ダンガン口ンパノウム   作:口田らみ

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短めな上に久しぶりの投稿となってしまいました。次はまた少し間が空いてしまうと思いますが地道に続けていきます。
2章の始まりです。よろしくお願いします。


Chapter 2『君に届かない』
(非)日常編 1


 

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『ミンナおはパオ!7時だよ!昨日はしっかり寝たし大丈夫だよねっ?今日もレッツ・コロシアイ生活!』

 

「……7時…!?」

 

がばりと起き上がる。昨日の昼過ぎにベッドに腰かけた状態から倒れてそのまま寝てしまったらしく、体が痛い。服もそのままだった。

えっと、昨日はどうしてこんな体勢で…そう考え始めた俺の視界の端に、机に置かれた1枚のイラストが映りこんできた。

 

「あ…。…夢じゃ、なかったのか…。」

 

昨日、桜井と端部が死んだ。まるで夢の出来事のようで、全く実感がわかなかった。

それでも、事実だと自分に言い聞かせるために持って帰ったイラストとサッカーボールは部屋に存在していた。気が重い。

昨日俺達はバラバラになってしまった。今まで過ごしてきた時間は数時間の裁判で粉々に砕け散ってしまった。

 

「…行かなくても、いいかな…。」

 

ベッドに倒れこむ。今度はちゃんと寝転がるように。

…起きたくなかった。昨日の俺の判断に自信がもてなかったから。

 

もう少し転がっていよう。あと30分くらい…。

 

 

 

□□□

 

 

 

『ピンポーン』

 

「!?あれ、俺、寝てたのか?」

 

慌てて時計を見ると9時を回っていた。2時間も経っている。

とりあえず顔だけ出してそろそろ準備しよう。

 

「おはようございます、宮壁さん!心配しましたわ…。」

 

「安鐘…!ごめん、二度寝してた。」

 

「それならよかったですわ。…まだ半分くらいしか来ていませんので、安心してくださいませ。」

 

「…そっか。」

 

安鐘は強いな。いつもと変わらない笑顔で他の部屋に向かっていった。

俺もしっかりしないと。俺より傷ついてる人だってたくさんいるはずだ。俺にできる事があれば率先してやっていこう。崩れてしまった関係は、また築いていくしかないんだ。

 

 

 

□□□

 

 

 

「わー!宮壁さんー!おはようございまーすー!」

 

俺が食堂に入ると、おにぎりの入ったお皿を持った潛手が元気よく挨拶してくれた。

 

「おはよう。潛手も早いな。」

 

「おお、宮壁か。朝食は食べれるか?」

 

「あ、自分で用意するよ。」

 

「そうか。」

 

三笠にふっと微笑まれると少し照れくさいな。弟扱いされた気分だ。

思ったよりは食堂の雰囲気が暗くない事に安堵しながら厨房に入る。

 

「あ、宮壁くん…おはよう。ちょうど温めなおしたところだよ。」

 

前木はそう言ってトレイを差し出す。

とりあえず受け取り自分の席へ戻ろうとするが、ふと調理台の奥の方に何かが見えた。

 

「ん?あれ…」

 

「なんでもない。」

 

高堂が隠す。

 

「なんで隠すんだ?」

 

「なんでもないったら。」

 

「そ、そうか…。」

 

普通の朝食ののった2枚のトレイ…おにぎりは潛手が持ってるから卵焼きとサラダだけに見えたけど、なんであんな奥に…そう思ってテーブルについて、ふと目を開いた。

 

テーブルには、俺のを含めたら8人分のトレイが並んでいた。流しに5人分のトレイがある。

 

「あ…。」

 

あのトレイは…じゃあ…。

 

トレイだけを置いて厨房に戻る。高堂と前木を半ば押しのける形で俺は箸を手に取り、卵焼きとサラダを口に運んだ。

 

「み、宮壁くん!?」

 

気持ち早めに食べ終わると食器を洗う。

 

「…2人とも泣きそうなんだから、俺にできる事はさせてくれ。」

 

本来ならあの2人が食べるはずのものだ。そう謝りながら前木と高堂の顔を見る。2人とも図星なのか、何も答えなかった。無言で軽く微笑まれた。

 

「…宮壁、ありがと。」

 

「………ずるい……宮壁……。」

 

「え?」

 

急に真後ろで聞こえた声に思わず振り向くと、勝卯木がいた。

 

「……大食い……ずるい…。」

 

「ら、蘭ちゃん、ごめんね!今からまた作るね?卵焼きでいい?それとも目玉焼きの方がいいかな?」

 

「……めだま…。」

 

「うん、目玉焼きね!テーブルで待っててくれるかな?」

 

「……琴奈……好き…。」

 

「あ、あはは…ありがとう!」

 

「蘭ちゃん相変わらずだね。あたしの何倍も食べてるのに。」

 

「そうなのか…。」

 

