狼が斬る   作:hetimasp

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飢えた狼は少年に何を見る?


15 忍びの業

 

帝都からそれほど遠くない山の中。

そこにナイトレイドのアジトがある。

少数精鋭の人材で活動しているナイトレイドは皆、強敵ばかりだ。

とはいえ、敵でない場合もある。

狼が帝国に貢献できている理由はここにある。

つまり、ナイトレイドから直々に情報を収集してそれを帝国に流すというマッチポンプだった。

無論、狼の考案ではなく、ナイトレイドのボス、ナジェンダの案だった。

オネストとナジェンダにいいように使われていると狼は考えていたが、この二人も狼を脅威に思っている。

ともかく、今はナイトレイドに連れ去られた少年タツミのことが優先だ。

拷問好きな一家の一員である少女を斬ったときに、人を斬る才能を垣間見た。

だからといってそれを伸ばしてよいかは別である。

コルネリアを始まりとして暗殺部隊の選抜組が死んでいったことは今でも忘れてはいない。

狼は何もないように見える地面を二度踏みつける。

しばらくして何も起きなかったのでもう一度踏みつける。

すると奥の方からゴーグルを頭に掛けた青年、ラバックがやってきた。

「狼さんか。急に来るんだからびっくりしたじゃないか」

「ラバック・・・。タツミは・・・」

狼は口数少なく問う。

ラバックは何が言いたいのか分かったのか、頭をかいた。

「うちだってそう手段を選んでいられる状況じゃなくてね。新入はいつでも歓迎なんだ。それも才能があるとすれば尚更」

「忍びの業。忘れたわけではあるまい・・・」

形代を目にする狼はその業の深さを知っている。

多く殺した忍びはその身と心に業を背負い生きることになる。

形代とは心残りの形となったものだ。

それが見える程、多くを殺してきた狼はそれを良く知っている。

故に少年にその業を背負わせることを良しとしない。

「ナジェンダはいるか・・・」

狼は説得する相手を変えることにした。

ナジェンダはナイトレイドのボスだ。

彼女を説得できればと思うが、狼はその手のことは得意ではない。

難しい交渉になるだろう。

「丁度戻ってきたところだよ。あんまり会うとまたいいように使われると思うぜ。狼さん」

狼は唸り、ラバックは苦笑いを浮かべた。

使われているという自覚はあるのだ。

ラバックの後ろからブラートがやってくるところが見えた。

「なんだ狼だったのか。急にラバックの糸に反応があったっていうから警戒してたんだぜ?」

なんせ作戦の後だったからなとブラートは笑みを浮かべた。

「済まぬ・・・」

「謝るこたぁないぜ。どうせあんたのことだ。あのタツミが気になってきたんだろう?」

それほどにわかりやすいだろうかと狼は思うが、葦名にいた頃より仏師やエマに心を見透かされていた。

今更かと諦めた。

ブラートは警戒を解くために先行して報告へ行き、ラバックと狼はお互い他愛のない話をしながらナジェンダのところへ向かうことになった。

もう少しナイトレイドに手加減をしてくれとか、忍びの気配殺しに関して教えてくれとか。

下心を丸出しにするラバックを、狼はどことなく気に入っている。

彼はこうして飄々としているが、その実、とても忠誠に厚い。

ナイトレイドのメンバーの中でも相当なものだと狼は評価している。

立場は違えど主に仕える忍びとして気が合うのだ。

寡黙な狼と軽い調子のラバックは会話というには程遠いやり取りをしながらアジトの中へ向かっていった。

 

 

