「本当に…ごめんなさい…。」
「えっと…ではでは!勘違いとかいう馬鹿な理由で殺人に手を染めたどうしようもないおまぬけなサッカー選手、端部翔梧さんに!」
牧野が走って端部の腕を引っ張る。
「待てよ端部!俺は諦めてほしくない!」
「牧野…ごめん。」
「ぴったりのオシオキを用意してやりました!思う存分楽しんでねっ!」
「でも…死にたく…ないよ…。」
モノパオが何かのボタンを押した瞬間、端部が牧野を突き飛ばした。
「!?端部っ…。」
そして端部は、床に空いた穴に消えた。
□□□
GAME OVER
ハタベくんがクロに決まりました。
おしおきを開始します。
□□□
いつの間にか裁判場が変形し、広く開けた先に端部がいた。
この場所はサッカースタジアムのつもりだろうか。相変わらず天井や壁は真っ暗で作りも稚拙だ。
盛大な応援歌が流れ、端部はサッカーゴールの前に立っている。
俺達の前に透明な壁のようなものが現れ、『観客席』というライトが点灯した。
11匹のゼッケンをつけたモノパオがそれぞれのポジションにつき、開始の合図が鳴り響いた。
【ライフキーパー 超高校級のサッカー選手 端部翔梧処刑執行】
端部の元に1匹のモノパオがシュートを仕掛ける…が、端部は持ち前の才能でボールをキャッチしていく。
モノパオはいくつものボールを蹴り、シュートの頻度がじわじわと上がっていく。
端部の額に汗が浮かび始める。
モノパオの人数も増えていく。
30匹を超えるモノパオがぐちゃぐちゃともみ合いながら、ポジションもルールもそっちのけで端部のいるゴールへとボールを蹴り続ける。
一部のモノパオはもみ合いの末に再起不能になり、その場にモノパオの残骸がバラバラと落ちていく。
チームワークもへったくそもないプレーだ。
そして、蹴られるボールはだんだんと黒くなっていった。
いつの間にかボールは爆弾になっていた。
火が付き始めた爆弾をモノパオが蹴っては端部が必死に返していく。
ボールは形を変え、とげのついたものや明らかに刃がむき出しになったもの。
端部の手にグローブはない。
端部の手や体が血だらけになる頃には、モノパオの集団がそれぞれに爆弾を抱え、端部の方に転がり込んできていた。
端部は避ける事に決めたようで横を向いた。
そして、端部自身で隠れて見えなくなっていたゴールの中に、桜井の遺影がポツンとあるのを見つけてしまった。
気を取られた端部は、火だるまと化したモノパオの集団に巻き込まれた。
地響きのするほどの衝撃をもった爆発音。咄嗟に目をつぶる。
ひどすぎる悪臭に思わず目を開けると、真っ黒い塊がそこにあった。
俺達の前にある壁に、血と炭とガラクタがついている。
透明な壁のせいで宙に浮いているように見えた。
何かに向かって伸ばされた手の形をした物が唯一、端部がそこいいた事を証明していた。
□□□
俺が我に返ると、いつの間にかサッカースタジアムは消え、さっきまで議論をしていた裁判場に戻っていた。
「わーい!オシオキ楽しい!サッカーはこんな感じでいいのかなっ?よく分かんないけど、これでゲームセットだね!」
試合が終わって疲れました、とでも言わんばかりにモノパオはタオルを肩にかけてスポーツドリンクを顔に向けている。向けているだけで飲んではいない。
端部が、死んだ。
…。
死んだ?
あの黒いかたまりが端部なのか?