高堂と苦笑し合ってからテーブルに戻ろうとした時、横から舌打ちの音が聞こえてきた。

 

「チッ、ぼっちの癖に戯れやがって騒々しい。」

 

「なんだその言い草は!…って、大渡!?」

 

「なんだ。」

 

「お前…本当に来たんだな…!よかった。」

 

かなり端の席に座っていたから見えていなかったようだ。

 

「嘘吐く理由がねぇ。」

 

相変わらず不機嫌そうに言い捨て、トレイごと食器を乱雑に流しに置いてそそくさと食堂から出て行った。

 

「あ!大渡くん全部食べてる!よかった…!」

 

「……私…食べた……。」

 

「うん!蘭ちゃんもたくさん食べてすごいね!」

 

「……勝利……。」

 

勝卯木は両手でピースサインをしている。

謎のノリに若干おいていかれながらも俺はテーブルに戻った。

 

「宮壁さんー、たーくさん、食べてくださいーねー!」

 

「あ、ああ。ありがとう。」

 

正直さっき2人分食べたから、おにぎりはまだ食べてないにしてもお腹もいっぱいになってきたな…。

 

「…皆、昨日…忘れた?話……出さない…。」

 

しばらく食べ進めていると、テーブルにいつの間にか戻ってきていた勝卯木がデザートのりんごをかじりながら口を開いた。

 

「そう話に出す事でもないだろう…。」

 

三笠が思わず眉をひそめる。それは俺も同じだった。忘れたいわけじゃないけど、でも、今は…。

 

「今、疑心暗鬼。…これから…話す、大事。」

 

…勝卯木の言葉にドキリとした。『これから』。俺達が変わっていかないとこのコロシアイはきっと終わらないんだ。

 

「皆が起きたら1度集まるのがいいかもな。」

 

俺がそういうと勝卯木はこくりと頷く。それにしても勝卯木がそんな事を言うなんて。彼女も昨日でいろいろと思う事があったのかもしれない。

 

「ところで、まだ起きてない人って誰なんだ?」

 

「ふむ、難波、牧野、柳原だな。篠田と東城は随分早くに来て帰ったぞ。」

 

「そうか…。」

 

今は東城に会いたくない。難波や柳原と会うのも怖いけど…東城と会わなくていいだけマシだ。牧野は心配だな……。

 

突然目の前が真っ暗になった。

 

「だーれだっ!?」

 

「牧野。」

 

「ちょっと!勝卯木ちゃんが答えてどうするの!空気読めないねー本当。」

 

「……不快…。」

 

「あわわ、朝から喧嘩しないでくださーいー!」

 

まあ、声で普通に分かるけどな。この少し高くてよく通る声は牧野しかいない。牧野の手が俺の顔から離れた。

 

「潛手ちゃんごめんね!おはよう!髪まいてたら時間かかっちゃった!あれ?高堂ちゃんは?」

 

「高堂なら厨房にいるぞ。」

 

「光ちゃん、いつも他の人がやってるから残りのお皿洗いはするって言ってくれたの!食後のコーヒーでも飲んでていいよだって!」

 

「お、そうなのか。悪いな。」

 

「そうなんだ!高堂ちゃーん!おっはよー!昨日はごめんねー!」

 

牧野は昨日の様子が嘘みたいに元気だな…。というか最初会った時くらい元気がいい。

そして、厨房から悲鳴が聞こえてきた。

 

「変態。最低。」

 

「もー!あとちょっとでコーヒーこぼすところだったんだけど!?」

 

「その前に謝罪してほしいんだけど。」

 

「ごめん!」

 

「…はぁ。」

 

このやり取りで察しがついてしまった。案の定牧野は腕を抑えている。蹴られたらしい。

高堂は不快そうに紅茶を片手に俺達の元にやってきた。

 

「牧野くん…朝から絶好調だね…。」

 

前木の言う通りだ。本当に元気がよすぎないか?

 

「牧野さんは昨日の夜―…大丈夫だったのですーか…?」

 

おそるおそる潛手が尋ねる。

 

「三笠のおかげでピンピンしてるから平気!」

 

「…本当でーすかー?」

 

まだ心配そうな潛手に牧野は笑顔を向ける。

 

「それに、暗い顔して食べるなんてよくないでしょ?ここにいる皆にも、2人のためにもね。」

 

牧野の言葉に潛手を含めた全員の顔が少し明るくなった。

 

「そーでーすねー!牧野さんの言うとーりですー!」

 

「…無理はするなよ。」

 

三笠も穏やかに微笑みながら牧野の肩を軽く叩くと厨房にトレイを持って行った。

 

三笠と潛手は朝からいたようで部屋に休みに戻った。牧野も高堂と一緒にどこかに行き、食堂には俺と前木と勝卯木が残った。

 

一応、柳原と難波の様子を見ておきたかったからだ。怖いけど、逃げていたら進まない。

 

 

 

□□□

 

 

