ナイトレイドが東のロマリー街道で目撃されたとの報告を受け、イェーガーズは招集された。
一同はナイトレイド討伐のために東へ向かったが、そこでさらに面倒な問題に直面した。
ナジェンダは東に、アカメは南へと二手に分かれたというのだ。
東に行けば安寧道と呼ばれる宗教組織の本部へたどり着き、南へ行けば反乱軍の拠点に向かうという話だ。
急ぎ追撃しようと提案するウェイブだったが、エスデスは待ったをかけた。
どうにも都合が良すぎるということらしい。
ランは罠であることを指摘した。
わざと目についてイェーガーズをおびき出したのだと。
「隻狼。お前はどう思う?」
話を振られた狼はエスデスに跪いたまま答える。
「どちらも本命かと・・・」
「その心は?」
「どちらかは一心様がおり、エスデス様と戦うことになりましょう。そしてもう一方は、二手に分かれた我らを討伐すべく動いているのでしょう・・・」
「そうか。やっと戦えるのだな」
エスデスは感慨深く言った。
「ならば隻狼。お前は私と別行動だ。お前がいると一心と全力を出して戦えないのだろう」
「は」
「えっと。一心という人と狼さんの関係ってどういうことなんですか?」
セリューは疑問に思ったらしく、質問を投げかける。
「隻狼と一心はかつて死合った仲だ。そして決着がついた故に二人とも本気で戦えなくなったという。隻狼。お前は私と一心が必ず戦うことになると確信しているのだろう?」
「は」
「よし。では私とセリューとランはナジェンダが向かった東へ。他の面々は南へ向かったアカメを追え」
相手が多いなら退却も視野に入れろとエスデスは言う。
着実に追い詰め、仕留めると。
移動している最中、ボルスはナイトレイド相手に勝てるか不安だと漏らした。
対してウェイブは実力的には自分と同等ぐらいだと言った。
狼はあれから強くなっているであろうナイトレイドを考え、己はどう立ち回ろうか思案した。
クロメがウェイブをおちょくっていると、前方に明らかに怪しいかかしを発見する。
「かかし・・・?」
「本当だ。これ以上ないってくらい怪しいね!」
狼は周囲を警戒する。
一同は立ち止まってかかしが罠かどうか確認しようと近寄るようだったが、相手には狙撃手や糸を操る罠師もいる。
その時、クロメはその場を飛び退った。
一瞬遅れて恐らく『パンプキン』の攻撃だろう弾丸がクロメのいた位置を通過した。
「クロメ!危ねぇ!」
油断した隙にかかしから現れた新手に先手を取られ、クロメをかばったウェイブは遠く吹き飛ばされてしまった。
「狙撃にはしくじったが、戦力を一つ。かつ標的でもない奴を吹き飛ばせたのは大きいな」
ナジェンダは義手を鳴らしながら現れる。
その後ろ、アカメとレオーネ、そしてタツミも帝具を携えて出てくる。
「狼。帝国の膿を斬ってきたお前には酷だが、敵になるのであれば、ここで死んでもらう」
「・・・・・・」
狼は黙って楔丸を抜く。
ボルスは己が業の深さを想いながら、それでも死ぬわけにはいかないと帝具を構えた。
クロメは久しく会えた姉に向けて刃を向け、屍人形にすると言った。
『八房』。
最大八体の死体を自由に操れる帝具。
だが、その人形と化した者たちの業も背負わなければならない。
狼は眉間にしわを寄せて、しかし、ナイトレイドを斬ると決意して睨みつける。
クロメの帝具が発動し、大型の危険種やかつて暗殺部隊で共に戦ったナタラを呼び出す。
「迷えば敗れる・・・」
狼はアカメに向けて言った。
「忘れてはいまいな・・・」
「・・・はい」
「・・・そうか」
戦闘の火ぶたは切って落とされた。
狼は帝具を使っているクロメの護衛につくことにした。
初めはナタラがいるから大丈夫だというクロメだったが、狼が無言でいると諦めたように認めた。