あれは燃え尽きたゴールで、端部はまだ生きてるんじゃないか、…そう頭が誤解させようとしてくるけれど、燃え残った端部の服、焦げ付くような匂い、チリチリという音、体に伝わる全ての情報が、『これは現実だ』と突きつけてくる。
なんで端部はこんな殺され方をしたんだ。意味が分からない。
「うそだよ、ね?」
前木の目は見開かれ、恐怖のあまり涙を流していた。
「いやーっ、『ミンナのお望み通り』、無事に犯人はオシオキされました!これで安心してコロシアイ生活を続けられるね!おめでとうパオ!」
「こんな、こんなの…ひどすぎますわ…。」
安鐘もガタガタと震えていた。
「…おい。モノパオ、こんな悪趣味な事をして何が楽しい?私には到底理解できない。」
「何を楽しみにするかなんて人それぞれパオ。篠田サンごときに口出しされたくないもんねー!」
「殺されるのも納得がいかないというのに、こんな無残に殺される理由がどこにあった…!」
怒りを露わにする三笠にモノパオは気持ち悪い笑い声をあげる。
「いぴぴ、いぴぴぴぴぴ!こうしろって言われたんだから仕方ないパオ!それに、ちょっとおもしろく死んでもらった方がゲームをクリアしたみたいな達成感が出るでしょ?」
「ふざけるな…!」
三笠はそう吐き捨てる。こんなに感情を表に出すのは珍しい気がする。無理もない事だ。
俺も病気になったんじゃないかというくらい気分が悪い。
「チッ、キモ二色象。アイツは本当に死んだんだろうな?」
「そのあだ名は失礼だよ大渡クン…。うん、そりゃあもうばっちり死んだよっ!ここまで運んできて確かめてみる?」
「黙れ。」
「ひどいな。あれはちょっとかわいそうだよ。」
しんと静まりかえった中、モノパオに向かって文句を言ったのは東城だった。
「…ねえ、東城、さっき端部を追い詰めたのはあんただよ?今更どうしてかわいそうなんて…」
「何にも使えない死に方をしたからね。文句くらいは言ってもいいと思ったんだ。」
………は?
「と、東城くん…どういう事?」
「実験だよ。」
……は、こいつは、何を言ってるんだ…?
「ど、どういうことでーすかー…?冗談です…よねー…?」
「今は別に冗談を言う場面ではないよね?ボクは処刑の後にあそこで死んだ人の体を何らかの形で保存して使う事で何かいい薬でも作れないか試そうと思っていてね。あれほど爆破されたらどうしようもない。残念だけれど仕方ないから諦めるしか」
バシッ!!!
裁判場に大きな音が響き渡る。
「あなた…人として間違っていますわよ。」
東城の頬を叩いたのは安鐘だった。いつもの柔和な笑顔からは想像もできないような厳しい顔で東城を見下ろしている。涙を必死にこらえながら、東城を睨みつけていた。
「安鐘さん、人を叩くのは悪い事だよ。」
「知っています。けれど、あなたは叩かれるのに十分な事をしましたから。」
「何かしたかな。」
「仲間の侮辱。死んだ方への非人道的な発言。今なら取り消す事もできますわよ、訂正なさってください。」
「何を言っているのかな?仲間を、桜井さんを殺したのはアイツだよね。ボクは誰にも何もしていない。」
東城は本当に心当たりがないのかきょとんとしている。
安鐘は一息おくと、怒鳴った。
「あなたは今までがんばっていましたわ!努力もして、素晴らしい人だと思っていました!ですが!桜井さんだけでなく、端部さんもわたくし達の仲間です!たとえ勘違いをして桜井さんを殺したとしても、わたくし達の事を犠牲にして外に出ようと裁判台に立っていたとしても!」
「端部さんを頼らせてあげられなかった、頼っていいと言えなかったわたくし達にも、責任はあるのです!」
ハッとした顔で何人かが目を見開く。それは俺も同じだった。
「そうだ…そうなんだ、東城。お前は確かに、装置を作ったり喚起をしたりがんばっていた。それはすごい事だし、俺達もありがたいと思ってる。だけど、それだけじゃあダメなんだ。俺達が皆で協力していかなくちゃダメなんだよ。俺達が、信頼し合わないといけないんだ。」
「……そっか。モノパオ。」
「すっかり空気と化していたボクくんに声をかけてくれるなんて東城クンはぼっちにも優しいんだね!発言は優しさのかけらもないみたいだけど!…で、何の用かな?」
「『次は』使える状態にしてね。」
……こいつ!
