危険種が行く!   作:超高校級の切望

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遭遇する!

 眩い陽光が邪魔をして周囲を見渡すことが出来ないが、そこは村だった。

 僅かばかりに見える道沿いに歩き、周囲を見渡す。家などは良く見ようとしても霞んでしまうのは、どんな形だったか思い出せないからだろうか?

 手を繋ぎ歩く、自分より幼い少女に振り返る。顔は見えない。鼻の形も口の大きさも目の色も紙の色すら靄に包まれ何一つ解らない。なのに、何故か視線が合うと笑顔を浮かべた事は解る。

 彼女は、誰だったか………ああ、そうだ、妹だ。

 守らなきゃならない、たった一人の家族。大人は信用できない。父の時も真っ先に逃げ、母の時も何もしないどころか、助けようとした自分を抑えつけた。殴りつけた。

 いや、少年は聡明だったから、解る。彼等も彼等の家族を守りたかった。下手をすれば村人全員が殺されていたか女は慰み者にされていた。ここはそういう場所だから。

 だが、だからこそ助けは求めない。此方だって求めないんだ。だから、どれだけ強くなろうとお前等も助けを求めてくるな。求めないでくれ。求められると、きっと………。

 優しさを、あるいは甘さを捨てきれない。それが少年の、本人も自覚する欠点であった。

 敵対してくれ、嫌悪してくれ、憎悪をしてくれ、憤慨してくれ。そうすれば見捨てられる。そうすれば殺せる。

 少年はそんな思いと共に危険種は人目を気にせず生で食らいついたし盗賊は出来るだけ無惨に殺し死体の処理は村人に任せた。そのかいがあってか、村人達は少年に引きつった笑みで接し、礼である食料などは少年がいない間に家に届ける。少年の味方は()()だけ。二人()居る。  

 

───やあ、クラン、■■■。今日も仲がいいね。仲良いことは良いことだ

 

 村長の娘で、大人一歩手前の女性。食料などではなく本など娯楽品を頼んでもいないのに渡してくる変わり者。文字が読めないと言ったら無理矢理膝に座らされたのは苦い思いでだ。さっさと逃げたくて全力で覚えたが。

 正直この女は苦手だ。とても苦手だ。だが、妹が………危険種に父を殺され、人間に母を攫われ使い捨てられた死体だけを返され、村人達がただ黙ってみているだけの光景を見てから人も、獣も、全てを恐れ手を繋がないと大好きな花畑にすら向かえなくなってしまった妹が唯一心を開けている相手。無碍には出来ない。

 

──そういえば、また危険種を倒してくれたんだってね?おかげで畑が広げられるよ。ありがとう

 

 それは、家の近くの畑を貰う代わりに行ったことだ。対価を払い力を借りている村人達は自給自足が行われるようになるのを不安そうにしていていたが………。

 

──クランは優しいね

 

 そういって、頭を撫でる。

 

──頼られると、力を貸してしまう。求められると、手を差し伸べてしまう。でも、全てを守れないから、切り捨てる

 

 それの何処が優しいというのか。そう尋ねると彼女は笑った。

 

──それってつまり、頼めば助けてあげるって事だもの。私達のことを恨んだって良いのに。力で脅して支配したって良いのに………だから、クランは優しいよ。大きくなったらお婿さんにしてあげる

 

 そしたら私がお姉ちゃんだよー、と妹を抱き上げる彼女に、少年は舌打ちする。この女は苦手だ。どれだけ心を堅く閉ざしても、何時の間にか心の奥深いところに入り込んで、中から扉を勝手に開け放とうとする。それを嫌だとは思えない。苦手だ。だけど────

 

 

 

「…………ん、ぅ………夢?」

 

