狼を斬ったアカメはその後、革命軍の人間として活動をしていた。
ナイトレイド。
帝国の闇を斬る革命軍の組織である。
発足から月日が流れ、アカメはブラートと共に訓練をしていた。
「カカカッ。飽きぬものよのう」
その様子を見ながら好物のどぶろくを飲む一心。
「おじいさんがそれを言いますか?」
桃色の髪をしたツインテールの少女、マインは呆れた様子で言った。
「一心さんも随分と鍛錬を為されているではありませんか」
眼鏡をかけた少女、シェーレはほのぼのとした雰囲気で言う。
一心は病に侵されていたはずであったが、この世界に来てから病が消えていた。
黒の不死斬りの影響なのかは分からなかったが、再び剣を振るえることに喜びを隠せないでいた。
「儂も人斬り故、その技を磨くことが・・・大好きなのじゃよ」
酒をあおりながら答える一心に、さらに呆れるマイン。
「でもなんかおじいさんと比べて辛気臭いのよね」
「親に似たのであろう。不愛想だが、どこか憎めぬ親に」
「隻狼さんでしたっけ?昔、一心さんと戦ったことがある」
「よく覚えていたわね。いつもは忘れるのに」
「カカカッ。そんな話もしたの」
一心はアカメとブラートの試合を見ながら懐かしむ。
狼から教えられたのであろう忍びの技。
さらには葦名流の剣技。
未熟なれど、才能は狼以上のものだろう。
「赤狼。主を見ていると、かつての死闘を思い出す。同じ名の隻狼との死闘をな」
アカメは斬った狼とどう向き合っているのだろう。
一心は酒を飲みながらただ思った。
心に息づく類稀な強者との戦いの記憶。
隻狼。
今はその残滓のみが残り、記憶は確かにアカメの糧となった。
アカメの師でありもう一人の父親。
彼女に斬られることを望みながらやってきた狼は、子供の成長に喜びを見出した。
彼の役目は終わった。
しかし、死なず生きる狼は次の獲物を見据えている。
飢えた狼の姿は、アカメの記憶に離れないものとなった。
狼は陛下の下へ戻り、任務に失敗したことを告げた。
失敗したというのに生きて戻ったところを怪しく思うオネストだったが、飢えた狼の心中までは分からなかった。
「そなたを退ける程の者が反乱軍へ渡ったのは痛手であった。しかし、そなたが無事に戻ったことを今は喜ぼう。引き続き、余に尽くしてくれ」
「御意」
「ヌフフ。それでは早速ですが、狼殿に頼みたいことがございます」
大臣は手短に内容を告げる。
曰く、反乱軍に支援をしていたテキドウの村の襲撃に参加してほしいとのこと。
「ゴズキ殿が殉職されたのは残念でした。あなたには暗殺部隊の補佐として支援をしていただきたい」
「承知しました・・・」
頭をたれる狼を見て、未だにオネストは狼の心の内を見透かせなかった。
事ここに至ってはすぐに処分なりしなかったことが悔やまれる。
既に陛下の信を置く存在となった狼はオネストにとって目の上のたんこぶとなっていた。
出来るだけ陛下から遠ざけたいところであったが、定期的に陛下の警護をするために帝都へと戻っている。
ブドー大将軍からの評価も高く、その隠形は脅威である。
今は陛下の言葉に従っているが、裏切った暗殺部隊のアカメのように帝国への疑念を抱いていることは間違いない。
それでもなお帝国にいるのは陛下の存在があるからだ。
今まで以上に傀儡を上手く動かさなくてはならない。
オネストは笑みの下でそう考えていた。
狼はそれを感じ取っている。
暗殺を行っているが、オネストの疑念は明らかに強くなっている。
その証拠にオネストの警護は増強されている。
暗殺部隊の任務失敗は、ほぼ死と同然。
しかし、生きている狼を疑うのは当たり前のことだろう。
これより狼の戦いはより一層厳しいものとなるであろう。
だが、そんなものは経験済みだ。
己は再び駆け回る。
ただそれだけの事。
狼は残る暗殺部隊の下へ向かうことにした。
クロメの精神状態は良いものではない。
姉に置いて行かれたと勘違いしている彼女を気遣い、ナタラやグリーンが励ましていたが、危ういというのが狼の考えだった。
「先生・・・」
「・・・どうした?」
「お姉ちゃんは何で私を置いて行ったのかな・・・」
「・・・・・」
「やっぱり私より志が大事だったのかな・・・お姉ちゃんは」
「クロメ・・・」
「?」
「その問いは己ではなく、アカメに聞け・・・。戦が始まる。その時に再び見えよう・・・親子は喧嘩をする。姉妹もまた、喧嘩をするだろう・・・」
「・・・うん」
頷いたクロメはそのまま自分の部屋へと向かっていった。
様子を窺っていたナタラとグリーンが狼の下へ寄る。
「狼さん。あなたは一体どちらなんですか?」
ナタラは直球に聞いた。
反乱軍に所属しているのかと。
彼も馬鹿ではない。
狼が無事に戻ってきた時点で怪しいことには間違いなかった。
実際には無事では済まず、一度死んで蘇ったのだが、そのことは決して触れない。
「己は陛下の忍び・・・」
「そんなことを」