「東城さん、あなたっ!」
「ボクが努力しても現状は厳しいみたいだ。それならここにない薬でも合成してしまう方がずっと有意義だよ。コロシアイはこれからも起こさないように注意するけれど、死体を予約するくらいは当然の権利だ。」
「東城…お主は、これからもコロシアイが起きると思っておるという事か?」
「そうだよ。」
「あんた…いい加減にしなよ。」
「じゃあ高堂さんはコロシアイを止めるために何かしたのかな。」
「!そ、それは…。」
「高堂さんだけじゃない。皆そうだよ、キミ達はふらふらと何をしていたの?サッカー?お茶会?それらに何の効果があったのか教えてほしいな。効果があったというなら素直に引き下がるけど、結論そんなものは一切なかったよね。現に今回死んだのはサッカーをしていた人達じゃないか。コロシアイを止める対策も考えないキミ達にどうしてボクが文句を言われなければならなかったのか分からないよ。そもそも…」
「宮壁くん、君が犯人を決定できたのはボクが装置を作っていたからじゃないか。」
…そうだ。東城が装置の奥に凶器をしまわなければ凶器は誰にでもとる事ができた。装置がなければ俺か三笠か端部か、犯人の決定的証拠はないままだった事になる。
「ご、ごめん…。」
「何に謝っているのか分からないけれど、キミ達はコロシアイを止めるための行動も起こさなければ捜査の手掛かりすらボク頼りだ。何がしたいのか分からない。」
「…東城、俺は…。」
「宮壁くんと話す事はないよ。じゃあね。」
そう言い残して東城は裁判場から帰っていった。いつの間にかモノパオも消えていた。
…俺は、この数日間何をしていたんだろう。
端部と楽しくサッカーをして、桜井と一緒におしゃべりして…。
何もしてない。注意していたはずなのに、俺はコロシアイなんて起きるはずがないと思うようになっていた。仲良しになっていく皆を見て、心の奥では安心しきっていたんだ。
俺が悪魔をしっかり見極めていこうと考えている内は、コロシアイとは無縁の時間をすごせると勝手に思っていたんだ。
裏切り者がいるのに俺はどうしてこんなに安心していたんだろうか。
「…ごめん。俺が1番、注意できたはずなのに。何もしてなくって。」
泣きはらした目でそうつぶやいたのは牧野だった。
「俺は最低な奴だ。…本当に、ごめんなさい。」
その目に光はなかった。踵を返して俺達から離れていく。
「ま、牧野!」
牧野の表情は素人にも分かるくらい負の感情に染まっていた。高堂が慌ててかけよる。
「牧野、あたしも何もしてなかったから、1人でそんな事言わないでよ。だから…」
「ついてこないで。」
「…!…ご、ごめん…。」
牧野は高堂を厳しく制すると、そのまま裁判場の出口に向かう。高堂を追い返すなんて…。
だけどエレベーターはまだ来なかった。
「あ、エレベーターがこないからお困り?そうだよねっ!捨て台詞吐いた癖にしばらく裁判場の後ろでエレベーター待ちとか、捨て台詞吐いた人達ミンナが同じエレベーターに乗って帰るとか、基本描写されないところってよく考えると恥ずかしすぎてやってられないもんね!かわいそうパオ!」
「うるさい。消えたんじゃなかったの。」
牧野の言葉はお構いなしでモノパオは続ける。
「そんな捨て台詞大好きっ子に朗報です!なんとこの裁判場のそこの通路!ここをまっすぐ行くと階段があるパオ!そこを進むと寄宿棟に戻れるから、活用するパオ!じゃ、まったねー!」
「…。」
モノパオが消え、牧野が歩き出したと同時に、三笠が俺達にすまん!と言って牧野の元に走っていった。
「…来るなって…。」
「今のお主に自分を振り払う力があるとは思えん。肩、貸してみろ。」
「…!…ありがと。」
「…みなさん、ごめんなさいね。わたくし、カッとなって、東城さんに失礼な事を言ってしまいましたわ…。頭を冷やしてきます。あと…わたくしも何もできず、申し訳ありませんでした。」
2人が通路の奥に消えると深々と一礼し、安鐘も微笑みを浮かべて出ていった。
彼女のひきつった笑みは、今声をかけてしまったら一瞬で崩れてしまうだろう。誰も声をかけられなかった。
ずっと悪魔さえ殺せばいいと思っていた。
でも、その悪魔はこの中にいる。
