狼が斬る   作:hetimasp

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不死とは呪いであり、狼にとっては絆でもある。


01 新たな主と任務

 

 

「余の忍びにならぬか?」

その言葉を聞いたとき、狼は迷った。

既に役目を果たしたとはいえ、元の主である九朗を捨ておくわけには行かない。

こうして回生したのだからまだ御子を守るという任が残っている。

しかし、あてもなく放浪するのはいかがなものだろうか。

情報が必要だ。

だからといってこのような幼い子供を利用していいのだろうか。

かつての義父や宿敵、葦名弦一郎のように、竜胤の力を手にしようとした存在達と同じではないだろうか。

「迷っているようだな。無理もない。そなたは生まれた赤子のような状態になっている」

そんな狼の心境を見通したかのようだった。

「無理にとは言わぬ。そなたの主は無事に生きている可能性もある。しかし、このままではどうしようもないだろう。一時的にでもよい。余に仕えてみぬか?主を見つけたとき、その時が来るまで」

狼は瞬きをする間だけ迷ったが、意を決した。

「御意」

 

オネストは皇帝を私利私欲のために操り、自分に反抗する相手は全て皆殺しにしてきた。

だから部下より奇妙な忍びが皇帝と接触していると聞いたときは柄にもなく焦った。

無論、表には出さなかったが、急ぎ部下と共に幼い傀儡の下へ足を運んだ。

「陛下。夜分遅くによろしいでしょうか」

「ふむ?入れ」

少々訝しんだような声を出した後に入室の許可を出した。

入った部屋には陛下の姿以外には誰もいなかった。

「申し訳ございませぬ。部下より怪しげな男が陛下と接触していたと聞き、陛下の安否を確認に来たのですが」

「流石大臣。耳がはやいな」

陛下はどこか高揚したような調子だった。

その様子を見てオネストは怪しく思った。

彼は謀略という謀略を網羅したような男である。

初めの入室の際の第一声がとぼけたような声だったことも分かり切っている。

だが、どこにも怪しい人間は見当たらない。

荒れた形跡もない。

発見したときの兵士の証言では義手で鋭い目つきの男がいるはずであった。

「ご無事なようで安心しました」

表面上は取り繕いながらもオネストは周囲を見渡して何かおかしなところがないか確認をするが、やはり誰もいない。

窓から飛び降りるには少々高いが、並々ならぬ身体能力の持ち主であれば可能かもしれない。

今、姿がない男のことより、オネストは陛下に聞かなければならぬことがあった。

「陛下。実は私としたことが陛下に忍びがいることを把握しておりませんでした」

そう、自分が操っているはずの陛下が勝手に忍びを持っているかもしれないということだ。

一体いつの間にそんなものを作っていたのか。

万が一自分の害になりそうなら取り上げなければならない。

「ふむ。つい最近出会った面白い男だ。良い機会だ。もう一度出て参れ。狼よ」

「御意」

オネストは背筋が凍るような思いをした。

誰もいないと思っていたその場所。

自分のすぐ目の前に男が姿を現したように見えたからである。

「紹介しよう。余の忍び、狼である」

「・・・・・」

オネストは陛下に感づかれないように狼という男を観察した。

なるほど。義手をつけた鋭い目つきの男だ。

しかし、オネストにはこの男に言い難い恐怖感を抱いた。

「ほう。お初にお目にかかります。忍び殿」

「は」

忍びは跪き、こちらをただ見ているだけだった。

不愛想なこの男のどこが気に入ったというのだろうか。

オネストは心中でそうつぶやいた。

「忍び殿はいつからそこに?」

気になっていた質問をぶつけてみる。

オネストにしてみれば軽いジャブのようなもので、そこから素性や弱みを浮き上がらせて来ようと思っていた。

しかし、狼はそうはいかなかった。

「初めからここに」

「なんですと?」

狼は動きをせずにただそこにいたという。