理由はまだ正気に戻せる機会があるのではないかと思っているからだ。
アカメはボルスに任せている。
ボルスにはアカメの苦手な盾を持った骸人形がついている。
アカメの帝具を封じるならば確かに有効だった。
しかし、狼の育てた子供はやわではない。
「先生。なんでお姉ちゃんはあんな奴らと一緒に居るのかな?」
ボルスやクロメの骸人形と死闘を繰り広げるナイトレイドを眼下に、クロメは狼に聞く。
「・・・己の掟に従っている・・・」
「その掟って、私よりも大事だったの?」
「否。お前も大事だったのだ。アカメはお前を連れ出そうとして、ゴズキ殿に追いつかれた。ゴズキ殿は討たれ、友であるツクシをも斬ることになったが、最後までお前を連れて行こうと戦った」
「・・・でも今は違うみたいだよ・・・」
「・・・子は親に似るか・・・」
「え?」
「何もない・・・」
「ふうん?先生ってお姉ちゃんと戦ったことがあるんでしょ。先生ならお姉ちゃんを倒せそうだったけど、できなかった?」
狼はあの日、アカメに斬られに行ったことを思い出す。
「ただ、心配だった・・・大切なものを失った子が、生きて行けるか・・・」
それ故、斬られにいった。
狼はクロメに打ち明けた。
「斬られに行った?でも狼さんは生きているよ?」
「明かせぬ・・・。だが、己は確かにアカメが成長したことを見届け、斬られた・・・まだ己の中に残っている御子様との主従。その絆が己を生かしているのだ」
「御子様?」
「いずれ聞かせよう・・・。今はいかにして殺すかを考えろ・・・」
狼は激しい戦闘を繰り広げるナイトレイドの面々を見る。
糸使いのラバックがいない。
そして新たな仲間だろう人間もクロメの超級危険種あいてによく戦っている。
アカメはボルス相手に戦っているようだが、護衛の屍人形が邪魔で上手くいっていないようだ。
しかし、徐々にではあるが勝利の目を見出している。
ボルスに増援が必要かもしれない。
タツミは二体の屍人形相手に苦戦をしている。
ナジェンダは元同僚の死体を相手に戦っていた。
その瞬間、クロメは崖から飛び降りる。
油断していたレオーネの腕を斬り落とした。
深追いはせず、クロメは狼のいる崖へと戻る。
レオーネは斬り落とされた腕を強引に止血したようだったが、腕を無くしたことは痛手に違いなかった。
クロメはお菓子を食べ続けている。
その間隔はいつもより短くなっている。
狼はそのお菓子の正体が薬物であることを知っている。
このまま接種し続ければクロメは死に至るであろう。
「おい・・・」
「?」
「戦況を見ろ・・・」
狼は放心していたクロメに下の様子を見るように言う。
「やられた!?・・・しょうがない。先生。ちょっとボルスさんを援護しに行ってもらえますか?」
「・・・わかった。無理はするな」
「はい。まだナタラがいますから」
狼はそれを見て僅かに目を瞑る。
やがて開き、ボルスと戦闘しているアカメと援護に加わったレオーネの下へ行くのであった。
「・・・修羅の影を宿そうとも、未だに修羅になりきらぬとはな。エスデス」
一心は岩に腰掛け、エスデスたちを見る。
「葦名一心。ようやく戦える時が来たな」
「カカカッ。隻狼がいたのでは、お互い気がそれてしまうからの・・・。さて・・・」
一心は立ち上がり、セリューとランを見る。
「悪の頭領、葦名一心。ここで討ち取る!」
「・・・・・・」
「ほう?この儂を悪の頭領と呼ぶとは・・・面白い!相手をしてやってもよいが・・・」
エスデスを見る。
彼女も同じく一心を見ていた。
「セリュー。こいつは私の相手だ。手をだすな」
「しかし隊長!」