悪魔を探すには、『仲間』がいるんだ。
「安鐘のおかげで、俺は自分の本当にすべき事が見つかった。」
「すべき事?宮壁くん、どういう事?」
「信頼関係を築いていくしかない。悪魔や裏切り者が怖いのは皆同じだ。怖いけど、それ以上にもうここに来る事がないようにしないといけない。コロシアイだけは避けないといけない。裏切り者やモノパオの好きにはさせない。」
「うん。あたし達がする事って、それしかないよね。他にも何かできる事があればやっていくしかない。皆、頑張ろうね。」
高堂もやっと前向きな表情を見せ、周りは頷く。
「おれは無理です。」
「…え?」
見たこともないような真顔で、柳原は声を発した。
「今さっきの東城さんや、裁判の事を考えると、みなさんとはいられません。しんらい、なんて無理です。」
「柳原、どうして急に…。」
「急じゃないですよ。第一発見者で机がずれたくらいであんなに疑ってきたのはみなさんじゃないですか。もしかして、裁判が終わったら裁判であったことはみんな忘れると、おれが許したと思っていたんですか?」
皆、固まった。俺も、ほとんど忘れていた。確かに柳原は疑われていた。柳原は容疑が晴れた時に万歳をしていたから、『解決した事』だと思い込んでいた。
疑われた人にとっては、すぐに解決するような問題ではなかったのに。
「やっぱり、わすれてたんですよね。おれがよろこんだから、みなさんはおれのこと、『あつかいやすいこどもだ』っておもったんですよね。あやまらなくてもかってにわすれてくれるって、そうおもったんですよね。」
「ち、違う…!」
「…おれは怖いです。コロシアイも、疑われるのも、捜査も、裁判も、オシオキも、そして、その恐怖をすぐになかったことにするみなさんも。…だから、1人にさせてください。お願いします。」
「…柳原…ごめん、なさい…。」
高堂がすぐに頭を下げる。そんな高堂を見つめる柳原は、真顔のままだった。そのまま何も言わずに通路の方へと歩いて行った。
まずい。溝だらけになってしまう。俺は、俺の判断は、間違っていたって事か…?
「んー、アタシも帰るわ。しばらく離れてみる。」
「紫織ちゃん…!」
「琴奈、そんな心配しなくてもアタシは考えてみるだけだから。誰が敵で誰が味方か全く分かんない状況で、やみくもにお互いを信頼していくってのは…柳原には無理だろうし、正直アタシも無理。信頼できない奴がいるかと言われたらそういう訳じゃねーけど。自分でそれを志してもらうのは勝手だけど、それを全員の目標にするってのは全然違う問題になるって事よ。」
…!
「…悪い、引き留めて。皆も疲れてるだろうし…まだ夜寝るには早い時間だろうけど、朝からずっとがんばったから、休んで、また明日会おう。来られる人だけでいい。無理は言わない。」
「アンタもよ、宮壁。お疲れ様。皆の事引っ張ってくれてありがと。んじゃ、アタシは寝るわ。」
難波もヒールを鳴らしながら姿を消した。
…ありがと、か。俺は、皆の役に立てたんだろうか…。正しいクロを暴く事が、俺の1番の判断だったんだろうか。焦った時の俺は、学校に認められるような才能なんてほとんど役に立たない。頭をすっきりさせて、余分な私情を捨てて、それで初めて冷静で最適な判断が下せる。裁判で俺は…冷静だったのだろうか。
「……同意……帰る…。」
「ああ、おやすみ。」
勝卯木も難波の後をついていった。
「み、宮壁さんー…。」
声と同時に後ろから肩をとんとんと叩かれる。潛手だ。
「疲れたーのでー、このーまま帰りまーすねー。…落ち込まないーでくださいーねー、宮壁さんー。きっと今日休めば皆さん元気もーりもり、でーすよー。」
「あ、ありがとう。…顔色悪いけど、大丈夫か?」
「それならば私が付き添おう。」
「私もお話するくらいならできるよ…!」
篠田と前木がそっと潛手の肩をもつ。
「やっほーい!…………。」
元気に返事をしたが、それは口だけやっぱり気分も悪そうだった。きっと無理をしている。
「2人とも…ありがとうございますー…宮壁さん達も、また明日でーすー…。」
とぼとぼと通路を歩いていく3人。
見送るようにしばらく通路の方を見ていると、潛手の大きく泣く声が聞こえた。