アジトではタツミを中心として話し合いが始まっていた。

そこへ入ってきた狼とラバックを見てナジェンダは軽く手を上げた。

「久しぶりだな。狼。今回の作戦ではお前とかちあったらしいな」

「はい・・・」

狼はその場で跪いて答える。

相変わらずだなとナジェンダは苦笑いして再び視線をタツミへと戻す。

「丁度いい。狼はお前を助けたと聞く。この男は帝国の人間だが、志は同じくする者だ。そして歴戦の暗殺者でもある。意見を聞いてみてはどうだ」

入るかどうかはそれから考えてもよいだろう。

ナジェンダはタツミに促した。

「あの時はありがとう」

「・・・・・」

タツミの礼に対して狼は黙ってうなずくことで返答した。

「あんたは帝国の人間なんだろう?辺境にある俺の村を救いたいと思って帝都に来たんだ」

でもと続ける。

「帝都まで腐りきっているじゃねぇか!こんなじゃあ俺の村を救うどころじゃあない」

狼はタツミのやるせない気持ちを受け取って黙ることしかできなかった。

ブラートその腐っている奴らを取っ払ってやりたくないかと言った。

タツミは悪党を少し削ったところで意味はないんじゃないかと返した。

それに対してナジェンダが革命軍の存在を教え、その先駆けとしてナイトレイドが活動していることを伝え、いずれは諸悪の根源である大臣を討つと宣言した。

幾ばくかのやり取りの後、タツミは納得したらしく、彼らを正義の殺し屋だと評価した。

その場は一瞬静まり返った。

そして笑いの渦が起きた。

タツミは何がおかしいと聞き返す。

「多くを殺すものには多くの業を背負う・・・」

狼はタツミに説く。

「忍びの業。それは辛く、険しいもの・・・いかに悪党と言えど、一度殺せば業に憑りつかれる。タツミ・・・お前にも業が憑りついているのだ・・・」

拷問好きな少女を殺した時にそれは既に憑りつき、背負いながら生きていかねばならないと言った。

「なら何であんたは殺しをやっているんだ?それも帝国の人間なのに」

「己の掟。それ故に己は人を殺めるのだ・・・」

狼は一つ呼吸をするとタツミの目を見て言った。

「己は、お前が忍びになることを良しとしていない・・・。今日、ここに来たのもそれを伝えるためだ・・・」

「・・・あんた優しいんだな」

「・・・・・」

狼は黙って少年の言葉を待つ。

「報酬はもらえるんだろうな?」

「ああ。しっかり働いて行けば故郷の一つは救えるだろう」

その言葉を聞いて意を決したのかタツミはナイトレイドに加入することを宣言した。

「・・・・・」

狼は少しだけ眉間のしわを寄せた。

これは修羅に落ちるかもしれないおぞましい道。

失うものも多く、得るものは少ないだろう。

そんな道に入っていった少年を見て、狼は悲し気に彼を見るのだった。

その時、ラバックが侵入者が入ったことを知らせる。

「全員生かして帰すな」

その号令の下、全員駆け出した。

遅れるタツミの頭を小突いて初陣だと言って外へたたき出す。

狼とナジェンダのみとなった広間で、狼はナジェンダを睨む。

「あいつが決めたことだ」

「また一人・・・」

「?」

「背負わねばならなくなったな・・・ナジェンダ殿・・・」

「・・・お前は優しすぎるんだ」

ナジェンダは紫煙をくゆらせながら言った。

 

 

タツミの初陣は良い物とは言えない結果に終わったらしい。

生きてはいるものの、敵の言葉に迷いを見せて隙をさらしてしまったらしい。

アカメが助けなければ死んでいたかもしれないとのことだった。

そしてなし崩しにアカメと組むように命令を下されるのであった。

「狼さんだっけ?」

タツミはナジェンダに跪く狼に声を掛けた。

「あんたは味方なのか?」

純粋な疑問だったのだろう。

帝国の人間でありながらナイトレイドにこうして堂々と入り、そして敵対もする存在。

「むう・・・」

「はは。こいつは敵でもあるし味方でもあるおかしい存在だ。そうだな。利害が一致すれば味方。そうでなければ敵となる。タツミ。お前を助けたときはアカメと敵対したんだ。だが、その後はお前が見た通りだ」

唸る狼の代わりにナジェンダが答えた。

「でもそれなら大臣をすぐに殺せるんじゃないのか?」

「機を見間違えた・・・。今、オネストは己を警戒している・・・」

「こう見えて狼は帝国ではそれなりに幅を利かせられる人間なんだ。陛下の忍びといえば革命軍の中でも有名だ。それにアカメの師匠でもある」

「ええ!?」

「ククッ。まあそうなるよな。色々あってな」

「・・・・・」

「狼」

「は」

「アカメの師匠として、タツミを育てることはできるか?」

「・・・望むのならば・・・」

「だそうだ。狼にはアカメを育てた実績もある。時間があればだが、鍛えてもらえるぞ?」

その問いに対して、タツミは首を縦に振った。

「・・・・・」

狼も業を再び背負うことになった。

 




狼さんが優しいのは実のところ、義父、梟が優しかったのではないかと推測したり・・・。

ゲーム中に出てくるアイテム、『おはぎ』の説明文に義父が作ってくれたおはぎは美味かったと書いてあった気がします。

梟は傍目から見れば野心が大きい小物のように見えますが、実は心の中に優しさが埋もれていたのかもしれません。

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