ザンクを斬り、帝具を回収したアカメたちはアジトへと戻っていた。
アジトに戻って帝具『スペクテッド』をタツミに預けようとしたが、どうやら拒絶反応が出てしまった。
タツミはあらゆる帝具があると聞いて機嫌をよくする。
それに対してメンバーはどうしたと聞く。
「まだ未知の能力をもつ帝具がいっぱいあるんだろう?そこで俺はピーンときたね!」
死んだ人間を生き返らせる帝具もあるかもしれないと。
「ねぇよ」
ブラートは期待するタツミを否定した。
死んだ人間は生き返らない。命は一つだけと。
アカメたちも始皇帝が死んでいるのがその証拠だという。
諦めろと。
「命を黄泉がえらせる。そのようなもの・・・聞いたことがあるな」
入口の方からしわがれた。しかしはっきりとした声が響く。
「一心殿!」
「おう!お前たち!久しいな!」
葦名一心。
現在帝国で指名手配されている中でも優先度の高い人間である。
そんな人間が気軽にナイトレイドのアジトを訪れていた。
「爺さん!さっき命を黄泉がえらせるって」
「馬鹿!一心の爺さんに失礼だぞ!」
「構わぬよブラート。さて、その道具についてじゃが・・・その前に」
一心はタツミに酒瓶を突き出した。
「酒じゃあ!褒美に受けとれ!」
「は、はぁ?」
「聞くところによるとお主と赤狼。主らともう一人の隻狼で首切りを斬ったという。よう斬った。どうであった。そのものは」
「はい。先生は葦名流の技で相手をしていました。心を読む相手だったようで、それがよく通用しました」
「カカカッ。なるほどな。心なんぞ読んでも、葦名流に意味はない。勝つことを一事とした剣に随分と遠回りなことをしよったようじゃな」
心に息づく類稀な強者との戦いの記憶。
首切りザンク。
今はその残滓のみが残り、記憶は確かにアカメの糧となった。
己が斬った者たちの声に悩まされ続ける哀れな男。
だが、その最期は声が聞こえなくなり、安らかな眠りについた。
「せきろ?もう一人?」
「赤い狼とかいて赤狼。アカメのことだ。もう一人は隻腕の狼だ」
「そういえばアカメと狼さんって師弟関係だって」
「そうよ。こやつらは親子のような者よ。して、小僧。お主の聞きたがっている黄泉がえりだが・・・」
一心は少しためた後、首を振った。
「させぬ方が良い」
「!何でだよ!?」
「本来、儂や隻狼は死んでいる。じゃがこうして生きていることで世の中に淀みを生んでおるじゃろう」
それが良かれ悪かれ、本来の形ではないと。
「爺さんが死んでいる?狼さんも?」
「そうじゃ。儂は病に倒れ、黒の不死斬りで孫の体を借りて黄泉がえった。哀れな孫の最期の願い故な。隻狼は己が主を守るために幾度となく死に、主が望む不死断ちに、自分の主の命を消さねばならぬことを厭い、人返りの術を使い、己の首を、不死断ちで刎ねた」
「でもこうして生きているじゃあないか」
「淀みよ。儂らは所詮、死にぞこない。死ねぬは辛いことよ。酷なことを言うが、小僧。死ぬべき時に死なねば人は苦しむだけ」
一心の重い言葉にタツミは黙り込んでしまう。
「かつて儂のいた葦名ではその不死の力を巡って戦が起きた。それ故、隻狼の主は不死断ちを願ったのじゃ」
じゃが、こんなところに来るとは思っていなかったがな。
一心は笑って言った。
「小僧。この戦も死ねば次はない。そう思え。戦には様々な謀がつきものよ。それが渦となり、新たな淀みを生む。故に、迷うな」
「迷えば敗れる」
「カカカッ。いつぞやも似たようなことを言ったな」
「・・・人は生きていちゃいけないのかよ」
「むう?」
「サヨだって、イエヤスだって死にたくなかったはずだ!なのに生きていちゃいけないっていうのかよ!」
タツミは叫んだ。
未だに忘れられぬ友たちへの想いが込められた叫びだ。
一心はそれに重く頷いた。