…コロシアイ。この裁判で俺達の関係は崩れてしまった。また初めからだ。今度は前よりも仲良くなるのがきっと数倍難しいのに。
一体モノパオの目的は何なんだ。こんな事をして、俺達の命と気持ちを弄んで、どうするつもりなんだ。
「…はぁ。」
ひとりでにため息が出る。
「協力なんて、あたしもできるか分からない。」
「高堂。」
「だけど、それくらいは言ってないと、希望なんて持てない。明日からの事すら何も考えられないのに。…あたしは信頼したい。だけど、今日だけは、あたしを奮い立たせるための口実にさせてほしい。前を向くための手段にさせてほしい。あたしは、強くないから。…ただの人間だから。」
「俺も、弱いよ。皆きっと強くない。精一杯自身にできる事をしようとがんばってるんだ。…この判断が最初からできていればよかったんだけどな。」
高堂は頷くとそのまま通路の方に歩いていく。去り際にふと振り返った。
「…じゃあ、また明日。宮壁、大渡。」
その言葉に大渡がまだいた事を思い出す。
「大渡!お前、なんで…。」
「うるせぇ。……気になる事があるだけだ。」
「気になる事?」
「貴様に相談することじゃねぇ。」
「…お前だけは相変わらずだな。…でも、今はそれが少し安心できる。」
「…気色悪ぃ。」
凄い目だ。全力で俺の存在を拒もうとする目。やっぱりこいつで安心なんてしたくないな。
「…前言撤回。」
「最初から言うな。」
俺とこいつの目的は違うと思うけど二人きりになってしまった。全く遺憾だな。
「チッ……なぜ貴様なんだ。」
それはこっちの台詞だ。まあ、俺はさっさと自分の用事を済ませるとしよう。
用事、というよりは………弔い、に近い物なのだけど。
「………」
無言で狭い通路を通る。たまにしかないぼんやりとしたライトに照らされた無機質なコンクリートの道を道なりに進んでいく。疲れ切って、何も考えが浮かばなかった。
階段を上ると自動ドアになっていたようでゆっくりと扉が開く。
「ここ…玄関ホールだ。」
玄関ホールにあった謎の扉。そこから出てきていた。
そうか。裁判場は地下にあった。ここにつながっていたのか。
ふと見ると横のクリアケースに何かが入っている。
「生徒手帳だ。」
「…なるほどな。脱落した奴等の生徒手帳を入れる為の物だったって事か。」
明日集まれる人だけで集合するだろうしそこでこの話を聞いてみよう。エレベーターを使った奴もいる。明日も東城と普通に会話ができるとは思えないし、しばらく会いたくないけれど…共有するのは大事だ。きっと信頼を築くための手段になる。
生徒手帳を起動させ、2人の名前を確認するとそっと戻し、俺は目的の場所に向かう事にした。
□□□
「………」
ずっと嫌な予感はしていたがここまでくると当たりのようだ。二人並んで桜井の個室の扉の前に立つ。
「何の用なんだ、大渡は。」
「貴様が先に答えろ。」
その質問は無視して扉を開ける。
…インクや紙の匂いが鼻につく。そこら中に本や紙が重なっているが、何より目をひいたのは、壁一面に貼られたメモだった。
一面にあるメモの中に、何枚か色が塗ってある。思わず、近づいてみると。
「これ…。」
難波の事が描かれていた。知らない制服を着て、横には怪盗らしい服を着た姿もある。まさかと思って周りのメモを見ると他の皆それぞれにも漫画であろう設定の描かれたものがあった。よく見ると俺のものもある。
『名前未定
・若手裁判員
・優しいお兄ちゃんポジ
・とっても頼りになる!
・サポート枠』
そう書かれていた。
「…ははっ、どこにも書いてないじゃないか。ドSとか、地味なんて。」
胸が痛い。
このメモの下の方には桜井のマンガのマスコットキャラの絵が印刷されていた。桜井がいつも持ち歩いていたメモだった。周りには他の皆についてのメモもある。
そのまま見ていると、ピンクの付箋の貼られた大きめの紙が一枚、机の上に広がっている事に気づく。
全員が、今さっきメモで見た制服を着た皆が笑顔で駆け出している絵だった。
前木、難波、東城、大渡、勝卯木、潜手、三笠、安鐘、牧野、高堂、端部、柳原、篠田、…俺。
14人だ。
…桜井は、いない。
作者だからか?