 スピアは目を擦り起きあがる。今の夢は、何だ?殆ど見えなかったが、それでも行ったことがないと言い切れる村。覚えのない妹に、女。と言うか夢の中では自分は男だったし。

 ふと、木の上でぐでー、と眠る少年を見る。それから、自分の腹を撫でる。五日前に切り裂かれた腹は、傷跡一つなく治っている。

 少年が傷口に手を触れた時、その手の輪郭が崩れるように溶け自分の腹の肉と混じり合った。そのまま形を整えて切り離すと傷一つない腹になっていた。

 スピアの腹部を傷つけた武器は斧。斧というのは切り裂くのではなく叩き斬る。綺麗に切れたりはしない。だから、腹の一部の肉は千切れとんだ箇所もあったはずだ。それなのに傷跡がないというのは、細胞が足りている証拠。足りない細胞は、恐らく少年から………。

 なら自分には、少年の血や肉が混じったはず………そう実感できることもあるし……。

 今日見たのは、彼の細胞が見せた、彼の夢?

 

「………………んぁ………くあぁぁ」

 

 と、少年が大きく口を開け欠伸をする。そのまま横にズルリと傾くがスピアは悲鳴を上げない。

 クルリと身を翻した少年は足音を立てることもなく地面に降りる。

 

「んんぅ………」

「寝起きで申し訳ありませんが、今日もお願いして良いですか?」 

「またぁ……?」

 

 コシコシと目を擦り嫌そうな声を出す少年。スピアははい、と返すと新たな槍を構える。少年は嫌そうな顔をした。

 

 

 

 皇拳寺にて皆伝した槍術は成る程確かなモノだ。一瞬で放たれる連撃。槍の先端が分裂しているのではないかと思うほどの連撃を少年は難なくさける。

 連撃の僅かな隙間に体を滑り込ませ、紙一重でかわす。スピアが横なぎに放った一撃をかわそうと後ろに下がる少年。柄で手を滑らせ槍を伸ばし、少年が伸びたリーチにさらに引こうとしてバランスを崩す少年に、直ぐに引き戻しながら持ち替え石突きで腹を打つ。

 

「うぅ!」

 

 効いてはいないだろう。だが、攻撃が当たったことに苛立つ少年。放たれる腕を柄に比べて大きい為突き出た刃の返しに引っ掛け少年の体を巻き込みひっくり返す。

 

「───?───ッ!」

 

 キョトンとした少年はしかし直ぐに片手をつき距離を取ろうとし、足で払われ今度こそひっくり返る。首筋に槍の刃先が当たる。

 

「…………んぅ」

「私の、勝ちですね」

 

 ふぅ、と息を吐くスピア。その場で腰を落とす。

 五日前に自分では勝てなかった相手と、その男と同格と思える男三人を圧倒した少年に、二日連続で勝利するスピア。

 スピアの実力が急激にあがった………訳ではない。いや、それも確かにあるが……。理由は大きく分けて三つある。

 一つはスピアの変化。恐らくは少年に治癒されたからだろう。五感が鋭くなり、身体能力も上がった。感覚が鋭すぎて最初の三日は眠れなかった。皇拳寺で習った精神統一の訓練のおかげで眠るようになったが。

 二つ目は手加減。少年がスピアを壊さぬように手加減している。おかけでスピアにも止められるし、反応できる。

 三つ目………少年は対人戦経験が全くと言っていいほど無い。

 身体能力は高いがそれ任せ。フェイントを使うがフェイントに簡単に引っかかる。まるで相手がフェイントを使わない前提で戦ってきたかのようだ。

 もの凄く強いが、人との争いにはなれていない。食事を与えたら付いてくる性質と言い、野生児か何かだろうか?

 

「お腹空いた」

「はいはい………ご飯にしますか」

 

 ぴょんと跳ね起きた少年はそのままじっと待つ。スピアは壊れた馬車から持ってきた調理器具を用いて昨日少年が狩ってきた危険種の肉を焼き、香辛料や塩などで味付けする。そろそろ良いかと皿に移そうとすると少年が素手で掴み食べ始めた。

 

「──全くもう、ほら手も口元もこんなに汚して」

 

 呆れたように少年の汚れを拭ってやると少年はジッとスピアを見つめる。観察するように、懐かしむように。しかし、直ぐにそれはなくなり後はただぼーっとした視線が残るのみ。

 

「これ以上は、付いてこなくても良いですからね?」

 

