狼が斬る   作:hetimasp

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人の姿をした獣を狩る狩人たち。


20 イェーガーズ

 

狼は久しく訪れたナイトレイドのアジトへやってきて、空気が重くなっていることを感じた。

誰か逝ってしまったか。

ナジェンダへあいさつに行けばどうやらシェーレ、ブラートがやられてしまったらしい。

シェーレはどこか抜けたところもあったが、仲間に対して役に立ちたいという気持ちのある良い人間だった。

ブラートは暑苦しい漢であったが、冷静で、ナイトレイドの柱のような存在だった。

いずれにしても惜しい人物を亡くしてしまった。

ブラートの帝具『インクルシオ』はタツミに託されたらしい。

タツミは特訓を重ね、使いこなせるようになりたいと語っていた。

「先生」

「アカメか・・・」

「また失ってしまいました・・・」

「・・・それが戦・・・」

狼はおくるみ地蔵をアカメに渡す。

「ブラートとシェーレに手向けてほしい。己では業が深すぎる故・・・」

「・・・ありがとうございます」

「タツミは・・・」

「修行中です。エスデスの部下にブラートがやられてしまったのが」

「・・・そうか・・・」

狼は修行中のタツミのところへ向かった。

彼には話さなければならないことがある。

「タツミ・・・」

「狼さん。来ていたんですか」

「ああ・・・」

狼は黙って木刀を構える。

「構えよ・・・」

「・・・はい」

手始めに狼は突きを放つ。

タツミは教えられた通り踏んで反撃に転じる。

狼はそれを避けた後、『旋風斬り』を放つ。

これは弾いて対処する。

「成長したな・・・」

狼は最後に木刀で居合の構えを取る。

「アカメ・・・タツミ・・・見て覚えよ」

疾く斬ることに一意を置かれたその剣術は一瞬で十文字を斬る。

『奥義・葦名十文字』。

タツミは剣を弾かれ体勢を崩し、その場で膝をつく。

「ここまで・・・」

「・・・ありがとうございました」

「忍びの技は手取り教えるものではない・・・。戦いの中で教えるものだ・・・」

かつて、まぼろしのお蝶や義父、梟がそうであったように。

「・・・己はお前たちの敵となった・・・」

「!?」

「エスデスの部下・・・お前たちが討った三人の他に、新たについたのが己だ・・・」

「そう・・・ですか・・・」

「斬れ」

「え?」

「迷わずに斬れ。ただでやられるほど・・・己は弱くはない・・・」

「・・・律儀ですね。狼さん」

「・・・むう」

狼はタツミに言われて唸った。

 

 

「リヴァ、ニャウ、ダイダラ。お前たちは負けた。つまり弱かったということ」

エスデスは3人の墓の前でつぶやく。

「弱いものは淘汰されて当然だ。仕方ない部下共め」

エスデスは冷徹な目をして、墓に宣言する。

「仕方ないから私が仇を取ってやろう」

そのまま立ち上がると歩き出す。

「隻狼。新しい人材は今日、来るそうだ。予定通り、帝具使いが六人」

「は」

「どんなやつか知らんが、少々遊んでも悪くはあるまい」

 

 