桜井は俺達を『ネタになりそうな人』と言っていた。
そこにきっと、桜井自身は入れていなかったのだろう。
「いたって…いいじゃないか、お前みたいなやつが一番、物語を明るくしてくれるんじゃないのかよ…。」
桜井の絵の中で笑ってる俺達を見る。絵の中の端部は照れているのか、困ったように、けど嬉しそうにはにかんでいた。
皆幸せそうで、だからこそ。
胸が締め付けられたように苦しい。続く言葉が出てこない。
この思いを死んだ桜井に届けられるような語彙力なんて、俺は持っていないんだ。
「…い…、…ろ…」
遠くで大渡の声がする。何を言っているんだあいつは。そういえば、大渡は何をしにきたのだろうか。
「起きろ、何度呼ばせるんだ。今は仮眠とる時間じゃねぇ。」
…俺、寝かけてたのか。大渡に起こされるなんて、というより、起こしてくれる人だったんだな。がばりと起き上がると眉間に皺を寄せた大渡がこちらを睨んでいた。
「…貴様がメモに没頭するせいで何もできてねぇ。……あいつらは本当に死んだのか。」
「桜井と端部のことか…?いつまでそんなこと言ってるんだよ、…二人は…もう、死んだだろ。」
「察しの悪い奴だ。なぜこんな質問をするのか程度、少し考えれば分かるだろうが。その才能はお飾りか?ああ、お飾りだってサイコ研究野郎に言われてたな。」
本当大渡はいちいち癪に障る言い方をするな。あれは別に俺だけに向かって言われた事じゃない。お前も言われてるくせに。でもバカと言われるのは不愉快だから少し考えてみる。
「………幽霊関連の事か?」
「当たり前だ。…ここに来れば見えるかと思ったんだがな。」
大渡はだるそうに溜め息をつくと少し焦ったような口調で言った。
「…見えねぇ。二人とも。」
見えない?2人は幽霊になってないって事か?いや、未練がないってだけかも…。
「…悪霊じゃなきゃ見えない、なんてことはないのか?」
「貴様は舐めているのか。殺人が起きたときから違和感ではあった。だから貴様らの内誰か一人には言おうと思い、裁判の後最後まで残ってみたら貴様だった訳だ。」
「…俺で悪かったな。」
「ああ、悪い。最悪だ。反吐が出る。」
俺も出してやろうか。
「………あれ、つまり、見えないってことは、ずっと探してたのか?証拠になると思って…?」
幽霊が見えたら犯人に繋がるから?
そりゃあ大渡が犯人だったら意味がないけどもしそんな事ができれば裁判やそれ以外でもかなり役に立つはずだ。それを探ろうとしてくれるだけ意外といい奴なのかもしれない。
「死んだ場所には霊気…死んだ人間がいる気配がする事が大半だ。それすらも感じねぇから気味が悪いっつう話だ。…後、気色悪ぃ顔で見るな。急ににやつきやがって気持ち悪ぃ。」
「俺、お前とは一生友達になれない。」
「珍しいな。気味の悪ぃ事に、丁度同じ事を考えていた。」
にやりと口角だけをうっすら歪めた不敵な笑みをみせる。
………あれ、初めて笑ったんじゃないか?
「……アイツに散々言われたから朝食の時に顔は出す。うぜぇ起こし方は二度とするなよ。」
そう思ったのもつかの間、大渡はまた何時もの眉間にシワを寄せた無愛想な顔に戻っていた。
桜井、お前は…大渡を、少しではあるけれど、変えた。
偉いよ。すごいよ。かっこいいよ。
そう、本人に直接言えたら、どれだけ良かったか。
どれだけ、喜んでくれたのだろうか。
『そりゃそうだよー!美亜は強いもん!わたりんなんてへっちゃらなんだよ!』
横の机に向かってる桜井が俺の方を振り返り、そう返してくれた気がした。
□□□
もう一通りいてもおかしくない場所は見た、と言って大渡は部屋に帰っていった。
1人で端部の部屋に入る。
この部屋にちゃんと入るのは3度目くらいだろうか。サッカーの準備と片付けの時、端部と話した時…そして今。
モノパオいわく今日の間は死んだ人の個室は開いているらしいが、明日からは入れなくなるらしい。
どことなくひんやりとした空気に、もうここに寝に帰る人はいないのだと思い知らされる。
……綺麗なサッカーボールの隣に、穴のあいたボロボロのサッカーボールが転がっていた。
紛れもなく、俺が磨いたやつだった。このボールを蹴る時、俺や皆の事は何も思い出さなかったのだろうか、そこで踏みとどまれなかったのか、なんてとんでもなく自己中心的な考えが頭をよぎる。
端部が桜井を殺したという事実に、まだ実感は湧いていない。
サッカーをしたのはついこの間で、端部とここで話したのなんてついさっきだ。確かに端部は生きていた。ここにいたのに。
端部だけじゃない、他の人の事を何も考えずに変に躍起になっていた自分がバカみたいだ。
…どうして頼ってくれなかったんだろうか。俺じゃダメな理由があったのか、俺には分からない。
信頼し合う、口ではそう言ったけど端部に信頼されなかった俺がそんな事を言ったところで誰がついてきてくれるんだ。頭を掻きむしりたくなるほどの頭痛にため息をつきながら…
…頭痛?なんでこんなに頭が痛いんだ?