 スピアはそういって帝都に向けて歩き出す。少年は、やはり付いてくる。

 ここから先は人と人が喰い合う魔境。少年の身体能力だけでは切り抜けられない帝具使いだって居るかもしれない。出来ることなら付いてきて欲しくない。けど、付いてきてくれることに胸が暖かくなる自分がいる。

 儘ならぬモノだ、感情というのは。それが自分のものであっても………

 

「────…………!!」

「?どうかしました?」

 

 不意に少年が前に飛び出し、唸る。何かに警戒するように。では、何に?襲撃者三人には全く反応しなかった彼が………。

 

「─────ッ!!」

 

 意識を向け、スピアもまた感じ取る。前方から迫る気配。大きい。いや、気配は小さい。人と同じ大きさ。だが、纏っている重圧が桁違いだ。なんだこれ、大隊を組んで討伐した特級危険種より上だ。まさか、伝説に数えられる超級危険種か?

 

「ふぅ───!!ぐるるる!!」

「ほう、まるで獣だな」

「─────あ」

 

 声が聞こえてきた。美しい女の声。その声に相応しい、美しい女が現れた。動きやすいように短いスカートの白き軍服を着た蒼い髪の女。知っている。その顔を、嫌と言うほど見た。耳にたこができるほど、警戒しろと父に言われた。

 

「………え、エスデス将軍…………」

 

 戦を好み敵の多い大臣側にあえて付くことで戦闘を楽しみ、捕らえた者達で拷問を行い愉しむ真性のサディスト。

 

「ふむ、その顔……チョウリの娘だったか?私の部下達に迎えにいかせたが返信が遅く、様子を見に来たのだが………」

「───っ!あの帝具使いは、貴方の部下ですか!?何故私達を襲ったのですか!?」

「襲った……?さて、私は迎えに行くように言っただけだが」

「とぼけるな!わざわざナイトレイドのマークがかかれたビラまで用意して、彼等に罪を着せるきだったのだろう!」

「………そうか。私の部下達はナイトレイドに通じていたか。それはとんだ失礼をした」

「─────ッ!!」

 

 あくまでも自分は知らなかったというスタンスで貫くらしい。それに苛立ちを覚えるも、死人に口無し。彼らがナイトレイドと通じていたか居なかったかは解らない。

 

「とはいえ奴らは帝具使い。お前の様子からして、2人残して後は死んだか?だが、ただの兵士に彼奴等三人が相打ちになるとは思えんが────お前か?」

「───がぁ!」

 

 スピアを見据え、しかし直ぐに興味を失ったように視線をはずし、少年を見据える。次の瞬間少年は飛び出した。地面が砕けるほどの踏み込み。砲弾のように迫る少年の曲げられた指をかわし、脇腹を蹴りつけるエスデス。

 

「………ほお、大した反応だ」

 

 しかし少年は腕を間に挟み防御していた。吹き飛ばされるも直ぐに体制を整え、口を大きく開ける。またあの時の大声かと耳を塞ぐスピア。しかし放たれたのは音ではなく、炎。エスデスは指をクン、と上に持ち上げ氷の壁を出現させる。

 あれがエスデス将軍の帝具、危険種の生き血を飲み得た氷を操る力。

 

「ふむ、私とやる気か………奴らは弱いからお前に殺された。それは仕方ないことだ………仕方ないから敵討ちでもしてみるか?」

「ぐぅるるるる!」

「────それは、帝具か?」

 

 エスデスは目の前の少年に起こった変化を見て尋ねる。

 体が肥大化し、強靱な筋肉を隆起させたかと思えば獣毛が多い、爪が鋭く伸びる。口は耳元まで裂け前に突き出て、肉を噛み千切るのに特化した長く太い牙が連なる。瞳孔は縦に裂け、長い尾が地面を叩く。その先端には蛇の顔。

 四つん這い───いな、四足となった四肢は前足は人間や猿のように五指に分かれているが後ろ足は岩山に住むカモシカを思わせる蹄があった。

 まるで合成獣(キメラ)だ。

 

「グゥルオォォォォォォッ!!」

 