 

「あれ?蘭以外もう終わった感じ?」

 

しばらくすると難波が食堂に入ってきた。

 

「勝卯木はずっと食べてるだけだから実質終わってる。」

 

「そ、蘭ってマジで大食いじゃね?まあ元気そうでよかったわ。」

 

笑いながら椅子に腰をおろす。

 

「あー…その、昨日はごめん。やっぱ…アタシも結構混乱しててさ。昨日言った通り、少し考えてみた。アタシなりにできる事はやってくつもり。犯罪者の言う事なんて信用ならないかもしれないけど、まあこれからもよろしく。」

 

少し照れたように笑う難波は、俺が言うのも変だけど年相応で、あれだけ強い難波でもきっと相当つらかったんだろうなと思った。

 

「…って、俺は難波の才能の事はなんとも思ってないぞ!?あれは東城が勝手に言っただけだ!」

 

「あ、そうだったっけ。」

 

「それに難波は…『正義の怪盗』なんだろ?東城はその事を知らないだけだ。」

 

「…ま、そうだね。」

 

「ん?正義の怪盗?」

 

「あ、琴奈と蘭には言ってなかったっけ。まあ、悪党からしか盗まないようにしてんの。で、盗んだ奴はれっきとした場所に返して…そういう感じ。」

 

「へえ…!すごい!かっこいいね!」

 

「…紫織…すごい……。」

 

「ふふっ、どーも。」

 

難波が少し自信をみせる笑顔を見せた。

難波がそこから帰ってしばらくしたところで、食堂の扉が開いた。

 

「あらみなさん、まだいらしたんですのね!」

 

「…おはようございます…。」

 

安鐘と柳原だ。柳原が来るとは思ってなかったからびっくりした。

 

「宮壁さんと前木さんは終わったのですか?」

 

「ああ。」

 

「うん!…えっと、柳原くんはどのくらい食べる?準備するよ?」

 

「あ、えっと…お、お願いします。」

 

「わたくしもコーヒーを飲みますわ。前木さんのを見たら欲しくなってしまいました!」

 

前木と安鐘は立ち上がると厨房に向かっていった。食堂には勝卯木と柳原と俺。はっきり言ってかなり気まずい。

 

「…。」

 

「…。」

 

「きょ、今日は早く起きれたんだな。」

 

「は、はい…。」

 

う、うわーーー、誰か助けてくれーー。

 

「…来た……理由……何?」

 

「勝卯木!?」

 

「あ、えっと…その…。」

 

…ん?柳原はちらちらと目を泳がせると俯いてしまった。…何か言いたい事があるのか?

ともかく、勝卯木の発言で気まずさが加速する事にならなくてよかった。

 

「はい、どうぞ!温めなおしてきたよ!」

 

前木も帰ってきたし安泰だろう。

 

「ありがとうございます…。」

 

「鈴華ちゃんって皆の事を呼びに行ったの?」

 

「ええ、みなさんが出てくるまで待っていましたわ。」

 

 

「あ、あの!」

 

 

「柳原さん?」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

食器をずらすと勢いよく頭を下げた。突然の事に俺も含めて皆が慌てる。

 

「ど、どうしたんだよ!?」

 

「おれ、昨日あんなこといって、すみませんでした!」

 

「昨日…?」

 

安鐘がきょとんとしている。そっか、安鐘は聞いていなかったのか。だからそもそも柳原を呼びに行けたんだろうな。

 

「おれ、みなさんががんばろうとしていたのに、それを壊すようなことを言ってしまって…本当にごめんなさい!」

 

「待ってくれ、柳原が謝る事じゃないだろ!俺達が悪かったじゃないか…!」

 

「で、でも、それでもあの場で言うことじゃなかったはずです!おれ、あのあと考えてたんです。みなさんはたしかに疑ってきたけど、宮壁さん達はちゃんとおれの疑いを晴らしてくれました!だから、なんであんなこと言っちゃったんだろうって、あやまらないといけないって思ったんです!」

 

「柳原…。」

 

「わ、私もごめんなさい!柳原くんの事、疑ってたのに、すぐ謝らなくって!」

 

「…琴奈と、同じ……。…ごめんなさい…。」

 

「…!柳原さん、わたくし達からも謝らせてくださいな、申し訳ございませんでした。配慮が足りませんでしたわ…。」

 

「俺もだ。柳原、本当にごめんなさい。」

 

「み、みなさん…!?え、えっと、その…!?」

 

今度は柳原の方が慌てて俺達の顔をあげさせる。その柳原の慌てようがおもしろくて少し笑ってしまう。

 

昨日からずっと疲れていたけれど、今はこうして笑えている。皆の顔に笑顔が戻る。まだ大丈夫だ。まだ俺は、俺達は、黒幕なんかに負けていない。絶望なんてしていない。

 

一息ついたところで柳原が再び話し始める。

 