そう自覚してから、あまりの痛さにうずくまる。痛い、なんでこんな、急に…。
「宮壁くん!」
誰かの声が聞こえる。
「おい、宮壁、大丈夫か…よし、私が運ぼう。前木は帰って大丈夫だ。」
「瞳ちゃんだけに任せられないよ!私も行く!」
「潛手めかぶもお手伝いするーですー!」
□□□
「お、気がついたか。」
目を開けると心配そうな篠田と前木と潛手の顔があった。
「ここは…保健室か。」
「端部さんの部屋に今日なら入れると聞いてー、潛手めかぶ達も、何かできないかなーと思ったのでーすー!そしたら、宮壁さんが倒れていてびっくりしたんですーよー!」
「そうなのか…ごめん。」
「謝らないで。宮壁くん。」
前木の真剣な顔に思わず口を閉じる。
「宮壁くんは、皆のためにがんばってくれたんだから、今度は私ががんばる番だもん。」
「がんばった…?俺はよかったのか?皆の役に立てたのか?」
「立ったよ。あの状態で、皆が生きる事は無理になってた。真実を暴けなかったら今頃ここにいるのは端部くんだけだった。それがいい事か悪い事か…そんなふうに決めちゃいけないけれど、宮壁くんががんばってくれたのは事実だから。…ありがとう。」
「ありがとうございましーたー!潛手めかぶは頭を使うのが苦手なのーでー、すごいでーす!」
「ああ、世話になった。ありがとう、宮壁。」
「…皆…。」
俺はまだ、皆をひっぱれるだろうか。
皆はついてきてくれるだろうか。
信じよう。
俺が信じなきゃ、誰も信じてくれない。
今の俺なら、自分の悩みに判断を下せる。
端部が俺を頼らなかったのは、俺が端部を頼らなかったからだ。
安鐘の言う通り、結局悪いのは皆なんだ。
信じ合う、とはそういう事に違いない。
その事を端部は教えてくれたのかもしれない。
いつの間にか頭痛もおさまっていた。
「もう大丈夫みたいだ。皆も…ありがとう。だから皆も休んでほしい。」
3人は安心したようで、保健室から出て行った。
俺も出ていこうとして視界の端に何かが映る。
「…なんだこれ…。」
毒だ。紛れもない毒。見た事のない瓶が増えていた。
「東城が全部分解したはずじゃないのか…?」
…その瓶を持って保健室を後にした。
□□□
「大丈夫か。」
「うん、結構吐いたから。」
「お礼など気にするな。気分が落ち着くまでしっかり休めばいい。」
「…三笠、今日ここで寝てもいい?邪魔はしないから…。」
「かまわんが、そこまで思い詰めているとは気づけなかった。すまない。」
「三笠が気にする事ないよ。本当は疲れてる時に部屋に他人が入ってくるのも嫌でしょ。」
「さすがに嫌とは思っておらんぞ…?」
三笠は違和感を覚えていた。普段の牧野は他人、特に男子に気を遣うような人とは思えなかったからだ。
それにメンタリストでありながら三笠の思ってもないような事を口にする。
だからなのか、次の言葉を聞いてもあまり驚きはしなかった。
「三笠は、『僕』の事、どう思う?」
「…それが本当のお主、という事か。」
「え、なんで…。」
「自分はいろんなところで生活してきた経験があるからな。普段の性格がそのまま本心通りなのかどうかは話してみないと分からんものだ。」
「…そっか、三笠はすごいね。」
「高堂の事をなぜ頼らなかった?それも、本心ではないからか?」
「高堂ちゃんの事が好きなのは本心だよ。だけど…僕なんかが高堂ちゃんを頼っていいわけがない。足をひっぱりたくない。僕は高堂ちゃんに会えない。」
「話は…まだあるんだろう?」
彼は三笠をじっと見る。しばらくして気の抜けた声を出した。
「三笠、いい人すぎない?こんだけ見ても他意が感じられないよ。嫌がってないのも本当だったんだね。…話していい?」
「ああ、いいぞ。」
「…桜井ちゃんが死んで、皆ぴりぴりして。裁判ではもっと張りつめてるし、皆が疑い合う。僕、メンタリストの勉強とかしてきたから、皆の考えてる事が詳しくではないけど分かるんだ。」