初めは何かの帝具を持っているのだろうと考えたが、そうではないらしい。

聞くところによると気配を殺し、音も殺すことこそ忍びであるという。

「は、ははは。それはなんとも。ではご出身は?」

「・・・葦名」

「ふうむ?聞いたことがない土地ですな。異国の出身で?」

「・・・はい」

言葉は少なく、このような状況が幾度となく繰り返されたが、ようやくオネストは狼の形を予想できた。

この男は誰かに仕えることで力を発揮する男なのだ。

だが、融通が利かなく、堅い。

現在、この城を警護している大将軍ブドーのような男だと評価した。

そうと分かれば心配することはない。

むしろ利用できる。

オネストはそう考えていた。

陰謀に長けたこの大臣にしては珍しい失策だったともいえる。

狼はオネストが考えているような融通の利かない堅い男ではない。

むしろ主の命ですら勝手に曲げて見せる忍びらしくない忍びだ。

その失策に気が付くことなく、オネストは陛下ににこりと笑みを浮かべて見せた。

「夜分遅くにすいませんでした。しかし陛下。今後は私にもお伝えただけると体重が増えなくて済みます」

「悪かったな。少し、驚かせたかったのだ」

無邪気に笑う陛下に嘘はないようだった。

それを確かめるように頷くと、部下を伴って部屋を退出した。

この後おそらく、ブドーがうるさいだろうと思いながら。

 

 

「見事な隠形であった!」

陛下は興奮しながら狼の月隠を褒めた。

何者かの気配を察知した狼はすぐさま月隠の飴で己の存在を消したのだ。

「しかし大臣もやはり優秀だな。すぐに耳にしてこちらの様子を見に来てくれた」

「・・・・・」

「ん?どうした狼」

「・・・いえ」

狼はあのオネストというらしい大臣がきな臭く思えていた。

表面上は取り繕っているようであったが、一度痛い目を見た狼である。

オネストの笑みの裏に何かが潜んでいることを察知していた。

だが、陛下の信頼する臣下のようであるため、すぐにどうすることもできなかった。

「さて、狼よ」

「は」

「これから我が臣下として、時が来るまで仕える。その言葉に偽りはないな」

「ありませぬ・・・」

「よし。では今日から我が忍びとして生きよ。帝国のために」

「御意」

狼は面を下げたまま心に誓った。

陛下を好きにさせまい。と。

 

 

「ぬふふ。さてさてどうしてやりましょうかね」

オネストは笑みを浮かべながら肉を頬張る。

陛下にできた玩具は中々に使えそうだった。

予期せぬ出来事が上手い方向に転がっていると思っていた。

先ほどブドーより小言を言われたが、陛下の決めたことというと大人しく引き下がった。

「いけませんねぇ。使い勝手のよさそうな玩具が増えるとつい体重が増えそうになってしまいます」

なにせ邪魔な人間たちは多く存在するのだから。

そのための暗殺部隊も現在設立中だが、まだ見通しが立っていない。

そこでふと考えてみた。

暗殺部隊の補助要員として狼を出してみてもいいのではないかと。

だが、陛下と距離を置かせすぎるのも良くはない。

あまり信用を失わせない程度に、あくまで陛下の忍びとして。

そうと決まれば明日にでもゴズキたちに連絡を取ろう。

オネストはまだ自分の思惑から既に外れていることに気が付いていなかった。

 

 

陛下の忍びとなってから数か月。

狼は既にこの帝都という場所について知り尽くしていた。

オネスト大臣は陛下を操り、悪政を行っていた。

道行く人は顔から表情を失わせ、広場には見せしめにされた冤罪者たちが吊るされる。

狼のいた葦名にはない光景がそこにはあった。

(陛下を・・・守らねば・・・)

かつて九朗を助けようとしていた頃の己がよみがえってきた感覚を覚える。

そこでふと九朗のことを思い浮かべる。

自分が死んだと思っているだろう彼はいかにして過ごしているのだろうか。

茶屋でも開こうかといっていた頃が何とも懐かしく感じられる。

(任は、未だ終わっていなかった・・・。不死を斬り、今度は悪鬼を・・・切らねばならぬ)

