この世界は理不尽に回っている。
力なき者は飢え、力ある者が喰らう。叫ぶことが出来なければ助けを呼ぶことすら不可能で、叫べる者だけが救われる。
力が欲しい。何よりも圧倒的な力が。絶対的な力が。
少年は力を求めていた。父が危険種に殺され、母が領主に連れ去られ、残された妹を守るために全てを圧倒し、守りきるための力が。
まずは知識を求めた。そして、見つけた───
「────帝具?」
およそ千年続く大国である帝国。その帝国の繁栄の礎、人知を越えた力を人に与える道具。主な材料はオリハルコンやヒヒイロカネといった希少金属に、危険種の血肉や骨………。
「危険種………」
他にも調べれば特殊な訓練に加えレイククラーケンという危険種の煮汁を飲み、体を自在に操る術を手にする流派もあるらしい。さらに調べれば帝具の中には危険種の肉体をそのまま鎧にしたもの、単純に危険種の血など様々。
「………………」
危険種。人間が徒党を組んで漸く倒せる奴から、鍛えれば殺せる奴もいる。父を殺した危険種は、少年が嘗て片目を奪い先日とうとう殺した。その死体はあの場に放置したが………。
まだ獣に喰われていないか?
「………………」
力が欲しい。人知を越えた力に対抗するための力が。帝具使いが襲ってきても打ち倒せるだけの力が。
父の仇である危険種の死体の元に戻り、生き血を啜り生肉を喰らう。全身が筋肉痛になったかのような激痛に包まれ、気絶した。心配して探しに来た村人達に保護され起きたら妹にしこたま叱られた。
その日以来感覚が鋭くなった。隣どころか村の端から反対の端の夕ご飯が解るレベル。夜は明るいし、村の何処かで盛る者達の声も聞こえるし、寝られない。慣れるのに三ヶ月ぐらい要した。
十分休息をとってから、再び村の外に出て危険種を狩る。動きが前より読める。群の危険種で、後ろから襲ってくるが解る。
全部殺して喰った。骨は、何かに使えるだろう。粉末にして一部を飲み一部を鉄に混ぜ短剣を造った。
また、力が上がった。それと、妹が何を感じているのか解るようになった。集中すると他の人間の考えていることも。隣のおじさんが、浮気していること何て知りたくなかったなぁ。
だが、危険種の血肉は確かに力となる。最低でも小隊規模で討伐が当たり前の危険種で無ければ人の体を変質できないようだが幸いにも少年には戦いの才能があった。
それから少年は周辺の危険種を狩りまくった。周辺に住まう全ての種類を喰らい尽くすと血を撒いておくだけで危険種を村に近づかなくなった。
だがら、血を残し旅に出た。目的は危険種。
雷を操る危険種の発電器官を喰らい、その際失った左目を目があった生物に幻覚を見せる蛇から奪い、その時崩れた腕の代わりに殺してもなお細胞が生き続ける龍にすがりついていた幼龍の腕を移植する。
発電器官の他に蓄電器官も持ち、自然の雷も吸収し彼が最初に戦った雷の危険種とは桁違いの威力の黒雷を放つ危険種を半身を失いながら倒し発電器官も蓄電器官も喰った。
半身は数ヶ月をかけて再生した。鱗のような物がこの頃から現れ始めた。
姿を変える危険種を喰ってからは形は取り繕えるようになったが………。
兎に角喰った。雲海にすむ龍を、喰らい、氷を操る魔龍を殺し、血を啜り力を増す蝙蝠を逆にその血を吸い殺した。
殺して、喰って、殺して、喰って、喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って喰って。
「……………?」
ポケー、と呆けた様子で周囲を見回す少年。廃村だ。人間同士で殺し合ったのだろう。矢に射抜かれ剣で斬られた死体が転がっている。
はて?どうして自分はここに来たのだろうか?