彼は三笠の方を見まいとそっぽを向いた。
「分かるんだよ。誰が誰を疑ってて、誰が誰に怒ってて、皆が皆の事をどう思ってるか。俺も疑われてるんだって事が気持ち悪いくらい伝わってくる。」
「…。」
「…死にたくなってきちゃうんだ。」
「…!」
「皆の顔を見て、声を聞くたびにどんどん皆の事が見れなくなるし聞きたくなくなる。どんどん嫌いになっていく。僕ががんばらなきゃいけなかったのに。端部が不安がってる事くらいわかってたはずなのに、声をかけられなかった。怖かった。俺が悪魔だと思われてるんじゃないか、そう思ったらできなかった。放っておいたんだ。2人を殺したのは僕だ。僕ががんばらなかったから2人は死んだんだ。そんな僕が誰よりも嫌いなんだ。」
「お主だけが気に病む事じゃない!自分も、全員気づけなかった責任がある!思い詰めすぎだ!」
「そんな事ないんだよ。皆が好きなのは、皆が見てるのは『牧野いろは』だから。僕が必死で演じてる俺を見てるだけ。きっと高堂ちゃんが見てくれるのも俺だけなんだ。」
「高堂がそんな奴だと思うのか。それに今、自分はお主と話している。自分はお主を、牧野とは呼んでおらん。」
「…え。」
「皆の事を嫌いになりたくないのだろう?ならお主はいい奴だ。高堂だってわかってくれる。自信を持て。皆自分の事で手一杯だった。だから今日の事は起きてしまった。避けられる方法があったとするならそれは今日1日でどうにかなる事じゃない。信頼が足りなかった。あまりにも短い時間ではどうしようもなかったというだけだ。」
「僕が、いい奴?」
「ああ。だから生きろ。」
「初めて言われた。」
「ははっ、それは大げさだ。お主はそうやって反省できる奴だ。前に進める奴なんだ。お主はお主が思う以上に、がんばってる奴だ。」
「三笠…。」
彼は泣いていた。号泣していた。子どものように震える背中を三笠はそっとさする。
「僕…がんばるね。死にたいなんて言わない。三笠がいれば大丈夫かもしれない。…応援してくれる?」
泣きすぎてメイクの落ちた、そばかすだらけの決して綺麗な顔とは言えない彼は初めて笑った。三笠は彼としっかり目を合わせる。
「ああ、約束だ。自分がついているぞ。」
□□□
裁判場で、端部だったものを見る。
端部と桜井の名前の横にチェックを入れる。
「2人は悪魔ではなかったのか。」
しっかりとこの目で見た。2人が死んでいるところを。
これで候補者は私を除いて12人。
「私は必ず悪魔を殺す。そのためにこの才能を磨いたのだから。」
「…またコロシアイに巻き込まれているのだから、必ず殺してみせよう。」
気分の悪くなる話だ。周りは高校生だったが私はまだ小さかったはずだ。あの時私以外に生存した者達は今どこで何をしている。1度目は半ば自分からコロシアイに参加したようなものだったが今回は違う。こんな事、2度とやりたくなかった。
あの時の黒幕は気味が悪かった。『5回も事件起きるの見たら飽きた』と言って私達を解放した。
ならばどうして再びコロシアイを起こす必要がある?問題は解決しなかったのか?そもそも同じ黒幕なのか?
あれから何年経った?悪魔に対する執着はなんだ?何がしたい?
何も分からない。ただ1つ私だけが分かる事があるとすれば、私が思い出した事実があるとすれば、
「私の知っている勝卯木蘭は…記憶力などという才能は持っていなかった。」
CHAPTER1 『ワースト・イズ・リアル』
END
超高校級の漫画家 桜井美亜
【端部により死亡】
超高校級のサッカー選手 端部翔梧
【オシオキにより死亡】
残り生存者数 13人
▼[14人の集合イラスト]を手に入れた。
▼[ボロボロのサッカーボール]を手に入れた。
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