鬼といえば仏師。

怨嗟が積り、積もり切った先で鬼となってしまった仏師。

彼は最期に狼へ感謝をしていた。

この左腕の忍び義手。

仏師の形見となってしまった。

「狼よ。我が帝都はいかがなものか」

厳重な警戒の中、狼は隠れ歩き、門番にのみ姿を現して陛下へ謁見する。

ブドーやオネストはその隠形を評価し、見つけられぬ部下を叱りつけたが、狼は歴戦の忍びである。

見つけろという方が無理があるのかもしれない。

「は。すさんでいるように思われます」

「そうか。やはり世は混迷の中にあるのか」

「・・・・・」

その混迷の原因がオネスト大臣であることはいまだに伝えていない。

というのも、陛下が狼の言葉を信じるか不安であったからだ。

下手に手を打てばこちらがやられてしまう。

機を見計らうのだ。

確実に仕留められるその時を。

「ぬふふ。その世を正すため、狼殿には帝具を持っていただきたい」

「帝具を?」

「はい。確かに狼殿の腕は確か。しかし、帝具使いに出会えば簡単にはいかないでしょう。陛下のために受け取っていただきたい」

オネストは部下に命じると複数の帝具を運ばせた。

「これぞというものをお選びください。帝具は第一印象で決まるとも言います。相性の良い帝具があれば、すぐさま見つかることでしょう」

「うむ。そなたの身の安全のためでもある。選ぶがよい」

「御意」

狼は運ばれた中で複数の帝具を見たが、どれもパッとしなかった。

どれもよさそうであるが、忍び義手に仕込まれた忍具や流派の技に比べれば大したことがないように思えた。

しかし、その中で気になるものがあった。

木箱に入っている大太刀である。

間違いなければ不死斬り『拝涙』。

多くの猛者を屠り、果てに己の首を刎ねた大太刀。

狼はそれを手に取ろうと近寄った。

「待て狼!」

陛下が大声で狼を止める。

「それは抜けぬのだ。抜けぬというのは抜いて生きていたものがいないということ」

「承知しております・・・」

「何?」

「これは不死斬り。死なぬものを殺す太刀にございます・・・」

「不死斬りですか」

オネストは顎に手をやり、何かを考えている仕草をした。

「頂戴いたします」

「狼。それは」

陛下の言葉が詰まった。

狼がその刃で自刃したことを知っている。

そして死なぬ者のみが不死斬りを使うことが出来ることも。

狼には確信があった。

いつか見た水面に移る自分の顔に白いあざがあったことを。

それはいつかの日に薬師のエマが竜胤の兆しであると考察していた。

つまり、あの時点で不死断ちは失敗していたのかもしれない。

原因は分からない。

だが、この不死斬りは抜ける。

狼は不死斬りを勢いよく抜いた。

赤黒い刀身が怪しげに光る。

体から力が抜けるような感覚はない。

なじんだような、長年付き添った相棒のような感覚さえあった。

「不死斬り・・・確かに頂戴いたしました・・・」

 

 

「これは驚かされてばかりですな」

オネストは冷や汗と共に言葉を繰り出す。

嘘ではない。

陛下の気に入った玩具がよもや自分から壊れるようなことをしでかしたからである。

不死斬りと呼ばれる大太刀を知っていることも気になったが、今は死んでいないことに少々安心していた。

というのも、これから彼に任務を言い渡す手はずになっていたのに、その本人が死にそうだったからである。

何故彼がそんなことをするのかは不明だったが、大丈夫なはずである。

「大事ありませんか?忍び殿」

「は。問題ありませぬ・・・」

「そうですか。それは良かった」

「そうだぞ。狼よ。あまり無茶をするものではない」

「は」

本人は分かっているのかどうか怪しい様子だったが、大太刀を背負い、再び跪いた。

「全く。それより大臣」

「はい。分かっておりますとも」

オネストは食べ物を片手に狼に言った。

「あなたにはこれからとある部隊へ参加してもらいます。まあ参加とはいっても任務などがある時のみですが」

「ある部隊?」

「うむ。この帝国には多くの敵がいる。それは内にも外にも」

つまりそれを排除するための部隊。

掃除屋をしろというのだ。

「狼よ。手を貸してくれるか?」

「御意」

「そうか!では早速。大臣」

「はい。ゴズキ殿」

名を呼ばれると同時に柱の陰から男が出てきた。

眼光鋭く、その立ち振る舞いから実力を測ることが出来ない。

狼は跪きながらも警戒する。

「そいつがうちの部隊に入るっていう奴ですか?」

「ああ。実力は確かだ」

「なるほど」

ゴズキは視線を狼に向ける。

「半端じゃなさそうです」

「・・・・・」

「かつての皇拳寺羅刹四鬼がそのような評価をするとは」

陛下は感心しているようであったが、ゴズキは逆に警戒をしていた。

今、跪いている男を観察していたが、妙に隙が無い。

大臣から聞いていたように腕利きの忍びらしいが、ただの腕利きで済ませるには異様な存在だろう思わせた。

(なるほど。狼とはよく言ったものだ)

「狼よ。しばしの間、余の警護の任を解く。ゴズキと共に部隊育成に力を注ぐのだ」

「御意」

 

 