「それでですね、おれ、昨日は何の役にも立てなくて、自分の事も守れませんでした。だから、みなさんとおれを守るためにも、勉強しようと思うんです!」

 

「勉強って…裁判のか?」

 

「はい!こう、頭で組み立てる…推理…?それが、おれにもできるようになれば役に立てると思ったんです!」

 

「柳原…。」

 

そう語る柳原の顔は輝いていた。

 

「………場所…ない…。」

 

「たしかに、図書館のような部屋はありませんから、勉強もできないのではないでしょうか…?」

 

「ええ!じゃあおれ、このまま何の役にも立てないんですか!?」

 

そんな柳原の声にかぶせるようにアナウンスが鳴った。

 

『ミンナ、おはぱおー!本日より、2階に行けるようになったパオ!無事に裁判を乗り越えたご褒美パオ!いろんな部屋があるから、さらに有意義なコロシアイ生活にしてねっ!』

 

マップを開いてみると新しい階、そして1階の行けなかった部屋が一部開放されていた。

「図書室…ある…。推理小説…ある…?」

 

「なるほど!本を読めば参考になるかもしれません!勝卯木さんありがとうございます!」

 

2階を見ると確かに図書室の文字があった。相変わらず行けない部屋もあるけどいろいろありそうだ。

 

「皆を集めてまた探索した方がいいよね?今度こそ何か見つかるかもしれないよ!」

 

「コロシアイ生活を進めてる人がヒントをくれるわけないですよ!」

 

「柳原さんのおっしゃる事ももっともですが…、モノパオさんはおっちょこちょいなところがありますわ。もしかしたら何かを残しているかもしれませんわよ!」

 

とりあえず探索をするために皆を集めよう、という話になった。

これ、呼びに行くのも大変だな…。

 

 

 

□□□

 

 

 

「あ、篠田!…と、東城…。」

 

「宮壁か。昨晩は眠れたか?」

 

「ああ、なんとか。2人一緒に何をしていたんだ?」

 

「このトラッシュルームが気になってね。」

 

「ここ、トラッシュルームなのか。というより、ここも含めて皆で分担して探索しようと思ってたんだ。」

 

「では宮壁、私達と行かないか?」

 

「え、まあ、いいけど…。」

 

少したじろいだのを見られたのか篠田は俺の近くに来ると耳元でささやいた。

 

「東城の監視だ。東城と険悪な人もいるだろうと思い私が同行している。…宮壁が嫌じゃなければ一緒に来てほしい。」

 

「なら行くよ。ちょっと待っててくれないか?安鐘達に俺達が一緒に動くって事を一応言っておくから。」

 

「ああ、頼む。」

 

 

 

□□□

 

 

 

「まあ、そうなんですのね!トラッシュルームは探索しなくていいと…。了解しましたわ!」

 

食堂に戻ってみるとちょうど皆が集まりつつあったので報告をする。

 

「東城……嫌い……宮壁…変人…。」

 

「え、いや、まあ…そうなのか…?」

 

確かにさっきまでは東城に会いたくもないと思っていたけれど、ああやって強くいられる篠田を見ても駄々をこねるのは子どもだ…そう思った。それに、東城も篠田も「これから」の事を考えて動いている。忘れたりなかった事にしたりするつもりはないけれど、それにとらわれるべきではない…たぶん。

 

「じゃあ、行ってくるから…ちなみにどこを探索するんだ?」

 

「潛手めかぶはー、柳原さん達と図書室に行きますーよー!」

 

「わたくし達はパソコンルームや教室を見てみますわ。」

 

「じゃあそこの部屋は時間があったらでいいか…。」

 

「あ、そうだ。ゆうまきゅんがいるんならさ、理科室見てくんね?適任でしょ。」

 

「理科室があるのか…分かった、後で見てみる。」

 

探索が終わったらまた食堂に集合するらしい。報告会ってやつだな。

簡単に会話を切り上げて食堂を後にする。東城と篠田と合流してから地図を開いてみた。

 

 

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なるほど、図書室はかなり広そうだ。理科室もなかなか大きい。まだ行けない部屋もある。

…大浴場がある。トラッシュルームにめちゃくちゃ近いから見てもいいな。

 

「トラッシュルームと理科室が分担場所、つまりそこ以外は見なくていいという事だね。」

 

…頑固な東城を動かすのも面倒だ。最後は食堂に集まるし、2階を見てからでいいか。

 

トラッシュルームは上の方に不透明なガラスでできた小窓のついた引き戸になっていた。前まで開かなかった扉は開くようになっていた。

 

「ふむ、内鍵になっているのか。だからこそ今まで入れなかったのだな。」

 

篠田の声に部屋の中から扉を見てみると取っ手の下につまみがあった。

その確認をしてから改めて部屋を見渡す。掃除用具やビニール袋が並んでいる。掃除機や大きめの塵取りなんかもここに収納されているようだ。後は台車と大きいゴミ箱とか…便利になりそうだ。