狼は既に集合場所にて待機していた。

やることもないので仏を彫っている。

未だに不格好だ。

忍び義手の点検はできるが、こういった彫り物を作ることはまだ慣れていない。

仏の顔も優しいのか何なのか分からない顔だ。

「失礼します」

そう言って入ってきたのはいつぞや、アカメの件で世話になった焼却部隊の顔をマスクで隠したボルスだった。

「世話になる・・・」

「狼さん・・・こちらこそ」

ボルスは仏を彫っている狼が気になったのか、その様子を見ている。

「未だに上手く彫れぬ・・・。仏師殿は鬼のような形相の仏しか彫れぬと言っていたが、己は不格好なものしかできぬ・・・」

「でも優しそうな形ですよ・・・」

「そうか・・・それならいいのだが・・・」

しばらく沈黙が続き、勢いよく扉が開いた。

「こんにちは!帝国海軍からきまし・・・た・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」

「失礼しました・・・」

「?」

狼は何故戻っていったか分からなかった。

しばらくしてまた同じ青年が入ってきてそっと席に座る。

何やら緊張しているようだが、狼には関係ない。

またしばらくは狼の仏を彫る音が響くだけだったが、誰かが扉を開けて入ってきた。

「先生・・・」

「久しいな・・・クロメ・・・」

仏を彫る手を止めてクロメの方を見る。

大きな袋に入ったお菓子を食べているが、あれは薬入りのものだろう。

カイリもまだ迷っているのかもしれない。

あの秘薬をどうするか。

「よ・・・よぉ」

青年がクロメに声を掛けるが、クロメはお菓子を取られると思ったのか、お菓子の袋を抱いて守る。

ウェイブは引きつった表情を浮かべる。

「ウェイブ・・・」

「は、はい・・・」

「緊張するな・・・ただ癖が強いだけだ・・・」

狼は事前に帝具使い六名の情報を知っている。

なかでもまともそうだと思ったのは三名。

その中にウェイブが入っている。

勿論ボルスもだ。

「失礼します!」

バタンと開かれた扉から一人の少女と犬のような動物の帝具『ヘカトンケイル』が現れる。

「帝都警備隊所属、セリューユビキタス!アンドコロです!」

セリューは何を思ったのか持っていた花束をバッとまき散らした。

「第一印象に気を遣う・・・それがスタイリッシュな男のタシナミ」

一番狼が警戒しているスタイリッシュ。

何故かはわからないが警戒してしまうのだ。

そのあとすぐに最後の一人がやってきた。

爽やかな笑顔を浮かべた青年、ランだった。

ウェイブはその青年に何を感じたのか握手をしていた。

「あの・・・」

ボルスがお茶を組んできたらしい。

「皆さん・・・お茶が入りました」

そっと全員のところへお茶を配る。

そしてウェイブに無口でいたことを謝っていた。

ウェイブは苦笑いをしていたが、問題はないだろう。

その後、ガチャリと扉を開けてきた人間が一人。

狼は仮面をつけてやってきたエスデスを見て眉根を寄せる。

そんなところまで一心様と同じかと。

「お前たち見ない顔だな!ここで何をしている!!」

その物言いに対してウェイブが反論しようとするが、エスデスは迷わず蹴り飛ばした。

「賊には殺し屋もいる。常に警戒を怠るな!」

そう言って今度はランへ特攻するが、素早い攻撃を避けてみせる。

その背後、凶相を浮かべたセリューとコロが奇襲を仕掛けるが、それを容易く投げて対処する。

クロメはその隙に帝具『八房』を振りぬいてエスデスの仮面を斬る。

「エスデス様・・・お戯れは・・・」

「分かっている。試しただけだ」

狼はエスデスに跪き、頭をたれる。

それに対してエスデスは遊びだと言わんばかりの態度で答えるのであった。

 

 

「よし!では陛下と謁見後、パーティだ」

そう宣言したエスデスにウェイブは慌てていたが、エスデスとしては面倒ごとはさっさと済ませてしまいたいらしい。

「それよりエスデス様。あたし達のチーム名とか決まっているのでしょうか?」

「うむ」

スタイリッシュの問にエスデスが頷いてみせた。

独自の機動性を持ち、凶悪な賊の群れを容赦なく狩る組織

特殊警察『イェーガーズ』。

狼たちは陛下のいる謁見の間に入り跪く。

「良く来た。そなたらが新たな組織の一員か」

「はい。我々イェーガーズは賊を討伐することに特化した組織。並の帝具使いでは歯が立たないでしょう」

「ふむ。それは頼もしい。エスデス将軍。我が忍びを上手く使ってやってくれ」

「承知しました」

「御意」

「短いが、これよりそなたらに命を下す。帝国を乱す賊を討伐するのだ!」

狼たちは深く頭をたれた。

 

 

「クロメ・・・あれから変わりないか・・・」

「はい先生。何も変わっていませんよ?」

それがどうしたのかという不思議な表情だった。

「そうか・・・」

狼は眉間のしわを濃くする。

悩み事に次ぎ悩み事だらけだ。

今まではナイトレイドと上手くやっていたが、今回の件で動きづらくなってしまった。

「隻狼。酒は用意してあるな」

「は。こちらに」

狼は新たな組織結成ということで様々な酒を用意していた。

中でも『葦名の酒』は狼にとってなじみ深い酒だ。

「ほう?また新しい酒か」

「は」

「ウェイブ!ボルス!早くこちらへ来い!隻狼が酒を用意してくれたぞ!」

そう言うと二人は鍋を持ってやってきた。

こうして誰かと共に食事をするのはいつぶりだろうか。

いや、あっただろうか。

すでに遠い記憶なのか、狼は少しだけ感動を覚えていた。

「ふむ。これも中々。ところで隻狼」

「は」

「お前の背中の大太刀は帝具ではないと聞く」

「これは不死斬り。死なぬを斬るための得物にございます・・・」

「そうか。今帝具が一つ余っている。お前は扱えそうか?」

「ハサミ型の帝具。使えるかと言われれば使えるでしょう。しかし」

狼はガシャンと忍び義手を動かした。

「己には既に牙がある故・・・」

「そうか。このままでは大臣に回収されてしまうな」

余興でもするか。

エスデスはつぶやいた。

 




イェーガーズに入った狼さん。

陛下の存在がある故に、ナイトレイドにいるよりこちらの方があっているように見えます。
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