それは悲劇か、喜劇か・・・。
帝都に仇なす殺し屋集団『ナイトレイド』。
狼たち暗殺部隊の討伐最優先とされるようになった革命軍の虎の子。
目標は皆、悪政に関係したものや外道等。
指名手配にアカメの顔もあり、過去より強くなっていると思われる。
殺し殺されの世界は元々であったが、狼もただ何もしなかったわけではない。
グリーンとカイリを中心とした暗殺部隊の再編。
大臣に与する者の忍殺。
陛下の考えを改めさせるため、情勢を説明し、忠言する。
だが、上手くいっていない。
狼は政治の世界に疎い。
協力者となっているブドーは外敵の革命軍を討伐することを目標としている。
内憂はまだ取り除けない。
まだ会ったことのないエスデス将軍は戦争が好きであり、おそらくこの混迷を喜んでいるだろうとのこと。
オネストの手のひらにいる狼は無力を感じながらも走り続けた。
かつての葦名を奔走したように。
いつも無力だったな。
狼は訪ねるものが少なくなった己の部屋で仏を彫る。
未だに上手く彫れないが、時間が空いたときには彫るようになっていた。
やはり不格好な顔の仏しか彫れない狼は、心の中で少しだけ唸る。
「狼殿」
暗殺部隊の一人が狼の部屋を訪ねる。
珍しいと思った。
こういったときは何か良からぬことがある。
「・・・・・・」
「陛下がお呼びです」
「承知した・・・」
狼は仏を彫る手を止め、刀を差して立ち上がる。
狼は陛下に許され、武装したまま謁見できる数少ない人間である。
一体何が起きたのだろう。
考えながら向かうが、分からない。
オネストが何か要らぬことを言ったのかもしれない。
どちらにせよ、狼は呼ばれたのであれば向かう以外に選択はなかった。
「よく参った。狼よ」
「は」
跪く狼を見て陛下は少し笑みを浮かべたが、僅かに苦そうな表情をしていたところを見逃さなかった。
「お主を呼んだのは他でもない。葦名一心に関することだ」
「一心様ですか・・・」
「はい。狼殿が敬っておられる方のようですが、最近、反乱軍の中で名を上げはじめはして」
なるほど。
狼は呼ばれた理由をここで理解した。
「一心様の暗殺・・・」
「話がお早い。まさにそのお願いをしたいのです」
オネストは食べ物を片手にニコリと笑う。
「できませぬ」
狼ははっきりと言った。
その返答は予想外だったのか、オネストはぴたりと固まった。
「ふむ。それはいかがしてか」
「かの御仁とは既に決着がつきました故・・・。おそらく、戦うことこそあれ、二度と死合うことはないかと・・・」
「どういうことですか?」
「因果・・・とでも言いましょうか。そのような予感があるのです・・・」
狼と一心の間では何かしらの力が働いているのかもしれない。
狼の戦と一心の戦。
どちらも戦場が違う故にすれ違う。
会おうと思えば会えるが、死合おうとすれば途端に会えなくなる。
それは両者が既に終わった戦いを穢したくないという思いから来ているのかもしれない。
「ふむ。困りましたね。そのご老人のおかげでこちらの被害は相当なもの」
オネストは探るように狼を見ているが、何も見抜けない。
狼は分かり易そうな性格をしているが、それ故に分からないことが多々ある。
実力も本来はどれほどのものなのかオネストにも測りかねている。
葦名一心との繋がりを理由に処刑しようかとも考えたが、狼はその一心と戦い、そして勝ったという。
陛下の言いなりになっているように見えるが、オネストも盲目ではない。
裏で何かをしていることくらいわかっていた。
分かっているが手を出せない。
それは陛下が狼を信頼しているからだ。
事を起こそうにも陛下がネックになり、逆に信頼を失う事態になりかねない。
帝国の闇に葬ろうとしても、その闇の代表格である狼を易々と仕留めることなどできないだろう。
だからといって狼を野放しにできない。
こいつは命を奪う機会を虎視眈々と狙っているのだ。
狼はオネストの手のひらで踊っているように見えるが、それはオネストの思う踊り方ではない。
今やブドーよりも厄介な相手だと言える。
どんなに困難な任務を与えても生きて帰ってくる。
失敗や成功問わずに帰ってくるのだ。
「一心様は国盗りをなしたお方・・・。守っていてはいずれ・・・」
こうした忠言も言ってくる。
葦名一心と狼の関係は悪いものではないはずだが、こうした対立の意見を言ってくるのはオネストの頭にはない。
帝国を守ろうとしてはいる。
つまり彼の狙いはオネスト達であることは明白だ。
暗殺部隊は彼の枷とするつもりであったが、幾人かは彼を慕っている。
ゴズキがやられてしまったのは痛かった。
彼であれば親しい人間であろうと手を出せたであろうが、今や亡き者。
実質、暗殺部隊の主導権は狼にあるといっても過言ではない。
肝心の狼はそのことに気が付いていないが、オネストも狼が気が付いていないことに気が付いていない。
両者、すれ違いを起こしていることに気が付いていないのだ。
「・・・では、引き続きナイトレイド討伐のために情報収集を願います」
「は」
狼に下されている命令はナイトレイドの情報収集。
アカメが裏切っていることから彼ももしやと勘繰り、そのような任務を与えてみたが、それを淡々とこなす。
暗殺防止もした実績がある。
討伐こそできないのは狼を一人で動かしていることに原因がある。
オネストはそう考えているが、狼に人員を与えてはいずれ自分の首に刃が届く。