「一時、帝国軍を震え上がらせたという人間だ。あいつのせいでこちらは守りを堅くせざるを得なくなったという。その実力を鑑みるに、お前とランには少し厳しいだろう」
だから私が出ると。
「帝国最強と名高いエスデス。ようやく戦えるな。お互い・・・名乗りは必要あるまい」
「ああ。こころゆくまで殺しあおう」
「カカカッ。よおし。参れ!」
一心は抜刀し、エスデスに対面した。
「行くぞ一心!」
ここに血戦の幕が開いた。
狼がボルスの援護に来る頃には、ボルスは既に帝具を破壊され、護衛は戦闘不能に追いやられていた。
「狼さん!?」
「遅れた・・・済まぬ・・・」
「いえ。でもこの状況、不利です!」
「おっと。逃がさないよ。とはいえ、あんたとこうして戦うことになるとはね。狼さん」
「・・・・・・」
「相変わらず不愛想だね。今は同じ隻腕同士、仲良く殺しあおうじゃないか!」
隻腕となっても未だに衰えない強力で素早い攻撃。
狼はそれをいなし、避け、反撃に転じるが、レオーネは持ち前の素早さで回避する。
「悪いけどあんたとの戦いは学んでいるよ。切り結び続けると体勢を崩されて一撃を食らわせるんだろう?なら私はそれに付き合わない」
レオーネは攻撃しては退いてを繰り返す。
狼は手裏剣や爆竹を駆使して何とか攻撃を入れようとするが、どれも通用しない。
ボルスの方も帝具を失って苦戦しているようだ。
このままではやられてしまう。
「狼さん!奥の手を発動します!こちらへ」
狼は爆竹で視界を遮るとボルスのところまで移動する。
アカメたちは奥の手を警戒しているのか攻めてこない。
ボルスは『ルビガンテ』をアカメたちの方へ投げつけると、狼をかばうようにして地面へ伏せる。
その瞬間、大爆発が起きた。
「狼さん、無事ですか?」
「ああ・・・」
狼はボルスにかばわれたおかげで、軽傷で済んでいたがボルスはそうではなかった。
「これを」
狼は傷薬瓢箪をボルスに飲ませて傷を癒させる。
狼自身も飲んで傷を治す。
さて、ここからどうしたものか。
アカメたちはあの爆発以降どうなったかは分からないが、帝具のないボルスと戦い方に対策をされている狼では不利なままだろう。
今は退却するのがよい。
そう考えた二人はその場を素早く立ち去る。
その途中の事である。
「子供?」
泣いている子供がいたのだ。
不審に思う狼だったが、ボルスは大変といって子供のところへ駆けつけた。
怖がられるボルスであったが、ケガをしているところを見つけて治療を施す。
献身に子供はボルスが悪くない人間だと思ったのか笑顔を浮かべた。
「ボルス殿・・・」
狼は近寄って警戒する。
そして一瞬の間に刀を突き入れる。
ボルスを襲う凶手を止めた。
「・・・・・・」
狼は黙り、ボルスは突然の行為に驚き、子供から距離を取る。
「・・・失敗しちゃったなぁ」
その瞬間、子供の姿から別の少女の姿に変わる。
「お前は・・・供養衆の・・・」
狼はその声に聞き覚えがあった。
帝都で見つけた供養衆の声だ。
しばらく睨み合いが続いたが、狼は刀を収めた。
「え?」
「行け・・・」
思わずおかしな表情をする少女であったが、狼に斬る気がないと悟ると、警戒しながらも逃げて行った。
「一体・・・」
状況が分からないボルスは狼に問う。
「先の子供はかつて、己と一心様をつないでいた密偵の一人。ナイトレイドのものであろう」
「狼さん。あなたは一体」
「ボルス・・・同じく民を思う者同士、争うこともあろう・・・」
しかしと狼はつなげる。
「一握の慈悲だけは捨ててはならぬ・・・己はそう思うのだ・・・」
「狼さん・・・」
「クロメと合流する・・・行くぞ・・・」
「まさか狼さんに見破られるとはね」
ラバックは剣呑な雰囲気を出していた狼の様子を遠くから見ていた。