「おいおい、なんだお前………生き残りか?」
「……………」
「領主様の命令でなぁ、この村だけ危険種に襲われない秘密を調べるように言われてたんだよ。お前、何か知らないか?」
「……………?」
「……チッ。駄目だ此奴、知能が足りてねぇ。おい、殺せ」
振り返った先に来た男達は整えられた格好をした、兵士達。少年が何も答えずキョトンとした顔を向けるとふん、と鼻を鳴らし隊長が顎で少年を刺し、一人の兵士が矢を放つ。少年が首を傾げるとフードの一部を裂き飛んでいった。
「………あ?お前、その顔………領主様の玩具にされてたこの村最後の女の兄貴って、お前か?」
「……………!」
少年が目を見開く。漸く反応らしい反応に、男達はにたにたと笑う。
「領主様は代わりもんでなぁ、死にかけの女をやるのが好きなんだ。締まりが違うんだとよ………だから回ってこねぇ。でもいい女だったからよぉ、見学させて貰ったんだわ。かわいかったぜぇ「お兄ちゃん、お兄ちゃん助けてぇ」ってなぁ!手足切り落とされて、死ぬまでお前を呼んでたぜ!」
ぎゃははは、と男が笑う。その大口に少年が手を突っ込む。
「あ、が……?」
何時、近づかれた。見えなかった。まるで………混乱する男の下顎を、そのまま引き裂く。喉や肋、腹も纏めて裂け内臓がこぼれ落ちた。
「き、貴様!」
「よくも!」
「地獄に送ってやらぁ!」
「…………………」
迫ってくる槍や剣、矢に、少年は、ただ、笑った。
「あがあぁぁ!や、やべろぉぉ!」
ブチブチと引きちぎられる己の腕を見て叫ぶ肥えた男。その願いは聞き入れられずブチンと腕が千切られる。
「き、きさ……貴様ぁ………良くも、私が一体何をしたというのだ!?なぜこのようなことを!」
「…………何、デ?」
「許さんぞ!貴様が私にしたように、貴様の家族も殺してやる!」
「かぁ……ぞく?」
叫ぶ男の言葉に首を傾げ、虚空を見つめる少年。何を思ったのか、男の残った腕に向かって唾を吐きつける。ジュウ、と音が鳴り溶けていく。
「ぎゃあああ!いたい!いたい!やめろぉ!この、このクズがぁ!やめてください!何でも、何でもしますからぁ!」
「何、でも?」
「はいぃ!お金上げます!ち、地下に飼ってる女達もまだ使ってないのが──ぺぎょ!」
グシャリと頭を踏みつぶし、少年は顔を上げる。大きな屋敷。この辺りで搾り取れるだけ搾り取った税を拵えた贅沢品。パキリと少年の口の端に亀裂が走り、耳まで裂ける。鋭い牙が連なった大口を開けて、熱線を吐き出した。
「…………………」
全潰した屋敷の地下から出てきた女達は生きてることを喜び合い、お互いを慰め合う。少年はそんな様子を黙って見つめる。
自分より年下の少女が姉に抱き締められる光景を見て、胸を押さえ首を傾げる。
「助けてくれて、ありがとうございました………あの、貴方はこれからどうするですか?」
彼女達の村は滅ぼされた。彼女達の村も、と言った方が良いだろう。
出来ることなら男手が欲しい。それも、自分達を守ってくれるぐらい。
「…………旅、続けぇ………る?強く、なりたい………なりたい!」
「私達からすれば、十分強いように見えますけど………まだ、足りないんですか?」
「うん」
「強くなって、何をしたいんですか?」
「…………何、を………?俺………強くなって、どうしたいん………だっけ?」
そんな事私達に聞かれても困る。
強くなるためには何をすればいいのか?より強い危険種を喰うこと。より強い危険種はどうやって探すのか?足で。
と言うわけで強い気配のする方向に向かって歩く少年。何日か歩いていると後ろから近づいてくる気配。馬車だ。
引いているのは猪みたいな動物だが。
「……………」
「何者だ貴様!また賊か!?」
ジッと見つめていると護衛の兵が叫ぶ。首を傾げる少年。兵士達がしびれを切らそうとした時、馬車が開き剣を下げろと女性の声が響く。
「たった一人の賊など居るわけないでしょう。浮浪者と言ったところですか?申し訳ない、少し道をあけてもらえないででしょうか?」
馬車から出てきた女性がそう尋ねる。確かに道の真ん中を歩いていれば邪魔だろう。横にずれるとありがとうございます、と礼を言う。と、ぐうぅぅ、と獣のうなり声のような音が響く。即座に警戒する兵士達。音の発生源を探すと、少年が視界に止まる。
「…………………」
「お腹……空い、た?空いた……」
「…………プッ」
少女は思わず吹き出してしまう。そして、兵に命じて食料の一部を渡す。少年はかガツガツと食べる。食べ終えると味の残った指をペロペロ舐めた。
「…………」
去っていく馬車を見つめる少年。その後を、追うように歩き出した。
「付いてきてるな……」
「来てますね……」
元帝国の大臣であるチョウリは兵達より少し離れた場所でこちらの後をついてくる少年を見て呟く。娘のスピアも同意する。ご飯をあげたらついてきた。動物みたいな子だ。
年はスピアより少し下ぐらいだろうか?無表情で何を考えているか解らない。取り敢えず、敵意はないのだろう。たまにいなくなったと思ったらその辺の獣を捕まえてきてくれる。その中には明らかに人が喰ったら肉体に影響でるレベルの危険種も混じっているが………。