 大気を揺する咆哮。氷の壁が砕け散り、露わになったエスデスに向かってかける合成獣。振り下ろした爪が大地を抉る。しかしそこにエスデスの姿はない。

 

「シャアァァ!」

 

 上空に飛んでかわしたエスデスに向かって蛇が襲いかかる。ドクハキコブラのように牙から霧状の液体を吐き出すも凍りつき当たらない。と、蛇の目が怪しく光る。エスデスは見当違いの方向に無数の氷の刃を飛ばす。まるでそこに敵が居るかのように。その隙に、蛇が噛みつく。

 

「───!?ちぃ!」

 

 しかしエスデスは牙が僅かに食いついた瞬間体を捻り毒が注入される前に牙を体からえぐり出す。蛇の頭が凍り付き蹴り砕かれた。

 

「幻覚?炎の吐息に、変身……元となった危険種に変身し能力を得るのか?ふむ………」

 

 エスデスは興味深そうに観察していると頭部を砕かれた蛇の尾の鱗が巨大化し黒く染まる。キメラが体を回転させながら振るうと鱗が剥がれ、回転しながら迫る。空中で逃げ場がないと判断したのだろう。甘い───

 

「ハーゲルシュプルング!!」

 

 巨大な氷山が現れキメラの頭部へと激突する。エスデスは出現したそれを足場に飛び退き鱗は何もない空間を通過した。だが───

 

「何?」

 

 鱗が追ってきた。ダイダラの帝具と同じく自動追尾?いや、あれが追尾を続けると言うことは───

 

「グルアァァ!」

「ふん……」

 

 大口を開け迫ってきたキメラのその喉元に巨大な氷柱を刺し貫く。迫ってくる鱗は全て凍らせた。地面に縫いつけられたキメラはビクビクと痙攣する。まだ生きている。しぶとい。壊しがいが、ある。

 

「ヴァイスシュナー────ッ!?」

 

 無数の氷柱をプレゼントしてやろうとすると、キメラの体が弾けた。飛び散った肉片が様々な獣の形を取る。頭部からは先ほどの少年。大きく息を吸う。

 

「ruraaaaaaaaaaa!!!!」

「「「─────!!」」」

 

 笛の音のような美しい旋律。それを聞いた獣達の目により凶悪な殺意が宿る。

 

「グラァァ!」

「キュイイ!」

「シャルァァァ!」

「はは!しぶといだけか!?それだけでは私は殺せんぞ!」

「知って、るぅ………お前と、同じ?………同じ!力、持つ奴………厄介。でも、お前のほうがぁ……強、い?だからお前、食べるぅ……」

 

 メキメキと音を立て少年の背中から六本の突起が生える。バチバチと帯電を始めたそれが上空に打ち上がると、雷雨が降り注ぐ。文字通り雷の雨。直ぐに氷のドームデミを包むが何度も何度も落ちてくる。さらには獣達も迫る。そちらに対処しようとした瞬間、少年が氷のドームを砕きエスデスの腹を蹴る。

 

「────がっ!」

 

 ジュウ!と肉が焼ける音。少年の足が赤く発熱していた。吹き飛ばされたエスデスは直ぐに氷で冷やし追撃をしてくる獣達を地面から生やした氷柱で殺し何時の間にか翼を生やして飛ぶ少年の周りに氷の剣を出現させる。それらが一斉に突き刺さるが、少年は全身から炎を吹き出し氷を溶かすと怪我も直ぐに再生する。

 

「…………ははっ」

 

 自身の腹を焼いた敵に、エエスデスは楽しそうに笑う。いや、実際楽しくて仕方ないのだろう。彼女にとって、強い奴との戦いは望むところ。

 少年の体にはまた変かが現れる。闘牛のように曲がった、しかし闘牛より細く長い角が生え、黒い雷が角と角の間で球体となる。

 

「──あぁ!?」

 

 放とうとする少年だったが地面から突き出た氷にバランスを崩しエスデスの真横を通り過ぎる。地面を抉り、山の一角を消し飛ばした。すぐさま二発目を放とうとするも接近したエスデスが頭を踏みつけられ角が地面にぶつかり砕ける。