そのためチェルシーを助けるために急行していたのだが、それは杞憂なようだった。
「まさか敵にも優しさをもつ人間がいるなんてね。それもたった一回の伝言を伝えた相手に」
チェルシーは見破られた瞬間の恐怖を思い出す。
二人が生きていることは想定内だったが、まさか狼に感づかれるとは思っていなかった。
自身の最期を覚悟したが、予想に反して相手は見逃してくれた。
「一心爺さんの言うように、見た目に反して優しいみたいだね。あのババアの言っていた熟達の暗殺者ってのも間違っていないのだろうけど・・・」
「それじゃあさっさと逃げちまおうぜ。これ以上は深追いだ」
「・・・そうだね。本当ならクロメをやっておきたかったけど。相手に狼がいるなら多分無理だね」
みんな本当に甘いなあとチェルシーは思いながらその場を去って行った。
「カカカッ!葦名流を片端でも使って見せるか!見事!」
一心は空を舞う斬撃、衝撃波、己が築いたその技が戦場に飛び交う。
「それはこちらもだ!まさかこれほどの人間がまだいたとは!」
喜びを隠さない二人の戦闘は苛烈極まっていた。
数多の氷を放つエスデスにそれを衝撃波で薙ぎ払う一心。
奥義の居合抜きを放つ一心に氷で刃を防ぐエスデス。
互いの刃がぶつかるときには派手に火花が散り、しかし、動きは流水のように滑らかだ。
戦場は既に元の原型を残しておらず、見ているセリューとランには割って入ることすらできない壮絶な戦いだった。
「ぜりゃぁ!」
空を飛ぶ斬撃が二連。
対してエスデスは素早く回避する。
巨大な氷の岩を一心に放つ。
溜められた斬撃で両断される。
一進一退の攻防が繰り広げられていたが、ついに終わりがやってきた。
「むう?」
一心が遠くに馬を駆ってくる人間を見た。
エスデスはそれを隙と見て攻撃するも容易くいなされる。
「はあ。今日はここまでか」
「一体何を」
「まだ青いな。もっと研ぎ澄ませい!お主のもう一方の兵たち、その決着がついたのであろう」
一心は切っ先で伝令を知らせる。
「お主も将であるならば、もう少し周りを見渡せ!隻狼から言われなかったか!」
「む。あいつからは一番楽しめるときに戦うことだと言われたが」
「それよ。横やりが入ってこれ以上楽しめるものか!」
傍若無人な一心の言葉であったが、同じ戦闘狂同士で通じるものがあったエスデスはその言葉に納得して剣を収める。
「よし!次に期待しろ!今度はいらぬ横やりなど入らぬようにな!」
剣聖は笑いながら背を向けて去って行った。
「隊長!どうやら南の方の戦いも終わったそうです」
ランは伝令から聞き取った情報を報告した。
「あの人間は粛清しなくていいのですか?」
「ああ。あちらの方で決着がついた今、こちらも終わりとする。まだあの老人には秘められた力があるようだ。私ももっと強くならねばな」
セリューの問に返すエスデスは、まだまだだなと言って馬に乗った。
「南の部隊と合流し、詳しく結果を聞こうじゃないか」
この血戦にてナイトレイド、イェーガーズ共に被害はなしの痛み分け。
しいて言うならばクロメの骸人形が減った点とボルスの帝具消失が痛いところであった。
狼はクロメの薬の禁断症状等、気になることがあったが、今は全員が生還したことを喜んだ。
だが、死闘は続く。
クロメは禁断症状で一度は倒れていたが、少し休むとよくなった。
ウェイブはもう少し駆けつけるのが早ければと後悔しているようだったが、クロメを守った時点で充分に働いている。
不甲斐なきは己である。
誰も守れず、逆に守られる始末。
だが、次はそうはいかない。
狼は刀を握りしめ、心に誓った。
己は九朗様の忍びであるように振舞うだけ。
この狼さんは優しすぎるのかも。
でも、ゲーム中の狼さんもかなり優しさに満ちていた気がします。