 

「2人とも、ここにあるもので消耗品以外は補充されなさそうだよ。」

 

「え、なんでそんな事が分かるんだ?」

 

「この貼り紙。『ゴミ箱、特に掃除機は数に限りがあるので使いやすいところに設置して大事に使ってください』って書いてある。限りがあるって事はいつでも補充はされないだろうと思ってね。」

 

「なるほど…。後でよく料理する人達にどこに置くか相談してみるか。」

 

俺も何か見つけなきゃと思ってしっかり観察すると、壁の中央に人1人がなんとか入れそうなくらいの大きさの扉…というか、取っ手付きの蓋のようなものがついていた。蓋は簡単に開けられるようで難なく外す事ができた。

 

「なんだこれ。」

 

「はい!お待たせパオー!説明しにきたよ!…いやリアクション薄いねっ!?なにその顔!」

 

何か出てきたけど気にしないでおこう。中を覗いても真っ暗でよく分からない。

どうにか光を入れられないかと体を避けてみるけど深いのかあまり見えない…それに、何か匂う。

 

「宮壁、懐中電灯があったからこれを使って照らせないだろうか?」

 

「そんな物もあったんだな、ありがとう。」

 

照らしてみるとおそらく底であろう地面が見えた。ここの部屋と同じくらいの空間が広がっている。中にはゴミがたくさん落ちていた。異臭の原因はこれのようだ。

 

「ちょ、ちょっとー!ボクくんに聞けばいいのにどうしてそうやってなんでも自分でやっちゃうのかな!?」

 

「これ、ゴミ捨て場って事かな?確かにトラッシュルームだからゴミ捨て場がないとおかしいよね。」

 

「そうだよ!もう、何のために出てきてあげたのか…。えっと、これダストホールだよっ!命名はボクくんです!ゴミがたまったらちゃんと袋に入れて中身が出ないようにしてからここに投げ入れてくれたらボクくんが片付けておくからね!」

 

「ゴミの分別はしなくていいのかな。」

 

「…考えてなかった…うーん、明らかに燃やしちゃダメなやつだけ分けてくれたらいいよっ!落ちたら危険だから蓋は閉めておいてね!ちなみにもし落ちてもボクくん以外は助けられないから気をつけるように!じゃあねっ!」

 

モノパオはそれだけ言うと消えていった。ダストホール…つまり最終的なゴミ箱って訳だ。

間違って大事なものを捨ててしまわないように気をつけよう。

 

「ふむ…トラッシュルームはこのくらいだろうか。次は理科室だったな。」

 

篠田についていく形で2階にあがる事になった。

2階も同じような構造だ。1階から上がってきた階段の右側に設置された3階への階段はまだ封鎖されている。一体何階まであるんだ…?

 

いつになったらこの建物の全容を知る事ができるのか…そんな事を考えてまた不安になり始めたので思考を切り替える。

 

「理科室はここか。」

 

「へえ、かなり頑丈な扉になっているんだね。試薬も本格的に揃っているから保健室以上に毒物が多い。」

 

そういうと東城はゴーグルを身につけた。

 

「何をするんだ?」

 

「決まっているでしょう、分解だよ。正直ラベルがないものもあるから時間はかなりかかってしまうだろうね。それでもボクにしかできない事なのだから必ずやるよ。」

 

「…コロシアイはいずれ起きる、昨日はそう言い切っていたのにどうして黙々と作業ができる?」

 

「毒殺という手段をなくすためだよ。毒は機会さえあれば誰でも簡単に扱う事ができる。いつ仕込んだのかの特定もかなり困難だ。だからだよ。」

 

そのまま作業を始めてしまったので諦めて篠田と周りを観察する。

ずらっと並んだ薬品が飾られた棚。実験を行うための机…イメージしては理科室というより研究室、か?ちゃんと見た事ないから想像だけど。

 

「やっぱりよく分からないな…篠田は何か…篠田?」

 

「な、なんだ?」

 

…少し慌てたようにこちらを振り返る。見るとホルマリン漬けのようなものが並んでいた。

カエルやネズミ、鶏…いろんな生き物のいろんな部位が飾られている。変なライトアップがされているから余計に不気味だ。

 

「ゾンビ映画にでてきそうな部屋だな、こうして見ると。」

 

「いや、宮壁、ここを見てほしいんだ…。」

 

篠田が指さしたホルマリン漬けの瓶のラベルを読む。『ニンゲン 腸』と書いていた。

その段はそのまま同じ人間と思われる人間の目や骨が展示されていた。

 

「なんだこれ…こんなの、博物館にでも行かないとないようなものだろ…。」

 

「東城に任せてここを離れないか?…勘なのだが、このホルマリン漬けは新しいものの気がする。他の動物が入った瓶と比べるとこの瓶だけ異様に綺麗だ。だからあまりいい気はしない…。」

 