 体を回転させながら爪を振るい、立ち上がり猛撃する少年の攻撃一つ一つが必殺。しかしエスデスは受けることなく捌き逆に攻撃を加える。

 何発もの拳や蹴りが叩き込まれ、何本もの氷が突き刺さり、さらにその氷は中で新たな氷を生み内側からズタズタに肉を引き裂く。

 

「─────ああぁぁぁぁっ!!」

「良い悲鳴だ。残念だったな、身体能力はともかく、技量がまるで足りてない」

「ふぅ───!ふうぅぅ!」

「……おっと」

 

 再び全身から炎を放つ少年。氷を溶かすが、先程より遅い。恐らく再生にも体力を使い、限界が近いのだろう。

 

「強さ、頑強さ………中々良いな。年下だし……取り敢えず、候補として飼ってみるか?」

「キュゥロォォォォォォッ!!」

 

 恐らく最後の力を振り絞ったであろう変身。二メートルほどの猫科を思わせる獣に変化し、背中には先ほどの突起、頭部には先程の角。背中の突起から放たれる雷が角に集まり、先ほどとは比べ物にならない大きさの黒雷の球が生まれる。

 

「─────!?」

 

 静観することしか出来なかったスピアはハッと気付く。あの方向は、村がある。先程山の一角を消し飛ばしたあの技よりよほど強力そうな一撃。間違いなく、村は消し飛ぶ。

 

「駄目!やめて!やめなさい!」」

「オアァァァァッ!!」

 

 スピアが叫ぶが、聞こえていないのか止まる様子はない。エスデスは避けるようだ。正面から受け止められる一撃ではなし。しかしそれを撃てば間違いなく沈黙する。

 

「─────ッ!!」

 

 少年を止める気は無さそうだ。止めようとしているのはスピアだけ。止められるのか?あれを………いや、止めなくてはならない。村が、そこに住む命が消える。それを、他でもない少年にやって欲しくない。

 

「止めて、クラン!」

 

 夢で聞いたな。殆どが虫食いだらけの情報の中唯一解った名前。夢を見ていた自分が呼ばれていた名。恐らく、少年の名。

 その名を聞いて、ビクリと震える。黒雷の光線は、空へとむかって飛び雲を貫く。

 

「───────あ………クラ、ン?」

 

 肥大化した体が縮み元の大きさに戻った少年は、ふらふらとスピアに向かって歩く。

 

「ク……ラン?名前?誰、の……思い、出せ…俺……呼ばれ、て…………誰、誰誰誰だれだれだれダレダレダレダレダレダレ───」

「───!」

 

 名を呟き頭をかきむしる少年。それが、迷子になり不安な幼子のように見えて、スピアは少年を抱き寄せた。少年は目を見開いた後、全身か力が抜け目を閉じた。気絶したのだろう。

 

「───」

「っ!こ、こないで!」

 

 エスデスが近付くとスピアは少年を胸に抱え槍を構える。エスデスがその槍を蹴りつけると凍り付き、しかし砕けることはなかった。

 

「────ただの槍ではないな。帝具か?」

「────────」

「────ふむ」

 

 気丈に睨んでくる女。その胸に眠る少年。自分の、あることをしたい自分の、その候補。面白くない………が、まだ候補。笑顔は見てないし………。

 だが、この女が死ねばその顔も見れない可能性がある。

 

「………お前、名はなんと言ったか」

「………チョウリ元大臣の娘、スピア」

「そうか……では今から、お前達は私の部下だ。文句を言うなら殺す。どちらともな」

「────ッ!!」

「返事はどうした?私は、あまり気の長い方ではないのだが」

 

 ふざけている。どう考えたって、父を殺すように命じたのは此奴だ。いや、あるいは大臣なのかもしれないが此奴は大臣側。それを、部下になれだと?

 思わず体に力が入り、少年が苦しそうにうめきハッと少年の顔を見る。

 

「─────わかり、ました」

「そうか。では行くぞ。そいつは、私が運んでやろうか?」

「いいえ。私が運びます………」

「そうか……」




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