「大臣。あいつは一体何者ですか?」

陛下の謁見が済んだ後、ゴズキはオネストに尋ねていた。

「詳細を探ってみたんですがねぇ。どうも不明なんですよ。葦名という国出身らしいのですが、そんな国なんて聞いた覚えはありませんし」

「腕が立つとは聞いていましたが、見たところそこらの奴らより強いと感じましたよ。下手すりゃ俺よりも」

「ぬふふ。しかし陛下の言葉には忠実です。陛下よりあなたの指示に従うように伝えていますので精々こき使ってください」

「俺なんかが手綱を握れますかね」

「珍しく弱気ですね」

「狼は狼でも、ありゃ飢えた狼ですぜ。下手に手を出せばどうなることか」

オネストはそこまで言われて少々考えた。

確かに陛下のお気に入りだが、あまり自分以外の信頼を置く存在を増やさない方がいい。

となれば、偶然を装って死んでもらっても構わないかもしれない。

だが、利用できるうちは利用して、いざとなったら切り捨てればいい。

結論を頭の中で出すと、オネストはゴズキに一つ指示を出すことにした。

「もし、彼が手に余るようなら、任務といって死んでもらうことにしましょう。もし裏切るそぶりを見せたら、ゴズキ殿。あなたが切ってください」

「承知しましたけど、できればそんな事態は御免被りたいです」

その言葉は何の偽りもない、ゴズキの本音であった。

 

 

ゴズキが育てる暗殺部隊のいるロウセイの村にいくさなか、ゴズキは馬車の中で不愛想なこの男とどうかかわって行けばよいか悩んでいた。

「ゴズキ殿は」

珍しく、狼の方から口を開いた。

ここまでゴズキの言葉に対してのみ反応を見せていた彼だったが、どうした心境か重い口を開いたのだ。

そのことにやや驚きつつ、ゴズキは次の言葉を待つ。

「父としてどう立ち振る舞っている?」

意外な質問だった。

暗殺者として育てる子供たちを確かに父として呼ぶように言っているが、狼がそのようなことを聞くのは不思議を通り越して驚きを感じさせるものだった。

「そうだな。言われてみれば意識したことはなかったけどよ。言われたことを上手くやれば褒める。ダメだったら叱る。あとはまあ、その時次第だな」

「そうか・・・」

そういったきり黙ってしまった狼を見て、ゴズキは逆に尋ねた。

「お前さんは、親父さんの下で修業を積んだのか?その時の親父さんはどうだった」

「・・・義父上は」

狼は義父、梟を思い返す。

野望のあった義父はその名を知らしめんと竜胤の力を利用しようとした。

だが、過去で出会った義父はその野望より、狼との戦いを望んでいたように思えた。

「戦場で拾い。技の粋を教えてくださった。いつの日か、子と死合いたいとさえ思う程に」

「そいつは・・・すごいな」

「・・・故に分からぬ。子とどう接すればよいか・・・」

ゴズキは狼が何を悩んでいるか分かった。

この飢えた狼はこれから育成するだろう子供たちとどう接すればよいか悩んでいたのだ。

戦場では腕利きだろうが、家庭では不器用な男なのかもしれない。

「お前さんがやれるようなことをやればいいんじゃないか。例えば、剣術を教えるとか」

「・・・むう」

「はは。そう悩むことじゃないだろうさ。やっていれば何とかなるものさ。それに俺が育てた子供たちはそう簡単にへばりしやしないさ」

ゴズキは狼の悩みを笑い飛ばした。

そろそろ初陣を待つ彼らがそう簡単に音を上げるわけがない。

このときはそう思っていた。

 

 

「・・・むう」

狼は地に伏せる、あるいは膝をつく七人の少年少女をみて唸る。

「はは・・・。まさかなぁ・・・」

ゴズキはただ苦笑いを浮かべる。

自分が育てた子供たちはいとも容易くとはいかなかったものの、控えめに言って簡単にやられてしまった。

狼の持つ忍び義手の様々な忍具で子供たちは連携を崩され、忍びの技で隠れ背後から攻撃。

常に一対一を意識し、忍びらしくない正々堂々とした剣術にて撃滅されてしまった。

狼の経験による結果だった。

「これでも加減したんだよな」

「無論・・・」

「だがまあこれじゃあどうにも親になれないな」

「・・・むう」

狼は再び唸った。

どうやら今回の任務は前途多難のようであった。

 

 




世界観が似ているとつたない文章でもそれっぽく見える。
見えない?
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