「もう一度言う。死ねぬは辛いことよ。生きていてはいけないとは言わぬ。じゃが、人は死んだら地に帰らねばならぬ。それを穢すのが儂らのような存在。儂は既にその呪いから解き放たれたようだが、隻狼は未だに主との絆が消えてはおらぬようじゃな。のう、赤狼よ」
アカメは話を振られて頷く。
「タツミ。実は先生を斬ったことがある。帝具『村雨』で」
「!?」
「でも先生は今も生きている。『村雨』よりも強い絆がそうさせているのかもしれないが、先生は死んでいない。それは本来の姿じゃあないんだ」
「竜咳。あ奴が死ねばそういった病が蔓延るようになる。回生する代償として、他を苦しめるのだ」
「じゃあなんで狼さんは」
「不器用な奴なのよ。こうして新たな世界で生を受けたことに意味を見出し、再び主のために奔走する。あるいは、飢えた狼だからこそこのような結果になったのかもしれぬがな」
タツミはその後、考えることもあったのか、友たちの墓に別れを言いに行った。
謁見の間。
「申し上げます。ナカキド将軍、ヘミ将軍。両将が離反。反乱軍に合流した模様です!!」
一同はざわつく。
狼はその様子を陰で見てひとりため息をつく。
中から良くしようとするものと帝国を見限ったもの。
どちらも民の安寧を願っているというのに争いが生まれてしまう。
陛下は皆を落ち着かせるために一喝するが、それもオネストの台本通り。
「ヌフフ。流石は陛下。落ち着いたものにございます」
今の帝国の情勢はよろしくない。
帝都の警備隊隊長はナイトレイドに暗殺され、大臣の縁者も殺された。
辻切りは狼が倒したが、その後やってきたナイトレイドに帝具を奪われたと報告している。
「やられたい放題・・・!!悲しみで体重が増えてしまいます・・・!!」
肉をかみながら言うオネストだったが、もちろんそこまで重大視していない。
既に策を考えてある。
「北を制圧したエスデス将軍を帝都に呼び戻します」
「て、帝都にはブドー大将軍と狼殿がおりましょう」
「大将軍が賊狩りなどと彼のプライドが許さないでしょう。狼殿一人では既に容量を超えています」
それは確かであった。
狼一人でできることには限りがあり、ナイトレイドの相手、大臣の陰謀潰し、陛下の警護。
どれをとっても手が届かない状況にある。
「エスデスか・・・彼女ならブドーと並ぶ英傑。安心だ!」
異民族40万を生き埋めにする人間を呼び戻すというのは安心ではないだろうと狼は思ったが、口には出さなかった。
今はそのような人物でも帝国の、陛下のためになるのであれば力を貸してもらう。
狼は密かに決意を固めた。
心に息づく類稀な強者との戦いの記憶。
首切りザンク。
今はその残滓のみが残り、記憶は確かに狼の糧となった。
首を斬り過ぎた故に怨嗟を聞き続けた男。
しかし、今はもうその声は聞こえない。
手向けの『泣き虫』の音色は彼の心の中に残っている。
「狼殿」
狼は終わったと思われた会合にオネストの声が響いたため、仕方なしに陰より出て跪く。
「は」
「事ここに至っては方法を選んでいられません。暗殺部隊と協力し、賊どもを討ち取るのです」
「承知しました」
意外と焦っているのだな。
狼はそう考えたが、オネストの考えは少々違う。
確かに戦力の減少や縁者の暗殺は痛いところであるが、それは想定内。
しかし、想定外の動きを取る狼を縛り付けるために仕方なく枷をつけようとしているのだ。
狼はそんなことは知らないが、協力者が増えることはいいとしか思っていなかった。
これより、大きな戦が始まる。
その予感を感じ取り、ただ己の為すべきことを為すだけだと。
飢えた狼の視線はオネストに向けられていた。
竜咳はこの世界では文字通りの不治の病でしょう。
狼さんもそれを意識して死なないように立ち回っています。