「お主、懐かれたようじゃな」
「慕ってくれるのは嬉しいのですが、これから向かう毒蛇の巣である帝都に連れて行ってしまうと考えると……」
「いっそ、正規の兵として雇ってみるか?危険種を狩る実力的に、腕は確かじゃろう」
そうなのだが、今もぼーっと降ってきた雪を見ながら歩く危なっかしい少年を人間同士の諍いに巻き込むのは、気が引ける。
と言うか雪食べ始めたぞあの少年。
「ちょっ!やめなさい!お腹壊しますよ!」
「…………?」
ああ、もう、と暖かいお茶を差し出す娘を見てうんうんと頷くチョウリ。と、その時だった。馬車の前に三人の人影が現れる。明らかにこちらの進行を妨害するように立ち止まったのは大男に少年と、初老の男性。
「……また盗賊か!?治安の乱れにも程がある!」
盗賊でなくとも進行を妨害する目的の男達。少年に飲み物を与えていたスピアもはっと振り返る。貴方は逃げて!と叫び兵達の元に走る。その顔は年頃の娘から戦士のモノへと切り替わる。
「今までと同じように蹴散らす!油断するな!」
直ぐに己の武器を構える兵達。スピアも槍を構える。三人の男達は、大男だけが前に出る。彼一人で相手するつもりだろう。それだけ腕に自信を持つと言うこと。
「行くぞ!」
スピアの掛け声と共に走り出す兵達。しかし、大男が一振りした大斧によって切り裂かれた。生き残ったのはこの中で一番の実力者であるスピア一人。しかし槍と腹を斬られた。腹を押さえうずくまるスピアの前に賊の一人、少年が視線を合わせてくる。
「へぇ……お姉ちゃん、やるねぇ。ダイダラの攻撃で死なないなんて。でも、これから起こることを考えると、しんどいた方が楽だったかもね」
「…………っ!」
刃物を取り出しスピアの顔に近づける少年。と、その腕を掴む者が居た。スピア達に付いてきていた少年だ。
「………ああ?何だよ、お前」
帝国の将軍が一人、エスデス直属の部下である三獣士。彼等の目的は帝国で弱者を虐げ我欲を満たす大臣に立ち向かわんとする良識派の殺害と、その罪をナイトレイドという殺し屋集団に被せ、おびき寄せること。今回も良識派の中でも元大臣という高い地位を持つチョウリを殺害した。
「ビラをまくぞ!手伝えダイダラ!」
と、初老の男性リヴァが大男、ダイダラに命じる。と、その時だった。何かがダイダラによって破壊された馬車の残骸にぶち当たる。
「あぐ、かは……」
「ニャウ!?」
それは三獣士の一人、ニャウ。幼いながらもその実力と残虐性はエスデスにも買われた程。そんな彼が吹っ飛ばされてきた。振り返るとぼろ布をまとった浮浪者にしか見えない少年が標的の娘であるスピアを背に立ち、ニャウの帝具であるスクリームをしげしげ眺めいた。
「こ、この野郎………やってくれたなぁ!」
ニャウが飛び上がるも少年に襲いかかったのは、ダイダラだった。
「ニャウをぶっ飛ばすとはなぁ!良い経験値になりそうじゃねぇかぁ!」
帝具である大斧を振り下ろす。少年はスピアを抱え距離をとる。
「はっはぁ!足手まといを抱えて避けるか、ならこいつぁどうだぁ!」
と、斧が二つに解れ、片方を飛ばす。ベルヴァークという帝具で中心から二挺の斧に分離させることも可能で、投擲されると勢いの続く限り敵を追跡する余程の膂力を持った者にしか扱えぬ帝具だ。
高速回転する斧を前に、少年は動かない。とった、と笑みを浮かべるダイダラ。しかし、少年は高速回転する斧の柄を掴み取った。
「─────は?」
ポカンと固まるダイダラ。斧が投げ返され首が吹っ飛ぶ。仲間が殺されたが、リヴァの動きは速い。彼の帝具ブラックマリンは装着者が触れたことのある液体を操ると言うもの。この場に彼が扱える液体はない。しかしそれを抜いても彼の実力は相当なもの。少年は、大きく息を吸う。
「キュアアアアアッ!!」
「「───!?」」
人の声帯ではとても出せない音域の方向。空気を揺するその音波を真正面から浴びて、リヴァとニャウは顔の穴と言う穴から血を吹き出し、骨が軋み内臓が揺れ、やがて2人は爆ぜた。
「……て、帝具?」
人を声で破壊するなどそれぐらいしか思いつかず、彼も帝具の所有者なのかと尋ねるスピア。少年は弾けたリヴァの死体から指輪を見つけると、食べた。
「………へ?」
更にスクリームとベルヴァークもボリボリと噛み砕き飲み込む。
「えぇ………」
「………スピア」
「……っ!」
「お腹空いた…………ご飯、ちょーだい?」
通称グラン。
エスデスが行ったように超級危険種の血を飲んだり肉を己に移植したりを繰り返し変質した人型危険種。様々な能力を持ち戦闘要員から回復要員まで何でも御座れ。度重なる危険種の力の取り込みにより自我が希薄になっており自分が何者だったかも思い出せず強さを求めてより強い存在を探す。万能に近い能力を持っているが全てを十全に使いこなせる訳ではない。
生物由来の帝具を餌として認識している。年下の少女に優しい。後、ご飯をあげると付いてくる。人間だった頃の名はクラン。
現所有者(?):スピア
感想待ってます