「…ああ。」

 

篠田の顔色が少し悪い。もちろん俺も嫌な気分だった。皮肉ともとれるライトアップの色は赤色だった。

 

 

 

□□□

 

 

 

「あ、宮壁くんと瞳ちゃん!…あれ?東城くんは?」

 

「理科室で作業を始めたんだ。毒がたくさんあるって言ってた。」

 

「あら…東城さんに差し入れでももっていきましょうか…。」

 

「安鐘…昨日の事があったが、大丈夫なのか?」

 

「篠田さん、ご心配ありがとうございます。ですが東城さんがやっている事は間違いなくみなさんのためになる事ですわ。…考え方はどうしても認められないところもありますが、東城さんががんばっているのは事実ですもの。」

 

安鐘は大人だった。全てを認めるなんてできないからこそ、認められるところで協力する事くらいはできるはずだよな。俺はまだまだ考えが甘いのかもしれないな。

 

一通り会話を交わしたところでパソコンルームを見渡す。パソコンが1つの机に1台設置されており、壁沿いにはディスクやイヤホン、ヘッドホンやスピーカーが並んでいる。ちなみにパソコンはしっかりと固定されていて動かせそうにない。

 

「……机、多い……。」

 

「教室もそうだけど、玄関ホール以外は私達の人数より机も椅子も多いよね。課外授業用施設っていうのは本当なのかな…?」

 

「……たぶん……?不明……。」

 

疑問は残るけどすぐに分かる事でもなさそうだ。パソコンルーム自体には特に情報はなさそうだし、別の部屋に行くのもいいだろうな。

 

「図書室にあるディスクもここで聞けるらしい。図書室に向かうのがいいかもしれないな。」

 

という事でこれから教室に向かうという3人と別れて図書室に入る。

 

「うわ…広い…。」

 

地図から分かっていたけどかなり広い。理科室もなかなか広かったけれど正直小さな図書館と言ってもいいレベルの広さだ。

 

いろんな棚に本の内容ごとに分かれているらしい。本を読むためのスペースもあってなかなか快適そうだ。文庫本のコーナーに柳原と潛手、少し離れた別の棚に大渡がいるのが見えた。

 

「何を読んでるんだ?」

 

「あ!宮壁さん!これです!」

 

そう言って柳原が見せてきたのは推理小説だった。といっても小学生向けの挿絵の多いものだ。

 

「いっぱい文字があるのは読むのに時間がかかりますから、慣れてきたら読むんです!とりあえずたくさんの本を読んだ方が役立つと思って…。」

 

「潛手めかぶはお料理の本を見てたのでーすが―、柳原さんの読んでる本がおもしろそうなので一緒に見てるんですー!」

 

「そっか。柳原は偉いな。潛手も何か作りたいものは見つかったのか?」

 

「そーですねー、今まで作る料理が偏っていたので―、フレンチとかおいしそうだなーって思ってます!」

 

潛手の持ってる本…、それプロが見るやつじゃないか?さすがすぎる…。

 

「へへ、宮壁さんに褒められちゃいました!やった!」

 

「柳原さん、よかったでーすねー!」

 

「はい!」

 

ほほえましいな。ふと隣を見ると篠田の姿がない。

 

「あれ、篠田?」

 

「大渡、そこで何を見ている?」

 

「…貴様には関係ねぇ。」

 

大渡は心霊現象やオカルト関係の本を読んでいた。

 

「チッ、役に立たねぇ本しかねぇな。」

 

「あ、そうか、見つけられなかったんだっけ…。」

 

「貴様、勘違いするな。見つけられないんじゃねえ、『いなくなってる』んだよ。」

 

「いなく…?なんの話だ?」

 

篠田には申し訳ないけど説明していたら大渡が話す気を失うかもしれない。がんばって会話から読み取ってほしい…!

そういう目を送ると篠田は何かを察したのか柳原達の方へ向かった。

 

「間違いなく死んでいる。それは事実だ。ただ幽霊がいない。…処刑の時に生気の消えた瞬間はあった。未練がなかったらそりゃ現れねぇ可能性もあるが、あいつらに未練がないはずがねぇだろ。」

 

「じゃあ、どういう事なんだ?」

 

「それが分かってたら貴様に話してねぇよ。」

 

あ、行ってしまった。

 

「おい、貴様らいつまでその本を読んでいる。」

 

「え、読み終わるまでですよ?」

 

「…チッ。」

 

柳原のきょとんとした顔に舌打ちをすると大渡は図書室を出て行った。

 

「宮壁、用事は終わったのか。」

 

「ああ。」

 

「ならば私達も東城に声をかけて戻ろう。まだ見ていない部屋もあるからな。」

 

理科室に入ってもうそろそろ皆が食堂に集まる事を東城に伝えてから1階に降りる。

1階で行ってないのは大浴場だけか。

 

「…は?マジ?」

 

「これは…まずいな…。」

 

難波と三笠の話し声がする。

 

「2人ともどうしたんだ?」

 

「あ、瞳と宮壁じゃん。この浴場、男女兼用らしい。」

 

「…は?」

 

「私には関係ない事だが…それは困るな。時間をずらすしかないだろう。」

 

篠田のその発言は入らないって事か…?

