「コロ!粉砕!」
「キシャアアア!!」
セリューの言葉とともに巨大な犬の着ぐるみ状態だったコロとやらの両腕が不釣り合いな筋骨隆々な腕となり嵐のように迫る。
グランはそれを全てかわす。当たれば人間どころか一級危険種すら肉塊に変える一撃だが当たらなければどうということはない。
「お前、遅い……力も、弱い」
「────!?」
まあ、グランからすれば当たっても問題ないが。
自身より遙かに細い腕で手首を捕まれただけで前にも後ろにも引けなくなり目を見開くコロ。帝具ではあるが生物型。感情も持ち合わせているのだろう。
「────?この臭い……あの、女の鎧と、同じ?同、じ!喰った?あの女も、喰う?」
「貴様!コロはそんな事しない!貴様のような悪と一緒にするな!」
「───う?」
セリューは自身の武器であるトンファガンから鉛玉を放つが少年に皮膚に傷つけることなく弾かれる。と、ボタリと何かが垂れてきた。見上げると二列に連なった鋭い牙が生えた大口を開けたコロの姿。
バクリと口が閉じられる。グランの上半身が消え、セリューが残虐な笑みを浮かべる。
「コロ!そのまま噛み千切れ!」
「きゅうう───ぎゅっ!?」
顎に力を入れるコロだが、ギュギィ、と金属を擦り合わせるような不快な音が鳴り、内側から弾け飛ぶ。鉄のように黒い鱗に覆われた大蜥蜴がコロの中から現れたのだ。
「シュルルル───今度、ハ……俺ノ、番?俺ノ番!」
大蜥蜴の正体はグラン。頭部が吹き飛んだコロの肉をガツガツと喰らう。「薄味………」と呟きポイ、と死体を捨てるとセリューに向き直る。が、
「────ウ?」
「コロはその程度じゃやられない!そしてその姿、帝具だな?」
「てーぐ?」
「帝具を使い、悪行を成す。貴様、ナイトレイドか!」
「ないとれーど、違う。俺ないとれーどじゃな、い……」
人型に戻りコロの背中に飛び乗ったグランはセリューの言葉を否定する。コロが振り解こうと暴れるがグランはそのまま頭を千切る。直ぐに再生を始めたが………。
「面倒な、奴。でも、もっと面倒な奴知ってぇ………る?知ってる!」
再生中のコロを蹴り飛ばし、メインストリートの噴水にぶつける。吹き出した水がコロを包み込み周囲に氷の槍が複数現れる。
「血ぃ抜いても心臓止めても、死なない?死なないなら、グチャグチャに………壊す!」
「この!」
と、セリューが殴りかかってくるも片手で受け止め街頭に向かって投げつけた。
「かは!」
「とど、め………」
倒れたセリューの頭上に氷の槍を生み出すグラン。と、その時だった………
「グラン!やめなさい!」
「………う?」
聞こえてきた声にグランは氷の槍を砕き水の檻を消す。振り返るとスピアが漸く追い付いてきた。
「でもぉ、此奴………敵?敵!」
「警備隊の方ですよね?どうか一度矛を収め、話を聞いてくれませんか?」
「悪の話など聞くものか!コロ、
「ギョアアアアアアアアッ!!」
セリューの合図とともにコロの毛が赤く染まり前進が筋肉質になり顔はより犬に近くなる。鋭い牙を見せ凶悪な容姿に変容したコロの方向がビリビリと大気を揺らし窓ガラスが割れていく。
「ナイトレイド!あの夜と同じように、貴様もコロの餌にしてやる!」
「ないとれーど、殺、したぁ………?お前、悪い奴!悪い、奴を、殺すの、殺す奴だから、悪い、だ!」
迫り来るコロに対してグランは指を折り曲げる。刃物のように鋭く変化した指を、振り下ろす。ザシュ!と音が鳴りコロの体が五等分される。体から零れた球が地面に落ちてコロの肉片がそこに集まろうとする。
「とどめ………」
「グラン!いい加減に───!?」
「う?」
帝国側の人間の帝具の破壊。流石に見過ごせない。慌てて叫ぶスピアの横を何かが通り抜けグランの身体にからみつく。
氷で出来た鎖だ。復活するもエネルギー切れになりぐでーとしていたコロも同様に氷の鎖に縛られる。
「エスデス将軍!?」
「エスデス………将軍!?」
スピアが叫び、その叫びを聞いたセリューもしばし惚けてすぐに目を見開く。
将軍。帝国の軍人達のトップに君臨する一人。その中でもエスデスと言えばかなりの有名人だ。
「そこまでにしておけ。帝国の戦力同士で争うなど馬鹿らしい」
「…………帝国の?」
と、セリューはグランを見る。大型の危険種すら縛り上げるであろう氷の鎖をガリガリ食べていた。
「で、ですが!その悪はあろうことかコロが警備隊を食べたなんて妄言を吐き、ナイトレイドを悪を殺す正義だと言うような奴ですよ!?」
「ないとれーど、せーぎ?せーぎとは、言ってない?言ってない!」
「ん?それはヘカトンケイルだろ?適合者探しの際、適合しなかった者を喰ったのは有名だぞ?だからこそお前等下っ端から探していくんじゃないか」
「…………へ?」
「それにナイトレイドが悪を討つ正義かは知らんが、標的になってるのはまあ、大臣に金を払うために税を絞る奴や大臣を楽しませるために地方の者を拷問してそのざまを見せる奴が多いのは確かだな。だからこそ、早急に対処してほしいのだろうし」
「え?いや……ま、待ってくださいよ。何ですか、それ………まるで、この国が民を苦しめ居るような………」
「ああ。だからこそ反乱軍という敵が生まれたわけだな。奴等の中には名の知れた帝具使いも数多くいる。戦い、殺し、蹂躙する時が楽しみだ」
困惑しながら、聞いた言葉を理解したくないと全身で訴えながら話すセリューに対してエスデスは楽しそうに話す。恋人との逢瀬を楽しみにする乙女のような顔で、民を苦しみから救わんとする者達を殺すのが楽しみだと笑う。
「お、おかしいですよ!反乱軍は、悪じゃないですか!他人の命をゴミみたいに扱う害虫みたいな奴等………そんな、誰かを守ろうなんて悪が考えるはずありません!」
「反乱軍はぁ……虫?ウジ、虫?国が、腐る、からぁ……湧き出た?」
「ほほう。良い例えだ……なかなか聡明な子だなグラン」
「…………」
頭を撫でようとしてきたエスデスの腕をバシリと弾くグラン。額に宝石の付いた小リスに姿を変えるとスピアの後ろ髪の中に隠れる。
「国が、腐る?そんな、そんなはずない………だって、パパが守ってた国で……それに、ならオーガ隊長が殺される理由が………」
「…………オーガ?貴方は、彼の………では、これを………」
と、スピアは今日調べ、得た情報を纏めた書類の一部を渡す。
「彼等にオーガ隊長との関係を聞いてみてください。警備隊で、帝具使いという特殊な立場であることを明かせば快く話してくれるでしょうから………」
スピアは信じる。帝国を中から代えてくれようとする同士が増えることを。しかも、オーガのせいで腐った者も数名混じった警備隊所属で、やり方はともかく本心から善行を無そうとする少女で、帝具使い。心強いことこの上ない。
そしてその日数名の多くの金を持った証人が夜の内に何かに食いちぎられたかのような死体で発見され、セリュー・ユビキタスが姿を消した。
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