その懸念をどうしてもぬぐえないがゆえに単独行動を許していた。
だが、そろそろその懸念もなくなる可能性がある。
エスデス将軍が異民族討伐から戻ってくるからである。
帝国最強と名高い彼女ならばこの実力不明の輩も・・・。
それも希望的な考えだった。
「むう・・・」
唸る狼の眼下には今まさにナイトレイドが襲撃をしている最中の屋敷だ。
黒い噂の絶えない帝都でその出所を直接確認しようとした狼は丁度、運が良いのか悪いのかその場面に出くわしてしまったのだ。
実のところ、ナイトレイドとは何度も衝突をしているが、その度に狼は奇襲を仕掛け、不発に終わり逃げるということを繰り返している。
それ故にナイトレイドのメンバーとはそれなりに顔を知る仲になっていたりもする。
報告をするしないは狼の勝手であるがゆえに、オネストには現在手配されているメンバー以外の情報を明け渡していない。
さて、どうしたものか。
人数不利は百も承知。
アカメやブラートを筆頭に、簡単にやられてくれるような面子ではない。
その中で一人異彩を放つものがいることに気が付いた。
少年だ。
必死な様子で走る彼は、逃げようとしているわけではないらしい。
気になった狼はその少年の後ろを追いかける。
すると一人の少女とアカメがいるところに出くわした。
少年はその少女を守るために間に割って入った。
僅かなやり取りの後、両者が動き出す。
一太刀、刃を切り結び少年が下段に剣を振るう。
アカメはそれをくるりと飛んで躱し、踏みつける。
体幹を崩した少年に致命の一撃を与えんと突きを放ったところで狼が割って入る。
「!?」
突きを踏んで反撃をしようとするが、アカメは刃を素早く戻して距離を取る。
「な、なんだ?」
「・・・・・」
狼は少なくとも少年は何の業も背負っていないと思った。
アカメに斬らせて良い相手ではないだろう。
「狼!?」
アカメの後ろで様子を見ていたレオーネが名を呼ぶが、アカメを見据えたまま動かない。
「・・・むう」
再び唸る。
ナイトレイドがここを狙ったということには理由があるはず、とはいえ、敵として出会ったがゆえに斬らねばならない。
なんとも面倒だ。
実に堅い思考をしている狼だった。
「アカメ。待った」
レオーネはアカメに待ったをかける。
「狼もちょっと待ってくれ。その少年には借りがあるんだ」
ウィンクをして少年の方を見る。
どうやら少年も面識があったらしく、指をさして怒りを示す。
何かやったのだろう。
何となく予想のついた狼は黙って成り行きを見守る。
レオーネは少女について罪があると否定する。
そして倉庫の扉の前に立ち、蹴破る。
噂は本当だったらしい。
狼は中にある拷問施設を見て確信する。
あらゆる拷問をして楽しむ一家がいると噂を聞いた。
確かめるべく、そして斬るために赴いたが、ナイトレイドと接触するとは思わなかった。
「サヨ?」
少年は中にいた人間に見知ったものがいたのか、声を掛ける。
だが、なんの反応も示さない。
逃げようとする少女をレオーネが捕まえ、少年がこの惨状を本当に彼女たちがやったのかを聞き返す。
だが少女は否定した。
こんなことしているとは思わなかった。分からなかったと。
「タツミだろ・・・オレだ・・・」
弱々しいこえで中に閉じ込められていた少年が声を掛ける。
毒に侵されているのか、立っているのが信じられない状態で檻から手を出して伝えた。
その女が殺したのだと。
少女はそれに対して何が悪いと言った。
本性を現したのだ。
狼はその様子を見てため息をつく。
殺して何が悪い。
田舎者は家畜と一緒だ。
そういった輩を幾度斬っただろうか。
この屋敷にも形代が多かったのはそういうことだろう。
これも忍びの業。
狼は少女に刃を突き立てようとした。
「待て」
タツミと呼ばれた少年が呼び止める。
「俺が斬る」
そう言った瞬間、一閃した。
「・・・・・」
少年、タツミもこれで業を背負ったであろう。
子供が業を背負い、生きていく世界を狼は嘆く。
九朗がいたのならば、なおさらこの世を悲しく思うのだろう。
「・・・・・」
アカメと狼は再びにらみ合う。
狼は自然体で立ち、アカメは隙なく構える。
「ここまでだ。アカメ。狼」
レオーネが再び仲裁に入る。
「あんたもこの家が怪しいとふんできたんだろう?そして丁度私らとぶつかった」
その少年は何も罪もないからかばったのだろうと指摘される。
「タツミ・・・」
狼は血を吐く少年に付き添うタツミに声を掛けた。
「怨嗟を背負うな・・・」
それだけ言い残して狼はそこから去って行った。
怨嗟は降り、積もっていく。
狼は怨嗟を斬ることが出来ても積もる先にはなれない。
改めて仏師の存在が大きく見えた。
「先生は変わっていなかった」
「易々と変わるような奴じゃないだろう。一心爺さんもそう言っていたじゃないか」
レオーネは駄々をこねるタツミを引きずりながらアカメと話す。
「放せ!一体何だってんだよ!」
「少年は優しい狼に助けられたんだよ。そして私たちの新しい仲間になる」
「?」
はてなを浮かべるタツミは集ってきたナイトレイドの前で就職を言い渡される。
「なんでそうなるんだよ!!」
納得がいかないタツミであったが、強制的に連れられて行った。
その様子を陰から見ていた狼は眉間にしわを寄せる。
近いうちにナイトレイドのアジトへ向かった方が良いかもしれない。
心労は絶えないようだ。
原作主人公登場。