と、というかそんな呑気な事を考えている場合じゃない!バッタリ出会ってしまったらどうするんだ!?

 

「きちんと確認しておけば大丈夫だろう。今はどちらが入浴中なのかの立て札でも立てておけばそう間違いが起きる事もあるまい。」

 

「立て札…まあ倉庫を探せばあるか。特に男子、絶対気をつけて入ってよ!?」

 

「あ、当たり前だ!」

 

モノパオの目的がさっぱり分からない…!こんな変な仕様にして、誰がいい思いをするっていうんだ…!

とにかく気をつけて入る事にしよう。ずっとシャワーだったから湯舟が恋しいのは事実だし。

 

脱衣所はよくある銭湯みたいな感じだ。なかに入ると広々とした浴室。氷も用意されているし、ここだけ見ると皆で合宿に来たかのように感じる。

 

『注意:基本お湯は常に入っていますが不定期で掃除するのでその時は入れません!』

 

「不定期…。」

 

少し見直したらすぐにモノパオのずぼらというか適当な面が目立つ。雑だな…。

大浴場はこのくらいだな。時間に注意する事は皆に伝えておかないとな。

 

「あ、アタシも出るわ。瞳達ももう食堂に行くの?」

 

「ああ。そのつもりだ。」

 

「そろそろお昼だしお腹すくー!ご飯できてねーかなー!」

 

ご飯はまだできてなかった。

 

「マジか。え?皆お腹減ってねーの?」

 

「ごめん、まだお米炊くくらいしかやってなくて。その…いろいろあってね。」

 

そう答える高堂の横で牧野がにこにことしている。うん、お疲れ様としか言えないな…。

 

「あ、ならあとちょっとじゃん。とりあえずご飯作るの手伝おっかな、レシピがあれば作れないわけじゃねーし。」

 

「そういえばー、レシピも図書室にありまーしたーよー!何を作ってくれるのか今から楽しみでーすー!」

 

潛手の笑顔に負けじと難波も笑顔を浮かべる。

 

「おいしすぎて食べるのがもったいないって言わせてやっから待っててよ!じゃあ取ってくるわ!」

 

難波はそのまま食堂を飛び出していった。

とりあえず探索は終わったし、後はご飯ができて皆が揃うのを待つだけだな。

 

 

 

□□□

 

 

 

「ふっふっふ…牛丼!どうよ!」

 

難波が持ってきたのは牛丼だった。ほかほかと湯気を立てており、一気にいい匂いが食堂に充満する。

その頃には全員が揃っており、潜手と難波を除く皆は適度に談笑しながら昼ご飯を待っていた。

 

「難波さんお上手で-したー!潛手めかぶの師匠さんですー!」

 

「めかぶに手伝ってもらったところも多いけど、まぁ不味くはないから食べてよ。」

 

「いただきます!」

 

誰かの声を筆頭に皆で手をつける。たまねぎやしめじなど牛肉以外の具も多くて出汁にうまみが染みだしている。その出汁をたくさん吸ったお米のおいしさは言うまでもなかった。

うまいうまいと食べる皆を見て難波は満足そうに笑って潛手と手を合わせる。

新しい部屋を見たり、おいしいものを食べたりしたおかげか、昨日の暗かった空気はだいぶ落ち着いていた。

 

「本当においしかったですわ!難波さんと潛手さん、ありがとうございました!」

 

「いいって事よ。ね、めかぶ?」

 

「はいー!これがみなさんの元気のミナモトになったらいいなーって思ったので嬉しいでーすー!」

 

「で?報告会だっけ?どこから話す?」

 

「じゃあ俺から話すよ。」

 

調べた箇所が1番多いはずなので俺が手を挙げる。皆が俺を見たので話してよさそうだ。

 

「まずトラッシュルーム。掃除用具や大きいゴミ箱は自由に配置していいらしいからよく使う人…食堂にいる人が決めたらいいと思う。あと壁にダストホールっていう蓋つきの穴があって、そこにゴミを入れておけばモノパオが回収してくれるみたいだ。」

 

「ふーん、今までのゴミもたまってたしそれは普通に助かるわ。」

 

「あの、わたくし、厨房にゴミ箱を置いてもよろしいでしょうか?生ごみは今までモノパオさんに押し付けていたのですが、いつも現れるわけではないので困っていたのです!」

 

「じゃあそこに置くか。掃除機もあったからそれも運んだらいいと思う。」

 

「じゃあ理科室についてはボクが説明するよ。実験器具が揃っていて、試薬の種類も申し分なかった。」

 

「東城、まさかとは思うが、その試薬というのは…。」

 