「それ以前に」
狼はナタラの言葉を遮って言った。
「生涯の主。九朗様の忍びである。己はそのように振舞うだけ・・・」
「九朗?その人は一体・・・」
グリーンも狼の様子に少々動揺した。
今までのように不愛想のように見えて優しい師匠ではない。
鋭い、剥き出しの刀を連想させる。
飢えた狼。
正にその例えが一番しっくりくる。
「陛下も承知の上だ」
「!・・・そうですか・・・」
未だに怪しんでいるナタラとは別に、グリーンは狼の僅かな変容にいささか疑問を抱いていた。
己の掟は己で決めろ。
そう言った狼は、今まさに掟に従っているのだろう。
グリーンは結局、帝国へ残ることにした。
出来るのであればアカメと共に革命軍へ参加したい気持であったが、軽々にそんなことをしても意味はないと考えていた。
民を守るために働く。
所属は違えどその思いは同じである。
であるならば帝国の中から変えることもできるのではないだろうかとグリーンは考えたのだ。
もし、それが叶えられたのならば。
グリーンの想いは固まっていた
テキドウの村はもぬけの殻だった。
情報が漏洩していたのか、軍が山賊に襲われたという話だ。
恐らく革命軍が村人たちを逃がすために取った遅延工作だろう。
「村人も遠くまでは逃げてないでしょ。見つけ出して一人でも多く見せしめに殺そう」
現暗殺部隊の隊長であるカイリはそういった。
狼はその補佐なので彼の命には従わなくてはならない。
少なくとも表面上は。
グリーンは知性を買われたのか、別の部隊の所属となった。
裏では狼に信を置くグリーンを遠ざけるための策だったのだろう。
現状、狼にとって動きづらいことこの上なかった。
「この任務・・・失敗だ」
狼は追撃に移ろうとするカイリたちを止めた。
「狼さん。確かに村人には逃げられたけど」
「否」
「え?」
狼が告げようとする瞬間、暗殺部隊の一人が駆けつけてきた。
「大変だ!カイリ!この村を反乱軍の部隊が取り囲んでいる!」
「何ぃ!?」
「・・・これも戦。不測の事態など往々にしてある」
狼は迫りくる革命軍を見て構える。
どれ程の人間が死ぬのだろうか。
どれ程の人間が生き残ってくれるだろうか。
そして、己はどれほど殺さなければならないだろうか。
逡巡する狼を他所にナタラが臣具『トリシュラ』を用いて革命軍の連携を崩していた。
狼たちはその隙を見逃さない。
手裏剣を近くにいた革命軍の兵士に投げつけ、怯んだところへ急接近して両断。
近寄ってきた兵士たちには爆竹を用いてかく乱し、斬る。
狼を厄介と判断したのか、複数の兵士が狼を取り囲む。
狼は不利を悟ると多少強引に攻めることにする。
忍び義手『仕込み斧・火打ち式』。
広い範囲を巻き込んで攻撃できる義手忍具を用いて敵を斬り、怯んだ相手を忍殺する。
忍びの技『命の呼吸・陰陽』によって多少の傷をものともせずに敵を切り伏せる。
「ナタラ!」
クロメが叫ぶ。
ナタラが重症になったらしい。
難しいか・・・。
狼は彼の生存は困難であると判断した。
現に、ナタラはクロメに逃げるように言い聞かせていた。
それでも担いで逃げようとするクロメを狼は援護する。
だがナタラは致命傷を負っていたらしい。
吐血するとそのまま地面に倒れ伏せた。
狼は心の中で毒づいた。
ゴズキ殿がいればもしかしたら・・・。
そんな思いまで募ってくる。
せめてこれ以上被害は出させないようにしようと構えたところ、クロメは狼の予想しない行動に出た。
ナタラを刺したのだ。
「クロメ!」
思わず狼はクロメの肩を掴んでしまう。
そしてその目を見た。
既に正気を失い、仲間を帝具『八房』で人形とさせる狂った目だ。
クロメは狂乱しながら革命軍に斬りかかっていく。
狼はやるせない気持ちになった。
これも己の背負う業か・・・。
再び構えて斬る。
放心していたかのように見えた狼を殺そうとした敵だった。
八つ当たりのように放った『一文字』は洗練された一撃ではなかったが、それでも相手の命を刈り取るには十分だった。
クロメはどこへ向かうのか分からないままに突進を続ける。
狼は周りの敵に阻まれて追うことが出来ない。
ここまでだ。
狼はクロメが作った隙を縫うようにその場を逃走した。
帝国の暗殺部隊は大きな打撃を受けたものの、活動不可能になるまでの被害は受けなかった。
ナタラのかく乱やクロメの働きによるところが大きいだろう。
しかし、ナタラは既に骸人形となり、クロメは正気を失ってしまった。
「カイリよ・・・」
「なんですか。狼さん」
「忍びの業。お主も背負うことになったな・・・」
「・・・はい」
カイリはいつもの軽い調子はなく、重く頷いた。
彼にも形代が見えるようになるほど業を背負うのだろうか。
であるならば、何とも酷な世界だ。
狼は改めて決意を固める。
必ずや陛下のために、九郎様の忍びとして・・・。
選抜組で生き残ったのはアカメを除けば、グリーンのみです。
それが物語にどう影響するのか。