「三笠くんの想像している事で間違いないよ。毒物もたくさんあった。ボクは分解作業に入る。」

 

「…そうか…。東城、自分も手伝える事があれば手伝いたいのだが。」

 

「キミはこれ以外の事をしてよ。同じ作業に多人数を振り分けるよりもできる事があるはずだから。」

 

「では、あの装置の改善はどうしたのかだけ教えてくれ。」

 

「そうだね。倉庫とボクの部屋にある装置の解除にはパスワードの入力をしてもらう事にした。あの針は撤去したから、ボク以外に解除できる人はいないよ。」

 

つまり倉庫の中の物が取りたい時には東城を通さなくちゃいけないのか。面倒だけど仕方ないよな…。

ふと前を見ると三笠が少し申し訳なさそうな顔をしていた。…倉庫の話になって皆の顔が少し曇ったからか。

 

「すまない。」

 

「み、三笠くんが謝る事じゃないよ!私も気にしてたし…。東城くんもありがとう。」

 

東城はどうしてお礼を言われたのか分からないらしく、前木の言葉にきょとんとしていた。

正直きょとん顔は腹が立つ。面と向かって怒りはしないけどその顔で許しがたい発言をしたのは事実だ。

 

「…えっと、ではわたくしから。教室は1階にあったものと大差ありませんでしたわ。ただ、教室3の黒板に、血がついていましたの…。」

 

「血!?だ、誰か怪我してる人でもいんの!?」

 

「いえ…そもそも血がすっかり乾いていましたので、最近の事ではないのではないでしょうか…?よくわかりませんが情報共有だけでもしておこうと思ったのですわ。」

 

見てなかったけどそんなものがあったのか…。一体ここで何があったんだ…?

 

「あと私達が見たのはパソコンルームだよ。たくさんパソコンがあって、動画とかも見れるみたいだけど、怪しいフォルダとかそんなのはなかったよ。」

 

「図書室にあるDVDなども再生できるそうですわ。」

 

「ほー!そういえば潛手めかぶ、DVDがたくさんある棚を図書室で見つけてまーした―!そこで見るんですねー、ちょっと遠いでーすがー…。」

 

「潛手さん達が図書室に行ってくださったのですよね?何があったんですの?」

 

「えーとですねー、たくさん本があったり…脱出方法みたいなものはなかったですー…。」

 

「やはりまだ厳しいか…。牧野と高堂はどこを見ていたんだ?」

 

「俺は高堂ちゃんと開けられない扉の表示を見たり、いろいろしてたかなー。皆が詳しく言ってくれたから報告する事はないよ。…あ、そうそう!2階の行事棟の部屋はプールになってて、もう少ししたら入れるようになるって言ってた!プールが開いたら行くしかないよね!皆水着を着てもらっ」

 

「黙って。」

 

高堂の鋭い眼光に牧野は首をすくめた。気持ち悪い発言をしているのに高堂に怒られてちょっと嬉しそうなのが癪だ。

 

「まあこれで報告する事は終わりだろうな。ここからは各自自由に行動してもらえればいいと思うぞ。」

 

三笠の号令と同時に大渡は何も言わずに出て行き、他の皆もぱらぱらと帰っていく。

その間も一心不乱に本を読んでいる柳原に声をかける。

 

「柳原はずっとここにいるのか?報告会も終わったけど…。」

 

「はい!この本、小学生向けって書いてあるだけあって読みやすくていいですね!ふりがながあります!」

 

「よ、よかったな。…柳原は、怒ってないのか?」

 

「何をですか?」

 

「その、昨日の事だ。俺だったら明日の朝に自分から謝ろうなんて、とてもじゃないけど思えない気がする。」

 

「え、えっと…?それって、おれがすごいって事ですか?」

 

「本当に怒ってないなら、すごすぎて頭が上がらないな。」

 

「…えへへ、宮壁さんに褒められちゃいました!みなさんとおれのためにもがんばりたいです!だから、もっともっといろいろ読むつもりなんです!宮壁さん、昨日はありがとうございました!」

 

笑顔でそう返され、少し戸惑ってしまう。だけど柳原は心の底からそう思ってくれているように見えた。

 

そのまま食堂を後にする。

 

 

皆と会話したはずなのに、足りない、そう感じた。

当たり前だった。まだ2人話してない人がいる。

 

ふとした時に後ろからやってくるんじゃないか、そう思うくらいには実感がわいていなかった。

純粋に悲しいという気持ちよりも、信じられないという想いの方が強かった。

 

 

たぶん、ずっと信じられていなかったからだ。2人が死んだ事以前に、自分の判断が合っていたのかが分からなかった。

 

でも、いつまでも悩んでいる場合じゃない。皆は前を向いてがんばろうとしている。

 

逆に言うと、皆に前を向いてもらえた。

 

だから、俺の判断はきっと合っていた。俺はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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